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デミテルは今日もダメだった【2】

第二復讐教訓「好奇心は時に身を滅ぼす」


「デミテル様ぁ、まだいっちゃだめぇ!」

屋敷を取り囲む塀をデミテルが出たとき、後ろからリミィが叫んだ。デミテ
ルはしかたなさそうに立ち止まり、少しばかり向こうに見える、港を眺めた。
今日は珍しく島の霧が晴れていた為、よく見える。太陽はちょうど空のてっぺんで輝いていた。

 もう昼か。そういえば、気絶してから時間の感覚を忘れていた。あれからどれ
ぐらい時間がたったのかも確認していなかった。先に昼食をとってから行こうか
?いやしかし・・・

「つ~かま~えたぁ♪」

リミィがデミテルのくびねっこに後ろからしがみついた。この程度のことは日
常茶飯事のため、デミテルは動じない。
ふとデミテルはあることに気付いた。港に船が二つある。一つはデミテルが所有
する小型船。もうひとつは、人一人乗るのがやっとの手漕ぎのボート。
あんなボート、うちの港にあったか?デミテルは目を細めた。その後ろでリミィ
が楽しげに耳元で言った。

「あのねぇデミテル様ぁ。リミィ、デミテル様の為に「すけっと」を呼んだんだ
よぉ。」
「なに?助っ人だと?」

デミテルは首を後ろに回しながらリミィに訪ねた。リミィは首から離れると、デ
ミテルの前に移動してこう答えた。

「うん!デミテル様がまだ怪我で動けなかったとき、リミィが「モンスター派遣
雇用センター」にお手紙を出したのぉ。「すんごい強いモンスターを送ってくだ
さい。」ってぇ。」

モンスター派遣雇用センター。それはモンスター達の就職先の紹介所であった
。ダオスの配下の者達(ジャミルやデミテル等)は、基本的にここに名前を登録
しているモンスターのなかから、欲しい手下を選んで自分のところに派遣しても
らう。(最近は精霊も利用しているらしい。自分の領域を守る為に)指名を受け
たモンスターは、指名先に出向いて働き、センターから週給で給料を貰う(いつ
命を落とすかわからないので給料日が多い)。一方、モンスターを派遣してもら
ったほうは、派遣料としてセンターに金を払うのだ。当然強いモンスターほど派
遣料が高い。(なお、野外で人を襲っているモンスター達は、人間で言うホーム
レスである。)給料がどうやってモンスターの手に渡るのか?金を何に使うのか
?そのセンターがどこにあるのか?知っているのはモンスター達だけである。

「しかしなぜそんな手紙を?私が復讐をすると言ったのは、私の意識が戻っ
たとき・・・」
「だってデミテル様、ベットの上でぶつぶつ言ってたんだもぉん。「コロシテヤ
ル・・・コロシテヤル・・・」ってぇ。だからきっと仕返しがしたいんだなあと
思ってぇ・・」

リミィはあっけらかんと言った。
自分はなんて嫌な性格をしてるんだ。と、デミテルは正直思った。死にかけつつも人
の死を望むとは。

「それで一体なにが来るんだ?普通はカタログから選んで、そのモンスターの
登録番号を書いて送るのだが?」
「わかんなぁい。でも、領収書なら届いてるよぉ。」
そう言うとリミィは、おもむろに胸のポケットから、一枚のメモ大の紙を取り
出した。デミテルは無言で受け取り、領収書の中身に目を通した。手書きで、く
せのある字だった。

モンスター派遣料領収書

お求めのモンスター すんごく強いモンスター
注(次からは登録番号でご注文してください。派遣モンスターはこちらで勝手に決めさせていただきました。苦情は一切受け付けません。


    領収方法
モンスターが派遣されてから約三日後に係員が徴収に伺う。

  請求額 505000ガルド

担当 リド=キャスパール

9時にユミス先輩と食事だぜ!キャッホォーーーウ♪

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そうか。ごじゅうまんごせんガルドか。そうかそうか・・・・・・・・・って

