フロートの門【13】
フロートの門 ~フロートの門の話3~ 作 クロス
栞があの泉に行ってから三日がたった。
そして栞は、なんだかあの泉が気になる様子・・・あの不思議な扉の中に居た一人の青年。
この学校の生徒だと思っていれば、ぜんぜん見かけないし、「シュラス・アイグリードと言う人を知らないか?」
と上級生に聞いても誰もが「知らない」と答えるのだ。ずっと探しているのに、あの泉の上に立っていた青年には会わないし、
誰もシュラスを知らないのだ。 すごく不思議に思っているものの、泉に向かうと誰かが絶対に邪魔をするのだ。
この前は、北斗を連れて行ったときに・・・
「此処は?」
「前に教えた泉だ。 綺麗だから見せてやろうと思って」
「ふ~ん・・・でも、俺あんまり興味ないから、それにもうご飯の時間だし食べに行こうぜ!!」
「後で良いだろ」
「ダメだ! 今だ! 今!!」
「後にしろ」
「・・・・(怒)」
バシバシバシ!! (北斗のくちばしにより、栞つっつかれる)
「い、痛いって!! 分かった!! 分かったから!!」
「・・・よろしい」
なんて事があった・・・そして、栞は北斗とは絶対に入らないでおこうと思った。
そして次は・・・
「あれ? どうしてこんな場所に居るんだい?」
「・・・和馬か・・・いや・・・ここに入ろうと思って」
「そうなんだ。 そう言えば、この中ってどうなっているんだろうね?」
「すごく綺麗だったぞ」
「え? 栞は中に入ったの?」
「うん・・・入った」
「良いですね~。 僕も入りたいよ」
「入るか?」
「良いの?! ありがとう!!」
「ん? そこの二人!! そこで何をしている!?」
「「げっ。 彰紋先生!?」」
「そこの扉は、開かないんだ。 それに、ここには近づいちゃいけない。 分かったら帰るんだ」
「「・・・は~い・・・」」
そして、しぶしぶおとなしく部屋に帰ったのだった。
そして、次は周りを見て誰も居ないのを確認して扉を開こうとした・・・・のだが・・・・
「栞・・・何をしているの?」
「・・・今度は、襷か・・・」
「あぁ。 僕だよ・・・何をしているの?」
「見て分からないか? この扉を開くんだよ」
「え? 扉を・・・?」
「うん」
「ダメだよ。 先生にも言われただろ? ここは入っちゃいけない場所だって」
「何を言っても無駄だ。 私は入るからな! 閉ざされし未知の扉を開け!!」
「封印されし物よ 今は目覚めず 時を待て! そして閉ざされよ!!」
バチバチ・・・(相殺の音)
「・・・襷・・・お前・・・」
「ダメだよ。 栞・・・ちゃんと先生に言われたことは守らないと」
「・・・・閉ざされし未知の扉よ開け!!」
「・・・・閉ざされし物よ 今は目覚めず 時を待て! そして閉ざされよ!!」
そして、それを何度も続いて先生に見つかり二人は仲良く(?)しかられた。
そして、今・・・再挑戦をしようと考えているのだ。周りを見ても、誰も居ない・・・そして、今は夜だ。
先生が見回りに来るのは、残り十分・・・他の生徒や先生たちが来なければ、すぐに中に入れる。
それに、来たとしても中に入ってしまえば分かりはしない・・・そして、杖を手に持って回りをもう一度確認する。
「閉ざされし未知の扉を開け!!」
ガコ~ン
と、扉が開かれた。 中は暗くて窓から少しの光が入るだけ・・・走って中に入って扉を閉める。
そして呪文を唱えて光を作り、手のひらに乗る小さな光は、やがて大きくなって道を示した。
そして、その導かれる方向に栞は歩いていった。 もう一度・・・シュラスに会うために、どうしてここに居るのか理由も聞きたい。
『・・・やぁ・・・こんな遅くに何をしているの?』
後ろから聞こえてきた声に、驚いて杖を向ける。 そして、その杖を向けた人物は・・・
「シュラス」
栞の探していた人物・・・シュラスだった。
『聞いているだろ? どうして、こんな遅くにここに居るんだ?』
「人のことを言えるのか? お前だってこんな時間に居るんだ」
売り言葉に買い言葉と言うのだろうか? これは・・・シュラスは、反論に困ったが「ここに居なくちゃいけないから」と答えた。
「それじゃ答えになっていない! どうしてここに居なくちゃいけないんだ?」
『どうして・・・それが、俺の使命だから・・・かな?』
「使命って・・・こんな暗い場所に一人で居ることが使命なのか!?」
瞳を大きくしてシュラスを見る栞。 その栞の言葉に「そうだ」と返事をするシュラス
こんな暗い場所に、ただ一人だけ居るなんて・・・なんて寂しいのだろう。誰も居ないこの中で、
どうしてシュラスは居るのだろう? どうしてここに居ることが使命なのだろう? どうして誰もシュラスの事を知らないのだろう?
