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デミテルは今日もダメだった【6】

第六復讐教訓「ありがとうが言える大人になろう」

「大丈夫なの、あなた?」

ハーメルから少し郊外にある赤い屋根の屋敷。見た目はかなりボロッちく、中
も少しホコリが舞っている。壁、床、屋根に至るまで、様々なところが傷んでい
た。

それもそのはず、この屋敷はほんの一週間前まで誰も住んでいなかった。台所
や寝室など、日々使う部屋はそれなりに掃除されていたが、廊下などはホコリま
みれのままだった。

「一体何がだい?ネリー?」

ランブレイはマントを脱ぎ、それを妻・ネリーに手渡しながら言った。マント
はかなりカビ臭かった。

「新しいのを買っておいてくれ。傘はさしてたんだがね。横殴りの酷い雨で・
・・」
「それはいいですけど・・・あんな見ず知らずの子供を使用人に雇おうだなん
て・・・馬車から一緒に現れた時は、何事かと思いましたよ。」

ネリーはマントを畳みながら、ボソボソと言った。ランブレイは妻の肩に手を
置いた。

「彼は私達と同じハーフエルフだ。そしてとても綺麗な目をしている。私達以
上のつらい人生を生きている。彼にチャンスを与えたいんだ。それに洗濯や掃除
をしてくれる人が欲しいって言ったのは君だろ?」

ランブレイは優しく言った。ネリーは仕方なしに認めた。

「ところで・・・リアはどこにいるんだ?私が帰ってきても出迎え一つしてく
れないなんて・・・。」

ランブレイはしょんぼりしながら言った。ネリーはクスリと笑った。

「あの子ならまた屋敷の探険でもしてるんでしょう。」
「友達はまだできないのか?」
「一週間そこらで友達が作れる程、あの子は活発じゃないですよ。ホントにあ
の子ウブなんだから・・・」

ランブレイ達が屋敷の二階で話をしている頃、デミテルは一階の応接間のソフ
ァーで一人チョコンと座っていた。

応接間はかなり広く、五十人が入ってもまだ余裕があるように思えた。もっと
もそんなには広くないのだが、十年の人生の中で初めて見た光景の為、デミテル
にはそう見えた。部屋の中心には、向かい合った緑色のソファーがあり、その間
にテーブルが置かれ、その下に部屋と同じぐらいの大きさの絨毯がひかれていた。

デミテルは改めて部屋を見回した。窓のサンなどあちこちホコリが積もり、壁
はひびが入っているところがある。しかし、デミテルにとってはまさに宮殿だっ
た。

ここから僕の新しい人生が始まる。掃除が大変そうだけど、ここの使用人にな
るからにはランブレイ・・・イヤ、師匠の期待に応える為にがんばろう。洗濯な
り実験の手伝いなり子供の世話なり・・・


子供といえば・・・


デミテルは気付いた。応接間の入り口の、両開きの扉を少し開き、一人の女の
子がこちらを不安そうに覗いている。女の子は茶色い長い髪をしていた。

デミテルは声をかけてみた。

「こんにちはお嬢さ・・・」

と言うが早いか、女の子は全速力で走り去って行った。

デミテルは一瞬ポカンとしたが、気を取り直し、さっき馬車の中でランブレイ
から貰った板チョコを取り出した。すでに半分しかない。デミテルが板チョコを
口に入れようとしたその時・・・

口に入る直前で、彼の動きが止まった。デミテルはそのままのポーズで、横目
で扉を見た。

さっきの少女がまた扉の隙間から・・・いや、足だけは少し中に入っている。
少女は困ったような顔でこちらを見ている。デミテルはまた話し掛けてみた。

「こんにちはお嬢さま、僕は・・・」

少女はヒッと息を呑むと、また全速力で逃げた。

このやり取りが五回繰り返され、回数を重ねるごとに少女はデミテルに近づい
て行った。六回目でようやく少女はデミテルの横に立つことが出来た。

「こんにちはお嬢さまっ!!」

と言った瞬間、デミテルは少女の腕を引っつかんだ。さっき同様、全速力で逃
げようとした少女は、デミテルから逃れようと必死になっていた。

「そんな逃げることないですから!!」

デミテルは少女を後ろから羽交い締めにして、そのまま自分の隣に座らせた。
雇い主の子供である以上、彼は敬語で話し掛けなければならなかった。少女は泣
きそうな顔をしながら、デミテルの顔を横から見上げていた。デミテルはハァー
と溜め息をついた。

