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デミテルは今日もダメだった【62】

第六十二復讐教訓「道徳の教科書読んで道徳が身に付いたら人類は苦労しない」

「なんじゃお前は。わしはここで悟りを開いとるんじゃ。邪魔をするな!」

ミッドガルズの南西には、一本の長く、幅のある川が南下していて、おそらくわ
かっている中では世界で一番長いと思われる。その周辺の河原は、旅人や宿無し
が、ずいぶんな数、テントを張って住んでいた。

彼らには法律も何も縛るものは無かったが、ささやかな社会が形成されていた。明朝顔を合わせれば挨拶し合い、同じ鍋を囲んで食べたりもする。もしかすると、そこらの近代的でレンガで堅くきれいに整備された街より、友好的かつ、安全なソサエティと言えるかもしれない。

社会がつくられ、人と人が繋がり、集団が形成されれば、無論、はみ出す者が現れるのは、必然なのだろう。はみ出る理由は、本人にあるかもしれないし、また他にあるのかもしれない。とにかく、そのじーさんは前者だった。

他の旅人や宿無し達がテントを寄せる中で、一人ポツリとテントを立て、一人ポツリと魚を焼いて食っている、こちらの見るからに偏屈そうな面をした年寄りは、少し離れた場所の、宿無し達の集まりを横目でジトリと睨んでいた。

どんだけ世の中に憎しみを抱いて生きているのか知らないが、とにかく嫌な面だった。そんなことは、他の住人も気付いていたので、当然といえば当然だが、避けていた。目も合わさぬよう、敬遠しあって、互いの社会に踏みいらぬようにしていた。

それでも、そのじーさんの一人天下に踏み入ろうとする無粋なのか粋なのかわからない奴は必ずいるわけで。

「おいじーさん。向こうでラプター焼いてんだけどよ。じーさんもどーだい。」

旅の剣士がケラケラと誘うと、ジジイは苦虫を噛んだ顔で

「勝手に食ってればいいじゃろ。ゴミは持って帰れよ。クソガキ。どーでもいいが、煙りがアレじゃから、もっと遠くで焼けィ。」

顔の通り、何とも勘にさわる口だった。口と一緒に、その白い口髭が、威嚇しているように見える。
かくしてじーさんは、一人孤立していった。じーさんから見れば、願ってもないことだ。このまま一人、わしは過ごすのだ。そして悟りを開くんじゃ。

……………。

「何だこの魚。見た目以上に肉厚だな。」
「………。」
「何だジジイ。早く食え。なんなら私が全部食うぞ。あ、練乳かけていいか?」
「なんじゃ貴様は。」
「通りすがりの腹を空かした大道芸人だ。気にせず食事を続けるがいい。」
「………。」

まるで最初からそうであったように、じーさんと対になって座って、串に刺さった魚にかじりつきながら、デミテルは何でもなさそうに言った。

「あー。ついでにコイツも焼くか。」
「アチャチャチャ!?」
「喚くな非常食。」

デミテルは枝に紐で縛り上げたジャミルを火にあぶりながら、平然とした面で言った。ジャミルはなお喚き、無駄に暴れ回った。

「あっつぁつぁ!?」
「まったく、私は貴様や他の奴に、オアシスに待てと書き置き残していったんだ。それなのに、通り過ぎてきて、私に会うだと?ふざけるな。燻製にするぞ。」

デミテルは火からジャミルを離し、代わりに煙にあぶり始めた。

「燻製の方が長持ちするからな。貴様は『非常食』から『保存食』にレベルアップだ。」
「世の中にここまで嬉しく無いレベルアップがあるとは知らなかったわ!?」
「まだ喚くか。ほーれほーれ。」
「ゴホゴホ!!」
「いい加減にせい!」

