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デミテルは今日もダメだった【64】

なんだこれ……

なーんか空がグルングルン回ってる……

痛い……腹が痛い…焼けるように……ただれるように……

耳が遠い……音が遠い……


第六十四復讐教訓「首を締めたい程大事な人を作れ」


少年デミテルは大の字で倒れていた。霞んだ目で空を見つめ、右手で血が滴る腹を抑えて、弱々しく息をしていた。

そんな少年の脇腹に、黒髪の男の蹴りがめり込んだ。少年は、頭が真っ白になっている少女の元へ飛び込んだ。リアは尻餅をつきながら、デミテルを抱えた。

男は、悪態をつきながら、リアの方に近づいていった。

「邪魔すんじゃねーよ。俺が人質にしたいのは幼女の方だぁあっ!!」

そう叫んで、男はリアに向かって手を突き出した。が、吹っ飛んで来た金髪男の体を顔面に受けて、二人ともども倒れ込んだ。

「いてて!兄者なにして…」
「ヤバイ。逃げるぞバカ弟。」
「は?」
「殺されるぜオイ。」

弟は、兄が飛んできた方を覗いた。

ランブレイが、氷のように冷たく、そして針のように鋭い殺意が満ちた目で、兄弟を見つめていた。弟は息を飲み、急いで逃げようとした。だが、足が竦み上がり、動かない。まるでバジリスクに睨まれたように固まってしまっていた。

ランブレイは悠然と歩みを進めてくる。一方で、リアは朦朧とした目をするデミテルを抱えながら、かたまっていた。


……やだ

やだ……やだ………

やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ
やだやだやだや「ぅさま…」

「お嬢様……」

かすれた声がした。同時に、声の主がリアの手を強く握った。次に、もっと強い声で

「大丈夫ですから。」と言った。リアはまだ気が動転していたが、やがて落ち着いてきた。

「デ……デミテルさん…?」
「死ぬかと思いました……」
「なんで……」
「……実は」

「心配性な友人がお守りをくれまして。」

そう言ってデミテルは、懐から何か白く長い物を取り出した。縦に亀裂の入った一体の人形。

リバースドールだった。人形はその姿をリアに見せてすぐに、デミテルの手の上で粉々に砕け散った。デミテルはフゥっと息をついた。

「さっきのマジックミストもその友達の女の子がくれたんですよね。勝手に持ち出したのばれてその子、鬼の形相のシスターに追い掛けられてたけど…」

「助かった」と最後に言いかけたところで、デミテルの息が詰まった。リアがデミテルの首根っこにしがみつき、少年の息の根を止めようとしていた。泣きそうに鳴咽を吐きながら。デミテルは酸素不足でひどく苦しかった。

「……。」
「あっ?!顔が青ざめてる!?やっぱりどこか痛むの!?」
「………いや……そういうんじゃないんだけど………あ、そうだ師匠……」

ランブレイに自分が生きてる事を伝えなければと、デミテルはリアの手を振りほどいて、後ろを振り向いた。

『天光満つるところに我はあり』
えっ?

『黄泉の門開くところに汝あり』
ちょっ…師しょ

『いでよ神の雷…』

デミテルが背後を振り向いた時、空は暗転して、青かった空は暗黒の雲に満ちていた。金髪と黒髪の兄弟は道に力無く座り込み、ランブレイを見上げていた。
デミテルからは、ランブレイの背中しか見えなかった。表情こそ見えないが、全身から溢れ出す青い光が、とてつもないプレッシャーを放っていた。光はやがてバチバチと電気を帯び始めた。

一体全体、ランブレイがどんな魔術を発動しようとしているかなど、デミテルはまったくわからなかったが、少なくともこの狭い路地裏で使っていけないものだということくらいは理解出来た。

「インディグ」
「待てやコラァア!!」
「ョブフ!」

雷を纏う手を振り上げて、兄弟達に向けて振り下ろそうとしたランブレイの後頭部に、デミテルはおもくそ膝蹴りをぶちかました。途端、空の雲はどこかに引いていき、日がさした。
ランブレイは涙目になりながらデミテルの胸倉を掴んだ。

「何をする!?自分の師匠に向かって!?」
「あんたが何しようとしてんだぁ!?いくら娘がナイフで狙われたからって、あんなどでかいもの使ったら娘もあんたも消し飛ぶだろうが!?周りをよく見ろ!」
「よく見ろって……」

