TALES OF THE NIGHT【3】
■TALES OF THE NIGHT■
「第二章~守られる繋がり」
「塔の中に、さすがに魔物はいないな」
レウスの塔は神聖な場所だけあって、邪悪な気配がしない。
足を進めつつ、マグナスが頷く。
塔の内部はこの世界のどのようなものとも造りが違っていた。
自動で動き続ける機関、床に流れる文様……。
「さすが前R.A時代に建てられただけあって、
僕達には理解できないものが多いな…」
足を進めつつ、マグナスが呟く。
「まぁな。古代の技術がまだ残ってるっていうだけでも
驚きなんだが」
二人は一階の昇降機のようなものに乗る。
入ったのを確認したのか、扉が自動で閉まる。
"グオォォォォン…"
昇降機が静かに上昇し始めた。
あと少しで最上階(そうなのかは不明だが)というところで、
マグナスはある事に気づいた。
「光の魔石が…!」
彼がいつも首にかけているペンダント―――、それにはめられている
光の魔石から微弱な光が発せられていたのだ。
(これを拾ったのはレウスの塔の近くだったよな…。
塔と何か関係があるのか?)
リースは遠ざかって行く地上をずっと眺めていたので、
それに気づくことはなかった。
気づけば、すっかり夜が訪れていた。
"ガコンッ!"
大きな音を立てて、昇降機が止まった。
「光はここから放たれていたのか…」
リースが最上階の広間を見渡して言う。
部屋の中央から広がるように描かれている魔法陣のようなもの。
そのちょうど真上から真っ白な光が絶え間なく放たれていた。
"ザッ"
マグナスが魔法陣に一歩近づく。
と、その時――――。
「…っ!マグナスっ、上だ!」
突然リースが叫んだ。
「えっ!?」
彼は驚いて素早く飛び退る。
次の瞬間――――。
"ドゴォォォン!"
巨大ともいえる音と共に、光の中から何かが落下し、
二人の行く手を阻んだ
落下の振動で広間全体が大きく揺れる。
「…何なんだこれは…」
剣で体を支えつつ、マグナスがその正体を見て言葉を漏らす。
その物体―――、人の形をとっているそれはゆうに三メートルは超えている
であろう大きさで、体は何でできているかわからない鉱石質で覆われている。
「よくあるパターンじゃないか…?大事な場所には必ず守護する者がいるもんだ」
目の前にいるのがリースの言う"守護する者"なのだろうか。
言葉と同時に二人が剣を構えた。
「こんなところでくたばるのは冗談にもならねぇなっ!」
舌打ちの後、リースがバスターソードを構える。
それに反応したかのように、巨大な敵は手にする――、また巨大な剣を
振りかざして、無言で二人に襲い掛かってきた。
"ドゴォォォン!"
さっきと同じくらいの振動と共に、剣が床を破壊する。
だが、それだけではない。
剣が床を破壊した瞬間に電撃が放たれ、二人めがけて突進する。
「はぁぁぁっ!」
マグナスは魔術を用いた大跳躍で電撃を飛び越す。
一方、リースはとてもじゃないが飛び越すなど不可能。そこで――――。
「てやぁぁぁぁっ!!!」
"バシュンッ!"
バスターソードに気を込め、力の限りそれらを真っ二つにした。
同時に飛翔中のマグナスが奥義を炸裂させる。
「襲牙雷斬っ!」
剣先の雷と共に、マグナスがブレイザーを
振り下ろす。
だが――――。
"ガキィィィンッ"
剣は鉱石質の体に弾かれ、彼は反動で大きく吹き飛んだ。
「うわぁぁっ!!」
その光景を見て、リースは驚きの表情を浮かべたが、すぐに追撃を与える。
「円水烈波っ!」
バスターソードに気を集め、巨大な斬撃を相手に放つ技だ。
だが、またしても――――。
"バシュウンッ!"
斬撃はその体に弾かれ、消滅してしまう。
今度というばかりはリースも膝をついた。
「ばかなっ…!?」「くっ…!」
もう駄目なのかもしれない。
二人が同時にそう思った時だった。
"夜は訪れた…ようやく出番は訪れたようだな…"
広間全体に声が響き渡った。
最初は誰の声かわからなかった―――、だが。
「…マグナス?」
そう――、声はマグナスにそっくりだったのだ。
いや、同じといったほうがいいのかもしれない。
次の瞬間。
"カッ!!!"
