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デミテルは今日もダメだった【21】

第二十一復讐教訓「愛に壁なし」


「なんという精霊だ!契約どころか力を示すための戦いすら拒否するとは!」

浸食洞最深部。そこにある、レバーを倒すと出現する穴。その中にデミテルは
いた。

広い円錐状の部屋の中の真ん中に、デミテルは座り込んでいた。その頬は赤く
腫れ、唇も切れている。前回ウンディーネにくらったサディスティックな攻撃の
傷だ。

その傍らで赤毛の幼女型モンスター、ナーレッド族のアンは、デミテルに腫れ
上がった頬に氷を当ててあげていた。

「あのサディスティック精霊め・・・」
「スイマセン・・・ご迷惑おかけして・・・」

アンは申し訳なさそうに言った。デミテルはフンと鼻を鳴らした。

「人がわざわざここまで出向いたというのに・・・オマケに何故かあの精霊を
巡る話に三話分もの文章を使う羽目に・・・」
「・・・契約・・・諦めたほうがいいと思います・・・」

リアルな不満を漏らすデミテルを余所に、アンは呟いた。デミテルは首を傾げ
た。

「何故だ?何故あの女は契約することを拒むんだ?そしてなんであんなドSな
んだ?なんか欲求不満なのか?」
「・・・ウンディーネ様は元々気が強い精霊でした・・・ですが昔はあれほど
サディスティックではなかったんです・・・あの時までは・・・」

アンはデミテルの頬に氷を当て続けながら弱々しく語り始めた。

「あの時・・・以前の契約者と別れるまでは・・・」


・・・・・・・・・・・・
精霊三原則

一、精霊は特別な理由がある場合を除き、人間に精霊の知識を教えてはならない

二、精霊は自らの意思で、特別な理由がある場合を除き、人間界の歴史に干渉し
てはならない。

三、精霊は、いかなる理由があろうとも


人間に恋してはならない

ずっと昔。本当に大昔。まだドワーフ族が健在だったころ。まだ、召喚術が全
盛だったころ。

ウンディーネ様は一人の人間と契約をしました。それまでにも何度か人間とは
契約したことがあったそうですが


その人間は今までにない人間だったそうです。


今までの契約者は皆、戦いをする以外では精霊を呼び出すことはほとんどあり
ませんでした。

しかしその人は違った。常に精霊を・・・ウンディーネ様を召喚した状態にし、常に傍らに置きました。そして、まるで友人のように接してくれたそうです。
精霊を『武器』としてではなく、『仲間』として扱ったんです。

初めはウンディーネ様も今までにない待遇に困惑したそうですが、一緒に話し
たり、歩いたり、笑い合ったり、喧嘩したり。共に過ごすに連れて本当に楽しく
なったそうです。あとにも先にも、精霊を人間のように扱ったのは彼だけだった
そうです。

最初はただの契約者、やがて仲間、親友、そして家族のように親しくなって・
・・


そして・・・

今までにない感情が芽生えてしまった。


精霊の姿はあくまで人間にわかりやすいようにするための姿。あくまで形だけ
であり、精霊に男女異性はありません。

しかし心はあった。精霊にも人と同じ心が。

 もちろん男心と女心の境もない心。ですが、それでも


ウンディーネ様は契約者に恋してしまった。


「・・・精霊が人間に恋?」

地面に座り、淡々と話を聞いていたデミテルは、ゆっくりと尋ねた。アンはコ
クリとうなづいた。

「精霊でも人間でもモンスターでもそうらしいですが・・・とにかく『恋』と
いうのは人の心を揺れ動かすものだそうです。常に心がソワソワし、周りのこと
が見えなくなる・・・そして自然に自然界に影響を・・・」
「・・・私も五歳ぐらいの時に近所の女の子が好きになってソワソワ落ち着か
ない日々が続いたなぁ・・・」


