フロートの門【11】
フロートの門~フロートの門の話~ 作 クロス
あれから、大分時が過ぎていった。
そして今日・・・最後の授業は、学校の中を見て回る事だ。 栞は、一人で学校の中を見て回っていた。
和馬や襷は、一緒に行こうと誘われたが、断った。 「一人がいい・・・」と言って。
いちいち学校の中を見て回るのに大人数だと、自分の見たい場所が見れない可能性もあるし、
栞は一人の方が好きだから、誰とも一緒に学校の中を回らない。
他の生徒たちは、新しい友達と一緒に学校の中を見て回っていたり、もう全部把握している人物などは自分の部屋や、
大広間で楽しくゲームやお話をしている。
『・・・・誰か・・・・』
誰かの声が聞こえて、栞は振り返った。 だが、そこには誰も居なくて気のせいか・・・と思い足を進めた。
そして、少したった時に・・・また声が聞こえた。
青年の声だ・・・その声がドンドン大きくなっていって、栞は一つの部屋にたどり着いた。
その部屋は、もう使われていないらしく古ぼけた木の扉で埃がところどころに舞っている。
『・・・・俺は・・・・』
やはり、この部屋の中から声が聞こえる。 栞は、思いきって部屋の中に入ることにした。
しかし、その扉は見た目より頑丈にできているらしく、栞の力ではあけることができない。
仕方なく栞は、杖を出して扉に向ける・・・そして・・・
「閉ざされし道の扉を開け!!」
すると、杖の先が光って扉が独りでに開けられた。 そして、栞は杖を閉まって部屋の中を進んでいく・・・
中は、薄暗いが今は昼・・・窓から太陽の光が入っているために少しは明るい。
そして、奥に行く・・・
『・・・・誰・・・・?』
部屋の中心部には、泉があって・・・
そして、その泉の真ん中に立っているのは、一人の青年だった。
その泉の部屋だけ太陽の光がたくさん入っていて、すごく明るく・・・そして綺麗だった。
泉の周りには少しだけ花が咲いていて、風が吹くとサヤサヤと音をたてる。
栞は、一度もこの青年を見たことが無い。 そして、青年も栞を見たことが無い・・・。 二人は沈黙した・・・
『ねぇ』
先に話し掛けてきたのは、青年だった。
『君は・・・・誰?・・・・確か、この部屋の扉は閉ざされていたはずだよ』
青年は一歩、栞に近づく・・・泉の上に波紋が一つ生まれた。
「私は栞・・・お前こそ誰だ?」
用心のために、すぐに魔法が使えるように杖を手にもつ。
その動作がわかった青年は、両手を上に上げて何かを言う。 すると、栞の杖が宙に浮かんだ。
「なっ・・・!?」
青年は杖を使っていない、なのに魔法を使ってみせた。 不思議な事に栞は瞳を大きく開けた。
青年は、栞の杖を自分の元に持ってきて、そして観察する。
「返せ!!」
『・・アウシュトラスの羽根が使ってあるのか・・・結構高級品だな』
アウシュトラス・・・四天使の一人といわれている人物だ。
四天使とは、世界を支えている余人の天使たちの事・・・そして、その四天使は、神と互角ぐらいの力を持っているとも言われている。
そして、アウシュトラスの羽根は癒しにも力にもなる不思議な力を秘めている。
使い方によっては、両方とも魔力が高められるために、すごく今となっては高級品なのだ。 一枚だけでも、100億はするだろう。
『栞・・・だったね? 俺は、シュラス・アイグリード。 シュラスって呼ばれている・・・』
杖を栞に渡すと、泉から地面に上がって栞の前に立つ。
そして、すぐに地面に座った・・・栞も、警戒しながらシュラスの隣りに座る。
『さて、栞・・・君はどうやって入ってきたんだ? それに、ここは俺だけしか入れない秘密の場所だぞ?』
俺しか入れない・・・と言う言葉を少しだけ疑問に思いながら栞は「魔法を使って入った」と返事をした。
その言葉を聞いたシュラスは、すごく驚いていた。
『よく入れたな・・・すっげぇ~。 まぁ・・・そう言う人間が居てもおかしくは無いな。 で? この部屋に何か用か?』
「ただ、学校の中を歩き回っていたら偶然に見つけて、何があるのか知りたかったから入っただけだ」
その言葉を聞くと「そうか」と、なんだか寂しそうな感じで言う・・・。
「シュラス・・・お前は、なぜ此処に居るんだ?」
今度は、栞がシュラスに質問をした。
『俺は・・・ここに居なくちゃいけないから』
「え?」
ここに居なくちゃいけない・・・どうしてだろうか? 何か特別な理由でもあるのだろうか?
そんな事を思っていると、小さくだがチャイムの音が聞こえた。 授業が終わったチャイムだ・・・。
『鳴ったな・・・行けよ』
「お前は、行かないのか?」
『俺は、まだ此処に居るよ・・・」
「そうか・・・」
そうして栞は、先に部屋から出て行った。 栞が出て行った後に、部屋は急に暗くなった・・・
そして、フワフワと何かがシュラスに向かって飛んでくる・・・。
『・・・あぁ・・・あいつだな・・・』
声に答えてくれた彼女・・・そして、選ばれた彼女・・・
「ねぇ。 シュラス・・・四天使の貴方が、ここに居ていいの?」
『あぁ・・・好きで、ここに居る事を望んだ俺だ。
今さら離れるわけにもいかないし・・・それに、選んだんだから、その結末を最後まで見たいんだ』
フワフワと飛んでいる赤い光の丸い玉は「そう・・・」と寂しそうに言った。 そして、闇の中に消えていった・・・。
『四天使の一人アイディス・・・アウシュトラスの分まで頑張るぜ・・・』
その瞳に迷いなんて無い・・・今は、このままでいい・・・あの少女の未来が見てみたいから・・・。
つづく