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デミテルは今日もダメだった【12】

第十二復讐教訓「焼鳥はタレ味が好きです でも塩味のほうがもっと好きです」

「ひどい目に合ったんだな・・・。」

アルヴァニスタの城門をくぐりながら、フトソンは哀しく呟いた。その両サイ
ドには、デミテルとリミィが並んで歩いている。

 時は七時二十二分。今から遡ること一時間程前、デミテルとリミィはフトソン
を捜すため、城下街を駆けずり回っていた。そんな折、彼らはこんな話を立ち聞
いた。


 昨日、真っ白い着ぐるみを着た変質者が捕まったんだって・・・


 その話を聞いて誰のことかわかってしまうというのも、それはそれでデミテル
はなんだか虚しかった。

 何とかフトソンの無実を証明し(『あいつは変質者などではない!ただの着ぐ
るみを着た変人だ!』と言って無理矢理説得した)、ようやく彼は釈放された。

「まぁ、無罪放免になったのだからいいだろう・・・」
「デミテルさん・・・ホントに僕がいなかったことに気付かなかったんだな・
・・?」
「ば、馬鹿を言うな!ちゃんと気付いている!気付いているからこそ、今私が
お前を迎えに来たんだろうが!」
「・・・でも、気付いたのは今日の朝って言ったんだな・・・ということは、
昨日一日、僕のことは完全に忘却の彼方だったんだな・・・」  
 「・・・・・・!」

これにはデミテルも返しようがなかった。確かに忘れていたのは事実だ。

 デミテル達は少し木々が生い茂っているところに入った。門番の兵がじろじろこちらを見ていたからだ。

「落ち込んじゃダメだよぉ、フトソォン。」
「・・・リミィもなんだかんだで僕のこと忘れてたんだな・・・」
「うん♪完っ璧に忘れてたぁ♪」

リミィは何の悪びれもなく陽気に言った。フトソンはがっくりと頭を落とした。
それをよそに、リミィは話し続けた。

「昨日ねぇ、リミィ、デミテル様とおんなじベッドで寝たんだよぉ!スッゴク
暖かくてぇ、スッゴクいいニオイがしたのぉ♪」
「へぇ・・・ちなみに僕は昨日、思いっ切りカビ臭いベッドで寝たんだな・・
・スッゴク固くて、スッゴク臭かったんだな・・・へへへへ・・・」

フトソンのかもし出す悲観的な空気が、周りの空気をどんどん重くしているこ
とにデミテルはいやでも気付いた。特に最後の、『へへへへ』に込められた虚し
さは、尋常ではなかった。

「まぁ・・・そういうことも生きてれば何度かある・・・イヤ、何度もはないか・・・ところでお前、牢の中では何をして過ごしていたんだ?」

デミテルは何とか空気を切り替えようとした。

「えっ!?ええと・・・」

フトソンはとても言えなかった。昨日夜通し、顔も見えない囚人と、雇い主が
いかにまぬけなのか話して盛り上がっていたということなど。

ちなみにフトソンが牢を出された時、すなわちデミテルが城の入口まで迎えに
来た時は、クレス達はまだ眠っていた。よってクレス達はフトソンの姿を見てい
ない。同時にフトソンもクレス達の姿は知らない。地下牢を出る時、振り向いて
、昨日話を聞いてくれた囚人を見ようとしたが、兵士に『キビキビ歩け!』と言
われ、結局確認できなかった。

「べ、別に何もしてないんだな・・・」
「・・・そうか・・・」
 「ねぇフトソン!お腹空いてなぁい?リミィ、宿屋からおにぎり持ってきたよぉ!」

リミィは胸のポケットから、ひとむすびのおにぎりを取り出した。王道の三角
形で、一枚の海苔が巻かれている。

「このおにぎり、スッゴクおいしいんだよぉ!海苔がスッゴク香ばしいんだよ
ぉ!」
「・・・イヤ、リミィ。もう一時間以上経っているから、香ばしいもへったく
れもないだろう・・・」

デミテルの言う通り、海苔は湿気るところまで湿気きっており、擬音を用いる
なら、『クタクタな海苔』と化していた。フトソンはそれをじっと見つめたあと
、手を伸ばして受け取った。

「たとえ海苔が湿気ってても、おにぎりの表面のお米がちょっとカピカピに乾
燥してても、持ってきてくれたことは嬉しいんだな!アリガトなんだな!」
「うわぁい♪フトソンが喜んでくれたぁ♪」

リミィはフトソンの足元ではしゃいだ。吹きつけた風で生い茂った木々がザワザワと揺れた。

フトソンは大口を開け、口の中におにぎりを放り込もうとした。

その時・・・

バサァッ!

