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R×R【1】

カッ、カッ、カッ、カッ、カッ、カッ、カッ…
月すら無い闇の中、歩く。思ったより足音が響いてる、この靴買い替えようかな。
人通りの少ない夜道、目の前にあるのはとある廃ビル。数年前からあるもので、今はだれも近寄らなくなっている。
そんな所にいる血の様に赤い髪長髪でスーツ姿の人物。見てる人は居ないが怪しい。
今からこの薄汚いビルに入るのか、めんど…………大変そうだな!
…まあ、仕事だから仕方無いが。
「あー、どうするかな。」
今持ってるのはナイフ3本と針1ダース。あ、あと修理屋から貰った変な薬。
他には…運び屋から貰ったあきらかに爆弾とおもわれる謎の箱。
大丈夫かな、これで。


ふぅ…っと息を吐く。埃がふわりと浮かぶ。
予想はしてたが、マスクくらい持ってくればよかった。
さて、確か情報によると2階のここらの部屋に目標がいる…はず。
キィィ…
扉を開ける。
耳障りな音が響く。その先には薄汚れた部屋。
所々崩れた部屋の真ん中には大きなオフィス机。
全て薄っすら埃を被っていて汚い。
何も無いのを確認して、別の部屋に行く。また耳障りな音がする。
鼻を突くカビの臭い。そして埃。
ブワッ、って迫って来る細かい…はずの塵の塊。すなわち埃。
何なんだよこれ、何この埃。何この部屋。何で此処こんなに埃多いの。家の地下室より悪いぞ。こんなカビ臭いならいっそのこと血で生臭い方がマシだろうが。あ、普通の人は逆なのか。
つーか何でこの依頼受けたんだろう。こんなめんどくさい事。
よく考えたら私埃とかカビとかに弱いじゃないか。あ、涙出てきた。
「…片っ端から探すか。」
埃が立つのなんか今更気にしていられない。急がないと時間的にまずい。プラス私がもたない。
口を押さえながら走る。
ほとんどの部屋を見て回った後、最初の部屋の前まで戻る。目が痒い、てか痛い。
「…っつか、なんにも居ないじゃないか。」
とりあえずこれから探す対象が『目標』から『隠し扉』に変わった。
絶対どこかに隠れてるんだ。まずは入り口から探さないと。
…しんどさ倍増じゃないか?

「ここだな。」
ガコンッ
最初に見た部屋の、机の中にあるボタン。それを押すと床に穴が開いた。私の下に。
そしてもちろん私は落ちた。つーか別に私の下じゃなくてもよくね?
ヒュゥッ
ストンッ
すぐ下の階だったのか、別に痛くはない。しかし、
落ちた時に舞い上がった今まで以上の埃はイヤガラセか何かか?
「………。」
あーなんだろ、これなんだろ。なんか胸の中に黒いもやもやしたものがある。なんだろ。
もうさっさと終わらして帰るか。どうせ今日の依頼は殺しなんだし。終わった頃にはすっきりしてるだろ。
「…とりあえずこっちか…?」
落ちたのは1つの部屋らしいが、何も無い。そして部屋の端には扉が1つ。
下の階を確認した時のあの沢山の埃。この部屋の所為で空気の流れが悪くなってたんだ。
扉をゆっくりと開ける。
キィィ…
また耳障りな音。
金属音とか苦手。って言ったら猫みたいって言われたな。なつかし。
そんな事を考えながら扉の奥を見渡す。
暗い部屋。そして嗅ぎ慣れた鼻を突く臭い。
中には窓も無く、小さな空気穴が1つ。人が通る事はまず不可能の、小さな。
そしてベッドと、小さな棚。子供用だ。全て。
部屋の端には冷蔵庫まで置いてある。壁を見ると押入れになっていた。
数年前。ここに閉じ込められていた子供が居たという。
そしてその子は、今も生きている。
空気が動く。うん、後ろの押入れから。
キィンッ
懐からナイフを出す。押入れから出てきた誰かさんに向かって切り上げる。片手で。
その誰かさんの持ってたはさみに防がれたけど。
「………ッ!!」
おーぉ、驚いてる。
まあ、完全に気配は絶ってたから、見切られるとは思ってなかったんだろうな。
ギィィン
さっきより濁った音がして、はさみが離れた。
切りかかって来た誰かさん…否、スッゴイゴスロリの服を着た少女は私から距離をとるとゆっくりと向直った。はさみは手に持ったまま。
「なんで、気付いたの?」
純粋な疑問の声。まるで、普通の子供のように。
「この部屋、埃で汚れて無いだろ? 他に比べて、ここは綺麗過ぎる。」
それを聞いて、う~んと悩むようなしぐさを見せて。
「じゃあ、次はもっと汚しとくね。」
にっこりと笑う。今襲ってきたとは思えないように。
だが気は抜けない。こういう奴ほど、キレているのだから。
「…3つ…聞いていいか?」
殺気は出さず、訊ねる。
少女は軽く首をかしげる。訊いていいのだろう。
「今まで此処に来たのは、どれくらいだ?」
ああ! と嬉しそうに少女は言って、冷蔵庫の扉を開けた。簡単に背を向けたのは子供故の純粋さだろうか。
そして冷蔵庫にあるのは想像したのと同じ。新しいのも、腐敗した物も。
「おにいちゃんで11人目。これ、いいでしょ? わたしのコレクション。」
人の、生首。
つーかこんな奴見るの久しぶりだ。こんな何処かイカレてる奴。
「首以外はあの男が処理したってとこか。」
「うん! あのお兄ちゃんは優しいんだ。わたしの欲しい物、ぜんぶくれる。」
認めた。
私に依頼した奴と、この目の前で笑っている奴はグルだ。予想はしてたんだけどな。
こんな所に依頼っておかしいだろ。つーか閉じ込められた子供の『D』の処分ってありえないから。
「じゃあもう1つ、お前は『D』か?」
こいつが『D』なら戦うか保護するか。性格上戦うしかないかな。その方が楽だし。
目の前の少女が首をかしげる。解からないという事だろう。
「『D』って何?」
ああ、そこから説明するのか。めんどくさいな、嫌な事まで思い出す。
それでも説明しなきゃなんないか。
…力見せたら納得するか。
「『D』は…嫌でも分かる。」
腑に落ちない様子で頷く少女。なんかこの光景って異様だな。大量殺人鬼とそれを殺しに来た何でも屋。何この取り合わせ。
「あと1つか。」
言ったとたん、殺気が部屋に充満する。この位じゃ別になんともないけど。
「うん、最後は…何?」
いや、こんな殺気の中で笑われても怖いんですけど。
「そうだな、最後は…」
言って、身構える。少女もはさみを構えた。
「君の名前、教えてくれる?」
瞬時、驚いた様な顔をして、にっこり笑う。
「レイ! 彼方は?」
なんて嬉しそうな笑い方をするんだろうか。
「私か…? Rだ。」
「アール? 変わってるね」
にこって笑う。そして2人同時に地面を蹴った。


