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デミテルは今日もダメだった【13】

第十三復讐教訓
「落し物は交番へ」

風が吹いている。優しい風が、アルヴァニスタ東の平原に吹いている。

その平原に生えた一本の木に、一人のハーフエルフがもたれ掛かり、座ってい
る。その手には、一冊の分厚い、青い本が置かれていた。その本の題名は・・・

 『糖分は世界を救う!!』

素晴らしい本だ。アルヴァニスタの本屋で暇つぶしに買ったが、こんなにおも
しろい本は久しぶりだ・・・


デミテルは食い入るように本の字を目でなぞっていた。この本には、『糖分が
体にもたらす恩恵』『糖分が導く未来への希望』『糖分を日常的に摂取すること
によって手に入るとされる幻の超能力、「スーパー・シュガー・パワー」』につ
いて書かれている。

 この本の著者によると、糖分には『糖分の精霊・シュガー』が宿ってい
るらしい。かなりうさん臭いが、デミテルは本気でそれを信じた。


まさか糖分に精霊が・・・!我々は糖分を摂取する度に精霊を食べていたのか
・・・!


そんなことを考え出す始末である。が、それと同時に、別事もちゃんと考えて
いた。真面目な方の話だ。


まさかあの連中が未来人だったとは・・・


そう。インコこと、ジャミルが仕入れて来た情報。それは、衝撃の事実だった

なんと、あの四人組のうち二人が未来から来たというではないか。おまけに、
奴らの最終目的がダオス様の討伐ときた。いずれもとんでもない話だ。バカバカ
しい。あんな奴らにダオス様を倒せるわけ・・・

しかし、油断はできない。クラース=F=レスター。あの男は召喚師。私と戦
った時はシルフとしか契約していなかったが・・・

ジャミルの話によれば、奴らは今現在確認されている中でもっとも強力な精霊
「ルナ」と契約するつもりらしい。もしそうなればいくらダオス様といえど・・


だが、やらせはせん。この私がやらせはせんぞ・・・

ドワーフの洞窟の宝物庫に入るには、四大元素の精霊がいる。

その知識を知っていた者が、メンバーの中に一人だけいた。それは意外にもあ
の男・・・

『ルナの指輪のある部屋に行くには、四大元素の精霊が必要なんだな~♪昔、
死んだじいちゃんが言ってたんだな~♪』

白い魔獣こと、フトソン(仮名)である。彼の家はドワーフの洞窟地下二十階
にあり、彼の先祖はドワーフがまだ現存していた時代から洞窟に住んでいたらし
く、先祖代々伝えられてきた情報らしい。

この事実を知ったデミテルは、ある考えを頭に廻らせた。


奴らより先に精霊と契約してしまえば・・・


当然のことだがデミテルに召喚術の知識は無い。その為、契約するのに指輪が
必要なことや、体中に変なペイントがいること、さらにはチャカチャカと小うる
さい耳障りな音を出す装飾品まで必要であることなど、知るよしもなかった。


契約だかなんだか知らんが、脅せばどうにかなるだろう・・・そもそも契約の
指輪とはなんだ?


無知ほど怖いものはないのであった。

そして今現在、デミテル達一行は手始めに炎の精霊、イフリートの元へ向かう
為、アルヴァニスタの南東にある港を目指していた。現在位置は、アルヴァニス
タの東にある橋を渡ったばかりのところである。


おそらく奴らが四大元素の精霊を探し始めるのは、ドワーフの洞窟を探索し、
精霊が必要だということに気付いたあとだろう。奴らが精霊探索を始めた頃には
、既に私が契約し終わっているというわけだ。

そして、奴らが欲しかった精霊達を使って奴らを倒す。そうすれば、肉体的に
も精神的にも私は奴らに復讐できる・・・完璧だ!完璧な復讐だ!まさに一石二
ちょ・・・


「デミテルさ~ん!鍋が沸騰を始めたんだな~!」

少し離れたところから呼び掛ける声がして、デミテルの超マル秘復讐計画の思
考は終わりを告げた。見れば、フトソンが焚火の上に置かれた鍋を指差しながら
叫んでいる。先程までデミテルが調理していたのだが、煮込み時間が長い料理の
為、火の番をフトソンに任せていたのだ。