今でも忘れない。甘酸っぱいあの頃の思い出・・・ってどうでもいいか・・・

 淡い青春を思い出すデミテルを余所に、アンの話は続いた。


 精霊王はそのことに気がついていました。契約者への思いを断ち切るようにと
、ウンディーネ様を何度も諭しましたが、ウンディーネ様は聞き入れませんでし
た。

ウンディーネ様は精霊王に言ったそうです。


例え世界を乱してでも、それでも手に入れたい大切な人が私にできたんだ、と
・・・


「よくぞそんなクサイ台詞を堂々と言ってのけたなあの女・・・」
「ハイ・・・」
「・・・・・・。」

ハイって・・・そこは否定してあげようよ・・・


デミテルは何の躊躇もなく『ハイ』と答えたアンに少し恐怖した。

「・・・それで?その後どうなったんだ?」
「・・・告白・・・したそうです・・・」

アンは未だ淡々と話を続けた。

ウンディーネ様はとても迷ったそうです。精霊が人間に告白するなど、前代未
聞。もし拒否されれば、契約の関係にある自分の居場所を失う。


 迷って迷って迷って迷って迷って迷って・・・ついに告白しました。

契約者は・・・無言でウンディーネ様を抱き寄せました。そして耳元で言った
そうです。

『私もお前が好きだ』って・・・

しかし、その次の瞬間・・・


 精霊が人間と恋することは許されぬ


そんな精霊王の言葉が聞こえたと思った矢先、一筋の青白い雷が・・・契約者
目掛けて放たれ・・・その人は・・・ウンディーネ様の目の前で・・・目の前で
・・・


「・・・消されたのか・・・」
「・・・それ以来、ウンディーネ様は人間はおろか、モンスターさえ近付かせ
ない性格になりました。誰も寄せ付けないように・・・また誰かを不幸にしない
ように・・・」


また人を好きにならないように・・・好きになってまた・・・自分の大事な人
を失わないように・・・


「馬鹿馬鹿しい。」

デミテルはザッと立ち上がった。頬の赤みは若干ある程度引いていた。

「また人を不幸にしないように・・・また人を好きになって、その人が不幸に
ならないように・・・だから契約はおろか、何が相手でも暴力的になるというの
か・・・飛んだ自惚れ女だ・・・」

デミテルは真上にある、ウンディーネがでていった穴を見つけた。

「ただ一つだけ訂正しよう・・・奴はサディストなどではない。サディストは
人を傷つけることで興奮、喜びを覚えるが、奴はそれとは逆だろう・・・」


今でもしっかりと覚えている。あの感触。温もり。笑顔。声。

何万、何億と生きてきた。この星が生まれたその時から。生まれてからずっと
、そんなものに包まれたことなどなかった。


ウンディーネは浸食洞の外にいた。島に人間達が勝手に作った港を遠目に、波
が打たれる浜辺にたたずんでいる。


人間に会うのは久しぶりだった・・・イヤ、耳が尖っていたからエルフかも知
れん・・・どちらにしても契約するつもりは更々ないが・・・


ウンディーネは浜辺に体操座りし、顔を膝の上に組んだ腕に埋めた。


もう契約などせん。もう人間と交わったりなどせん。もう二度と・・・

人間を好きになったりなどせん。

だが、どういうきっかけで人を好きになるかわからん。それならいっそ全てを
拒絶し生きた方が・・・

・・・・・・・・・

・・・あの男大丈夫だろうか。あんなに強くぶん殴るんじゃなかった・・・痛
そうだった・・・あの男・・・


「うぎゃああああ!?」


突如どこからか雄叫びが響き渡り、ウンディーネはハッと顔を上げた。彼女は
バッと、声の主がいる方を見た。

三匹のイカが、こっちに向かって波打ち際を走ってた。

・・・・・・・・・。


ってえええ!?何じゃこの絵の描写ぁ!?

