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デミテルは今日もダメだった【10】

第十復讐教訓「糖分を取ると集中力が増すと聞いたので 小粒チョコレートを食べながら勉強を始めたら 食べる方に集中してしまうからやっぱダメでした」

「『北』という字は、昔から『死』という字を暗示していると言われておる。
覚えておくことじゃ。」
「・・・イヤ、そんなことではなくて、財布を見なかったかと聞いているのだ
が・・・」
「『北』という字は昔から・・・」
「だ・か・ら!財布見なかったかと聞いておるんだ!財布を!」
「はぁ!?あんだってぇ!?」
「サ・イ・フ・を・見・ま・せ・ん・で・し・た・かぁ!?」
「ああ。なんじゃそれか。わしも昔はよくそれを頭に乗っけて踊り狂ったもん
じゃ~・・・」
「・・・もういい・・・。」


アルヴァニスタ城下町。このうんと広大な町を、ある三人組が自分の足元をキ
ョロキョロと見回しながら歩いていた。それと言うのも、その三人組の一人であ
る、長い、ブロンドの髪をした少女の落とし物を探すためである。

しかし、落とした本人は、いつ、どこで落としたのか全く覚えておらず、とに
かく手当たり次第に探す他なかった。一応、人に尋ねたり等もしたが、結局、な
しのつぶてだった。


「まったく・・・役に立たんジジイだ・・・」

デミテルが通りすがりの老人に話を聞いている間、リミィ、そしてリリスは距
離を置いて待っていた。彼女達の元にトボトボ戻りながら、デミテルは再び呟い
た。

「ホンッッッッッットに役に立たんクソジジ・・・」
「ダメだよぉ、デミテル様ぁ。お年寄りは大切にしないとダメだって、フトソ
ンが言ってたよぉ。」

デミテルの足に寄り添いながら、リミィが諭すように言った。デミテルは歯が
ゆかった。

「ねえリミィちゃん、やっぱり私、一人で・・・」
「大丈夫だよリリスお姉ちゃん!絶対リミィ達が見つけ出してあげるからぁ!」

リリスの言葉を遮り、リミィが元気よく言った。そしてそのまま、ズンズンと
元気に歩いていってしまった。デミテルは額に手をやり、ハアーっと溜め息をつ
いた。

「まったく・・・付き合わされるこちらの身にもなってくれ・・・。」
「未来のお婿さんは大変ですね!」
「ああまったく・・・って違う違う!んなわけがないだろうが!」
「いいんですよ強がらなくて。世の中にはいろんな趣味の人がいますから。」
「・・・それは、私がいわゆる『ロリコン』だと言いたいのか?アンタ・・・?」
「さあ行きましょうか?」

リリスはデミテルの言葉を無視し、リミィの後をスタスタとついて行ってしま
った。少し顔が笑っているように見えた。どうやら本当に『ロリコン』だと思わ
れているらしい。

「(くそ!なんであんな小娘に笑われなければならんのだ!?こんな目に会う
のも、みんなあのむせび泣きモンスターのせいだ!イヤ、それ以前に・・・)」

デミテルはふとあることに気がつき、周りを見回した。


そうだ。そもそもの発端はあの、私の屋敷にズカズカ入って来た、クレス=ア
ルベイン達だ。あいつらさえいなければ私はこんな所にはいない。なのに・・・


そう。その全ての元凶であるクレス達が見当たらないのである。財布探しのた
めに街の至る所を歩いているが、未だに見かけなかった。


奴らに復讐できなければ、私がはるばるこんな所まで来た意味がないではない
か!?もう宿に泊まっているのか?それとも、もうこの街にはいないのか?・・
・そもそも、奴らの目的は一体・・・


その時、デミテルの脳裏にある言葉が甦った。

『お前、ダオスの手下だな!!』


確か、クレス=アルベインがそんなことを叫んでいた気がする。まさかあいつ
ら・・・ダオス様を倒そうなんて頭の悪い考えを・・・。


「デミテル様ぁ~!早くぅ~!」

前方から、リミィが催促する呼び声がした。デミテルはまたしても溜め息をつ
きながら、スタスタとリミィの方へ歩いて行った。白い壁で均一された街並みが
、妙に疲労感を煽った。


デミテルは気付かなかった。彼が歩み出したちょうどその時、自分の真後ろか
らとある四人組が歩いて来ているのを。

「・・・何も殴ることはないだろうミント・・・それにさっきまでクレスが私
を引きずって運んでたから、服の至る所が擦れている・・・」

後頭部を帽子越しにさすりながら、クラースがブツブツ文句を垂れた。

「だってクラースさん、止まる気配がなかったものですから・・・」
「だからって、杖で『カンッ♪』はないだろ!?」
「はいはい。過ぎたことをいつまでもうだうだ言ってないの!」

アーチェがビシッと言った。クラースは不服そうに「フンッ」と鼻を鳴らした。

「それに擦れた服だって悪くないわよ。えっと、何だっけホラ・・・・・・『ちょいワルオヤジ』みたいで!」

アーチェはフォローのつもりで明るく言った。

「何が『ちょいワルオヤジ』だ!まず第一に私はオヤジではない!」
「やめましょうよクラースさん。服はまたいずれ機会があるときに直しましょ
う。さてと・・・ミント、宿屋はどこだっけ?」

