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デミテルは今日もダメだった【3】

第三復讐教訓「拾い食いは時と場所を考えて」


その日、ベネツィアは土砂降りの大雨だった。たとえば目の前に人が立ってい
たとしても、輪郭がぼんやりとしか見えないほどの。 当然そんな日の港に人が
いるわけがなかった。

しかし、いた。ハーフエルフの子供が一人だけ。
港にはたくさんの、木でできたコンテナが乱雑に置かれていた。コンテナから
発っせられる魚の生臭い匂いが、港を覆っていた。
そんな匂いとコンテナに覆われながら、茶色いフード付きのマントを羽織った
一人の少年が、空のコンテナを犬小屋のようにして、雨宿りをしながら座っていた。指はかじかみ、体は震え、顔色もかなり悪かった。
 
 僕はここで死ぬのかな・・・?振り返って見れば、むなしい人生だった。

 エルフの母は僕を産むとそのまま逝ってしまった。それから七年間、人間の父
と一緒に生きた。酒ばかり飲んでいたが、それでも病気で逝くまで、七年きっち
り育ててくれた。時々酔った勢いで殴られたけど。いや、毎日か。

身寄りなんていなかった。行く所もなかった。でも時間は待ってはくれない。
目的地がなくても歩きつづけねばならない。それが天から生を受けた者の宿命。

とにかく生きた。ただ、がむしゃらに。一日一日を。三年間、毎日が人生の修羅
場だった。

 こんな変な髪の色してなきゃ、友達出来たかもなあ・・・。

少年は顔だけを少しコンテナからつきだし、天を仰いだ。顔に巨大な雨粒がふ
りかかる。天は薄暗い表情をしながら少年を見下ろしていた。

もう疲れた。天よ、もういいだろ?そろそろ迎えに来てくれよ。僕の人生はま
だ千年以上もあるんだ。そんなに生きたくなんてない。
 僕の母親に逢わせてくれ。顔なんて知らない。知っているのは、それはそれは
綺麗な赤い髪をしているということだけ。

「何をしているんだい?坊や?」

少年は目線を天から、前に立っている傘を挿した男に変えた。こちらを見下ろ
している。少年同様、フード付きマントを被っていて、顔はよく見えなかった。
男は再度尋ねてきた。

「君のお母さんとお父さんは?」
「死んだ。」

少年はさらりと言った。少年は思った。どうせここで力尽きるなら、この見知
らぬ男に自分の人生の全てを話してやろうと。
少年はせきを切って話し始めた。親の事、自分がハーフエルフである事、自分
の人生の悲惨さ、自分の髪の事など。

髪の話が終わった時、男は座っている少年と同じ目線までしゃがみ込んだ。そしてこう頼んで来た。

「髪を見せてくれないかい?」

少年はゆっくりとフードを脱いだ。耳が尖っている。そして髪は薄い青・・・
だけではなく、前髪の一部が赤く染まっていた。
男は傘を持たない手をその前髪に持って行き、サラサラとさわった。

「何回切ってもここだけこの色なんだ。母さんの赤い髪と、父さんの青い髪の色が、変な割合で遺伝して・・・」

男はしばらく髪をさわっていたが、いきなりプッと吹き出した。少年は気分を
害した。

「ああそうさ。そうやってみんな笑うんだ。おかしな頭だってね。」
「ああ?これは失敬。」

男は手を戻しながら謝った。しかし、顔はまだ笑っているような気がした。

「フム。して少年よ?何故君の髪がそこだけ赤いのか、本当の理由を知ってい
るかい?」
「えっ?いや、だから、遺伝で・・・」
「遺伝なんかじゃないさ。」

男は自信たっぷりの声で言った。

「それはね、「呪い」なんだ。」
「え?「呪い」?」

男は首を横に振った。

「「呪い」はなにも、人を不幸にするだけじゃない。言い方を変えれば、「お
まじない」だね。アレも一種の「呪い」だ。そして君に掛かっている「呪い」を
掛けられるのはエルフ、もしくは・・・」