と言いかけて、ランブレイは目を見開いた。やっと落ち着いたかと安堵した矢先、またしてもデミテルの息が詰まった。今度少年の首をしめたのは、ランブレイだった。

「うご…」
「……よかった」
「え゛?」
「よかった……無事だったんだな……」
「………。」

耳元で、ランブレイは小さく、息を切らすように呟いた。それを聞いてデミテルはあることに感づいたが、それはなんだか妙なものだった。


……てっきり、娘を人質にされそうになったから怒ったんだと思ったのに

この人は僕が殺されたかと思ったから………怒ったっていうのか?そんなの……

「もういい。結構だ。」

落ち着き払った声がした。デミテルはランブレイの頭越しから、声の主を見た。いくつかはわからないが、若い男が、座り込んだ兄弟達の後ろに立っていた。とても若いのに、凜とした聡明そうな顔付きで、大人びた雰囲気を出していた。腰にささった剣に手を置き、トントンと指で叩いていた。ランブレイは、めんどくさそうに男を見た。

「やぁライゼンくん。」
「スカーレットさん。貴方が吹き飛ばした会議室の修理代は、請求してもいいの
でしょうかな。」
「それは困るな。妻に八つ裂きにされてしまう。」
「ふっ…」

ライゼンは突然、足元で自分を見上げていた金髪男の頭を足蹴にし踏み付けた。金髪男は悲鳴を上げた。

「使えない奴らだ……表立って動けないから、こんなゴミどもを使ったというのに……本来なら、国家反逆罪で貴方を大量の兵で捕まえればよかった。だが、たかが一人にそんなことをすれば他の国に怪しまれる。」

「だからといって、貴方相手に少数の兵ではどうにもならないことぐらい、私はわかっている。私は馬鹿じゃない。こいつらのような。」
「やめて!」

金髪男の顔面を蹴り上げたのを見て、リアが悲鳴を上げた。

「やめて?何故かな?どのみちこいつらは打ち首だ。余罪が腐り果てるぐらいあるんだ。」
「な!?テメェ牢屋で、俺と兄者を無罪にするって……」
「私に話し掛けるな。国の害虫が。」

ライゼンは平然と言い放った。黒髪男はライゼンに殴り掛かったが、腕を掴まれ、そのまま締め上げてしまった。

「成功したら、無罪にはしてやった。もっとも、無罪になったら別の沢山の罪の中から選んで有罪にしたがな。今となっては一緒だろう。」
「なんだと……」
「我がミッドガルズ国に蔓延する害虫をどう扱おうが、私の自由だ。」

「貴様ら国のゴミの命に、何の価値もありはしないんだよ。その命に少しばかり仕事を与えてやったんだ。感謝しろ。」

そこまでだった。何かがライゼンの顔面にかっ飛んでいって、その憎たらしい顔を弾き飛ばした。ライゼンは後頭部を地面に叩きつけたが、一本の腕がその頭を、問答無用でまた地面に叩きつけた。

「最低だ。」

デミテルは小さく呟いた。次に叫んだ。

「お前は最低だ!!」
「この国の副騎士団長である私を殴り飛ばした君よりは、私は最低ではないと思うが。」

かわいそうな物を見る目でそう言うと、ライゼンはデミテルの腹を蹴り飛ばした。立ち上がると、服をパッパッと払いながら言った。デミテルは腹を抑えながら尻餅をついたが、その目はライゼンを睨み続けていた。

「本来ならスカーレットさん。貴方がこちらに戻らないなら、せめて貴方から資料を奪いあげたいところだ。素直に渡しはしないだろう。だが、私一人では貴方には勝てないし…どうしたものか。」
「当たり前だ!!お前みたいな卑怯者にやるものなんて…」
「落ち着きなさいデミテル。」

ランブレイは激昂するデミテルの頭をポンと叩くと、次にリアの手から、デミテルが渡した資料を手に取った。そして、ライゼンに向かってポイッと投げた。

デミテルもびっくりしたが、一番驚いたのはライゼンだ。

「…どういうつもりで?」
「どう、というつもりも無いさ。ただ取引のネタがこちらにそれしかなかった。仕方が無い。」
「取引?資料の代わりに何が欲しいというんですか?」
「そこの二人の命だ。」