クレスは辺りをキョロキョロしながらミントに尋ねた。

「さあ・・・?どこでしょうか・・・?」
「あっ!ねえねえ!そこの前を歩いてる人に聞いてみようよ!」

アーチェが指差した先には、セカセカとリミィ達の元に急ぐデミテルの姿があ
った。

「なんか・・・どっかで見たような後ろ姿だな・・・」

顎に手を当てながらクレスが呟いた。

「あっ♪きっとそれアレよ!えっと・・・ほら・・・・・・・・・そう!『ひ
でぶ』!」
「違うぞアーチェ。それを言うなら『デジャヴ』だ。」

クラースは冷静に指摘した。アーチェは頬を膨らませた。

「もう!いちいち細かいなぁ!『ひでぶ』でも『デジャヴ』でもどっちでもい
いじゃん!それじゃアタシ聞いてくるね!」

アーチェは少しずつデミテルに近寄って行った。歩くスピードを少しずつ上げ
ながらデミテルに背後から近寄っていく。

「(後ろ姿を見る限り・・・・・・なかなかのイケメンね♪)」

アーチェの目がキラリと光った。後ろ姿だけで判断出来るとは、さすがである。デミテルまであと五メートル。

「(フフフフフフフフゥ♪)」

謎の微笑を浮かべながら、アーチェはさらに近づく。残り一メートル。そして
・・・

「あの、すいませ・・・」
 「待ってくださぁい!ありましたよ宿屋ぁ!」

デミテルの肩に手が触れる寸前、後ろからミントが叫んだ。アーチェが振り返
ると、自分の真横に『INN』と書かれた建物があることに気付いた。

「いっけないいっけない♪危うく宿屋のまん前で『宿屋はどこですか?』って
聞くとこだった♪」

クレス達の元に戻りながら、アーチェは舌をペロっと出しながら言った。

「・・・でも、もう少しで逆ナン・・・」
「え?アーチェ今何だって?」
「え!?な、なんでもないわよクレス!さあ、宿屋にレッツゴー♪」

握りこぶしを突き上げながら、クレスの言葉を掻き消すようにアーチェが威勢
よく言った。

そうしている間に、デミテルは道の角を曲がり、英雄達の視界から完全に消え
た。

その後、デミテル達は様々な所を探索、及び聞き込みをしていった。


「スイマセン。尋ねたいことがあるのですが?」

とある民家を、デミテルはコンコンとノックした。
「あの~、誰かいませ・・・」
「よっしゃあああああああ!!ついに四十ヒットォォォォォォォォォォォォ!!!」

突如、家の中から雄叫びが聞こえてきた。デミテル達は目をパチクリさせた。

「・・・何が四十ヒットなんだろ?」

リリスは首を傾げながら呟いた。


デミテル達はまた別の家に向かった。

「すまないが、財布を見なかったか?」

道具屋と繋がった作りをした家に住む老婆にデミテルは尋ねた。

「・・・財布?さあ?知らないねぇ?」
「そうか・・・。」
「ねえねえデミテル様ぁ!この中にないかなぁ?」

家の居間の方で話を聞いていたデミテルに、台所の方からリミィが呼んだ。

デミテルが台所に向かうと、リミィとリリスがかまどの前に立っていた。

「・・・まさかそのかまどの中にあるとでも言うのか?」
「あるかも知れないよぉ!かまどの中を覗いてみようよぉ!」

リミィは背伸びをしてかまどの中を覗こうとしたが、身長的に無理な相談だっ
た。

「やれやれ・・・どれどれ・・・?」

デミテルはかまどに近付き、かまどを上からヒョイと覗き込んだ。


・・・ボオンッ!


突如、かまどの中から爆発と共に火の手が上がり、デミテルの顔を炎が包み込
んだ。

火がおさまると、そこには真っ黒な顔になったデミテルが突っ立っていた
。少しばかりの沈黙の後、デミテルは一言呟いた。

「・・・なんで?」

「フェッフェッフェッ。少し前に来た、赤いバンダナつけた剣士のお兄ちゃん
とおんなじこと言っとる♪」

キッチンの入り口に首を突っ込みながら、老婆が楽しげに言った。リミィとリ
リスはひたすら笑っていた。

「・・・ところで、どんな財布を落としたんだ?」

デミテル達は、とあるカフェテラスで休憩をとっていた。歩道や庭など、戸外
に張り出してテーブルを並べる喫茶店のことだ。白い丸テーブルと、同じく白い
丸イスが店の外の道にいくつも置かれていた。

「えっ?」
「いや、だから、アンタが落とした財布に特徴かなにかないのか?」

デミテル達は一番道側に近い丸テーブルを囲んで座っていた。リリスは紅茶、
リミィはミルクを飲み、デミテルは・・・・・・チョコレートパフェをつまんで
いた。

「そうですね・・・どこにでもあるような茶色い革製のやつです。折り畳み式
の・・・」
「それだと、仮に誰かが見つけてくれても、『私のです』とは言い切れんな。
何か金の他に入ってないのか?」