男はここで、ゆっくりフードを脱いだ。その男の耳は・・・

「私達ハーフエルフだけだ。」

少年は目を見開いた。自分と同じ種族を彼は初めて見た。男は言葉を続けた。

「君のお母さんはね、死ぬ前にその「呪い」を赤ん坊の君に掛けたのさ。君が
幸せに生きてくれるよう願ってね。」
「嘘だ。」

少年は立ち上がった。頭にコンテナの天井の内壁が軽く擦れた。今度は少年が男を見下ろす番だった。

「僕の話を聞いたでしょ?十年間、いろいろな事に耐えて生きてきた。心から
幸せだと思ったことなんて一度もない。こんな生きるか死ぬかの生活を強いられ
る事が、母さんがくれた幸せなんて・・・」
「でも君は生きてるじゃないか。」
「え?」

少年はキョトンとした。男はゆっくりと立ち上がった。

「君は生きるか死ぬかの生活をした。そして今、この瞬間に、君は生きている
。生きるか死ぬか。どちらかしかない人生を、君は今生きている。それこそが君
のお母さんがくれた幸せではないのかね。」

少年は呆気に取られた。 この僕の、この、目的もない「ただ生きていただけ
の人生」を、この男は幸せだと言う。

「よく聞きなさい。坊や。」

男は少年の右肩に手を置いた。そして言った。

「「ただ生きている」。でもそんな事でさえ、手に入らない人達がたくさんい
る。そして君はそれを手にいれた。それだけで君は、世界中の裕福な子供達と変
わらない幸せを持っているんだ。」

 雨が少しずつ止んできていた。男はさらに続けた。

 「いいかい?どんなに大きな幸せが目の前を転がってても、「ただ生きている
」という事が一つできなければ、一つもつかまえられっこないんだよ。」

雲が晴れ、雨は完全にあがっていった。柔らかい陽射しが少年を暖めた。

「もし君が、ただ生きている事が苦痛というなら」

男は傘を両手でたたみながら言った。

「私が君に生きる目的を与えてあげてもいいが。」

呆然と立ち尽くしていた少年は、一瞬何を言われたかわからなかった。男は晴
れ切った空を見上げながら言った。

「私は魔術の研究をやっていてね。出来れば手伝いをしてくれる弟子を雇いた
いんだが。あと妻がいつも嘆いているんだ。洗濯をしてくれる使用人が欲しいと
ね。あと娘。私の家族は最近ここらに引越ししてきたんだが、なかなかシャイな子
でね。まだ友達ができないんだ。誰か遊び相手がいるといいんだが・・・」

男はこれだけ言うと、空を見上げたまま、目だけでチラリと少年を見下ろした
。少年の心には様々な思いがよぎっていた。

この男は自分にチャンスを与えようとしている。今まで、「ただ生きている」
という幸せしか持たなかった自分に。こんな見知らぬ少年のために。信じてよい
のだろうか?
だが、これこそがさっき男が言った、「生きていないとつかめない大きな幸せ
」だと言うなら・・・

「まあ、これら三つのことを全て引き受けてくれるような都合のいい人は・・
・」
「やります。」

少年は男を見上げて、急ぐように言った。悩む必要などない。

「研究の手伝いでも、洗濯でも、なんでもやります。娘さんの面倒もぜひ見さ
せてください。」

男はクックッと笑った。

「その言い方だと、娘さんを下さいって言ってるみたいでヤダなあ。まあ、娘
と言ってもまだ六つだがね。まあいいだろう。ほら、これでも食べなさい。」

男はマントの内ポケットから何かを取り出した。それは銀紙に包まれた一枚の
板チョコだった。
少年は素直に受け取り、銀紙を剥がして一口頬張った。甘い物などずっと口に
していなかった。不思議と体が暖まった。