何かが、フトソンのおにぎりを掴んだ手をかすめていった。気付いた時には、
その手には何も握られていなかった。

「・・・え?あれ?」
「おにぎりが・・・おにぎりが消えちゃったぁ!?」

突然の事態にリミィはパニックに陥った。フトソンは空を掴む己の手を見つめ
た後、唖然とするデミテルの方を静かに見下ろした。

「デミテルさん・・・まさか・・・」
「・・・・・・はぁっ!?何だその目は!?私がかすめ盗ったとでもいうのか!?」
「絶対そうなんだな!カレーの時と同じく、おにぎりの誘惑に敗北して・・・」
「別に今は腹をすかしているわけでもないし・・・というか、私がいつ欲望
に敗北したぁ!?アレはお前・・・調査!そう!敵を知る調査だったのだ!断じ
てカレーの誘惑に敗北したわけではないわぁ!!」

「・・・なんともまぁ、マヌケな奴らねぇ・・・」

どこかで、人を小バカにしたような声がした。デミテル達は周りを見回した。

「・・・ねぇデミテル様ぁ・・・。」
「なんだリミィ?」
「あれぇ・・・」

リミィは一本の木を見上げながら指さした。デミテルが見上げると、一匹の鳥
が太い枝に止まり、こちらを見下ろしている。その傍らには、その鳥より大きさ
が少し小さい、ひとむすびのおにぎりが置かれている。

鳥は手乗りの小さいサイズで、鮮やかなヒスイ色の羽毛をしていた。が、それ
とは対象的に毛並みはボサボサで、砂が少々かかっている。そしてその目は、ル
ビーのように赤かった。

鳥はおにぎりを枝に置いたまま、デミテル達の前に舞い降り、デミテルの顔の
前辺りにホバーリングした。

そして、先程と同じく、どこか高圧的で、人を小バカにしたような女性の声で
話しかけて来た。

「あら。久しぶりねデミテ・・・」

次の瞬間、フトソンがその鳥の体を、片手でガッチリキャッチした。

「なっ!?ちょ、ちょっとなにすんのよ!?」
「デミテルさん・・・」

フトソンは自分のこぶしに握られた鳥を見つめながら、一言言った。

「・・・この鳥、焼鳥にしたらおいしいんだな?」
「ストォォォォップ!!何考えてんのよアンタァ!?」
「焼鳥か・・・悪くないな・・・」

デミテルは顎をポリポリしながら、真面目に返答した。

「はぁ!?何言ってんのよ!?」
「わぁい!リミィ焼き鳥大好きぃ!」
「おいリミィ・・・お前はイカの塩辛が好きだったり、焼き鳥が好きだったり
・・・他に何か好きな物はないのか?まるで嗜好がオッサンだぞ・・・」

デミテルは鳥が喚くのを無視しながら尋ねた。リミィは腕を組み、しばらくウ
ンウンと考えた後、真面目にこう答えた。

「うんとぉ、うんとぉ・・・・・・タコワサビとかぁ、、ダシ巻き卵とかぁ、
サイコロステーキとかぁ、こもちししゃもとかぁ、ホッケとかぁ、きゅうりの一
本漬けとかぁ、揚げ出し豆腐とかぁ・・・あっ♪焼鳥の中でもスナギモが一番好きぃ♪」
「ほとんど飲み屋にありそうなメニューなんだな・・・完全に嗜好がオッサン
なんだな・・・。」