浜辺を駆けるイカなど中々目にできるものではない。ウンディーネは面白そう
にこちらに走ってくるイカ達を見ていた。

やがて、先頭を走っていたイカがウンディーネの前に滑り込んで来た。

「貴様は・・・確か洞窟で『イカ3』とかいう変なギャングを結成しとる・・
・」
「ウ、ウンディーネ様!!すごいのが!!すごいのが来ますぅ!!」

イカ3のリーダーこと、スクイッド族のゴイアは息を切らし全身に傷を作って
いた。十二本の足の内一本が痛々しい流血をしている。

「貴様その怪我は・・・」

ガアアアアアアアアアアッ!!

耳をつんざくような咆哮が響き渡り、ウンディーネは思わず耳に指を突っ込ん
だ。

「な、何じゃ!?」
「お、俺達さっき、浜辺に変なでっかいコンテナがうちあげられてるの見つけ
たんです!それで開けてみたら・・・」

ゴイアの話はここで止まった。前方から巨大な豪炎が、ウンディーネ達目掛け
て飛んできたからだ。

「・・・何か今聞こえたな・・・」


デミテルは洞窟を歩いていた。再びウンディーネに会って契約を説得するため
だ。

「何かの・・・咆哮?」
「この島にはそんなことが出来るモンスターはいませんよ。いるのは私の種族と、巨大イカと、あとなんか色が赤いナメクジっぽいモンスターだけ・・・」

アンはデミテルの背後をフワフワと浮きながら言った。デミテルは咆哮が聞こ
えた方を見た。

「おい。この先はどうなってる?」
「えっと・・・確か浜辺が・・・」

その時、また何かの咆哮が響いた。それと同時に何か巨大なモノが歩くような
、それこそ怪獣王ゴ○ラが歩いているようなドシンドシンというような音。

「・・・どう考えてもイカやらナメクジが出せる鳴き声と足音じゃないな・・
・」
「足音はアレですが・・・あれぐらいの鳴き声だったら出せる奴たまにいます
よ。ナメクジで。」
「ナメクジがか!?ナメクジがガアアアアアアアアアアッ!!って叫ぶのか!
?」
「主に産卵時にあーやって泣きます。」
「海亀の産卵!?」

デミテル達がそんな掛け合いをしていたころ。

ウンディーネは全身ボロボロの状態で、剣にもたれ掛かり、辛うじて立ってい
た。服の一部が裂け、後頭部に生えている二本の角の一本が折れていた。

「・・・クソッタレ・・・がぁ・・・何故こんなバカ強い奴が・・・」

ウンディーネは眼前に立つ巨大な生き物を見上げた。

シルバードラゴン。全身に銀色の鱗を持ち、背中に相対の翼を持つ。その巨体
は軽く七、八メートルはある。圧巻させるその姿に、ウンディーネは一歩後ろに
下がった。


こんな生き物を船で運ぼうとは・・・人間のすることはわからんわ・・・


シルバードラゴンはつぶらな瞳でウンディーネを見下ろしていた。その遥か後
方には、中心に亀裂が入った一隻の難破船が浜辺に打ち上げられている。


 船の側面にはこう書かれていた。


モンスター派遣雇用センター輸出船


 一口にモンスターと言っても、千差万別であり、リミィやフトソンのように知
能を有する者もいれば、そこらの動物と同じく知能のカケラもない輩もいる。

このシルバードラゴンは正にそれに値した。おまけにずっと狭いコンテナに閉
じ込められ、ストレスと空腹に満ちていた。

さらには、もうずっと家族と離れ離れのためホームシックになりイライラして
いる。次いで奥歯に虫歯が出来てイライラし、ノミが体に住み着き全身痒くなり
イライラし、季節外れの花粉症でイライラし、さらには最近舌を噛んで口内炎が
できてめちゃくちゃイライラしていた。もし彼に髪があれば円形脱毛症に悩まさ
れていたであろう。


・・・ともかく、こんなモンスターを野放しにしておけばこの島の食物連鎖に
問題が生じ、生体系が崩れてしまう・・・

・・・この島は滅びる!

