テイルズオブファンタジア【5】
ついにチェスターがトーティス村を出発してから3日目の朝を迎えてしまった。
「……フゥ…やっと…着いたよ…」
アーチェは箒で1晩中飛んでようやく東の草原へ辿り着いた。
寝ないで箒を飛ばしてきたのでアーチェはもうくたくただった。
しかし、チェスターの事を思えばそんな事は苦にはならなかった。
「早く…レインボーリーフを探して…チェスターを助けなきゃ…」
アーチェはチェスターのために一刻も早く薬草を見つけようと必死だった。
しかし、レインボーリーフなるものはどこを探しても見つからない。
「無い…無いよぉ…お願い…早く…見つかって…」
ここがヘッジヴァイパーの巣であるのも忘れて彼女はひたすら薬草を探していた。
チェスターの事を祈りながら草むらを掻き分け、薬草を探す。
そうしている内に、ふと目の前に七色に光る草があった。
「まさか…あれって…うん!レインボーリーフに違いないよね!」
そしてアーチェがそれをとろうとして手を伸ばした瞬間、
「シャアアァァァァー!」
草の陰からヘッジヴァィパーが飛び出した。
「あ…っ…痛…」
アーチェがそう感じた時にはすでに遅く、二の腕をかまれてしまった後だった。
「せっかく…見つけたのに…チェスター…を…助けなきゃ…いけないのに…っ…!」
ピンク髪のポニーテールを風になびかせながらアーチェはゆっくりとその場に崩れ落ちた。
(体が…動かない…嫌…こんなとこで…死にたく…ないよぉ…)
草原の上にうつぶせ状態に倒れたアーチェ、その彼女を不気味にヘッジヴァイパーが再び狙っていた。
------その頃のチェスター------
「よし…もう十分休んで頭痛も…まぁ、少しではあるが良くなったみてぇだな。」
一刻も早く、エルフの里に着かなきゃな…そう思うと歩くテンポが自然に速くなる。
歩き始めて間も無く、チェスターは道に放ってある箒を目にした。
「何だ…?あの箒…見覚えがあるような気がするんだが…って、ま…まさか…」
チェスターは急いで箒の近くまで行き、近くで凝視した。
予感は的中していた。その箒はやはりアーチェの物だったのだ。
「やっぱり…この箒は…あいつのだな…しかし…
…ここら一帯はヘッジヴァイパーの巣だ…こんな危険な所にあいつ、何しに…」
チェスターは箒を手に取るとアーチェの足跡がある方向へ歩いて行った。
(妙だな…足跡はこんなにくっきり残ってんのに…肝心のあいつの姿が見えやしねぇ…)
その疑問はすぐに取り払われた。数10mほど先の地点に誰かが倒れていたのだ。
いつもしている筈の、ポニーテールピンク髪で離れていてもアーチェである事は十分にわかった。
そしてチェスターはその光景を見て声を失ってしまった。
(そ…そんな…ここは毒蛇の巣だぞ…倒れる理由っつったら…1つしかねぇ…!)
チェスターはアーチェの元へ走り寄った。
「アーチェ!オイ!しっかりしろ!」
ゆすっても彼女からの返事は無かった、顔が青ざめ呼吸が苦しそうだ。
右手に噛まれた跡が見つかり、チェスターはそこから毒を吸い出した。
「ダメだ…こんなの…ただの気休めにしかならねぇ…ちくしょう…どうしたら…」
…アーチェは右手でしっかりとレインボーリーフを掴んでいた。
チェスターを助けたい、その一心で毒で気を失っても決して手を薬草から離さなかったのだ。
不意にアーチェの手に掴まれていた草にチェスターが目を留めた。
「これは…確かミントに聞いた事がある…どんな病気…体の異常をも治す…
幻の薬草レインボーリーフの話を…これがもしそうならアーチェにやれば助かるかも知れねぇ…」
しかしここでチェスターは1つの壁にぶち当たった。
薬草はこのままでは煎じる事が出来ない、優秀な医者か、
…もしくはそれに相当するほどに知識の持ち主で無いとこの薬草の調合は出来なかったのだ。
(…く…一体…誰のこの薬草を渡せばいいんだ…)
チェスターは頭の中で必死に当てはまる人物を思い浮かべる。
(そうだ…アルヴァニスタにいるルーングロムさんなら…何とかしてくれるかも知れねぇ…)
ルーングロムとはアルヴァニスタの魔法研究所の学者である。
彼の卓越した頭なら薬を調合するくらいワケは無いとチェスターは思ったのだ。
しかし、アーチェを襲ったヘッジヴァイパーの毒は本当に強力で、
噛まれてから6時間以内に薬を飲まさなければ死んでしまうのだった。
「くっ…俺はハーフエルフじゃねぇから…箒は使えねぇ…
おまけにまた頭痛が激しくなってきやがった…シャレにならねぇぜ…この状況…」
チェスターは頭痛のせいで今にも倒れそうだった。しかし、
(俺の苦しさなんか…アーチェに比べればなんとも無いようなもんだ…)
そう思うとチェスターは彼女をおぶり、全速力でアルヴァニスタへと向かったのだった。
(アーチェは絶対死なさねぇ…俺の命に代えても…絶対にな…っ…!)