馬車の中で師匠が言っていた通りだ。本当は好奇心旺盛なのに、人前に出ると
まるでダメ。その場から逃げ出そうとする。だから滅多に友達ができない。・・
・こんな子供の世話をするのか僕は。

デミテルは今度こそ板チョコを食べようと、テーブルに手を伸ばした。さっき
から口に運ぼうとする度、少女が戻って来たのでなかなか口に入れられなかった
のだ。

「・・・・・・・・。」

デミテルはまた口に入る直前で動きが止まった。左斜め下から来る視線に気付
いたからだ。少女は泣きそうな顔で震えていたが、その目はまっすぐにデミテル
を・・・・・・いや、板チョコを見つめていた。

「・・・これが食べたいんですか?リアお嬢さま?」

デミテルはなるべく優しく聞こえるように問い掛けた。小さい子供の相手など
したことが無かった為、勝手がわからなかった。少女はチョコレートからデミテ
ルへと視線を変えた。

「・・・どうして私のお名前知ってるの?」

リアは不安そうに聞き返した。おっとりとした声だった。

「あなたのお父さんに聞いたんです。僕はデミテル。今日からこの家の使用人
兼、あなたのお父さんの弟子兼、あなたの遊び相手です。」

そう言うとデミテルは、板チョコをリアに差し出した。リアは受け取るのを躊
躇した。

「別に毒なんて入ってませんよ。僕はもう半分食べたからいいんです。」

嘘だった。本当は半分でも食べたくてたまらない。甘い物は三年以上、滅多に
に食べていなかったのだから。

リアは無言で受け取った。その時のデミテルの表情は、とても苦痛に満ちてい
た。

しかし、次の瞬間、リアが言った言葉が彼の表情をほぐした。

リアは両手でチョコレートを持ちながらこう言った。満悦の笑顔で。

「・・・ありがとう・・・」

ありがとう。そんな言葉をこんなにも心を込めて言われたことはない。三年間
、その日その日を生きるために、あらゆる所で日働きで働いていたが、ここまで
感謝を込めてありがとうと言われたのは初めてだ。

突然リアがデミテルの手を掴んだ。いきなりだったのでデミテルはビクッとし
た。そして次に言ったリアの言葉が、デミテルを混乱させた。

「・・・デミテル様ぁ・・・」

デミテル様?なぜ様付け?なんかおかしいぞ?あれ・・・・・・?なんだか周
りがぼやけて・・・

突如、応接間が渦を巻きながらぼやけていった。リアも。そしてデミテルも。
そして・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「デミテルさん、結婚おめでとうなんだなぁ~!」

はっ!?えっ!?どこ、ここ!?

デミテルは大人の姿で真っ白な空間に立っていた。なにも無い空間。しかし、
人はいっぱいいた。

フトソンが紙吹雪をデミテルに向かって、まいている。スカーレット夫妻が感
激の涙を流しながらこちらを見ている。

「よかったなデミテル!」

と、言いながらデミテルの肩に手を置いたのは、クレス=アルベインだった。
アーチェ、ミントがデミテルに拍手を送っている。アーチェの横でエルウィンと
ナンシーが見つめ合って談笑している。皆パーティーに着るような華やかな服を
着ていた。

何がどうなっている?確かさっき、フトソンが結婚おめでとうとか言ってたよう
な・・・。

デミテルは自分の体を見下ろした。黒いタキシードを着ている。まるで、新郎
新婦が着るような・・・

「それでは始めよう。新郎デミテル。汝は永久に彼女を愛することを誓います
か?」

クラースが神父の格好でデミテルに問い掛けた。

は?彼女?彼女って誰?

