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デミテルは今日もダメだった【1】

 デミテル

 ハーメルを壊滅させ、アーチぇの親友リアの命を奪った人物

 そんな彼も、屋敷にやってきたクレス率いる「時の英雄」たちに敗北してしまう・・・

しかし・・・


 彼は本当に死んだのか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?


いや違う!彼は生死をさまよったものの、彼を信頼するモンスターたちの決死の看病により息を吹き返したのだ!

そして今。デミテルの復讐の旅が幕を開ける・・・


第一復讐教訓
「旅の道連れはよく考えて」 

 「って感じの始まり方でどうですかぁ?デミテルさまぁ♪」

 少し薄暗い部屋の中で、椅子に腰かけているデミテルに頬ずりしながら話しかけているのは、むせび泣きモンスター「バンシー」である。

 「ああそうだな。そんなことよりバンシー。私から少し離れてくれ。旅の準備が進まないのだが?」

 デミテルは静かに言い放った。バンシーは少しふくれ面になりながらも、素直に従った。
 ここはデミテルの書斎。彼の持ち物のほとんどはここにあった。暖炉の火が弱々しく燃えているこの部屋を、デミテルは少し気に入っていた。・・・あとはそこのむせび泣きモンスターさえいなければかなり落ち着けるのだが。
 デミテルは、リミィのせいで止まった作業を再開した。机の中から必要と思われるものを、着ているマントの内ポケットに入れていく(彼のマントはエルフ族の作った特別製で、ほぼいくらでも物が入るのだ)
 デミテルは一つずつ机から物を出しては確認していった。

これは?アップルグミか。
入れていこう。
これは?オレンジグミか?
魔術師の基本だな。
これは?エリクシール?
・・・ダメだ。使用期限が切れている。色が緑色に変色している。
これは?お菓子の詰め合わせ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

死んでも持っていかなければ!!あっ!あんパンも!
 この男が極度の甘党だということを知っている人間は、もうこの世に一人もいないだろう。彼の座右の銘が、「ハーフエルフは糖分と水分さえあれば生きて行ける」であることも。

「まあこんなものか。」

 詰め合わせの中にあったクッキーを口に頬張りながら、まだ机の中に何かないかと、デミテルは引き出しの中を探った。すると1枚の紙をつかんだ。

 「これは・・・」

さっきまで流れ作業で動いていたデミテルの手が、ふと止まった。その紙をじ
っと見つめる。部屋をふわふわと旋回し浮遊していたバンシーも、デミテルの動
きが止まったことに気付き、旋回をやめて横から覗き込んだ。
 それは写真だった。一枚のモノクロ写真。二人の若い夫婦がこちらに笑いかけ
て立っている。その二人の間には、これまたとびっきりの笑顔でこちらを見つめ
る長い茶色の髪をした少女がいた。そしてその娘の右隣りに、水色と赤い色の髪
をした少年が笑いながら・・・
 
 もう捨てたと思っていたのに・・・

 一年前。この島に移り住んだときに、彼は自分の過去に関する物は全て処分し
たつもりだった。人からもらったプレゼント、過去に付けていた日記、そして写
真・・・。おそらく机の奥にうまい具合に引っ掛かっていたため、難を逃れたの
だろう。
 写真の中の人達は何の迷いもなくこちらを見つめ、ただ笑っている。数年後に
自分達が死んでしまうことなど知らず。一緒に笑い合っている、使用人であり弟
子でもある少年に、殺されてしまうことも知らずに。
 一瞬、ある記憶がデミテルの脳裏をかすめた。ただの瓦礫の山となった家々。そ
のがれきに埋もれて生き絶えている人々。火の手が上がる家。その廃墟と化した
町の中心に自分が立っている。まわりの光景を見て、ただ一人大笑いをしている。
そして彼の足元には、長く、茶色い髪をした女性が横たわって・・・

 それがどうしたというのだ。と、デミテルは自分の頭に言い聞かせた。まぶたを
ぎゅっと閉め、頭に同じ言葉を叩き込んだ。それがどうした。スカーレット夫妻
は魔科学に携わっていた。魔科学は悲しみと死しか生まない。そう「あのお方」
は教えてくれた。だから私は制裁を下したのだ。私は正しい・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・


ならばなぜ・・・

ならばなぜ私はリアやハーメルを滅ぼしたのだろう・・・?

 ただ・・・力を・・・見せ付けたかったから・・・?