デミテルは本を懐にしまうと、ゆっくりと立ち上がり鍋の元へと向かった。

「デミテルさんって、キャラのわりに料理上手なんだな。」

手際よく調味料やらなんやらを入れ、鍋を煮込んでいくデミテルを後ろから覗
きながら、フトソンは感心するように言った。デミテルはフンと鼻を鳴らした。
オタマで鍋を掻き交ぜながら。グツグツと鍋が煮える音がする。

「これでも使用人歴約十年だ。掃除、洗濯、料理、大低のことは出来る。」
「見かけによらず家庭的なんだな。きっと将来専業主夫になっても困んないん
だな。」
「貴様はいちいち一言多いんだ!あと私は男だ!専業主夫なぞには断じてなら
ん!絶対に亭主関白的な生活を手に入れ・・・」

この時デミテルはふと気付いた。煮込んでいる具(野菜とか豚肉とか)とは別
に、何か別のモノがある。それは明らかに他の具よりも大きい。だが、それをす
くい上げる勇気がデミテルにはなかった。ひどく嫌な予感がするからだ。

「おいフトソン・・・」
「はい?」
「私が向こうで本を読んでいた間、鍋に何か入れたか?」
「え?何にも入れてな・・・あ、でも・・・」

 フトソンは頭をポリポリとかいた。

 「僕、一回ションベンに行ったんだな。その間、数分だけ鍋の番をリミィに任
せてたんだな。今思い起こせば、僕が戻って来た時にリミィが何かを入れてたよ
うな・・・」
「・・・・・・・・・。」

デミテルはゆっくりと、恐る恐るオタマでその得体の知れないモノをすくい上
げた。


それは毛だらけだった。毛というか、羽毛だらけだった。その羽毛はヒスイ色
で、クチバシが・・・

「・・・ジャミル・・・。」

デミテルはオタマにのった、自分より偉い地位にいる半死半生インコを見て静
かに呟いた。よく半死半生で済んだものだ。

「まぁアレなんだな・・・その・・・おかげでスープが鶏がらスープ風に・・・」
「なるわけねーだろ!?鳥そのまんま煮込んでダシがとれるかぁ!!」

鍋のふちに止まり、ハンドタオルに身を包ませながら、ジャミルは叫んだ。体
からは湯気が立ち上り、ゆでダコならぬ、ゆで鳥状態だった。

「大体ねぇ、あの小娘の教育はどうなってるわけ?人様が木に止まって眠って
る間に鍋につっこむなんて!?これだから日本の教育は・・・」
「イヤ、悪かったジャミル。今度きつく言っておこう。『非常食は非常時に調
理しろ。』と」
「私を調理すること自体には何の疑問も懸念も持たないのねアンタ!」
「・・・っていうかココ、日本じゃないんだな・・・」

フトソンは的確な意見を述べた。

「大体何でアンタが私を呼び捨てにするのよ!敬意を払ってジャミル様と呼び
なさい!ジャミル様と!」
「インコに敬意を払う意味がわからん。」
「だ・か・ら!インコじゃないっつーの!見た目はかわいらしいインコだけど
、その正体は絶世の美女・・・」
「おいフトソン。リミィはどうした?」
「わかんないんだな。鍋の番変わったあと、どっか行ったんだな・・・」
「ちょっとぉ!?無視ぃ!?これって無視ぃ!?」

ピーチクパーチク喚くジャミルを尻目に、デミテル達は周りを見回した。

「・・・あ!いたんだな!こっちに飛んでくるんだな!」

デミテルはフトソンが手を振る方向に体を向けた。見れば、少し高い丘をフワ
フワと下ってくるリミィの姿があった。

リミィは一枚の紙を握っていた。遠目で確認出来ないが、真っ白い紙に影絵の
ような作りで絵が描いてあるように見える。

「デミテル様ぁ、フトソンただいまぁ!ごはんできたぁ?」
「『ごはんできたぁ?』じゃないわよ!なにアンタ勝手に私をお昼のディナー
に頂こうとしてんのよ!?」
「あれぇ?何でジャミンコいるのぉ?煮込んだつもりだったのにぃ。」
「ジャミンコって呼ぶなぁー!!」

