デミテルは今日もダメだった【7】
「スティックシュガー五本分でお願いします。」
大海原の真ん中を、朝の日差しを浴びながら一隻の船が横切っている。大きさ
はあまりなく、一般的な定期船の半分程の大きさだ。キズはほとんどなく、いわ
ゆる新品の船だった。
その船には小さいながらも、キッチン兼食堂があり、正方形の部屋の中央に大
きめの四角いテーブルが置かれていた。部屋の壁際には、こじんまりとしたキッ
チンが置かれている。
さて、先程言った四角いテーブルには奇妙なメンバーが座っている。一人は、
真っ白い着ぐるみを着た図体がでかい生き物。テーブルに置かれた朝食を、慣れ
ない手つきでフォークなどを使ってチマチマと食べている。当然、彼には物足り
ない量だったが、過去の失敗から、ある約束がされていた。
一回の食事の量は、腹三分目に抑えること。
腹三分目。その量に抑えても、彼は普通の人間の倍は食べていたが。
その白い生き物の向かい合わせには、小さくかわいらしい少女が、あんパンを
おいしそうに頬張っている。彼女がかじっている所とは別に、パンには少し欠け
ている部分があった。それはつい先程、その少女の右隣りに座っている、髪が青
く、しかし前髪の一部が赤い男に分けたためであった。元々そのパンを少女にあ
げたのはこの男だったのだが。ちなみに彼女は、パンを貰ったときに、「そこの着ぐ
るみを着た奴と半分にして食べろ」と言われていたが、すでに彼女は覚えていなか
った。
そして、そのパンをあげた男は今、チョコレートケーキをそれはそれはおいし
そうに頬張っている。もう三個目だ。さっきまで、軽い二日酔いによる頭痛があ
ったが、どうやら糖分を取っているうちに消えて無くなったらしい。そしてこの
男は、ついさっき、キッチンに立つ赤い帽子を被った女性にこう提案された。
「紅茶でもいかがですか?」
その答えを抜粋したものが、冒頭のものであった。
「それではお言葉に甘えまして。あっ。砂糖はスティックシュガー五本分でお
願いします。」
第七復讐教訓「女の涙は最強の武器だ」
「ご、五本分ですか・・・?」
ナンシーは自分が聞き間違えたのだと思い、再度確認した。デミテルはチョコ
レートケーキを飲み込みながら、コクリと頷いた。
「デミーさん・・・そんな量の砂糖を紅茶に入れて毎日飲んでたら、ほぼ確実
に病気になりますよ・・・。」
デミテルと向かい合わせに座りながら、エルウィンは真っ当な意見を述べた。
ちなみに彼の横では、フトソンが慣れないフォークで目玉焼き相手に奮闘中であ
る。
「そうですか?これくらいは最低限入れておかないと味がしないのですが・・
・・あっ、どうも。」
ナンシーから紅茶を受け取りながら、デミテルは何食わぬ顔で答えた。
「デミーさん・・・あなたが常日頃感じている紅茶の味は、多分『紅茶の味』
じゃないです。ただの『糖分の味』です。」
エルウィンは冷静に言った。
「大丈夫だよぉ!だってデミテ・・・じゃなくてぇ、デミー様は『糖分と水分さ
えあれば生きていける』って前に言ってたもぉん♪」
あんパンの最後のかけらを飲み込みながら、リミィが横から口を挟んだ。
「・・・でもデミーさん、前にカレーの誘惑に負けたんだな・・・。」
なんとか朝食を食べ終えたフトソンが、ボソリと言った。デミテルはギクリと
した。
「カレーの誘惑ってなんですか?」
エルウィンは純粋に疑問に思った。その質問にリミィは完璧に答えた。
「えっとね、鍋が落ちててぇ、中にカレーがあってぇ、そんでもってドガ――
――――ンってなったのぉ!」
「・・・・・・?」
エルウィンは余計に混乱した。周りを見渡し、デミテルかフトソンが説明し直
すのを待ったが、二人ともウンウンとうなづいていただけだった。今の説明に間