フトソンは静かに指摘した。その一方で、知らず知らずのうちに鳥を握る手の力を更に強くしていた。鳥は悲鳴をあげた。

「いたたた!!ちょっ・・・ちょっと・・・」
「・・・ちなみに私は、焼き鳥はタレより塩の方が好きだ。」
「えぇ!?僕は絶対タレ派なんだな!」
「リミィは塩が好きぃ!デミテル様と一緒ぉ♪」
「アンタ達ぃ!!何の話してんのよ!?デミテルぅ!!私!声聞きゃわかんで
しょうが!?」

鳥は手の中から首をバタバタ振って喚いた。デミテルは首を傾げた。

「私の友人関係及び、親戚にインコはいないのだが・・・」
「えぇ!?インコぉ!?オウムじゃないのぉコレぇ!?」
「二人ともバカなんだな!どっからどう見たってヤンバルクイナなんだな!!」
「オウムでもヤンバルクイナでもねぇよ!!なによヤンバルクイナって!?ヤ
ンバルクイナを焼き鳥にする気だったのアンタ!?ジャミルよ!ジャ・ミ・ルぅ!ほら!思い出したでしょ!!」

ジャミルはデミテルをキッと睨みながら叫んだ。が、デミテルは未だ首を傾げ
続けている。

「じゃみる・・・?はて?誰だったか・・・?」
「あっ!わかったんだな!さては、『ジャージーミルク』の略なんだな!」
「じゃーじーみるくぅ?なにそれぇ?」
「脂肪分の多い牛乳のことなんだな。ベネツィアの食料品店に置いてあったん
だな!イギリスのジャージー島の乳牛からとるからそう呼ばれてるんだな!」
「『ジャージーミルク』・・・略して『ジャミル』か・・・なるほど。」

デミテルの傾げていた首が戻った。ジャミルは首をブンブン振った。

「何納得してんの!?私のどこが脂肪分の多い牛乳!?それで丸くおさめるな
ぁ!!」
「ねぇねぇ。もしデミテル様が牛乳作ったら・・・『デミテル』+『ミルク』
でぇ・・・『デミルク』ぅ!!」
「そんなセンスの悪い名前した牛乳、絶対売れないんだな・・・」
「『デミルク』か・・・カッコイイなソレ・・・」
「えええ!?デミテルさ
んどういうセンスしてんだな!?」
「・・・・・・・・・」

もはやジャミルに何かを言う気力はなかった。ただ、目の前で展開される、思
い切り話の軸がズレた話を聞いているしかなかった。


なんなのよこいつら・・・人の話全く聞かないじゃない・・・デミテルに至っ
ては、私のこと完全に忘れてるし・・・


デミテルは本当に忘れていた。どうやら、クレス達との戦いで一度死にかけた際、記憶が一部欠落したらしい。

 それか、普通に忘れただけかもしれないが。


せっかく運よく、九死に一生を得たってのに・・・


今から八時間程前、ジャミルは時の英雄達と対決した。そして見事に敗北を記
した。トドメを刺される寸前だったのだが・・・


 ・・・こんなところで死んでたまるかい・・・!


ジャミルはとっさに、夜食に食べる予定だった新鮮トマトを取り出した。それ
を気付かれないようお腹辺りで叩き割ると、自らに術をかけ肉体を仮死状態にし
た。高貴な魔族だからこそ出来る技である。

腹がトマトの果汁で真っ赤に染まり、途端に床に倒れ落ちる。仮死状態により呼
吸も止まっていたおかげで、時の英雄達も、死体だと思って回収した兵達も、生
きているなど思いもしなかた。

その後彼女は体を調べられ(その際、グーングニルを回収されてしまった)、そのまま庭に埋葬された。

それから約六時間後の朝日が昇る頃、ジャミルは目覚め、土の中から這い出て
きた。が、時の英雄達との戦いの傷が思ったよりも深く、身動きが取れないほど
であったため、再びインコに化け、休息を取っていたのだ。そして今に致る。