その時デミテルは、自分の右手が誰かの手を握っていることに気が付いた。恐
る恐る横を見たが、誰もいない。やがて彼は横を向いたまま、少しずつ視線を下
に降ろしていった。

花嫁姿のリミィがこちらを見上げながら、頬を赤らめている。そして笑顔でこ
う言った。

「・・・リミィとデミテル様はずぅっと一緒だよぉ♪」

まてまてまてまてまて。いやいやいや。おかしいだろ?おかしいだろこれ?な
にかが絶対的におかしいだろこれ!

「それでは誓いの口付けを・・・」
「まてまてまて!?まだ誓いの言葉言ってないだろうが!?血迷ったか神父ぅ
!?」

デミテルは抵抗したが、クラースは無視した。横でリミィがデミテルの顔辺り
まで浮いた。

「よっ!幸せ者!」
「大切にしてあげなさいよ~!」
「良かったですねリミィちゃん。」
「君達は最高の大道芸夫婦だ!」
「デミテルさん、結婚おめでとうなんだな~!」

様々な激励の言葉を受けながら、デミテルはリミィの顔に掛かった白いベール
をしかたなさそうにめくりあげた。この状況で逃げられるわけがなかった。

「子どもが出来たら報告しろ。上司として出産祝いを贈ってやる。」

そう言ったのは、誰であろうデミテルの上司、ダオスだった。周りと同じく正
装している。

「デミテル様ぁ・・・」

リミィがまぶたを閉じながら、こちらに近づいてきた。

えっ!?ちょっ!?待て!ダメだろ!これはダメだろ!ちょっ・・・!

リミィのくちびるがデミテルに近づいてくる。そして・・・

 「イヤダアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

デミテルはベットからガバリと跳び起きた。息切れし、冷汗まみれ。顔は真っ
青だった。

「ハア・・・ハア・・・ゆ、夢か・・・良かった・・・・本当に良かった・・
・・・ここは・・・?」

デミテルはこじんまりとした部屋の中にいた。部屋にあるのはデミテルが今い
るベットが一つと、燭台が置かれた机が一つ。部屋の扉には丸い窓がくり抜かれ
ていた。

ここはどこだ?確か・・・浜辺で大道芸を見せていて・・・リキュールボトル
を一気飲みして・・・そのあと・・・

そのあとのことを彼は思い出せなかった。軽い頭痛が彼を襲って来た。

デミテルはベットから立ち上がった。体がフラフラした。

「痛ぁい!!」

突然、デミテルの足元から悲鳴が聞こえた。デミテルはビックリして、ベット
に尻餅をつきながらドカッと座った。彼は足元を恐る恐る見てみた。

ベットの下から、足が一本出ていた。とてもかわいらしい小さな足だ。デミテ
ルはしばらくそれを見つめていたが、やがてその足を引っつかみ、ベットの下に
いる者を引きづり出した。

「・・・え~とぉ・・・おはようデミテル様ぁ・・・」

リミィがデミテルに足を掴まれ、逆さの宙づりになりながら、緊張した面持ち
で挨拶した。デミテルは無表情だった。

「おはようリミィ。お前はこんな所で何してたんだ?」
「う、う~んとぉ・・・・・・か、かくれんぼぉ・・・」
「誰が鬼なんだ?」
「ええっとぉ・・・じ、自分の醜い心ぉ・・・」

 おそらく、リミィ自身も何を言ってるのかわかっていないだろう。

「そうか。まさかお前、私が眠っている間に手を握っていなかっただろうな?
私の耳元で変な暗示をかけてなかっただろうな?・・・ベットの中に入ってこな
かっただろうな?」
「べ、ベットの中には入ってないよぉ!だってデミテル様、リミィが入ろうと
したらいきなり叫ぶから、ビックリして・・・」
「・・・入ろうとしたのか・・・しかも、それ以外のことはやったんだな・・・

