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デミテルは今日もダメだった【74】

第七十四復讐教訓「友達は いいもんだ」


 アーガス・A・マッキンタイアの家は、アルヴァニスタ王国と、フレイランドへ向かう港の、中間辺りにあった。林業が盛んで、森の木を切り倒し、アルヴアニスタやミッドガルズに売っていた。その質のいい木が、家作りに使われることもあれば、王族向けの、高級家具に使われることもあった。

 アーガスの父親はエルフだった。エルフであった彼にとって、必要以上に木を切って売るという行為は、心地良いものではなかったろう。しかし偶然、森の中で風景画を描く、この町の女性を愛してしまった彼は、その仕事をやる事を拒否しなかった。彼は精力的に働いた。

 けれども、町の住人は彼を認めている訳ではなかった。自然は売り物である彼らと、自然と共に生きるエルフ達とは、過去に何度か衝突があったからだ。石を投げるということはなかったものの、常に彼と、そしてその妻とは一線を引いていた。

 二人の間に生まれたアーガスは、エルフの血がすこぶる薄かった。母親譲りの黒髪はエルフの血を引いているにしては美しい印象は無く、耳は少しも尖っていなかった。若干つり目気味のその顔は、醜くはなくとも、美しいとは言えない。父親の親類からは、クォーターエルフよりもエルフの血が薄いと言われた。

 アーガスの記憶する父親との思い出はおぼろ気である。されど、顔がはっきり解るのは、三歳の時に家族三人で撮った家族写真があるからだ。細身で、白黒写真なので色は不明だが、流れるような長髪だった。母曰く、非常に美しい鳶色だったという。

 その写真を写真屋で撮った次の日が、あの日であった。エルフ達が、人間達との生活を捨てて、トレントの森に閉じ籠った日。アーガスは幼いながらも、その時の光景だけは鮮明に記憶していた。父親の元にエルフ達の迎えが来た。彼は泣き崩れる妻を強く強く抱き締めたあと、何が起きているのかよくわかっていないアーガスを抱き上げ、優しく頭を撫でた。玄関を出たところから、アーガスは母の胸の中で、去っていく父親の背中を見ていた。迎えと共に行くエルフは他にも何人かいて、その一人が非常に綺麗なピンクであった。初めて見たその髪の色が衝撃的で、その為にこの日の光景が強く記憶に刻まれたのだろうと、彼は後に思う。

 そこからが大変だった。母は女手一つでアーガスを育てなければならなかった。さらに、エルフの血を引くアーガスは町の人間に煙たがられたし、彼女自身ひどい目に沢山あった。薄情なエルフに見捨てられたバカな女と言われた。大人達の態度は子供にも伝わり、アーガスはいじめにも遭った。エルフの血を引くことを意味もなくからかわれた。閉鎖的な考えに支配された町だったのだ。

 そんな生活が二年続いた。母親が疲労困憊している事は、五才のアーガスにも十分にわかった。みるみる痩せていたし、怒りっぽくなって、物に当たり、子供にも理不尽に接した。女一人、子供を連れて引っ越す余裕もなかった。

 ある日、母親は姿を消した。一週間分の粗末な食事だけ残していった。あと、置き手紙も。『お父さんを連れて、必ず帰ってくるからね。愛してるぞ。アーくん』

 十日後、兵隊が二人、家の中に入ってきた。水と食料を与え、そして、貪るように食べるアーガスに向かって、言葉を選びながら語りかけた。


「君のお母さんは、トレントの森に無断で入り込んだ。お父さんに会うためだ。そしてなんとか再会した後、二人で森から抜け出そうとした。けれど見つかった。ハーフエルフの侵入者は例外無く死ぬことになっているけれど、人間ならその限りじゃない。君のお父さんが里に戻れば、二人の命は大丈夫だったはずなんだ。けれど…………うん。君のお父さんとお母さんは、本当に愛し合っていたんだなあ。
 エルフ達はね、殺そうとしたわけじゃないんだよ。でも、二人は無理矢理にでも逃げようとして……事故、だったんだよ」

 母親の妹の家に引き取られ、アーガスは船に乗ってハーメルヘ向かった。船縁から波を見ながら、彼はこう思った。

 エルフなんて大嫌いだ。お父さんがエルフじゃなきゃ良かったのに。だけど、僕の中にもその嫌いなエルフの血が入っている。そのせいでいじめられた。ハーフエルフだからいじめられた。エルフも、その血を持つハーフエルフも大嫌いだ。そして、ハーフエルフである自分も大嫌いだ。エルフにまつわるもの、みんな嫌いだ。嫌いだ。嫌いだ。嫌いだ――

