黒百合に願う【5】
黒百合に願う
作 神条
実力に絶対的な自信を持つザン=フェムだったが、
ここまで梃子摺らされては、詰の甘さを実感するしかなかった。
ザン 「強力な忍者部隊を作ろうと思ったが、やはりそう簡単にはいかなかったな。
すず 「・・・・・。
何を今更言う。
薙ぎ倒された仲間達が頭を過ぎる。
ここで彼を倒し、事態を収拾しなければならない。
伊賀栗の次期頭領として。かつてダオスを倒した英雄として。
すず 「いざ!!
刀を抜き体勢を低くして一気に走りこみ、相手との距離を詰める。
すず 「!?
ザン 「ディープミストォ!!
刀を突き出す前にザン=フェムは撹乱の法術を放った。
辺りは一瞬にして深い霧に覆われた。
ザン 「これでは何も見えないだろう? 術者である俺にはお前が何処にいるか分かるがな!
自分の身体しか見えないほどの深い霧。視覚は頼りにならないこと悟ったすずは、目を閉じて気配を探った。
すず 「・・・。
無音の闇の中に、切り裂くように走る光を感じた。
すず 「そこだ! 忍法雷電!!
光を方向へ血桜を投げ放った。
ザン 「死ねぇ! ・・・ごほっ!?
投げ放たれた血桜は、殴り掛かろうとしていたザン=フェムの胸に、深々と突き刺さり背中から刃が突出した。
ザン 「だがこれしき、改造された俺の肉体には、かすり傷に変わりは・・・ ・・・!!?
ビシャーーーーーーッ!
ザン 「ぐあぁぁぁぁ! なんだぁぁぁ・・・ これはぁぁぁぁぁあああ!!!
突如、ザン=フェムの身体を激しい電撃が包み込んだ。
全身を貫かれたようにもがき、苦しみの叫びをあげていた。
ザン 「ぬぉぉぉぉぉぉ!! に、忍法かぁぁぁぁ!?
すず 「倒れなさい。 その電撃ならば、すぐに楽になれるはず・・・。
もはや次の手は考えていない。
これを耐えられれば、また不利な状況に返されるかもしれない。
それを恐れたすずは更なる追撃を仕掛けた。
すず 「邪悪の化身よ、ここに滅べ!!
懐から、腰から、持てるだけの全ての手裏剣や苦無を取り出し、ザン=フェムに投げ放った。
手裏剣や苦無が次々にザン=フェムの身体に突き刺さる。
ザン 「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・
霧が晴れた。
だが同時に、ザン=フェムの雄叫びも止んだ。
ザン=フェムは、とうとうその激しい攻撃に耐え切ったのだ。
すず 「そんな、これだけの攻撃を受けてまだ立てるのか。
ザン 「はぁ・・・はぁ・・・。
ザン=フェムは脱力し、ガクンと片膝を付き倒れた。
ザン 「こ、これでは、法術を・・・ 使う体力・・・が・・・。
激しい攻撃は耐えたが、ザン=フェムは既に法術を使うための体力を失っていた。
すず 「とどめを刺さなければ・・・!
忍法雷電を放つ際に突き刺した血桜の刃を返して引き抜けば、死ぬ。
すずが歩き出したそのときだった。
ドドドドドドドドドドドッ!!
激しい地響きがこちらに近づいてきた。
「助けて~~~~~!
地響きと共に、聞き覚えのある声もこちらに向かって来る。
すず 「四十丸!?
ザン 「あれは!!
四十丸は森の中を魔獣に追いかけられ続け、ついにこの戦場に現れてしまった。
すず 「四十丸! こっちに来てはいけない!
四十丸 「そそそんなこと言われたって! どうすればいいんだよぉ!!
ザン 「い、今の奴に、あの獣は倒せん。
ザン=フェムは目を閉じ念じた。
ザン (聞け! その小僧はどうでも良い。 赤い・・・そうだ、赤い忍者を殺せ!!
魔獣は向きを変え、すずの方向へ突っ込んできた。
「すず! 四十丸! 目を瞑れ!