デミテルはスプーンをプラプラさせながら尋ねた。口元にちょっぴりチョコク
リームがついている。

「そうですねぇ・・・・・・あっ!写真が挟んであります!」
「写真・・・?家族写真か何かか?」
「はい!正確に言うと兄の写真なんですけど・・・」
「兄・・・?なんで家族全員の写真ではなく兄限定の・・・」

その時、リリスの目がキラリと光った。デミテルは嫌な予感がした。

「実はその写真・・・兄の寝顔の写真なんですぅ~♪うちの兄すっごく寝起き
が悪いんですけどぉ、ある日いつものようにたたき起こそうとしたら、その時の
寝顔がすっごく可愛いことに気付いて、もう・・・♪」
「・・・・・・・・・。」

いきなりハイテンションになったリリスを、デミテルは何とも言えない硬直し
た表情で見つめていた。リミィは、テーブルの上をチョコチョコ歩くテントウ虫
に注目していた。

リリスは話の随所随所で大掛かりなジェスチャーを交えながら話を続けた。

「もうホント可愛くて・・・でも起こさないわけにもいかないでしょ?しばら
く眺めてたんですけどぉ、やっぱり起こすことにしたんです♪でもなんかもった
いないから・・・その場でその寝顔を撮ったんですぅ~♪撮る時にカメラの音が
したんですけどぉ、お兄ちゃんったら『むにゃむにゃ・・・リリス~?晩飯まだ
ぁ~?』とか言い出して、それがまた可愛くて可愛くてぇ・・・♪」

 リリスは全身でその時の喜びを伝えていた。どういう動きかと言われると非常
に説明が難しい。とにかくひとつひとつの動きをバッバッとやっていた。

「そ、そうか・・・わかった、もうい・・・」
「それで起こした後もまた・・・『ふわぁ~。リリスおはよう・・・』って・
・・もう!目をこすりながら言ってくるあの時のお兄ちゃんの表情ときたら・・
・もう・・・♪」

リリスはところどころ敬語でなくなっていた。しかも途中から『兄』から『お
兄ちゃん』という表現になっている。

「それでそのあとの朝食の席でも・・・」
「ええい!もうわかったから!それ以上話さんで・・・」
「あ~~~~~~~~っ!?」

突如、リミィがあげた絶叫に二人は度肝を貫かれた。デミテルはスプーンを下
に落としてしまった。

「な、なんだいきなり!?」
「リリスお姉ちゃん!あれぇ!」

リミィは、自分達がいる道沿いとは反対の道沿いを指差した。デミテル達が指
された方を見ると、道の上に、茶色いく、薄い、四角い形をした物体が落ちてい
た。

「まさか・・・」
「あっ!私のお財布!」
「うわぁい!リミィが見つけたんだよぉ!」

リミィはミルクが入ったマグカップを振り回しながらはしゃいだ。

「中身こぼれるぞ・・・まったく、案外あっさり見つかったな・・・」

デミテルはゆっくりと席を立ち、財布を取りに向かおうとした。その時・・・


   ビュンッ!!


何かが、疾風の如く走り去る音がした。デミテルが気がつくと、財布は跡形も
なく消えていた。

「・・・え?」
「あ~!『ババネコ』だぁ!」

リミィが叫んだ。デミテルは風が走り去った方を急いで見た。

一人の少年が、ものすごいスピードで走っている。その手には先程の財布が握
られている。

「私のお財布が!?デミテルさん!追いかけましょう!」

リリスはデミテルの手を引っつかみ、少年が走り去った方向をキッと見据えた

「えっ!?ちょっ!?待て!まだ・・・・・・・・・・・・まだチョコレート
パフェがああああああああああああっ!!?」

デミテルの悲痛の叫ぶもむなしく、リリスは彼をズリズリと引きずっていった
。後ろからリミィがとっとこついていった。

その同時刻。アルヴァニスタ城取調室。石造りの薄暗い小部屋の中で、四角い
事務用の机を挟んで、屈強そうな兵士と、白い着ぐるみを着た生き物が向かい合
って座っている。鉄板でできた扉の出入り口の両際には、二人の槍を携えた兵士が、
背筋をビッと伸ばして立っていた。

「さあ、とっとと吐け!一体着ぐるみなんか着て何しようとしてたんだ!?誘
拐か!空き巣か!?痴漢かぁ!?」
「だから僕はなんにも悪いことたくらんでないんだな!僕は怪しい奴じゃない
んだなぁ!!」
「嘘をつくなぁ!さっき自分で、『僕はただの着ぐるみを着た変なオッサンで
す!』って言ったんだろうが!」
「世の中には、『許される変なオッサン』と『許されない変なオッサン』がい
るんだな!僕は前者なんだな!・・・っていうか僕はオッサンじゃないんだな!
まだ十八・・・」
「だったらその着ぐるみを脱いでみろ!!そうすりゃ一発だ!」
「そ、それは見ない方が身の為なんだな・・・」
「・・・おいお前ら。コイツを牢にぶち込め。」
「えええっ!?」

