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YUKARI~失われた空想~【2】

~不思議な日記~
『-4月7日- 今日は転入生が来た。その子は少し
変わった子で、中夢由加里(なかゆめ ゆかり)という名の
女の子だった。仲良くしたいなぁと思いました…。』
姫子は休み時間のうちに宿題の日記を済ませてしまった。
本当は由加里とは仲良くする気などなかったのだが、一応
日記にはそう書いておいた。しかし、さっきから姫子は
ふと背後に誰かの気配を感じていた。
するとそのとき、後ろから誰かの声がした。
「ねぇ、あなた何書いてるの?」
姫子はいきなり声をかけられてあわてて後ろを振り返った。
「…あ、あぁ中夢さん…か…」
そこには、右目だけがギョロッと笑っている由加里がいて、姫子は
急にぞくっとした。
「そんな幽霊でも見るような目で見ないでよ…まぁ、それはさておき
あなたが今書いているそのノートって日記帳でしょ~?」
「え、えぇ…」
姫子はなるべく由加里の右目から目をはなして答えた。
由加里はじっと姫子の机の上にある日記帳を見て言った。
「あなたの日記帳はあまり楽しめないわね…」
「えっ?何が楽しめないって?」
姫子はすっと由加里の顔を見た。
「…うん、魔法の日記ってのがあってね、それに願いを書き込めば
その願い事が実現するんだ。それがたとえ空想的なことでもね」
「空想を…本物に…ねぇ…」
そして姫子は少しバカにしたように笑ってみせた。
「ハハッ、中夢さんってホント変わってんのねぇ~。というか地味っていうか
なんかふつうの人間じゃないみたい」
すると由加里は口をキュッと結んでまわりをチラッと見て言った。
「そう…まだ信じないのね…だったら試すといいわ」
由加里は気味の悪い笑いかたをすると、ボロボロのズボンのポケットから
小さな日記帳をとりだして、その中のページを一枚破って姫子に渡した。
姫子は不思議そうにその紙を見た。すると由加里はフッと笑った。
「この魔法の日記にできないことなんて何もないわ。願いを書いてみてね」
由加里はそれだけ言うと、一番後ろの自分の席へと戻っていった。
(何が魔法よ。ただの紙じゃない…変な子…)
姫子はその紙を机のおくにつっこんでしまった。

その日の夜10時に、姫子はランドセルの中にある理科のノートを
そっと取りに行った。ランドセルは2階の自分の部屋においてあるため、
1階の寝室から階段を足音をたてずにあがるだけでも一苦労だった。
そして、ようやく姫子は自分の部屋へ着いた。
姫子は部屋の電気のスイッチにそっと手をかけてカチッと押すと
あたりはパァッと明るくなった。
(早く理科の宿題しないとっ!)姫子は今ごろ理科のノートの宿題が
あったことを思い出したのだった。
そして、姫子がさっさと理科のノートをランドセルからとりだすと同時に
一枚の紙がペラペラと落ちてきた。
「…ん?何だろう…?」
姫子がその紙に目をやると思い出したかのようにびくっとした。
「これは…中夢さんからもらった日記帳の紙っ!」
姫子は近くに理科のノートをおくと、その紙を両手で拾い上げた。
「中夢さんはこれに書いたことが全て空想であろうと本当になるって
言ってたっけ…。嘘でもいいからやってみようかな…」
姫子は紙を机におき、鉛筆と消しゴムを出して椅子にすわると、
少しドキドキした。
-もうすっかり11時だった。理科のノートも床においたまま姫子は
机に向かって、例の紙に何を書こうか迷っていた。
(お金にしようかな…いや、恋よっ!…いや学力でもいいなぁ…)
あれやこれやと考えているうちに、ふとひらめいた。
「そうよっ!学校をあやつれる女王になりたいって書けばいいわっ!」
姫子は迷わずひたすら鉛筆を動かした。
「…よしっ!いいわっ!…うん、これにしよっ!」
姫子はそのまま理科の宿題を終わらせると、
緊張の気持ちが抜けないまま寝室へとそっとおりていった。
-明日になれば真実が分かるわっ!-

    ~第三話へ続く~

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