「――だけど、僕が初めて好きになった女の子は、クォーターエルフだった!」

 ローンヴァレイ入り口付近の洞窟の中で、アーガス・A・マッキンタイアは、振り絞るように叫んだ。デミテルは未だ、自分より遥かに大きく強い少年、ブッチに岩壁へ首を抑えられていたが、息苦しさは完全に意識外に飛んでいた。もっとも、無表情のブッチも腕の力を増す事を忘れていた。アーチェも口をポカンと開けていたし、アーガスの後ろにいる金髪の小太りの少年、マークスは苦虫を噛み潰した顔だ。アーガスは今まで頑なに人に言いたくなかった事を、堰を切ったように叫び続けていたのだ。アーガスは大粒の涙をぼたぼたと落とした。

「好きになった子も、その両親も、そして友達も……みんなみんなエルフの血を引いてるなんて。そんなの、そんなの……こんなことってないじゃないか! なんなんだよ! エルフなんてものに、二度と関わりたくなかったのに! なのに、みんな、みんないい人で……」

 デミテルは、自分の前で一度だって、アーガスがそんなことを思っている様子は無かったはずだと思った。アーガスの『母親』の言葉が脳裏をよぎる。『あの子は結構、私達に思っていることを隠すのが、うまいから』

 エルフの血のせいでいじめに遭い。父親がエルフだったせいで、家からその父親は消え。母親は生活が苦しくなり、結果的に両親は死んで。自分自身にも、その全ての元凶たるエルフ族の血が入っている……。
 出来れば一生、エルフというものに関わらず生きたかった筈だ。他人にその血が入ってる事も言いたくなかった筈だ。なのに、あいつは、全てを叫んでいる。何故だ? ハーフエルフで、友達の、俺の為だ……。

「さあ! みんな言ったぞ! だから、僕は、もう、お前の下僕になるのは止めた!!」

 アーガスはくるりと振り向くと、目を真っ赤にしながらマークスに詰め寄った。「もう、この喧嘩には何の意味も無いぞ! 町で好きに言い触らすがいいさ! だから……」

 次の瞬間、マークスがアーガスを突き飛ばした。アーガスが背中を地面にぶつけて、悲鳴を挙げる。マークスは顔を真っ赤にして怒り狂った。

「てめえから! 何でも言うこと聞くから言わないでって言った癖に! 自分から約束破ってんじゃねえよ! この! キマイラめ!」

 ふとましい足を振り上げると、体重を乗せ、踵で思い切りアーガスの腹を踏みつけた。嗚咽するアーガスを無視して、連続して踏みつける。アーチェが怒り、走ってマークスを引き離そうとしたが、そのアーチェも力尽くで突き飛ばされて倒れた。少年は何度も何度も腹を踏みつける。

「勝負をやらせた! 俺が! 馬鹿みたいじゃないか! ふざけやがって! 友達の為か!? 何が友達だ! 化け物同士で馴れ合いやがって!」

 汗だくになりながらも、彼は攻撃をやめなかった。『こんな奴』に自分の思惑を邪魔されるなんて、我慢がならないのだろう。彼は喉が枯れそうになるまでわめき続けた。

「なにが、エルフなんて嫌いだ、だ! エルフの血が入ってる奴が何言ってんだ! 両親が死んだ!? だからなんだってんだよ! 異種族同士で結婚する奴らなんてのは、頭のおかしい連中なんだって父さんは言ってたぜ! そんな連中が親で、死んだってんなら、俺だったら嬉しくて小踊りするぜ! 差別される存在に生まれることが判ってて、子供作るクソ親なんて、死んで良かったじゃねえかあっ!!」

 最後の言葉を言い放った、その時。マークスの鼓膜を、凄まじい悲鳴が貫いた。その声はアーガスの声でも、アーチェの声でもなかった。ブッチが、顔面蒼白になりながら地面に倒れ込み、右腕を左手で抑えながら、土の上を転がり回っていた。マークスは足の動きを止めて、呆気にとられた。ブッチは泣きながら叫んだ。

「熱い!! 熱いっ!!」

 マークスはブッチが抑える右腕の、手の平を見た。皮がベロリとめくれて、グジュグジュに焼けていた。まるで、真っ赤になるまで熱せられた鉄の棒を思い切り掴んだような、酷い火傷だった。マークスは顔を上げた。視線の先にいるのは、先刻までブッチに首を掴まれていた人物。