フトソンは二人の兵士に槍でつつかれながら牢屋に連行された。

「ぼ、僕はなんにも悪いことしようとしてないんだな!冤罪事件!冤罪事件な
んだな!・・・・・・・・・それでも僕はやってないんだなぁー!!」
「そりゃまあ、まだなんにもやっちゃないだろうよ。未遂なんだから。」

フトソンを槍でつつきながら兵士は冷たく言い放った。

「サイフ?あぁ。これのこと?」

町の一番東側の小さい広場に、先程の少年はいた。広場には四本程の木が均等
な距離で植えられていて、整備がいきどといていることを強調していた。

「そうそれ!返してくれない?」

リリスは手を差し延べた。ところが、少年はニヤリと笑い、ズボンのポケット
に財布を押し込んでしまった。

「これは僕が拾ったんだ!だから僕のだ!」
「ダメだよぉ!それはリリスお姉ちゃんのだよぉ!『ババネコ』しちゃダメだ
よぉ!」
「リミィ・・・『ババネコ』ではなく『ネコババ』だ・・・まったく、引きず
られたせいで服の至る所が擦れてしまった・・・」

こすれて白くなってしまったマントを、パッパッと払いながらデミテルは言っ
た。

「そんなに返して欲しいなら・・・・・・・・・・・・僕と勝負するかい?」

 少年は意地悪く笑った。

 「勝負・・・だと?」

 デミテルは眉をひそめた。

「おやおや君達?マッハ少年に挑戦するのかい?」

デミテル達のやり取りを眺めていた一人の男が、会話に入ってきた。なんとも
人生の暇を持て余して生きてそうな男だった。

「まっはしょうねぇん?」

リミィは首を傾げた。

「そう!彼こそアルヴァニスタ随一の足を誇る少年、『マッハ少年』さ!今ま
で彼に勝ったのは、ちょっと前に来た赤いバンダナをつけた剣士だけだよ!」

マッハ少年の顔が曇った。どうやらその剣士に負けたことは、忘れたい思い出
らしい。

「かけっこか・・・お願いしますねデミテルさん♪」
「フム・・・って!?私がやるのか!?」

いきなり言われてデミテルはビックリした。リリスはニコリとしながらデミテ
ルを見つめた。

 「ごめんなさい。私、走るのはちょっと・・・」
 「イヤ、だが、こういうのは盗られた本人が・・・」
 「頑張ってねぇ♪デミテル様ぁ♪」

デミテルを見上げながらリミィが元気よく言った。その場にいる全員の目線が
デミテルに集まっていた。

 デミテルはガックリと肩を落とした。

十分後。一人のハーフエルフが、スタートラインの白線に立った。

「それではコースは覚えましたね。じゃあ位置に着いて・・・」

頭にスカーフを被った女性が、手をあげ、スタートの合図をとろうとした。だ
が、デミテルは途中でそれを遮った。

「ちょっと待て・・・悪いが街を回る回数は一周だけにしてくれないか?・・
・正直三周はキツイ・・・。」
「カッコワル・・・」

デミテルの横に並んでいるマッハ少年がボソリと呟いた。デミテルはギクリと
した。

「デミテル様頑張ってねぇ~!」

デミテルの後ろから、緊張感のない応援が聞こえてきた。デミテルは余計に気
疲れした。

「それでは位置に着いて・・・」

スカーフを被った女性が再び手をあげた。デミテルは身構えた。

「よ~い・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・スカーフぅ!!」

デミテルは顔面から勢いよくズッコケた。

「おいっ!!それを言うならスタートだろうが!?なんだそのギャグは!?こ
こまで見事にズッコケたのは生まれて初めてだ!!」

デミテルは、ぶつけて赤くなった鼻を抑えながら女性に激しくツッコんだ。女
性は満足そうにニッコリとしていた。

デミテルは再びスタートラインに立った。自然と広場を緊張感が覆った。みん
な静まり返っている。デミテルはゴクリと生唾を呑んだ。

「位置に着いて・・・ヨーイ・・・・・・・・・・・・スタートォ!」

ガッと地面を蹴る音がした。砂埃を舞き散らしながらデミテルとマッハ少年は
最初の長い階段を疾風の如く駆け降りる・・・が、デミテルは一人、段差につま
づいてしまった。

「えっ!?わっ!?・・・ぐああああああ!!」

デミテルは長く、急な階段をゴロゴロと転がり落ちていった。やがて、階段の
一番下に、またしても顔面からつっこんだ。

「へへん!バーカァ!」

横たわったデミテルを飛び越し、マッハ少年は振り向き様に罵った。数秒の間
に、二人の距離は一気に差がついてしまった。

だか、この時、デミテルの中で何かが吹っ切れた。


・・・あのクソガキィ・・・!