違いは一つも無いからだ。
「・・・ところで、エルウィンさん達は何故アルヴァニスタに・・・」
三個目のケーキを食べ終え、甘ったるい紅茶に口をつけながらデミテルはエル
ウィンに問い掛けた。大体の答えの予想はすでについていたが。エルウィンとナ
ンシーは頬を赤めた。
「実は・・・」
「わかったぁ!『カケオチ』だぁ!」
デミテルは紅茶をブッと吹き出し、ゲホゲホとせき込んだ。フトソンも、いま
しがたナンシーから紅茶を渡され、飲もうとしたところだったが、リミィの言葉
で動きが止まった。
「ゲホ、ガハ、ゲホ!・・・お、お前・・・どこでそんな言葉・・・」
「えっとねぇ、リミィが前に住んでたところだとねぇ、『カケオチ』してきたっ
ていう夫婦がいっぱいいたよぉ♪」
だから!一体お前はどこに住んでたんだ!?と、デミテルとフトソンは疑問を
持ったが、やはり聞く勇気は無かった。それに、おそらくこいつは『駆け落ち』
の意味自体はわかっていないだろう。
「・・・リミィちゃんの言う通りだよ。実は・・・」
エルウィンは洗いざらいしゃべり始めた。ある親切な人達のおかげでナンシー
と巡り逢えたこと。自分は貿易会社「レイオット」の社長の息子であること。そ
の立場から、父親に田舎出身のナンシーとの交際を断固拒否されたこと。などな
ど。
「・・・それで決意したんです。たとえ会社を捨ててでも、この女性と二人、
幸せに暮らそうって・・・」
「ごめんなさいエルウィン・・・私のせいで・・・」
「いいんだよナンシー。僕は社長の椅子なんかより、君の笑顔の方が百倍、い
や、百万倍愛おしいんだ!」
「エルウィン・・・!」
「ナンシー・・・!」
イヤ、だから、人と話してるときに「二人だけの世界」に旅立つのはやめよう
よ。と、デミテルは言いたかったが、とても他人が干渉できる空気ではなかった
。エルウィンは椅子から立ち上がり、ナンシーと手を取り合い見つめ合っている
。
「しかし、よくぞそんなだいそれたことを・・・」
デミテルは二人の空気を崩さないように慎重に言った。
「・・・はい・・・僕たちを引き合わせてくれた人達の一人が、提案してくれ
たんです・・・。」
「・・・そうなんです。そういえばあの人、村の収穫祭でリキュールボトルを一
気飲みした人だったわ・・・。」
二人は見つめ合ったまま答えた。ここまでくると、だんだんうっとおしくなっ
てくる。デミテルはハァーとため息をついた。
「・・・おまえら、外に出るぞ。」
デミテル、リミィ、フトソンは食堂から甲板にでた。船首の方まで移動し、晴
れ渡った空の下の水平線を眺めていた。
「・・・しっかしまあ、我々はなんだかんだで運がいいな・・・」
船を囲む柵にもたれ掛かりながらデミテルは呟いた。
「全ては僕の思い付きのおかげなんだな!」
フトソンは胸を張りながら満足そうに言った。
「僕の『大道芸』っていう発言があったおかげで・・・」
「・・・おかげで私は急性アルコール中毒で死ぬところだった。」
「・・・・・・!」
フトソンはうなだれた。
「・・・で、でも!あれはデミテルさんが勝手にやったことなんだな!僕は関
係ないんだな!」
「な、何を言う!お前がもっとマシなウソをついていれば、あんな暴挙に走る
ことなどなかったのだ!もっと頭を働かせて発言しろ!この白饅頭!」
デミテルは憤慨した。フトソンも少しカチンときた。
「朝っぱらからチョコレートケーキ三個も食べる人に頭使えなんて言われたく
ないんだな!デミテルさんは礼儀を学んだ方がいいんだな!普通、昨日今日会っ
た人になんの遠慮も無く、『ケーキまだありますか~?』なんて聞かないんだな
!」
「なんだとぉ!?あれでも遠慮したほうだ!まだ二個はいけるぞ!」
