蒼海【2】
「おーい!龍二ー!元気でなぁ~!」
「またねー!いつかまた戻ってきてねー!」
「泣くなよ~!」
みんなで一斉に言われたら、
「・・・何、言ってんのか分かんねぇっつーの。」
それでも、オレは下で見送る友達たちにピースをした。
ピンっと張った人差し指と中指の間に見える横断幕。
知らずのうちにオレは笑みを浮かべていた。
そうしている間に、別れを告げるように船の汽笛が豪快に乾いた空に鳴り響く。
黒い煙が空を昇っていく。あたかも、白い雲になるために昇っていくかのように。
船が徐々に動き出す。船がつくりだす波紋が桜の花びらを外へと追いやっていく。
まるで船と一体化しているかのように、人々の波が船に平行して動いている。
それでも、オレの友達たちは動かなかった。
花びらを担ぐように肩に置く。
漂わせる芳香に鼻を刺激される。少し、痒いような気がする。
一瞬、本当に一瞬だった。
みんなが、校歌を歌いだした。
二年間歌い、慣れ親しんだ校歌。
大声を張り上げて歌うみんなを見て、思ったんだ。
「・・・ハハ、何恥ずかしいことをしてくれちゃっているんだか・・・。」
苦笑いを浮かべているのに気づいた。
どうしようもなく、一生懸命なヤツらだった。でも、そんなみんなが大好きだった。
やがて、何もかもが見えなくなった。
海面に浮いていた花びらも、港も、みんなも。
それでも、涙は流れなかった。
別れの空を感じさせないくらい、眩しくて綺麗な青空。
そんな乾いた空を見上げながら、オレの心は満たされていた。
心の底から何かがこみ上げてくる。
それが手から溢れた水のようにオレを満たしていたんだ。