デミテルは今日もダメだった【9】
第九復讐教訓
「上京する者たちに告ぐ 都会は怖いところです でもいい人もいます
都会に負けるなよ!」
アルヴァニスタ王国。世界でも屈指の活気を誇る、賑やかな国である。もっと
もの特徴は、エルフと人間の交流がどこよりも盛んであることだ。
さて、その賑やかな国の、同じく賑やかな港に一隻の小型船が入港していた。
船が停まっている波止場には、五人の人影が見える。
「それではここでお別れですね。」
茶色い旅行カバンを片手に携えながら、エルウィンが言った。彼の横には、同
じく茶色い旅行カバンを両手に携えるナンシーが微笑んでいる。
「ええ。本当にありがとうございました。エルウィンさん達はこれからどうす
るんですか?」
エルウィン達と向かい合いながら、デミテルが言った。彼の足元で、リミィが
笑顔でエルウィン達を見上げている。フトソンはデミテルの横に立っていたが、
テンションはあまり高くなかった。今朝の槍での出血が未だに尾を引いているらしく、
顔色は未だかんばしくなかった。
「そうですね・・・まずは家を買って・・・仕事探して・・・家具買って・・
・保険に入って・・・」
「い、いきなり家を買うんですか!?いくらなんでもそれは・・・」
「ああ、大丈夫です。貯金は下ろしてきたので。一年は働かなくても生きてい
けるぐらいはありますよ。」
さすがは御曹子・・・
デミテルはなぜだか少し悔しくなった。この男は生まれたときから何不自由ない生活を送ってきたに違いない。自分と違って・・・
その時、昔、ランブレイが言った言葉が頭を過ぎった。
『「ただ生きている」。でもそんな事でさえ、手に入らない人達がたくさんい
る。そして君はそれを手にいれた。それだけで君は、世界中の裕福な子供達と変
わらない幸せを持っているんだ。』
今、目の前にいる男こそ、かつて世界中の裕福な子供達の一人だったのだ。だ
が、今はその裕福な暮らしも、地位をも全て捨てて、この人はそれらとは別の幸
せを掴もうとしている。裕福なだけでは掴めない物がこの世にはあるんだな、と
デミテルは悟った。
「ごめんなさいエルウィン・・・私の為に大切な貯金を・・・」
「何を言うんだいナンシー!?君が僕にくれる幸せに比べたら、こんなお金、
はした金・・・イヤ!何の価値もないただの紙屑さ!」
「エルウィン・・・!」
「ナンシー・・・!」
あんたら、最後の最後までそれかい。と、デミテルは心の奥底で呆れた。
「ナンシーお姉ちゃん、幸せになってねぇ!」
リミィが見つめ合う二人を見上げながら言った。ナンシーは少し赤面したあと
、リミィと同じ目線までしゃがみ込み、リミィの頭を撫でながら優しく語りかけ
た。
「フフ・・・リミィちゃんにもいつか大切な人ができるわ。」
すると、リミィは横に首を振った。
「いつかじゃないもぉん!もう会ってるもぉん♪」
リミィはデミテルの足にしがみつきながら笑顔で言った。ナンシーは再び微笑
んだ。
「フフ・・・そうね・・・二人の結婚式の日取りはいつかしら?」
「ナンシーさん。変なこと言わないでください。コイツは何でも本気にするので。」
「リミィはいつも本気だよぉ!デミー様ぁ!」
リミィがデミテルを見上げながらプンプン起こった。デミテルはハァーっとた
め息をついた。
「それでは僕達はこれで・・・」
ナンシーが立ち上がるのを見下ろしながら、エルウィンが言った。その表情は
、なぜだか少し物悲しい感じがしていた。
「それではお二人とも頑張って下さい。」
「はい。あなた方も世界一の大道芸人目指して、頑張って下さい。」
「え・・・。は、はい・・・。」
エルウィン達は最後までデミテル達の正体には触れなかった。二人が街の方へ
歩いて行くのを見届けながら、デミテルは思った。
あんなお人好し達、滅多にいないだろう・・・
リミィは、エルウィン達が見えなくなるまで、ちぎれんばかりに手を振って二