「デミテル様ぁ!フトソォン!やめてよぉ!」
二人に挟まれながら、リミィが喚いた。が、二人の耳には入らない。
「大体、貴様は雇われている分際で偉そうなんだよ!いいか?私はお前に五十
万ガルド払ってるんだぞ!それなのにお前ときたら、家の塀破壊するは、船沈め
るは、食料食い尽くすは・・・お前何の役にも立っとらんではないかぁ!?」
「派遣モンスターに対する文句は、僕じゃなくてセンターに言えばいいんだな
!大体、僕を注文したのはそっちなんだな!」
「貴様など誰が好き好んで注文するか!!仕方なく雇ったんだ!それとも、今
からセンターに苦情の手紙でも出して・・・」
「・・・・・・ふいい・・・」
デミテルとフトソンの足元で、弱々しいかつ、痛々しい声がした。二人は互い
に顔を見合わせ、ゆっくりと、二人同時に足元を見下ろした。
リミィが目を真っ赤にして、涙目で二人を見上げている。体は震え、さらに両
手を自分の胸元にギュッと引き寄せ、握りこぶしを作っている。そのうえ顔はひ
どく引きつっていた。
「・・・ケンカァ・・・ヒック・・・したらぁ・・・ヒィック・・・やだよぉ
ぉ・・・」
リミィはしゃくり返りながら涙声で言った。今にも爆発しそうだ。このままだ
と最悪の事態が起こる。
デミテルとフトソンは再び顔を見合わせた。そして無言で、ある言葉を交わし
た。まさに以心伝心である。
ケンカより、この危機を乗り越える方が先だ・・・!
「お、おいリミィ・・・我々はケンカなどしていないぞ?なあフトソン?」
「そ、その通りなんだな・・・僕たちはただコミュニケーションとってただけ
なんだな!」
二人は互いに、引きつった笑顔を作りながらリミィに語りかけた。リミィはキ
ョトンとした。
「え・・・?でもぉ・・・さっきぃ・・・」
「ば、馬鹿だなお前は・・・真の絆を持つ間柄というのはだな、互いにけなし
合える間柄のことを言うんだ。なあ、フトソン?」
「そ、その通りなんだな!仲がいいからこそ言いたいことが言えるんだな!」
二人は互いに肩を組み合い、仲の良さをアピールした。フトソンの方が背が高
い為、デミテルが少し浮く形になったが。
リミィは目を輝かせた。赤い目がエメラルド色に戻っていく。
「ホントにぃ!?ホントにケンカしてたんじゃないのぉ!?」
「しつこいぞリミィ!我々は・・・・・・・・・・そう!アレだ!デミデミ団なんだか
らな!仲が良くて当たり前だ!なあフトソン!?」
「そ、その通りなんだな!例えどんな苦難が立ちはだかろうと、みんなで乗り
越えられるんだな!何と言っても、僕らはデミデミ団なんだな!」
二人はそれっぽいセリフを並べて、リミィを納得させようと必死だった。そし
てその努力は無事、報われた。
「うわぁい♪デミデミ団はみんな仲良しなんだねぇ♪」
リミィの顔に、いつもの屈託のない笑顔が戻っていった。デミテル達は心から
安堵した。
「なっかよし♪なっかよし♪」
リミィは二人の言葉を心から信じ、スキップしながら船尾の方に跳ねて行った
。デミテル達は、自分達の肩の力が抜けていくのを感じた。
「危なかった・・・危うく、全員睡眠状態で港に突っ込むところだった・・・
」
「僕が前に住んでたダンジョンにもバンシー族が住んでたから知ってるけど、
あのむせび泣きはホントに凄まじいんだな。寝た人を起こすのは簡単だけど、周
りの人みんな寝ちゃうから起こしてくれる人がいないんだな・・・」
「・・・それで一週間かけて眠りから覚めると、その泣いた本人は泣き疲れて
眠っている・・・」
「そうそう・・・」
「おいフトソン・・・」
「はい?」
デミテルは急にかしこまった。
「・・・さっきは・・・私も少し大人気なかった・・・許せ・・・」
「僕も・・・ごめんなさいなんだな・・・」