ランブレイは何食わぬ顔で言った。ライゼンはしばしポカンと口を開けて、やがて探るように尋ねた。

「貴方は……貴方は、我々の研究が、最終的に我々自身の命を縮めるものになる、そう書き置きしてこの国から去っていった……なのに、この二人の命の為に……?」
「私が資料を渡そうが渡さまいが、いずれアレは完成する。資料を渡さなかったからといって、せいぜい数十年完成が遅れるだけ。結果は一緒だ。なぁライゼン。もう一度だけ言おう。」

「魔科学は、悲しみと死しか生まない。いずれ君が、そのことを身を持って知ることになるであろうことを、私は予言しよう。さあ、足をどけたまえ。」

――――――――――。


「………師匠?どうして渡したんですか?」
「その質問には、ライゼン君にもう答えた。君も聞いていただろ?」
「でも…でも………」
「ごちゃごちゃと理屈を唱えろと言われても、私は何も言えないよ。だがね、誰かを本能的に助けたいと思ったら、本能に従った方がいい。従わないと、あとあと気分が悪いものだよ。」

それほど人も多くない住宅街を、ランブレイ達は歩いていた。デミテルはリアをおぶっていた。どうやらどっと疲れがきたらしく、デミテルの耳元で寝息をたてていた。「そんなことより」

「私のカバンに入っていた『愛娘・リアの観察日記』はどこにいった?」
「そこの馬鹿兄弟が食べました。」
「真顔で嘘つくなよ王子様。おら。」

ランブレイ達について歩いていた金髪男は、はっきり言って『魔科学の資料』よりも分厚い『リア=スカーレットの資料』をランブレイに投げた。

「…デミテル。」
「はい?」
「リアには言わないでね。」
「言ったら家庭崩壊の危機な気がするので言いません。」
「ありがとう。あと、」
「言ったら離婚の危機な気がするので奥様にも言いません。」
「お前はやはり自慢の弟子だな。もう近所に言い触らしてもいいぞ。自分がランブレイの自慢の弟子だと。」
「こんなんでそう思われても全然自慢にならない気がするんで言いません。」
「おい。いくぜ馬鹿弟。」

他愛のないやり取りを眺めていた金髪男は、デミテル達に背を向けた。デミテルは、ライゼンに踏まれて土がかかった頭をボリボリとかく男の背中を見つめた。視線に気がついたのか、男はデミテル達に首を振り向かせた。そして意地悪く笑った。

「まったくどうかしてるぜ。俺達の命助けたオッサンと…」

「父親に俺達踏むのはやめさせた、その眠れるお姫様も。」

スヤスヤ眠るリアを、男はニヤリとした顔で見たあと、次にデミテルに視線を移した。

「せいぜい、そのお人よしなお姫様、守ってあげなよ。王子様。君はそのオッサンよりは現実的みたいだからね。」
「一つ聞いていいか金髪頭。」

デミテルは、荒い口調で男に尋ねた。決して、自分と、そしてリアを殺そうとしたことを許したわけではない。だが、聞きたいことがあった。

「あんた、一体どこまでが嘘なんだ?リアお嬢様が見た通り、そんな悪い奴じゃないのか?それとも……」
「どこまでが嘘か、なんて」

金髪頭は、ケラケラ笑いながら懐から嗅ぎ煙草を出し、嗅いだ。そして、目を細めて言った。

「オジサンもわからねーよ。なんせ、生きる為に嘘吐きすぎて、何が本音なのか嘘なのか、わかんなくなっちまった。言ってたろ?余罪が腐る程あるってよ。」

「腐った道を、腐った俺達が、腐った嘘ついて歩いてきた。世の中、そんな奴ばっかりさ。馬鹿正直な奴なんざわずかなもんだ。大事な物護る為に糞正直に体張る奴なんて、いるもんか。と思ってたが、案外近場にいるもんだな。なぁ王子様。」

