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TALES OF THE NIGHT【2】

■TALES OF THE NIGHT■

「第1章~月と共に始まった夜明け」

"キーンコーンカーンコーン"
昼も少し過ぎた頃、学院の中に鐘の音が響く。
その場所――、グランディア王立学院は都市の中で
最も大きな建物(城を除く)なのだが、その音は
学院全体へと流れていく。
続けて、一つの教室から声が聞こえてきた。
「…よし!今日はここまで。気を付けて帰るように」
声の主は一人の教師――、それも若い青年だ。
首のあたりまであるやや長めの茶髪にダークブルーの瞳を持つ。
肩から足まで包むような、一見すると法衣か何かに見える服を着ており、
青を基調としたそれには所々に文様が描かれている。
彼の向かいには20人ほどの生徒が立っており、
「ありがとう御座いましたっ!」
と、声をそろえて言うと思い思いに帰り始めた。
その中で一人だけ彼の方へ向かってくる人物がいた。
長い赤髪に緑の瞳をもつ可愛らしい少女だ。
年は見かけからして13、4。強気そうな印象があるのは気のせいではないだろう。
「マグナス先生っ!今日も練習するんですか?」
マグナスと呼ばれた教師の青年はその声に振り返る。
「あぁ、先に行っててくれるかい?僕もすぐに行くから」
そう優しげに促すと、彼女は一足先に教室を出て行った。
「セフィラは…また剣の練習へ?」
マグナスがセフィラと呼ばれた少女を見送ったあと、
一人の少年が彼に問いかけてきた。
銀色に輝くやや長い髪に黒い瞳をもつ、無表情な少年だ。
手にはさっきまで読んでいたであろう本を持ち、こちらを見ていた。
「ああ、毎日あの調子さ……彼女は本当に熱心だよ。
そういえば、アレンはこのまま帰るのかい?」
マグナスは目の前を真っ直ぐ見据えて答える。
そして、アレンと呼ばれた少年は無言で頷くと教室を去った。
しばらくその姿を見ていたマグナスだが、自分も荷物をまとめて
教室を出る。
アレンは学院の生徒の仲でもかなり無口で、ほとんど感情を表に出すことがなく、
友達と呼べる生徒も少なかった。
だが、2年前にマグナスが担任となったことにより、
彼は明るさを少しづつだが、見せるようになった。
「……いつもと変わらないな」
そう、いつもと全く変わらなかった。
マグナスはセフィラの待つ練習場へと足を進めつつ、そう呟いていた。

この街―――、グランディアは周囲を山々に囲まれている王城都市で、
現王であるルシファー・フォン・R・グランディアが政治を行っている。
長年の敵国であるリーメル国、フェンリル国とは休戦状態にあり、
少しづつではあるが、和平関係を取り戻しつつある。
(早いなー…もう始めてるじゃないか)
学院内にある剣術・武術の練習場へやってきたマグナスは、
既に木剣を手にして練習を始めていたセフィラを見た。
「昇竜斬っ!」
その掛け声を叫びつつ彼女が使っているのは、マグナスが
教えている剣の流派「リアード流」の基本的な特技で、
斬り上げの後、振り下ろしと共に斬撃を放つ技だ。
驚いたことにセフィラは、習い始めてわずか一週間でその技を
体得してしまった。
「あっ!先生!」
マグナスの姿を見つけた彼女は件を鞘に収めると、駆け寄ってきた。
やはりセフィラには剣士としての才能があるのだろうか……。
(でも…彼女にはまだ重過ぎる役割といってもいい…)
一言に「剣士」といっても、言い換えれば「人斬り」と同じことだ。
もちろん、三国の間では犯罪と見なされない限り、人斬りは
罪に問われないことになってはいるが、剣を持つ人間自身に問題が生じることもある。
簡単に言うと、人を斬るのが怖いか―そうでないかの違いだ。
(そうさ…僕だって最初は人を斬るのが怖かったんだ…)
その考えをめぐらしていたのはほんの数秒だった。
「セフィラ。一つ聞いてもいいかい?」
マグナスは考えを振り切ると、セフィラに問いかけた。
「何ですか?先生」
「君はもし剣士になったら、その剣で誰を守りたい?」
たった今考え付いたことだが、これ以外に言うことはない。
「もちろん、お父さんやお母さん…それに大切な友達……。
あと…一番守ってあげたいのは…」
「…一番守ってあげたいのは?」
彼は目を細めて、聞き逃さないようにする。
「…マグナス先生っ!」
セフィラの口からその言葉が出るとは思いもしなかった。
当の彼女は顔を真っ赤にして下を向いている。
「…っふ」
驚いていたマグナスの顔に微笑が浮かぶ。
そして―――――。
「あはははははっ!」
突然、声をあげて笑い出した。
もちろんそれは、ただの笑いなどではない。
言い方を変えれば、「ほめ笑い」とでも言うのだろうか。
「…先生?」
ひとしきり笑ったあと、マグナスは彼女へ向き直り、こう言った。
「いつかきっと…僕の背を任せられるほどになってほしい…。
僕の口からは剣士になってはいけないなんて言えないんだ。
だから……」
そこで一旦言葉を切って、こう続けた。
「剣を持つことに後悔がないくらい…強くなるんだ」
それを聞いて、セフィラは大きく頷き、マグナスは安心したように
笑みを浮かべた。