ウンディーネは剣の矛先をシルバードラゴンに向けた。

「アイストーネード!!」

噴き上がる冷気と共に巨大な竜巻が出現し、シルバードラゴンを包み込んだ。

しかしダメージはあまりなかった。竜巻が晴れると、ドラゴンは翼や足に氷が
張り付き、全身に切り傷が出来ていたが、体が大きすぎる為目に見えたダメージ
はなかった。

「チッ・・・ぶわ!?」

ウンディーネはドラゴンに蹴り飛ばされた。


おのれ・・・


ウンディーネは砂浜に突っ伏していた。少しずつ、ドラゴンの足音が迫ってく
る音が響く。


何かが息を思いきり吸い込む音がした。ドラゴンが豪炎を吐く準備をしている
のだと、ウンディーネはわかった。


・・・確か精霊は肉体が保てなくなると消滅するんだったか・・・『死』とう
ものがないかわりに・・・

 ・・・精霊にも『死』があったら・・・もしあれば奴にまた逢えるのに・
・・

また・・・あの暖かい笑顔が見れるのに・・・

わらわも死にたい・・・『死』が欲しい・・・そして


またお前に会いたい・・・


彼女は迫り来る熱を感じた。もうじき炎が体を包む。

 ウンディーネはうつぶせになったまま、小さく、弱々しく、呟いた。

「・・・精霊も・・・願えば・・・死ねるかのぅ・・・」

・・・・・・・・・・・・


「・・・そんなモノ願っているヒマがあるならば」

ウンディーネはハッと顔を上げた。足に何かが巻き付いた感覚がする。

「そんなモノ願うヒマがあるならとっとと立てぇ!!」

デミテルはウンディーネの右足に巻き付いたムチを思い切り引き抜いた。間一髪
、ウンディーネは宙を舞い、ドラゴンの炎は彼女の頬をかすめた。

ウンディーネはデミテルの右上から彼目掛けて落下してきた。デミテルはそれ
を・・・

左下に受け流した。

「ぶっふお!?」

ウンディーネは顔面から砂浜に突っ込んだ。

「・・・♪右からぁ~、右からぁ~、何かが来てるぅ~、私はそれを~・・・
左に受け流」
「やかましいわ愚民がぁ!?」

ウンディーネは立ち上がり様アッパーカットをデミテルにぶちかました。拳は
顎にクリーンヒットし、彼は転倒した。

「げほ!ごほ!き、貴様ぁ!!人がせっかく助けてやったというのに、その礼
がアッパーカットかぁ!?」
「何が助けたじゃあ!?危うく首の骨が折れるところだったわぁ!!貴様にと
どめを刺されるところだったわ!!つーか今何の歌歌ってたんだ!?」
「安心しろ。人は皆人生の中で何度も心折れる経験をするんだ。そこからめげ
ずにまっすぐ立とうとするから人は強くなれるんだ。精霊しかり。ハーフエルフ
しかりだ。」
「心じゃなくて骨!!首の骨!!つーかもう身も心も折れそうなんじゃこっち
は!!」
「首の骨が折れたならばアレだよ・・・・・・・・・・・・アレ・・・・・・
やっぱりもうダメだな。」
「ダメなのは貴様の考え方・・・」


次の瞬間、ドラゴンが翼で巻き起こした突風で二人は吹き飛ばされた。

ウンディーネは見た。自分の体が浜辺の岩に迫っていくのを。


ぶつか・・・!