金髪頭はデミテル達に背を向けて、歩き出した。

「…テメェは俺達みたいに腐るなよ。クソガキ。綺麗なままでいろや。」

「『悪人』なんて、死んでもなんなよ。『王子様』のままでいろや。じゃな。」

右手をサッと上げながら、金髪男は、黒髪男を引き連れて、騒がしい街の中へ消えた。デミテルはしばらく消えていく背中を見ていた。

やがて、「デミテル。」と呼び掛ける声が聞こえた。

「世の中、悪人は吐き捨てる程いるがね、みんながみんな、望んでそうなるわけじゃない。」
「………。」
「生まれ出た世界が最初から腐っていたら、腐って生きていくしか、生きる術がなかった。そういう者達はたくさんいる。リアが言ったから、というわけではないが」

「あの男は、『助けるに値する悪人』だったと、私は思うよ。『助けるに値する人間』に善人も悪人も無いと、信じたいものだ、私は。」
「………。」

腐った世界に生まれて、腐って生きる……

僕だって……ランブレイ師匠に出会わなかったら……もしかしたら……

……これからもずっと腐らずに、僕は生きていけるのだろうか?


「うわぁああんっ!!」
「あぶっふ!?」

すっかりシリアスモードだったデミテルの後頭部が爆発した。リアがヘッドバットでもかまして来たのかと思い振り向くと、リアの髪が真っ黒になっていた。違った。髪の黒い別の子になっていた。白いエプロンをした女の子に。

「……えーと。ああそっか。名前聞いてなかっ」
「お兄ちゃん生きてたァアアア!!よがっ、よかっだぁああぁ!!」

少女は、全力で泣き喚きながらデミテルの首根っこをしめあげて、息の根を止めにかかった。デミテルは真っ青になりながら腕を叩いて離すよう促したが、逆効果となった。果てしなく心配症な少女は、叩いて来たデミテルの手に血がついていたのを見つけてしまった。

「アババババ。」
「落ち着いて!?大丈夫だから!君がくれたリバースドールで無傷…」
「早く横になってぇええ!!包帯ィイ!!包帯持ってきてよかったああ!!全身巻き巻きしなくちゃあああ!?」
「なんで全身なん…」

言い訳している暇もなく、全身余すところなく包帯を巻かれていくのを(鼻も口も完全密封)眺めながら、ランブレイは言った。少女がデミテルに向かって走ってくるのに気付いて、さりげなく取り上げたリアを抱えて。

「じゃあデミテル。私は君とリアが買ったお土産が置いてあるという教会兼、孤児院に先に行ってくるから、君はその子に治療されてなさい。」
「んー!!(いやふざけんなやぁあ!?あんた俺が無傷だって知ってんだろ?!)」
「大丈夫だデミテル。」

ランブレイは、デミテルから見て、最高に腹ただしいニヤニヤ顔をしながら、楽しそうに言った。

「君の幸せを奪ったりはしないよ。」
「(何を勘違いしとるんだコイツぁあああ!?ぶち殺すぞこの……)」


「親バカ親父がァアアア!!?ミッドガルズ湾に沈むコラァア!?」と叫んだところで、大人のデミテルは元気に目を覚ました。

が、目を開いた瞬間デミテルは目を見張った。見知らぬ女性の柔らかそうなくちびるが、目前に迫り来るのが見えたからだ。

デミテルは何の躊躇も無くハーピィの顔面に鉄拳を叩き込み、次に何の躊躇も無く顔面を蹴り飛ばし、最終的に108発の連続蹴りで踏みまくって、ようやく彼は落ち着いた。

――――――――。

「もぅ……デミテル様ったら……」
「………。」
「照れ屋さんなのですね……そんなに恥ずかしがらずとも……」
「………。」
「このハーピィ族のユーナめに再び逢瀬叶った事を素直に喜……」
「で、この鶏より頭が悪そうなハーピィはどこのバカよ。」

デミテルの肩の上で、ジャミルは死ぬ程欝陶しそうな目でハーピィを見ながら言った。デミテルも死ぬ程めんどくさそうに答えた。

「私がまだ孤島にいた時、情報収集などを頼んでいた、ローンヴァレイのハーピィだ……クレスどもの情報を調べてもらったこともある。何で貴様がこんなところにいるんだ。そして何で私にヘッドバットをかまして戦闘不能にしおったんだ。おかげでめんどくさい夢を見たわ…まったく…」

