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黒百合に願う【3】

黒百合に願う  亡霊の意思

作 神条




村周辺で忍者が大規模に行動することは滅多に無い。

里に危険が訪れることは少ないから。


 四十丸 「退屈だなぁ。

欠伸を混ぜながら四十丸は言った。

講師の忍者も任務に就き、授業はしばらく休止ということになっていた。

 四十丸 「あ、なんかあったのかな。

一人の忍者が頭領屋敷に入って行くのが見えた。


 小助 「頭領。

頭領屋敷に入って行ったのは小助だった。

 乱蔵 「小助、どうした。

 小助 「北部の森に不審な焚き火跡が発見されました。

 乱蔵 「まだ近くにいるようだな。小助、その焚き火跡周辺を探すのだ。

 小助 「はっ。

その傍らで話を聞いていたすずは、すくっと立ち上がった。

乱蔵をそれを制止するかのように声をかけた。

 乱蔵 「足の痛みは引いておるか。しかし任務に参加するには至らんぞ、すず。

 すず 「・・・。

今すぐにでも飛び出して行きたい気分だった。

あのとき受けた一撃が、これほど重い足枷になるとは思わなかった。



問題の焚き火跡。

 仁八 「見たところ、なんの変哲も無い焚き火跡なのだがな。

 重蔵 「うむ・・・。

 仁八 「一体どのような人物がここに・・・。

 重蔵 「少し引き返そう、ここは巡回範囲を若干越えている。

 仁八 「そうだな。

二人が振り返ったそのとき、背後から妙に冷たい人の気配した。

 仁八 「むっ・・・!

 重蔵 「誰だ。

 声 「人類の中では最も優れた戦闘種族、忍者か。

脇の林の中から声は聞こえてきた。

 声 「かつてダオス様は、お前達の同僚を捕らえ洗脳していった。

 重蔵 「ダオス様だと、ダオスの残党か!

 声 「俺もダオス様の仇を討つためお前達の力が必要だ。

 仁八 「何・・・。

 声 「行けダークアイ、そいつらを洗脳しろ。

サッと木々の間から何かが飛び出した。

仁八と重蔵は反射的に後方に跳躍し距離をとる。

飛び出してきたのは巨大な目玉の怪物だった。

 重蔵 「目玉の怪物とあらば、その弱点は必然的に瞳と推測できる!!

重蔵は空中で後転しながら怪物の瞳目掛けて手裏剣を投げた。

ドシュッ!

手裏剣は見事に瞳に命中し、怪物はどろっとした液体を出して崩れた。

 仁八 「ダオスが洗脳に使った怪物とはあれのことか。

 重蔵 「次は貴様だ、姿を見せろ。

しばらくして、森の中から一人の男が出てきた。

男は貴族のような服に黒いマント、長身でスマートな身体つきをしている。

 男 「俺はザン=フェム。ダオス様直属の親衛隊員だ。

 重蔵 「ダオスの残党か・・・。

 ザン 「忍者か。確かに強いな、ダオス様が一目置いたわけだ、が!

瞬間、ザン=フェムは体勢を低く取り、一気に走り込んできた。

 仁八 「!

敵の攻撃と判断して、仁八は刀を抜こうとしたが、

 ザン 「馬鹿め、遅いわ!

それより先に、ザン=フェムの拳が仁八の腹部にめり込んでいた。

 仁八 「ごぁっ。

さらに体勢が崩れる小助にザン=フェムは何発も拳打を放った。

ズドドドドド!

その場に倒れる小助、一瞬の出来事に重蔵は動けなかった。

 重蔵 「仁!

 ザン 「忍者とはこの程度か。

 重蔵 「見くびるなよ。

重蔵は手甲から鉤爪を突出させてザン=フェムに殴りかかったが、紙一重で避けられてしまう。

 ザン 「遅いな。

 重蔵 「くっ・・・。

ザン=フェムが拳を構えた瞬間、重蔵は後方に跳び距離を取ったが、

 ザン 「跳躍と瞬発力があっても空中で体勢は変えられないだろう!サンダーブレード!

 重蔵 「な!魔術・・・!?

ズガーン!

 重蔵 「ぐわぁぁぁぁぁ!!

強力な電撃を受け、ブスブスと煙を上げながら重蔵も地面に崩れ落ちた。

 ザン 「今ので他の忍者どもに気付かれたかもしれんな。

察するとザン=フェムはその場を離れていった。



 乱蔵 「忍達が次々に倒されているだと。

 斎蔵 「目撃者がいないため、その正体は未だ掴めておりませんが。

 乱蔵 「忍者の技をさばくとは、一体どれほどの使い手なのだ。

 佐助 「何にせよ、忍達を村の中に戻した方が良いでしょう。

 乱蔵 「やむを得んな。

新たな指示が決まったとき、乱蔵は誰かいないことに気が付いた。

 乱蔵 「すず!

遅かった。

すずは屋敷を抜け出し、すでに戦場の森へと向かっていた。

 乱蔵 「佐助。

 佐助 「御意。

さっと佐助が外へ飛び出した。

 乱蔵 「儂も後から行くとしよう。

 斎蔵 「頭領御自らが!

 乱蔵 「黒百合を修復に出している、それをすずに渡さねば。



黒百合の修復はあの問題児、四十丸の家で行われていた。

四十丸の家は代々鍛冶屋で、これまでも様々な刀を完成させている。

四十丸の父、香次郎が黒百合の修復に当たっていた。

 乱蔵 「香次郎、どうじゃ黒百合の方は。

 香次郎 「え、黒百合なら四十丸が持って行くと言うので持たせましたが・・・。

 乱蔵 「なんじゃと・・・、それはいつのことじゃ。

嫌な予感がした。

 香次郎 「30分程前になりますが、四十丸がすず様を見かけたとか。

 乱蔵 「くっ、なんということじゃ。

 香次郎 「まさか、四十丸が届けなかったのですか。

 乱蔵 「すまぬが、しばらく待ってくれ。

四十丸はすずを追いかけたのだろう、だとしたら四十丸にも危険がある。

乱蔵は鍛冶屋を出て、待っていた斎蔵と共に森へ向かった。



 小助 「仁八、重蔵、しっかりしろ!

 重蔵 「う・・・ぐ・・・。

小助が駆けつけ、ザン=フェムに圧倒された二人は意識を取り戻していた。

 重蔵 「小助、里は無事か・・・。

 小助 「あぁ大丈夫だ、何があった。

そこへ、

 すず 「小助さん、重蔵さん!

屋敷を抜け出したすずも駆けつけた。

 仁八 「すず、小助、気を付けろ。敵はダオスの残党、ザン=フェムと名乗る男だ。

 すず 「ダオス・・・。

 重蔵 「磨き掛かった格闘術に魔術も使う・・・。手強い、相手だ。

 小助 「分かった、私とすずでそいつを探す。すず、来れるか。

すずは黙って強く返事をした。同時に拳に力が入る。

 仁八 「油断は、するなよ。

今のすずにとっては胸に突き刺さるような忠告だったが、かえって気は引き締まった。

二人はザン=フェムの探索に向かった。



 すず 「ダオスの残党。亡霊の意思に私は負けない!

 小助 「頼もしいな。

先の不覚もあってか、妙に気合が入る。

何よりも相手がダオスに直に関わった者だからかもしれない。

果たしてすずと小助は、見事ザン=フェムを討つことが出来るだろうか。



続く。

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