「・・・・・・・・・・・・いい加減にしろぉぉぉぉぉぉっ!!このマヌケど
もぉぉぉぉぉっ!!」

ジャミルの絶叫が、『もしもデミルクを作るとしたら、パッケージはどんなも
のにしようか?』的な相談をしていた三人の会話を一方的に中断させた。

「ん?まだ何か用かジャージーミルク?」
「ジャージーミルクじゃなぁい!アンタ達私の話を聞きなさい!!」


それから十分間、デミテル達はジャミルが何者で、何故ここにいるかなどの説
明を受けるはめになった。

 「・・・というわけなのよ。本当はとっとと元の姿に戻って、ダオス城まで飛
んで戻りたいんだけど・・・」
「ふぅん。じゃあ、インコさんはリミィ達より偉いモンスターなんだぁ。」
「ちょっと小娘。私の名前はジャミル。ちゃんと名前で呼びなさい。」
 「でもどうして元の姿に戻らないのぉ?ジャミンコぉ?」
「ジャミンコって何!?『ジャミル』+『インコ』で『ジャミンコ』って
か!?そんなプランクトンみたいな名前いらんわぁ!!しかもちゃっかり『さん』付けしてないし!完全に見下してるし!」

ジャミルは低い木の枝に留まりながら、ピーピー喚いた。先ほど何とかフトソ
ンから解放されたものの、ずっと握られていた為、当初の時よりも更に毛並みが
乱れていた。

「しかし・・・本当のところなぜ元に戻らない?戻ればすぐにでも帰れるだろ
う?高貴な魔族なら簡単なはずだ。怪我も治っているようだし・・・モシャモシ
ャ・・・」

デミテルは腕組みをしながら尋ねた。ちなみに口の中には大量のマシュマロが
投入されている。朝に糖分を取ることをすっかり忘れていたのだ。

 「(マシュマロってこの独特の歯ごたえがいいんだよなぁ・・・)」

 そんなことを考えながら、デミテルは返答を待っていた。

「モノ喰いながら喋んないでよ・・・つーかよく口に入れながら喋れるわね・
・・イヤ、まぁ、戻れたらとっとと戻りたいんだけど・・・」
「戻りたいんだけど?」

デミテルはマシュマロを飲み込むと、三人で連呼して尋ねた。ジャミルは少し
顔を赤らめると(鳥なのになぜ赤くなるのがわかるのは謎である)、静かに答え
た。

「その・・・どうやら戦いに力を使いすぎたのと、仮死状態になるのに更に力
使ったせいで・・・・・・・・・戻れないのよ。人型に。」

少しばかりの沈黙。デミテルとフトソンは同時にある一言が浮かんだ。しかし
、それを言うのはかなり失礼だ。常識人なら言うのを我慢するだろう。

そう。常識人なら。

「・・・カッコ悪ぅい。」
「・・・・・・!」

非・常識人(というか世間知らず)こと、リミィは、何の躊躇もなく言い切っ
た。誰が、どんな目で見ても、ジャミルのハートに何かが突き刺さったのは明白
だった。ジャミルは目に見えてうなだれた。

「(こいつ、言い切りおった・・・)」
「(いくらなんでもストレートに言い過ぎなんだな・・・)」

デミテルとフトソンは横目でリミィを覗き見ながら、心の中で呟いた。当然、
リミィに悪びれた様子はない。

「・・・ふん!どうとでも言うがいいわ。とにかく、私が言いたいことは一つ
よ。」

ジャミルは鼻を鳴らしながら強気に言った。それでも少し涙目になっていたが
。彼女はかなりプライドが高い性格らしい。

 デミテルは嫌な予感がした。

「私をダオス城まで連れていきなさい。」
「断る。」

デミテルは即答した。ジャミルは目をパチクリさせた。

「は・・・?ば、バカ言ってんじゃないわよ!私を誰だと思ってるわけ?アン
タより上位の・・・」
「インコに命令される筋合いはない。」
「な・・・!」
「それに私は復讐の旅をしているのだ。貴様のような奴とつるんでいる暇はな
い。・・・ところで、どうやら貴様が戦った奴らは私を殺そうとした奴らと同じのよう
だな・・・」

デミテルはニヤリとした。今度はジャミルに嫌な予感が来襲した。

「お前、今から偵察してこい。奴らは捕まっているんだろ?上手く忍び込んで
きて、情報掴んでこい。」
 「はぁ!?ふざけんじゃないわよ!何様のつもりで私に命令・・・」
「ハーフエルフ様だ。そしてお前はインコ。ただのインコ。以前の立場など知
ったことではない。」