その瞬間、どこからか自分に命令する声が聞こえてきた。
そしてすずはそれに自然に従い、目を瞑った。死を覚悟することさえもしたが。
カッ!!
ザン 「何だ!?
強烈な光と爆発が辺りに巻き起こった。
すず 「佐助さん!
自分に命じた声の主は佐助だった。
魔獣が突っ込んで来る一瞬の隙に、爆弾を投じて小助とすずを回収した。
佐助 「獣は任せろ。 四十丸、黒百合をすずに返してやれ。
四十丸 「あ、はい。
すずは黒百合を受け取り、刀を鞘から抜き出した。
すず 「ありがとう、後は私達に任せて、四十丸は里へ帰りなさい。
四十丸 「父ちゃんが、後で話があるってさ。
すずがコクンと首を立てに振ると、四十丸は木々の間をすり抜けていった。
佐助 「さてすずよ、どうやら奴はまだやれるらしい。行けるか?
見ると、ザン=フェムは重症にもかかわらず立っていた。
すず 「彼はもう立っているのが精一杯のはず。後は止めを刺すのみ。
今の言葉を聞いていたザン=フェムは、突如不気味に笑い出した。
ザン 「ふ、ふふふ・・・止めか? 刺せるものなら、刺してみるがいい・・・ふふ、ふ。
佐助 「すず!
すず 「分かっています。彼は渾身の力による相打ちを狙っています。ならば、あえて・・・。
すずはゆっくりとザン=フェムの前方へ行き、黒百合を構えた。
ザン 「どうした?
すず 「忍者は本来、敵に情けを掛けません。ですが私は、ダオスとの戦いで、若干ながら人間らしい感情を得ることが出来ました。
ザン 「・・・だからどうした? 貴様は、俺に情けをかけて戦っていたとでも言いたいのか?
すず 「いえ、余計な話でしたね。そろそろお仕舞いにさせていただきます。
ザン=フェムの顔が強張った。
完璧な最後の一撃を繰り出そうとしている、正に正念場の表情。
すず 「これで・・・終わりよ!!
黒百合を右手逆手に持ち、すれ違い座間に喉元を切り裂こうとする。
すれ違い、黒百合の刃がザン=フェム喉元を捕らえようとした瞬間だった。
ザン 「貴様もだぁぁぁ!!
体から引き抜き、隠し持っていた苦無を、すずのわき腹に押し込んだ。
同時に、黒百合の刃が自分の喉元を捕らえ、切り裂きながら抜けていった。
ザン 「バ・・・カ・・・め・・・。
血を噴出しながら、地面に倒れこむザン=フェム。
彼は完全に息絶えた。
佐助 「これがお前の最期の餌だ!
佐助は魔獣が吼えた瞬間、その口に爆弾を押し込み火を付けた。
ズガーン!
見事、魔獣の頭は吹き飛び、胴体はその場で倒れた。
佐助 「良し。後はすずだ。
すず 「こちらも終わりましたよ。
背後からすずが呼びかけてきた。
すずが指差すと、そこにはザン=フェムの遺体らしき物が横たわっていた。
だが、肉体は白く石化し、石像を砕いたかのようになっていた。
佐助 「こやつ、死ぬと石化するのか。いずれ砂となり地と一体になれることを幸運に思うが良い。
もう一つ、目立つものが転がっていた。
佐助 「戦士として、強敵を討ち取った手応えを与え、眠らせたか。変わり身とは、何も知らぬあやつはさぞ満足だろうな。
それは苦無の刺さった丸太だった。あの瞬間、態と反撃を喰らってやり、仕留めたかのように思わせる。
それがすずなりの、一介の戦士への情けだった。
すず 「せめてもの、です。
佐助 「情けならば、もう過去に掛けているのでは無いか?