デミテルは静かに指摘した。リミィはヒッと息を飲み、デミテルの手から逃れ
た。

「ごめんなさぁい!」

リミィはフワフワ浮きながら頭を下げた。さっきまで逆さ吊りだった為、水色
の長い髪が乱れていた。デミテルはスッとベットから立ち上がった。

「あれほどお前と一緒には寝ないと・・・」

またしてもデミテルはふらついた。が、彼は気付いた。自分の体がふらついた
のではない。

部屋が右に傾いている。と思ったら、今度は左に傾いた。デミテルは壁に片手
をつけて体を支えた。

「・・・・・・?リミィ、ここはどこなんだ?」

デミテルは尋ねた。すると、しょぼくれた顔をしていたリミィの顔が急に明る
くなった。このことをデミテルに言いたくてたまらなかったのだ。

「ここはねぇ・・・なんとぉ・・・・・・お船ぇ!」
「・・・・・・・・・は?」

デミテルは一瞬言葉を飲み込めなかった。

「船・・・・・・だと?確か定期船は出ないんじゃ・・・・・・?」
「あのねぇ、リミィとフトソンがナンシーお姉ちゃん達にお願いしたのぉ。二
人の船でアルヴァニスタまで乗せてってくださいってぇ!」

ナンシー・・・?確か、あのバカップルの女の方か?確かそんな名前で呼び合
ってたな・・・。

「・・・頼んだって・・・お前・・・」
「大丈夫だよぉ!リミィ達がモンスターだってことはちゃーんと隠してるから
ぁ♪ただの大道芸団ということになってるよぉ♪」

リミィは乱れた髪を直しながら元気に答えた。デミテルはホッとした。

どうやら私のリキュールボトルの一気飲みは無駄ではなかったらしい。結果オ
ーライと言うべきか。自分の記憶が正しければ、あの二人は我々の芸にかなり感
動していた。たしか、「あなた達は大道芸人以外にありえない」とかなんとか言
ってたような・・・・・・・・・なんか逆にむなしいなぁ・・・

「ねえデミテル様ぁ・・・?」
「ん?」

少し哀愁が立ち込めていたデミテルに、リミィが探るような目をしながら問い
掛けた。

「なんだ?」
「デミテル様はぁ・・・その・・・さっき何の夢見てたのぉ?」

デミテルの頭の中で、薄れかけていた夢の記憶が甦った。できれば、永遠に忘
れていたかった。

その思いと同時にあることを悟った。さっき見た夢の後半の内容は、この小娘
が自分の耳元で吹き込んだのだと。リミィは少し興奮しながら追求した。

「・・・もしかしてリミィとデミテル様が・・・」
「・・・何の夢も見ていない。」

デミテルは機械的に嘘をついた。絶対に口にするものか。リミィは手足をばた
つかせた。

「うそだぁ!だってデミテル様絶叫してたもぉん!絶対見てたよぉ!リミィが
デミテル様のお嫁さんになって・・・」
「そ、そんなふざけた夢など見ていない!だからアレはお前・・・つまりその
・・・・アレだよ・・・・・・・・・・・・・・・・」

 デミテルは何とかして隠し通そうとした。

 「・・・・・そう!この世からチョコレートケーキが消えて無くなる夢を見た
んだ!あれが無くなったらお前、もう私は自分の生きる意味を失ってしまうな、
うん。・・・・・・そういえば最近食べてないな・・・。」

デミテルは瞬間的に思い付いた嘘で、何とかはぐらかそうとした。ちなみに最
後のセリフは本心だった。

「なぁんだ・・・つまんないのぉ!」

リミィは残念そうに言った。どこかでカモメが鳴いていたのが聞こえた。

その時、扉を二回、コンコンとノックする音が響いた。デミテルがリミィの頭
越しに扉の丸窓を覗くと、水色の髪をした凛々しい青年が笑ってこっちを見つめ
返していた。エルウィンである。