じーさんが腹ただしげにデミテルを睨んだ。デミテルは反射的にじーさんと自分の視線の間にジャミルを置いた。さらに、魚をかじりながら

「まぁ、そうカッカするな。困った時はお互い様だ。まぁ、貴様が何か困ってても私自身は知ったこっちゃないが。」
「それはありがたいの。」

じーさんは自分のかじっていた魚を全部平らげ、軽く咳ばらいをした。

「その魚はくれてやるわい。食い終わったら、とっととどこかに行け!わしはここで悟りを開くんじゃ。邪魔をするな。」
「愚かな。」
「なんじゃと!?」

デミテルは右手で魚肉を食い、左手で鳥肉をあぶりながら、嘲笑した。

「この程度の障害に影響されるならば、貴様が開こうとしとる悟りは、相当レベルが低いな。『保存食』より低いな。」
「『保存食』と『悟り』って何?同列のモノなわけそれ?」
「真の悟りを開きたくば……」

デミテルはカッと目を見開き、じーさんの陰険な面を見た。

「私を今晩貴様のテントにでもタダで泊まらせ、己が精神を研ぎ澄ますんだな!」
「いや、何たかってんのアンタ?ただのたかりよね?これ?」
「上等じゃあ!!かかってこい!!」
「その意気だジジイ!その意気が悟りヘの第一歩だっ!」
「ねぇ?悟りの意味わかってるアンタら?ゴホゴホ!!」

――――――――――――。

上手い具合に無銭飲食及び無銭泊することに成功したデミテルは、気分上々だった。

「やはり、私は人心把握の術を心得ている、というわけだ。私にかかれば、あんなジジイを丸め込む事など、赤子の手をひねるに同じ事よ。」

そう言って高らかに笑うのだった。ジャミルは肩を落とした。

「しかし、何も無いテントだな。最低限の生活器具しか無いぞ。」

デミテルはこじんまりしたテントの中に座って、中を見渡した。本当にたいしたものもなく、家族の写真でもあるんじゃないかとも思ったが、それも無い。

「あのジジイ、口だけかと思ったが、本格的に世捨て人らしいな………『世捨て人』って……なんか響きがいいな……なんかいいな………」

少し目がキラキラし始めたデミテルの面を見て、ジャミルはハンッと呆れた。

「何言ってんのよ。あんなの、悟り開くだのなんだの言い訳してる身寄りの無いジジイじゃないのよ。偉そうに。あんなこと言って実は構って欲しいだけなのよ。」
「まぁ、そうかもしれんが…」

「んだぁジジイ!!」
「………。」

ああ、なんか外でめんどくさい事が起きてるな。と、デミテルは脊髄反射的に感じ取った。このままこの脊髄の反応を無視して横になるか、否か。
………ジジイに何かあったら、あとからここにいる私がめんどくさいか。

デミテルはひょっこりとテントから顔を出して、左右確認をした。左手に、背の高い若い旅人三人に取り囲まれた高齢者を確認した。
小さいじーさんは、たんかを切って自分の二倍はある男達を見上げ、怒鳴った。

「なんじゃあお前ら!テントならあっちの方で立てりゃえーじゃろ!八つ裂きにするぞ!」
「この川の前が一番魚が釣れるスポットなんだ。別にいいだろ。生活の邪魔しねーよ。」
「わしゃここで悟りを開いとるんだー!邪魔を…」
「うっせぇ!」

じーさんは、男に突き飛ばされて、河原の石に手をついて倒れた。それでも、目は睨みをきかせたままだった。デミテルはやれやれとため息をはきながら、若い男達に歩み寄って行った。

「まったく。おいガキども。年寄り相手に大人げ無い。元々後何年生きるかわからんジジイだ。余り手荒に扱うと結構近いうちに化けて出て来るぞ。大人になれ大人に。」
「なんだよ。なんか用かオッサン。」
「誰がオッサンだクラァアアア!?八つ裂きにしてくれるわアアア!?」
「オイィッ!?簡単にキレすぎだろうが!?アンタが大人になりなさい!?」
「断固辞退する!!私は子供心を忘れない!忘れたくない!!」
「ピーター・パン症候群!?つーか年下を馬乗りでタコ殴りしながら言う台詞じゃねーよ!?」
「うう…」
「まだ息があるか!?ならば火中天津甘栗…」
「無差別格闘早乙女流!?」