 デミテルは意地悪く笑うと、さらに続けた。

 「だが、もしもやってくれたら一緒にいてやってもいいぞ。まぁ、ダオス様の城には向かわんがな・・・そのちんけな体でこの辺りにいたら、そこらのモンスターに喰われるかも知れんぞ・・・なんでもこの近くにはインコを主食とするモンスターが生息しているらしい・・・」

無論、嘘である。デミテルはどうにかしてクレス達の情報を知りたかった。ジ
ャミルはクチバシをギリギリさせた。

 一方、珍しくデミテルが悪人面なので、リミィとフトソンは驚愕した。

「うわぁ!デミテル様悪人みたぁい!」
「すごいんだな!単なる甘党バカじゃなかったんだな!」
「お前らなぁ・・・私は鼻っから悪人なんだよ!悪者なんだよ!人々から忌み
嫌われる存在なんだよ!」
「自分をそこまで蔑むんじゃないわよ・・・」
 「なっ!?さ、蔑んでなどいないわ!これは自分に対する褒め言葉だ!なんて
ったって悪人だからな私は!」
 「・・・・・・・・。」

ジャミルは呆れながらデミテルを見ていたが、その小さく、密度がある頭の中はフル回転中だった。


もしここでコイツの提案を断ったら、私は一人でダオス城に戻らないといけな
くなる。果たして、このちんけな体でそんなことが可能なのかどうか・・・

っていうか、インコを主食にするモンスターってなによ?いないでしょそんな
ん。いるわけないじゃない・・・イヤ、どうなんだろ?もしいたらかなり困るん
ですけど。うわっ、やべっ、どうしよ。怖い。

もし提案を受けたとして、そのかわりコイツらは私を連れて歩くつもりなわけ
?ただし、コイツらの狙いはあくまでもあの、私が戦った奴ら。つまり、すぐには
ダオス城には戻れない・・・

でも、モンスターに喰われるのは嫌だし・・・元の姿に戻るのにどれくらい時
間掛かるかわかんないし・・・それこそ何百年もかかったりして・・・。

 一番賢いのはやっぱり・・・ってあれ?


この時、ジャミルは気付いた。今、目の前にいる男には一つ足りないモノがあ
る。


・・・影が・・・ない・・・


そう。ダオスへの忠誠の証と言われるあの、死神のような影が憑いていないの
だ。本来、ダオスの部下であれば見えるはずのものだ。

だが、忠誠の証などと言われるが、実はそうではない。『こいつはダオスに操
られているんだよ』という目印である。

操りと言っても完全な操りではない。その者の意思や考え方を、本人の知らぬ
間に変えてしまう力。そのため、自分が操られているという自覚がなく、自分の
意思で動いていると錯覚させられる。

マルス=ウルドールがいい例である。彼はダオスに消されるその瞬間まで、自
分の意思でダオスを復活させるために動いていると信じていた。


その印が消えるなんて・・・一体なぜ・・・・・・


「おい。それでどうするんだ?やるのか、やらないのか?」

デミテルは指でジャミルの鼻先をツンツンとつつきながら、なんとも偉そうに
言った。ジャミルはこの男の目をつつき潰してやりたいという衝動を、グッと抑
え、そして、結論に達した。


今は・・・言うこと聞いてやるか・・・・・私が人型に戻ったら、ボコボコのミンチにしてやるんだから・・・


「・・・わかったわよ。偵察してこりゃいいんでしょ。してこりゃ。」

ジャミルは仕方なさそうに羽ばたくと、三階の城の窓へと飛び立った。デミテルはその姿を見上げながらにやけていた。

それから約一時間後、ジャミルは侵入して来た窓から戻って来た。かなりの興
奮を覚えながら。先程、時の英雄達とアルヴァニスタ王の謁見の様子を覗いて来
たばかりだ。


まさか、あいつらが未来人だなんて・・・しかも、ダオス様の討伐を目指して
る?正気なのかしら?