人を見送っていた。
「あの二人・・・幸せになるといいんだな・・・」
「まったくだ・・・」
デミテルは頭をかきながら、フトソンの呟きに静かに答えた。
それから十分後、デミテル達も港を出て、アルヴァニスタの城下街に入ってい
た。街に入った瞬間から、何とも言えない香りがデミテル達を覆った。
「なんだかよくわかんないけど・・・すごく陽気な匂いがするんだな・・・。」
「ここは活気が普通の街とは段違いだからな。人口もベネツィアの比ではない。活気があるとそういう匂いがするものだ。」
デミテルは商店が立ち並ぶ通りを歩きながら語った。
道にはかなりの買い物客がおり、中には、観光客と思われる者もいた。買い物
客の中にはエルフと見られる者もいる。
「こんないっぱいのエルフ、初めて見たんだな。デミテルさんがこの街に住ん
でも何の違和感もないんだな。」
フトソンはデミテルの尖った耳を見下ろしながら陽気に言った。
「まぁな・・・それにしてもすごい人の数だ・・・リミィ、離れるな・・・」
デミテルは自分の足元を見下ろしながら言った。が、そこには自分の足しかな
かった。
「ん・・・?おいフトソン。リミィはどこ行った?」
「え・・・?さっきまでデミテルさんの足元に・・・」
「おい・・・まさか・・・そんなベタな展開・・・」
そのまさかだった。デミテル達は足を止め、周りを見回したが、この、人が引
き締め合う通りの中から、身長百二十センチ程の幼女を一人探し出すなど無理な
相談だった。
「た、大変なんだな!これはいわゆる迷子ってやつなんだな!」
「落ち着けフトソン。そんなに騒ぐことはない。ブラブラ歩いていればそのう
ち・・・」
その時、人込みの中から小さい男の子の泣き声がした。
「うえええええええん!!おかあさ――――ん!!」
「コラ!勝手に離れるなって言ったでしょ!」
「うえ~ん。おかあさ~ん。」
その時デミテルは悪寒がした。そして、あることをシミュレーションした。
・・・もし、今泣いたのがリミィだったら・・・
「おいフトソン・・・」
「はい?」
「リミィを捜すぞ・・・」
「えっ?でも・・・」
「バカ者!とにかく手分けして捜すぞ!最悪の事態を避けるために!」
「最悪の・・・あっ!!」
フトソンも気付いた。このままだと、この『活気に満ちた街』が、『眠気に満
ちた街』になってしまう。
「お前はこの通りを捜せ!私はこの通りの先の方に行ってみる!」
「で、でも僕一人だと周りの目が・・・」
そう。こんな街中で、着ぐるみを着た男が怪しまれないわけがなかった。すで
に、どこからか中傷の言葉が聞こえる。
「何・・・あれ?まさかモンスターじゃ・・・?」
「こんな街中にモンスターがいるわけないだろ?ただの変な趣味したオッサンだろ?」
「ママァ~!アレ欲しい!あの白い動物ぅ!」
「ばか!見ちゃいけません!」
「僕・・・少なくともオッサンじゃないんだな・・・まだ十八歳なんだな・・・」
フトソンは落胆しながら呟いた。頭に一本だけ生えた毛が、空しく風に揺れた。
「とにかく頼むぞ!私は行ってくる!」
「そ、そんなデミテルさん!兵士に職務質問でもされたらどうすればいいんだな!?」
「『私はただの着ぐるみを着た変なオッサンです。』って言っておけ!」
「そんなこと言ったら確実にブタ箱直行なんだな!あ・・・ちょっ・・・デミテルさーん!」
フトソンの悲痛な叫びを無視して、デミテルは人込みを掻き分けて通りを抜け
ていった。
そこから打って変わって、ここは街の中央広場。通りに比べて、人はあまりい
なかった。モンスターは一匹いたが。
「デミテル様ぁ~?フトソーン!おーい!・・・どこ行っちゃったんだろぉ?勝手にどっか行くなんてひどいよぉ。」
リミィは広場の角にあった白いベンチにチョコンと腰掛けた。そして、周りを
見回した。広場の中心には噴水が一つ建っている。