一方――――。

「リース隊長、訓練の方終了しましたっ!!」
街の中央に位置する軍の訓練所に数十名の軍人の声が響く。
その声の向かいに立っているのは、グランディア軍第一師団長の
リース・セフィアだ。
真紅の短髪に黒い瞳をもつ若々しい男性だ。
所々に模様が描かれた軍服を着ており、腰のところで
とめられている。
「隊長じゃないくて師団長と呼べって言…・・・まぁいい。俺がこれで帰るが、
残りの者はやるべきことをやっておけ。いいな?」
「はいっ!!」
リースの言葉に、訓練生の軍人達が声を揃えて返事をする。
そして、右手を顔の横にあてて敬礼をした。
当の彼は、ふと何かの視線が気になって横を向いた。
「お父さーん!」
腰まであるピンクの髪の毛に暗い琥珀色の瞳をもつ少女がリースに
向かって手を振っていた。
羽の模様があるシャツにリースの服と同じ色のズボンを履いている。
その姿を見て、やれやれといった表情で声をかける。
「ルイン…今日も来てたのか」
彼はルインと呼んだ自分の娘に、あくまで優しげに言った。
「だって、お父さんが心配なんだもん。それに、いつもディシスがついて来てくれるし」
ルインはにこっと笑うと、隣にいた少年を見る。
ディシスと呼ばれた少年は彼女と同じくらい長い黒髪に蒼い瞳を持つ。
年は…十歳前後だろうか。それにしても、服装を見るととてもそうは見えない。
まるで旅人のような―――黒で統一した服装に、マントのような服を羽織っている。
「街も危険ってわけじゃないけどな。まぁ、別に構わないが…」
リースは納得したように大きく頷いた。
彼は魔術を習っており、その上剣も扱えるためルインのよきパートナーだ。
だが、当のディシスは――――。
「いや…でも僕はマグナス先生みたいに剣も魔法もうまく扱えないし…」
もっともな意見だ。そもそも、10歳で剣も魔法も扱えたら苦労はしないだろう。
「ま、何をするにも時間が必要。大器晩成ってやつさ」
リースはそこで話を切ると、家に向かって歩き出した。
二人もその後を追うようについていった。

「……人によって守るものって色々なんですね」
マグナスとセフィラは学院を後にすると、家へと向かっていた。
「それは当然さ。場合によっては敵を守らないといけないこともあるんだからね。
これはリースに聞いたんだけど」
現に軍人として生きているリースにとっては、何度も経験してることなのだろう。
もっとも、今の彼女に敵を守るということが理解できるのかはわからないが。
「先生もその剣で人を守ってきたんですか?」
セフィラが、マグナスの右腰につけられている剣を指す。
鞘の造りを見ただけでも相当の剣なのだろうが―――。
「そうだけど…この"ブレイザー"は正直あまり使いたくはないんだ。
魔剣は使う者に応えるとも言う。使う者が邪念を持てば剣は人の心を飲み込んでしまう」
紅い刃をもつその剣は、その名の示す通り
「炎」を思わせる。
「確か…心の強さは剣の強さとなる…。そうでしたよね?」
彼女の言ったことは、剣の修行を始めた初日にマグナスが教えたことだ。
それを聞いてマグナスは「その通り」と感心したように頷いた。
「まぁ、でも……自分の剣を選ぶのはまだまだ先だろうね」
そこで言葉を切って、再び歩き出した。
セフィラはまだ真剣すら持ったことがないから仕方がないのだろう。
そのあとを複雑な表情でついていった。


* * *


薄暗い空間に、一人の人物が立っている。
そこは一見すると何かの神殿のようにも思える場所だ。
「…いよいよか…」
その人物が小さく呟く。
窓から差し込む月明かりで一瞬だけ顔があらわになった。
やや長い青髪に真紅の瞳をもつ青年…。
そして、その姿は誰かに似ている気がした。
建物内には強い風が吹き入れ、彼の髪をなびかせている。
「帰ってくることはできるの?――――」
入り口と思われる場所でその様子を見ていた少女が話しかける。
青年の名前を呼んだようだが、風によってその名前はかき消された。
彼は目を閉じ、「わからない」と小さく言う。
そして、少女の方へ向き直ると、
「だが…俺は世界を元に戻さなければならない…」
と、力強い声で言った。
少女は悲しそうな目をしていたが、無言で頷くと響くような声でこう言い出す。