チェスターは自分の体の中で起きている異変に気づき始めていた。
この頭痛が、ただの疲れや風邪じゃないという事を本能的に感じ取っていた。
------そして5時間後------
死ぬ思いでアルヴァニスタへ辿り着いたチェスター、彼の後方には夕日が沈もうとしていた頃だった。
チェスターは大急ぎでアーチェを宿屋に寝かせ、城にいるルーングロムの元を訪れた。
この時代の彼にあるのは初めてだったが、クレスの仲間という事…
そしてこの重大さを彼に伝えるとすぐに宿屋まで来てくれたのだ。
「これは…大変だ…一刻を争う…チェスター君、レインボーリーフをくれたまえ…
この薬草を調合してすぐに与えないと、手遅れになってしまう…」
(手遅れ…)その言葉にチェスターは忠実に反応し、急いで薬草を手渡す。
薬草を受け取ったルーングロムは、さすが手際良く、ものの2~3分で薬を作り終えた。
そしてゆっくりとそれをアーチェの口に運び、飲み込ませた。
「ふぅ…チェスター君、大変だっただろう…だがもうアーチェ君は大丈夫だ。安心したまえ。」
これを聞いたチェスターは自分の聞こえた事が真実であるのかもう1度聞き返す。
「本当に…大丈夫なのか…?アーチェは…助…かった…のか…?」
チェスターの青い眼からポロポロと涙が零れ落ちる。
「ああ…もう大丈夫…毒は完全に取り除かれたよ。」
そうルーングロムが言った瞬間、チェスターの張り詰めていた心がスッ…と音無く切れた。
「ああ…良か…った…………」
ドサ……
チェスターがその場に倒れこむ、そして2度と目を覚ます事は無かった。
「チェ…チェスター君!?しっかりしたまえ!チェスター君!」
そしてその数分後、アーチェがようやく目を覚ました。
「…あれ…あたし…何でベッドの上にいるの…?確か毒蛇に噛まれた筈じゃ…」
アーチェがきょときょとと回りを見回す、
「良かった…気がついたのか…アーチェ君…」
「ル…ルーングロムさん!?…って事は…ここはアルヴァニスタ…?あたし…何でここに…」
「…チェスター君に感謝したまえ…彼が君をここまで運んでくれたのだ。」
(チェスター…そうだ…!あたしは…チェスターのためにレインボーリーフを採りに行ったのに…!)
「チェ…チェスターは…?今どこにいるんですか…!?」
一呼吸おきルーングロムは答えた。
「…彼なら…ここに寝ている……」
ルーングロムはアーチェのベッドと通路を挟んで隣のベッドに目を向ける。
「あっ…チェスター………眠ってる…」
チェスターは静かに眠っていた。
しかし、静か過ぎると思ったのかアーチェは彼の口元で手を当ててみた。
(…………!!………嘘………でしょ………!?………)
チェスターは息をしていなかった、眠ったように…死んでいたのだ。
「え…あはは…冗談でしょ…?2人してからかわないでよ…やだなぁ…」
アーチェの声は震えていた…冗談だと思った。
あたしがこうして生きているのだからチェスターも当然助かっていると思っていた。
ルーングロムは視線を床に向けたまま何も言う事が出来なかった。
「嫌…チェスタぁー…死んじゃ嫌だよ…!お願い…返事して…う…ヒック…」
こんな再開…望んでなんかいなかった、絶対にこんな事は信じたくなかった。
「あたしが生きてるのに…何…何で…あんたが…ヒック…死んじゃうのよ…これじゃ…
…あたしだって…生きてる意味なんて…無いじゃない…!チェスターが…いなきゃ…あたし…」
いつもみたいにつっかかって欲しかった。
何でもいい、喋って貰いたかった。
目の前の光景…嘘だと思った。
そうじゃない…
嘘が良かった…嘘にして欲しかった。
「ルーン…グロム…さん…あたし…今日は…チェスターと…一緒にいます…」
アーチェは涙が止まらなかった。顔全体が涙で溢れている。
「わかった…君の容態が急変した時のため私も隣に部屋を取ってある、何かあったらすぐ来る事だ。」
アーチェは黙って頷いた、もう声も出せない、やりきれない思いが爆発しそうだった。
「じゃあ…お休み…アーチェ君…」
…バタン!