この時、デミテル達に暗黙の了解ができた。
あいつの前ではケンカはしないようにしよう・・・
「デミーさあああああああん!!」
突然、デミテルを呼ぶ声が甲板に響き渡った。デミテルが振り向くと、エルウ
ィンが血相を変えてこっちに走って来ていた。
「どうしましたエルウィンさん?早速浮気がばれましたか?」
「『男は命果てるその時まで女を求めるモンスター』だって、死んだじいちゃんが
言ってたんだな。仕方ないんだな!」
「イヤイヤイヤ!浮気なんてしませんよ!僕が愛してるのはナンシーだけです!・・・ってそんなことじゃなくて!!」
エルウィンはかなり興奮していた。息がかなりあがっている。
「とにかくこちらへ!」
言うが早いか、エルウィンはデミテルの腕を引っつかみ、船の左側甲板へ駆け
て行った。フトソンは急いで後を追った。
左側甲板にはすでにナンシーがいた。かなり緊張した面持ちだ。片手に何か細
長い物を持っている。エルウィン達がナンシーのところにたどり着くと、彼女は
その細長い物をエルウィンに手渡した。よく見れば、鋭くできた槍だ。
「エルウィンさん?一体これは・・・?」
「デミーさん!アレを見るんだな!」
フトソンが、海の水平線を指差した。デミテルは指差された方向に目を向けた
。
遥か水平線の向こうで、何か灰色をした複数の点々がフワフワと浮いている。
そして、その灰色の点々達は確実に大きくなってきている。こちらに近づいて来
ている証拠だ。
デミテルは目を細めた。よく見ると、点一つ一つに灰色の羽が生えている。や
がて、点の形がはっきりし始めた。全身灰色で、羽が生え、人型の何か。みんな
手に槍を携えている。
「・・・ガーゴイルか・・・。」
デミテルは呟いた。やがて、三十匹はいるであろうガーゴイルが羽音を響かせ
ながら船を空中から取り囲んだ。
ガーゴイルは人に近い形をしたモンスターだが、顔はまさに悪魔のような顔で
あった。骨格だけで出来たようなトゲトゲしい輪郭だ。全身空中から船を見下ろ
し、ニヤニヤしていた。中には、槍をブンブン振って戦闘のウォーミングアップ
をしている輩もいる。
「・・・くっ!」
エルウィンが空に向かって槍を構えながら言った。腰が少し引けている。その
後ろで、ナンシーが不安そうに空を見上げていた。
やがて一匹のガーゴイルが高度を少し下げ、デミテル達に近づいて来た。他の
ガーゴイルと違い、顔にいくつもの傷痕がある。
「よく聞け人間ども!この船はこの俺、ガーゴイル一族のジャニズ様が率いる「灰
の翼」が乗っ取った!お前らとこの船の積み荷は、俺達の糧となるのだ!」
ジャニズはガサついた声で言った。周りのガーゴイル達がヒューヒューとはや
し立てた。
「誰がお前らの糧になんてなるか!モンスターめ!」
エルウィンは少し震えた声で挑戦的に言った。ジャニズは空中からほくそ笑ん
だ。
「おうおう恐いねぇ♪そんな引け腰で言われたら、こっちは漏らしちまいそう
だねぇ。」
ジャニズのはるか上を飛び回っている他のガーゴイル達はクスクス笑った。ジ
ャニズは空中から槍をエルウィンに向けながら言った。
「俺達にはなぁ、あのダオス様がバックについてるんだぜ。俺達に刃向かうと
いうことは・・・」
「な~にがバックにダオス様がいるだ。適当なこと言いおって。」
突然、デミテルが嘲るように言った。ジャニズはエルウィンから、デミテルに
槍の向きを変えた。
「なんだとテメエ?」
「な~にが「灰の翼」だ。お前らはアレだろう?「モンスター派遣雇用センタ
ー」に名前を登録してない、もしくは登録しても誰からも注文を請けていないた
だの無職の集まりだろうが。『ダオス』という名前を出せばビビると思っている
のか?」
モンスター派遣雇用センター?この人は何を言っているんだ?
