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黒十字【4】


第三章 奇術を繙きしは心眼の女神

「あんたってさぁ、嘘つけないのね。」
しばらくしてハロルドが口を開いた。
「…皮肉か?常に仮面をつけて出歩いているような男にそんな言葉は相応しくないと思うが。」
先に立って歩いていたジューダスはいつもの口調で言葉を返す。
「隠すのと偽るのとは違うわよ。あんたが顔を整形してるんだったら話は別だけど。」
「だが、僕は…!」
そこで言葉は詰まり、暫しの沈黙が場を支配した…ハロルドはジューダスの次の言葉を待っている。
「僕は…過去に、仲間を裏切って…世界を破滅させようとした。」
ジューダスの心の奥底に再び溜まっていたものが吐き出された。
「でも、自分には嘘ついてないっしょ?」
「っ・・・?」
返ってきた言葉は意外で、ジューダスは声にならない声を出した。
「仲間を裏切りたくない気持ちもあっただろうけど、それよりももっと…何か、守りたいものがあった。そうじゃない?」
「…ああ。」
ハロルドはジューダスがやっとの思いで絞り出した声を確認すると、1度深呼吸してから再び口を開く。
「人は大抵、自分に嘘つきながら生きてんのよ。自分の気持ちばっかり優先させれば、何かが犠牲になるってことを知ってるから。私もね…自分に嘘ついちゃったことあるのよ。」
そこで言葉を1度切り、ハロルドはジューダスを追い抜いて前に出る。
「でもあんたは自分に嘘をつくなんてことはしないで、素直に自分が1番やりたいことをやってのけた……それって凄いことよ。」
ハロルドの言葉を聞いたジューダスは堪らなくなり、言葉を被せる。
「自分が愛したたった1人の女性のために仲間を裏切り、世界まで犠牲にする…そんなことを褒めていいものなのか?」
「まぁ、その行為自体を正しいとは言えないけど…私は軍の中で生きてきたから色んな兵士を見てきたわ。軍ってのは集団組織だから、やっぱ少なからず自分の意思を抑制しなきゃなんないのよ。私は気ままにやってたけどね。で、兵士の中には戦いたくないのに無理やり戦場に引っ張り出されるヤツもいたわけ。そういうヤツは大体、自分を奮い立たせて敵を討とうと戦場に出向く。敵を倒すチャンスが来たとする。けどやっぱり人を傷つけることに戸惑って、逆に隙をつかれてやられちゃうのよ。結局、完全に自分を振り切るなんてことはできないのよ。…それなのになんで、自分に嘘つこうとするのかしらね。」
それは自分自身に向けたのか、ジューダスに向けたのか…曖昧な問いかけだった。
「……」
ジューダスは答えず、口は沈黙を司っていた。
ハロルドは応答がなかったことはさほど気にせず、振り返って言葉を放つ。

「やっぱり…守りたいものがあるから?」

―――何かを守るため自分に嘘をついた。誰かを守るため他人に嘘をついた。2つの嘘にどれだけの違いがあるといえようか―――
「でもさぁ、あんたみたいに最初っから自分に素直で、自分の意思を貫き通す生き方も…なかなか面白そうね。」
面白い…それは肯定の言葉だろうか。
今まで短い間だったが、世界中を回り、さまざまな人々を見てきた。そのとき耳にした過去の自分の話題は決まって否定の言葉ばかりだった。だが…ハロルドは認めたということだろうか。
「ありがとう。」
不覚にも口から擦り抜けた思い。
「あら、あんたにそんな言葉言わせられるなんて…やっぱ私ってば天才ね☆」
ハロルドは胸を張って得意げに言った。
「おめでたいヤツだな…これから何をするのかわかっているのか?」
ジューダスは先程の言葉を断ち切るかのように、ハロルドに皮肉を飛ばした。
2人の目前にはアーニレグ山がそびえている。
「あ、もうこんな近くまで来たの?めざすはこの山の頂上ね。まっ、なんとかなるっしょ♪」
「さっさと行くぞ。」
「ちょっと待った。」
山に向かって歩き出したジューダスのマントを?み、ハロルドは引き止めた。
ジューダスは怪訝そうな顔で振り向く。
「ジューダス、あんたにだけは…これからも自分に正直に生きてほしいの。」
――――それは理不尽な願いかもしれないけど。
ジューダスは答えず、再び前を向いて歩き出す。
「キュウ。」
代わりに聞こえたのは腕の中にいる仔犬の声だった。

*あとがき*
こんにちは!ショックなことがあると何故かハイテンションになるアーサーです♪
今回はですね~、リオンの生き様を認めてほしいっ!と思って書いた話です。ゲーム中でも夢イベントを通して、ジューダスを仲間として認めましたけど…でも、それはあくまでジューダスとしてで、リオンの存在は否定されたように感じたので。誰かが認めてやってほしいなぁ~と思い、ハロルドに肯定係を務めてもらいましたwでもけっこう悩みましたねぇ~。ハロルドはジューダスとは全く逆の行動をしたわけで、リオンの行為を認めちゃっていいのかなぁと。でも同じ境遇に立ったからこそ、リオンの気持ちが痛いほどわかると思うので…。ジュダ(リオン)が正直者だっていうのはかなり私的な考えです。でも、最初に登場したときも自らリオンの名を捨ててジューダスと名のったわけではないので、やっぱり嘘つけないんだと思います。
それと、ジューダスの口からハロルドに「ありがとう」と言わせたかったんです。エンディング見てて、カイルとロニににしか言わないってのはどういうこっちゃ!と激しく抗議したい気分になったので。
ぁ、これくらいにしておきましょうかwでは、次章でまたお会いしましょうっ♪
…今回、リオの存在最後の最後まで完全に忘れ去ってました(爆

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