散々とあったあげく、男達は不服そうにその場から去っていった。デミテルは腰に手を当てながら、フンと鼻を鳴らした。

「奴らには地獄すら生温い…」
「いや温くないだろ。熱すぎるだろ。熱湯風呂だろ。別に、テントぐらい張らしゃよかったじゃないよ……」

ジャミルは、尻を手で払うじーさんに呆れたように言ったが、じーさんは無視して、テントにすこすこと身を屈めて入っていった。ジャミルはピクリと眉をひそめた。

………。

夜も更けて、星が昇った。外は寒そうだったが、テントの中はそれほどでもなくて、デミテルは毛布一枚で事足りていた。名前もよく知らん虫がジージーと鳴くのが、耳障りなようで、寝てはいない。

…あいつら、ちゃんと待っとるんだろうな。私がいないうちに全滅してたり……いや、リリス=エルロンがいるからその心配は無いな………

リリス=エルロン………

何故奴は………

レディアントマイソロジーに出れるんだろう……何故奴が出れて私が出れないんだちくしょう………

『当たり前だ、馬鹿』と誰かに言われそうな事を考えていた時、隣の毛布が揺れた。デミテルは横目で確認したあと、また天井を見上げた。

「まだ起きていたのか。」
「言っておくが、感謝なんぞ言わせんぞ。」
「誰もそんなこと期待しとらんわ。クソジジイが。」
「人に宿をただで借りといて、なんという奴じゃい。」
「余計な事は考えるな。『悟り』が逃げていくぞ。」
「幸せが逃げるぞみたいに言うな。貴様は悟りをなんじゃと思っとるんじゃ。」

じーさんは上半身を立ち上げると、フンと鼻を鳴らした。乱れた白髪頭を掻くと、ただ何も無い灰色のテントの布を睨んでいた。

「貴様が何もせんとも、わし一人で追っ払ったわい。」
「よく言うわ。大体、追い払う意味がわからん。別にいいだろう、近くにテントぐらい。あんな奴ら、せいぜい迷惑かけても夜中にロケット花火で戦争ごっこやるくらいだろう。」
「人間なんぞ、信用出来んわ。」

じーさんのその言葉は、今までの敵意のある言葉の羅列とは、若干違う気がデミテルはした。毛布をギュッと握るその表情にあるのは、限りなく怒り顔に近いが、恐怖に引き攣った顔にも見える。デミテルも、上半身を起こした。

「なんだ貴様。なんか詐欺にでも遭ったのか。話してみるがいい。私の復しゅぅ…旅の目的に役立つかもしれん。ここまで人を人間不信に叩き落とせるイベントとはなんだ。」
「……たいしたこっちゃないわ。」

じーさんは目を閉じ、体を倒し、毛布を被り直した。

「息子と反りが合わんくなった。そんだけじゃ。」

……お前は、何をやっているんだ。

この国をもっと強く、そして護る為です。父上。

ならば、わしら軍人が、戦士が、戦えば良いことじゃろう!強くなることがわしら戦士の仕事じゃ!我が家系は、代々王家に仕え、戦ってきた!それでいい!

父上。もう貴方の考えは古い。これが成功すれば、我が国から犠牲を出さず、そして最強の国家とすることができる。

己の命も賭けずに、人の命を奪う道具で手に入れられる強さなど、そんなものを持つのは、本当の戦士では、軍人では無い!そんなものが出来れば、命を賭けて戦ってきたわしら戦士の必要性が………待て!!わしの話を聞け!!


ライゼンッ!!


「歳をとってからの子供でな……しかし、文武両道優秀な、自慢の息子じゃった
……あの若さで将軍とは……」

「じゃが…何かが曲がってしもうたわ……どうしてかのぉ……」

息苦しそうに、じーさんは小さく呟いた。しかし、次にこそばゆそうに吹き出して、笑って言った。

「実をいうとな、貴様と息子、髪の色がよー似とってのぉ。青い髪が。背丈も…」

「かー。」
「………。」

自分から話を尋ねておいて、デミテルは大口を開けて既に眠っていた。じーさんはしばらくそのマヌケ面を淡々と見ていた。

「…………お、お前はもう死んで…い…る………」
「何の夢を見とるんじゃ。何の。」


…………………。


デミテルはガバリッと、毛布を突きあげて目を覚ました。
一体全体、何故起きたんだ?まだ、真っ暗じゃないか。と、再び体を倒し、さっきまで見ていた、ミースタードーナツを一店舗丸々貸し切るという夢を再度見る為、二度寝を敢行しようとした時、隣のジジイがいないことに気付いた。