二人と敵の間に目を覆うほどの耀きがあふれた。
「うわっ!」「くっ!」
マグナスとリースは目を手で覆い、同時に声をあげる。
そして、耀きが収まると光のあった場所に見慣れない
人物が立っているのが見えた。
いや―――それは見慣れない人物などではない。
「っ!?…お前…は…?」
先に声を出したのはリースだった。
二人の目の前に立っている"青年"はまぎれもなく
マグナス――、と寸分違わぬ姿をした人物だったのだ。
顔も―声も―風格まで全く同じ……
違うのは服の色、身に着けている剣、真紅に耀く瞳、夜を思わせる青色の髪…。
言い換えると、ほとんどがマグナスと正反対だ。
彼は二人を一瞥すると、
「…下がっていろ」
一言だけ言うと敵へと向き直った。
青年は手にする青い刀身の剣を天高く掲げると、詠唱を始める。
「来るべき場所へ還るがいい…創造主の力よ…彼の者に破壊を下せ!」
その時、剣が強い耀きを放った。そして―――。
「…エクステンション…!」
詠唱が終わると同時に敵を青い光が取り囲む。
"ゴオォォォォ……!!"
風のような音が響き渡ると、さっきまであった敵の姿は"消滅"していた。
それを確認すると、彼は剣を鞘に戻して一言呟く。
「ふっ…守護者が聞いて呆れるな…」
彼はそう呟くと、剣を鞘に収めた。
そして、何事もなかったかのように二人へ振り向く。
「姿が同じでも力は違う…か」
二人にはその意味がわかりかねた。
姿が同じ?そんな人物は世界を探せば少なからずいるはずだ。
「…君は誰だ?」
最初に口を開いたのはマグナスだった。
その後、二人はシオンの口から全てを聞かされた。
無論二人共、それを鵜呑みにしているわけではない。
レウスの塔の真の存在理由…予言の意味…もう一つの世界の存在…。
だが、二人が最も信じがたいと思ったこととは――――。
「この世界では…俺とお前は二人で一人として存在しているんだ」
マグナスの持つ光の魔石…シオンの持つ影の魔石…。
相反する属性を持つ魔石の力の作用で、影の存在であるシオンは
常に表に―――、つまり一人の人間としてこの世界に存在できるのは
夜の間だけらしい。
それ以外の時間は、マグナスと"存在"自体を交代しなければ行動することが
できないというのだ。
「…僕と君は魔石によってつながりを保っているというのか?」
マグナスの問いかけに彼は無言で頷く。
「突然んなこと言われたって、にわかには信じられないぜ?」
「すぐに信じられるほうがおかしなことだろう。だから、これからこの世界に起こる
ことを見て判断してほしい」
リースの言い分に対して、シオンはそう答えた。
ちなみに、彼がこれ以外に言った内容はこうだ。
この世には、マグナス達が住み暮らす世界「リセアラ」とシオン達が住み暮らす
「フィルド」と呼ばれる二つの世界があり、それらの世界は
互いに見ることも触れることもできない光と影のような存在同士らしい。
次に、レウスの塔の存在理由について、シオンはこんなことを
言っていた。
「あの塔は"世界を見下ろす存在"などと言われているが、
それは実は違う。塔自体は"世界を変える存在"。つまり、
あの時の光もそれが理由だ」
「魔物が異常に増えていたのもそれが原因か?」
現に二人は、ここに来る途中で異常に数を増した
魔物と戦っている。
「そうだ。"塔が光を放つ時、世界に大いなる災いが訪れる"…。
これは、俺に世界に伝えられている予言に一部だ。
ついさっき倒した奴も光の中から出てきただろう」
リセアラに住む人々は、レウスの塔は災いを追い払う
聖なる存在と思っているが、それは大きな間違いだったのだ。
「あとはお前がどうするか、だ。今はここでお別れだな」
シオンはそこで話を切ると、何やら詠唱を始める。
二人の足元に魔法陣が出現し蒼い光を放ち始めた。
「!?」
二人は同時に驚きの表情を見せたが、それすら見る間もなく
魔法陣の光によって目の前から消えた。
シオンは転移魔術によって、マグナスとリースを塔の外へ
送り出したらしい。
そして、しばらくその場に立ち尽くしていた彼も
迷いを吹っ切るようにして広間を出口に向かって歩き出す。
一度だけ―――空を見上げて、無数の星を見ながらこう呟く。
「約束は必ず守る…。俺はこの世界を守らなければならない。
だから…お前も俺を待っていてほしい…その日が来るまで…」
その時シオンは初めて暗い――、本当に暗い表情を見せた。
そして――――――。
「…そろそろ月が沈む…」
それが今日、彼が"この世界"で発した最後の言葉となった。
「うわっ!?」
光が途切れた瞬間、マグナスとリースはグランディア付近の草原に
突然落下した。
"ドサッ!"