デミテルは鬼神の如く立ち上がると、常人離れしたスピードで駆け出した。そ
の速さといったら、ものの数秒でマッハ少年に追い付く程だった。

「・・・なっ!?」

マッハ少年はさっきまでかなり後ろにいたはずの人間が真横にいることに驚嘆
した。デミテルは得意げに笑った。

「ふはははは!ナメてもらっては困るぞ!これでもガキの頃は食い逃げの常習
犯だったのだ!」

マッハ少年と並んで走りながら、デミテルは自慢げに言った。

「食い逃げだって!?大人のくせにそんなこと自慢すんな!」
「やかましい!お前のような裕福なガキとは修羅場の場数が違うんだ!場数が
ぁ!」
「僕の家は裕福なんかじゃないやい!どっちかっていうと中流家庭だい!ほぼ
毎日冷凍食品だい!一週間に一回はレトルトカレーだい!」
「私から見ればそれで十分だ!私なんてほぼ毎日路上の生ゴミだったわ!食べ
残しの揚げ物のカスだったわ!!」

「なんか・・・すごい言い争いしながら走ってる・・・」

スタート地点の広場から双眼鏡を覗いて二人のレースを観察していた、人生の
暇を持て余して生きてそうな男はボソリと呟いた。さっきの急な階段を駆け降り
たことからわかるように、この広場は平地より少し高めに作られていたため、街
全体を見渡すことができた。

「あんなしゃべりながら走ってたら、すぐ息切れするぞ・・・」


やがてデミテル達は、宿屋の前を走り去ろうとしていた。未だ言い争いをしな
がら。

「いい加減しゃべりかけんのやめてよ!走ることに集中したいんだよ!」
「何を偉そうに!最初にケンカを吹っ掛けてきたのはお前だぞクソガキ!」
「うるさい!変な髪の色しやがって!」
「なんだとぉ!?」

二人は互いに顔を見合わせながら全力速で駆けていた。そのため、一人の白衣
を着た女性が宿屋から現れ、目の前に迫って来ていることに気がつかなかった。

「さて、アイテムはどこに売って・・・キャア!?」

二人は見事に女性に・・・イヤ、ミント=アドネードに衝突した。

三人はドンと尻餅をついた。

「痛たた・・・ス、スマナイ・・・」
「ヘヘヘ!バーカ!」

デミテルが顔を上げると、マッハ少年はすでに立ち上がり、走り始めていた。

デミテルはぶつかった女性の顔をろくに見ずに、立ち上がった。

「貴様ぁ!人とぶつかったらきちんと謝れぇ!スマナイが、急いでいるのでこ
れで失礼する!」

ミントが気がついた時には、二人は跡形もなく消えていた。

「・・・?今・・・どこかで見た人がいたような・・・・・・あっ♪これがい
わゆる『ひでぶ』!」

ミントは一人で納得すると、買い物に向かって行った。


「おっ・・・折り返したな・・・」

人生の暇を持て余して生きてそうな男は、双眼鏡で二人の様子を眺めていた。

「ねえねえ、どっちが勝ってるのぉ?」

人生の暇を持て余して生きてそうな男の、服の裾をグイグイ引っ張りながら、
リミィが尋ねた。

「ん?えっとね、今のところマッハ少年が先を走ってるね。このまま逃げ切ら
れて終わりかな?」
「リミィにもそれ見せてぇ!」
「ええっ!?ダ、ダメだよ!このレースを眺めている瞬間が、僕の人生の唯一
の生き甲斐なんだから!」
「・・・淋しい生き甲斐ですね。」
「・・・・・・・・!」

リリスが静かに言った一言が、人生の暇を持て余して生きてそうな男のハート
にズブリと突き刺さった。

「・・・ああそうさ・・・その通りだよ・・・だいの大人が昼間っから仕事も
せずになにやってんだか・・・ただひたすらレースを眺めては一人興奮している
・・・淋しい大人さ・・・」

ゴール地点は一気に重い空気に包まれた。


その頃、レースは終盤に差し掛かっていた。マッハ少年のスピードは全くと言
っていいほど落ちていなかったが、デミテルのスピードは確実に落ちていた。

元々デミテルは運動自体得意ではない。ランブレイに出会う前はよく食い逃げ
して各地を走り回ったものだが、それはもう昔の話だ。二人の距離は目に分かる
ほどにどんどん広まった。

「(く、くそ!ここまで露骨に体力が落ちていたとは・・・まあ、一年間ずっ
と島にこもりっきりだったからなぁ・・・)」

デミテルのランニングフォームは確実に崩れていった。

「へん!後先考えずに飛ばすからさ!」

マッハ少年は振り向き様にデミテルを馬鹿にした。デミテルは今までにないくら
いに悔しかった。

「(くそ!あんなガキに・・・・・・ん?)」

デミテルは気付いた。今自分が走っている道には見覚えがある。

そこは、先程デミテル達が休憩していたカフェテラスがある道だった。しばら
く走ると、そのカフェテラスが目に入った。

もう客はほとんどおらず、ウェイターがあちこちの白い丸テーブルに置かれた
ままのコップやらなんやらをまとめて片付けていた。そして、デミテル達が座っ
ていたテーブルにはまだグラスが残っていた・・・食べかけのチョコレートパ
フェが入ったグラスが。