その時。誰かがウンディーネの手を引いた。その手は彼女を空中で引き込み、
彼女を抱き込んだ。

ウンディーネは岩にぶつかった衝撃を感じた。だが痛みはない。デミテルが岩
と彼女の間に入り、クッションとなったからだ。

デミテルは軽く血を吐きながら着地し、ウンディーネを足元に置いた。

「くそ・・・アッパーカットの次にこれはキツイな・・・」
「貴様・・・なぜ・・・」
「・・・悪いが・・・」

デミテルはこちらに迫り来るドラゴンに歩みを進めた。

「悪いが・・・女が眼前でボロボロにされているのを黙って見ているほど・・
・私は非情ではない・・・私は悪人だが・・・心はピュアだからな・・・」
「やめろ。」

ウンディーネの心の奥底から、無意識に声が出た。表情が引きつっている。

「私に構うな!!」
 「なぜだ?」
「なぜって・・・!」

もし・・・もし仮にお前のことを好きになってしまったら・・・もし・・・

 私に構うな。構わないでくれ。私はもう・・・

 私のせいで誰かを殺したくな・・・


「自惚れるな。」
「え?」

デミテルはマントについた砂を払いながら、冷たく言った。その目は、まっす
ぐとシルバードラゴンを睨み付けていた。

「貴様は何かのきっかけで人を好きになるのが怖いんだろ。それでまた誰かを
殺してしまうかもしれないから・・・だから契約を拒む。その考え方が自惚れて
いるというのだ。」

デミテルはそっと人差し指を唇につけた。

「人を好きになるというのはそんな簡単なことではない。お前は前に恋した奴
にどれくらいの時間をかけて恋をした?人を好きになるというのは・・・」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


『ねぇデミテルさん?』
『なんですかリアお嬢様?』
『もしも私に好きな男の子が出来たらどうする?』
『別にどうもしませんが?』
『・・・え?どうも・・・しないの?』
『はい。別にどうもしませんが。あっ、なんなら僕応援しますよ。雇い主の娘
が幸せになるのは使用人の喜びですから。イヤ待てよ?果たしてあの親バカの師
匠が娘に恋愛させるだろうか・・・?あの人のことだから相手の男の家ごとサイ
クロンで吹き飛ばしちゃうかも・・・』
『・・・いい。』
『え?』
『もういいから!!この話は!!』

そう言って、七歳の彼女は肩を怒らしながら部屋を出ていった。口を真一文字
に結んで。ちょっぴり目に涙をためながら。

なぜ泣いていたか。その意味を知るのはずっと後になる。ずっと。


「・・・人を好きになるというのは複雑だ。相手のいい所も、悪い所も、そし
て相手の全てを知って・・・すべてを受け入れて・・・長い時間をかけて・・・その時・・・・・・その時初めて人を本当に好きになれる。そんな簡単に人は人を好きになどならん!!同
時に・・・!」

 デミテルは指先をドラゴンにビッと向けた。

「私は断じて貴様のような奴には恋はしないから安心しろ!だからあとで契約
せい!サンダーブレード!!」

鋭い閃光が光り、同時に雷がドラゴンの脳天に直撃した。

デミテル本人としては我ながらかなりカッコイイシーンである。これでドラゴ
ンが倒れたりしていればかっこよかったのだが・・・

「・・・効いておらんな・・・」
「・・・ああ・・・効いてないな・・・」

ドラゴンは平然と砂浜に突っ立っており、キョトンとした顔をしながら右前足
で稲妻が落ちた額をポリポリとかいていた。

「あれだけカッコつけた説教を飛ばしといて・・・しまりが悪い・・・」
「やかましい!人には出来ることと出来ないことがあるんだ!!これが私の限界
なんだよ!!」
「偉そうに・・・」
「ああ!?なんだとこのサディスティック!?」
「なんじゃと!?誰がサディスティックじゃ!?わらわはアレじゃ!少々人が
痛々しくされているのを見ているとある種の興奮を覚えるだけじゃ!!」
「それをサディスティックと言うんだよこのアマがぁ!!」
「・・・・・・・・。」

シルバードラゴンは冷や汗をかきながら、困ったようにデミテル達を見下ろし
ていた。彼等が自分を無視し、口喧嘩を始めてしまったからだ。

「大体貴様なんで精霊のくせにその辺のモンスターにボロボロにされとるんだ
!?精霊だろ!?精霊のくせに死にかけるってどういうことだ!?」
「精霊にだってできることとできないことがあるんじゃ!!」
「そういう限界の壁を乗り越えてこそ人は強くなれ・・・」
「ガアアアアアアアア!!」