「さて、そろそろ行こうか、我が家の使用人君。ああ。そういえば自己紹介が
まだだった。私はランブレイ。ランブレイ=スカーレットだ。私と君は師弟関係になるから、以後、師匠と呼ぶように。さて、君の名前は?」
「はい、師匠!」

少年は力強く答えた。彼の目は、今までにないくらいに輝いている。
それはなぜか?今までにないくらい大きな幸せを、掴みかけているかも知れないから。

「僕の名前は・・・」

「デミテル様ああああああああああぁあ!!起きろおおおおおおおおおおぉお!
!!」

一人の少女の絶叫が、平原の木に寄り掛かって眠っていた男の耳元で響いた。
デミテルは指を耳に突っ込みながらバッと目を覚ました。

「ぐああ・・・。」
「わあい♪デミテル様が起きたぁ♪」

ちょっと涙目になっているデミテルをよそに、リミィは楽しそうに言った。

「リ、リミィ・・・。起こしてくれたことは感謝するが、もっとこう、平和的
な起こし方は無かったのか・・・?」

キンキン音がする耳を抑えながら、デミテルは尋ねた。

「だってリミィ、ずぅっとデミテル様を起こそうとしてたんだよぉ。お顔つね
ったりぃ、耳元で何回も叫んだりぃ・・・」

リミィはあっけらかんと言った。


デミテルが島を出発してから、すでに一日が経過していた。あの悪夢の日(見てはいけないものを見た日)から一週間かけて体調をなんとかとり戻したデミテルは、今から二十八時間程前、むせび泣きモンスターと五十万ガルドの生き物を引き連れて、自家用船に乗り込んだ。本当は船でべネツィアに先回りし、標的達を待ち伏せる予定だったが(ローンヴァレイのハーピィどもの情報で、奴らも一週間身動きをとらなかったらしい。理由は不明)、その作戦は出発からわずか十分で水の泡となった。


※昨日の船上にて

『ねえねえフトソォン!前見せてくれた、すんごいパワー、また見せてよぉ!

『見せるったって、どうやってみせればいいんだな?』
『う~んとぉ・・・、じゃあ、ここに生えてる木におもいっっっきりパンチし
てぇ!』
『よ~し、じゃあいくんだな・・・うらあああああああぁあ!!』
『ん?お前ら何をやって・・・・!お、おい!待てフトソン!!それはこの船
のマストだ!ちょっ、まっ、フトッ、フッ、・・・・・・フトソォオオオオオオ
オオオンッ!!?』


マストは見事に折れ、倒れたマストは自らを乗せる船体を破壊した(この時船
上では、リミィの歓声とデミテルの悲鳴が見事なハーモニーをかもしだしていた
という)。大陸の陸地にそって航海していたため、なんとか陸地まで泳いで一命
を取り留めた。

 デミテル達が上陸したのは、北ユークリッド大陸の南西の端だった。この大陸
の南東の端に位置する、ハーメルの町跡と対称に位置する所だ。標的達も、ハー
メルあたりからベネツィアに向かったらしい。つまり、スタート位置、時間とも
にほぼ同じというわけだ。いや、船上のハプニングを考えれば、デミテル達の方
が少し遅いスタートかも知れない。


デミテルは立ち上がると、おもいっきり背伸びをした。草の香りと木の匂いが
した。

屋敷を出てから一日か。今はちょうど北ユークリッド大陸の真ん中辺りだな。
今日の午後にはベネツィアに着くだろう。奴らより早く着けるかわからないが、
とにかく奴らに出会ったら・・・。

風を切る草原に立ちながら、デミテルはマントの内ポケットをゴソゴソした。
やがて、三つの品を取り出した。みだしなみチェックのための丸い手鏡。金で装
飾された懐中時計。そして・・・・・・一口チョコレート。

デミテルはチョコを包み紙から取り出し、口に放り投げた。朝に糖分を取るのは彼の日課であった。
「(チョコレートにはポリフェノールが多く含まれていて、体内の活性酸素を
分解してくれるんだよなぁ。でもニキビができやすくなるらしいんだよなぁ。本
当かなぁ。)」