 デミテルが、凄まじい形相でこちらを睨み付けていた。青い瞳の瞳孔が開き切り、怒りに満ち満ちている。息が荒い。両手を、手の平に爪が食い込むまで握り締めている。全身がガクガク震えていた。その体から、蒼い、光の粒子が漏れている。
 洞窟内はデミテルの怒気に満ち溢れていた。その場にいる全員が、息をすることが苦しくて仕方無かった。

「お前は」

 デミテルがそう呟いた瞬間、マークスは震え上がった。ブッチは地面に倒れたまま、デミテルの事を震えながら見ていた。アーチェは地面に座り込み、デミテルから溢れている蒼い光を見つめていた。そして、小さく呟いた。「魔力が漏れてるんだ……それに触れて火傷したんだ……」

「お前は、知ってるのか」

 デミテルの声はとても低く、重々しかった。マークスは恐ろしさで過呼吸になった。

「自分の、親が、死ぬってことが。どんな気持ちになるのか。親を失って、生きるってことが、どんな気持ちなのか」

 デミテルの周囲に、バチバチと蒼い閃光が走った。マークスは悲鳴を挙げ、怒れるハーフエルフに背中を向けて、洞窟の奥に走って逃げ出した。恐怖でわけのわからない事を叫んでいる。デミテルは歯を剥き出しにして、叫んだ。

「どんな気持ちなのか!! 知ってて言ったのか!! このクソ野郎!!」

 何かの破裂音がして、空気が震えた。マークスが走りながら背後を振り向いた。自分の体と同じ大きさの、蒼い稲妻が自分に向かって飛んでくる。刹那、足元が爆発して、地面が吹き飛んだ。マークスは岩壁に凄まじい勢いで叩き付けられた。ズルズルと壁を伝って、地面に尻を着いた。

 煙が洞窟内に充満した。アーチェの咳き込む声が響く。やがて煙が晴れる。意識を混濁させながら、マークスは自分が吹っ飛んだポイントを見た。

 地面に、大人一人が余裕で入れるくらいの裂け目が出来ていた。もし、あれが直撃していたなら、マークスの身体は爆発し、四散していただろう。その事に気付いた瞬間、マークスは白目を向いて気絶した。デミテルはしばらく視点の定まらない目で虚空を見つめていたが、やがて、我に帰って周囲を見渡した。

「あれ。なんだっけ。なにしてたんだっ……」

 視界に、気絶したマークスが見えた。ズボンが濡れている。頭から飛んでいた怒りが、またぶり返ってきた。

「そうだあのクソッタレポーク野郎!! 何寝とんだコラァ!! ここからが本当の地獄だ!! 今死ねすぐ死ね骨まで砕けろ……」
「待って!」

 大股でドシドシ進むデミテルの前に、ブッチが両手を挙げて立ちはだかった。右手の火傷が痛々しく赤に染まっていた。

「もう……気を失ってる…から。許して、下さい。ごめん、なさい」

 たどたどしい口調でそう言うと、その大きな体を曲げて、少年は頭を下げた。デミテルは、唇をギュッとしめる。

「多分、もう、なにもしないと、思う。彼は、ビビリ、だから」
「……どうしてそこまで」
「友達だから」

 少年は顔を上げた。無表情だった顔は、眉間に皺が寄って、必死さが伝わった。

「家が近かっただけ、だけど、僕が強いから、近付いたんだろう、けど、僕の事、友達と思ってないだろう、けど、でも……もう、許して、やって、ください」

 頭に上った血が、引いていくのをデミテルは感じた。この少年は、他に友達がいないのだろうと感じた。図体のデカさと、異常な喧嘩の強さで、基本無口。みんな怖がって近付かないのだろう。そうでなければ、こんないい子が、あんな性悪野郎と一緒にいるわけがない。

「僕もお願いだよ、デミ兄ちゃん」アーガスが、腹を抑えながら、デミテルに歩み寄った。

「あんな目に遭ったら、もうなにもしてこないさ」
「……いいのか。あんな蹴られて、あんな、あんな事言われて……」
「……うん」

 アーガスは、涎を垂らして気絶しているマークスを見つめた。

「腹立つよ。でも、それ以上に」

その目には、憐れみが満ちていた。「可哀そうだと思ったんだ。あいつも、親に振り回された、可哀想な奴だって……思っちゃうんだ」

 デミテルは、ボリボリと頭を掻いた。やれやれと、肩をすくめる。

「言われたお前が言うなら、何も言わないよ……ところで、この、穴はなんだ。なんでアイツ気絶したんだ」
「え!? それはデミ兄ちゃんが」
「俺が何したんだよ。なんか怒鳴ったことしか覚えてな……」
「おらあー!」