佐助が黒百合を指差した。
自分が父と母を斬った際、確実に殺すことが情けだったはず。
そう思うと、情けとは一体何なのだろう、という疑問が浮かんで来た。
しかし、その疑問を打ち払うかのように願った。
自分の今いる道が、自分のあるべき道であるように。
自分の剣に自信を持てるように。
1週間後。
ザン=フェムの襲来によって傷ついた忍者達も、任務に復帰できるほど回復していた。
今回のこともあって、見習忍者だけでなく五人衆を含めた全ての忍者達の修行は一層厳しくなった。
四十丸 「あ~、もうダメだ~!
講師忍者 「四十丸! そんなことでは一生卒業できんぞ!
以前以上に厳しくなった修行に、四十丸は必死だった。
四十丸 「くっそ~。これもザン=フェムとかいうバカヤロウが来たせいだ。
講師忍者 「馬鹿者! 楽して忍者になれるか!
重蔵 「四十丸め、相当苦しんでおるようだな。
小助 「しかし、あのような小童が侮れぬ忍になるのかもな。
四十丸を始め、見習達が修行をしている片隅で、重蔵と小助は苦笑した。
重蔵 「そうだな。お前もそう思うだろう?
もう一人、二人の側で修行の様子を見つめる者がいた。
すず 「はい、きっと。
ザン=フェムの最期はとても呆気なかった。
今更だが、目的を果たせずに死んでいった彼を少し不憫に思っていた。
目的を果たせないという意味では、彼もあのダオスと同じなのだ。
すず 「我が道に、一片の不安無し、一片の過ち無し。
不可能と分かっても、かつて自分の両親を斬ってしまったことさえも、そう在りたいと願った。
刀を抜き、刀身に太陽の光を吸い込ませる。
すず 「あ、不覚はありますね。
小助 「お前も、我々もまだまだ未熟と言うことだな。
不覚があっても良い、だがそれを乗り越える強い心を持ち続けたいと、他の誰でもない父と母に願った。
重蔵 「ん、頭領がお呼びだ。久々に焼きを入れられるかもな。
小助 「四十丸のように泣くなよ、すず。
すず 「はい、大丈夫です。次期頭領あるまじき姿は見せません。
忍者の里に到来した嵐の傷はその後ゆっくり消えて行き、新たなる風が吹き始めた。
黒百合に願う ~完~
作 神条
実力に絶対的な自信を持つザン=フェムだったが、
ここまで梃子摺らされては、詰の甘さを実感するしかなかった。
ザン 「強力な忍者部隊を作ろうと思ったが、やはりそう簡単にはいかなかったな。
すず 「・・・・・。
何を今更言う。
薙ぎ倒された仲間達が頭を過ぎる。
ここで彼を倒し、事態を収拾しなければならない。
伊賀栗の次期頭領として。かつてダオスを倒した英雄として。
すず 「いざ!!
刀を抜き体勢を低くして一気に走りこみ、相手との距離を詰める。
すず 「!?
ザン 「ディープミストォ!!
刀を突き出す前にザン=フェムは撹乱の法術を放った。
辺りは一瞬にして深い霧に覆われた。
ザン 「これでは何も見えないだろう? 術者である俺にはお前が何処にいるか分かるがな!
自分の身体しか見えないほどの深い霧。視覚は頼りにならないこと悟ったすずは、目を閉じて気配を探った。
すず 「・・・。
無音の闇の中に、切り裂くように走る光を感じた。
すず 「そこだ! 忍法雷電!!
光を方向へ血桜を投げ放った。
ザン 「死ねぇ! ・・・ごほっ!?
投げ放たれた血桜は、殴り掛かろうとしていたザン=フェムの胸に、深々と突き刺さり背中から刃が突出した。
ザン 「だがこれしき、改造された俺の肉体には、かすり傷に変わりは・・・ ・・・!!?
ビシャーーーーーーッ!
ザン 「ぐあぁぁぁぁ! なんだぁぁぁ・・・ これはぁぁぁぁぁあああ!!!
突如、ザン=フェムの身体を激しい電撃が包み込んだ。
全身を貫かれたようにもがき、苦しみの叫びをあげていた。
ザン 「ぬぉぉぉぉぉぉ!! に、忍法かぁぁぁぁ!?