でっかい街だなぁ。こんな元気な街初めてだなぁ。・・・早く宿に泊まりたい
なぁ♪
リミィは、今日の朝にデミテルとした『同じベッドで寝てやる』という約束を思い出し、うつむきながら一人ニヤニヤした。
楽しみだなぁ♪楽しみだなぁ♪早く夜にならないかなぁ♪
「一人で何してるんだぃ?お嬢ちゃん?」
ねっとりとした、どこかいやらしい声がした。
突然話し掛けられ、リミィはハッとした。首を上げると、何とも荒々しい不格好な姿
をした三人の若者がこちらを見下ろしていた。全員、わざとくさい笑顔をふりま
いている。リミィはなぜか寒気を覚えた。
「一人で何してるんだぃ?お嬢ちゃん?」
三人の真ん中に立つ小太りな男が再度尋ねてきた。その男の左手にはガリガリ
に痩せた男、右手には大柄でムサイ感じの男がいた。
「ええとぉ・・・リミィと一緒に歩いていた人がねぇ・・・迷子になっちゃっ
たのぉ・・・」
リミィは少し警戒しながら、恐る恐る答えた。優しく接してくれているのに、
リミィはなぜかこの男達を好きになれなかった。
「そうかいそうかい・・・じゃあ、お兄ちゃん達が一緒に捜してあげようかぁ?お兄ちゃん達はとっても優しいお兄ちゃんだからねぇ。」
「えぇ・・・い、いいよぉ・・・自分で捜すよぉ・・・」
リミィはベンチからヒョイと飛び降りると、足早に立ち去ろうとした。が、小
太りな男がリミィの小さな腕をグイッと掴み上げた。
「イタイッ!」
「そんなに怖がらなくてもいいだろう?お兄ちゃん達は君の役に立ちたいのさ
ぁ・・・。」
「や・・・やだぁ・・・」
リミィは悪寒がした。腕を掴まれただけで、何とも言えない気持ち悪い感じが
伝わってくる。男の腕を握る力は強く、そして冷たかった。
「やだぁ!放してよぉ!デミテル様ぁー!」
「ほらほら恐がらないで・・・」
「や・・・いや・・・」
「ちょっとスイマセン。その子嫌がってますよ。」
三人組の後ろから、若い女性の声がした。三人が振り向くと、一人の女性が、
こちらを強い目で睨みつけている。
女性は長いブロンドの髪をし、その長髪の先を束ねた髪型をしていた。
ピンク色の服の上に、エプロンを着ている。目は碧眼だった。
「なんだぁ姉ちゃん?邪魔しないでくれるぅ?」
顔の骨格が露骨に浮き出たガリガリな体をした男がガンを飛ばした。女性は全
く動じていない。
「その子、嫌がってるわよ。放しなさい。」
女性はさっきよりも強い口調で凄んだ。ガリガリの男はケラケラ笑いながら、
手を女性の顔に近付けた。
「おうおう怖いねぇ。そんなに言うんだったら、代わりに姉ちゃんが俺達と一
緒に・・・」
ボキッ
鈍い、嫌な音がした。
「ギャアアアアアアアア!!?」
ガリガリ男は自分の右手を抑えながら悲鳴をあげた。他の二人が、ガリガリ男
が抑えている手を覗き込むと・・・
人差し指がありえない方向に曲がっていた。
「指が!?指がぁ!?指が曲がってはいけない方向に曲がってるぅぅぅぅぅ!?」
ガリガリ男は再び悲鳴をあげながら、どこかに走り去っていった。
「テメエ!なにしやがんだこのアマァ!」
ムサイ大柄の男が、女性に殴り掛かった。だが・・・
カンッ♪
心地よい響きの金属音とともに、男は泡を吹いて倒れた。女性の手には、どこ
から取り出したのか、銀のおたまが握られている。
「さて・・・次はあなた・・・?」
小太り男を横目で睨みながら、女性は優しく言った。
小太り男は冷汗をタラリと垂らすと、掴みっぱなしだったリミィの腕をバッと
突き放した。
「あ、あんた・・・そのおたまは一体どこから・・・?」
「女はみんな心におたま持ってるの・・・って、お隣りのマギーおばさんが言ってたわよ♪」
「イヤイヤイヤ!?持ってねぇよ!仮に何か持ってたとしても絶対におたまじ
ゃねぇよ!つーかマギーおばさんって誰だよ!?」
小太り男は思わずツッコんだが、女性のあまりの剣幕にすぐに黙り込んでしま
