« 約束のピクニック【8】 | メイン | 黒百合に願う【2】 »

黒百合に願う【1】

黒百合に願う

作 神条



それはアセリア暦4361年のこと。

かつて人々を恐怖に陥れたダオスが滅亡して7年、世界各地が平和で賑わっている中、

ユミルの森奥深く、忍者の里にある事件が起ころうとしていた・・・。





朝。

頭領屋敷では、今日も里の子供達に読み書きの授業を行っている。

 生徒 「読み書きなんて忍者の技の何に役に立つんだよ!

静寂の中、一人叫ぶ生徒。彼の名は四十丸(しじまる)。

 乱蔵 「読み書きも物事を判断する勉強じゃ! 集中してやれぃ!

四十丸は授業中、講師に文句を言ったりと反抗することが多く、

乱蔵だけでなくその他の忍者講師の間でも問題視されている。

 四十丸 「あ~あ、こんなのやってらんね~よっと

言って四十丸は、筆記用具を机に置いたまま部屋を出て行った。

このようなことは今日に限ってのことではない。

 乱蔵 「待たぬか、四十丸! ・・・全く、困った奴じゃ。

乱蔵はやれやれと溜息をついた。


 四十丸 「あ・・・。

授業を抜け出した四十丸が見たのは、一人のクノイチだった。

クノイチは四十丸の傍らをスッと通り抜け、四十丸が抜け出た部屋へと入った。

 乱蔵 「おぉ、準備が出来た様じゃな、すず。

 すず 「はい、お爺様。

そう、そのクノイチは、かつてダオスを倒した英雄の一人、藤林すず。

今では身長も伸び、その容姿はかつての可愛らしさの中に、新鮮な美しさが織り交ざっている。

ダオスの一件以来、忍者の奥義も皆伝してもらい、本格的に忍者頭領になろうとしていた。


 乱蔵 「佐助等が外で待っている、気をつけるのだぞ?

 すず 「はい、行って参ります。

最近、里周辺の森に不審な影が見られるという噂が立っている。

今日はその偵察を、佐助、斎蔵、仁八、重蔵、小助、そしてすずと、忍者でも特甲級にあたる6人で行う。

 四十丸 「いいなぁ、俺も行きたいなぁ

 乱蔵 「この愚か者! 読み書きもろくに集中して出来んような奴が何を言う!

 四十丸 「うわぁ!

すずを追って無意識のうちに部屋に戻ってきた四十丸は、再び乱蔵の雷を喰らい逃げて行った。

そのやり取りを見ていたすずはクスッと微笑むと、すぐに真剣な表情に変えて中庭へと出て行った。


佐助達と合流して、それぞれの担当地域を決める。

 佐助 「では私は里の北へ、重蔵と小助は東、斎蔵と仁八は西、すずは少々大変だが南を頼む。

 すず 「はっ、大丈夫です。

― このくらいの任務・・・。すずには実力からの自信があった。

 斎蔵 「すず、闇笛は持っているか?持っていないなら1つ渡しておく。

 佐助 「そうだな、何かあったら吹いてくれ、皆もな。

闇笛を受けとり首にかける。

 佐助 「では、任務開始だ。

はっ! 5人は合わせて答えると同時に東西南北へそれぞれ散った。


頭領屋敷では午前の授業を終わろうとしていた。

 乱蔵 「では本日の筆記授業はおしまい、午後の実技演習に遅れぬようにな。

生徒達がぞろぞろ出て行く。

 乱蔵 「四十丸め、やはり戻って来なかったか。

四十丸は相変わらず行方知れずだった。

読み書きや道理の授業が退屈なのは分かっている。

しかし、それらをちゃんと取り組むくらいの精神力をつけなければ、今後の実践は乗り越えられない。

 乱蔵 「好奇心だけで乗り越えられるような、柔な修行ではないぞ。四十丸・・・。



昼。

森はのどかだった。

任務開始から2時間程経ったが、不審な物はおろか、トレントやグリズリーすら見当たらない。

すずは適当な太さの樹にもたれて武器を外し、朝作ったおにぎりを食べていた。

以前の自分ならば武器をはずし食事をするなんて絶対にしなかった。

それは忍者あるまじき行為、一瞬の油断が命取りになるから。

忍者として生きるには問題はないが、人として生きるには少し哀しい。

忍者をやめるわけにはいかないが、感情を押し殺すのはもう疲れた。

だから・・・。



食事を終えてもすずは動かなかった。

程よい風に、葉と葉の隙間から差し込む暖かい日差し。

すずは眠っていた。

 すず 「ん・・・。 ・・・あ!