あまりにも無視するのでドラゴンは彼らの耳元で思い切り吠えてみた。しかし
・・・

「やかましいわぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ぶがあああ!?」

デミテルとウンディーネのダブルアッパーカットがドラゴンの顎に直撃した。

ドラゴンは痛々しく泣き叫びながらひっくり返ってしまった。

「人が話をしている時は横から口を出さないのが常識だろうが?え?社会の常
識だろうが?社会の常識もわきまえんような奴はなぁ、もういっぺん人生をゼロ
からやり直せ!!馬鹿が!!」
「・・・・・・。」
「おいサディスティック精霊。まだ話は終わっとらんぞ?今日は朝まで人間の
限界の壁について朝まで徹底生討論・・・」
「・・・いや・・・あの・・・」
「なんだ?己の敗北を認めたか?」
「ドラゴン気絶しとる・・・」
「は?それはお前アレ、我々がさっき社会の常識を叩き込むために拳と魂を顎
に叩き込んで・・・ってえ?」

デミテルは改めて先程アッパーカットをかました生き物を見た。シルバードラ
ゴンは半泣きになりながらひっくり返って震えていた。

デミテルはしばらくジッとその様を眺めていたが、しばらくして、頭をボリボ
リと掻いたあと、こう呟いた。

「・・・まあ・・・その・・・アレだ・・・アレ・・・・・・・・・・・・・
・・雨降って地固まる?」
「それを言うなら結果オーライとかの方が正しいと思うが・・・」
「む・・・」
「くく・・・」

ウンディーネは顔をうつむかせると、笑いをこらえた。あまりにもお粗末な戦
いの終焉に、笑うしかなかった。

 デミテルは途端に不機嫌になった。

「おい!笑うな!誰のおかげで助かったと・・・」
「べ、別に・・・」

ウンディーネは軽く涙目になっていた。

「貴様のことを笑っとるんじやない・・・ただ・・・このグダグタの状況がお
かしいのなんのって・・・くく・・・くははははは!!」

とうとうウンディーネは大爆笑した。腹を抱え、身をよじりながら笑っている

デミテルは最初なんとも決まりが悪そうにムスッとしていた。

「ウンディーネ様が・・・」

その様子を岩陰から隠れ覗いていたアンは、小さく呟いた。

「あのウンディーネ様がお腹から笑ってる・・・・・・初めて見た・・・あん
なに笑ってるとこ・・・」

「・・・できない?」
「できん・・・というか無理じゃ・・・契約の指輪も無しに契約はできん・・
・」

デミテル達は浜辺の上に横たわったシルバードラゴンに座っていた。今まさに
、デミテルの今までの所業が無駄であったことが明るみに出たところだ。

「・・・ないとダメなのか・・・?どうしても?」
「ないとダメ。」
「そんなケチなことを・・・」
「ケチとかそういう問題じゃない!無理なものは無理!とゆうかなんで指輪も
なしに契約をしようなどと・・・」
「・・・ということは私が今まで精霊と契約する為に様々な場所を巡ったのは
・・・」

デミテルはガックリと肩を落とした。自分のやってきたことは全て無駄だった
という事実。それが重くのしかかってきた。

ウンディーネはハァーとため息をついた。

「まったく・・・人がせっかく契約する気になってやったというのに・・・」
「・・・何故する気になったんだ?」
「貴様のような奴とは死んでも恋はせんと確信したから。」
「・・・・・・。」

デミテルはなぜだかとっても悔しくなった。

「そう気を落とさないでください・・・あ。マグロ食べます?」

アンはデミテルの横でフワフワと浮きながら、缶詰をデミテルに差し出してや
った。

「・・・お前はマグロの親善大使か?・・・というかコレ・・・」

デミテルはアンの手に乗る缶詰のパッケージを見た。

「コレ・・・賞味期限が一昨日・・・」
「ふええ!?」

アンは急いで缶の裏にある表示を確認した。

「そんな・・・私昨日同じ日に買ったの食べちゃった・・・」
「・・・・・・」

アンはヒュルヒュルと砂浜に下りると、がっくりとしてしまった。

「そんな・・・私が信じてきたものが全てフィクションだったなんて・・・マ
グロめ・・・マグロめぇ・・・」
「マグロは悪くないだろう・・・どっちかというと悪いのはお前の頭だ・・・
というかどこで買ってきたんだ・・・?」