った。
「・・・で、どうします?」
「・・・ご、ごめんなさいぃぃぃぃ!!」
小太り男は、気絶したムサイ大男を背中に急いで背負うと、フラフラしながら
逃げ去って行った。途中コケそうになり、前につんのめりながら走っていた。
「もう・・・都会ってホントに怖い・・・」
女性はおたまをエプロンのポケットに突っ込みながら呟いた。
「お姉ちゃんありがとぉ!」
リミィが女性の足に飛び付いた。女性はニコリと笑うと、膝を曲げ、リミィと
同じ顔の高さまでしゃがんだ。
「よく泣かなかったわね。偉いっ!」
女性はリミィの頭を優しく撫でた。この街とは違う、どこか優しい匂いがした。
イヤ、それどころか、この世界とは違う匂いだったかもしれない。
「ところで・・・お嬢ちゃんは迷子?」
「お嬢ちゃんじゃないよぉ!リミィだよぉ!」
「あらごめんなさい。じゃあ改めて。リミィちゃんは迷子?」
「違うよぉ。迷子はデミテル様だよぉ。」
「デミテル・・・様?」
女性は首を傾げた。リミィは両手をバタバタさせながら、ここまでの経緯を急
ぐように説明した。
「あのねぇ、さっきまでねぇ、デミテル様とリミィとぉ、あとフトソンの三人
で歩いてたのぉ。でもぉ、いきなりデミテル様達が迷子になっちゃったのぉ!!
」
「え・・・迷子になったのはその・・・デミテル様なの?」
「うん!勝手にどっか行っちゃったのぉ!」
金髪の女性は、リミィがいましがた言ったことをしばし考えた。
突然、女性はプッと吹き出した。
「どうしたのぉ?」
リミィは首を傾げた。
「フフ・・・ごめんね・・・ちょっとその・・・昔ね、私のお兄ちゃんもおん
なじこと言ってたの・・・自分が迷子だったくせに、『リリス~!どこ行ってた
んだぁ~?』とか言って・・・・・・」
「リリスぅ?」
リミィが首を傾げながらその名を繰り返した。
「あっ、ごめんね。リリスは私の名前。リリス=エルロンっていうの。よろし
くね♪」
リリスは笑顔で自己紹介した。
「・・・じゃあ、そのデミテル様を一緒に捜そっか?」
「えっ?いいのぉ?」
「うん。私、この街に来たとき、お財布落としちゃって。それを捜すついでに!ね?」
リリスは右目でウインクした。なぜか彼女の全ての行動が優しく、そしてかわ
いらしくリミィには見えた。
この人なら安心できる。リミィは直感的にそう思った。
「ありがとぉ!リリスお姉ちゃん!」
「フフ・・・じゃあ行きましょっか。」
リリスは立ち上がると、リミィと手を差し延べた。リミィはヒョイと手を伸ば
し、その手を握った。
「ねぇリミィちゃん?」
「なあにぃ?」
「その・・・デミテル様って人とリミィちゃんはどういう関係なの?」
「う~んとぉ・・・」
ここでリミィは少し考え込んだ。
そういえば、リミィとデミテル様の関係ってなんだろう?恋人・・・じゃない
よね?まだ。
お嫁さんでもないし・・・まだ。だからって、デミテル様に雇われ
てるわけでもないし・・・・・・
リミィはかなり考えたあげく、一つの結論に達した。
「デミテル様はぁ・・・リミィのぉ・・・・・・・・・・・・『未来のお婿さぁん』!!」
「えっ!?」
リリスは目をパチクリさせた。
ちょうどその時、さっきの三人組が走り去った方向から一人の人影がヨロヨロ
と現れた。デミテルだ。
「リミィ・・・見つけたぞぉ・・・」
デミテルは疲れ切っていた。街が広い上に、細かい裏道も多かった為、かなり
の時間走り回っていたからだ。おまけに、リミィのむせび泣きがいつ街に響き渡
るのかと戦々恐々としていたため、精神的にも疲れていた。
リミィはヨロヨロと近づいてくるデミテルに、笑顔で対応した。
「デミテル様どこ行ってたのぉ?勝手に迷子になるから心配した・・・」
「勝手に迷子になったのはお前だろうがぁ!!」
デミテルはリミィの頭をバシッと叩いた。リミィはリリスの手を離し、両手で
頭を抑えた。