「………ションベンか。歳を取ると尿が近くなるらしいからな。養命酒ってこの世界にあったけ……」
「ちょっと。デミテルちょっと。」
「なんだジャミル。貴様もションベンか。」
「ぶっ殺すわよアンタマジで。デリカシーって言葉知ってる?」
「デリバリー?ピザ頼むやつか?」
「もういいわ。いくらでも頼め。んなことより外、聞こえない?」
「は?こんな真夜中に何を……」

頭のすぐ横に座るジャミルを手で払って、体を起こすと、聞こえた。少し離れたところで、またしても言い争う声がする。しかも、昼間に聞いた声だ。

またテントを立てに来たのか?こんな時間に?さすがに妙だぞ………


訝って、デミテルは体を立ち上がった。すると、ジャミルが足元で言った。

「ちょっと。アタシも連れていきなさいよ。」
「お前鳥目だろうが。行っても何も見えんだろ。アレか?一人が怖いのか?」
「ええ怖いわよ。この狭いテントの、閉鎖感を醸し出すこの空間で一人でいたら発狂するかもしれないわ。」
「そうか。頑張れ。」
「ちょっとォ!?ここまで言わせておいて置いてくなぁ!?アンタ最低だわ!!」


声は川の上流、川上の方から聞こえていて、その辺りは余り人がいなかった。岩場が多く、足場が悪かった。人一人分程の、おっきな岩が点在して、川の水を隔てている。デミテルは何度か躓きそうにしながら歩いた。

明かりは月明かりだけだ。こんなところに街灯の光などあるはずもない、そうなると、月明かりを頼みの綱にする他進む道は無いのだが、デミテルはあんまり気が乗らなかった。しばらく月を見たくは無い気分だ。

いっそ月を破壊する方法でもねーかな。かめはめ波さえ撃てれば…のような事を考えていると、少し先の河原に人影が伸びていた。

昼間の若い男達と、そして、じーさんがいた。昼間と同様、言い争いをしていた。昼間と違うのは、じーさんは男に羽交い締めにされて、身動きが取れないところだった。

「手間取らせやがって。」
「はなせ!こんな老いぼれどうする気…」
「自虐しなさんな。アンタそれでも元ミッドガルズ騎士団団長だろ。」
「!」
「アンタがいなくなった後俺たちは入ったからな。アンタが知らないわけだ。昼間は偵察だよ。他の浮浪者もいるし…」

動けないじーさんの首を、男はグッと握った。

「いくら国のやり方が気に入らなくなったからって、逃げ出す事無いじゃないか。アンタは、国の内情を知りすぎてる。生かして野に放てるわけが無いだろ。」
「し、心配せんとも、外に漏らすようなことはせん!長年国に仕えてきたわしが、信用できんというか!」
「出来ない。と、言ったよ。」

男は、ニヤリと笑った。そして言った。

「アンタの息子がな。」

じーさんは、目を見開き、呆然とした。男は首を絞める力をより強くしながら続けた。

「将軍の、アンタの息子の命令なんだよ。これは。怨むなら、テメーの子供を怨みな!」
「まったくだな。私だったらそんな息子、正座させて道徳の教科書を百万回音読させてやるわ。」
「ああ。まったくだぜ。」
「しかし、子の育ち方っつーものは、親に責があるものだ。自業自得だろう。」
「ホントだぜ!このジジイの自業自得だ!気が合うなアンタ!」
「ああ。つまりアレだ。お年寄りを大切にせん最近の若者を産んだのも、親のせいということだ。」