甘党ハーフエルフはそんなことを考えながら、モチャモチャとチョコレートの
カカオの香りと味を楽しんでいた。一見、虫歯になりそうな日課だが、なぜか今
まで一度もなったことはなかった。

 デミテルはチョコレートを飲み込み終わると、今度は手鏡に顔を覗かせた。が
、その鏡に最初に映り出される顔は、デミテルの顔ではなく・・・

死神。と、呼ぶべきだろうか。黒いマントを着たドクロがこちらを見つめ返し
ている。その姿は半透明で、そのドクロの後ろにデミテルの顔があった。

ダオス様の部下になって、唯一うっとうしいものがあるとすれば、このドクロ
だな。おかげで洗顔及ぶ歯磨きがひどくやりづらい。特に、夜中に起きてトイレ
に行こうものなら、手洗い場の鏡を覗く度にビックリする。これがダオス様への
忠誠の証らしいが、本当だろうか。

デミテルは死神ごしに乱れた髪型を整えた。やはり少しやりづらい。

そういえば、私を殺そうとした奴らの中にこれが見えた奴がいたな。確か、本
人かダオス様に忠誠を誓った者にしか見えないと聞いていたが・・・

デミテルはふとあることに気付いた。心なしか、死神がいつもより薄く見える
。忠誠心が薄まってるということだろうか。

 まあ、自分の顔が見やすいのはいいことだ。と、デミテルはたいして気にしな
かった。

チョコの包み紙と手鏡を懐(ふところ)にしまうと、最後に懐中時計を手に取った。縁取りが金でできている上物だ。本人はけっこう気にいっていた。開閉式の時計を開くと、針が今の時を指し示していた。


  一時四十五分


完全に寝坊だった。絶対に標的達は我々の先を歩いているだろう。


あんな、今更見てもしょうがない夢さえ見なければ・・・


「デミテル様ぁ。お腹空いたぁ。」

リミィがデミテルの横からヒョコっと顔をだし、甘えるように言った。

「バカ者!そんなことしているひまはない!早く行かねば奴らに船に乗られて
しま・・・」

               ぐっきゅう~

なんとも間の抜ける、力無い音が、デミテルの腹部から鳴り響いた。チョコレート
だけで済ますのはやはり無理があったらしい。

 少し間があった。やがて、デミテルは頬を少し赤らめながら、軽く咳ばらいを
すると、こう切り出した。

「まあ、その、なんだ・・・「腹が減っては戦はできぬ」とはよく言ったもの
で・・・朝食・・・いや、この時間じゃ昼食か・・・・・・とにかく何か作って
食べよう・・・」
「わあい♪ごはんだごはんだぁ!」

リミィはキャッキャッしながら言った。おそらくかなり前から起きていたのだ
ろう。

「さて、フトソンはどこだ?食料関係は全てあいつが持っていたはず・・・」

デミテルは周囲を見渡した。やがて、少し離れたところで木に背をかけて眠っ
ている白い生き物を発見した。

デミテルはセカセカとフトソンのところに歩いて行った。後ろからリミィがフ
ワフワ浮遊しながらついてきた。

地面はビチャビチャして、少し泥っぽくなっていた。おそらく眠っている間に
軽く小雨が降ったのだろう。雨が降った時特有の、さっき背伸びをしたときにはし
なかった、ジメッとした匂いが周りを覆っていた。


この匂いのせいであんな夢を見てしまったのか。全く迷惑な話だ。今となって
は実にくだらない。あんな雨の日の記憶など・・・

だが・・・

あの日が人生最良の日だったかもしれない・・・


デミテルはフトソンの前にたどり着いた。フトソンは相変わらず木に背をかけ
てスヤスヤと眠っていた。
デミテルは頭をひっぱたいて起こそうとした。が、手を振り上げたところで彼
の動きが止まった。

