黒十字【3】
「グルルルルルル…」
「!…気をつけろ、何かいる。」
ジューダスが気配に気づき、硬論は中断された。
「ふむ、どうやらあの茂みの中みたいね。ぐふふふ、未知の生物に出会えるかも~☆んじゃっ、あの中にレッツごー♪」
ハロルドは瞳を輝かせて、右の茂みへと向かっていく
…ジューダスを盾にして。
「ハロルド、僕はお前の防具じゃない。」
「なによぉ!か弱い乙女1人で凶暴なモンスターのところに行けると思ってんの!?」
ハロルドは、乙女とは到底思えない勢いでジューダスに食ってかかった。
行ける。コイツの途轍もなく溢れている未知なるものへの情熱があれば、どんなモンスターにでもすっ飛んでいけるだろう…ジューダスはそう確信した。だが、それを口に出すことはなかった。ここまで興奮しているハロルドには何を言っても無駄だと知っていたからだ。
しかたなく、ジューダスは凶暴なモンスターがいるであろう茂みへと入っていくことに…
「なんだ、ゲイズハウンドじゃない。こいつはもうデータ採取済みよぉ~。まぁ、私の時代には生息してないけど。罠にかかっちゃってるじゃない、マヌケね~。」
使用しかけたスペクタクルズを片手に、ハロルドは落胆と呆れの声を上げる。
茂みの中には人間が作った罠に片足をとられている、銀の毛並みをしたモンスターが佇んでいた。
「とどめさしちゃう?」
万が一に備えてだろう。自由に動けないとはいえ、森に訪れた誰かが気づかずに茂みに近づき、危害を受ける可能性もある。
「待て、よく見ろ。そいつには首輪が付いている。」
モンスターに杖を向けたハロルドに、ジューダスが制止をかける。
「人に飼われてるモンスターなんて珍しいわね。アレに飼い主の住所も書いてあるんじゃない?…ま、この様子じゃ近づけそうにないけど。」
ゲイズハウンドは警戒心を剥き出しにして、2人を威嚇している。近づけば即座に牙の餌食になるだろう。
ハロルド自身はさほど興味を抱いていなかったが、ジューダスをちらりと見やり、からかい半分で言葉を放つ。
「鎮静剤でも打っとく?」
「やめておけ。」
ジューダスはハロルドの提案を即座に却下し、威嚇を続けるゲイズハウンドに歩み寄る。
スッ―――すぐそばまで来ると、ジューダスはゲイズハウンドに手を差しのべた。
「グルゥッ…ガウ!」
ゲイズハウンドは一瞬たじろぐが、すぐさまジューダスの手に齧りついた。
だがジューダスは微動だにもせず、ただ立ち尽くしてゲイズハウンドを見つめている。
目の前の銀狼と重なる、鎖の中の自分――――
「お前は僕を拒み、ただ死を待つというのか…?」
瞳の色を一層深め、ジューダスは問いかける。
その声にはいつものような棘は感じられず、穏やかに響いた。
「グルル…グ、クゥゥ。」
ジューダスの言葉を聞いた途端、ゲイズハウンドはジューダスの手から牙を解き、手から流れ出る血を丁寧に舐め始めた。そしてジューダスにすべてを任せたかのように、おとなしくその場に体を落とした。
「キュアー!」
ジューダスが罠を外すと、それまで1人と一匹を観察していたハロルドが駆け寄り、ゲイズハウンドの足の傷を癒す。
「んー、やっぱ私の術だけじゃダメね。これじゃまだ動けないわよ。だいぶ疲労してるみたいだし…たぶんコイツ、1週間はここで動けなくなってたんじゃない?しばらくは安静にして、体を休ませないと回復しないわ。」
そう言うと、ハロルドは首輪に目を向ける。
―――L I O アーニレグ山山頂・酒場「薔薇の香り」―――
「へー、こいつリオっていうのね。アーニレグ山って知ってる?」
「この森の奥にあるあの山のことだ。酒場のことも、前にスノーフリアの寄合所で聞いたことがある。」
ジューダスはかすかに見える山のほうに顔を向けて答える。
「こいつ一人で山登りなんて無理よ。このまんまじゃ野垂れ死にね。」
ハロルドはジューダスを挑発するような口調で言う。
ジューダスは自分の思考がハロルドに悟られていることに気づいていたが、素直に言えはしなかった。
「…もう少し剣を振るいたい。奥に進むぞ。」
ジューダスは自分の身体ほどもあるリオを背負い、森の奥へと向かっていく。
「剣の修行にそいつはいらないんじゃない?」
またもハロルドはジューダスをからかう。
「こいつは…非常食だ。」
ハロルドは腹の底から笑い出したくなったが、自分の身が危険になるので必死に堪えた。
「あんたさぁ、それじゃ剣振るえないっしょ?体力も防御力もないし~。」
ハロルドはそう言うと、すかさずリオに薬物を注射する。
「!ハロルド、何をっ…」
ハロルドが答えるよりも先に、リオに効果が現れた。
リオの身体がみるみるうちに小さくなり、成熟した狼は仔犬のような外見に変わった。
「肉体年齢を下げたのよ。つまり、私が注射したのは若返り薬ってこと。」
ハロルドは毅然として答えた。
「そんなものを使えば副作用があるんじゃないのか?肉体に負担が…」
「だ~いじょうぶよ♪だってあんたで実験済みだもの。」
「…そんなこと、いつやった?」
さすがのジューダスも、ハロルドの行動には驚愕が絶えない。
「あんたが寝てる間に。」
「だが、こいつはモンスターだぞ?僕には何ともなくとも…」
ジューダスは自分自身のことも問い詰めたかったが、今はリオが優先だと考え、ハロルドに問う。
「大丈夫だってば。ちゃんと調節してあるわ。5・6時間で効果切れちゃうし。」
ジューダスの不安は消えなかったが、今はハロルドの言葉を信じるしかない。
「私のおかげで随分軽くなったっしょ?ちょっとは感謝しなさいよ。」
若返り薬などという怪しい薬を注射されて素直に喜べる者なんているだろうか。
だが、確かに背中にはさっきのような重圧はない。これなら片手で抱えることができる。
「…さっさと行くぞ。」
「私が預かってよっか?リオ。」
「いや、いい。」
そんな危険な行為をできるわけがなかろう。
2人は森の奥へと歩き出した。
*あとがき*
こんにちは~、D2クリアから1ヶ月、未だにジュダ熱が冷めないアーサーです。
今回、書き方をちょっと変えてみたのですがどうでしょうか?これからはこんな感じで行ってみようと思います。
それにしても、今回のサブタイトルは全くもってわかりやすいですねw
今まで敢えて触れなかったのですが、サブタイトルには1つ1つにちゃんとした(してないかもしれませんが、一応)意味が込められています。まぁ、けっこうわかりにくいものもあると思いますが…サブタイトルの意味を考えながら読んでみるのも、1つの楽しみ方だと思います^^
では、次章でまたお会いしましょう♪
ぁ、ちなみにゲイズハウンド(だけ)は実際に出現するモンスターですw