  ジャミルは窓から滑空し、デミテル達の元へ向かった。だが・・・

「ねえデミテルさん?」
 「なんだフトソン。」
「ホントにあのヤンバルクイナ連れていくんだな?」
「だからあれはインコだ!なぁに、情報を聞き出したら、あんな鳥に用はない。まぁ、非常食として連れていってやろう。」
「えぇっ!?でもあのインコぉ、デミテル様より偉いって言ってたよぉ!食
べちゃっていいのぉ?」

リミィは首を傾げながら尋ねた。デミテルはフンと鼻を鳴らした。

「私はあんな鳥類に従った覚えはない。仮にそうだとしても・・・」

ここでデミテルはニヤリとした。本当に珍しく悪人面だ。

「奴がインコになって戻れないことを知っているのは我々のみ。つまり奴が死
ねば・・・奴の地位は私のモノだ。」
「おおおおおおおおおおお!!デミテルさんがすんごい悪人に見えるんだな!
今までの行動からはとても想像できないんだな!!」
「・・・私の今までの行動はそんなに悪人ぽくなかったか?」

デミテルは眉間にシワを寄せた。フトソンはなんの躊躇もなくうなづいた。デ
ミテルは呻いた。

「はぁ・・・さて。いざ奴を食う時はどう調理す・・・」
「ちょっと待ったぁ!」

怒りの叫びとともに、ジャミルが滑空してきた。

「アンタ達ぃ!今なんの相談してた!?いったい誰を調理するって・・・」
「ち、違うよぉ!そんなこと話してないよぉ!ええとぉ・・・」

リミィはしばらく頭を捻ったあと、こう答えた。

「・・・インコって煮込んだら鶏がらスープできるかなぁ?っていうお話ぃ!」
「確実に私の話じゃねーか!つーかどうせ嘘つくならもうちょっとインコから
頭離して考えろやぁ!」
「(この人興奮すると男言葉になるんだな・・・)」

ピーチク喚くジャミルを横目で見ながら、フトソンは心の奥底で呟いた。

 「それにしてもうるさい鳥だな。そんなに人に対してツッコミを入れて楽しいか?」
 「・・・逆にアンタらよく今まで会話が成り立ってたわね・・・さっきから全員ボケまくりじゃない・・・。」
 「わ、私はボケたつもりは今まで一度としてないぞ!いつだって真面目かつ、狡猾だ!」
 「・・・真面目で狡猾な人が、カレーを拾い食いしようとして爆発に巻き込まれたり、リキュールボトル一気飲みして酔っ払って倒れたり、チョコレートケーキ三個もたいらげたりしないんだな・・・。」
 「ちょ、チョコレートケーキはいいんだよ!アレはお前、糖分の宝庫だからな!!」
 「・・・なにがいいのよ・・・それの・・・」

 こうして、ジャミルが仲間に加わった。非常食として。


つづく

あとがき
前回コメントしてくださった方。ありがとうございます。以前からコメントしてくれている方も、初めてコメントしてくれた方も、心から感謝です。

やはり読者様の言葉は励みになります。言葉は本当に不思議です。人を奮い立たすことも、蹴落とすこともできる不思議なものです。

多分アレ、「あし○のジョー」の矢吹ジョーが何度もリングに立てるのが、丹下のおっさんの「立て!立つんだジョー!」という言葉があるからのと同じ原理だと思います。アレと同じなんです。

ところで丹下のおっさんのジムには、マンモス西という門下生がいました。彼は減量に耐えきれず、うどんを食べていたところをジョーに見つかり、殴られて鼻からうどんを出したそうです。

 自分はその光景を見たわけではないですが、多分相当ビックリしたんでしょうねマンモス西は。あと、これは予測ですが、きっとジョーに殴られたのはかなりの不意打ちだったんでしょうね。うどんをを口にいれ、罪の思いと至福の思いに駆られながら、いざ噛もうとした瞬間、ドーン!って感じで。でなきゃ鼻からうどんは中々出ませんよ。きっとマンモス西はその日からうどんを見るのも嫌になったに違いない。自分はそう信じて生きていきたい。

マンモス西の明日はどっちだ!?


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・色々ごめんなさい。

次回  第十三復讐教訓「落し物は交番へ」

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