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黒十字【8】


最終章・静寂へと続く道、青年は微笑んだ

「んじゃ、チャチャッと帰りますか♪」
ハロルドが軽快な口調で言う。
「…この山を下るのに最低1時間はかかると思うが。」
上りに比べれば時間は短縮されるが、それでも険しい山に変わりはない。
「ジャッジャジャジャ~ン♪空間瞬間移動・チャチャッとカエルげこぴょん初号
機!」
ハロルドの手にすっぽりと収まるぐらいの機械を出して、待ってましたとばかり
にハロルドが声を張りあげる。
いきなりの展開にジューダスは声を出せず、ただハロルドの手にある機械を凝視
している。
「これは半径15m以内、10時間以内に通った道を記憶して、帰るときはチャ
チャッという間に帰れちゃう優れものなのよ。構造はレンズの高密度エネルギー
を一気に燃焼して膨張させ…ってちょっとぉ!」
ハロルドの隣にあるはずの黒衣は4,5メートル先ではためいている。
前科があるのだから容易く利用できるはずがない。
ジューダスの思いを読んだのか、ハロルドは補足説明する。
「コレはそんなに怪しいもんじゃないわよ。初号機だから基本機能しか付いてな
いもの。爆音とか煙とかは2号機あたりからプラスしていくのよ♪ぐふふふふ
…」
怪しい。怪しすぎる。怪しくないわけがない。
ジューダスはますますハロルドから遠ざかっていく。
「あ~ら、そういう態度とるのね。せっかく私のスペシャル頭脳を駆使して作っ
てあげたのに…どうなっても知らないわよ☆」
明るい言葉とともに、ハロルドの左手にはメスがキラリと光る。
…選択の余地はないようだ。
諦めてジューダスが尋ねた。
「どうやって使うんだ?」
「レンズ3枚をここにセットすればいいのよ♪」
そう言ってカエルの口を指し示す。確かにレンズが数枚入るほどのスペースがあ
る。
「…本当に何もないんだろうな。」
ジューダスの疑いの目は未だに解けていない。
「心配無用!レンズセット完了♪スイッチONっ。」
チャチャッ―――――――

目を開ければ、そこはハイデルベルグの門前だった。
「ほら、なーんにもなかったっしょ?ちょっとは私を信用しなさいよ。」
今までに何度となく爆発や実験に付き合わせ、そのうえ片手にメスを持って強制
的に機械を使用させた奴が何を言う…
そんな言葉が出かかるが、口を噤むことにした。
今回は本当に何もなく、時間を大幅に短縮できたのだから寧ろ感謝すべきだろ
う。
「…宿に急ぐぞ。」


「わ、悪かった!弓がとてもよくお似合いの華麗なナナリー様に失言を吐いた俺
が悪かった!!悪かったからそれだけは…ギャアア!」
宿に着き、階段を上がっていると聞き慣れた騒がしい声が響いてくる。
「ま~たやってるみたいね。」
ハロルドも気づき、いつものように呟いた。

