悩める永遠の魔女っ子【1】
11:55
―――…あと五分で丁度…100年…目…。
―――…何から話せばいい?何て言えば良いの?
―――…アイツ…変わったかなぁ…?…あの…馬鹿…。
ローンヴァレイの丘の上、その麓に住む時空英雄の一人…アーチェ・クラインは満天の星空を見上げて一人思考回路を最大限まで回しに回して悩んでいた。
ダオスを倒してから…世界が救われてから後五分で100年。…おそらく…クレス達はあの
数時間で自分達の世界に戻る所なのだろうが、アーチェは違う。
あの日から100年ずっと思っていた。思い悩んでいた。
100年経って皆に再び会えるようになったとき、何を言えば良い?どんな顔をすれば良い?どんな反応を見せれば良い?…ずっとずっと…お気に入りのこの場所…ローンヴァレイで一番星空が綺麗な、丘の上で。
時には涙を流す事もあった。会えない寂しさ…もどかしさ。
勿論、年から年中此処に居るわけではなかったし、時にはクラースも元へ顔を出すこともあったし、クラースとミラルドの結婚式にも出席し、スピーチをした。
クラースは自分達時空英雄の仲間で、自分達の勝利には彼が不可欠だった事を。
…結婚式だからと思い、クラースの良い所ばかりを言っていたら段々とクラースが天狗になっているのを見て、少々悪い所を言ってやったり。
要らない物は直ぐ捨てるクラースが、旅中ピンナップマグは必ずバッグの底に持ち歩き夜中皆に内緒で読んでいた事(勿論旅の最後にはバレてしまったのだが)や、多少走ったくらいで直ぐに息切れしてしまった事…。
全てを話し終わった後にクラースを見ると、先ほどの天狗のような姿が見間違いのように沈んでいたからアーチェは少し反省した。
…だが、良い話ばかりではない。…ミラルド・F・レスター(改名後)は36年前。クラース・F・レスターは28年前に死んでしまった。…もう、未来永劫会えないのだ。
葬式では大無きして、一週間泣き喚いた。…何時かは来る事は知っていたが、やはり悲しさは隠せない。一週間一時も無駄にせず泣き続け、何とか落ち着いたら目は見るのも無残に腫れていて、クライン家の薬を使っても元に戻るまで一ヶ月罹った。…回復してくれる法術師も居ないから。
…死ぬのは悲しい事。アーチェは誰よりも知っている。大切な人の死を告げられたのはこれで三回…いや。ミラルドを混ぜれば四回だ。その内どれも、悲しさしか浮かばなかった。親友のリア・スカーレットが死んだ時も悲しかったし、母はもう死んだと告げられた時(まぁ実際は死んでいなかったのだが)も、自分が死にたくなるほどに悲しかった。
ミラルドが死んだ時も悲しかった。…だが、ミラルドは一番立ち直りが早かった。…教えられたのだ。クラーースに。彼女が死んで、一番悲しいのはおそらくクラース。それでも、彼は泣きはしたともアーチェのように何日も泣き続ける事は無かった。…受け入れたから。命の終わりを…儚さ…尊さを。アーチェはそんなクラースを見て、ようやく泣き止んだ。
恐らく、この件がなければクラースのときも三週間程度軽く泣き喚き、二ヶ月程度目が腫れたかもしれない。…想像するのもおぞましい。
とまぁそのように100年間過ごしてきたわけだが、今日は本当に悩んでいる。
口喧嘩を重ねるうちに、結局アーチェは時空英雄の一人・弓の名手チェスター・バークライトを愛してしまった。素直になれなくって結局100年前思いを告げることは出来なかったが、今は再び出来るのだ。『好きだ』と。ただ一言伝える事が。
明日にでも会いに行きたいという気持ちと、あって如何すればいいのか解らないという思いがアーチェの中で交差する。如何すれば良い…如何すれば良いのか…月や星に何度問いかけても、答えてくれない。それは世の中の定法で、解りきっている事だが、一人思い悩んでいる事が寂して訊いたのに答えが返ってこないのはやはり寂しい。
アーチェ『むぅぅ~…如何すれば良いのよぅ… …あっ…』
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アーチェの情け無い声と同時に、手持ちの時計の日付が変わった。今日が運命の日。世界が最も喜び、勿論自分達も喜び、…最も、悲しかった日。
永遠の魔女っ子…アーチェさんは再び悩みだした。