何かがおかしい。絶対的に何かが。デミテルはフトソンの脇に置かれたリュッ
クサックに目をやった。長期旅行用のもので、かなり大きめの黄色いリュックサ
ックであった。どれくらい大きいかというと、ニメートル程の身長をもつフトソ
ンが背負っても違和感を感じない程の。

そしてそのリュックには、約一週間分の食料と調理器具が入っているはずであ
る。だが・・・
デミテルは右足をリュックまで伸ばしてみた。そして、踏んでみた。

足は何の違和感もなく、リュックを踏み潰しきってしまった。

一瞬の沈黙・・・そして。

「起きんかいこの白饅頭ぅううううううううううううううぅっ!!」
「ヒギャフゥ!?」

デミテルの回し蹴りがフトソンの横顔にクリーンヒットした。フトソンは目を
飛び出しながら、草原の上に蹴り飛ばされた。

「いっ、痛いんだな!デミテルさん、起こし方が暴力的過ぎるんだな!もっと
こう、平和的な・・・」
「やかましい!これを見ろこれを!」

顔をさすりながら立ち上がったフトソンに、デミテルはリュックを投げつけて
やった。・・・中身のないリュックを。

「一体なぜ一週間分あった食料と調理器具が無くなっているのか、説明して貰
おうか?フトソン君?」

デミテルは鬼の形相でフトソンを睨みながら尋ねた。フトソンは空のリュック
を右手に持ちながら、直感した。ごまかそうとするだけ無駄だと。

「あのですね・・・その・・・昨晩、みなさんが眠っちゃった後に夜食を食べ
ようと思ったんだな。ホントはリンゴ一個のつもりだったんだな。でも・・・・
・・一つ食べたら・・・・・・」

うなだれながら言い訳をするフトソンを、デミテルは氷のような目で睨みつけ
ていた。

「・・・・・♪やめられないっ♪止まらないっ♪・・・みたいな・・・」
「だからって調理器具まで食べることがあるかああああああ!!」

デミテルの怒声がフトソンを襲った。

「食べ残しはいけないって、お母さんが言ってたんだな!!」
「暴飲暴食もいかんと、親から習わなかったのか貴様はああああああぁ
あ!?」

「調理器具を食べる」という行為のことを、果たして「暴食」と呼ぶべきなの
かどうか。言った本人もいささか疑問だったが、そんなことはどうでもよかった

「鉄分を取らないと、大きくなれないんだな!」
「これ以上大きくなってどーすんだ貴様は!?つーか鉄そのもので鉄分を取る
なぁ!!」
「じゃあ、今から口から吐き出して・・・」
「それじゃただの嘔吐だろうがあああああ!!」

