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フロートの門【10】






フロートの門 ~授業の書3~ 作 クロス










三人は、ある一つの部屋に案内された。 先ほどの授業(と言っても、今も授業中)で特別な三人を、
そのジェルディースと言う人物に会わせるために、この部屋に来たのだ。

「ジェルディース先生。 いますか?」

栞が扉をノックして、先生が居るのかを確認する。 
だが返事がない・・・不思議に思った栞は、もう一度ノックをするが・・・やはり、返事がない。

「どうしたんだろう?」

襷が首をかしげて不思議に思う。 和馬は、黙って扉を見ているだけ・・・栞は、もう一度・・・・と、また扉をノックする。

「誰もいないみたいだね。 どこかに出かけたんじゃないのかな?」

和馬が二人にそう言う、すると・・・

「あら、貴方達・・・どうしたの?」

後ろから女性の声が聞こえてきた。 そちらを振り向くと、優しそうな雰囲気をもつ一人の女性が立っていた。 
ピンクの長い髪をピンでとめていて、オレンジ色の瞳・・・すごく美人で、手にはたくさんの紙を持っている。

「あ、あの・・・貴方が、ジェルディース先生ですか?」

襷が聞くと、女性は「そうです」と返事をする。 そして三人を見る・・・。

「立ち話もなんですから、中に入りましょう」

そう言うと、鍵が開いて勝手に扉が開く。 
これが魔法の力・・・なんとも便利な物だ。 そして、ジェルディースは中に入り、栞も襷も中に入った。 
ただ、一人だけ・・・中に入る事をためらっている人物がいた。 その人物とは、和馬。 
なぜか、ムッとしていて・・・中に入ろうとしない。
それに気がついたジェルディースは、「どうしたのかしら?」と首をかしげて、机の上に紙を置いて和馬の前に来る。

「どうしたの?」

「いえ。 なんでもありません・・・なんだか、女性の部屋に入ると言う事になれていないものですから・・・」

「あぁ・・・」と納得するジェルディース。 
そしてニッコリと笑って「気にしないで」と言って和馬を部屋の中に入れる。 そして、扉が閉じられた・・・。

「まず、名前を聞こうかしら。 それから、用件を言ってちょうだい」

ジェルディースは、一つの椅子に座り、栞たちは四人は座れるだろうと思うぐらいの大きさのソファーに座っていた。
ジェルディースの部屋は、すごく綺麗な場所で明るい部屋だった。 ただ、やる事が多いのか紙とか本とか・・・
いろんな物がたくさん机の上においてある。

「私の名前は、栞」

「僕は、襷です」

「僕は、和馬。 よろしくお願いします」

「私の事は知っているみたいだけど・・・自己紹介しておくわね。 私の名前は、ジェルディース・・・ジェルと呼んでね♪」

ジェルディースは三人にそう言った。 すると、三人はポカン・・・とジェルディースを見ていた。 
なんせ、先生に「ジェルと呼んでね♪」と言われたのだから、当たり前なのかもしれない。

「は、はぁ・・・・」

「それで、用件は?」

指をパチンと鳴らすジェルディース。 すると、フワフワと浮いて机の上に置かれたのは、ティーカップとティーポットだった。
そして、ティーポットを手に持ってティーカップに紅茶を淹れるジェルディース・・・そして、「はい」と渡される紅茶・・・。

「え、えっと・・・用件と言うのは、彰文先生に言われて・・・」

「彰文から?」

彰文と呼び捨てにしているジェルディース。 なんだか、仲がいいようだ。
そして、預かってきた手紙をジェルディースに渡す。 そして、ジェルディースは中を見て「ふむふむ・・・」と理解した様子だ。

「なるほどね・・・珍しい事もあるもんだわ。 私の出番が今年も来るとはね」

そう口で言っているわりには、なんだか嬉しそうに言うジェルディース。

「今年も?」

今年も・・・と言う言葉に反応した和馬。 今年と言う事は、去年もあったのだろうか?

「えぇ。 貴方達を入れて私の受け持っている生徒は他に5人いるわ」

この学校の中には、2人も栞たちと同じように全属性を使える人がいるらしい。 
そしてその二人のうち、一人は3年生で、もう一人は2年生らしい。

「今度から、魔法の授業になったらこの部屋に来なさい。 その時に、二人を紹介するわ」

そうジェルディースが言うと、チャイムが鳴った。 授業の終わりの合図だ。

「あら、丁度良かった。 じゃ。 また今度ね♪」

「「「はい」」」

そうして三人は、部屋から出て行った。















「ジェルディースって、やっぱり君の事だったんだね」

「そうよ。 それがどうかした?」

「別に・・・」

「なら良いじゃない。 別に問題は無いはずよ」

ジェルディースの部屋にいるのは、先ほど出て行ったばかりの襷・・・
そして、部屋の持ち主であるジェルディースだ。 なぜか、この二人は知り合いらしい。
いや・・・知り合いと言うよりも・・・姉弟と言った方がいいのかもしれない・・・。

「どこかに消えたと言われて、驚いていたけど・・・まさか、ここの先生をしているなんて思わなかった」

襷がジェルディースに言う。 そして、襷はジェルディースに近づく・・・。

「あの場所にいると、私はおかしくなるわ。 だから、ここに来たの・・・」

ジェルディースは、襷の言葉にすぐに返事をする。 襷は、ジェルディースの前に立った。

「そうなんだ・・・でも、俺にも何か一言いってから出て行ったよ。 心配したんだから」

「ごめんね。 心配させて・・・」

ジェルディースは、襷の頭に手を乗せた。 ムッとして襷は、その手を払う。

「子供扱いするなよ!!」

「ごめんなさいね。 なんせ貴方が七歳の時に、出て行ったから・・・つい・・・」

「つい」・・・で子供扱いされるなんて、むかつくだろう。 ・・・たぶん・・・

「でも、彼女でしょ?」

ジェルディースの質問に「あぁ」と答える襷。 そして、ジェルディースは「そう・・・」と、なんだか悲しく言う。
自分は選ばれなかったから・・・襷の思っていた人物になれなかったから・・・栞と言う人物が、なんだか羨ましく思える。

「じゃ。 俺・・・もう行くから」

「えぇ。 また遊びにいらっしゃいな」

「分かった。 また来るよ・・・美和」

そう言って、襷は部屋を出て行った。 ジェルディースは黙って襷の後ろを見ているだけだった。

「まだ覚えててくれたんだ・・・」

昔に捨てた名前を、彼は覚えてくれていた。 一度は忘れたはずなのに・・・昔の思い出が蘇ってくる。 
でも、もう昔には戻れない・・・姉であるジェルディースでも、もう襷の姉には完全にもどれはしない。
戻ると・・・栞をきっと、憎んでしまうから。 選ばれた彼女を・・・

「頑張ってね」

そうジェルディースは、もう居ない襷に言うのだった。















つづく

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