「ごじゅうまんごせんガルドぉ!!?」

デミテルは絶叫した。頭が真っ白になっていった。
ご、ごじゅうまん・・・。砂漠に住むという、バジリスクだってこんな値段はしない。せいぜい15万ガルドだ。それに対して・・・。
おまけにその肝心のモンスターが何なのか書かれていない。おそらく番号で注
文してこなかったことに対する嫌がらせだろう。しかも、こちらで勝手に決めさ
せていただきましただと?手紙で確認とるなりなんなり方法があっただろうがぁ

その上!この領収書を書いたであろう担当キャスパールの野郎は、ユミス先輩
と食事に行くときたもんだぁ!!おそらくこの紙を書き終えた後に食事に誘った
のだろう。

※デミテルのイメージです
「せんぱ~い♪仕事帰りに飲みに行きませんかぁ?」
「あら、いいわよ。じゃあ、いつもみんなで飲みに行ってるところで9時頃
に待ち合わせましょ。」
「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

ふざけんなあああぁぁぁぁあ!!いくらその喜びを何かで表現したいからって
、客に送り付ける物で表現すんなああああぁぁぁぁあ!
フラれてしまえぇ、キャスパールゥ・・・!ユミス先輩にビンタを喰らったあ
げくにフラれてしまえぇ・・・キャスパールゥゥ!

デミテルはなぜ自分の怒りが、担当キャスパールに向いてしまっているのかわ
からなかったが、そんなことはどうでもいいと思った。とにかくキャスパールが
憎たらしくてたまらない。この世のすべての悪の元凶はキャスパールではないか
とさえ思えてきた。

一方リミィは、はじめ全身の力が抜けて何やらぶつぶつ言っているデミテルを
観察していたが、やがて、この屋敷に向かって坂を上ってくる者に気付いた。港
からこの屋敷に来るには、けっこう急のある坂をのぼらなければならない。角度
の関係で、さっきまでその姿が見えなかったのだ。今ならその頭の部分だけ確認
できる。

「ねえねえデミテル様ぁ!何かがここに上ってくるよぉ!きっと「すけっと」
だよぉ!」

キャスパールがユミス先輩にボッコボコにされているところを妄想していたデ
ミテルだったが、リミィの言葉で現実に戻った。デミテルは坂道を凝視した。確
かに何かがこっちに向かって上ってくる。

「(さあキャスパール。お前が何を選んだか見せてもらおうか。こっちは五十
万払うのだ。それ相応の奴でなければ・・・)」

そいつの頭は白かった。丸い曲線を描いた頭だった。毛皮はない。頭の先端に
くるくるとした毛が一本だけ。やがて頭から胴体までが見えた。
胴体も白かった。というか、首がない為、頭も胴体もへったくれも無かった。
シャープペンシルの尻に付いている、細い消しゴムを想像していただこう。あれ
は少し使うと、消しゴムの先端が丸くなる。その丸くなった消しゴムをシャープ
ペンシルから引き抜き、机の上に立たせる。丸くなったほうを頭とし、顔を描き
腕を付ける。まさにそんな感じであった。
顔はとてつもなく、のほほ~んとしていた。「ぽけ~」という効果音がすごく
似合いそうである。
やがて全身があらわとなった。が、結局全部白かった。足は、どっかの猫型ロ
ボットを連想させる。よく見ると、足首のところで皮膚がダバダバと揺れている
。イヤ、皮膚ではない。そいつは頭から白い被り物を被っていたのだ。足首
より下だけ本当の姿だった。

やがてそいつはデミテルの目の前に立った。ニメートルはある巨体。そして、
なんとも気の抜ける、緊張感のかけらも無い声であいさつした。

「はじめましてなんだな~♪あなたがデミテルさんなんだな?僕が今回派遣されてきた、ビッグフットなんだな
~♪」

ビッグフットは深々とお辞儀をした。デミテルはお辞儀を返さなかった。こん
なおっとりしたモンスターが五十万ガルド?という疑問が頭の中を回っていたか
らだ。

「お前が・・・すんごく強い・・・モンスター?」
                                      
デミテルは信じられ無かった。こんな、なんの特徴もない、まるで落書きの世界からやってきたような生き物に五十万ガルドも払うのか?