「イタァイ!痛いよデミテル様ぁ!」
「痛いのはこっちだ!こっちは心が痛いわ!」
「え?なんでぇ?」
「お前がいつむせび泣きするのかと、こっちはハラハラしてしょうがなかった
んだ!胃潰瘍になりそうだったわ!!まったく・・・そこにいるのは誰だ?」
デミテルはリミィの横に立っている、金髪の女性に気が付いた。リリスはデミ
テルの顔をキョトンと見つめていた。
「あなたがデミテルさん?・・・・『未来のお婿さん』の?」
「確かにデミテルは私だが・・・ってちょっと待て?私がなんだって?」
デミテルは少し考えた後、リミィを見下ろした。リミィはなんの悪びれもない
顔でデミテルを見上げていた。
「お前は・・・また思い付きで適当なことを・・・」
「え?ダメぇ?じゃあ・・・デミテル様はぁ・・・リミィのぉ・・・・・・運
命の人ぉ♪」
デミテルは再び無言でリミィの頭をひっぱたいた。リミィはまた頭を抑えた。
「イタァイ!」
「これ以上面倒をかけさせるな!とっとと行くぞ!次はフトソンを捜さねば・
・・」
デミテルはリミィの腕を引っつかみ、立ち去ろうとした。が、リミィは小さな
体を目一杯使って反抗した。
「待ってぇデミテル様ぁ!!」
「なんだ!?早く見つけねば、フトソンが不審者として捕まってしまうだろう
が!?」
デミテルは、足を地面に踏ん張らせているリミィを両手でグイグイ引っ張りな
がら言った。今考えると、あんな容姿の奴を道ばたに置いていくなど、あまり賢
い判断ではなかった。
「とっとと行くぞ!」
「待ってよぉ!その前にリリスお姉ちゃんのお財布探してあげようよぉ!」
「・・・リリスお姉ちゃん?誰だそれは?」
デミテルは力を抜き、リミィの腕をゆっくりと離した。横で二人の引っ張り合
いを眺めていたリリスは、いきなり自分の名前が出たので少し驚いていた。
「・・・・・・え?」
「リリスお姉ちゃんというのは・・・コイツのことか?」
デミテルは、少し驚いた顔をしているリリスの方を見た。
「うん!リリスお姉ちゃんねぇ、お財布落としちゃったんだってぇ!一緒に探
してあげようよぉ!」
「なに?いや、だが、我々には時間が・・・」
「ありがとうございます!一緒に探してくださるんですね!?」
「ええっ!?」
デミテルは驚嘆した。リリスは碧眼の目をデミテルに向けた。目が輝いている。
「ありがとうございます!あの財布、私の全財産が入ってるんです。都会の人
って冷たい人ばかりだと思ってたけど、優しい人もいるんですね!」
イヤイヤイヤ。都会人じゃないから。優しい人でもないから。れっきとした悪
人だから。
デミテルはそう言って全否定したかったが、出来なかった。なぜなら、その女
性が信じられないほど綺麗な目でこちらを見つめているからだ。
「よぉし!頑張ろうねデミテル様ぁ!」
短い腕をブンブン振りながら、リミィが威勢よく言った。デミテルはしばらく
沈黙したあと、ガックリと肩を落とし、弱々しく言った。
「・・・好きにしろ・・・」
「ありがとうございます!未来のお婿さん!」
「イヤ、お婿さんではないから。普通にデミテルでいいから。」
デミテルはリリスに握手を求められながら軽く否定した。
「じゃあ、お願いしますね、デミテルさん♪」
「早く行こう!リリスお姉ちゃん!」
リミィがその小さな手で、リリスの手を引っ張った。彼女は微笑みながら、リ
ミィとともに、デミテルを一人置いて駆けて行った。
噴水が噴き上げる広場に一人残されながら、デミテルの頭には様々な思いが過
ぎっていた。
私は何をしているんだろう?私は復讐の旅をしているんだよな?なのに、なん
で人が落とした財布を探してあげるなんていう、悪人らしからぬことをやっとる
んだろう?どう考えても悪人のすることではない。なんかもう・・・自分の人生
の目的がわからなくなってきた。
デミテルの後ろで、噴水がバシャバシャと音を起てた。