すず 「倒れなさい。 その電撃ならば、すぐに楽になれるはず・・・。
もはや次の手は考えていない。
これを耐えられれば、また不利な状況に返されるかもしれない。
それを恐れたすずは更なる追撃を仕掛けた。
すず 「邪悪の化身よ、ここに滅べ!!
懐から、腰から、持てるだけの全ての手裏剣や苦無を取り出し、ザン=フェムに投げ放った。
手裏剣や苦無が次々にザン=フェムの身体に突き刺さる。
ザン 「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・
霧が晴れた。
だが同時に、ザン=フェムの雄叫びも止んだ。
ザン=フェムは、とうとうその激しい攻撃に耐え切ったのだ。
すず 「そんな、これだけの攻撃を受けてまだ立てるのか。
ザン 「はぁ・・・はぁ・・・。
ザン=フェムは脱力し、ガクンと片膝を付き倒れた。
ザン 「こ、これでは、法術を・・・ 使う体力・・・が・・・。
激しい攻撃は耐えたが、ザン=フェムは既に法術を使うための体力を失っていた。
すず 「とどめを刺さなければ・・・!
忍法雷電を放つ際に突き刺した血桜の刃を返して引き抜けば、死ぬ。
すずが歩き出したそのときだった。
ドドドドドドドドドドドッ!!
激しい地響きがこちらに近づいてきた。
「助けて~~~~~!
地響きと共に、聞き覚えのある声もこちらに向かって来る。
すず 「四十丸!?
ザン 「あれは!!
四十丸は森の中を魔獣に追いかけられ続け、ついにこの戦場に現れてしまった。
すず 「四十丸! こっちに来てはいけない!
四十丸 「そそそんなこと言われたって! どうすればいいんだよぉ!!
ザン 「い、今の奴に、あの獣は倒せん。
ザン=フェムは目を閉じ念じた。
ザン (聞け! その小僧はどうでも良い。 赤い・・・そうだ、赤い忍者を殺せ!!
魔獣は向きを変え、すずの方向へ突っ込んできた。
「すず! 四十丸! 目を瞑れ!
その瞬間、どこからか自分に命令する声が聞こえてきた。
そしてすずはそれに自然に従い、目を瞑った。死を覚悟することさえもしたが。
カッ!!
ザン 「何だ!?
強烈な光と爆発が辺りに巻き起こった。
すず 「佐助さん!
自分に命じた声の主は佐助だった。
魔獣が突っ込んで来る一瞬の隙に、爆弾を投じて小助とすずを回収した。
佐助 「獣は任せろ。 四十丸、黒百合をすずに返してやれ。
四十丸 「あ、はい。
すずは黒百合を受け取り、刀を鞘から抜き出した。
すず 「ありがとう、後は私達に任せて、四十丸は里へ帰りなさい。
四十丸 「父ちゃんが、後で話があるってさ。
すずがコクンと首を立てに振ると、四十丸は木々の間をすり抜けていった。
佐助 「さてすずよ、どうやら奴はまだやれるらしい。行けるか?
見ると、ザン=フェムは重症にもかかわらず立っていた。
すず 「彼はもう立っているのが精一杯のはず。後は止めを刺すのみ。
今の言葉を聞いていたザン=フェムは、突如不気味に笑い出した。
ザン 「ふ、ふふふ・・・止めか? 刺せるものなら、刺してみるがいい・・・ふふ、ふ。
佐助 「すず!
すず 「分かっています。彼は渾身の力による相打ちを狙っています。ならば、あえて・・・。
すずはゆっくりとザン=フェムの前方へ行き、黒百合を構えた。
ザン 「どうした?
すず 「忍者は本来、敵に情けを掛けません。ですが私は、ダオスとの戦いで、若干ながら人間らしい感情を得ることが出来ました。
ザン 「・・・だからどうした? 貴様は、俺に情けをかけて戦っていたとでも言いたいのか?
すず 「いえ、余計な話でしたね。そろそろお仕舞いにさせていただきます。
ザン=フェムの顔が強張った。
完璧な最後の一撃を繰り出そうとしている、正に正念場の表情。
すず 「これで・・・終わりよ!!