 「デミテル様ぁ?」

 突如耳に入って来た幼げのある声で、デミテルは我に帰った。

 「お顔がとっても怖かったよぅ?」
 「・・・なんでもないさ・・。」

 そう、そんなことはどうでもいい。今私が考えることは一つ。私を殺そうとし
た奴らへの復讐・・・

 デミテルは写真から暖炉ヘ目をやった。相変わらず弱々しく、消えてたまるか
と必死に燃えている。
 こんな紙切れは必要ない。デミテルは写真を暖炉に放り投げた。・・・が、火
に届く前に、横からスライドインして来たバンシーに取られてしまった。バンシ
ーはデミテルの手が届かないところまで飛び上がると、小さい両手で写真を顔の
ところまで運んだ。

 「これぇ、デミテル様がちっちゃいときぃ?・・・カッワイィ♪」
 「バンシー。それは私が今捨てようとしたものだ。早くよこせ。」
 「や~だよお♪これはリミィの宝物になるんだもぉん!あっ!デミテル様、また
バンシーって呼んだぁ!あたしの名前はリミィだよぉ!バンシー族のリミィ!」
 リミィは、写真を服の胸ポケットに大切そうに入れながら言った。

 「・・・好きにしろ・・・」

そう言い捨てると、デミテルは静かに椅子から立ち上がった。部屋の扉に手を
かけたとき、デミテルはふと足を止めて部屋を見回した。
しばらくこの部屋も見納めか。
 デミテルは扉を開くと、さっそうと部屋を出た。後ろからリミィがふわふわと
ついて来た。
 暖炉の火はとうとう消えてしまっていた。
 

 薄暗い廊下を、デミテルは屋敷の出口を目指し歩いていた。途中ポケットから
キャラメルを一粒取り出し口に入れた。

「(キャラメルは歯に挟まるから虫歯になりやすいんだよなぁ。でもその挟ま
ったヤツをまた舌でなめられるから長く楽しめるんだよなぁ。)」

そんなことを考えながら彼は歩いていた。一方リミィは、デミテルのまわりを
ぐるぐると旋回しながら彼を観察しては、うっとりしていた。彼女にとって、デ
ミテルはどの角度から見ても惚れ惚れする存在のようだ。  

「(いつからこんなになつかれてしまったのだろう?)」

邪険な目でリミィを睨み付けながらデミテルは思った。そもそもこのモンスタ
ーは、デミテルが雇っているモンスター達とは別であった。一月前、この島の浜
辺に流れ着いてきたのだ。毎朝恒例の健康体操を浜辺でやっていたゴーレム達が
彼女を発見した。三日間程気を失っていたが、デミテルが調合したモンスター専
用の気付け薬を点滴し続けた結果、必要以上に元気になった。その恩なのか、や
たらとデミテルにべったりなのであった(デミテルにとっては迷惑この上ない)
。デミテルが侵入者達に敗北したときも、侵入者達が立ち去った後に、瀕死状態
のデミテルをベットに連れていこうといち早く動いたのはリミィだったらしい。
彼女がここにくる前どこでなにをしていたかなどは、誰も知らない。
ふとリミィとデミテルの視線が合った。すると、彼女は赤面し、うつむきなが
ら低空飛行になった。どうやら目線を合わし続けるのは、こっ恥ずかしいらしい

まあいい。しばらくこいつとも顔を合わせないのだ。と、視線を前に戻しなが
らデミテルは思った。あの、私を殺そうとした四人組を倒したら、今度はこいつ
を追い出す方法を・・・ そんなことを考えているうちに、デミテルは屋敷の出
口にたどり着いた。ドアノブに手をかけ、玄関を出ようとしたとき、突如リミィ
がデミテルの肩の高さまで飛び上がり、元気にこう言った。

「一緒にがんばろぉね♪デミテル様ぁ♪」
「ああ、そうだなリミ・・・ん?一緒に?」

いつものように抑揚のない言葉で返答しようとしたデミテルだったが、途中で
言葉の意味を理解し、驚愕した。

このガキ、私の復讐の旅にまでついてこようとしている!