 煙の中から、ピンクの物体が飛び出してきて、マークスに覆い被さった。アーチェは、怒りの鉄拳でマークスの顔をぼこぼこに殴り始めた。

「よくも酷いことやってくれたわね!? アーガスが許してもアタシが許さんんんんん!!」
「ア、アーチェちゃん! やめて! 許してあげたくだりが台無」
「デミテルさん邪魔ぁ!!」
「ぶほお」

 止めに入ったデミテルの腹に、怒りで我を忘れたアーチェのボディブローがめり込んだ。ブッチとの喧嘩のダメージが残っていたデミテルは引っくり返って、白目を剥いて気絶した。マークスがうわ言を呟くのが遠くで聞こえた気がした。

「化け物……、ま、魔王………」


 ほとんど日が暮れていた。アーガス達は、ローンヴァレイのある島からハーメルに渡れる大きな石の橋の上を歩いている。デミテルは、アーガスにヨタヨタとおぶられている。その手には、写真が握られている。アーチェは、しきりにデミテルに謝っていた。

「ごめんねデミテルさん。あたし、怒って周り見えなくて……」
「いいんですよ。怒ってあたりまえなんですから」

 青ざめた顔で、力無く笑う。なおブッチは、マークスを背負って先に帰っていった。マークスは、本当にこれからはアーガスに関わらないだろうかと、デミテルは不安だった。まあ、いざとなったら、びびってしょんべん漏らしたことを言い触らしてやろうと思った
 デミテルはひどく疲れていた。だが、リンゴの万引きの件で店の人に説明しないといけないし、マッキンタイア家に今回の事を説明しなければいけない。めまいがした。

「にしても! あたしびっくりしちゃった! まさかデミテルさんがあんな魔術ぶっぱなしちゃうんだもんねえ」
「ぜぇんぜん、覚えてないんですけどね」
「ほんと恐ろしかったよ。マークスの奴、デミ兄ちゃんの事を人殺しとか魔王とかぶつぶつ言ってたよ。実際それくらい凄かった」
「うわ言まで失礼な奴だな……まあ実際、師匠に会わなかったなら、そういう路線で生きかねなかったしな……」

 かつて、生きることにうんざりしていたあの頃。あの出会いがなければ、やる事になった悪事は、食い逃げだけにとどまらなかっただろう。あの豚が自分に言った悪い言葉は、半分は当たっている、とデミテルは思った。アーガスがクスクスと笑った。

「ま、デミ兄ちゃんが魔王になったら僕が止めて世界救うから安心しなよ」
「ほう。悪落ちした友達を救う勇者になる気か。お前が勇者じゃ百年掛けても世界救うとか無理だな。俺に世界征服されてバッドエンドだな」
「じゃあ百年以上頑張るさ。僕も長生きだからね。だって、ハーフエルフだから!」

 くだらない会話だった。だが、エルフの血を引いている事を、アーガスがジョークに使った事が、デミテルは少し嬉しくて、必要以上に笑った。アーチェも笑った。夕暮れの中で、橋の上で笑い声が響く。笑い声の中で、アーガスが小さく言った。

「ありがとう、デミテル兄ちゃん」

 デミテルは、目をぱちくりさせた。やがて、照れくさそうにフンと鼻を鳴らした。と、その時。アーチェがびっくりした顔で叫んだ。

「あー! そういえば! あたしのクッキー返しなさいよ! よくもあたしの部屋に不法侵入したわね! いくら事情があったって女の子の部屋に……」
「いだだ! 違うよアーチェ! あれは僕のだ! 僕もリアちゃんから貰っただろ! ちゃんと君の部屋にあるよ!」
「お、おいアーガス! 揺らすな! 頭がぐわんぐわんするだろ……」

 三人がしっちゃかめっちゃかしているところに、ハーメルの方から怒りの叫びが聞こえてきた。三人はピタリと動きを止めた。叫びの内容は、こうである。

「デミテルぅう!! お前はリアを木の上に残したままどこに行っとるんだぁああ!? ボケコラカスゥウ!?」

 デミテルは顔が真っ青になった。遥か彼方から、怒りのランブレイ・スカーレットが、マッハの中年と化して駆けてくる。その形相は、全年齢ゲームで表現してはいけない凄まじさであった。