頭に包帯をぐるぐると巻いたデミテルは、顔をしかめながら尋ねた。
ハーピィ族のユーナは、顔を赤らめモジモジしながら、上目使いで、恥ずかしそうに答えた。

「あ…」
「あ?」
「愛が止まらなかったのです…」「ねぇコイツ焼いて食えばいいんじゃない?あ
たしより鳥肉の体積多いわよ。」

ジャミルは真顔で提案した。デミテルも是非ともその提案に乗りたかったが、聞きたいことは他にもある。

「もう一度聞くが、何でここにいる。貴様は私の旅についてこようとしていたが、貴様の一族はローンヴァレイから出る事は禁じられていただろう?」
「………デミテル様。あなたは知らないのですね?」
「何がだ?」
「愛を縛る鎖など、この世にありはしないということを!!」
「………。」

次は、イラプションで丸焼きにしてやろうかとデミテルは思ったが、そんなデミテルを無視してユーナは語り始める。

「思えば、貴方の事を知ったのは幼少の事。私の母がローンヴァレイで、迷子の女の子を捜す子供の三人組がいたと。黒髪の男の子とピンクの髪の女の子、そして麗しい青と赤の髪をした美少年が!!」
「結局貴様の母親は黒髪の、ストーカー男の子を食ったがな。その日の深夜に全裸で帰ってきたからな。その黒髪の男の子。『男になってきたよ…デミ兄ちゃん……』とかわけわからんこと呟いてたからなそいつ。」
「その日から、私と貴方が出会うことは運命であり、さだめであったのです!!」

その後、ユーナはデミテルとの出会いについて劇的に語り始めたが、デミテルとジャミルはガン無視しながら相談を始めた。

「まったく。私は何をしようとしてたんだっけ。」
「砂漠に戻って、デカブツ達が待ってるオアシスに戻るんでしょ。」
「そういえばそうだった。大学の授業に慣れるのに大変で忘れていたな。」
「それアンタの話じゃないだろ!?」

「オアシス?オアシスには誰もおりませんでしたけど。」

ユーナの一言で、デミテル達は視線を上げた。ユーナが色々説明に困るポーズをしていたのを無視し(おそらくジェスチャーを駆使して説明していたと思われる)、デミテルは尋ねた。

「お前、オアシスに寄ったのか?」
「全てのオアシスに寄りました。ですが、どのオアシスも人影一つありませんでした。」
「最後に寄ったオアシスにいたのは何時だ?」
「三時間程前でございます。」
「な…あいつら私の書き置きを見なかったのか?」

デミテルは呟いたが、その考えはすぐに否定した。書き置きを見なかったとしても、何故私が来るまで待たない?

「…まあ、リミィはリリス=エルロンがいるから、まず問題無いだろうし、フトソンは……」
「あいつだって、腕っ節は立つじゃない。バカだけど。」
「フトソンって、デミテル様の旅に同行していた方ですよね。」

「その方でしたら、ミッドガルズ兵に職質にあって、連行されてましたが。」
「…………。」


また捕まったのかあの白饅頭はぁああ!?


―――――。

「君さぁ。」
「はい。」
「普通に考えてみようか。あの砂漠のど真ん中で、そんな分厚い着ぐるみ着てたら、死ぬ程怪しいよね?露出狂だろ?その着ぐるみの下は真っ裸なんだろ?常識的に考えて。」
「普通に考えればわかるかもしれないんですが、砂漠の真ん中で何が楽しくて露出狂をするんだな?どう考えても効率が悪いと思うんだな。もう少し人口密度の濃い場所で露出した方が愉快だと思うんだな露出狂は。」

真っ白な着ぐるみを着て、頭にくるくるとした毛が一本生えた生き物が、馬に乗った兵士に、縄に繋がれて歩かされていた。

ビッグフット族の若者、フトソン(仮名)は腹をさすりながら呻いていた。いつもの彼なら、兵士を馬ごと投げ飛ばして逃亡することもできただろう。だが、空腹の彼にそんなTPは残っていなかった。兵士はフトソンの顔も見ずに言った。