「どうしてそんなに驚くのぉ?リミィとデミテル様はずっと一緒だもぉん♪」
空中をふわふわと漂いながら、リミィは当たり前のことでも話すように言った

「ずっと一緒だと・・・?ならば何故私が侵入者共と戦っているときに、加勢
をしようとしなかった?」                                 「だっておトイレだったんだもぉん!」

リミィは両手をバタバタ振りながら反論した。

「でもね!おトイレの中もすっごく怖かったんだよぉ!侵入者達がねぇ、おト
イレの前に立って何か言ってたのぉ!『ここは・・・?』とか言っておトイレに
入ろうとしてきてぇ、リミィ言おうと思ったのぉ!『入ってまーす!』って!で
も怖くて声が出なくて・・・」
 ここでリミィは一旦言葉をきり、空中一回転をしながら息を整えた。リミィの
おトイレ武勇伝は続いた。
「リミィ、声が出なかったからねぇ、代わりに扉をたたいたのぉ!ドンドンド
ンってぇ!そしたら、『トイレか。』って呟いて去っていったのぉ。本当に怖か
ったんだよぉ!その後おトイレが済んでぇ、地下の研究室に行ったらデミテル様
が倒れてて・・・」
 「そうか・・・ってそんなことはどうでもいい!」

 デミテルは焦った。屋敷の物を二日に一回は壊すこのガキを、連れていったら
絶対得することはない。

「お前を連れていく気など毛頭ない!!私は命のやり取りをしにいくのだ!!お
前のようなむせび泣くしかとりえのない役立たず・・・!」

言い過ぎた。デミテルは瞬時にそのことを悟った。むせび泣くしかとりえの
ないモンスターが、今まさにそのとりえを実行しようとしていたからだ。エメラ
ルド色の眼が真っ赤になり、その眼の下には溢れんばかりの涙がたまっている。
顔はひきつり、体は震え、両腕は服の裾(すそ)をギュッと握りながら、これま
た震えていた。

 「・・・だってぇ・・・ひぐ・・・・デミテル様のぉ・・・ひっく・・・・お
手伝いぃ・・・ひっく・・したかひっぐ・・・・したかったんだもぉん・・・」
リミィはところどころしゃくりかえりながら語った。今にも大声でむせび泣き
そうだ。

「(マズイ!このままでは・・・!)」

デミテルは前に一度だけリミィのむせび泣きを聞いたことがあった。この島に
彼女が来て一週間が経った頃、あまりにも自分につきまとって来る為(トイレの
中にまでついてこようとした)、軽目の「ストーンブラスト」で制裁を加えたの
だ。するとリミィは大泣き、結果、デミテル及び屋敷の全てのモンスターが一週間
の間眠りこけた。(デミテルが目を覚ますと、リミィは泣き疲れて眠っていた)
今泣かれたら一週間動け無くなる。そうなれば奴らに追い付くのはまず不可能
。となれば・・・

「・・・好きにしろ・・・」

デミテルは静かに言い放った。爆発寸前だったリミィは、突然の言葉にキョト
ンとし、「ふえぇ?」と答えた。眼の色が赤から、深いエメラルド色に戻ってい
った。

「聞こえなかったのか?ついてくるなりなんなり好きにしろといったのだ!」

そう吐き捨てるように言うと、デミテルは玄関から荒々しく出ていった。
リミィは屋敷の中の玄関の前で、キョトンとしていたが、やがて右手の握りこ
ぶしで涙をゴシゴシ拭いた。玄関を開け、外に出て鍵を閉める。鍵を胸のポケット
にしまいながら、彼女は前方をさっさっと歩く憧れの男を追い掛けていった。
 
つづく


あとがき
読んでくださって誠にありがとうございました。これであなた様の人生はバラ色です。今からダッシュでコンビニに行き、「ガリ○リ君」のアイスを買えば、確実に当たりが・・・・・・ごめんなさい。嘘です。(でも、もし当たったら、コメントをお願いします。いや、当たんなくてもお願いいたします。)次回はタイトル通り、デミテルを全身全霊をかけてダメにします。がんばります。

次回  第二復讐教訓「好奇心は時に身を滅ぼす」

コメント

今晩は。
当たってはいませんが、レス失礼致します^^

小説、読ませていただきました^^
個人的にも大大大大(略)っっっっっ好きなデミテル(様)の小説が読めてとっても嬉しいです><///
タイトルを見た途端飛びついたので・・・v

『お菓子の詰め合わせ・・・・・・・・』や『あんパンも』というところがすっごく面白くて・・・!!
近くに親が居なかったら多分爆笑してたと思います(笑
あんなのが座右の銘でいいのかデミテル様・・・!!(爆笑
甘党・・・是非一緒にケーキとかを食べたいです><///(ヲイ
というかリミィちゃん羨ましい・・・!!(何
キリリとしたデミテル様も好きですが、この可愛いデミテルも大好きです・・・///(要するに全部だ

次回作も期待しております^^
では、乱文長文失礼致します。

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