扉を開けば案の定、性格に反映したかのような紅色の髪の女が体格のしっかりと
した、肌が黒く銀髪の男に間接技をかましている。
「ぁ、お帰りなさい。」
リアラがハロルドとジューダスに気づき、声をかける。
「毎日激しいわね~、お2人さん。」
ハロルドが冷やかしともとれる言葉を口にするが、さして気にも留めずに奥へと
入っていく。
「ロニがナナリーに、お前は弓なんて使わないで素手で戦ったほうが強い、なん
て言うから…」
リアラは事の発端を話し、苦笑している。
「やっぱコイツに敵うモンスターなんざいねぇよ…」
「はん、まだそんな減らず口がきけるのかい?」
はたから見れば一方的な暴行ともとれる行為は当分終わりそうにない。
「あ゛ぁ!や、やめ・・・」
暴行を受けてあえいでいたロニの目が、黒い塊を捉えた。
「ジューダス、お前どこに行ってたんだ?」
首を完全に捕まれている状態で、黒い塊の正体に疑問をぶつけた。
「無駄なことをほざいて関節技を掛けられ身動きのとれなくなった不様な奴に教
えてやる義理など、僕は持ち合わせていない。お前こそ何処をほっつき歩いてい
たんだ?」
「フッ、モテる男は朝からお呼ばれしちまうほど多忙なんだぜ。」
その顔は怒りを抑え、無理やり涼しげな表情をつくっている。
「へ~、そうかい。それじゃお疲れのようだし、もう少しマッサージ続けてあげ
たほうがよさそうだねぇ。」
「ま、待て!それじゃ余計に疲れぐえあああ!」
「ナナリー、そのエステが終わったらロニ貸してちょーだい☆」
ハロルドの声が2人のやりとりに入ってきた。
カチャカチャと器具を忙しく動かしている。実験を再開しているらしい。
「ああ、いいよ。こいつでよかったらどんどん使ってやってよ。それぐらいしか
使い道ないんだからさ。」
「ロニはタフだから実験にはもってこいなのよねv」
実験――その言葉にロニがぴくりと反応した。
「や、やめてくれぇ!俺マジで死ぬ…」
「だぁ~いじょうぶよ♪ライフボトル15本ちゃんと用意してあるから。」
ハロルドはフラスコを眺めつつ意気揚々と言う。
ジューダスがさりげなく後ろを振り返ってみれば、そこにはカイルがいた。
ベッドに腰をおろし、顔はこちらを向いている。
…が、活気に満ちているはずの瞳の色は淡く、何も映していなかった。
ただ思いの中を漂っているようだった。
そんなカイルの傍らにはリアラが座り、心配そうにカイルを見つめている。
ジューダスも少しのあいだ目を細めて見つめていたが、再びロニのほうを見下ろ
して言葉を放った。
「此処にいると馬鹿がうつるな。外の空気を吸ってくる。」
「あぁ?馬鹿って俺のことかよ!?」
妙な体勢ながらも勢いよく吐かれた罵声を無視し、ジューダスは扉のほうへと向
かう。
「あんた以外に誰がいるってのさ?もう1発くれてやらないとわからないみたい
だねぇ!」
またも悲鳴が部屋中を駆け巡った。


雪の降る街の日は短く、既に落ちていた。
薄暗い公園に人影はなく、静かな時が流れている。
仮面を両手で覆い、ゆっくりと持ち上げる。
…不思議なものだな。こんなにも易々と外すことができるとは。
全てをこの仮面で隠し通そうと誓ったはずなのに。知られれば、僕は立ち去らね
ばならないと。そう思い、恐れていた。だが違った。あいつ達は…ジューダスは
ジューダスなのだから関係ないと、そう言った。手を広げ、僕を待ってくれてい
た。

――――スタン、やはりお前の息子だ。

どこまでも信じることをやめず、ただ一途に走り続ける。
だが、今は立ち止まってしまっている。
ディムロスを神の眼に突き刺すことを躊躇したお前のように。
カイルも大切な存在を失うことになるだろう。
それがリアラの願いでもあるのだから。
辿るべき道が一つしかなくとも、人は迷ってしまう生き物だ。
僕にはもう、見守ってやることしかできない。
お前も見守ってやってくれ。
お前によく似て、それでいてどこか違う輝きを放つ英雄を――――

それにしても…世界を救い、幸せに暮らすべきお前が殺され、世界を裏切り、黄
泉に堕ちたはずの僕が蘇り、こうして空を仰いでお前に話しかけることになると
はな。
これが定められた運命であるはずがなく、故意に歪められた運命でしかないのだ
が。
それでも、運命の輪は巡る。
たとえ歪められた運命であろうと、人は人に出逢えたことを幸せに思う。
罪を償うためだけに生まれてきたジューダスは、大きすぎる幸せを手に入れてし
まった。
この幸せをお前に託すことができるのなら、僕は喜んで託そう。
僕が持っていくには大きすぎる幸せなのだから…

――――空には星、心には光が満ちる――――





*あとがき*
あ゛ぁ!もうジュダ最高――――――!!なアーサーです(´∀`)ノ
黒十字、今章にて完結です!わ~い打ち上げだぁ♪(ナイって
もう・・・ね、書き尽くしたって感じです。
最後ぐらいオールキャラにしようか、と思い全員集合です。
が、ほとんどロニナナ。ぁ、ナナロニか(笑
カイルめちゃブルーです。ってか何も喋ってません。ごしゅうしょうs(斬
まぁ、最終決戦前ですからねぇ…悩める思春期なのですよ(違
んー…最後ってなると書けないもんですねぇ、あとがき。
あ、今月中にもう1つ、短編の小説を書こうと思っています。
今度は思いっきりギャグです。テイルズですけどD2ではないです。
では、そろそろ…黒十字、読んでくださりありがとうございました!本当に感謝
です。
次の作品でまたお会いできるとイイですね♪

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