« デミテルは今日もダメだった【21】 | メイン | 最後に伝えたかったこと【1】 »

テイルズ学園 ~テイルズ オブ スクール~【5】

「やっぱり、リアは出席として認められないんだ・・・」
休み時間。
立ち入り禁止の屋上で、ピンク色のポニーテールが風にふわりふわりと揺られている。

周りには誰もいない。普通に考えればそう見える。立ち入り禁止なのだから。
だがアーチェの目には、自分の隣に「リア」という少女が座っているのがはっきり映っている。
誰にも見えない、しかし親友― アーチェにだけ見える少女・リアはこくり、と頷いた。


「私は、皆の目には見えないから・・・。学園の、自分の教室の、自分の席に座ってても、誰も私に気付かない。誰も私の心の叫びには反応しない・・・・それが私だから」
「リア・・・・」
アーチェはただ呆然と、自分にだけ見える親友― リアを見つめる。
「そんな悲しいこと言わないでよ・・・あたしには見えるじゃん、聞こえるじゃん、気付くじゃん」
リアの美しい茶色の髪と、それの上部を束ねている水色のリボンが、アーチェの髪と共にさらさら揺れる。
同時に中学部の制服のスカートも、髪につられて靡いていた。
「皆、私に気付いてくれる日が、いつか来ると・・・いいよね・・・・・」
「リア・・・・・・・・・・・」

ザァッ、と春を感じさせるような風が一吹き。

「うん、そうだね♪もし気付かれなくてもさ、あたしが無理矢理気付かせてやるんだからね!!」

また春風がザァッ、と一吹き・・・・・・

隣に座っている親友を見て、リアは笑顔で言った。


「ありがとう、アーチェ」

* * * * * * * * * * *

一方廊下では。新しいクラスなどそっちのけで、去年同じクラスだった友達・クラスが離れてしまった友人等との会話が幾度となく繰り広げられていた。

「セネセネと同じクラスが良かったんだよね~、ク~?」
にんまりとした笑顔で、ノーマがクロエを見つめてくる。
「なっ、何を言う!?私は別のクラスでも・・・・」

「?どうしたんだお前ら」
偶然隣に立っていたセネルに、クロエは一瞬で反応する。彼女の顔は真っ赤に染まり、短く切ったばかりの髪が爆発寸前だった。
「な、なななな、なな何でもない!!私達は世間話をしていただけだ!」
つい大声を張り上げてしまう。
「クー、あんまり大きな声出すと先生に怒られるよ~」
ノーマはそう言って、手に持っていた不思議な形のストローを振り回す。
「ノ、ノーマ・・・・お前なぁ・・・・っ」
クロエがくるりとノーマの方を振り向く。呆れたような、しかし何処か怒りが見える顔で。
(うっわ、ヤバい・・・・)
危険を感じたノーマは、頭の中で咄嗟に嘘の用事を考える。ストローをこめかみに当てながら。


そして。
「うぉっと、あたしアニちゃんに用事あったんだwじゃあねー♪」
黄色いボンボンを揺らし、学年で一番短いであろうスカートをはためかせて行く。まったくの嘘の用事を言い残したノーマは、とっとことっとこ駆けていった。


「・・・・・アニちゃん・・・・・・?」
ノーマの言った用事よりも、ニックネームにセネルは変な違和感を覚える。
「おそらく、アニスの事だろうな。おそらく・・・だが・・・」
「そうなのか・・・・」
(そういえばシャーリィも、こんなニックネーム付けられてたな・・・確か、「リッちゃん」とかいう・・・)


それからしばらく沈黙が続く。
そしてセネルが気付く。今までのクロエとの違いに。
「・・・・・・・・・・?どうした、クーリッジ」
彼はクロエの短い髪をじっ、と見つめていた。
「髪の毛・・・・」
「あぁ、この事か。切ったんだ。分からないか?」
クロエは、自分の短い髪を愛おしそうに撫でる。
「如何して切ったんだ・・・・・?」
その様子を隣でずっと見ていたセネルが尋ねる。