服についた草を払いつつ立ち上がると、既に夜が明けようとしていた。
塔から歩いて帰っていたら、昼は過ぎていたかもしれない。
「朝になったということは…シオンの奴はどうなったんだ…?」
周りを見渡しながらリースが言う。
マグナスはわからないという風に首を振った。
と、その時―――。
"どうなったもこうなったもない。ここにいる"
突然マグナスの頭の中にシオンの声が響いた。
それと同時に光の魔石が輝きを増す。
そして目の前が真っ白になった…
「…!?」
気が付くとマグナスは、さっきまでの草原とは全く違う場所に
立っていた。
「…来たようだな」
後ろでシオンの声がして振り返る。
そこには、海をどこまでも見渡せる崖に一人座っている彼の姿があった。
「ここはどこなんだ…?」
「さぁな。俺は"理由なき世界(ばしょ)"と呼んでいるが」
石造の小さな神殿…見渡す限りの海…そして、
二人が今いる島のような場所以外には―――周りをいくら見渡しても、
そして水平線の先にも……
陸地は一つも存在していなかった。
「光と影はここで時を待つんだ。この世界に陸地はここだけらしいな」
マグナスにはまたしてもその意味がわからなかった。
「これからも何かあればこの場所を思い浮かべろ。
そうすればいつでも来ることができるだろう」
それだけ言うと、シオンは再び海へ顔を向けて座った。
同時にマグナスはそこから跡形もなく消えていた…
「…い!…ス…マグナスっ!」
突然リースの声がして、マグナスは我に返る。
「リース…どうしたんだ?」
「どうしたって…お前、急に動かなくなっちまっただろ?」
どうやら、さっきの場所にいた間だけ記憶が途切れているようだ。
「いや…急にシオンの声が聞こえて…突然目の前が真っ白になったんだ。
そして、気が付いたら別の場所に―――」
「あーあー……もう難しい話はなしにしようぜ?
それでなくても俺たちはわからねぇことだらけなんだ」
リースの言うことがもっともな意見だろう。
まずは、自分達の周りで起こったことを理解する必要がある。
「あ、あぁ。わかった…」
マグナスも話をやめると、頷く。
これ以上言ってもどうにもならないだろう。
二人はグランディアへ向かって歩き出した…
街に着くと、二人はそれぞれ別れた。
リースはいつもの通り、帰りが遅いから問題ないのだが、
マグナスは――――。
「もうっ!どれだけ心配したと思ってるのっ!」
家に着くなり、一人の少女に泣きつかれてしまっていた。
「ごめん、リーナ…。僕の性格には問題があるな…」
苦笑しつつ、リーナと呼んだ少女に言う。
青い長髪を腰の所まで伸ばし、桃色という珍しい瞳の色を持つ。
髪の色と桃色の瞳は彼女をとても綺麗に見立てているようだ。
まだ彼女の目には涙が残っている。
「まぁまぁ…。これからは勝手に出かけたりしないから…ね?」
マグナスはリーナの肩に手を置いて安心させるように笑う。
彼女は今年十九歳になったのだが、こういう面ではまだ
幼さが残っている。
「約束だよ?マグナスっ」
これでもリースの妹なのだ、が―――――。
「つまり、そのシオンっていう人がいる世界ではレウスの塔が
起こす災いについて知られていたんでしょ?」
一応マグナスは彼女にことにいきさつを説明した。
二人の姿が全く同じで、魔石を通してつながっていることも言うには
言ったのだが―――。
「実際に見ないとわからないもんっ」
答える時はいつもこれだ。
リーナは元々、憶測だけでは言動を起こさない性格なのだ。
「ま、まぁ…いつかは姿を現すだろうから…」
しらじらしい笑いを浮かべつつ、マグナスが言う。
とは言っても、夜になればシオンは必ず現れるのだが。
「おっと…。そろそろ学校が始まる頃だな。じゃあ僕は行くよ」
「う、うん……」
リーナはまだ難しい顔をしていたが、それも仕方がない。
たった一日の間に色々なことが起こりすぎてしまったのだから。
"パタッ…"
家の扉が閉まると同時に、彼女は長いため息をついた。
「…はぁ………」
既に太陽が昇っていたため、マグナスは急いで学院へと足を進めた。
教師が遅刻するというのはおかしな話だ。
教室では、生徒達が昨日の光のことについて口々に話していた。
「あっ、先生!」
数人の生徒と話していたセフィラがマグナスを見つけて
駆け寄ってくる。
「昨日、塔からすごい光が出たの知ってますか?」
多分マグナスが知っているのを前提で聞いているのだろう。
「ああ。実際に現地にも行って見てきたんだ」
彼が答えると、一瞬にして教室が静かになる。
と、生徒達が次に言う言葉を知っているかのように、
「今度、話してあげるさ」
そう言って全員を静かにさせた。
「さぁみんな、席について―――――」
"キーンコーンカーンコーン…"
鐘の音と共に、今日もいつもと変わらぬ授業が始まった……
To be continued...
「作者メッセージ」
な…なんとか随筆が追いついている今日この頃…;
第二章完成です><
今回初めて登場したマグナスとそっくりな人物「シオン」ですが、
彼はこれからのストーリーでもひじょ~~っに!
重要な存在ということになりますので…
目を離さないようにっ!(爆
第三章はまだ随筆すら終わってないので
「またインターバル空きますorz」
では!