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過去の幻影【2】


過去の幻影 ~暁の章~    作.玲

「カイル、起きて、ねぇ、カイルってば!」
(この声は・・・? 誰だっけ?まぁいいや。オレは眠いんだよ。もう少し寝かせて
くれよ・・・)
少年はうっすらと目を開けたが、また目を閉じて眠りへと落ちてゆく・・・
「ロニ、カイルが起きてくれないの」
少女は傍らに座っていた青年に話しかける。
「しゃーねぇなぁ。あの手は使いたくなかったんだが仕方がねぇ。リアラ、しっかり
耳ふさいどけよ!」
「うん」
「いくぜ! 秘技!死者の目覚め!!」
青年はそう叫ぶと鍋とおたまを打ち鳴らし始めた―
「うわっ!?何だよこの音!?」
少年は轟音に驚いて飛び起きた。
「ロニ!?こんな起こし方しなくてもいいじゃんか!」
少年は不満を漏らす。
銀髪で長身の男―少年にロニと呼ばれた―は笑いながら言い返す。
「だってよ、お前はリアラに起こされたってのに眠っちまったんだぜ?」
「私が何度呼んでもカイルってば全然起きてくれないんだもの」
栗毛色の髪をした小柄な少女―リアラ―はすまなそうにそう言った。
「だからって二人してひどいじゃんか!もっと別の起こし方をしてくれよ!」
金髪の少年―カイル―は口を尖らせて言った。
「それは無理だぜ、カイル。お前はこうでもしねぇと起きねぇって事くらい俺にはも
う十分すぎるくらい分かってるんだからよ」
「そんなこと言ったって…この『死者の目覚め』を聞くと頭ががんがんするんだよ
…」
そのときカイルは大変なことにやっと気がついた。周りを見渡せば自分は知らない場
所にいるうえに、いつもならカイルを冷静に導いてゆく黒衣の剣士がいないのであ
る。
「ってなんでオレはこんなとこにいるんだ!?しかもエルレインいないじゃん!オレ
たちはハイデルベルク城にいたはずでしょ!?しかも何でジューダスいないの!?」

「落ち着けって、カイル。いきなりそんなに聞かれても答えられねぇよ」
「落ち着けって言ったって…だって何でなんだよ!?」
「カイル、一つずつ説明していくわ。よく聞いててね」
そう言ってリアラが説明した話は、パニック状態に陥っているカイルではなくとも信
じがたい話だった。
「まず、ここがどこか。それは…私にも分からない。なぜなら、あの時…ハイデルベ
ルク城でエルレインは私を別の時代に送ろうとしたんだと思う。でも、カイル達が飛
び込んできてしまったことによって座標が狂って、どこか別の時代に送られたんだと
思う。でも、あの程度のレンズの力じゃそんなに遠い時代に飛ばせないから、せいぜ
い誤差があってもあの時、私たちがいた時代から10年から20年くらいだと思う。
とにかく、時代が違うし場所も違うからエルレインはここにはいなくて、そして私た
ちはハイデルベルク城にいない、というわけ。それで…」
「ちょ、ちょっと待ってよリアラ!何でオレたちは3人一緒にいるのにジューダスだ
けいないんだよ?」
「それを今話そうと思ってたの。多分、ジューダスは私たちと同じ時代の別の場所に
飛ばされたんだと思う」
「なんでオレたちと同じ時に飛び込んだのにジューダスだけ別の場所に?」
「それは、私にもわからないの」
「…」
カイルは突然黙り込んでしまう。
「カイル。でも、探せばきっと見つかるから…」
カイルはしばらくうつむいて、何かを考えているようだった。そして、顔を上げた時
には一つの決心がついていた。
「オレはこの時代がオレ達がいたのと別の時代だなんて、まだ信じられない。」
「カイル…」
「でも、もしそうだとしたらウッドロウさんを助けるために、俺たちはもとの時代に
帰らなくちゃいけない。それに、オレはジューダスを見つける!だから、早く行かな
くちゃ!」
カイルはそう言うといきなり駆けて行ってしまった。
「カイル!ちょっと待ってよ、ねぇ、カイル!」
しかし呼ばれたくらいで止まるカイルではない。全速力でどんどん駆けていく。
「どうしよう、ロニ。カイルが走って行っちゃったの。早く追いかけなきゃ。…ロ
ニ?」
ロニは何かを考え込んでいた。いつもの飄々とした態度や、『ふられマン』とまで言
われた彼からは考えられないようなその深刻さ…
(確かにあいつがリアラの光に飛び込んできた時、何かが光ったんだ。あいつの漆黒
のマントの下で…その時まるで共鳴するかのようにリアラのペンダントが光ったん
だ。
一体あいつは何を隠してやがったんだ…?
そう言えばあの時も…)


