デミテルは今日もダメだった【63】
第六十三復讐教訓「主役は大概遅れてやってくる」
世界と自分は、まったく別の生き物に感じた。
人々が、それはそれは楽しそうに歩く大通りの中を、その少年だけは、ひきつった必死な顔で駆けていく。
なんでこいつらはこんなに楽しそうに笑ってるんだと、少年は見当違いな怒りさえ覚えた。こんな大変な事態なのに。大ピンチなのに……
「………リアお嬢様がさらわれたのに何楽しそうにショッピングしてんだテメエらこのやろぉおおオオオッ!!」
人の群れを縫うように避けて走っていた十四歳の少年デミテルは、我慢しきれなくなって叫んだ。人々はビックリしながらデミテルに道を開けていった。デミテルは鼻息荒く猛然と走り抜けて行った。
「あっ!デミテル!!」
人々が避けて出来た道に、頬が赤く腫れた、自分と同じぐらいの少年が前に出てきたのが見えた。
ちょっと前、怒ったリアに平手打ちを喰らった、昔デミテルの近くに住んでいた少年だった。
「おいテメッ!あのガキどこにいやが」
「どけぇ社会のゴミがぁああ!!」
「ぶべらばっ!!」
情け容赦無く、デミテルは少年の顔面に膝蹴りを叩き込んだ。少年は鼻血を噴いて倒れたが、デミテルはお構いなしに倒れた少年の腹を踏みにじり、そのひどい顔をチラリも見もせず、疾風の如く駆けていった。
…………
………なんだろ。なんだか、とってもくさい。
私……何してたんだっけ………
デミテルさんとデー…じゃない!違う!違うよ!デミテルさんとお買い物してたのっ!!
お買い物してて……叩いちゃって…それから……?
リア=スカーレットはふわりと、目を開いた。彼女は木の椅子に、座らされて、体を縄で、背もたれに縛られていた。
どこかの、薄暗い小屋の中だ。小さい小さい窓から陽射しが刺している。小屋の中はたくさんの藁が積まれていた。
「気が付いたかい?」
積まれた藁の上に、男が二人座っていた。一人は黒い髪にオールバック、一人は波のようにうねった髪をした金髪の男。金髪の男はニヤリと笑った。
「悪いねぇ嬢ちゃん。いきなり取っ捕まえちゃって。でも、おじさん達も仕事なわけなんだよ。許してくれや。」
「わ、私をさらってどうす」
「幼女おおおおお!!」
「ひゃああ!?」
「やめろバカッ!」
黒髪の男が突然とち狂ったように叫び、リアに飛び掛かった。金髪男は黒髪男の後頭部を引っつかみ床に叩きつけた。
「もっと丁寧に扱え!」
「いやだあああ!!幼女を〈ピーーー〉」
「ドン引きするようなこと叫ぶなぁこのクソ弟おおお!!」
金髪男は黒髪男に容赦無くバックドロップをかましておとなしくさせたのち、リアに向き直った。
リアは今にも泣きそうっていうか、もう泣いてた。アグアグと。
「悪いねぇ。こいつ生まれた時から変態なんだよ。実家の池の金魚に欲情するような阿保なんだ。」
「私は金魚じゃないですよ!?」
「いやそういうことじゃないんだよ!?とにかくねぇ…」
金髪男はめんどくさそうに頭をボリボリ掻いた。
「オジサン達ねぇ、お金に困ってんのよ。飯も買えない屑なのよ。おまけに食い逃げして逃げてたら、このアホ弟が学校帰りの女の子達の集団下校に襲い掛かってねぇ、『防犯笛』吹かれて取っ捕まるっていう………自分で話してて涙出てきた。」
オジサンと呼ぶには十分若い男は、目頭を抑えて涙した。
「……そしたら、なんか偉そうな人が牢屋に来てね。牢から放つ代わりに仕事をしろと。お金もやると。そう言われてね。断る理由は無いわけよ。」
「兄者ああああせめて匂いだけでもおおおおお」
「うるせーバカ。」
裏拳を弟の顔面に叩き込みながら、兄は困ったように笑った。