カフェテラスを走り過ぎた時に、デミテルは瞬間的にテーブルのグラスをかす
めとった。

「ん・・・?ちょっ、ちょっとあんた!なに勝手に店の物を!!」

どろどろに溶けたチョコレートパフェ片手に走り去って行くデミテルに向かっ
て、ウェイターが叫んだ。デミテルは振り向き様に同じように叫んだ。

「グラスはあとで返しにくる!お代もきちんと払う!というかさっき払い忘れ
てたんだ!」

それだけ言うとデミテルは視界を前に戻し、どろどろに溶けて液体状になって
しまったパフェを一気に飲み干した。

「フフフ・・・ハハハハハハハハハァ!!」

なぜかデミテルのスピードが驚異的な勢いで上昇した。その速さと言ったら、
レースが始まった時のスピード・・・イヤ、その時をも遥かに凌駕するスピード
だ。

すっかり余裕しゃくしゃくだったマッハ少年は、いきなり自分の真横に現れた
挑戦者に驚愕した。その手には、カラになったグラスが握られている。

「なっ!?バカな!?お前化け物か!?」
「よ~く覚えておくがいい!ハーフエルフは糖分を摂取することによって、通
常の三倍の身体能力を引き出すことができるのだ!!」
「ええぇえっ!!?マジでぇ!?」

無論、大嘘である。デミテルはいましがた考えついた大嘘をなんとも偉そうに
言い切った。こういう反応をされるのが、デミテルは一番楽しい。

だが、デミテルの集中力が驚異的に上がったのは紛れも無い事実であった。欲
求を満たしたことにより、彼の身体能力は一時的に研ぎ澄まされたのだ。

やがてデミテルはマッハ少年をついに追い抜いた。

「そ、そんな・・・!ハーフエルフは化け物か!?」
「フン!アルヴァニスタのマッハ少年のスピードとやらは、この程度かぁ!?」

デミテルは得意げに言い放った。

ついに最後の山場、スタート時ににデミテルが見事に転げ落ちた階段が見え始
めた。デミテルは息を切らしながら階段を駆け登った。ここを登り切れば、あと
はスタートの時にまたいだ白線を越えるだけだ。デミテルは階段を駆け登りなが
ら有頂天だった。

「残念だったな小僧!私の勝ちだ!」

デミテルとマッハ少年との距離は十分離れていた。よほどのことがないかぎり
、抜かれることはまずないだろう。

デミテルはついに最後の段を登り切った。視界にゴールラインと、リミィ、リ
リス、スカーフ女、そして人生の暇を持て余して生きてそうな男とその他ギャラ
リーが目に入った。みな、階段を駆け登って来た、カラのグラスを持ったハーフ
エルフに視線を向けている。

あとはあの白線を越えれば・・・!

デミテルはバッと一歩踏み出した。

 が、その時・・・

デミテルの足首に、なんの音もなく、じわじわとした痛みが来襲した。足首を
つったのだ。デミテルは悶絶した。

「~~~~~~!?」

あのなんとも言えない、ジンジンとくる苦しみがデミテルを襲った。彼はまた
しても鼻から地面へ激突した。転倒したのだ。

「残念だったね!最後に笑うのはこの僕、マッハ少年さ!」

デミテルの頭上を飛び越えながら、マッハ少年はさっきのデミテルのように得
意げに言い放った。

「それではお先に・・・」
「させるかぁっ!!」
「!?」

デミテルは倒れたまま、ゴールに駆け出そうとしたマッハ少年の両足首を引っ
つかみ、思いっ切り手前に引き抜いた。今度はマッハ少年が鼻から地面へ激突す
る番だった。

「ぶふっ!?お、大人のくせに汚いぞ!」
 「やかましい!大人はみんな汚いんだよ!汚れてるんだよ!泥にまみれて生き
てるんだよ!」

デミテルは、眼前にあるマッハ少年の足の裏に向かって叫んだ。

デミテルは足を離すと、ほふく前進でマッハ少年の横を抜けようとした。もは
やデミテルに、立ち上がる気力は無い。

「くそ・・・汚い大人になんか負けるかぁ・・・!」

マッハ少年も負けじと、ヨタヨタとほふく前進でゴールに急いだ。

数秒間、異様な光景が流れた。小さい広場の片隅で、一人の子供とだいの大人
が、ほふく前進で競い合っている。リリス達や、ギャラリー達はただただその姿
を見下ろしていた・・・一人を除いて。