デミテルはハッとして、フワフワ浮いてるリミィの頭を上からわしづかみにし
、無理矢理床に降ろした。リミィは今まで、こんなに強くデミテルに掴まれた事
が無かったので、心臓がバクバクした。

エルウィンは扉を開き、笑顔で部屋に入って来た。初めて会ったときの表情と
はまるで違っていた。

「おはようございますデミーさん。気分はどうですか?」

デミテルは一瞬、誰に話し掛けてるのだろうと思ったが、その名が自分の事を
指していることに気付き、急いで相槌を打った。エルウィンはニコリとした。

「先日はすいませんでした。船泥棒などと疑ってしまって。フトソンさんから
聞きました。世界をまたにかけて、世界一の大道芸団になるために旅をしてるん
ですってね?」
「え・・・・ええ・・・まあ・・・。」

あの白饅頭、余計に話を大きくしおって・・・。

 そんなことを考えながら、デミテルはエルウィンの問い掛けに弱々しく答えた

「それにしても熱心ですね。起きたばかりなのに、もう芸の稽古ですか?」

エルウィンはリミィを見下ろしながら言った。どうやら、さっきまでリミィが
浮いていたのを見ていたらしい。

「え・・・・ええ・・・まあ・・・。」

デミテルはさっきと同じ調子で答えた。

「では・・・朝食でもいかがですか?すぐそこがキッチンですので。」

エルウィンは優しく言った。この時デミテルは、一つの疑問を持った。


何故こんなにも親切なのだろう?


「デミー様ぁ。リミィと一緒に食べよぉ♪」

デミテルに頭を掴まれたままで、リミィが言った。

「いや、しかし・・・なんだかんだでまだ気分が余り・・・」

リキュールボトルを一気飲みした代償が、デミテルはまだ抜け切っていなかっ
た。おまけに船が揺れるのが重なって、余計に気分が悪かった。エルウィンは残
念そうにこう言った。

「そうですか・・・・・・確か甘い物がお好きなんですよね?リミィちゃんか
ら聞きましたよ。チョコレートケーキでもと思ったんですけど・・・」
「食べます。」

「チョコレートケーキ」という単語を聞いた瞬間、デミテルは即答した。

「え・・・?でも気分の方が優れないんじゃ・・・・・・?」
「大丈夫です。糖分取れば治ります。」

デミテルは自分が意味不明なことを言っていることに気付いていたが、そんな
ことはお構いなしだった。エルウィンはクスリと笑った。

「本当に好きなんですね・・・わかりました。この部屋を出てすぐ右にある階
段を上れば、直接キッチン兼食堂がありますので。着替えたら来て下さい。」

そう言って部屋を出て行こうとするエルウィンを、デミテルは呼び止めた。

「待ってください。」
「なんですか?」
「いや・・・こう言ってはなんですが・・・あまりにも人を信用しすぎではな
いですか?こんな見ず知らずの人間を船に乗せるなど・・・」

デミテルは探るように問い掛けた。すると、エルウィンはこう答えた。

「確かに不用心かもしれませんね。でも・・・」

そう言いながら、エルウィンはデミテルの目を直視した。デミテルは一瞬ドキ
リとした。

「・・・昨日は暗くてわかりませんでしたが、あなた、とても綺麗な目をして
いらっしゃる。とても悪人には見えない。僕と彼女・・・ナンシーといいますが
・・・僕と彼女を引き合わせてくれた人達と同じ目をしてるんです。だから信用
しました。」

そう言うと、エルウィンは部屋を出て行った。部屋には呆然とするデミテルと
、彼の手の下でジタバタしているリミィだけが残った。


綺麗な目をしている?ただそれだけ?悪人には見えない?ふざけるな。私は悪
人だ。村一つを壊滅させ、数百人の命を奪った正真正銘の悪人ではないか。私は
・・・・・・罪人だ・・・