「よくわからんが、キミのお父さんの持ってる資料?みたいなもんが欲しいんだと。ま、安心しなさいな。手に入れたらちゃんと逃がすよ。」
「足いいいい幼女の足を」
「お前の足を二度と使えなくしてやる。」
弟の足をグリグリ踏みにじりながら、兄はケラケラと言った。
「……さて。そろそろキミの王子様が助けに来ると思うんだけど。」
「王子様?」
「キミと一緒にいた少年さ。彼に勇気があるなら、白馬に乗って王女様のキミを救いにくるよ。」
「救ったあとは………愛の口付けハッピーエンドかなー。」
「へっ!?」
「悪の二人組から王女様を無事助け出した王子様は、王女と二人末永~く幸せに…」
「うわああ!?ち、ちがうよ!そんなの!!」
真っ赤な顔で、リアは縛られながら椅子をギッタンバッタンと跳ねた。金髪男はカッカッカと笑った。
男は懐から何か小さく平たい黒いケースを出し、ふたを開き指を突っ込んで、何かをつまんで出し、鼻で吸った。嗅ぎ煙草のようだ。
リアは、相変わらず怖かったが、なんだか拍子抜けした。思っていた程悪い人に見えないからだ。
「幼女のパンツをおおおお顔からああああああ」
「自分のパンツで我慢しろアホ。」
弟は死ぬ程怖かったが。
その時、ギギギと、木が軋む音がした。リアは首を傾けて、兄弟の頭の向こうにある、両開きの扉を見た。少しずつ、扉が開き、
デミテルが、息を切らしながら現れた。相当走ったのか、開いた扉に腕でもたれ掛かっていた。汗が額からダラダラと垂らしている。
「ハイ。お疲れさん王子様。時間ギリギリだったな。」
「……お嬢様は?」
「王女様ならこちらに。」
金髪男はリアの背後まで歩くと、背もたれに手を置いた。デミテルは叫んだ。
「リアお嬢様大丈夫ですか!?怪我とかしてないですか!?」
「あ、うん……」
「なんか…その…変なことされてませんか!?」
「えっと、今の所は…」
「幼女のおおおお髪をおおおお〈ピーーー〉」
「…………。」
「今にも何かされそうだろうがああああ!?」
「落ち着け王子様。何もしてないから。」
弟の眼球に人差し指をぶち込むながら、金髪男はデミテルをなだめた。
「そんな怖い顔しないでくれよ………で?オジサン達が欲しいモノ、持ってきてくれたかな?」
「………。」
「それが無いなら、この娘は渡せない。代わりにこっちのバカ弟に渡しちゃうかも。」
「へぇっ!?そ、それはやめて!お願い!!」
「じょーだんじょーだん。こら。悲しい顔すんじゃない。」
ガッカリしながら体操座りする弟を横目に、兄は言った。デミテルは男達を睨んだまま、腹の服をめくった。
たくさんの紙の束が、紐でくくられて入っていた。デミテルはそれを手に取った。金髪男はニヤリと笑った。
「よくやった。そいつが資料って奴ね。じゃ、こっちに来てオジサンにくれるかな?」
「……リアお嬢様を渡すのが先だ。」
「……用心深いね王子様。」
金髪男は楽しげに笑うと、リアを椅子に縛る縄を解いた。リアの腕を掴むと
そのまま持ち上げて、リアをお姫様だっこした。リアは「ひゅぁ!?」みたいな、なんかよくわからない声を真っ赤になりながら上げた。デミテルは眉を潜めた。
「そんな変質者を見る目はやめておくれ。さ、オジサンが一歩ずつ近付くから、君も近付いて。」
デミテルは訝しながらも、従った。お互いが、お互いの必要なモノを抱えて、お互いに歩み寄っていく。
やがて近付き終わり、足が止まった。二人は互いの目と鼻の先に立っている。
「じゃ、オジサン、三つ数えたらこの娘落とすから、キャッチしてね。」
「え!?」
「はい!いっちにっのさん♪」