強めの風が頬に当たり、すずは急に目が覚めた。

眠ってしまうとはさすがに油断しすぎだ。

素早く武器を身に付け、その場を離れた。

 すず 「眠ってしまうなんて・・・みんなに知られたらどうしよう。

馬鹿馬鹿しい不安が頭の中を駆け巡る。

そのとき、

ピィィィィィィィ!

 すず 「闇笛!?

どこからか響く笛の音。

すずは眼を閉じ、音源の位置を探った。闇笛はまだ鳴っている。

 すず 「西よりの北・・・、斎蔵さん達!

すぐに向きを変えて、道無き道を突っ切って行く。

急に木々達がざわめき出した。

 すず 「何が起こっているの・・・!?


道に出ると斎蔵と仁八、すでに駆けつけていた佐助がいた。

 斎蔵 「すず、気をつけろ、こやつただの熊ではない!

見ればそこにはグリズリーがいた。

しかし、形体が少し変だ。膝や肘等、間接から角のようなものが突出している。

 佐助 「来るぞ!

どかどかと迫って来る魔獣。

グリズリーとは動きが違う。速い!

魔獣はずずの目の前まで近づき、その太い右腕を振り上げた。攻撃が来る。

ブン!

大振りの一撃は呆気なく回避された。

すずは魔獣の腕を蹴って魔獣の上空へ飛び、

腰にあった忍刀黒百合を抜刀し、魔獣へ向けて落下した。

 すず (脳天から電撃を浴びせればどんな強靭な獣も一撃で倒れるはず。

ガッ!

 すず 「何!?

体重を乗せた黒百合の刺突が通じない。

魔獣の筋肉はまるで岩石のようだった。

 魔獣 「グォォォォォ!

 すず 「くっ!。

すずはとっさに後ろに飛ぶが魔獣の一撃は早かった。

ズガッ!

 すず 「きゃっ・・・!

一撃は足に当たり空中で体勢を崩され地面に落ちた。

 佐助 「すず!

佐助が火遁で魔獣の注意を引く。

今のうちにと思うが、片足をやられて動けなかった。

情けない。

居眠りをした挙句に、遅れをとった自分を恨む。

 斎蔵 「せぃ!

ギンッ!

斎蔵の大振り刀でも魔獣にダメージを与えられない。

 斎蔵 「なんという硬さだ。


 小助 「大丈夫か!

ようやく重蔵と小助が駆けつけた。

 佐助 「良いところに来てくれた。少々厄介な相手だ、気を付けた方が良い。

 

皆が戦っている、それなのに自分は見ているだけ・・・。

自分はこんなに弱かったのか。

ダオスが滅んでからも修行は欠かさずしていた、なのに・・・。


こんなところで、うろたえている場合ではない。

 すず 「まだ戦う術が無くなったわけじゃない!

膝を突いたまま威勢を張る。

そして懐から手裏剣を3枚取り出し念じる。

 すず 「我が御魂削りて炎と化せ!忍法曼珠沙華!

すずの手から放たれた3枚の手裏剣は魔獣の顔面目掛けて飛んでいく。

 佐助 「む!?皆離れろ!

 魔獣 「グォォォ!

ブボォン!!

魔獣が吼えた瞬間、燃える手裏剣は魔獣の口に入り、口内で爆発した。

 魔獣 「グギャァァァァァ・・・・・。

口からブスブスと煙を吐きながら魔獣はズゥゥンと倒れ、すずもまた気を失った・・・。




続く。

コメントする