エルウィンは今までそんな言葉を聞いたことが無かった。それもそのはず、そ
のセンターの存在を知っているのは、モンスター達か、ダオスの部下などだけだ
。ジャニズの表情が歪んだ。
「俺達はなぁ!誰かに従って生きていくなんざ、まっぴらごめんなんだよ!最
近のモンスターときたら、どいつもこいつも「ダオス軍に入って活躍すれば、楽
な暮らしが出来る」とかほざきやがって!俺達は何者にも縛られない!いずれ俺
達モンスターが、この世界の主導権を握るんだよ!!」
前にも言ったが、ダンジョンなどで人を襲うモンスターとは別に、野外で人を
襲っているモンスターは、どこにも雇われていない、いわばホームレスである。
このガーゴイル達はまさに、ホームレスの集まりであった。
「さあ、無駄なおしゃべりはやめて大人しく死・・・」
デミテルはジャニズの話など、鼻っから聞いていなかった。喋らしている間、
彼は右手の人差し指を口に当て、ブツブツ呟いていた。そのことにジャニズは気
付いた。
「テメエ!俺の話を聞いてな・・・」
「アイストーネード!!」
デミテルは空に指をバッとつきだし、叫んだ。
轟音とともに、海上から冷気と氷を帯びた竜巻が発生した。
「なっ!?テメエ魔術師・・・」
「呑み込めぇ!!」
竜巻は空中に上昇し、高いところから見物していたガーゴイル達を襲った。彼
等は空中にバラバラに飛んで逃げようとしたが、三匹程が逃げ切れず、冷気の渦
に巻き込まれた。
「ギャアアアアアア!!」
「タ、タナカァァァァァァァっ!!?」
ジャニズは、渦に巻きこまれた仲間の一人に向かって絶叫した。
「(すごい名前だなおい・・・・・・)」
デミテルは心のなかで思った。タナカという名のガーゴイルは、全身を凍らせ
て海に真っ逆さまに落ちていった。他の二匹も、タナカに遅れて同じく海に散っ
ていった。
「アカニシィィ!カメナシィィ!」
ジャニズの悲痛の叫びが響いた。デミテルはもう、こいつらの名前について考
えるのはやめよう、と心に誓った。
「テメエエエエエエェ!!よくもぉ!アカニシはまだ復帰したばっかだったん
だぞ!」
ジャニズは槍を構えて空からデミテルに突進してきた。デミテルは人差し指を
口に当てながら叫んだ。
「知るかぁそんなこと!私にはやらねばならぬことがあるのだ!貴様らのよう
なザコモンスターに邪魔されてたまるか!・・・ファイアボール!」
数個の火の玉が、ジャニズを迎撃した。ジャニズは飛んでくる火の玉を槍で反らしながら空中に撤退した。
「チィッ!ヤロウども!やっちまいな!」
ジャニズの掛け声とともに、さっきのデミテルの攻撃で少しオロオロしていたガーゴイル達が、一斉に空中から突進を仕掛けた。デミテルは応戦した。
「させるか!・・・アイスニードル!!」
デミテルは自分に襲い掛かってくるガーゴイル達を迎撃したが、エルウィン達
の方までは対応仕切れなかった。
エルウィンは襲い掛かるガーゴイル達に対し、無茶苦茶に槍を振り回し、応戦
していた。彼は戦いに関してはまったくの素人だった。その後ろでナンシーがエ
ルウィンの背中に張り付き、震えていた。
「オラオラオラ!そんなんじゃ大事な彼女を守れないぜぃ!」
少し肥満体質のガーゴイルが槍を下から突き上げながら叫んだ。その一撃でエ
ルウィンの槍が宙に舞った。
「あぁっ!?」
「オラオラ!トドメだぜぃ!」