ルーングロムはそれだけ言うと部屋を出て行った。
「チェスター…こんな時にしか言えないあたしを笑わないでね…?」
「…大好き……」
アーチェはそう言うとチェスターの唇と自分の唇とを重ね合わせた。
(チェスター…あたし…ずぅっと大好きだからね…!)
(今日は…もう…眠れそうに無いや…外で空気でも吸ってこよかな…)
アーチェがドアノブに手を掛けた、その瞬間だった。
『人の唇を黙って奪っておいてどこ行く気だ?』
どこからか幻聴が聞こえてきた。
(どうしたんだろ…やっぱり…疲れてるのかな…)
もう1度ドアノブに手を掛ける、そして言葉ももう1度。
『オイ、聞いてんのかよ、アーチェ!』
(……え…?幻聴が私の名前を呼んだ…?)
恐る恐る後ろを振り返るとそこにはさっき眠るように死んでいたチェスターが起き上がっていた。
「チェ…チェ…チェスター!」
今度は嬉しさで涙が止まらない。そこにいたのは、本物のチェスターだった。
アーチェはチェスターに向かって跳んで抱きついた。
「う…うわ…急に何すんだよ…!」
チェスターの顔がどんどん赤く染まっていく。
「あんた…一回は死んじゃったんだよ…?もう…女の子を…1人にはさせないでよね?」
チェスターの心臓は確かに停止していたはずだ、何故今ここで生きているのだろう。
「あ…ああ…ゴメンな…でも俺は…お前ともう離れたくない…!」
「あたしも…ずっとチェスターと一緒にいたいよ…!」
2人でお互いの気持ちを確認し合う、2人共この一言で十分だった。
…バタン!
ドアが開いた、そしてそこにはルーングロムが立っていた。
「…どうしたんだ…騒がしいようだが………!?」
何故チェスターが生き返っているのか、そしてこの2人の光景を見て彼は目を丸くしていた。
「あ…見つかっちゃったね…♪」
別に恥じる事も無くアーチェはチェスターに笑顔を向ける。
「ああ…そうだな…」
チェスターも笑っている、恥ずかしそうな様子は微塵も無かった。
お互いの意思を確認しあったこの2人はもう恥ずかしいという気持ちは無かった。
「ところで、ルーングロムさん、どうしてチェスターはまた心臓が動き始めたの?」
アーチェが不思議そうな顔をして彼に問いかける。
「それは…1つ推測ならある。アーチェ君、君はチェスター君と、その…キスをしなかったかい…?」
ルーングロムも声をこもらせて言う、やはりストレートには言い難いのだろう。
「え…?あ…は…はい…た…確かにしました…」
アーチェの顔が真っ赤になり、チェスターの顔も同時に赤くなる。
「そうだな…血液検査をすればよりはっきりするだろう。ちょっと血を貰うよ。」
チェスターは言われるままに血を提供しルーングロムはそれを早速調べた。
その結果信じられない事がわかった。
「率直に言うよ、チェスター君はハーフエルフに近くなってきている。」
この言葉で2人は同時に言葉に詰まる。しかし、チェスターは何とか質問が出来た。
「それって…どういう意味なんだ…?」
「つまりだ、君の血の中に少なからずエルフの細胞が入っているんだ、
だからエルフの調合役の副作用も[人間]じゃなくなっている君にはただの薬になったというわけだ。
さっきアーチェ君が君にキスをしたといったね?その際エルフの細胞が君の中に入ったんだと思う。」
2人は言葉が出なかった。
…信じられない話だった、もし本当にそうなら「奇跡」としか言いようが無かった。
更にチェスターはハーフエルフと同じくらい長生きも出来るようになっていたのだ。
この日、チェスターとアーチェの2人は笑顔でお互いを見つめ合いそして眠りに着いた。
------次の日------
「ルーングロムさん有難うございました!」
アーチェは深々とお辞儀をする。
今アーチェ達は箒に乗ってトーティス村に帰ろうとしているところだった。
「いや、礼はいいさ。それより、気をつけて帰るんだよ。」
「「…はいっ!」」
アーチェとチェスターの2人の言葉が被った。
「じゃあルーングロムさん…さようなら…!」
「ああ…チェスター君もお元気で、彼女から新たに授かった命を無駄にするんじゃないぞ。」
「わかってるよ…色々世話になったな…さようなら!ルーングロムさん!」
照れ笑いをしつつチェスターが別れの言葉を言った。
