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約束のピクニック【3】

約束のピクニック 3

作 神条


― 忍者の里 頭領の家 ―

クレス「なんか 眠れないな・・・


クレス「ん 誰かいるのかな?


クレス「・・・乱蔵さん?

乱蔵「おや クレス殿 どうなされた?

クレス「なんだか眠れなくて 乱蔵さんは何を・・・?

乱蔵「月を見ておった

クレス「月・・・?


乱蔵「この季節 月は夜更けにしか見れぬのでな・・・

クレス「・・・

乱蔵「クレス殿

クレス「?

乱蔵「どうやら また礼を言わねばなりませんな

クレス「いえ 僕らは当然の・・・ それにもう十分もてなしを受けましたから

乱蔵「いや世を救ったことではござらんよ

クレス「?

乱蔵「実は 先程すずが・・・ 泣いておりました

クレス「すずちゃんが!?

乱蔵「しっ 皆が起きてしまいます

クレス「あ すみません・・・ でも なぜ・・・?

乱蔵「皆方に会えなくなるのが よほど寂しいのでしょうな
    しかし あの子には昔から忍者の修行を施し 『心技体』を鍛えさせて来ました

クレス「・・・

乱蔵「特に『心』においては 『忍に情け無用 情けとはすなわち 己の隙』と言って
    まだ幼いすずの感情を 忍者の掟のため闇に封じ込めて来ました
    すず自身も次期頭領となるがために それを受け入れ常に感情を殺していた・・・

クレス「・・・

乱蔵「だが すずも忍者である前に一人の人間の少女・・・
    掟で感情を縛り付けておくのは 漆黒の空間に独り閉じ込めていたようなもの・・・
    クレス殿 すずはあなた方と出会って人間の光を感じることができたようです

クレス「光・・・ですか?

乱蔵「そう すずにとっては初めてかもしれない 温かい光
    暗闇に刺す一筋の閃光を 掟ゆえ私共々では教えることが出来なかった

クレス「すずちゃんのご両親もですか?

乱蔵「親の温もりは 知らぬままであろうな・・・
    しかしその分 皆方より多くのものを感じ取った 仲間という温かさを知った

クレス「感情を殺さないと忍者としてはやっていけないのでは・・・

乱蔵「左様 しかしすずの父親・銅蔵は言っておった
    『この子は自分の信ずる道を行ってほしい それが新たなる忍への夜明け・・・』
    まさにその通りになった

クレス「僕も 剣士は人間的甘さが太刀筋を鈍らすと思っていました
     でもそれで良かった思っています 滅ぼすばかりでは何も知ることはできませんから
     ダオスのことだってそうでした

乱蔵「ほほ アルベイン流 見事な剣術じゃ
    あの『ムラマサ』 柄によく握りこまれた跡が残されていたが
    見れば刃こぼれをほとんど起こしておらなんだ
    人間的甘さ・・・ですか しかしクレス殿 あなたにはそれを補ってくれる仲間がいた
    だから『ムラマサ』が刃こぼれを起こすことなく 心一刀を繰り出せた・・・
    違いますかな?

クレス「そうですね みんながいてくれたから ここまで来れました 迷わないで・・・

乱蔵「すずもそれを学んだのです 『信じる力』を・・・


乱蔵「さて 明日は皆方で骨抜きをなさるそうで

クレス「はい これでクラースさんアーチェ すずちゃんともお別れですし・・・

乱蔵「すずを頼みますぞ
    最後まで どうか人の温かさを教えてやってくだされ

クレス「はい

乱蔵「それでは 今日はおやすみくだされ 明日に差し支えますぞクレス殿

クレス「はい それじゃ失礼します


やがて月は雲に隠れ 夜は更に更けていった・・・


― 父さん 母さん 見ていてくれてますか

   かつて父さんたちが封印したダオス そして僕にとって父さんたちの敵でもあるダオス

   僕らは倒すことができました でも僕の剣の腕はまだ父さんの域に達していないでしょう

   このまま永遠に超えることが出来ないかもしれません 追いつくことも出来ないかも知れません

  なぜなら いつか父さんが言ったように 僕の剣にはいつも人間的甘さが纏わりついていましたから

   でも皆が僕を助けてくれました だから僕のアルベイン流剣術は負けなかった あのダオスにも・・・

   こんなではアルベイン流から破門されてしまいますね でもこれが僕自身の信じたアルベイン流です 

   もうすぐトーティスに帰ります 待っていて下さい 父さん 母さん


つづく

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