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紅の記憶【1】

雪がつもってく。

―リア


あたしの大事な、
大切な友達。

リア。



ねぇリア、
聞こえてる?


アタシここにいるよね?

ちゃんといきてるよね?




“ 紅の記憶 ”

― 白の世界が ―






ダオスとの最終決戦を目の前に、クレス一行は常闇の町アーリィにたどり着いた。
そこは雪が降りしきる、極寒の地だった。

「あーさぶっっ何これぇ!」
ピンクのポニーテールがゆれ、またがっていた箒から一人の少女が降り立つ。

彼女の名前はアーチェ・クライン。
人間とエルフの間に生まれた、まがいもの「ハーフエルフ」だった。

彼女に続き、旅をともにしてきた仲間たちがレアバードとよばれる、
空中を飛行する機能をもつそれから、次々に降りはじめた。

「ここがアーリィか・・・」
ささっとレアバードをウイングパックにしまい、ほうっとする一行。

ダオスの影響であろうか、
寒さだけではなく、さきほどまで空にあった、太陽の光がさえぎられてしまっていた。
おかげで二つの月、シルヴァラントとテセアラがくっきりと浮かんでいる。

それに見とれている一行だったが、風を感じるとぶるっと身震いをした。
「早く宿屋を探しましょう。風邪をひいてしまいますから…」
白い服をまとった法術師、ミント・アドネートが息さえも白くさせていった。

暗い背景に白の服は映え、神聖なもののように見える。
ミントの案に皆同意し、雪の吹雪く中、宿屋を探し始めた。


と。町の中に赤いものが、ぼんやりとうごめいている。
ぱちぱちという音は、それがなんであるかを示した。

「焚き火だ!」

寒さに耐えかねたパーティの一人がそこに駆け寄った。
腕の辺りを露出していたので、彼は腕を抱えながら走っていく。
彼はチェスター・バークライト。

アーチェの思い人でもあった。

火を焚いていたのはアルヴァニスタの調査隊の残留組だった。
焚き火に手を伸ばして暖かさに感動するメンバーの中で、
最年長の召喚術師クラース・F・レスターは、彼らと親しげに話していた。
「・・そうですか、ご苦労様です。」
「ココは、ひどいとマイナス20℃までさがるんですよ。気をつけてくださいね。」

「ところで、宿屋はどこにあるか御存知ですか?」
「宿屋ですか?」
ようやく宿屋の話までもっていくと、
調査隊の一人は、「あちらですよ」と路地の方を指差した。
それをきくと、短く礼をつげ、
足早に宿屋に向かっていくのであった。


「たはぁ~♪」
アーチェは宿屋につくなり、ベッドに大の字に寝転がった。
まだ受付のカウンターでは、泊まる手続きをしているというのに。
部屋にはストーブが火を焚き、よい音が響く。

そっと、アーチェは自分の耳に触れた。
鏡の前まで歩み寄る。
それは冷たい風にさらされ赤くなっていた。
「…」

バン!!と音がした。
「!?」
アーチェはビクつき、思いっきり振り返ると
そこにはチェスターとクラースがいた。
「・・なんだよ、怖い顔して・・・」
チェスターがしかめっ面になる。
・・と、彼らの後ろから、クレス・アルベインがさり気なく入ってきた。
少し間をあけて、アーチェがいう。
「・・いや、ちょっと・・・あれ?ミントは?」
きょろきょろ見渡していると、クレスの顔が赤くなった。

どうやら寒さのためではないらしい。

「…ええと、散歩だって、うん!」
「えーっ!マジ??凍えちゃうじゃん」
部屋を見渡していたチェスターも、椅子に腰掛けていたクラースも無言で彼を見る。
「・・そ、そうだよな。ちょっと行ってくる!」
仲間の視線から逃げていくように、彼は部屋の外へ駆けていった。