無防備のエルウィンに、五匹のガーゴイルが一斉に槍を振りかぶった。エルウ
ィンは意を決っし、目をつむった。
「うらあああああああああ!!」
フトソンがガーゴイル達を横から五匹まとめて殴り飛ばした。五匹は宙を舞い
、そのまま船から海へ落下した。
「あ、ありがとうございます!フトソンさん!」
エルウィン達は心から礼を言った。
「お二人さんは下がってるんだな!ここは僕とデミーさんが・・・人と話して
るときに攻撃するのはいけないんだなぁ!」
フトソンはその巨体からは考えられないようなスピードの横ステップで、後ろ
から槍を突いてきたガーゴイルの攻撃を避け、さらに背後にまわった。
「なっ・・・!?」
「人が話してるときは、邪魔しちゃいけないんだなあああああぁ!」
フトソンの右アッパーが後ろからガーゴイルを捉らえた。ガーゴイルは宙にふ
っとび、そのまま海に落ちていった。
「デミーさん、見てくれたんだな!?僕今スッゴク活躍したんだな!!」
「フン!その程度で調子に乗るな!さあ、まとめて吹き飛べぇ!・・・サイクロ
ン!」
鋭い風の渦が、十数匹ものガーゴイルをまとめて呑み込んだ。体をズタズタに
されながら、彼等は海に落ちていった。もう敵は十体程しか残っていない。
「クソォ!」
ジャニズは、半分以下になってしまった仲間と共に上空に避難した。全員息が
あがっている。
「さっきの元気はどうしたんだね?ジャニズ君?」
デミテルは嘲るように言った。その横で、フトソンが腕をグルグル振り回し、
得意げな顔をしている。ジャニズは歯をギリギリさせた。
どうすりゃいい?あの魔術師一人なら、全員で肉弾戦をしかけりゃどうにかな
りそうだが、あの白い着ぐるみ着た野郎が強すぎる!何か、何か手は・・・?
デミテルがトドメのサンダーブレードの詠昌を始めようとした、ちょうどその時
。ナンシーの後ろにあった食堂への扉が突然開いた。
「ナンシーお姉ちゃぁん!『イカの塩辛』ってあるぅ?」
「・・・・・・・・・。」
甲板にいた全員が、リミィの方を振り返った。海の上を浮く者達も例外ではな
い。長い沈黙のあと、ナンシーがひっそりと言った。
「ええっと・・・確か・・・上から三段目の棚にありますよ・・・」
「ホントぉ!?ありがとうナンシーお姉ちゃん!塩辛ってやっぱりおいし・・
・キャアッ!?」
突如、ジャニズが空中から雷の如く滑空し、リミィの頭を引っつかんだ。フト
ソンが引っ捕らえようとしたが、ジャニズは一気に空中へと離脱し、海の上まで
避難した。
「だははははぁ!!さあテメエら!大人しくしろぉ!さもねえと、このガキが
海の『もずく』・・・・・・じゃねぇ、海の『もくず』になっちまうぜぇ!!」
ジャニズは右手でリミィの頭を掴み、前に突き出しながら言った。リミィの下
で、深く、青い波が揺れている。
「うわぁん!やだぁ!海のもずくなんてやだぁ!デミテル様助けてぇ!」
「もずくじゃねえよ!もくずだっつーのぉ!」
喚くリミィを、ジャニズが怒鳴り付けた。
「貴様!卑怯だぞ!リミィちゃんを放せ!」
エルウィンが叫んだ。ナンシーは顔を手で覆い、指のすき間からジャニズを見
上げていた。
「お前卑怯なんだな!男なら正々堂々とやるんだな!」
フトソンもエルウィン同様叫んだ。
「うるせぇタコ!コイツを死なせたくなかったら、大人しくしやがれぇ!」
ジャニズが甲板を見下ろしながら叫び返した。