黒百合を右手逆手に持ち、すれ違い座間に喉元を切り裂こうとする。
すれ違い、黒百合の刃がザン=フェム喉元を捕らえようとした瞬間だった。
ザン 「貴様もだぁぁぁ!!
体から引き抜き、隠し持っていた苦無を、すずのわき腹に押し込んだ。
同時に、黒百合の刃が自分の喉元を捕らえ、切り裂きながら抜けていった。
ザン 「バ・・・カ・・・め・・・。
血を噴出しながら、地面に倒れこむザン=フェム。
彼は完全に息絶えた。
佐助 「これがお前の最期の餌だ!
佐助は魔獣が吼えた瞬間、その口に爆弾を押し込み火を付けた。
ズガーン!
見事、魔獣の頭は吹き飛び、胴体はその場で倒れた。
佐助 「良し。後はすずだ。
すず 「こちらも終わりましたよ。
背後からすずが呼びかけてきた。
すずが指差すと、そこにはザン=フェムの遺体らしき物が横たわっていた。
だが、肉体は白く石化し、石像を砕いたかのようになっていた。
佐助 「こやつ、死ぬと石化するのか。いずれ砂となり地と一体になれることを幸運に思うが良い。
もう一つ、目立つものが転がっていた。
佐助 「戦士として、強敵を討ち取った手応えを与え、眠らせたか。変わり身とは、何も知らぬあやつはさぞ満足だろうな。
それは苦無の刺さった丸太だった。あの瞬間、態と反撃を喰らってやり、仕留めたかのように思わせる。
それがすずなりの、一介の戦士への情けだった。
すず 「せめてもの、です。
佐助 「情けならば、もう過去に掛けているのでは無いか?
佐助が黒百合を指差した。
自分が父と母を斬った際、確実に殺すことが情けだったはず。
そう思うと、情けとは一体何なのだろう、という疑問が浮かんで来た。
しかし、その疑問を打ち払うかのように願った。
自分の今いる道が、自分のあるべき道であるように。
自分の剣に自信を持てるように。
1週間後。
ザン=フェムの襲来によって傷ついた忍者達も、任務に復帰できるほど回復していた。
今回のこともあって、見習忍者だけでなく五人衆を含めた全ての忍者達の修行は一層厳しくなった。
四十丸 「あ~、もうダメだ~!
講師忍者 「四十丸! そんなことでは一生卒業できんぞ!
以前以上に厳しくなった修行に、四十丸は必死だった。
四十丸 「くっそ~。これもザン=フェムとかいうバカヤロウが来たせいだ。
講師忍者 「馬鹿者! 楽して忍者になれるか!
重蔵 「四十丸め、相当苦しんでおるようだな。
小助 「しかし、あのような小童が侮れぬ忍になるのかもな。
四十丸を始め、見習達が修行をしている片隅で、重蔵と小助は苦笑した。
重蔵 「そうだな。お前もそう思うだろう?
もう一人、二人の側で修行の様子を見つめる者がいた。
すず 「はい、きっと。
ザン=フェムの最期はとても呆気なかった。
今更だが、目的を果たせずに死んでいった彼を少し不憫に思っていた。
目的を果たせないという意味では、彼もあのダオスと同じなのだ。
すず 「我が道に、一片の不安無し、一片の過ち無し。
不可能と分かっても、かつて自分の両親を斬ってしまったことさえも、そう在りたいと願った。
刀を抜き、刀身に太陽の光を吸い込ませる。
すず 「あ、不覚はありますね。
小助 「お前も、我々もまだまだ未熟と言うことだな。
不覚があっても良い、だがそれを乗り越える強い心を持ち続けたいと、他の誰でもない父と母に願った。
重蔵 「ん、頭領がお呼びだ。久々に焼きを入れられるかもな。
小助 「四十丸のように泣くなよ、すず。
すず 「はい、大丈夫です。次期頭領あるまじき姿は見せません。
忍者の里に到来した嵐の傷はその後ゆっくり消えて行き、新たなる風が吹き始めた。
黒百合に願う ~完~