「その通りなんだな~。あ!あと、僕にもれっきとした名前があるんだな。ビ
ッグフット族の・・・」
「リミィがお名前を付けてあげるぅ~♪」

リミィがビッグフットの前に出た。目が輝いている。どうやらこの生き物が気
に入ったらしい。

「い、いや、遠慮するんだな!だから僕の名前は・・・」

リミィは聞いてもいない。少し考えると、こう言った

「それじゃあねぇ・・・・・・フトソン!」
「ええっ!?なんでフトソン!?どの辺がフトソン!?だから僕の名前は・・
・」
「だってなんか太いんだもぉん♪」
「・・・・・・!!」

今の言葉はなかなかショックだったらしい。一瞬彼は言葉に詰まった。

「・・・・・いや、あの、だから僕の名前は・・・」
「フートソン♪」

リミィはそう言いながらフトソンの頭をなでなでした。

「諦めるんだなフトソン。そいつは言い出したら聞かない奴だ。」

デミテルはボリボリ頭をかきながら言った。

「そ、そんな・・・!違うんだな!僕の・・・」
「フートソン♪フートソン♪」
「往生際が悪いぞ、フトソン。」

フトソンは諦めた。もうどうとでも呼んでくれという気分になった。この先彼
が本名で呼ばれることは、一度として無い。

「ところでフトソンよ?お前は本当に使えるモンスターなのか?」

デミテルは話を変えた。こいつが五十万ガルドの価値があるモンスターには
いまだ見えない。

「本当に役立つモンスターというならば、それなりの力を示して・・・」


             ドガアアアアアン!!


突如、フトソンの右ストレートが屋敷を囲む塀に炸裂した。デミテルは口をあ
んぐり開けて絶句した。そこにはもう塀は無かった。あるのは塀の残骸だけであ
った。屋敷の敷地への入口が二つになってしまった。

「うわあ!すっごいフトソン!」

リミィが一人デミテルの横でパチパチと拍手していた。フトソンは、殴った拳
を左手でパッパッと払うとこう言った。

「まだ五月なのに蚊がいたんだな~♪地球温暖化のせいなんだな~♪」

蚊かよ!?蚊ぁ一匹殺す為に我が家が犠牲になっちゃったよ!?
デミテルは文句を言いたかったが、それを言う勇気は無かった。敵に回さ
ない方がいいと思った。

「手の甲がひりひりするんだな。・・・ところでさっきデミテルさん、何か言
おうとしてたんだな?なんて言おうとしたんだな?・・・・・・デミテルさん?

デミテルは自分の口が開きっぱなしであることに気がついた。急いで口を閉じ
、咳ばらいをした。

「ごほんっ!い、いや、なんでもない!・・・これから頑張ってくれたまえ、
フトソン・・・」

ここでデミテルはあることに気がついた。それは少々めんどくさい問題だった


「フトソンよ。これから我々は旅に出るわけだが、その途中、いやでも人間の住
む街を通らなければならない。リミィは人型だから、空中浮遊さえしなければバ
レないとして・・・」

そう。こんな「お化けのQ○郎」もどきの生き物を連れていったら、どんな目
で見られるか。デミテルはそれを心配していた

「それなら大丈夫だよぉ、デミテル様ぁ。ほら、見てぇ・・・」

そう言うと、リミィはフトソンの足を指差した。デミテルは指差されたところ
を見た。
それはさっきフトソンがこっちに歩いて来た時、ダバダバと揺れていた、被り物の裾の部分だった。今も、風が吹くたびにヒラヒラと揺れている。

「ここをみれば、きっと街の人は着ぐるみを着た変なオッサンとしか思わない
よぉ♪」
「・・・・・・!!」

その素晴らしい笑顔から、「変なオッサン」という単語が出てきたことが、フ
トソンはまたしてもショックだったらしい。デミテルは吹き出しそうになるのを
こらえながら、リミィに聞いた。

「お、おいリミィ。それだとアレだぞ?その変なオッサンを引き連れて歩くこ
とになる私の立場は・・・」

しかしリミィはそんなことは聞いてもおらず、一人何か妄想を始めた。ニヤニ
ヤと。おそらく、デミテルと一緒に楽しく街を歩いている自分を想像しているの
だろう。着ぐるみを着た変なオッサンを従えて。
デミテルは話し相手を、リミィからフトソンへ変えた。一つ気になることがあ
った。