「おわぁ!?」
本当に容赦無く、オジサンはぽいっとリアを落とした。デミテルはとっさに紙の束を手元から落とすと、リアを、これまたお姫様だっこでキャッチした。重さで、二歩後ろにたじろいたが、なんとか耐えた。
その間に、瞬時に金髪男は、デミテルが落とした紙の束を拾い上げた。そして、ニッコリと笑った。
「はい。取引終わり。お疲れさん。スタッフロール流し…」
言ってる間に、デミテルはリアを抱えて走っていた。開けたままの扉から、少年は飛び出していった。
「やーれやれ。せっかちだな。」
「ああ幼女…」
「まだ言ってんのかお前は。」
「ぐう………しかしまあ、楽な仕事だったなぁ兄者。これで金が入るなら…」
「何言ってんだぁ?ここからが本番だーよ。」
「へ?」
「……見てみろ。」
金髪男は弟の顔面に紙の束を叩き付けた。
「思った通りだ。あのガキたいした根性してやがるよ。」
「俺たちゃ、『マカガク』ってのがどんなもんか、ひとっかけらもしらねーが、」
「その紙が、それじゃねえってのはわかるわ。」
『愛娘・リアの観察記録』
表紙の文字をなぞるように読みながら、弟は納得した。兄はクスクスと笑った。
「で、追うのかよ?」
「あったりまえだのクラッカー。」
デミテルが出て行った扉を、金髪男は乱暴に蹴り開けた。途端、大量の煙がモアモアと小屋に流れ込んで来た。
「捕まえて資料を手に入れなけりゃ、俺達の命ゃねーんだ。ガキに乱暴したかないがーね。さて、この煙は『マジックミスト』か…用意周到な王子様だ……」
……………。
デミテルは走った。リアを抱えて、路地の入り組んだ道を一目散に。
だが、兄弟達はすぐに追い付いてきた。その足は速いことこの上ない。いくらデミテルがリアを抱え、なおかつ子供と大人の足とはいえ…
くそ!こんなに早く小細工に気付くとは……おまけにアイツらなんであんな足が……
デミテルはチラリと後ろを見た。そして気付いた。二人ともブーツを履いている。どこか黄緑色に近い、羽根の細工がされたブーツ。『エルヴンブーツ』だ。速いわけだ。
アイツらなんでアレを用意して……まさか、僕がこの行動に出ることを……
「デミテルさん!前!」
リアが叫んだ。見れば、道が右に細く、左に広く別れている。デミテルは一瞬で思考した。
人の多い大通りに出れば…ならば左に曲がっ
「グレイヴッ!!」
「なっ!?」
大通りに行ける左の道の前に、太い何本もの岩の槍が突き出した。完全に塞がれた。
「くそっ!アイツらハーフエルフかよっ!!」
デミテルは岩の柱に飛び込みそうになった体を、右の細い道になんとか方向転換した。
その後も、デミテル達は逃走経路を完全に操作された。走れど走れど、人の多い道につかない。一方で、スタミナは削られていく。苦しそうなデミテルの表情を見て、つらくなったリアは言った。
「デミテルさん!下ろして!私自分で…」
「いや、もういいです。」
「!?」
小さく呟いたデミテルは、段々と速度を落として、やがてピタリと止まった。そして溜息をつくと、後ろを振り向いた。
金髪の男と黒髪の男が立っている。金髪男はニヤリと笑った。
「どうした?もう逃げないのかい?」
「わざとだろ。」
「何が?」
「ホントはすぐ追いつけた癖に、わざと……」
「わざと走らせ続けて、疲れさせたって?くく。まさか。」
デミテルは、その通りだと確信した。その、金髪男の笑顔と、ほとんど息切れしていないのを見て。
「ぜぇぜぇぜぇぜぇ」
「お前はもう少し運動しとけバカ弟。」
「………。」
膝に手をついて息を切らす弟の腹に蹴りを入れながら、兄は言った。