「ふふ……おめでやいヤツだな。お前、本気で英雄になどなれるとでも思ってるの
か?」
その声は暗い天井の方から聞こえてきた。
「誰だ?」
ロニは警戒して声をひそめる。そして扱いなれているハルバードを手探りで探した
が、とられていることに気づき、すぐそばにあった箒をつかんだ。
その時だった。天井から漆黒の人影が降りて来たのは。
漆黒のマントを身につけ、それと同じ色をした服を着た少年……しかしそれ以上に彼
を奇妙に見せていた物があった。それは彼が被っている仮面だった。その仮面は竜族
の頭骨でできていた。そして、その後頭部に蒼い羽根が揺れていた― 
ロニは一瞬、彼に懐かしい人の面影を見たような気がした。しかし、それが誰なのか
はその時はまだわからなかった。
その時、黒衣の少年はロニからの視線に気づいてか、マントの端から見えそうになっ
ていた何かをさりげなく隠した。
「ねぇ、君。何でこんなとこにいるの?」
カイルは好奇心を丸出しにして少年に尋ねる。
「カイル!こんな仮面を被ってる得体の知れねぇやつに近づくんじゃねぇ!」
ロニはカイルを止めようとしたが、その言葉はカイルの耳に入らなかったようだ。
「さっきオレは英雄になれないって言ってたよね。何でなれないの?」
少年はカイルを紫水晶のような瞳で見つめて言った。
「……英雄というものは、その人が行ったことに対して後世の人々から送られる称
号。ましてやなろうとしてなれる物ではない。ただし……」
「ただし?」
「僕は英雄と呼ばれるべき人間を少なくとも4人、知っている。」
「何だ?あの四英雄のことなら世界中の誰だって知ってるぜ?何てったってこいつの
親がそうだからな!」
ロニはまるで自分が英雄の息子というかのように喜んでいる。
その時、少年の瞳が仮面の奥で見開かれた事にカイル達は気づかなかった。
「英雄にはなれない…? そう…なの?」
「そうだ。それに、こんな所に閉じこめられているやつが出られもしないというのに
『英雄になりたい』などと…フン、どだい無理な話だな」
「じゃあ何だ?お前ならここから出られるって言うのかよ?」
ロニが喧嘩腰で言った。
「簡単なことだ。出口から出ればいい」
そんなことも分からないのか、とでも言いたいのか少年は嘲りの表情でロニを見る。

「出口から出るったって俺たちは武器もないんだぜ?一体どうやって出るつもり
だ?」
少年はその問いに答えず、ドアに歩み寄った。そして―
「はああぁぁぁ!」
気合いを込めた叫びと共に剣閃がきらめく… 全ては一瞬のことだった。気づけばド
アは完全に壊れていたし、少年は何もなかったかのようにカイル達に振り向いてい
た。
「これでお前らでもこの部屋から出る方法が分かったろう」
少年は皮肉めいた口調で言った。しかしカイルには皮肉は通じない。
「ありがとう! えーっと…君のことはなんて呼べばいいの?助けてもらっちゃった
し教えてもらいたいんだけど」
「僕か…僕のことは何とでも呼べ」
少年は何か思い出したくなかったことを思い出したらしく、うつむいてしまう。
「何で?名前だってちゃんとあるんでしょ?」
「名前など僕には意味はない。何とでも呼ぶがいい…」
「えーっと、じゃあ…『ジューダス』!どう?」
少年はしばらく考えたあとにこう言った。
「『ジューダス』か…まぁ、それでもよかろう」
「じゃあよろしくね!ジューダス!」
カイルはジューダスに笑いかけた―


(あいつは俺たちに何かを隠してる。それだけは確かだ。でも一体何を…?)
「ロニ、カイルが走って行ちゃったんだけど」
いつまでも考え込んでいるロニがさすがに心配になってきたのか、リアラはロニに話
しかける。
「え?どうかしたか?リアラ」
「だから、カイルが走って行っちゃったの」
「あいつはまた…しょうがねぇ。行くとするか」
ロニは腰を上げるとリアラと共にカイルを追い始めた。 



―ウンメイノ ハグルマハ クルイハジメタ……





To be continue…








~あとがき~ 
 初めまして。これを読んで下さった方、ありがとうございます!本当はプロローグ
の方で自己紹介くらいしようと思ったんですが、できなかった(と言うよりしなかっ
た)のでこの暁の章で自己紹介をしようと思います。僕は玲というやつで、ただいま
中3なんです。好きなテイルズ(?)はTOP、好きなキャラはリオンという感じで
す。
 ここでこんな稚拙な文章を読んで下さった方に、意味不明な所(この文章自体が意
味不明だけど)がなくなるように少々説明をしようと思います。この「過去の幻影」
はプロローグまではゲームのストーリーのままなんですね。ハイデルベルク城でエル
レインに飛ばされちゃうし。しかし、「暁の章」からなんだか違ってくる(様に思っ
て下さい…)んです。ゲームで言うとエルレインに飛ばされた後は、カイルとリア
ラ、ロニとジューダスに別れちゃうんですけど、ここでは何故かカイルとリアラとロ
ニ、ジューダスは独り…何でそうなっちゃったか、とかこれから書いていこうと思っ
ています。
ちょっとずつ書いていこうと思うので、これからもよろしくお願いします。ご意見・
ご感想などありましたらお願いします。

―2003年7月
 

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