「何故お前はそんなものを被っているのだ?」
「へ!?ベ、別に、り、理由なんて、な、ないんだなぁ!!」

フトソンはデミテルから視線をそらし、なにやらモジモジし始めた。
 そんな風にされると余計知りたくなる。

 「そうか。ならばちょっと中を見せてみろ。別に理由はないんだろ?」

デミテルはニヤリとしながら言った。人の秘密を探るのは大好きだ。
フトソンは目線をそらしながら黙っていた。

「フトソン?お前は私に雇ってもらってるんだよなあ?」

さらに追い打ちをかける。フトソンはうめきながら観念した。
腰を曲げ(どこが腰なのかわからないが)、腕を足首のところまでもっていく

「本当にいいんだな~ん?」

フトソンは意味ありげな上目使いをしながら、デミテルに確認した。
こういう前フリがあると、デミテルもいささか緊張する。

「・・・ああ!思い切ってめくりあげるがいい!」

デミテルは期待と不安に包まれながら、力強く言った。
フトソンはかぶりものの裾を両手で強く掴んだ。そして・・・!

「さあ、とくと見るんだな!あのダオス様ですら一週間食事が喉を通らなかっ
た、ビッグフット族の真の姿をぉぉぉぉぉぉぉ!!」


             バサアッ


・・・・・・・・・・・・

・・・アレは何だったんだろう。デミテルは自宅のベットで横になりながら考
えていた。彼の横には洗面器が一つ置いてある。
私が見た物。それを言葉にすることは非常に難しい。イヤ、絶対に無理だ。な
んかもう、全てを超越している。異次元的な何かと、宇宙的何かが融合を果たし
たあげくに、謎の超新星爆発が起きたような・・・もう自分でも何がなんだかわ
からない・・・
イヤ、考えるだけ無駄だ。というか、アレの姿を思い出すだけで・・・うぅっ!

そしてデミテルは、横に置いてある洗面台に顔を埋め、ゲーゲー吐いた。

結局デミテルは、一週間吐き気とひどい頭痛に見舞われ、身動きが取れなかっ
た。寝込んでから三日後、「モンスター派遣雇用センター」の係員が派遣料の徴
収に来た。
自分は出られる状態でない為、フトソンに金庫の開け方を教え払わせた。
デミテルはベットの中で考えていた。

「(もう奴らに追い付くの、無理だろうな・・・)」

そう。私を殺そうとしたあいつらは、私が出発しようとした日に、ローンヴァ
レイからベネツィアに向かったらしい。ローンヴァレイに住むハーピィどもが教
えてくれた。
ローンヴァレイからベネツィアに行くのには、二日もあれば十分だ。目的はわ
からないが、ベネツィアに行くからにはおそらく船に乗るのだろう。そうなると
奴らに追い付くのは至難の技・・・
デミテルはベットの上で泣きそうになった。というか、軽く泣いた。

しかし、デミテルの心配はただの取り越し苦労だった。なぜなら・・・


デミテルがビッグフット族の真の姿を目の当たりにしていたちょうどそのころ
、クレス達一行は昼食を取ろうとしていた。そう。今日の食事当番は・・・

「フンフフ~ン♪みんなと早く仲良くなる為にも、このアーチェ様特製カレー
でみんなをもてなさなきゃ♪フンフフ~ン♪」

自称カレーは、鍋の中でグツグツと煮込まれていた。・・・七色の発光を起こ
しながら・・・。

時の英雄達の腹下しがおさまったのは、その日から一週間後・・・


つづく

☆出演者にインタビュー☆

「あなたのお名前は?」
「リミィだよぉ♪バンシー族のリミィ!」

「あなたの好きな物は?」

「デミテル様ぁ♪」

「あなたの趣味は?」

「デミテル様ぁ♪」

 「・・・この小説の読み所は?」

「デミテル様ぁ♪」

「・・・あなたの特技は?」

「デミテル様ぁ♪」

「真面目に答えんかいっ!このガキイイイイイイイィ!!!(怒)」

「うええええええええええええええええええん!!(泣)」

「Zzzz・・・(爆睡)」


次回  第三復讐教訓「拾い食いは時と場所を考えて」

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