どうする……こっちは疲労困憊……あっちは疲れは無い……おまけにハーフエルフ?やってられないなもう……
「本物の『資料』を渡せ。」
金髪男が今までとは違う、キレのある声で言った。どれほどのキレだと言えば、リアが『ヒッ』と息を飲む程の。
「『マカガク』の資料。持ってるんだろう。出せ。」
「………今手元には、無い。」
「俺が君なら、自分で持っとくがな。」
「………。」
「ガキが生意気な事やんじゃねえよ!!クソが!!」
金髪男が牙を剥いたように怒鳴った。リアは泣きそうな顔で、デミテルの首により強くしがみついた。
「こえーんだろガキ?俺がこえーだろ?俺たちゃ、生きる為にゴミみてーなこと腐る程やってきた、正真正銘の『悪人』だっ!!」
「その悪人が、失敗すりゃあ殺されるような仕事させられてんだ。凄みだって効かすわ!!」
「とっとと出すもん出しな!!でなきゃ…」
「殺すぞっ!!」
比喩でも何でも無い。正真正銘本物の殺害予告だ。懐からナイフを抜き、デミテルに向けた男の顔は、本物の悪人だった。
デミテルは死ぬ程怖かった。足がカタカタ震える。口がワナワナと痺れる。怖い。泣きたい。逃げ出したい。土下座してでも生き残りたい。だが、
『資料』を渡して助かりたいとは、一片足りとも思わなかった。デミテルは目をつむり、スゥと息を吸うと、目を見開いた。
「僕は………」
「…オレは、頼まれてんだよ。この子の父親に。」
『愛娘のことは任せたよ。我が愛弟子。』
「信頼したんだ!オレを!」
自分に言い聞かせるように、デミテルは叫ぶ。
「どこから来たのかもわからない、見ず知らずのガキだったオレを受け入れて!雇って!おまけに、世界一愛してる娘を、オレに任せてくれた!!」
「そんな人の……師匠の……オレの…」
「オレの親父みたいな人の!!大事な物を!!お前らなんかにやれるかあ!!」
轟くような叫びが、路地を響き渡った。リアはデミテルの顔を口を開いたまま見上げていて、男二人もただデミテルを見つめた。
次の瞬間デミテルは、びっくり顔のリアを下ろし、自分の背中の服をめくって、紙の束を取り出し、リアに手渡した。そしてドンと、後ろに突き飛ばした。
「キャッ!?」
「早くそれ持って逃げろぉ!!ここは食い止めるから!!」
「え!?でもデミテルさんが…」
「早く行けえ!!」
デミテルは腰を下げて、身構えた。金髪男は、ニンマリと笑った。
「お前みたいなバカ………大好きだよ!王子様!!」
ナイフを振りかぶり、金髪男が駆け出す。デミテルはキッとその顔を睨み、身構えた。
全てか遅く感じた。振り下ろされたナイフが、顔に迫る。リアが後ろで何か叫んでいるのが聞こえる。
ああ。終わる。
「よく頑張った。愛弟子。」
この空気に合わない、優しい声がした。途端、デミテルの眼前まできていたナイフが動きを止めた。
金髪男のナイフを持った右腕に、鞭が巻き付いていた。それを確認出来たのはほんの一瞬で、次の瞬間には、金髪男は視界から消えてしまった。
男は宙を舞っていた。鞭に引っ張り上げられ、鞭の持ち主の頭上を飛び越え、真後ろに落ちた。
ランブレイ=スカーレットはふぅと息をつくと、鞭をヒュッと抜き取りデミテルの元へ歩み寄った。右手に鞭を。左手に娘の手を取って。
デミテルは胸の底から安堵した。
「ランブレイ師しょ」
「動くな。」
ランブレイが小さく呟いた。刹那、デミテルの顔スレスレの横を鞭が直線に走った。鞭はデミテルの頭を掴もうとした黒髪男の鼻に突き刺さり、男は悲鳴を上げて倒れた。
目をシロクロさせるデミテルを促して、三人は弟の体を踏み越えた。
デミテルは色々頭が混乱していたが、やがて冷静さを取り戻して言った。