―R.A3120…炎に連なりし名を持つ者…グランディアへ生を受ける…

―R.A3141…裁きの炎と静かな夜…自らを共にし、世界を在るべき姿へと戻す…

「自らを共にする…奴以外に考えられないだろう…。そうさ…あの世界にいる"彼"に…」
言葉が終わったあと、確認するように青年が言う。
「…わかったわ」
二人にはその意味がわかっているのだろうか。
青年は前に進み、部屋の中央へと立つ。
少女は両手を前に出し、何やら詠唱を始めた。
その体が真っ白な光を放つ。

「今…炎の名を持つ者に願い入る…。彼の者を汝の住む世に送りたまえ…。
"自らを共にする者"として、その扉を開け!」
詠唱が終わると、部屋全体ほどの巨大な魔方陣が出現し、
青年をその光が包んだ。
全ては数秒で見えなくなり、青年が消えたことを除けば
全てが元通りになっていた。
「…どうか無事で」
少女は誰もいない神殿で小さく呟いた。


* * *


「…予言、ですか?」
あの後セフィラと別れたマグナスは「ある人」に出会って
その家へとやって来ていた。
「今日がその日だと…?ウェンさん」
彼の向かいに座っている、ウェンと呼んだ男性に問いかける。
長い青銅色の髪に濃い紫色の瞳をもち、年は30代前に見える。
マグナスの服によく似た―――、それでもどことなく違う、やはり
濃い紫色の服を着ている。
「ええ、今年はR.A暦3141年…予言はその年の今日と日付があります」
ウェンは古い書物に目を通しつつ答える。
予言とは、R.A暦0000年に預言者と名乗る人物がこの世の行く末を示したもので
詳しい内容やその意図は一切明らかになっていない。
「でも…3000年以上前から今日のことがわかっていたなんて、いくら教師の僕でもにわかには…」
マグナスの言葉を聞いて、ウェンがふっと笑う。
「それは当然の答えでしょうね。ですが、予言は絶対なのです。それが"予言"というものなのですから」
そう言ってウェンは本を閉じた。
「それに――」
彼は窓の外に目を移した。

家の窓からはグランディアの街並みが見え、そしてその遠くには
高い山々を見ることができる。
山は決して低いことなどないのだが、その中にひときわ高く
そびえ立つ塔が山々の中央に見えた。
だが、単に高いどころの話ではない。
その塔ははるか高い雲の上まで延びていたのだ。
「…レウスの塔。世界を見下ろす存在…」
マグナスがその塔の名前を言う。
そして、"世界を見下ろす"という表現もあながち大げさではない。
「この予言はあの塔の最上階に記されていたと伝えられています。
貴方も教師なら知っているでしょう?」
ウェンの問いかけにマグナスが頷く。
「もちろん予言があるということは知っています。でも、それが今日だったなんて…」
その言葉を聞いて、ウェンは目を閉じたままこう言った。
「予言も運命も…先が見えないものです…暗き夜のごとく、ね」
マグナスにその意味がわかりかねた時だった。

"キイィィィンッ!"
突然、何かの金属音のような音が家中に響き渡った。
いや―――、それはグランディアを含む国全体に聞こえるほどだっただろう。
「っ!?この音はいったい?」
マグナスは反射的に耳を塞いでいた。
と、次の瞬間ウェンの口から驚きの言葉が発せられた。
「…まさか…!」
彼の目線は窓の外――、レウスの塔へ向けられている。
そして、マグナスもその光景を見て絶句した。
つい数分前まで、いつも通りの姿を見せていた
レウスの塔から目を覆うほどの光が発せられていたのだ。
「予言に詠まれていたことが起こりでもしたのでしょうか……」
その光景を見てウェンが小さく呟く。
「僕…街の外に行ってみます!」
ウェンが止める間もなく、マグナスは家を飛び出していった。

「リースさん…あれは…!?」
既に家の前に来ていた三人だが、塔の異変に気づき、ディシスが声をあげる。
「おいおい…ここしばらく軍の出撃はなかったってのに…。
久々に出撃しなけりゃ駄目な騒ぎか?」
リースは頭を抑え、うんざりしたように呟く。
ただ一人、状況がわかっていないルインだったが、
目の前に通り過ぎた人影を見て、突然声をあげた。
「…マグナス先生…!?」
「何だって!?」
驚いたリースが、彼女の指す方向を見た。
その先にはたくさんの人々の間を縫って、街の外へと向かう
マグナスの姿があった。
それを見てリースは一度舌打ちをすると、
「ディシス、ルインと先に帰っててくれるか?」
と、彼に向かって言う。
ディシスが何も言わずに頷いたのを確認すると、急いでマグナスの後を追った。
「お父さん…」
父の後ろ姿を見てルインが小さく言ったが、それは誰の耳にも届くことはなかった。