それは一部始終を見ていなかった、アーチェにでも理解できた。
クレスを目で追いかけていたチェスターの視界に、ピンクの髪がとびこんでくる。
「ね、ゆきだるまつくろうよ♪」
「ふざけろよ。寒い寒いって部屋に駆け込んでったのお前だろ?」
「いいから、ねっおにいさん?」
「…やあだつってんだろ…っておいやめ・・!クラースっ!」
無理やりアーチェはチェスター手を引き廊下へとひっぱりだす。

アーチェによって一方的に空けられた部屋の扉は、
隙間風によって、静かに閉じられてしまった。




チェスターと雪だるまをつくることに成功したアーチェが、
満足気に部屋へと入ってくると


視界が

ゆがんだ。



それを振り払うように首をぶんぶんと振ると
アーチェはベッドに流れ込むように入っていった。

すると、
強烈な睡魔が彼女を襲った。




『それは睡魔きっとなんかじゃなかったんだ。』




「彼女」のこえだったんだ。









―アーチェ…





アタシを呼ぶ声が聞こえる。

ああ、どこだろう。
白いな。



白い。

雪かな…?





ふと
世界を見渡すとそこには、

長い間、愛しく思っていた少女がいた。




紛れもない、
大切なともだち。



―リアだった。






「リア!?」



会いたい。もう一度、会いたいと思っていた、
“人間だった。”


「リア・・だよね・・?」


何度もみていた、感じていた、
彼女の

顔も


声も

においも


ぬくもりも。



それが記憶のなかで薄れていくのを感じていたから。


「リア!」

とっさに叫んでいた。




名前を呼ぶたびに、
何かがはじけていく気がした。




(・・アーチェ・・・?)



ずっと望んでいた返事が願いが

やっと、
とどいた瞬間だった。


「あたしっ・・・、アーチェだよ!」



そういうと、リアはアタシのほうをみて、

優しく、

ほんとうにやさしく、

笑顔を見せた。


(うん。)


ずっとずっと望んでた彼女の声が。


「リアなの・・・・!リアっ・・」


空気を振動させ、
あたしの耳に届く。



(やっと、気づいてくれたね・・)



「え・・・?」

(・・私のこと。私、ずっと待ってたんだよ・・?)


“ずっと待ってた。”
その言葉で我に返った。



そう。

だってリアは、もう・・―





「待って・・?リア・・・なんで、いるの・・?」



(・・アーチェが、私をよんだからきたの。)





ずっと遠くに見えていた

リアが



アタシに向かって

ゆっくりと、歩み寄ってくる



「えっ・・・」


(アーチェが、わたしに、会いたいって言ってくれたから。)



「あ、あたしっ、リ・・リアに・・・っ」


ゆっくりと、近づいてくる―



(わかってるよ、アーチェ。)

「・・・っ」


(アーチェの声は、ちゃんと届いてたから)


もう視界は、


「リ・・ア・・・・」


大切な
リアでいっぱいになるほど、




リアはあたしのそばに寄ってきていた。




「リア・・」




この白の世界で

自分以外の

人間が一人いる。





もう

リアしか見えなかった。

(おかえりって・・いってよ、アーチェ。)


リアの手があたしの、手をにぎる。




胸の奥で

ドクンと
何かが飛び跳ねた。





「・・リア」




―暖かかった。




目の前にいるのは、

リアだった。


夢でもよかった。




(私、帰ってきたよ・・・?)


もう、リアのことを


懐かしいなんて、

いえなかった。
いいたくなかった。

「・・・」






だって、ここに…

ここにリアがいる。




それで十分だから。


(わたしのこと、おかえりっていって・・・アーチェ)


あたしは、それを望んでたんだから。





あの時から


願ってたから。




ずっと。





「おかえり、・・・リア」








握り返したその手は、

暖かくて



とても、
愛おしくおもえた―








・・・ねぇリア、




リアへの思いは、人を愛することに少しだけ似てた気がするんだ。

もしかしたら、あたしは
リアをすきだったのかもしれないね。




たとえそうだったとしても、


リアのことを思っていたことに
かわりはないんだよ。




どこにも、行かないでね。

ずっとココにいてよ




リアがそうしてくれるなら、




あたしは、


この白い世界でいきていくよ





リアと一緒に。







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