「がんばれぇ、デミテル様ぁ!」

この静まり返った広場で一人の少女の応援の声だけが響いていた。

白線まで、あとニメートル。二人は追い抜き追い越しを繰り返しながら、ゴー
ルにノロノロとはいつくばりながら急いだ。

白線まで、あと五十センチ。デミテルは手を伸ばした。マッハ少年も負けじと
伸ばす。だが・・・

腕の長さは、デミテルのほうが圧倒的に長かった。

「レース終了!勝者は・・・挑戦者!デミテル!」

本来、ここで歓声があがるものだ。だが、このなんとも迫力に欠けるフィニッ
シュに、テンションをあげる者などいるはずがなかった。一人を除いて。

「わぁい♪デミテル様が勝ったぁ♪」

リミィはデミテルの周りをピョンピョン跳ねた。リリスはデミテルを慌てて助
け起こしていた。

「だ、大丈夫ですか!?・・・そのグラスは一体・・・?」

リリスはデミテルの右手に握られているグラスを見つめた。

「え?い、いや・・・気にしないでくれ・・・」
「やい!僕は認めないぞ!」

威勢のいい声がした。デミテルが見下ろすと、マッハ少年が先程地面にぶつけ
て赤くなった鼻をこちらに向けて睨んでいた。

「あんた足引っ張ったよね!?僕の足引っ張ったよね!?そんなの卑怯だよ!
ホントなら僕が勝ってたんだ!」
「男なら終わった勝負にうだうだ言うんじゃない!それでもお前は男か!」
「あんたに言われても全然説得力がないんだよ!卑怯な大人め!もう絶対サイ
フ返してやら・・・」


がんっ!


 突然、鈍い嫌な音が広場に響いた。マッハ少年は頭を抑えてしゃがみ込んだ。
その後ろには、一人の恐ろしい顔をした、エプロンを羽織ったおばさんが仁王立
ちしていた。

「このバカチン!人様の財布盗るなんてどういう神経してんの!このアホ息子
!」

おばさんはマッハ少年を見下ろしながら怒鳴った。デミテル達はあまりの剣幕
に、とても口だしできる勇気はなく、ただただその親子ゲンカを眺めていた。

「いってぇなぁ!なにすんだよ母ちゃん!」
「何すんだはこっちのセリフ!毎日毎日バカみたいに走り続けて・・・言っと
くけどねぇ、この世界には世界陸上なんてないのよ!オリンピックだってないの
よ!ただ足が早いだけで人生やっていけると思ってんの!?・・・しかも、それ
だけに飽きたらず、財布を盗むなんて・・・そんなことやってるヒマあるなら勉
強しなさい!」
「そんなことだって!?僕にとって走ることは人生そのもの・・・いででで!

マッハ少年は母親に片耳をつまみあげられ、黙らせられた。

「減らず口叩いてんじゃないよ!とっとと財布をあの人達に返しな!」
「痛い痛い!わかった!わかったよ!・・・ほら!」

マッハ少年は耳を掴まれたまま、リリスに向かって財布をヒョイと投げた。リ
リスは両手で挟むようにキャッチした。

「・・・あっ♪お兄ちゃんの写真だぁ♪」

中身を確かめながら、リリスが嬉しそうに呟いた。本当に幸せに満ちた表情だ
った。

「ほら!とっとと行くよ!」
「痛た!痛いって!引っ張らないでよ母ちゃん!」

マッハ少年は母親に耳を引っ張られながら、住宅街に消えていった。デミテル
はただ、そのあわれな後ろ姿眺めていた。その横でリミィが元気に手を振ってマ
ッハ少年を見送り、リリスは写真に見とれるように見つめていた。

「・・・さて。用は済んだことだし我々はこれで・・・」
「まてまてまて。まだ終わってないよ。」
「まだなにかあるのか?人生の暇を持て余して生きてそうな男?」
「・・・・・・!ストレートにモノを言うね・・・」

人生の暇を持て余して生きてそうな男は、改まって咳を切った。

「では!どういう形であれ、君はマッハ少年に勝ったのだから、君に『マッハ
青年』の称号を・・・ん?いやまて。『青年』じゃないか?だからって『マッハ
中年』と言うほどの歳じゃないみたいだし・・・」

人生の暇を持て余して生きてそうな男は頭を抱えた。

「別に称号など・・・」
「何を言ってるんだい!?僕はこの瞬間が堪らなく楽しいんだよ!人生の醍醐
味なんだよ!!」

男は本気で怒った。どうやらこの男にとって、人生の価値を見いだせるのはこ
の瞬間だけらしい。彼にとってアルヴァニスタ・レースは人生そのものなのだ。

「わ、わかった・・・じゃあ、とっとと決めてくれ。」
「わかればよろしい。では・・・・・・ん?君はもしかしてエルフかい?」

男はデミテルの耳を見つめた。デミテルは首を横に振った。

「イヤ。ハーフエルフだ。」
「そうか。ハーフエルフか・・・・・・・・・・・・よし!じゃあこんなのは
どうだい?『マッハ』と『ハーフエルフ』を足して・・・・・・・・・・・・・
『マッハーフエルフ』!!」

一瞬の沈黙が起こった。リリスはもちろんだが、リミィでさえあることを思っ
た。


それはダメだろ・・・・・・


やがて、デミテルがボソリと言った。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・カッコイイなソレ・・・。」
「(ええええええっ!!?)」