ちょうどその頃。ここはアルヴァニスタ城正面口。ある四人組が門番の兵士に
何やら頼みこんでいた。
交渉にあたっているのは、クラース=F=レスターである。
「アルヴァニスタ王にお目にかかりたいのだが。」
「お前らのような平民が、国王様におめどおりできるわけないだろ。帰った帰った!」
「しかし我々は緊急の用で・・・」
「しつこいぞオッサン!」
「なにぃ!?誰がオッサンだこの若造!下っ端兵士がぁ!」
「なんだとぉ!?お前なんてただのオッサンじゃん!?ただの平民のオッサン
じゃん!?人生の負け組じゃん!?」
「何勝手に人の人生負け組だと決め込んどるんだぁ!?私の人生はまだ負けて
もいなけりゃ勝ってもいないんだよ!これからが勝負なんだよ!土俵際なんだよ
!これからいくらでも巻き返せるんだよ!!」
「ク、クラースさん落ち着いてください!っていうか自分で自分の人生が土俵
際だってこと認めないでください!」
肩に手をかけてきたクレスを、クラースは振り払った。
「少し黙っていろクレス!私の人生をこんな若造に査定されてたまるか!!」
「アンタの人生が負け組かどうかなんて一発で査定できるね!顔だよ顔!顔から
人生の敗北感が滲み出てるもんね!その顔とか腕とかのの変な刺青はアレだろ?一回自分
の人生を見失って、勢いでやっちゃったとかそんなんだろ?」
「なんだと若造!?お前のような下っ端兵士に容姿について言われたくないわ!
お前ら兵士なんてアレじゃん!みんなおんなじ顔じゃん!グラフィックの使い回
しじゃん!!」
「テメエエエエエっ!!?それは言わないお約束・・・」
カンッ♪
心地良い金属音と共に、クラースはバタリと倒れた。その後ろには、一本の杖
を構えた一人の法術師が、気絶したクラースを見下ろしていた。
「・・・とりあえずどうしましょう?」
「とりあえず、宿に向かおうかミント・・・」
「まったく・・・迷惑なオッサンね・・・」
クレスに引きづられているクラースを見下ろしながら、アーチェはボソリと呟
いた。
同じくちょうどその頃。ここは薬屋兼バーの「ライム」の前。そこで一人の着ぐるみ
を着た男が、二人の兵士に見事に職務質問を受けていた。
「君?道の真ん中で一人こんな格好してたら、普通怪しまれると思わない?
何がしたくて着ぐるみなんて・・・」
「ぼ、僕は・・・」
「・・・?僕は・・・?」
「僕は・・・・・・・・・着ぐるみを着たただの変なオッサンです!」
「・・・よし。よく言った。じゃあちょっと調書とるから、一回城の方行こう
か?」
「えぇっ!?ちょっ、まっ、・・・」
「さあレッツゴー。」
「デミテルさぁーん!!助けてなんだなぁー!!」
つづく
あとがき
ある時、ふと思い立ち、インターネットの検索で「デミテルは今日もダメだった」と検索してみました。
ちゃんとこの小説が出ました。なぜだか嬉しくなる。
続いて、「フトソン」で検索しました。
全く出ませんでした。これでもか!ってくらいに何も出ませんでしたね。当たり前ですね。
そして、「リミィ」で検索しました。いっぱい出ました。結構メジャーな名前ですから。
最後に、自分の名前(本名)で検索しました。まぁ、色々出てきたのですが、特に・・・
同姓同名で、合気道の師匠をやっているというおっさんがいっぱい出てきましたね。ほとんどの検索結果がそのおっさんのことでしたね。検索結果の画面がそのおっさんについての話で埋め着くされましたよ。
試しに画像検索で自分の名前を検索したら、そのおっさんがかっこ良く技を決めている画像が一枚だけ出ました。一枚だけです。ええそうです。一枚だけ。
・・・今日もそのおっさんはどこかで戦っている・・・
戦ってはいないか。
次回 第十復讐教訓
「糖分を取ると集中力が増すと聞いたので 小粒チョコレートを食べながら勉強を始めたら 食べる方に集中してしまうからやっぱダメでした」