« 黒十字【5】 | メイン | 黒十字【7】 »

黒十字【6】


黒十字 第五章・白光(続編あり)

山頂が近くなるにつれモンスターは多くなり、次々と二人に襲いかかってくる。
「月閃光!散れ!!」
ジューダスの振るった剣は三日月を描き、敵を斬り刻む。
軌跡をもう一度描けばそれは満月をも斬り裂く。
リオを抱えているために片手しか使えないといえど、敵を正確に捉える技のキレ
や素早い身のこなしは普段と劣らない。
「聖なる意思よ、我が仇なす敵を討て!ディバインセイバー!!」
地を割るほどの激しい雷鳴が降臨し、敵は一瞬にして消滅する。
「終了っと。」
ハロルドは杖を掲げ、一息つく。
ジューダスも剣を鞘に戻して戦闘体勢を解いた。
「私達って結構いいコンビじゃない?」
ハロルドがウィンクしてみせた。敵を一掃してかなり上機嫌のようだ。
「勝手に言っていろ。」
ハロルドの言葉に頷くわけもなく、ジューダスは早くも歩き出している。
「まったく、冷めてるわね~。そんなんじゃ女の子にモテないわよ。」
また一つ、強烈な言葉を口にするがジューダスは振り返ることなく歩き続ける。
「からかい甲斐のないヤツねぇ。」
自分は異性に特別な感情を抱くことなどなく、恋愛なんて理解しがたいものだが
この男も恋をしたことがあるのだろうか、とハロルドは疑問に思った。
――ま、こんなこと考えたってしょうがないわね。どうせ聞いたって教えちゃく
れないだろうし。
と、このことに関しての思考をストップし、ジューダスの後を追った。

「クゥ・・・ン。」
リオがぶるりと身を震わせ、小さな声をあげて空に顔を向ける。
淡い灰色の空から、白い欠片が音もなくこぼれ落ちてくる。
「あら、雪じゃない。」
ハロルドは子供のように腕を広げ、衣服や手に雪がかかるのを見て楽しんでい
る。
「私だってもう23なんだから」と言った女性とはとても思えない。
ジューダスはしばらく空を眺めていたが、やがてぽつりと呟いた。
「どうして…雪は降るのだろうな。」
ハロルドはその言葉に即座に反応した。
「そんなの簡単よ。冬の雲っていうのは地上4000mから5000mの上空で、気温-
25℃前後の気象条件でできるの。で、雲をつくる水滴は直径0.1mm以下だから
過冷現象がおこって凍結しにくいんだけど、-30℃以下の気温が低い雲の上層部
だと小さな氷の結晶に変化するのよ。それが雪の種子、氷晶ね。これが超低速で
地上に落下しながら空気中の水蒸気と衝突して成長し、やがて地上に舞い降り
る。これが雪の定義ってわけ。わかった?」
まさに科学者らしい言葉を並び立てた講義である。
「お前に訊くべき質問ではなかったな。」
ジューダスは肩を落として溜息まじりに愚痴た。
「ふうん、まだ理解不充分みたいね。」
ハロルドに落ち込んだ様子はなく、寧ろ意気込んでいるように見える。
少し考えを巡らせ、再び講義を始めた。
「雪って光を反射する性質があるっしょ?だから、僅かな灯りでも周囲が明るく
なるのよ。」
それがどうしたとでも言いたげに、ジューダスは相変わらず冷たい目で見やる。
「小さな希望を、確かな未来へと導くために…」
大切な宝箱を開けるかのように、ハロルドは声を潜めて囁いた。
――――たとえばそう…天地戦争で絶望的な境遇にあった地上軍が、奇跡のよう
な勝利を遂げたように
――――ただ英雄を夢見ていただけの少年が、真の英雄となるように
――――孤独の剣士、かつて友を捨てた者が再び仲間と共に歩むことになったよ
うに
「弱くて泣き虫だった少女が、何でもできちゃう天才科学者になったように、
ね。」
ハロルドは胸を張り、誇らしげに言ってみせた。
「どうだかな。」
そう言ったジューダスの表情は、ほんの少し和らいでいるようだった。
「ちょっとぉ!なんで首傾げてるわけ!?私に不可能はないんだから。」
何を言っても感触のない仮面剣士を納得させようと、ハロルドは自己主張を試み
る。

ジューダスの目には、手に降り落ちてくる雪が映っていた。
――――いつか見た雪は生命のように儚く、僕の心に降り積もり…罪と孤独の色
に染めていったというのに。今でも変わらず、触れれば雪はすぐ解けてしまうの
に。
何故だろう…今見るこの雪には、本当に微かだが…温もりが、在る。
道を照らして指し示す、小さな光。
「あ、前方に小屋らしきもの発見!ほらジューダス、行くわよ。」
うってかわってはしゃぎ声を出し、ハロルドはジューダスのマントを引っ張る。
「ああ、わかったからその手を放せ…まったく。」
――――雪が止むことはなく、降り続けることもなく――――


*あとがき*
こんにちはー最近ちょっと詰まり気味のアーサーです( ̄× ̄;
今回は雪です!雪!!季節外れまっしぐら~♪(笑
もう7月(早い…)なんですけど、けっこう書きたかった話なので思いきって書
いちゃいました☆この章、気に入ってますね~。
二人の掛け合いが楽しかったです。ハロルドが久しぶりに科学者らしく語っ
ちゃってるところとか、ジュダのニヒル・ニヒラー・ニヒリストっぷりとか(笑
まぁ表面上は↑なんですが、ちょっとずつお互いの深い内面を見せ合ってるあた
りがツボです!
ってか雪降ってるのに登山なんてやってて大丈夫なんかな~(汗
そういえば今章のタイトルですが、「びゃっこう」とお読みしていただけると嬉
しいです。
では、次章でまたお会いしましょうっ♪

コメントする