「露出狂の考えなんて、露出狂じゃない俺にわかるわけないだろ。常識的に考えて。」
「露出狂の考えてることもわからないで露出狂を捕まえるなんて浅はかにも程があるんだな!!」
「何だと!?じゃあ俺にお前と同じ露出狂になれというのか?!」
「その通りなんだな!!露出狂になる覚悟も無い奴が露出狂を捕まえようなどとは言語道断なんだな!!さぁ脱げ!脱ぐんだな!!その時初めて僕を捕まえる権利が発生するんだな!!」
「つまり!お前は露出狂なのだな!?」
「その通りなんだな!!って、あれ?」
「はい、じゃ、ミッドガルズの監獄へレッツゴー。」
「うわあああ!?デミテルさーん!?リミィー!?リリスさーん!?非常食ー!?」


――――。

「あれぇ?」
「どうしたのリミィちゃん?」
「今ねぇ、誰かがリミィの事呼んだような気がしたのぉ。」
「私は何も聞こえなかったけど……」
「きっとデミテル様だぁ!リミィに会えなくて寂しいから呼んだんだよぉ!!」
「ふふっ。そうかもね。さて……」

「ここ、どこなんだろ?」

体をふわふわと浮かした、水色の長い髪をした小さい幼女と、ブロンドの長い髪に、かわいらしいエプロンをした少女が、

断崖絶壁の岩肌にどういうわけかひっついていた。足元は真っ白い雲海が広がり、上には果てしない空に太陽が燦然と輝いていた。

リリス=エルロンは、ポリポリと頬を掻きながら、ウーンと唸った。

「…私達、確か兵隊達から逃げてて、途中でおっきな岩場を見つけたから隠れたんだよね?」
「うん!でも、隠れちゃったら、そのまま寝ちゃってぇ……」
「目が覚めたら、エプロンが岩壁に引っ掛かった状態で……もしかして、あの時
の岩場が浮いてるってこと……?」
「すごぉい!!生きてるみたいだねぇ!!」
「生きてる………」


まるで……飛行竜……


リミィ達が岩肌で様々な憶測をしていた頃。その遥か頭上の上で、二匹の生き物
の声がしていた。

「しかしまぁ、これだけデカイモンスターがいやがるとはな。」

その男は、全身が真っ赤な肌をしていた。筋肉隆々な腕を四本生やし、足はまるでナメクジのようだ。黒々とした目に、赤い瞳が浮かぶ、異形の生き物だった。そんな生き物が、空飛ぶ巨大な岩塊の上で、金色の龍と話をしていた。龍は、かしこまった口調で返した。

「はい。ですが、知能はまるでありません。」
「この岩はカモフラージュで、この中に本体があるわけか。」
「はい。」

「仮に、地上戦で、弟が率いる陸軍部隊が敗れたとしても」

「我が空戦部隊が、奴ら人間を殲滅するでしょう。私としましては、最初から我らにお任せ下されば…」
「俺も思うが、ダオスサマはあくまで最初は地上戦でやりたいそうだ……何か考えがあるんだろ。」「ジェストーナ様。」
「なんだ。」

龍は、少しばかり間を開けて、やがて感慨深そうに言った。

「ついに……ついに我らモンスターが、人間どもに復讐を……」

「私の妹の皮、爪、血、目玉、牙を剥ぎ取り、売り物にしたあいつらを……」
「ああ、そうだ。イシュラント。」

ジェストーナは、ニヤリと笑った。そのジェストーナ達が乗る岩塊の後方を、これまた同じくらいの巨大さを持つ岩塊が雲の中から現れ、その周りを無数のモンスター達が飛び回っていた。

「俺サマ…達の時代が来るんだよ。ついにな。」

つづく

おもうがままにあとがき

kaboさん
GIF動画ありがとうございました!!デミテルが動画として動いてる二次創作作品は、多分これが世界初ではないかと思います(笑)
テイルズさん
目指せ30位!!目指せグッズ化!目指せファンダム進出!!うん!!無理だ!!!

あ…でも、ファンダムだったらさ、アーチェがクレス達に、アーチェとリアとデミテルの思い出話を語るみたいなのがあってもいいのではないか、と思ったりします。バンナムさーんどうですかー!?

それではさよなら!!

コメント

え~…はじめまして。
連載(?)が始まった頃からずっと読ませて頂いてます。(全くカキコしていませんでしたが)
一時期途切れがちでしたが、無事復活して頂いてとても嬉しいです。
ファンダム進出目指して頑張ってくださいね。
………署名活動でもしてみたり?(笑)

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