「えっと……師匠、確か会議室から出れなかったんじゃ?」
「ああ。」
頭を抑えて立ち上がり始めた兄弟達を見据えながら、ランブレイは答えた。
「いくら言っても私の話は聞かないし、だからといって私を帰らせようともしない。困ったもんだから、入口の扉ぶっ飛ばして勝手に帰らしてもらったよ。」
「ぶっとば…」
「お前が私のカバンの中に入れてくれたメモのおかげで事態がわかった。待ち合わせ場所とやらに行く途中で会えたのはほぼ偶然だが………デミテル。」
ランブレイはクシャクシャと、デミテルの頭を撫でた。デミテルは目をパチクリさせて、そしてランブレイは笑って、言った。
「リアを守ってくれて、ありがとうな。」
「…!」
「おまけに、私の大事な資料まで守ってくれた。お前は最高の弟子だよ。」
死ぬ程うれしかった。と、デミテルは誰に対しても正直に答えられる気がした。それほど、デミテルの心は歓喜していた。
「さて……まだ、やる気か?」
「てて………やるねオッサン。」
金髪男は楽しげに笑いながら、肩をすくめて立ち上がった。
「優しいお父さんが、そんな危ないもの振り回すなよ?怪我するぜ?」
「ご心配ありがとう。だが残念なことに私は、君と君のそのナイフとの付き合いより、ずっとこの鞭と長く付き合っている。妻より長い。」
「あっそ。」
素っ気なく男が言った。と思った矢先、男のナイフがランブレイの顔目掛けて真っ直ぐ飛んできた。ランブレイは瞬時に鞭で、小さく速いナイフを弾き飛ばした
。
その一瞬で、男は何かをブツブツと呟いた。詠唱だ。
「ファイアボールっ!!」
オレンジ色の火炎弾が男の頭上にふわりと浮かび、次の瞬間デミテル達に向かって来た。デミテルは一瞬息を飲んだが、ランブレイは
「デミテル。勉強をしようか。」
と楽しげに言った。そしてブツブツと何か呟いた。
「はい問題。魔術師同士の戦いにおいて、この狭い路地裏では、お互いに範囲の広い強力な術は使えない。」
「いやそんなこと言ってる場合じゃ」
「この場合、初級術をいかに上手く使うかが鍵だ。だが、ただやみくもに連発すればいいもんじゃない。」
「いやもうそんなんどうでもいいから」
「あの火の術ファイアボール、一体何の術で対処すればいい?」
「いやだから……ファ、ファイアボールっ!!」
「はい残念。五十点。正解は」
「アイスニードルだ。」
ランブレイが人差し指を男達に向けると、無数の氷柱が火球に突っ込んでいった。金髪男はハッと嘲った。
「火の球に氷ぶつけてどーすんだい?五十点はあんたのほ…」
だが、金髪男が言葉を言い切らぬうちに、思いがけない事態が起きた。氷柱が、火の球の腹を貫き、掻き消し、自分に向かって飛んで来たのだ。男は急いで屈んだが、避け切れず、右肩に一本突き刺さった。
「っぐあ!?」
「どうしてファイアボールにファイアボールで応戦すると五十点か?それは…」
ランブレイは淡々と語りながら、男に歩み寄っていった。
「『防ぐ』のが精一杯だからだ。ファイアボールの一度に出せる球は、実力のある魔術師で多くて八つ程。」
「敵が実力者で、自分が三、四つの球しか出せんやわな魔術師だったら?防ぐことも出来ん。しかし実力者であったとしても、同じ数が出せるだけでは防ぐことしかできん。ここで、アイスニードルだ。」
「アイスニードルはやわな魔術師でも、無数の氷柱が出せる。手数が多いから、防いだ上で、攻撃も出来る。」
「で、でも氷に火をぶつけたら溶けて…」
「いい質問だ。」
ランブレイはデミテルの方を振り向き、にこりと笑った。全く危機感のかけらも無い。
