« フロートの門【12】 | メイン | 日常【1】 »

フロートの門【13】




フロートの門 ~フロートの門の話3~ 作 クロス






栞があの泉に行ってから三日がたった。

そして栞は、なんだかあの泉が気になる様子・・・あの不思議な扉の中に居た一人の青年。
この学校の生徒だと思っていれば、ぜんぜん見かけないし、「シュラス・アイグリードと言う人を知らないか?」

と上級生に聞いても誰もが「知らない」と答えるのだ。ずっと探しているのに、あの泉の上に立っていた青年には会わないし、
誰もシュラスを知らないのだ。 すごく不思議に思っているものの、泉に向かうと誰かが絶対に邪魔をするのだ。
この前は、北斗を連れて行ったときに・・・

「此処は?」

「前に教えた泉だ。 綺麗だから見せてやろうと思って」

「ふ~ん・・・でも、俺あんまり興味ないから、それにもうご飯の時間だし食べに行こうぜ!!」

「後で良いだろ」

「ダメだ! 今だ! 今!!」

「後にしろ」

「・・・・(怒)」

バシバシバシ!! (北斗のくちばしにより、栞つっつかれる)

「い、痛いって!! 分かった!! 分かったから!!」

「・・・よろしい」

なんて事があった・・・そして、栞は北斗とは絶対に入らないでおこうと思った。
そして次は・・・

「あれ? どうしてこんな場所に居るんだい?」

「・・・和馬か・・・いや・・・ここに入ろうと思って」

「そうなんだ。 そう言えば、この中ってどうなっているんだろうね?」

「すごく綺麗だったぞ」

「え? 栞は中に入ったの?」

「うん・・・入った」

「良いですね~。 僕も入りたいよ」

「入るか?」

「良いの?! ありがとう!!」

「ん? そこの二人!! そこで何をしている!?」

「「げっ。 彰紋先生!?」」

「そこの扉は、開かないんだ。 それに、ここには近づいちゃいけない。 分かったら帰るんだ」

「「・・・は~い・・・」」

そして、しぶしぶおとなしく部屋に帰ったのだった。

そして、次は周りを見て誰も居ないのを確認して扉を開こうとした・・・・のだが・・・・

「栞・・・何をしているの?」

「・・・今度は、襷か・・・」

「あぁ。 僕だよ・・・何をしているの?」

「見て分からないか? この扉を開くんだよ」

「え? 扉を・・・?」

「うん」

「ダメだよ。 先生にも言われただろ? ここは入っちゃいけない場所だって」

「何を言っても無駄だ。 私は入るからな! 閉ざされし未知の扉を開け!!」

「封印されし物よ 今は目覚めず 時を待て! そして閉ざされよ!!」

バチバチ・・・(相殺の音)

「・・・襷・・・お前・・・」

「ダメだよ。 栞・・・ちゃんと先生に言われたことは守らないと」

「・・・・閉ざされし未知の扉よ開け!!」

「・・・・閉ざされし物よ 今は目覚めず 時を待て! そして閉ざされよ!!」

そして、それを何度も続いて先生に見つかり二人は仲良く(?)しかられた。

そして、今・・・再挑戦をしようと考えているのだ。周りを見ても、誰も居ない・・・そして、今は夜だ。
先生が見回りに来るのは、残り十分・・・他の生徒や先生たちが来なければ、すぐに中に入れる。
それに、来たとしても中に入ってしまえば分かりはしない・・・そして、杖を手に持って回りをもう一度確認する。

「閉ざされし未知の扉を開け!!」

ガコ~ン

と、扉が開かれた。 中は暗くて窓から少しの光が入るだけ・・・走って中に入って扉を閉める。

そして呪文を唱えて光を作り、手のひらに乗る小さな光は、やがて大きくなって道を示した。
そして、その導かれる方向に栞は歩いていった。 もう一度・・・シュラスに会うために、どうしてここに居るのか理由も聞きたい。

『・・・やぁ・・・こんな遅くに何をしているの?』

後ろから聞こえてきた声に、驚いて杖を向ける。 そして、その杖を向けた人物は・・・

「シュラス」

栞の探していた人物・・・シュラスだった。

『聞いているだろ? どうして、こんな遅くにここに居るんだ?』

「人のことを言えるのか? お前だってこんな時間に居るんだ」

売り言葉に買い言葉と言うのだろうか? これは・・・シュラスは、反論に困ったが「ここに居なくちゃいけないから」と答えた。

「それじゃ答えになっていない! どうしてここに居なくちゃいけないんだ?」

『どうして・・・それが、俺の使命だから・・・かな?』

「使命って・・・こんな暗い場所に一人で居ることが使命なのか!?」

瞳を大きくしてシュラスを見る栞。 その栞の言葉に「そうだ」と返事をするシュラス
こんな暗い場所に、ただ一人だけ居るなんて・・・なんて寂しいのだろう。誰も居ないこの中で、

どうしてシュラスは居るのだろう? どうしてここに居ることが使命なのだろう? どうして誰もシュラスの事を知らないのだろう?
彼は今・・・ここに・・・栞の前に立っているのに・・・