「だから、恨むなら親を恨め。」
「へっ」

デミテルは、振り向いた男の顔面に、右肩から外した金属のショルダーを思い切り叩きこんだ。男は鼻血を噴き出し、砂利の上にぶっ倒れた。

デミテルはマントでショルダーについた血を拭いながら、ハァと溜め息をついた。残りの二人の男達は後ろにたじろいた。

「まったく。悪い奴がいるもんだ。お年寄りをリンチとは。怖い怖い。」
「お、お前の方が百倍怖いわ!また邪魔か!?どういうつもりだ!?」

気絶した男の頭に足を乗せてグリグリしているハーフエルフに、二人の男は叫んだ。

「いいんだよ私は悪人だから。悪人が悪をやるのに理由はいらん。が…お国を護る騎士が悪をやるのには、大層な大義名分がおありなんだろうなぁ。」

デミテルはニヤリと笑うと、赤い前髪の先を、指の腹で撫でた。やがて、じーさんを羽交い締めしていない、口髭をした男が、腰から短剣を取ったのを見て、目を細めた。

「ふん。おいジジイ。」
「……。」

反応は無かった。デミテルは少し間を置き、頭をボリボリとかくと、溜め息をついた。

「やれやれだ………明日の朝飯、私の魚は二匹だ。それで手をつけてやる。ああ。あとついでにあのインコにも一匹やってくれ。」

短剣を突き立てて、男が突っ込んで来た。デミテルは即座に鞭で短剣を持った手を弾き上げた。短剣はクルクルと川に落ちた。

「つっ……て、てめぇ俺達にこんな真似してただで済むと…」
「弱き民を護る軍人が、老人をリンチするような真似をしてもまかり通る世の中だ。ただで済むどころか、お釣りが出ると思うがな。」
「俺達は国を護る為に……」
「馬鹿馬鹿しい。」

デミテルは少し怒っているようだった。鞭をヒュンヒュンと振り回すと、やがてもう片方の手で握り取り、バチンと両側に引き伸ばした。男達はビクリとした。

「貴様らのような奴らがいたらなぁ!!私の影が薄くなるだろうがぁ!?悪事は悪人に任せて……」

「騎士はちゃんと護るべきもんを護ってろ屑がぁ!!」
「ぐはぁ!?」


――――。

「どーだ。口を聞く気になったか。」
「…。」
「……はぁ。」

デミテルは老人を仕方なさそうに背負って、川に沿って夜道を歩いていた。

じーさんは、先程から何を聞いても黙ったままだ。それが何故なのかデミテルには察しはついてはいた。

「まっ、文武両道の自慢の息子に信用されず殺されかければ、話もしたくなくなるだろうな……」
「……。」
「………私の親父はなぁ、ろくでなしでな。」

沈黙にうんざりしたのか、デミテルは何となしに話をし出した。

「母親は私を生んですぐ死んで、炭鉱で働いとる父親に育てられた。よく酒を飲んでてな、しょっちゅう殴られたわ。正直、殺したくなったこともよくあったわ。」

「だがなぁ……」

「実際、いきなりぽっくり死なれると、急に愛情を感じ始める。一応長く顔合わせて暮らしてたのだから。まったく、親とはめんどくさい生き物だ。どんなにクソ酷い親でも、先に死なれたら心残りが一欠けらも残らない状態にはそうそうならん。もちろん例外もあるだろうが。つまり…アレだ……」

真夜中の星の光を見上げて、デミテルは情けをかけるように言った。

「貴様の馬鹿息子は…死ぬ程悩んだんだと思うぞ。貴様を殺す命を出すのを。普通そうだろう。私でさえ、親に死なれたら心残りがある。」

「貴様が育てた優秀な息子ならば、なおさらだろう。慰めになるとは思えんが。」
「………………………ふん。」

やっと、声を発した。たった二文字の鼻息混じりの音だったが、デミテルにはそれで十分だった。


――――――。

朝の、魚を焼く匂いが、目の下に隈をつけたデミテルを半強制的に覚醒させた。
デミテルはフランケンよろしくあーあー言いながらテントから出て、じーさんの焼く魚をあーあー言いながらモリモリ食っていた。肩の上のジャミルが半分寝ていたので、あーあー言いながらまた火あぶりにした。

じーさんは相変わらずの偏屈顔で、魚をかじっていた。だが、なんとなしに眉間のシワが一本減ったような気もしなくはない。確かめる術は無い。昨日のじーさんのシワの数を数えた人間がいないのだ。じーさんは、それと無しにデミテルに尋ねた。

「……どこに行くんじゃ。」
「南だ……だがそのあとは……ミッドガルズに行くつもりだ。」

そうだ。月の精霊を味方に加えたクレスどものやることは一つ。ダオス様討伐。そして、そのダオス様と戦をするであろうミッドガルズ。舞台は整いつつあるのだ………ふふっ。私の『復讐』を色飾る舞台がなっ!!