デミテルはハッとした。今自分は、自分が罪人であることを自分で認めてしま
った。正しいと信じてやったことに、罪の意識を感じてしまった。

違う。デミテルは自分に言い聞かせた。私は・・・私は正しい・・・

「デミテル様ぁ。早く行こうよぉ。」

リミィがデミテルの手の下で言った。デミテルはリミィを自分の手から解放し
た。デミテルは気分を切り替えようとした。

「・・・そうだな。まずは食事だ。確か着替えてから来いと・・・」

・・・ん?待てよ?着替えろだと?私は今何を着ているんだ?

デミテルは夢の中同様、自分の体を見下ろした。そして、今の自分の現状を知
った。

デミテルはパジャマを着せられていた。・・・・・・全身水玉模様の。

・・・まさか、あの男がずっと笑顔だったのは・・・

デミテルは急に恥ずかしくなった。確かに、こんな格好をしていたら悪人には
まず見えない。

デミテルは自分の周りを見回し、自分の服を探した。が、どこにもない。

「・・・リミィ。私の服を知らないか?」

デミテルはリミィに問い掛けた。リミィはさっきまで頭をわしづかみにされて
いた為、また髪が乱れていた。

「うん!リミィの部屋にあるよぉ!」
「なぜお前が持ってるんだ?」
「えっ!?・・・ええとぉ・・・」

リミィはとても言えなかった。昨日の夜、デミテルのマントを自分の体に巻き
付けて寝ていたことなど。

「まあいい。早く持ってこい。」
「あ・・・はぁい!」

リミィは元気に返事をしながら、部屋をトコトコ歩いて出て行った。

十分後。デミテルは着替えを済ませた。なぜか、マントに変な違和感を感じた

「・・・変だな。マントから何か・・・汗くさい感じが・・・」
「き、気のせいだよぉ!」

リミィは悟られないように力を入れて言った。

「・・・まあいい。おい、手を出せ。」

デミテルはマントの中をゴソゴソしながら言った。リミィは首をかしげながら
両手を出した。デミテルはマントの中からあるものを取り出し、リミィの手の平
に乗せた。それは・・・・・・・・・あんパンだった。

「え?」
「・・・まあアレだ・・・この船に乗ることが出来たのはお前とフトソンの働
きのおかげであって・・・その・・・その働きに対する褒美だ・・・・・・フト
ソンと半分にして食え・・・・・・ありがとう・・・」

最後のセリフを極力小さく言うと、デミテルはそそくさと部屋をでていった。少し顔をしかめ、同時に少し顔を赤らめながら。

リミィは少しの間じっとあんパンを見つめていたが、やがて一口食べた。パン
の生地とこしあんが口の中でハーモニーを奏でていた。その味を噛み締めながら
、リミィはあることを願った。


・・・いつかデミテル様が、「褒美として一緒に寝てやろう」って言ってくれ
ますように・・・


あんパン片手に、リミィは部屋を出て、すぐ右の急な階段を駆けて行った。小
型の船なので、階段の幅は狭かった。デミテルに追い付き、その後ろを歩いてい
ると、突然デミテルが止まった。後ろを振り向き、甘党ハーフエルフはなんとも
決まりが悪そうな顔でリミィを見下ろし、こう言った。

「・・・リミィ・・・・・・それ・・・・・・やっぱり一口くれないか?」


つづく


あとがき
この小説は、三話分ほど余計に作ってあります。今のところ「は、話が思いつかねぇ!どうすんだ!?どうすんだおれぇ!?」的な文章の行き詰まりは起きていません。途中で制作放棄しないように頑張ります。
さて!この小説を読んでくれたそこのあなた!これであなた様の人生はもう・・・・・・
・・・・・・あれ・・・・・・・あ・・・・・・・ど、どうしよう!?もうネタが思いつかねぇ!どうすんだ!?どうすんだおれぇ!?


次回 第七復讐教訓「女の涙は最強の武器だ」

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