「普通なら、アイスニードルでは貫けない。だから回転させた。回転させながら放てば、貫通力が上がる。炎は物理的な物体じゃないから、硬度なんてほとんどないからね。簡単だよ。いいかデミテル。」
「ただ、デカイ魔術を使えるというだけで、強い魔術師とは言えない。頭を使いなさい。ただ『力』の続く限りデカイ術をバンバン使い、『力』が無くなったらオレンジグミをモリモリ食べる。そんな魔術師は、ただの無能だよ。無能というか、カッコ悪い。」
「弱い術だけで、強者を倒す。そっちの方がカッチョイイだろう?」
かっこよかった。こちらを振り向き、ニッと笑うランブレイは、今までに無いくらい、カッチョヨク、デミテルには見えた。
やがて、ランブレイは膝をつく金髪男を見下ろした。
「さて………」
「よくもリアを危険に晒しおったなあああああアアア!?」
「…。」
いつも通りだった。と、デミテルは思い直した。いやしかし、さすがに娘を誘拐なんぞされたら、誰だって……
「貴様のような奴は裸でランドアーチンの巣に叩き落としても生温いわあああクズがぁあああっ!?えぇコラァあああっ?!」
「…………。」
金髪男の頭を容赦なく音速で踏み続ける師匠を、デミテルは果てしなく淡々と見ていた。やっぱりいつもそんな変わらなかったらしい。踏まれて顔面を地面に音速で叩きつけられ続ける金髪男を、デミテルはだんだんかわいそうにも思えてきたが、
すぐにその考えを捨てた。奴らは自分と、お嬢様を本気で殺そうとしていたのだ。やり過ぎなものか。よし!いいぞ!!もっとやれ師匠!!そこだっ!!鼻を潰せっ!!
奴らに同情する者などこの世に…「もうやめて!!お父さんっ!!」
どうやら一名いたらしい。デミテルの背中にくっついて恐る恐る父親の背中を見ていたリアが、デミテルの後ろから飛び出し叫んだ。
例えマーテル様に『やめろ』と言われてもガン無視するに違いない勢いで男を踏み続けていた父親の足が止まった。ランブレイは若干驚いた顔で娘の方を見た。
「何故だリア?こいつらはリアを酷い目に遭わせたんだぞ?」
「確かに……そうだけど…」
「じゃあ踏み続けよう。私の足の筋肉が腐るその時まで。」
「で、でもっ!!」
再び秋雨の如く頭を踏み始めた父親に、リアはまた叫んだ。どうでもいいが頭を踏む以外に罰の与え方は無いのかとデミテルは思った。
「そ、その人達は……確かに悪い人達だけど……でも……」
その悪人が、失敗すりゃあ殺されるような仕事させられて……
「かわいそっ」
「らあっ!!」
隙をつき、金髪男がランブレイの足を引っつかみ、引き抜いた。ランブレイはうつぶせに倒れ込んだ。
「ぐおっ!?」
「バカ弟ォ!!今のうちにそのガキ人質にしろおっ!!」
「お、俺まだ鼻がいた……」
「人質は好きなだけ触っていいぞ!!」
「幼女おおおおおおっ!!!」
デミテル達の後ろで、ランブレイにぶっ叩かれた鼻を抑え、しかめっつらだった弟が覚醒した。ギラギラと危険に目を光らせて、リアに向かって低姿勢で駆け出した。
リアは後ろを振り向いていたが、恐怖で体が硬直していた。ギラギラした弟の目を、リアは見つめるだけだ。
あ……
男の突き出した手が、恐ろしく大きく見えた。思わず目をつむった。来る。あれ来ない?目を開く。
デミテルが、身をていし、顔面に男の拳を喰らっていた。
「デミテっ」
「お前に用はねぇよっ!!」
男が、逆の手をデミテルに突き出したのが見えた。リアには、デミテルの背中しか見えず、どうなったかよくわからなかった。
男の手はデミテルの腹に伸びていたが、拳が当たった鈍い音はしていなくて、その代わりに