砂浜に顔を埋めるアンにデミテルは的確な意見と質問を述べた。

「おい!余計なマネしてくれやがってぇ!!」

威勢のいい声がした。見れば、イカが三匹こちらを睨み付けていた。

「お前らは確か、幼女をいじめることによってある種の興奮を覚えるイカの変態
ギャング、通称イカトリオ・・・」
「イカトリオじゃねぇ!イカ3だぁ!」
「変態であることは否定しないんだなお前ら・・・」

デミテルの呟きを、イカ3は無視した。

三匹は意味もなく組み体操のピラミッドを形取りながら、完璧に語調を合わせ
ながら罵って来た。

「お前なんていなくたってなぁ、俺達イカ3がこんなドラゴン、『イカトリオジ
ェットストリームアタック』で仕留めてたのさ!それなのに出番を横取りしやが
って・・・」

イカ3はデミテルが椅子代わりにするシルバードラゴンをたくさんの足でつつ
いた。

一瞬、ドラゴンの眉間が動いた。その途端

「退避ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

と叫び、ピラミッド体制のままムーンウォークで洞窟へ逃亡してしまった。

「あれのどこがギャングだ・・・」
「・・・ほれ。」
「ん?」

ウンディーネは懐から一冊の本を取り出し、デミテルに手渡した。水色で、ど
こか薄汚れた革製の表紙の本。

「水系の魔術最強の術、ダイダルウェーブの書。契約の代わりにくれてやる。」
「・・・・・・。」

デミテルは本の表紙をジッと見つめると、だんだん泣きたくなってきた。


なんかもう嫌になってきた・・・こんな同情の品まで貰って・・・私の悪人と
しての品格はもう一かけらもない・・・


「・・・目的は?」
「え?」
「わらわと契約しようとしたかった目的はなんなんじゃ?」

ウンディーネは静かに尋ねた。デミテルは正直に返答した。

「復讐。」
「復讐?」

デミテルはコクリとうなづいた。

「私を殺そうとした奴らがいてな。生死の境をさ迷わされた。そいつらへの報
復のためだ・・・驚いたか?貴様の目の前にいるのは、憎しみのために人を殺そ
うとしている男だ。」

デミテルは本を懐にしまうと、ゆっくりと立ち上がった。そして空を見上げた。腹が立つ程の晴天だった。

「だがどうにもこうにも空回りしてばかりだ・・・変な真っ白い無駄に高額な
モンスターを半場無理矢理雇わされたり、道に落ちてるカレーが爆発したり、大
道芸やらされたり、見ず知らずの女の財布探すためにレースに参加したり、変な
口うるさいインコにまとわりつかれたり、エロ本拾ってくる馬鹿なガキの世話焼
いたり、ダジャレ大会したり・・・・・・もう復讐なんてやめてしまおうか・・
・」
「・・・楽しそうではないか。」
「え?」
「ずいぶんと楽しそうな復讐の旅ではないか・・・」

ウンディーネは立ち上がると、デミテルに踵を返した。

「わらわも・・・交わりたかったぞ・・・その旅に・・・」

ウンディーネはゆっくりと洞窟に向けて歩き出した。デミテルはしばらくその
後ろ姿を見ていたが、彼も同じく踵を返し、港の方へ歩き出した。

「そうだな・・・」

デミテルはまた歩きながら空を見上げた。

「お前のような女なら・・・一緒に旅してもよかったかもしれん・・・」


モンスター派遣雇用センター

責任者:リド=キャスパール

「・・・これなんなんだな?」

フトソンは浜辺に打ち上げられている巨大なコンテナに書かれた文章を読んだ。コンテナの中心には『モンスター派遣雇用センター』のロゴマークつきだった。


 そのコンテナごしに、フトソンは見た。浜辺を辿るようにしてこちらに向かう
、一人のハーフエルフを。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