一方、デミテルは他の者達と違い、青い顔をしていた。なぜなら彼は、最悪の
事態を想定しているからだ。デミテルは叫んだ。
「おいバカ!!早くそいつを放せ!!」
「おやおや?さっきまでの元気はどうしたんだね?そんなにこのガキが心配か
?」
ジャニズはさっきまでの仕返しとばかりに、嘲るように笑った。デミテルは首
を横に振った。
「違う!そいつではない!この場にいる全員が危険なんだ!」
「はぁ?お前なに言って・・・」
「・・・・・・・・・ヒィック・・・」
アルガスの手の中で、弱々しいしゃくり声がした。デミテルはさらに青くなっ
た。
「ひぐ・・・へぐぅ・・・死にたく・・・ないよぉ・・・デミテル様ぁ・・・
」
リミィの目は真っ赤になっていた。体は震え、すでに涙が頬をつたっている。
ダメだ。もう止められない。
デミテルはそのことを直感し、エルウィン達の方を振り向き、叫んだ。
「今すぐ耳の穴に指を突っ込め!そして思いっ切り大きい声で歌えぇ!!」
「え?なんでそんなことを・・・」
「いいから早くやれつってんだろこのバカップル共ぉ!殺すぞぉ!?」
「えぇっ!?は、はいぃっ!!」
デミテルのあまりの剣幕に、エルウィン達はたじろきながら従った。フトソン
も急いでマネようとしたが・・・
「んん!?あれぇ!?僕耳ってどこにあったんだな!?」
「落ち着けフトソン!確か・・・へそあたりにあった気がする!」
「あっ♪ホントだ♪・・・ってそんなわけないんだな!!たしか後頭部のどこかに・・・」
その時だった。少女のむせび泣く絶叫が、大海原に響き渡ったのは。
つづく
あとがき
第四復讐教訓にコメントしてくださった山繭さんの疑問にお答えしようと思います。
質問内容「ところで「リド=キャスパール」とは一体・・・?オリキャラですか?」
はい、そのとおりです。彼はオリキャラです。第二復讐教訓に名前だけ出てます。
彼は、「モンスター派遣雇用センター」に勤めるまだ入社二か月の新米社員です。大学を出たばかりの二十一才。独身。出身はベネツィア。お父さんは船の船長さん。
お母さんはお父さんの浮気が原因で十年前に失踪しました。
性格は今時の若者。仕事にはあまり熱心ではないようです。その証拠に、彼はデミテルに送った仕事用の手紙に個人的なことを書いて送っちゃってますし。
趣味はプラモデル。「三度の飯よりガンプラ」が彼の座右の銘です。
彼は先輩女子社員、ユミス先輩に憧れています。彼女はバリバリのキャリアウーマンで、新人男性社員の憧れの的です。
ちなみに十九才の時に彼女がいましたが、別れました。理由は「価値観の相違」だそうです・・・
・・・以上が彼のプロフィールです。なんでこんな長ったらしく書いてるんでしょう自分。
こうなったらこの男が主人公の小説でも書き・・・・いやいや。てんでテイルズ関係ないですものね。それはダメですよね・・・・いや・・・・どうしようかなぁ・・・
次回 第八復讐教訓「寝てる人を起こすときは優しくやろうね」
コメント
回答ありがとうございます。
この小説にはオリキャラが結構出てきますね。
私は基本的にはオリキャラの出てくる小説は
あまり好きではないのですが、
この小説は楽しく読ませて頂いています。
今回はいつになくフトソンもデミテルも
強くてかっこいいので驚きました。
Posted by: 山繭 | 2007年06月25日 20:49