「髪を切るのに理由が要るのか?それに・・・クーリッジには関係無いだろう?」
「・・あ、あぁ。そうだな・・・すまない」
何処かぎこちない会話を、廊下の片隅でノーマが見つめている。ストローを耳にあて、まるで聞き耳をするかのように。

(あぁもうっ、じれったいなぁ・・・・クーっ!もっと左に寄ってって、セネセネに想いをぶちまけるのよっ!)
どんな事を予想してるのか・・・・。

その時。後ろからひょいっと人影が現れる。ツンツン頭が印象的な影だ。

「なぁ、ノーマ」
「うぁぁぁあっ!!!?」
背後からいきなり話しかけられ、ノーマは飛び上がりそうになる。それだけクロエとセネルの会話の支援らしき事に熱中していたのか・・・
話しかけてきたのはロイドだった。ノーマ風に言えば「ロイどん」らしい。
「何だぁ~、ロイどんかぁ・・・・ビックリさせないでよ、もう・・・」
「別にビックリさせるつもりは無かったけど・・・・・」
「ウィルっちが来たのかと思ったじゃん!あたし頭叩かれるのはも~ぉ嫌なの!!」
だだをこねるようにノーマが騒ぎ出す。

ウィルっちとは、ノーマの前担任の事だ。ウィル・レイナード。誰かが何か悪いことをする度に強烈なゲンコツが振ってくる。まさに頑固オヤジ的存在の教師だった。
そんなウィルのゲンコツを、一番多く食らったのはノーマだったのだ。

「あぁー・・・・そういえばそうだったな」
「うぐ・・・思い出すだけで頭がヒリヒリする・・・・・・んで、ロイどん?あたしに何か用でもあんの?」
思い出に浸っている場合ではないと言わんばかりに、ノーマはストローをロイドの方へと向けた。
「お、そうだった。クラトス知らないか?チャイムが鳴った瞬間さ、すぐにどっか行っちまって・・・」
「クラトっしゃん~?知らないよ、図書館でも行ったんじゃな~い?」
因みにクラトっしゃんとはクラトスの事。

* * * * * * * * * *

ノーマの予想は当たっていた。
学園最大の本の量と、学園最大の大きさを誇る図書館に居た。
鳶色の髪の青年ともう一人。銀髪の少女が。

靴の音がコツコツと、空しく図書館全体へ響き渡る。ただそれだけ。
「きゃっ」
小さな悲鳴が聞こえる。と、同時に本がどさどさと落ちる音も聞こえた。
咄嗟に青年が悲鳴の方向へと走る。【図書館は静かに歩こう】の張り紙を思いっきり通り過ぎたのも気付かずに。
「・・・大丈夫か・・・?」
首からぶら下げたペンライトの僅かな光で、クラトスは本に埋もれた少女―リフィルを見つけ出す。
「ほら、立て」
クラトスは、さっ、と手を差し伸べる。リフィルはその手をしっかり握り、おずおずと立ち上がった。
「・・・・っと。助かったわ・・・ありがとう・・・」
お礼を言われ、クラトスの頬は少し赤くなる。リフィルには暗くて全く見えないが。
「い、いや・・・気にするな。それより・・・ペンライト貸してやっても良いのだが・・・?」
クラトスが首にかけていた小さなペンライトをひょいっと取り、リフィルに差し出す。
「私は平気ですっ、貴方が使いなさいよ。貴方の物なのだから」
と、リフィルが否定したが。クラトスは自分の首にペンライトの紐をを通そうとしなかった。
それどころか彼は、ペンライトに結ばれた紐を目の前の少女の首にひょいっと通した。リフィルの胸の下辺りで、ペンライトが小さく光る。

電気を点けろ・・・と言えば済むことなのだが、この図書館は外からの音・光が一切と言っていいほど入ってこない。おまけに夜間の使用時以外は電気の使用禁止となっている。
だから、早朝や天候の悪い日はペンライトや自分用の電気を持ってくるのだ。

「あ、ありがとう。必ず返すから・・・」
「・・・・・・早く学級の指定文庫本と、お前のお目当ての本を探すぞ」
お礼言ったのに・・・と、クラトスの見えない所で頬を膨らます。
「クラトスって・・・・・・不器用よね・・・」