彼は今・・・ここに・・・栞の前に立っているのに・・・
『お前の部屋まで送っていく、一緒に行こう』
シュラスが栞の前に手を差し出した。 シュラスの瞳を見ても、悲しみに・・・寂しさに負けていない力の瞳
強い意志を持っているのだろう。 そして、その使命は誰にも教えられないものなのだろう。
「・・・・分かった。 帰る」
『部屋までだからな、俺が送っていくのは』
「それで十分だ」
そして二人は、部屋から出て行った。
廊下を歩いている二人・・・栞とシュラスだ。 コツコツと足音が廊下に響いていて、誰も居ない静かな廊下だ。
朝や昼ならば、もっと人が沢山通っていて明るい廊下なのに・・・・夜になれば、誰一人としていない静かな寂しい廊下になる。
そんな廊下を、二人は歩いていた。
「なぁ。 シュラス」
『なんだ?』
「お前はどうして・・・あの場所に居るんだ? 使命は、私にも話せないことなのか?どうして誰もお前のことを知らない?
お前は、ここの生徒ではないのか?」
たくさんの疑問を一気にシュラスに言う栞。
シュラスはたくさんの質問をされて、何から答えようかと迷っていたが、一つずつ答えることにした。
『えっと・・・俺は、ここの生徒であって、生徒ではないものなんだ』
「生徒であって、生徒ではないもの?」
『あぁ。 俺は、ずっと・・・あの場所に居るんだ。 そして、皆が俺のことを知らないのは・・・俺があの場所から、
めったに出ないからだ』
めったいに出ない・・・・ずっと、あの暗い部屋の中にいるシュラス。 それが使命なのだろうか?
『俺の事を知っているのは、ごく僅かな人間だけだ。 そして、その人間の一人に栞も入っている』
「・・・・どうして・・・お前は・・・・」
あんな寂しい場所に、一人で居るんだ・・・?
『・・・俺は、人との交流があまり得意ではないんだ。
魔力だって、人より倍はあるし・・・気味悪がられるんだ。 だから、俺は・・・人目に着かない場所に居ることにした』
「それが・・・あの場所?」
『あぁ。 俺が居ても誰も気がつかないし・・・別に目障りじゃないだろ?
それに静かに一人で居るし誰にも俺の存在を知られない。知らないほうが、いいって事もあるだろ?
俺の存在を知ってしまったら・・・少し怖いんだ。 また、人を傷つけないかって・・・』
シュラスの言葉に嘘は無い。 そんな事を栞は思った。 たった、二度しかこうやって話していないにも拘らず・・・・
「シュラス」
『ん?』
「・・・もう、此処で良い」
『え? でも・・・』
「一人で部屋に戻れるから」
『・・・・そうか・・・・』
栞は、クルリと回って走って自分の部屋に向かう。 そして、シュラスはあの暗い寂しい場所に一人で帰る。
「シュラス!!」
大きな声で、自分の名前が呼ばれてシュラスは栞を見た。
「私は、お前のこと嫌いじゃないぞ! それに、迷惑じゃないし・・・また、会いに行ってもいいか?」
初めての言葉・・・シュラスは「あぁ!!」と大きく栞に返事をした。 その言葉を聞いて栞は部屋に急いで戻っていく。
シュラスは、栞が見えなくなるまでじっと見ていた。
「アイディス」
誰かに呼ばれて、シュラスは声のしたほうに瞳を動かした。 そこに居たのは・・・
『襷』
「・・・出てきたんだ。 珍しいね」
『あぁ・・・お前こそ、珍しいじゃないか』
「栞が居たから話しかけようと思ったんだけどね」
『やっぱり、さっきの気配はお前か』
「・・・悪いか?」
『別に』
襷はシュラスに近づいた。 そして、ポケットから一つのキラキラと光るクリスタルを取り出した。
そして、それをシュラスに渡す。
「・・・俺の・・・兄の物だ。 お前に渡すように言われた」
そう言うと、襷は走ってどこかに去って行った。 襷から渡されたクリスタルを見て、シュラスは黙った。
『・・・サンキュー・・・』
「あぁ・・・そうだ・・・」
何かを思い出したように、襷はシュラスの元に戻った。 そして、耳元で何かを言って・・・そして、去って行った。
『あぁ・・・本当だよ。 あいつに出会うまでは・・・・な・・・』
栞のいった言葉に、偽りは無い。
救われたのだから・・・彼に・・・彼が居なかったら、きっと今の自分は居ないだろう。
天使として生まれてきた彼には、荷が重過ぎて・・・そして絶望していた。
でも、彼が助けてくれたから・・・彼が居たから、シュラスは今まで頑張ってこれたのだ。
『・・・あいつと、同じだ・・・何も変わっていない』
彼女もまた・・・昔と変わっていない。 前と同じ言葉を言ってくれたのだから・・・過去のことは、忘れ居ているのかもしれない。
でも、シュラスは忘れていないから・・・だから、思い出さなくても良い。 でも、忘れないで居てほしい・・・
『さぁ・・・戻ろう。 ありがとうな・・・襷・・・そして、ありがとう・・・ポワトゥリーヌ・・・ミッシェル・・・』
彼の瞳には、涙があふれていた。
そんな光景を、黙って見守っている人物が居た。その人物は、シュラスの瞳には映らない。
でも、記憶の中では覚えていてくれているから・・・その人物は、シュラスを見届け終わると姿を消したのだった・・・。
つづく