『お前の部屋まで送っていく、一緒に行こう』

シュラスが栞の前に手を差し出した。 シュラスの瞳を見ても、悲しみに・・・寂しさに負けていない力の瞳
強い意志を持っているのだろう。 そして、その使命は誰にも教えられないものなのだろう。

「・・・・分かった。 帰る」

『部屋までだからな、俺が送っていくのは』

「それで十分だ」

そして二人は、部屋から出て行った。















廊下を歩いている二人・・・栞とシュラスだ。 コツコツと足音が廊下に響いていて、誰も居ない静かな廊下だ。
朝や昼ならば、もっと人が沢山通っていて明るい廊下なのに・・・・夜になれば、誰一人としていない静かな寂しい廊下になる。
そんな廊下を、二人は歩いていた。

「なぁ。 シュラス」

『なんだ?』

「お前はどうして・・・あの場所に居るんだ? 使命は、私にも話せないことなのか?どうして誰もお前のことを知らない?

 お前は、ここの生徒ではないのか?」

たくさんの疑問を一気にシュラスに言う栞。

シュラスはたくさんの質問をされて、何から答えようかと迷っていたが、一つずつ答えることにした。

『えっと・・・俺は、ここの生徒であって、生徒ではないものなんだ』

「生徒であって、生徒ではないもの?」

『あぁ。 俺は、ずっと・・・あの場所に居るんだ。 そして、皆が俺のことを知らないのは・・・俺があの場所から、

めったに出ないからだ』

めったいに出ない・・・・ずっと、あの暗い部屋の中にいるシュラス。 それが使命なのだろうか?

『俺の事を知っているのは、ごく僅かな人間だけだ。 そして、その人間の一人に栞も入っている』

「・・・・どうして・・・お前は・・・・」

あんな寂しい場所に、一人で居るんだ・・・?

『・・・俺は、人との交流があまり得意ではないんだ。

魔力だって、人より倍はあるし・・・気味悪がられるんだ。 だから、俺は・・・人目に着かない場所に居ることにした』

「それが・・・あの場所?」

『あぁ。 俺が居ても誰も気がつかないし・・・別に目障りじゃないだろ?

それに静かに一人で居るし誰にも俺の存在を知られない。知らないほうが、いいって事もあるだろ?
俺の存在を知ってしまったら・・・少し怖いんだ。 また、人を傷つけないかって・・・』

シュラスの言葉に嘘は無い。 そんな事を栞は思った。 たった、二度しかこうやって話していないにも拘らず・・・・

「シュラス」

『ん?』

「・・・もう、此処で良い」

『え? でも・・・』

「一人で部屋に戻れるから」

『・・・・そうか・・・・』

栞は、クルリと回って走って自分の部屋に向かう。 そして、シュラスはあの暗い寂しい場所に一人で帰る。

「シュラス!!」

大きな声で、自分の名前が呼ばれてシュラスは栞を見た。

「私は、お前のこと嫌いじゃないぞ! それに、迷惑じゃないし・・・また、会いに行ってもいいか?」

初めての言葉・・・シュラスは「あぁ!!」と大きく栞に返事をした。 その言葉を聞いて栞は部屋に急いで戻っていく。
シュラスは、栞が見えなくなるまでじっと見ていた。

「アイディス」

誰かに呼ばれて、シュラスは声のしたほうに瞳を動かした。 そこに居たのは・・・

『襷』

「・・・出てきたんだ。 珍しいね」

『あぁ・・・お前こそ、珍しいじゃないか』

「栞が居たから話しかけようと思ったんだけどね」

『やっぱり、さっきの気配はお前か』

「・・・悪いか?」

『別に』

襷はシュラスに近づいた。 そして、ポケットから一つのキラキラと光るクリスタルを取り出した。

そして、それをシュラスに渡す。

「・・・俺の・・・兄の物だ。 お前に渡すように言われた」

そう言うと、襷は走ってどこかに去って行った。 襷から渡されたクリスタルを見て、シュラスは黙った。

『・・・サンキュー・・・』

「あぁ・・・そうだ・・・」

何かを思い出したように、襷はシュラスの元に戻った。 そして、耳元で何かを言って・・・そして、去って行った。

『あぁ・・・本当だよ。 あいつに出会うまでは・・・・な・・・』

栞のいった言葉に、偽りは無い。

救われたのだから・・・彼に・・・彼が居なかったら、きっと今の自分は居ないだろう。
天使として生まれてきた彼には、荷が重過ぎて・・・そして絶望していた。

でも、彼が助けてくれたから・・・彼が居たから、シュラスは今まで頑張ってこれたのだ。

『・・・あいつと、同じだ・・・何も変わっていない』

彼女もまた・・・昔と変わっていない。 前と同じ言葉を言ってくれたのだから・・・過去のことは、忘れ居ているのかもしれない。
でも、シュラスは忘れていないから・・・だから、思い出さなくても良い。 でも、忘れないで居てほしい・・・

『さぁ・・・戻ろう。 ありがとうな・・・襷・・・そして、ありがとう・・・ポワトゥリーヌ・・・ミッシェル・・・』

彼の瞳には、涙があふれていた。
そんな光景を、黙って見守っている人物が居た。その人物は、シュラスの瞳には映らない。

でも、記憶の中では覚えていてくれているから・・・その人物は、シュラスを見届け終わると姿を消したのだった・・・。



















つづく

コメントする