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YUKARI~失われた空想~【1】

~春の転入生~
やっと春になった。今日から新学期、小学6年生になった
姫子は、今日から始まる新しい生活を楽しみにしていた。
-ピカピカの床、ホコリ一つない本棚、夢にまで見た3階の校舎-
どこをどう見ても、何一つと文句はなかった。

「えーと、今日は諸連絡がいくつかあります、‥えーと」
姫子たちのクラスの新しい先生、山村先生はさっそく諸連絡から
始める、愛想のない先生だった。姫子は別にこの山村先生の
愛想のなさは嫌いではなかったが、先生のこの聞き取りずらい
話し方にはうんざりしていた。
「えーと、それで2時間目に教科書をえーと、配布、えーと…」
分かるように「えーと」を話しに入れるためどこからどこまでが
重要点かが分からない。まァ、こんなかんじで諸連絡は過ぎていった。
だが、一つ気になった点はあった。さっき先生の言った、「えーと、転入生
が、えーと…」ということだった。この『転入生』とは何のことだろうか…?
しかし、クラスのほとんどが先生の言っていることを聞き取れていなかったため、
そのことについて知っている人はその日は誰もいなかった。

そして次の日、姫子はきれいな洋服を着て家を出た。6年生なんだから、
もっとかわいくなってみたいと思ったのだ。
そして、駆け足で3階の6年の教室までいくと、なぜか各クラスごとに
廊下に集まって、ざわざわと話しをしていた。
姫子は不思議に思って、近くにいた他のクラスの恵理香にきいてみた。
「一体どうしてみんな集まって話しをしているの?」
すると、恵理香は顔をしかめて答えた。
「それがさァ姫子、あんたのクラスの1組に転入生が来るんですってっ!」
「あぁ、なんか先生も言ってたなァ…」
確かに先生は『転入生』という言葉を昨日の諸連絡のときに使っていた
ことを思い出した。
すると、恵理香は少し小声で言った。
「それでね、その転入生、暗~くて地味で変な子なんだってさァ…」
「変な子!?女の子でしょ!?」
「しーっ!!声が大きいっ!とにかくヤバイ女の子には間違いないよ」
なるほど、みんなその転入生の話しで盛り上がっていたのだ…っと
思いたいが、みんなの顔は脅えており、そういうかんじではなかった。

朝の会のとき突然、山村先生が言い出した。
「今日からこのクラスに新しい友達が加わる。みんな仲良く
するように……はい、教室に入って‥」
先生がそういうと、ドアが-ガラガラッ-と開いて、教室に
一人の女の子が入ってきた。みんなはその子の顔を見るなり、
隣の席の人と耳打ちをし合った。教室の中がざわざわとうるさくなっていく。
「みんな静かにっ!…はい、自己紹介して」
先生はなにやら黒板にその子の名前を書いていった。
すると、その子の口がゆっくり開いた。
「あたしは中夢由加里…なかゆめ ゆかりっていいます」
みんなはしーんとなった。姫子もその転入生の姿を見て、少し
ぞっとした。前髪が長く左半分の顔を隠して、白い襟付きの
古びたシャツを着て、下には黒いボロボロのズボンを穿いていた。
顔に陰があるように見えるのは猫背のせいだろうか…。
すると、一人の男子が隣の席の人に何かごそっと話しかけた瞬間、
クラス全員がざわざわと話し始めた。だけど、姫子だけは話さなかった。
なぜなら、由加里の前髪で隠れた左目がうっすらと見えて、
何か魅力的なものを感じたような気がしたから話せなかったのだ。

           ~第二話へ続く~

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