そして、チェスターの言葉を最後に箒はトーティス村を目指して飛んで行った。
しばらく飛んでいるとチェスターはいきなりアーチェに話しかけた。
「…アーチェ…」
「ん…?どしたのチェスター?」
チェスターの言葉に即座に反応するアーチェ。
「あの時…お前からキスしたんだから…今度は俺から…させてくれ…」
この言葉に驚きを隠せないアーチェ。そして彼女は黙ってその艶やかな唇を差し出した。
2人は再びそっとキスを交えた、時間が止まったような、そんな気分が2人を包んだ。
愛というものはどんなに時が経っても変わらない。今までも、そしてこれからも。
2人の時間はまだ始まったばかり、これからいろいろな事を積み上げていく。
2人ともかけがいのないものを手に入れ、お互いの愛を誓い合う。
長い時を経てやっと自分に素直になれた、
(もう…2度と…離れたくない…)
共通の想いが自分たちの心を眩しく照らしていた。
間も無くトーティスの村が見えてきた。
そこには自分たちに向かって手を振っているクレスとミントが輝いていた。
~Fin~
~後書き~
最終章なので少し増量しました。
…恥ずかしい内容です。
今まで見てくださった人たちには本当に感謝しています。
また機会があったら何か小説を書かせていただこうと思います。
うまく…語れません…言いたいことはたくさんあるのですが…
本当に見てくださって有難うございました。
ここに書かせて貰った事を光栄に思っています。
それではまた機会が合ったらお会いしましょう。
これで…失礼します。
「……フゥ…やっと…着いたよ…」
アーチェは箒で1晩中飛んでようやく東の草原へ辿り着いた。
寝ないで箒を飛ばしてきたのでアーチェはもうくたくただった。
しかし、チェスターの事を思えばそんな事は苦にはならなかった。
「早く…レインボーリーフを探して…チェスターを助けなきゃ…」
アーチェはチェスターのために一刻も早く薬草を見つけようと必死だった。
しかし、レインボーリーフなるものはどこを探しても見つからない。
「無い…無いよぉ…お願い…早く…見つかって…」
ここがヘッジヴァイパーの巣であるのも忘れて彼女はひたすら薬草を探していた。
チェスターの事を祈りながら草むらを掻き分け、薬草を探す。
そうしている内に、ふと目の前に七色に光る草があった。
「まさか…あれって…うん!レインボーリーフに違いないよね!」
そしてアーチェがそれをとろうとして手を伸ばした瞬間、
「シャアアァァァァー!」
草の陰からヘッジヴァィパーが飛び出した。
「あ…っ…痛…」
アーチェがそう感じた時にはすでに遅く、二の腕をかまれてしまった後だった。
「せっかく…見つけたのに…チェスター…を…助けなきゃ…いけないのに…っ…!」
ピンク髪のポニーテールを風になびかせながらアーチェはゆっくりとその場に崩れ落ちた。
(体が…動かない…嫌…こんなとこで…死にたく…ないよぉ…)
草原の上にうつぶせ状態に倒れたアーチェ、その彼女を不気味にヘッジヴァイパーが再び狙っていた。
------その頃のチェスター------
「よし…もう十分休んで頭痛も…まぁ、少しではあるが良くなったみてぇだな。」
一刻も早く、エルフの里に着かなきゃな…そう思うと歩くテンポが自然に速くなる。
歩き始めて間も無く、チェスターは道に放ってある箒を目にした。
「何だ…?あの箒…見覚えがあるような気がするんだが…って、ま…まさか…」
チェスターは急いで箒の近くまで行き、近くで凝視した。
予感は的中していた。その箒はやはりアーチェの物だったのだ。
「やっぱり…この箒は…あいつのだな…しかし…
…ここら一帯はヘッジヴァイパーの巣だ…こんな危険な所にあいつ、何しに…」
チェスターは箒を手に取るとアーチェの足跡がある方向へ歩いて行った。
(妙だな…足跡はこんなにくっきり残ってんのに…肝心のあいつの姿が見えやしねぇ…)
その疑問はすぐに取り払われた。数10mほど先の地点に誰かが倒れていたのだ。
いつもしている筈の、ポニーテールピンク髪で離れていてもアーチェである事は十分にわかった。
そしてチェスターはその光景を見て声を失ってしまった。
(そ…そんな…ここは毒蛇の巣だぞ…倒れる理由っつったら…1つしかねぇ…!)