この日二発目の回し蹴りが炸裂した。


三人は、平原をテクテクと歩いていた(一人は浮遊している)。なんとも気の
抜ける、力無い音を響かせる者が一人いたが。
 


                グッキュウ~

「(腹減った・・・)。」

デミテルはずっとそんなことを考えながらトボトボ歩いていた。お菓子を何個
かつまんではいたが、それで足りるわけがなかった。

「デミテル様ぁ?これ食べるぅ?」

リミィが何かを手に、デミテルに差し出した。デミテルはリミィの手の中を覗
いた。そこにいたのは・・・・・・生きたトカゲであった。

「いや・・・。遠慮させてもらう・・・。」
「・・・おいしいのにぃ・・・。」

リミィはトカゲを口に運ぶながら言った。口からトカゲの尻尾がちょろちょろ
と飛び出ていた。

そりゃお前らモンスターは、人肉からゴキブリまでなんでも食べれるだろうよ
。でも、ハーフエルフはデリケートなんだよ。

「デミテルさん気を落としちゃダメなんだな。きっといいことあるんだな。」
「(全ての原因は貴様だろうが・・・)。」

しかし、デミテルに怒る気力は残っていなかった。

その時、デミテルはあることに気付いた。
右前方の木々の茂みから、煙のようなものが立っている。不審に思い、デミテ
ル達は木々をかきわけ、茂みの中へ入っていった。

そこにあったのは・・・


鍋。フタの無い鍋であった。煙はそこから立ち昇っていた。
デミテルは周りを見渡した。人の気配はない。
 デミテルは推理した。

「どうやら誰かが昼食を食べていったようだな。おそらく・・・」
「デミテル様を襲った人達だねぇ!」

デミテルの横でリミィがはしゃいだ。

「おそらくな。まだ鍋から湯気が立っているということは、そんな遠くには行
っていないはず・・・」
「それにしてもなんて非常識な奴らなんだな!!食べ物を鍋ごと捨てていくな
んて最低なんだな!!」
「鍋そのものを食べたお前が言ってもな・・・。」
「・・・・・・・!!」

フトソンはうなだれた。

「とにかく!奴らはもう目と鼻の先だ。このまま急いで行けば・・・」

 

            グッキュルルルルゥ~

今まで以上に力の無い音が、デミテルの腹から鳴り響いた。しばしの沈黙があ
った。

やがて、デミテルはこう切り出した。

「・・・そこにある鍋の中身は・・・食べ物・・・だよなあ・・・?」

デミテルは鍋をじっと見つめた。

「デミテルさん・・・まさか・・・」

フトソンが心配そうにデミテルを見つめた。

「デミテル様ぁ・・・拾い食いは良くないよぉ・・・」

さすがのリミィも心配した。そんなみっともない行為をするデミテルはさすがに見たく
ないらしい。が、デミテルの耳には入らない。

「これは・・・調査だ!敵を知るための調査!そう!敵の食生活を知り、衛生
面から敵を崩すことができるかも知れない!それに、「敵に塩を送る」というこ
とわざもある!この鍋は敵から送られた塩なのだぁ!」

デミテルの目は軽く狂気じみていた。それほど空腹に襲われていた。

「・・・これは送ってきたんじゃなくて、捨ててっただけなんだな。」

フトソンは的確な事実をのべた。が、焼け石に水とはこのことであった。

「鍋が・・・・・・鍋が私を呼んでいるぅううううううううぅう!!」

フトソンが止める間もなく、デミテルは鍋の元へ飛んで行った。

 人間は精神的に追い詰められると、理性を保てない生き物である・・・ハーフエ
ルフもしかり。

デミテルは鍋の元にたどり着くと、しゃがみ込み、鍋の中を上から覗き込んだ
。そこにあったのは・・・


カレーだった。色合いといい、香りといい、完璧にカレーだ。ちなみに七色の
発光は起こしていない。
デミテルは内ポケットから、マイスプーンをバッと取り出した。彼はいつ何が
起きてもいいように、大抵の小物は持ち合わせていた。
スプーンを鍋に突っ込み、ルーと具をすくいだした。どうやらチキンカレーら
しい。スプーンの上に乗った鳥肉らしい物が、神々しい光を放っている・・・ように彼の
目には写った。

これは調査。そう!調査だ!決して自らの欲望に敗北したわけではない!己の
魂が、「カレーを食べろ」と叫んでいるだけなんだああああああ!!

それが欲望に敗北したと言うんだよと、彼に忠告する者はいなかった。そして
デミテルは口を開け、スプーンを口の前に運んだ。

そして・・・!

