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フロートの門【8】




フロートの門~授業の書~ 作 クロス




栞は、教科書を持って授業が行なわれる場所に移動した。 廊下では、いろんな人が行き来している。
新しく友達になって、仲良く教室まで行く人や・・・教室が遠いから、急いで走って行く人も居れば・・・
中庭で楽しく勉強している人も居る。 その中で、栞は一人だった。
別に、友達と仲良くしたい・・・と言うわけではないが、なんだか、すごくつまらない感じだ。 
栞は、そんな事を思っていないのかもしれないが、周りからは、そう思われている。
少なくとも・・・この中庭に居る一人の男の先生には・・・

「彼女が・・・栞か・・・」

初めて、栞を見る男の先生・・・茶色の少しボサボサの髪に、黒色の瞳・・・先生と言っても二十歳ぐらいなので若い。
そして、栞の事を知っている人物・・・名前は、フロド・ベイリスト。 魔法使いの歴史の授業を担当している先生だ。
ただし、三年生と五年生・・・と、ちゃんと決まっているので、栞とは、めったに会わないだろう。 そして、イギリスから転入してきた人だ。

「・・・彼女の子供・・・そして、守られているのか・・・あいつに・・・」

この言葉は、栞には聞こえないが・・・ただ、小さい声で呟いただけだ。 
自分も覚えているのだ・・・過去の事を・・・新しく転生して、そして此処に居るフロド。
なぜか過去の事を全て覚えていて、栞の母親とも友達だった。 そんなフロド・・・過去に起こった事も覚えている。 
なぜ、栞の母親が人間の男と結婚したのか・・・
そして、どうして栞が此処に居るのか・・・何もかも・・・と言うわけではないが、ほとんどの事を知っている人物。

「フロド先生」

襷に呼ばれて、フロドは「なんだい?」と返事をする。 襷は、教科書を持っている・・・たぶん。 これから教室に移動するのだろう。

「栞の事・・・思い出させないで下さい」

「え?」

「あいつは、まだ必要ない・・・あの苦しみは、まだ与えなくて良い」

襷に言われた言葉を、すぐに理解できなかったが。 襷が去った後に、フロドは理解した。

「彼は・・・・いったい・・・・」

自分と、ごく限られた数人の担任しか知らないと思っていた事を、襷は知っていた。 フロドは「あれ?」と不思議に思った。

「彼を・・・どこかで見た覚えがある」

それは、遠い記憶の中・・・・・



栞は、教室の窓側の席に座っていた。 
他の人は、まだチャイムが鳴っていないから友達と、他愛もない話をしている。 
幸せそうな顔・・・楽しそうな顔・・・その顔を見ると、なぜかウズウズする。
「今すぐにでも、幸せを奪ってやりたい・・・」と、心のそこで思っているのだ。 
栞に「幸せ」と言う言葉は、もう存在しない。 ただ、心が支配しているのは・・・父親への「憎しみと恨み」だけ・・・。

「隣り、良いかな?」

声がしたので、そっちを見ると襷がいた。 襷に「どうぞ」と言うと、窓から外を眺めた。

「ありがとう。 栞・・・どうかした? なんだか浮かない顔をしているよ」

お前に何がわかるんだ? 幸せの中で生活してきたお前に・・・

「何かあったら、遠慮なく相談してね」

ニッコリと笑って、そう栞に言う襷だが、栞は黙って空を見ているだけ・・・
そして、扉が開き生徒たちは慌てて席に着く・・・そして、チャイムが鳴った。 授業の始まりだ。







つづく

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