チェスターはアーチェの元へ走り寄った。
「アーチェ!オイ!しっかりしろ!」
ゆすっても彼女からの返事は無かった、顔が青ざめ呼吸が苦しそうだ。
右手に噛まれた跡が見つかり、チェスターはそこから毒を吸い出した。
「ダメだ…こんなの…ただの気休めにしかならねぇ…ちくしょう…どうしたら…」
…アーチェは右手でしっかりとレインボーリーフを掴んでいた。
チェスターを助けたい、その一心で毒で気を失っても決して手を薬草から離さなかったのだ。
不意にアーチェの手に掴まれていた草にチェスターが目を留めた。
「これは…確かミントに聞いた事がある…どんな病気…体の異常をも治す…
幻の薬草レインボーリーフの話を…これがもしそうならアーチェにやれば助かるかも知れねぇ…」
しかしここでチェスターは1つの壁にぶち当たった。
薬草はこのままでは煎じる事が出来ない、優秀な医者か、
…もしくはそれに相当するほどに知識の持ち主で無いとこの薬草の調合は出来なかったのだ。
(…く…一体…誰のこの薬草を渡せばいいんだ…)
チェスターは頭の中で必死に当てはまる人物を思い浮かべる。
(そうだ…アルヴァニスタにいるルーングロムさんなら…何とかしてくれるかも知れねぇ…)
ルーングロムとはアルヴァニスタの魔法研究所の学者である。
彼の卓越した頭なら薬を調合するくらいワケは無いとチェスターは思ったのだ。
しかし、アーチェを襲ったヘッジヴァイパーの毒は本当に強力で、
噛まれてから6時間以内に薬を飲まさなければ死んでしまうのだった。
「くっ…俺はハーフエルフじゃねぇから…箒は使えねぇ…
おまけにまた頭痛が激しくなってきやがった…シャレにならねぇぜ…この状況…」
チェスターは頭痛のせいで今にも倒れそうだった。しかし、
(俺の苦しさなんか…アーチェに比べればなんとも無いようなもんだ…)
そう思うとチェスターは彼女をおぶり、全速力でアルヴァニスタへと向かったのだった。
(アーチェは絶対死なさねぇ…俺の命に代えても…絶対にな…っ…!)
チェスターは自分の体の中で起きている異変に気づき始めていた。
この頭痛が、ただの疲れや風邪じゃないという事を本能的に感じ取っていた。
------そして5時間後------
死ぬ思いでアルヴァニスタへ辿り着いたチェスター、彼の後方には夕日が沈もうとしていた頃だった。
チェスターは大急ぎでアーチェを宿屋に寝かせ、城にいるルーングロムの元を訪れた。
この時代の彼にあるのは初めてだったが、クレスの仲間という事…
そしてこの重大さを彼に伝えるとすぐに宿屋まで来てくれたのだ。
「これは…大変だ…一刻を争う…チェスター君、レインボーリーフをくれたまえ…
この薬草を調合してすぐに与えないと、手遅れになってしまう…」
(手遅れ…)その言葉にチェスターは忠実に反応し、急いで薬草を手渡す。
薬草を受け取ったルーングロムは、さすが手際良く、ものの2~3分で薬を作り終えた。
そしてゆっくりとそれをアーチェの口に運び、飲み込ませた。
「ふぅ…チェスター君、大変だっただろう…だがもうアーチェ君は大丈夫だ。安心したまえ。」
これを聞いたチェスターは自分の聞こえた事が真実であるのかもう1度聞き返す。
「本当に…大丈夫なのか…?アーチェは…助…かった…のか…?」
チェスターの青い眼からポロポロと涙が零れ落ちる。
「ああ…もう大丈夫…毒は完全に取り除かれたよ。」
そうルーングロムが言った瞬間、チェスターの張り詰めていた心がスッ…と音無く切れた。
「ああ…良か…った…………」
ドサ……
チェスターがその場に倒れこむ、そして2度と目を覚ます事は無かった。
「チェ…チェスター君!?しっかりしたまえ!チェスター君!」
そしてその数分後、アーチェがようやく目を覚ました。
「…あれ…あたし…何でベッドの上にいるの…?確か毒蛇に噛まれた筈じゃ…」
アーチェがきょときょとと回りを見回す、
「良かった…気がついたのか…アーチェ君…」
「ル…ルーングロムさん!?…って事は…ここはアルヴァニスタ…?あたし…何でここに…」
「…チェスター君に感謝したまえ…彼が君をここまで運んでくれたのだ。」
(チェスター…そうだ…!あたしは…チェスターのためにレインボーリーフを採りに行ったのに…!)
