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真珠の血【1】

俺は、それでも・・・―。

 歳のころは23,4。黒髪をうなじで束ね、瞳は左が赤に右が青とオッドアイだがそこそこに整った顔立ちだ。
「ホント高みの見物だな、ゼリー」
「次その単語を口にしてみろ。不能にしてやる」
 我が名はゼルインダム・オーウェン。ゼリーと呼ばれたが、全く気にしないで欲しい。
「あー、あいつが本物だったら・・」
 男の前には一切表情を変えない女が三人、裸でいる。だがその色は異常に白く、体毛も一切なかった。
 さながらマネキンのような体。いや実際マネキンなのだ。そのマネキンが。
「君の悪い動き方だな。もっと自然に出来ぬものか。ワイヤーか何かで操っているのだろうが・・。それより早く見つけろ。私は暇だ」
「言うね」
 そう、マネキンは誰かがどこかで操っているのだ。男はとうに気付いているだろうが、操っている人物が気配を消しているのか私にも気取ることが出来ない。
 ここで軽く自己紹介をしておこう。
 私の名は先も述べた通りであるが、大事なのは名ではないだろう。私の姿は傍目から見れば、動物だ。しかもただの動物ではない。
 白銀の毛並みに碧眼、長い耳は風に流れるほどで大きさは中型のキメラほどだ。キメラとは、この世界にのみ属する特殊な種のものたちで人工のキメラからそれが野生化したもの、自然にそもそもいるものなどと、さまざまである。それも愛玩用から犯罪用のものまで少々生命倫理に関わる生物なのだ。
 そのキメラに見える私はキメラではないが・・・少し取り留めのない話になってきたな。ここから先は我々の道中においおい話すとしよう。
「ああ、早くモニカに会いたい・・・」
「また女か。お前の頭はそれだけだな」
「よっ!当たり前だろ。俺は愛のハンターだぞ」
 マネキンの女の胸を切り裂きながら全く下らないことを口走る。こいつが持っているのは剣であるが細身で長く、両刃(もろは)だ。
 今いるのは手前に洞窟のある場所だ。辺りは薄暗いがそれは早朝だからである。白くなった月が見え、後ろにあるのは森だ。こいつはそこを通ってきたのだが、その途中でこのマネキン達に遭遇してしまったのだ。最初は10体いたがその内七体は倒し、今八体目をなぎ倒したところである。
「・・・」
「見つけたか」
 いきなり黙ったのは操っている者を発見したからだろう。その注意はやはりというか、安易すぎるというか前方の洞窟だった。
「ひとりか?」
「聞くならお前が行けよ!そこに座ってるだけだろ!」
「断る。体を動かすのはお前の仕事だろう」
「動物のクセに、運動嫌いか。だから毛が伸びるんだぞ」
 それは関係ないだろう。と、言いたいところではあったが大人の私はそれを飲み込む。
 そういえばこの馬鹿の名前を言っていなかったな。
 こいつの名はシーウェル・ヘルグランド。なんとも威厳ある名だが、その行動と名は甚だかけ離れている。まず女癖の悪さ。とにかく目が無い。全く呆れるほどの女好きであるのだ。それに呼応しているのかは知らないがその肉体的、精神的な強さは目を見張るものがある。
「急に黙るな、気持ち悪い」
 だが失礼な奴だ。
「何も行動してこないが、観念したのか?」
 私は座っていた切り株から降り、背筋を伸ばした。シーウェルは軽く剣を振り、それでも鞘には収めず警戒しているのかしていないのか分からない風体で立っている。
「仕事を早く終えろ。私は早く紅茶が飲みたい」
「動物が何言ってんだ。しかも紅茶!?あんな甘いもの飲めるかよ」
 シーウェルは目線は洞窟の暗闇を見ているが口調は至って軽い。しかも減らない口は一層冴えている。
「お前は酒しか飲まんからな。よく肝臓がもつものだ」
「丈夫なのよ。俺は。それより」
 後半の言葉は声色が変わっていた。顔つきも獰猛というべきものに変わりつつあり、殺気まで出ているようだった。
「俺は早くモニカと会いたいんだ。・・・・出てこいよ」
 それは私に言ったものではない。オッドアイは洞窟の左側を凝視しながら言った。
「・・・。お前は真にシーウェル・ヘルグランドか?」
「アラ、俺の名前知ってんの」
 少しも動揺した様子も無く声の主に言葉を返したシーウェルは不敵な笑みをたたえた。
「我はシルザーを守護するもの。貴様のことは知っている。・・・世界政府より指名手配中の窃盗犯通称『パールシーフ』シーウェル・ヘルグランド。違うか?」
 我が相棒の状況をぴたりと言い当てたそれは一向に姿を表さなかったが、その気配は鋭く、シーウェルを完全に敵視しているのが分かった。
「朝も早くからご苦労だな。とりあえずそこ、通してくれない?」
「・・・・。話に聞いていた通り破天荒な男だな。通すはずもなかろう」
 声の調子からして女だが変えている可能性もある。侮ることは出来ない。白い月はいつの間にか西日へと替わっているが洞窟は先ほどと同じく暗闇のままだ。
「じゃあ勝手に通るぞ」
 剣は抜き身ままでシーウェルは歩き出す。私もそれに続いた。
「貴様はこの奥のものが何か知っているのか」
 声の調子も何もかも一向に変わらないが、明らかに苛立っている気配がある。
「お前こそ知っているのか?」
 シーウェルは歩きながら言った。
 この先にあるもの。それは、
「神にの神器だ。それをお使いになり、神がこの地に降り立ちになる」
「神、ねえ」
 人間とはおしなべて自分にだけ都合の良いものを崇め奉る風習がある。それは大体他の不特定多数にとって全くもって迷惑なものであるのだ。
「その神器は貴様などが触れて良いものではないのだ」
「おや、随分利己的な考え方で」
「利己的であろうがそれが我らの意思だ」
「反吐が出る」
 それは一瞬だった。刹那に距離を飛び越え、洞窟へと体を滑り込ませた。
「ハラの読み合いは飽きた。俺は早く戻りたいって言ってんだろ」
「・・・フン、貴様こそ利己的だ」

 ああ、この美しい朝はあとどれ程持つだろうか。

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