「………もしもじゃ。」
「ん?」
「まず絶対に無いとは思うが……だが、もしも、わしの息子に会うようなことが会ったらの……」

「言伝を頼む……こう言うとくれ。」

「もう、お年玉はやらん。とな。」
「………。」


去年までは貰ってたのか………ボンボンめ………


――――――。

テントをあとにしたデミテルの足取りは、別段変わったところもなく、相変わらずマイペースだった。早過ぎず、遅すぎず、落ち着いていた。

「しっかしまあ、ライゼンっていうのは話通りの男ねぇ。」
「なんだ。知っとるのか?」

暇つぶしにデミテルに足を掴まれてブンブン振り回されながら、ジャミルは落ち着いて言った。何とか手から逃れて、空中をクルクル回り、宙にピタっと止まった。

「何度も言うけど、アタシは上位階級の魔物よ。時期に戦争始める敵の主要人物ぐらい抑えとくわよ。」

「とにかく、ライゼンってのは、自国のことしか頭に無い頭でっかちらしいわ。一見は礼儀をわきまえた好人物らしいけど。自分の国護る為に、相当泥被った生き方してるわよ。」
「……ふん。」

デミテルはだんだんと砂漠に近付いて来る光景を眺めて歩きながら、うんざりした顔で言った。

「どうやら変わらんらしいな………あの男……」
「え?アンタ会ったこと……」
「おい。何だアレは?」

ジャミルの問いを遮り、デミテルが遥か向こうを指差した。見れば、黄色い砂漠の、地平線の向こうに、小さい点が見える。それが、だんだん大きくなっている。

「何かしら……鳥?いや、それにしちゃでかいわ…」
「……いや鳥だろう……羽ばたいてるぞ……」
「そうね……でも………翼が腕から生えてるわね。そんでもって、ピンク色ね……」
「アーチェ=クラインか!?」
「いや、アーチェ=クライン腕から翼生えて無いから。ハーピィでしょ。アレ。アンタ、ハーピィに知り合いいる?」
「ハーピィの知り合い?そんな奴は………」

『ハーピィだなんて…名前で呼んでもらっていいんですよ?ユーナって……きゃっ♪言っちゃった♪』

「…………………あ。」

気が付いた時、その姿は完全に見えた。一匹のハーピィ族が、自分の眼下に広が
る砂漠を、ラドンさながらの衝撃波で吹き飛ばしながら、音速並の猛スピードで
デミテルに突撃してきた。デミテルの顔がサーっと一気に青ざめた。

「我・が・愛・し・の………デミテルさまあああああああん♪抱きしめて下さい
ましいいいい!!」
「ぎゃあああああああっ!!」

つづく


おもうがままにあとがき
ぴく●ぶの絵、ホントにありがとうございました。今まで書いてきてホント良かったです

春休み、小説書いてるか絵描いてるかしかやって無い気がします。大学入って大丈夫かこれ?そしてデミテルはレディアントマイソロジーに出る日が来るのかこれ?(ないない

たまに昔の話読み返すと、思い切り時事ネタとか書いてたから妙に懐かしくなったりします。なんでテイルズ小説で年金問題が出てくるんだ…それではさよなら!!

コメント

おお!投稿スピードがやけに早いですね!
個人的には嬉しいですが、執筆ペースを崩さないかどうかが心配です…

こんばんは。
前回前々回と、名乗りもせず失礼しました。

いえ、こちらこそ恐れ多くもイメージ画を描かせて頂き、さらにコメントにブクマ・ブクマタグなどなど、本当にありがとうございました。

小説、かなしいかな、ジャミルがもうどんな事をされても慣れてきてしまっているのに笑ってしまいました。
そして、デミーさんはライゼンに会うのでしょうか、気になります。

そういえば、テイルズの新作で、なりきりダンジョンが出るそうですね。
マイソロジーはともかく、そちらはファンタジアが舞台なので、今度はチラッとでもデミテルが出てきてくれたら…と思ってしまいますね。

初代なりダンの懐かしい面々は健在なのか、今から楽しみです。

話が脱線してしまいましたが、次回も楽しみにお待ちしております。
大学の新生活も、頑張って下さい。

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