「チェ…チェスターは…?今どこにいるんですか…!?」
一呼吸おきルーングロムは答えた。
「…彼なら…ここに寝ている……」
ルーングロムはアーチェのベッドと通路を挟んで隣のベッドに目を向ける。
「あっ…チェスター………眠ってる…」
チェスターは静かに眠っていた。
しかし、静か過ぎると思ったのかアーチェは彼の口元で手を当ててみた。
(…………!!………嘘………でしょ………!?………)
チェスターは息をしていなかった、眠ったように…死んでいたのだ。
「え…あはは…冗談でしょ…?2人してからかわないでよ…やだなぁ…」
アーチェの声は震えていた…冗談だと思った。
あたしがこうして生きているのだからチェスターも当然助かっていると思っていた。
ルーングロムは視線を床に向けたまま何も言う事が出来なかった。
「嫌…チェスタぁー…死んじゃ嫌だよ…!お願い…返事して…う…ヒック…」
こんな再開…望んでなんかいなかった、絶対にこんな事は信じたくなかった。
「あたしが生きてるのに…何…何で…あんたが…ヒック…死んじゃうのよ…これじゃ…
…あたしだって…生きてる意味なんて…無いじゃない…!チェスターが…いなきゃ…あたし…」
いつもみたいにつっかかって欲しかった。
何でもいい、喋って貰いたかった。
目の前の光景…嘘だと思った。
そうじゃない…
嘘が良かった…嘘にして欲しかった。
「ルーン…グロム…さん…あたし…今日は…チェスターと…一緒にいます…」
アーチェは涙が止まらなかった。顔全体が涙で溢れている。
「わかった…君の容態が急変した時のため私も隣に部屋を取ってある、何かあったらすぐ来る事だ。」
アーチェは黙って頷いた、もう声も出せない、やりきれない思いが爆発しそうだった。
「じゃあ…お休み…アーチェ君…」
…バタン!
ルーングロムはそれだけ言うと部屋を出て行った。
「チェスター…こんな時にしか言えないあたしを笑わないでね…?」
「…大好き……」
アーチェはそう言うとチェスターの唇と自分の唇とを重ね合わせた。
(チェスター…あたし…ずぅっと大好きだからね…!)
(今日は…もう…眠れそうに無いや…外で空気でも吸ってこよかな…)
アーチェがドアノブに手を掛けた、その瞬間だった。
『人の唇を黙って奪っておいてどこ行く気だ?』
どこからか幻聴が聞こえてきた。
(どうしたんだろ…やっぱり…疲れてるのかな…)
もう1度ドアノブに手を掛ける、そして言葉ももう1度。
『オイ、聞いてんのかよ、アーチェ!』
(……え…?幻聴が私の名前を呼んだ…?)
恐る恐る後ろを振り返るとそこにはさっき眠るように死んでいたチェスターが起き上がっていた。
「チェ…チェ…チェスター!」
今度は嬉しさで涙が止まらない。そこにいたのは、本物のチェスターだった。
アーチェはチェスターに向かって跳んで抱きついた。
「う…うわ…急に何すんだよ…!」
チェスターの顔がどんどん赤く染まっていく。
「あんた…一回は死んじゃったんだよ…?もう…女の子を…1人にはさせないでよね?」
チェスターの心臓は確かに停止していたはずだ、何故今ここで生きているのだろう。
「あ…ああ…ゴメンな…でも俺は…お前ともう離れたくない…!」
「あたしも…ずっとチェスターと一緒にいたいよ…!」
2人でお互いの気持ちを確認し合う、2人共この一言で十分だった。
…バタン!
