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フロートの門【5】





フロートの門~一時の書~  作 クロス






栞は、新しい一人用の部屋に案内された。 そして、栞の肩に止まっている北斗・・・
一人用の部屋なので、狭いと思うだろう。 だが実際は違う・・・逆に一人では、広いと誰もが思うだろう。
これなら、二人ぐらいは一緒に使えるのではないか? と思うぐらい・・・
でも、栞は、一人でよかったと考えている。 ずっと良い子を演じているのも、すごく大変なのだ。
優等生のふりをし、そして良い人そうに見せる・・・さらに、寝る場所も一緒になると、動きづらかったりするのだから・・
さらに、動物は普通は話が出来ない。 なのに、北斗はしゃべることが出来る。
もし、その事が気づかれれば、どうなる事か・・・

「栞。 明日の用意はしたのか?」

「したよ。 忘れ物などは、ない・・・」

そう返事をして、栞はベッドの上に座った。 部屋には鍵が欠けてあるから、誰も入れないし・・・
もし、入れたとしても魔法が扉にかけられているので、入れはしない。 まぁ。 先生とかならば別だが・・・

「だったら、大丈夫だな。 なんとか、うまくやれているみたいだし・・・俺が心配することは何も無いかな?」

意地悪そうに言う北斗を、じっと見ている栞。 そして、無言のまま北斗の白色の羽を引っ張る。

「いてて・・・痛いって!!!」

ぎゃ~ぎゃ~北斗が言っているにも拘らず、栞は北斗の羽を引っ張るのであった・・・。
理由は・・・不明だ











「明日の用意は大丈夫?」

「あぁ。 大丈夫だよ」

場所は変わって、ここは襷の部屋。 襷も栞と同じように、一人部屋だった。 
運が良かったのだ・・・一人部屋は、誰になるか? と男子生徒で相談したところ、襷と和馬が名乗りあげたのだ。
この二人の、どちらにするか? と皆で考えて、勝負で決着を付けた。 
勝負とは、上級生の魔法を打ち敗れるか・・・という、高度なものだった。
ただ、その提案をしたのは和馬で・・・そして、襷も「その勝負で決める」と言ったのだ。

「にしても・・・あの和馬ってやつ、いったい何者なんだ?」

いつものニコニコ笑顔が消えて、すごく深刻な顔をする襷・・・それを心配そうに見ている飛鳥。

「襷・・・あんまり気にすることは無いわ。 今は、あの子のことを考えなくては・・・」

そう飛鳥に言われて「そうだね」と返事をする。襷・・・でも、飛鳥も気にしているのだ。 
その和馬と言う少年のことを・・・さっき会ったばかりだが、彼は蛇を従えていた。
あまり、蛇を動物として連れてくる人は少ない。 今までにも、過去に一人だけしか蛇を持ってきた人は居ない。 
なぜか、胸騒ぎを感じている飛鳥・・・この胸騒ぎが、ただの思い過ごしだといいけど・・・と思うのだった。













「さて、明日の用意も終わったし・・・寝ようかな」

「あぁ。 俺も寝るところだ」

「そう。 お休み」

ニッコリと笑って同じ部屋の友達に言う和馬。 そして、その友達も「お休み」と言って自分のベッドの中に入っていった。 
寝る場所は別々で、右側と左側がある。 和馬は、その右側なのだ。 そして、和馬も自分のベッドに向かう。

「・・・・和馬様・・・・」

そう低い誰かの声が聞こえた。 そして、和馬は何も言わずに、自分のベッドの上に腰掛ける。 
それから足を組んで、その声の人物を見る。

「なんだ? 何か用か?」

さっきまでのニッコリ笑顔は、どこかに消えて・・・そして、別人のように思える和馬。 
そして、その和馬の前に居る人物は、闇に隠れているので、どんな人物なのかは見えない・・・が、人の形をしている。
和馬が、指をパチン! と鳴らすと、透明な壁のようなものが左側に居る友達のベッドの周りに出現した。 
もうベッドで寝てしまったようで、この魔法には気がついていないようだ。 いや・・・気がつくことも不可能に近いと思う。

「で? なんだ?」

「はい。 調べたところ・・・間違えないとの事です」

「そうか・・・ふふふ。 やっぱり僕の考えに間違えは無かったな。 ここに来て正解だった」

クスクスと不気味に笑う和馬・・・昼間の和馬とは、別人だ。

「で、どうしますか?」

「今までどおりに調べろ。 ただし・・・気がつかれないようにな」

「はっ!」

黒い人の影は、そうして消えた。 そして和馬は、ピィ・・・と小さな笛を吹く。 すると、黒色の蛇が現れた。

「なんでしょうか? 和馬様・・・」

「一つ、お前に調べてもらいたいことがある」

「何を調べるのですか?」

「調べることは・・・・・・・」













「・・・・栞・・・・」

栞は、もう瞳を閉じて寝ている。 そして、栞の前には人が居る。 
一人の青年だ・・・青いサラサラの短い髪に、整った顔立ち・・・そして栞を見ている緑色の瞳・・・美少年、と言っても間違えは無いだろう。

「時が来た・・・お前は、選ばなくちゃいけない」

栞は、すやすやと寝ていて・・・きっと、この言葉は聞こえないだろう。 だが聞いて欲しいのだ・・・。

「後悔しないように・・・俺は、お前の結末を見届けるしか出来ない。
飛鳥だってそうだ・・・襷の道を間違えることが無いように、道しるべをやっている。 
でも、俺は・・・お前に何もしてやれることが無い。でも、力になるから・・・お前が望むことは、なんでもやってやる。 
だから・・・自分の番が来たならば、自分で後悔しないように選べ・・・」

悲しそうに言う青年・・・すごく寂しそうな瞳・・・

「前みたいに、絶対に・・・・」

前の過ちは・・・絶対に、繰り返させないから・・・








つづく

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