鋭い、何かが刺さった音がした。リアはその音を聞いても事態が飲み込めなかったが、デミテルが震えながら、顔をこちらに振り向かせることで、ようやく理解した。
デミテルは、なんだか腹が生暖かいし、視界はぼやけるし、喉の奥から血の味がしたりで、自分の身体が危険信号を発っしているのがわかったが、そんなことはどうでもよかった。
自分の信号の色がいくら血の色に染まろうが、彼は感心がなかった。今だけでなく、今日一日、彼はずっとそうだった。
デミテルはリアに向かって、ふんわりと笑った。
よかった………怪我してない…や…
男が少年の腹部からナイフを引き抜く音が、路地に静かに響いた
つづく
おもうがままにあとがき
匿名希望<おお!投稿スピードがやけに早いですね!個人的には嬉しいですが、執筆ペースを崩さないかどうかが心配です
おもいっきし崩してしまいました。すいませんです
Kabo<マイソロジーはともかく、そちらはファンタジアが舞台なので、今度はチラッとでもデミテルが出てきてくれたら…と思ってしまいますね。
自分もです。期待してます!!バンナムさーん!?ここ見てたらお願いしまーす!!
ずいぶん間が空いてスイマセンです。大学生活始まって、色々やることあって…いや。違う。これは自分の怠慢なのだ。「忙しい」と理由をつけて堕落し穢れていった己の魂が(ry
昔の話、間が空きすぎて自分でも把握するのが大変だったという…「あれ?デミテルって14さいだっけ?13さいだっけ?」みたいな感じでした…
話変わりますが、今テイルズのサイトで第5回人気投票やってますよね……そこに「自由記入」てとこ…ありますよね…ええ。投票しました。デミテルに。バカでごめんなさい。
でもこれって……この投票で上位に食い込んだら…もしかしたらデミテルは…もしかしたら…(無い無い
それではさよなら!!
コメント
こんにちは。
小説、かなり気になる所ですね!
というか何かもうカッコイイです。
何かしらデミテルが出てほしいと切に願うばかりですね。
人気投票…自分も入れてみました。これで二点でしょうか。足掻いてみましょう。
最近は、友人にこちらの小説をおすすめさせて頂いております。とても面白いと言っておりました。
次回も楽しみにお待ちしております。
Posted by: kabo | 2010年04月25日 17:16
久々に参上、人気投票にちゃっかり二票入れたテイルズです。目指せ!!三十位以内
最近パチスロだ睡眠だで充実した生活を送ってますwwwwwwwww
最近良く思うことが、時代が変わったなと感じます。私は、一番新しくて多分アビスの人間です。それ以降に手を出した作品といえば、バーサスくらいでしょうか?あんまりついていけなくなりました。ハードが違うという問題もありますが、なにより興味がなくなりましたね(笑)やるなら鬼畜ゲーとして名高いD2や、リバースくらいがちょうどいい、ヴェスペリア?ナニソレオイシイノ?
昔の名作が今も、そしてこれからも廃れていかないように、私はアビスまでのテイルズファンで十分です(笑)
一応コミュニティとか立ち上げたりするのが好きな人間なんで、良かったらmixiで私を探してみてください♪
岩手のテイルズで私です。では
Posted by: テイルズ | 2010年05月11日 06:10
再び失礼します~。
こっそりGIF動画作らせて頂きました…
http://t.pic.to/13l0zm
連投すみません。
ぴ●しぶアフターもお疲れ様でした!
今後の活動も応援しております。
失礼いたしました。
Posted by: kabo | 2010年05月15日 16:45