その頃。精霊の洞窟にて。

今まさに、時の英雄達と土の精霊ノームとの契約を賭けた戦いが・・・


終わった。


「よかったですねクラースさん。無事ノームと契約できて。」
「ああ。またダジャレ大会をしようなんて持ち掛けられたらどうしようかと思
ったがな・・・」

ノームの部屋の扉を開け外に出ながら、クラースは疲れたように言った。契約
をするとそれなりに疲労感を煽るらしい。

「大丈夫ですよクラースさん♪」

アップルグミをミントから受け取りながら、クレスは楽しげに言った。

「もしまたそうなっても・・・また僕が戦います♪」
「・・・確かイフリートへのとどめの一撃は『ハーピィが法被(はっぴ)を着
る』でしたっけ・・・」

自分もグミを頬張りながら、ミントは呆れるように言った。クレスは誇らしげ
だったが、他のメンバーの反応は明らかに冷めていた。

アーチェがそれを察したか、慌てて話題を切り替えた。

「そ、そいえばアレだよね!この洞窟の途中にあった扉変な扉だったね!『俺
は壁じゃない!カベルンルンさ!』とか言ってさ!それに・・・!」

突然アーチェの視線が一カ所にくぎづけになっている。かと思った矢先、跳ね
るように飛び退けてクレスの背中に隠れてしまった。

「ど、どうしたの?」
「あ、あれ・・・」

アーチェは洞窟の角を恐る恐る指差した。

骨。そこにはたくさんの骨が山積みにされていた。しかもよく見れば・・・

「まさか・・・コレは・・・人骨?」

そろりそろりと骨の山に近づきながら、クラースは呟いた。


人骨ではなかった。しかし、限りなく人骨に近い。人の骨にしてはかなり大き
めだ。それはまるで・・・

「・・・オーガとか・・・ヒルジャイアント系のモンスター・・・」

骨を摘みあげながら呟くクラースは気付かなかった。足元の岩に書かれた文章
に。

―筋肉ダルマ達を、焼いて食べました。とっても美味しかったです♪―

―クレイアイドル族のディック―

つづく

あとがき
まじめな話って難しいです。我ながらどうも内容がクサイ感じがして難しいです。今回の話つまらなかったらごめんなさい。

読者の皆様はまじめな話と笑える話、どちらかというとどっちが好きですか?

答えてくれると嬉しいです。

答えてくれた方は人生が栄華の極みです。今すぐ当選金額最高六億円のサッカーくじを買いに走りだしましょう。向かう途中で五十円玉が確実に拾えます・・・


・・・ごめんなさい嘘です。やっぱり嘘です。でも本当に五十円玉拾ったら・・・

貯金しましょう。


次回  第二十二復讐教訓「相手が誰か忘れたときは 適当に相槌しとけば大丈夫」

コメント

おはこんにちこんばんは。
もう一週間の日課になってこのサイトに出入りする原因になってしまったtauyukiseです。
私は、くさい話がないとこの小説はやっていけないとおもってます。 まぁ、全部を十とすると
シリアスor感動系4、ギャグが6といったところでしょうか。しかし、話の設定が読者にわかりやすく、それっぽい感じでとってもいいです。
物語のほうも中盤に差し掛かって、いかにもクレスたちと対峙or対談したら面白そうなんですけど。
では、そろそろ失礼します。安定した小説を今後も期待します。

おはこんにちこんばんは。
もう一週間の日課になってこのサイトに出入りする原因になってしまったtauyukiseです。
私は、くさい話がないとこの小説はやっていけないとおもってます。 まぁ、全部を十とすると
シリアスor感動系4、ギャグが6といったところでしょうか。しかし、話の設定が読者にわかりやすく、それっぽい感じでとってもいいです。
物語のほうも中盤に差し掛かって、いかにもクレスたちと対峙or対談したら面白そうなんですけど。
では、そろそろ失礼します。安定した小説を今後も期待します。

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