ドアが開いた、そしてそこにはルーングロムが立っていた。
「…どうしたんだ…騒がしいようだが………!?」
何故チェスターが生き返っているのか、そしてこの2人の光景を見て彼は目を丸くしていた。
「あ…見つかっちゃったね…♪」
別に恥じる事も無くアーチェはチェスターに笑顔を向ける。
「ああ…そうだな…」
チェスターも笑っている、恥ずかしそうな様子は微塵も無かった。
お互いの意思を確認しあったこの2人はもう恥ずかしいという気持ちは無かった。
「ところで、ルーングロムさん、どうしてチェスターはまた心臓が動き始めたの?」
アーチェが不思議そうな顔をして彼に問いかける。
「それは…1つ推測ならある。アーチェ君、君はチェスター君と、その…キスをしなかったかい…?」
ルーングロムも声をこもらせて言う、やはりストレートには言い難いのだろう。
「え…?あ…は…はい…た…確かにしました…」
アーチェの顔が真っ赤になり、チェスターの顔も同時に赤くなる。
「そうだな…血液検査をすればよりはっきりするだろう。ちょっと血を貰うよ。」
チェスターは言われるままに血を提供しルーングロムはそれを早速調べた。
その結果信じられない事がわかった。
「率直に言うよ、チェスター君はハーフエルフに近くなってきている。」
この言葉で2人は同時に言葉に詰まる。しかし、チェスターは何とか質問が出来た。
「それって…どういう意味なんだ…?」
「つまりだ、君の血の中に少なからずエルフの細胞が入っているんだ、
だからエルフの調合役の副作用も[人間]じゃなくなっている君にはただの薬になったというわけだ。
さっきアーチェ君が君にキスをしたといったね?その際エルフの細胞が君の中に入ったんだと思う。」
2人は言葉が出なかった。
…信じられない話だった、もし本当にそうなら「奇跡」としか言いようが無かった。
更にチェスターはハーフエルフと同じくらい長生きも出来るようになっていたのだ。
この日、チェスターとアーチェの2人は笑顔でお互いを見つめ合いそして眠りに着いた。
------次の日------
「ルーングロムさん有難うございました!」
アーチェは深々とお辞儀をする。
今アーチェ達は箒に乗ってトーティス村に帰ろうとしているところだった。
「いや、礼はいいさ。それより、気をつけて帰るんだよ。」
「「…はいっ!」」
アーチェとチェスターの2人の言葉が被った。
「じゃあルーングロムさん…さようなら…!」
「ああ…チェスター君もお元気で、彼女から新たに授かった命を無駄にするんじゃないぞ。」
「わかってるよ…色々世話になったな…さようなら!ルーングロムさん!」
照れ笑いをしつつチェスターが別れの言葉を言った。
そして、チェスターの言葉を最後に箒はトーティス村を目指して飛んで行った。
しばらく飛んでいるとチェスターはいきなりアーチェに話しかけた。
「…アーチェ…」
「ん…?どしたのチェスター?」
チェスターの言葉に即座に反応するアーチェ。
「あの時…お前からキスしたんだから…今度は俺から…させてくれ…」
この言葉に驚きを隠せないアーチェ。そして彼女は黙ってその艶やかな唇を差し出した。
2人は再びそっとキスを交えた、時間が止まったような、そんな気分が2人を包んだ。
愛というものはどんなに時が経っても変わらない。今までも、そしてこれからも。
2人の時間はまだ始まったばかり、これからいろいろな事を積み上げていく。
2人ともかけがいのないものを手に入れ、お互いの愛を誓い合う。
長い時を経てやっと自分に素直になれた、
(もう…2度と…離れたくない…)
共通の想いが自分たちの心を眩しく照らしていた。
間も無くトーティスの村が見えてきた。
そこには自分たちに向かって手を振っているクレスとミントが輝いていた。
~Fin~
~後書き~
最終章なので少し増量しました。
…恥ずかしい内容です。
今まで見てくださった人たちには本当に感謝しています。
また機会があったら何か小説を書かせていただこうと思います。
うまく…語れません…言いたいことはたくさんあるのですが…
本当に見てくださって有難うございました。
ここに書かせて貰った事を光栄に思っています。
それではまた機会が合ったらお会いしましょう。
これで…失礼します。