* * * * * * * * * * 


図書館前では。
「あら・・・?鍵が開いてるわ。誰か居るのかしら?」
落ち着いた言葉遣いでひっそり呟いたのは、保健担当のミント・アドネードだった。
彼女は養護担当と同時に、図書館の管理も任せられている。
何故早朝から図書館の鍵が開いているのか、此処に誰か居るのか、疑問が浮かんでくる。
おそるおそる、此処の重い扉を開けようとすると。

「ミント先生~」
誰かに呼ばれる。怪我でもしたのだろうか。
「あらら・・・・図書館は後回しね・・・一応鍵をかけておきましょうか」
ミントのみが所持している、もうひとつの図書館の鍵。彼女はポケットから取り出すと、重い扉の鍵穴に差込んだ。
鍵は見事ぴったりとはまり、そのまま回すとガチャっと音がした。
「ふぅ・・・後からもう一回来て見ましょうかね」

ミントはそのまま背を向け、てってけと歩いていった。


* * * * * * * * * * 


「アーチェ、そろそろ教室に行かないと。次に間に合わないわ」
屋上でたそがれているアーチェを、リアが教室に戻るよう促す。
「あぁ、もうこんな時間かぁ・・・そうだね、戻ろっか」
「もうすぐチャイムが鳴ってしまうわ。急がないと」
「箒で飛んでいけばいいじゃん?」

アーチェは、自分の背後にある大きな掃除道具入れを見つけた。今はもう使われていないのだろうか。あちらこちらに張り付いている埃が酷い。2人とも咳をゴホゴホと出す。
「けほっけほっ・・ゴホッ・・こんな汚い箒に乗って、クラスの人に迷惑かけないでよ?」
「分かってるって♪・・・・ゴホッ・・・・・・おわっと、チャイム鳴りそう!!」


キーンコーンカーンコーン。
2度目に聞くリズムが流れてくる。
「アーチェ、急いで」
「りょーかい!」
アーチェが箒に跨ると、不思議なことに、箒が宙に浮いた。
そして。そのまま猛スピードを出し、箒を自由自在に操りながら教室へと飛ばしていった。

「私も行かなきゃ」
リアもそのあとをゆっくり追いかけていった。強い思いを込めながら。
(今年こそは、見えるといいな・・・・大丈夫よね、アーチェが一緒のクラスだものね・・・)


アーチェの乗った箒は、びゅんびゅんと音を立て、強風を起こしながら教室の窓を、扉を、飛び去っていく。
「おわっと~、何だぁ~!?」
「ごっめーん!後で食券2枚あげるからー!」

急な突風に驚かされたぜロスの後ろで、アーチェは器用にゼロスの立っている方向へと体を向ける。

「おう、ありがとー・・・・・・って食券2枚じゃ水しか買えねーだろ!」
「あはは~、ごめんなさーい☆」
そのままアーチェは飛んでいった。


「ほ・・・・箒で宙浮いてるぜ・・・」
風でボサボサになった紅の髪を、手ぐしでさらっと解す。

「あぁ・・・・ごめんなさい、ごめんなさいっ」
ゼロスの横でリアが必死に頭を下げる。ゼロスには、頭を下げているリアの姿は全く見えていない。
「まぁいいや、さっさと教室行こ・・・・」
「あうぅ・・・まただわ・・・また気付かれなかった・・・がくっ・・」


* * * * * * * * * *
 

「ハーイ。では2時間目の授業、つまり中学部最初の授業を始めまーす。では挨拶を・・・おや?」
A組にて。ジェイドがクラスの異変に気付く。アーチェが疲れ果てた表情で、しかも一番前の席でゼェゼェハァハァ言ってるのはともかくとして。
「まさかあの子が遅刻するとは・・・。槍でも降るのでしょうかね?」

女子列の一番後ろの席に誰も座っていない。今日は出席の筈なのに。
(私のことではなさそうね・・・。私の後ろの席の人の事かしら?)
リアはホッとした、でもどこか哀しげな表情で自分の席に座る。

「リフィルさんは、一体何処へ行ってしまったのでしょうねぇ?」

D組でも同じような事が起きていた。
「先生、クラトスが居ないぜ?」
一人の男子生徒に言われ、ハロルドは初めて気付く。
「あら・・・本当だわ。私の実験台になりたいのかしらね」