 ちょうどその頃、デミテル達がいる茂みから五百メートル程離れたところに、
ある四人組がベネツィアに向かって平原を歩いていた。言わずと知れた、時の英
雄達である。

「大丈夫ですか?クレスさん?」

そう言ってクレスの背中をさすっているのはミントである。

「だ、大丈夫・・・じゃないや・・・」

クレスの顔色はひどく悪かった。腰を曲げながら、フラフラしながら歩いてい
た。

「まったく・・・だからやめとけって言ったんだ。」

クラースがクレスの後ろから言った。

「でも・・・見た目は良かったじゃないですか?香りだって・・・」
「私は用心深いんでね。見た目には騙されんよ。」

クラースは帽子の角度を直しながら言った。

「騙すだなんてひっどい!私は丹精こめて作ったんだからね!前よりマシだっ
たでしょ、クレス!」

クラースの横を歩きながら、アーチェがクレスに凄んだ。

「マシッて言ったって・・・指先につけて舐めただけだよ?それでこれって・
・・。もしスプーン一杯食べたら、僕、生きてないかも・・・」

クレスの目は軽く虚ろだった。アーチェは頬を膨らませた。

「フンだ!いつか絶対おいしいお料理作ってやるんだから!・・・クレス味見
お願いね!」
「頑張れよ、クレス。」
「もちろんクラースもね!」
「え・・・。」

クラースは青ざめた。

ドッガアアアアアアアアアアンッ!!

突如、遥か後ろで大爆発が起きた。全員は一斉に振り返った。

どうやらさっきまで自分達がいた茂みで爆発が起きたようだ。煙が爆発の元の
部分を隠していて、どうなっているかは見えなかった。

「あそこは・・・僕達がさっきまでいた?」
「そういえば・・・私達ってあの鍋どうしましたっけ?」

ミントの一言で、気まずい空気が流れた。

「まさかな・・・。そんなわけないよなクレスゥ!?」
「も、もちろんですよクラースさん!ねえミントォ!?」
「ええっ!?・・・そ、そうですよ!火薬じゃあるまいし!ねえアーチェさぁ
ん!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・多分。」

「多分」って何ぃ!?と、みんな思ったが、それを聞く勇気を持つ勇者はここに
はいなかった。

「・・・さ、さて!済んだことは忘れてベネツィアへ!」

英雄達は心にわだかまりを持ちながら、クラースの掛け声とともに港町へと向
かった。


つづく


あとがき
とりあえず最初に言うことはアレです。第一復讐教訓でコメント書いてくれた方、心から感謝を申し上げます。本当に励みになります。これからもご愛読願います。 
さて、この小説を読んでくれた方。これであなた様の人生は繁栄の極みです。今からスーパーのお菓子コーナーにダッシュし、「キョ○ちゃん」という名のキャラクターがプリントされた、「チョ○ボール(キャラメル味)」という名のお菓子をを買いに行きましょう。確実に銀のエンジェルが当たりま・・・・・・・・・・・・すいません。やっぱ嘘です。ほんとごめんなさい。自分、16年の人生の中で一度だけしか当てたことないです。でも、もし当たったら(当たらなくても)コメントお願いいたします。それでは。 

次回  第四復讐教訓「思いつきでものを言うと大抵後で後悔するよ」

コメント

幼少時と言い
クレス一行にボコられた時と言い
今回のマストポッキリ事件と言い、
デミテルは尋常でない強運の持ち主ですね!
続きはどうなるのでしょう。

今晩は。
前回はできませんでしたが、またレス失礼致します^^
銀のエンジェル・・・当たったことがある気がしません^^^(ぁ

マストぽっきり事件で心の中で『オイ駄目じゃん!!!あとそれ木じゃないから!』って突っ込んでしまいましたw
でも人(?)に暴飲暴食はいかんと言っておきながら拾い食いするデミテルって・・・(笑
でもっていくらヤバイ中身でも鍋ごと置いてく勇者様ご一行って・・・(笑w

次の作品も楽しみにしてます♪

今晩は。
前回はできませんでしたが、またレス失礼致します^^
銀のエンジェル・・・当たったことがある気がしません^^^(ぁ

マストぽっきり事件で心の中で『オイ駄目じゃん!!!あとそれ木じゃないから!』って突っ込んでしまいましたw
でも人(?)に暴飲暴食はいかんと言っておきながら拾い食いするデミテルって・・・(笑
でもっていくらヤバイ中身でも鍋ごと置いてく勇者様ご一行って・・・(笑w

次の作品も楽しみにしてます♪

Σ何か2回書かれてる!?御免なさい;;

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