「ヤバイ! 完全に忘れてた!?」
「どういうこと!? リアちゃんがなんだって!?」
「アーガス逃げろお! 魔王が来る! 死ぬぞ!?」
「ぼ、僕は関係ないじゃな……」
「お前俺の友達だろうが!? 俺の為に体張れ! 死ぬ気で走れ! もしくは身を呈して守って死んでくれ!」
「そんな友達願い下げだよ!?」

 デミテルはアーガスの髪を引っ張り、アーガスは背中のデミテルを振り落とそうとした。ギャーギャー言い争っている二人に向かって、ランブレイの叫びがまた襲った。アーチェは危険を察知して、全速力で二人から離れていった。叫びの内容はこうである。

「天光満つるところに我は在りいいい!!」
「完全に殺す気だぁあ!? 早くにげろこのストーカークソガキ……」
「なんだとお!?この序盤と中盤の間ですぐ死にそうなボスみたいな顔……」

 次の瞬間、南東で、蒼い閃光と共に凄まじい爆発が起きたのを、リアはハーメルの町の入り口から眺めていた。二人の少年の断末魔の悲鳴が、辺りに響いている。リアはにっこり笑った。

「一緒に帰ってきたってことは、仲直りできたみたい! よかったー……あれ? なにかが二つほどこっちに飛んでくる……」


……………………。

 ぐっすりとベットで眠っていた大人のデミテルに、現実でも凄まじい爆発が襲った。部屋の窓が割れ、ガラスが飛び、同時に包帯だらけの体が跳ねとんで、部屋の壁に顔面を叩き付けられた。

「いったぁあ!? なんだぁいったい!?」
「デミテルさんやっと起きたんだな!?」

 部屋の中に、これまた包帯だらけの着ぐるみ男が飛び込んできた。

「フトソン!? なんだこれは!? 私は孤児院で寝てたんじゃないのか!?」
「孤児院は今の爆発で一階が吹っ飛んだんだな!! 子供はみんな教会の地下に逃げたんだな!! あんたも早く来るんだな!! 子供の誘導してたら完全にあんたの事忘れてたんだな!!」
「まてまてちょっと待って。どういう経緯で私はここに来たんだ? お前はミッドガルズ城からどうやってここに来たんだ!? 全然説明してないだろうが!! つーかもう……今の爆発は結局何だ!?」
「なんだってそりゃ……」

 また爆発音。それも、街中のあちこちで起きている。悲鳴と、火の手が上がる。フトソンは爆発音に負けないように叫んだ。

「戦争がはじまってるからに決まってるんだな!!」

 突然、風を切る音がした。デミテルの眼前を何かが横切った。見れば、部屋の壁に矢が刺さっている。そっと、割れた窓から外を見る。無数の、火の付いた矢がこっちに飛んでくる。デミテルは絶叫した。

「ああああ!? フトソオオオン!?」
「って、なにナチュラルに人を盾にしてんだな!?ちょっ、まっ……」
「貴様は私の下僕だろうが!? 私の為に体張れ! 死ぬ気で盾になれ! もしくは身を呈して守って死んでくれ!!」
「そんな下僕願い下げなんだなぁああぎゃあぁあ!?」

つづく

おもうがままにあとがき
kaboさん
>これからも、応援しています。本当に、何年かかっても、時が経っても、ずっと追いかけます。お体ご自愛下さい。

お久しぶりですkaboさん。ずっと追ってくれて、本当にありがとうございます。がんばります。デミテルさんの絵がもうチョイ増える事を願って……


テイルズ二十年。すごいなあ。ほんと、このゲームなかったら漫画描いたり小説書く人生は無かったのです。ほんとすごい。クラースさんも今年で49歳とかほんと凄い(真顔)

デミテルさんにとって、ハーメルが『故郷』、リアが『愛した人』、ランブレイ夫妻が『親』のような存在、だとしたならば、では同性の友人は? そんなことを思って、アーガスというオリキャラは出来てしまいました。良かったのか悪かったのか……。でも、色んな大事な人がいっぱいいたからこそ、デミテルさんは記憶を夢で思い出すたび、自分のやったことの重さに潰されて……うん、これからもがんばれデミテルさん。応援してるぞ(他人事)

では、またお会いしましょう。次はいつになるのだろう…。

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