キィィ!
金属の擦り合う音。
隠しておいたナイフでレイのはさみを受け流す。
受け流されて体制を崩したレイの腹にもう1本のナイフを叩きつける。が、
体の位置をずらして紙一重で避けられた。
そしてまた、1度距離を取る。数秒経って、また刃を合わせた。
キィィイ!
耳障りな、だけど心地の良い音。
相手の刃を軽く避けてるけど、向こうもあっさり避けてるんだよな。
どうするべきか。

レイが懐に飛び込む。小ささを利用してきたか。やるね。
ガンッ!
腕を蹴り上げられ、ナイフが弾かれる。でももう遅い。

「ちょっとおにいちゃん、避けてばっかいないでよ!」
「もう用意はできてるから。終わりだ。」
にっと笑って言う。ちょ、なんで顔背ける!
「……これが私の『D』だ。」
「………!!」
発動する。
見た目にはたいして変わりない。しかしレイは確実に変化を感じているはずだ。
レイに弾かれる前に1本のナイフをレイの足元に刺していた。
3本持って来ててよかったな、ほんと。
「…動きを止める力…?」
「正解。もっと正確にいうと足を止める。腕とかは動くだろ?」
「………地味な能力。」
「うるさい。」
あ~、いいなこの雰囲気。和むわ。
普通こんな状況になると自棄になるか諦めるかだからな。
命乞いする奴なんかは問答無用で切り捨てるし。
「で、訊くけど。こんな力、レイにはあるか?」
「………ない、かな。残念だけど。」
「そうか。」
言って、弾かれたナイフを拾い上げる。
レイは抵抗もせず、殺される事を認めているように、笑っていた。
「怖くないのか?」
「おにいちゃん、やさしいんだね。」
訊いたら、予想からは遠くかけ離れた返事。笑顔のままに、恐怖は一片も見つからない。
ふっ、と口元がほころんだ。
「優しい…ね。ありがとな。」
「ふふっ、ど~いたしまして。」
すっ、と抱きしめるように近づくと、喉元にナイフを突きつける。
ザシュッ
首を切断する。ドサ、と音をたてて倒れた。
ナイフを拭くと残りの物の回収をする。次の仕事がまだあったはずだ。
「…I wish I had never met you …but」
背を向けて言った、聞こえていないと知っても。
「I’m happy to have known you」




 :あとがき:

神無月の絵空事。
いや、10月じゃないんですけど、なんとなく。そんなこと考えて書きました。
日の目を見る事の無い作品かと思っていたのですが、この機会に投稿させていただきました。G・スラッグです。

え~、流血表現はありませんが人殺しました。オブラートになんか包みません。

Rさんの仕事は何でも屋。人殺しでも頼まれればやります。っていうかやりました。
いきなり殺した描写を入れたのはこの人の性格を知ってほしかったからです。
騙されたと分かってても依頼は遂行する、しかし悲しくないわけじゃない。
それを表現できていたらうれしいです。

英訳
「君に出会っていなければよかった…でも。」

「君と出会えて幸せだよ。」

間違っているかもしれませんが、一応こういった意味です。

それでは最後に…
これを読んでくれる方が少しでも多いことを、そしてこれを読んで感動した方が居る事を願って。

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