リリスとリミィは驚愕した。見れば、デミテルの目が少年のように輝いている。

「いいなソレ・・・なんかこう・・・『ハーフエルフを超えたハーフエルフ』
みたいな・・・『サイヤ人を超えたスーパーサイヤ人』みたいな感じがして・・
・・・・『マッハーフエルフ』か・・・カッコイイなソレ・・・」

デミテルは少しうっとりしながらブツブツと言った。人生の暇を持て余して生
きてそうな男は、得意満面だった。

「そうだろそうだろ?我ながらなかなかのできだね♪では改めて・・・君に『
マッハーフエルフ』の称号を授けよう!」
「・・・ありがたく貰っておこう。」

デミテルは少し頬を赤らめながらも、冷静に答えた。リリス達はただ唖然とし
ていた。


・・・もしここにフトソンがいてくれたら、きっとこう言ってくれるだろう。


・・・デミテルさん、センス最悪なんだな・・・

日はもうほとんど傾いていた。白い壁で統一されたつくりの街並みは、沈みゆ
く太陽によって赤く染まっている。

 人だらけだった通りも、この時間帯になると身を潜めている。

そして、デミテル達はとある宿屋の前に立っていた。クレス達が泊まっている
ところとは別の宿だ。

「本当にありがとうございました!」

リリスは深々と頭を下げた。デミテルはフンッと鼻を鳴らした。

「もう落としたりしないことだな。もっとも・・・・・・財布より写真を見つ
けたかったのだろうがな?」

デミテルは探るように言った。リリスは頬を赤く染めた。

「よかったねぇ!リリスお姉ちゃん!」

リミィは笑顔でリリスを見上げながら楽しげに言った。リリスはニッコリした。

「ありがとリミィちゃん。リミィちゃんに会えなかったら、見つけられなかっ
たかもしれないわ。・・・ありがとね。」

リリスはリミィの頭を優しく撫でた。リミィは上機嫌だった。

「では私はこれで・・・」
「・・・?こんな暗くなったのにどこかへ行くのか?」

デミテルは首を傾げた。リリスはニコリと笑った。

「はい♪ちょっと買っときたいモノがあるので。早くいかないと先に買われて
しまうかも知れないので♪・・・・・・・・あの・・・」

リリスは急にかしこまった。そよ風でブロンドの長髪が優しく揺れる。

「あの・・・もしまたこの先出会うことがあったら・・・・・・今度は私が助
けてあげますから♪」

リリスはスカートの両裾をクイッとつまみあげると、行儀よくお辞儀した。デ
ミテルも慌ててお辞儀を返した。

「それではごきげんよう!」

異世界の少女はフリフリのエプロンをなびかせながら、どこかへ走り去って行
った。デミテル達は知るよしもないが、彼女はこれからアルヴァニスタ城へ向か
うのだ。ある魔術書を買う為に。

「『また出会うことがあったら』か・・・面倒事はもうゴメンだ・・・」
「ねぇデミテル様ぁ・・・」
「なんだリミィ?」
「早く宿屋に行こーよぉ!」
「・・・・・・!」

デミテルは忘れていたあの約束を思い出してしまった。彼の神経は一気に衰弱
した。

「・・・ああ・・・そうだな・・・」

デミテルは落胆しながら力無く答えた。リミィは跳びはねながら宿の扉を押し
ていった。扉を開閉すると鳴るベルが、チリンチリンとわびしく鳴った。

「まったく・・・ってあれ・・・?」

デミテルは気付きかけた。何かを忘れていることに。

「・・・まあいいか・・・たいしたことじゃないだろう・・・」

デミテルはベルをチリンチリンと鳴らした。

その頃。アルヴァニスタ城地下牢にて。牢の鉄格子にしがみつきながら、一匹
のモンスターが叫んでいた。

「僕は・・・・・・僕は無実なんだなー!!・・・っていうかもう・・・寂し
いんだなぁー!!デミテルさぁーん!」

淋しがることはない。あと五時間もすれば、時の英雄達が彼の隣の牢に入るの
だから。

つづく


あとがき
今回のお話、いつもより文章量が多いです。これを書いている時、自分はテスト週間という名のモンスターと戦闘中でした。おかげで小説と向き合う時間が削られ、短時間で仕上げようとした結果(自分は「一週間で一話分書く!」という謎の目標の元、小説を書いています。)、文章にまとまりを欠いた内容になってしまい、そのせいで文章が増えたかも知れません。もし読みづらかったらすいません。
話は一気に変わりますが、この前大学生の兄がチョ○ボ-ル(ピーナッツ味)を買ってきました(どんな大学生だ)。「お前にいいもんやるよ」と言われて投げ渡されたのは、チョ○ボールの空箱。「こんなもんいるかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」と思ってたら、銀のエンジェルが当たってました。

・・・・・・え?だからどうしたって?・・・・・・・・・ただの自慢です。ごめんなさい。

次回 第十一復讐教訓「月夜の夜は色々ある」

いつのまにかこの小説も話の数が二桁になりました。これからもデミテル達の復讐劇をご愛読お願いします・・・・・ろくな復讐しておりませんが・・・

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