「何故にクラトスさんを実験台にされるのですか?」
すずにズバッと言われるも、ハロルドは喋り続ける。

「このハロルド様を担任に持ちながら、中学部一番最初の授業に遅刻したんだからね。減点はかなり大きいわよ♪」

「減点と実験は一緒なのですね」
「すずちゃん・・・違うわよ・・・・」


* * * * * * * * * * 


真っ暗な空間に、2人の新入生徒が閉じ込められていた。
本が大量に立ち並び、外からの光も、音も、一切入ってこない真っ暗な空間。

ガチャガチャ、と外から掛けられた鍵を、内側から無理矢理外すような煩い音が図書館中に響く。
実際そうなのだが。
「・・・どう?」

音の元をずっと見ていた銀髪の女子生徒が、隣でガチャガチャ鳴らしている青年に話し掛ける。
その煩い音を出していた鳶色の髪の青年は少女の方を向き、首を横に振った。

「駄目だな・・・外から鍵が掛けられてしまっている」

「そんな・・・それじゃあ、誰かが外から鍵を開けるまでは、此処から出られない、と言うの?」
青年―クラトスは、少女―リフィルに向かって言った。
「そうだな・・・・」

「もう授業が始まってるって言うのに、私としたことが・・・愚かだわ・・」

「諦めるな。図書館内の何処かには、本を借りる手続きを行う為のカウンターがある筈だ。そこに予備の鍵があるかもしれん」
図書館に閉じ込められ、授業遅刻、おまけに図書館内は真っ暗。
この状況で、冷静にものが言えるクラトスが羨ましい。

「私が行って、取ってくるから。お前はそこで待っていろ」
クラトスがこの場を離れようと、一歩踏み出すと。

自分の制服の袖・肘辺りを、弱い力で引っ張られる感覚がした。
「・・・・・・・どうした?」

袖を引っ張っているのはリフィルだった。何も話さない。話そうとしない。
「・・・・で」
小さな声で呟いた。


続きます、またいつか(待て

あとがき という名の反省

こんばんは、雛姫です。かなり時間が空いてしまいました;反省しております。
学校でもちょくちょく考えていたのですがね・・・・・・やはり大学受験には勝てません。
そしてこれが遅投稿の一番の問題点。 妹がPCデスクから退けてくれないのです(ぁ

今回から本編ということですが・・本編らしく見えませんね orz
クラリフィが混じっているのは妹の戦略です。私も好きですがね。
図書館とか最後とかは完璧なクラリフィじゃないですか?とお思いの皆様。えぇ、そうですよ(きっぱり

今回のお話はいろいろなクラスの、いろいろなキャラが出てくるので、話の切れ目切れ目(節目みたいなものです)に「*」のマークを入れてみました。これは妹のアイデアなのですよ。
ノーマ風のニックネームは考えるのが大変です。とても個性があるので。一般的なモノではいけないだろうと思い・・・
因みに一番最初に考え付いたのは「ロイどん」でした(ぁ

次回も投稿するのがかなり遅くなりそうですが。よろしくお願いします。
では、失礼致します。

コメント

こんばんわぁ
ロイどんww
九州男児みたいですね(ぇ
大学受験ですか、頑張って下さい!

おお、クラリフィがww
妹さんに話はうかがっております、姉妹そろってクラリフィ教だと(ぇ
リアが可哀想で泣けてきました・・・
頑張れ!リア ファイト!リア 負けるな!りあああああ(黙

さてさて、閉じ込められたクラトスとリフィル・・・どうなっちゃうんでしょうか
期待してますっ

ここでは初めまして、礼です。

えー・・・最初からこのお話は読ませていただいてましたが、面白いですね。

個人的にはクラリフィかな、やっぱり。
やばいです。次回が楽しみで仕方ないです。

ではでは、これからも頑張ってください。

ここでは初めまして、礼です。

えー・・・最初からこのお話は読ませていただいてましたが、面白いですね。

個人的にはクラリフィかな、やっぱり。
やばいです。次回が楽しみで仕方ないです。

ではでは、これからも頑張ってください。

コメントする