(あいつは昔っから厄介ごとに首を突っ込みたがるんだ…困った奴だな…!)
街を走りつつ、リースは密かに思う。
マグナスの「教師」という職の影響なのか、妙に正義心を持とうとしている。
別に悪いことではないのだが、見ているたびに心配になってくるのだ。
それも毎回毎回だとさすがに頭が痛い。
「おいマグナスっ!」
彼は、グランディアの街の門付近でようやくマグナスを呼び止めた。
声に気づいた彼が振り返る。
「リース!?何故ここにいるんだ?」
それは俺のセリフだ。と、いつもなら言っているとこだが、
今はそんな場合ではない。
「街の外に向かうお前の姿が見えた―――、大方レウスの塔の様子でも
見に行くつもりなんだろう?」
リースの問いかけにマグナスは一瞬黙り、頷いた。
「いくら剣を教えるほどの腕だからって、あまり自分を過信するんじゃない。
俺だって一人でいけば無事じゃすまないぜ?俺も行かせてもらう」
その言葉に彼は驚きの表情を見せたが、
「あぁ、わかったよ。ありがとう」
と、答えた。
リースはいつもの笑いを浮かべると、マグナスと手のひらを打ち合わせた。


…数時間後。
レウスの塔に近いリューシス山脈まで来た二人だが、
まずその周辺の魔物の数に驚かされた。
いつもなら、いるとしても数匹のはずが数十匹単位に
増えていたのだ。
「龍破・爆炎陣っ!」「烈閃衝波!」
リースのバスターソード(大剣)を用いた大技と、マグナスのブレイザーを使った
華麗な技が魔物を次々となぎ倒していく。
「これは普通じゃない…。レウスの塔で何かが起こっているんだ」
「ああ…急がないとやばそうだな」
二人は魔物をなぎ倒しつつ、塔への道を疾走していく。
その間にも、山脈の向こうに見える塔からの光は
一層強さを増していた。

「これは…!」
山脈を抜けて、塔の前まで来た二人は
目の前の光景を見てほぼ同時に声をあげた。

「道が…開いている…?」

二人がそう思うのも無理はない。
本来、レウスの塔の中へは塔と大地の境目にある
光の階段を渡らなければ絶対に入ることはできない。
だが、その階段は百年に一度しか出現することがなく、
階段が出現したのはわずか三年前なのだ。
「…行こう!」
悪い予感がする。
だが、そんなことを言っていても始まらない。
マグナスの言葉にリースは小さく頷き、二人は
レウスの塔へと入って行った。

* * *

「俺の出番ももうすぐか…」
青髪の青年は、"ある人物"と同じ目線からさっきまでに
起こった一部始終を見ていた。
「奴はレウスの塔の真の存在理由を知らない…。
"塔が光を放つ時、世界の大いなる災いが訪れる…"」
彼はそんなことを口走る。
いったい彼は何を知っているのだというのだろうか?
その後、彼は後ろを振り返る。
今、青年が立っている場所はさっきまでいた神殿のような
場所とは全く異なり、空には月が出ており、前方には崖から
見える海―――、後ろには祭壇のような場所がある。
「そろそろ封印を解かなければならないか…」
そう呟くと、彼は祭壇に刺さっている青い刀身の剣へ近づいた。
「我が名はシオン…静かな夜と呼ばれし者…。
氷の魔剣ブリザラードよ…その名において我に力を!」
青年が、初めてシオンという自分の名を明かした瞬間だった。
剣が青い光を放ち、青年の腰に鞘と共に収まった。
それを確認したあと、シオンは首にかけていたペンダントの
ようなものを外し、それを見た。

「影の魔石…これと対になる物を奴は持っている…」
首にかけていたペンダントには角ばった石がはめられていた。
石の中に、まるで空間があるかのように黒い光が渦巻いている。
シオンはペンダントを再び首にかけた。
「…そろそろか」
彼が呟くと同時に、空の月が消えた。
それだけではない―――、彼の姿も…そこにはなかったのだ………


To be continued...

「作者メッセージ」

…と、いうわけで早速第一章を掲載させていただきました!
毎日毎日、ノートにコツコツ随筆してきた文章を
PCに打ち込むのは正直いって大変です><;
実を言うと、これでも「本当の第一章」の半分くらいなんですorz

夢が「ライトノベル作家」なので、それぐらい書かないと
「一話分」にはならないかと……
おそらく、一章ごとにインターバル空くとは思いますが、
なるべく早く書きます!
では、お楽しみに~

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