ジャミルは羽織っていたハンドタオルをかなぐり捨てると、リミィの頭に飛び
乗り、頭をつつき始めた。

「イタイっ!イタぁイ!デミテル様ぁ!ジャミンコがいじめるよぉ!助けてぇ
!」
「どう考えても悪いのはお前だ・・・ところでリミィ。お前の左手にあるのは
なんだ?」

デミテルは、先程からリミィが左手に握っている紙を指差した。その言葉で、
ジャミルはつつくのをやめ、頭の上から紙を見下ろした。

紙はそれなりに大きく、例えるなら指名手配書ぐらいの大きさで、影絵のよう
な作りで本の絵と?マークが描かれていた。

「さっき茂みの中で拾ったんだよぉ。何か全然わかんないのぉ。」
「これは『不確定品』という種類のアイテムだ。貸せ・・・」

デミテルはリミィの手から『?BOOK』を取り上げると、マントの内ポケッ
トをゴソゴソと探り始めた。

「この手のアイテムは何らかの理由で封印されているのだ。だが、ルーンボト
ルをかければ・・・」
「デミテルさんのポッケって、いくらでもモノが入ってるんだな。便利なんだ
な。」
「エルフ族が作った特別製だ。どこぞの猫型ロボットもビックリの収納力を誇
る。」
「・・・アンタのその発言にビックリよ・・・」

ジャミルはボソリと呟いたが、聞く耳を持つ者は一人としていなかった。

 やがて、デミテルは懐から紫色の液体が入った瓶、ルーンボトルを
取り出した。栓に、ワインのフタなどに使われるコルク栓がささっている。

 「これをこの紙にかけるとぉ、別のアイテムに変わるのぉ?」

リミィは訝し気に、デミテルが右手に持つ得体の知れない液体を見つめた。デ
ミテルは歯でその栓をポンッと抜き、プッと捨てた。

「そうだ。絵からして恐らく本系の武器だろう・・・」
「本系の・・・武器?世の中には、本で戦う人がいるんだな?」
 「ん?あぁ。本の角の部分で殴り掛かる。確かクラースとかいう男はそんな風
に・・・」
「なんて野蛮な野郎なんだな!本を本として見てないんだな!子供がマネした
らどうしてくれるんだな!教育上よろしくないんだな!」
「PTAの苦情みたいな発言だな・・・」

デミテルはルーンボトルをトロトロと紙に垂らしながら、ボソリと言った。紙
は白く不思議な光りを放ち始め、変形していく。

「すごぉい!ポ〇モンが進化してるシーンみたぁい!」
「アレって、Bボタンを押すと進化を取りやめられるんだな。」
「なに!?そうなのか!?私は知らなかった!」
「アンタらさっきから発言がギリギリよ・・・色んな意味で・・・」

またしてもジャミルはボソリと呟いたが、全員光を放つ不思議な紙に夢中で誰
も聞いてはいなかった。

やがて、光が剥がれ落ちるように消え、その真の姿があらわとなった。

その本は薄かった。薄っぺらく、ピンク色だった。どうみても攻撃力は低そう
だ。

表紙には写真が印刷されていた。女性の写真だ。そして題名にはローマ字表記
で・・・

「ええとぉ・・・SU(ス)・・・KE(ケ)・・・B」
「ストォォォォォォォップゥゥゥゥゥゥっ!!」

リミィが題名を言い切る前に、デミテルは本を背中に隠してしまった。顔が真
っ赤だ。

「あぁ!?隠さないでよデミテル様ぁ!リミィが見つけたんだからリミィが最
初に読むぅ!」

リミィはデミテルの後ろに回り込もうとしたが、デミテルは大股で三歩ほど下
がり、回り込めないように距離をとった。全身から汗が吹き出ている。

「コレは・・・この本は・・・お前が読むにはまだ早い・・・」
「えぇっ!ヤダァ!絶対読むぅ!」
「や、やかましい!こんな本はあっちゃいかんのだ!私はこの手の本は大嫌い
なんだ!今すぐ焼却処分する!」

デミテルはファイアボールの詠唱を始めようとしたが、その直前、いつの間に
か後ろに回り込んでいたフトソンに本を取り上げられてしまった。

「なっ!?何をするフトソン!?」
「デミテルさん・・・こういうのは・・・こういうのはちゃんと読んであげな
いと本がかわいそうなんだな!」

フトソンはかなり興奮していた。本をわしづかみし、息遣いが荒くなっている

ちなみに彼は十八才。ビックフット族の思春期真っ只中である。

「馬鹿者ぉ!何がかわいそうだ!?単純にお前が読みたいだけだろうがぁ!?
そんな本表に出したら、それこそPTAから苦情が・・・」
 「落ち着くんだなデミテルさん!大丈夫なんだな!僕が読んだ暁には、きちん
と古紙の日に捨て・・・」
「そういう問題じゃないわぁ!いいから渡せ!今すぐ焼却する!」

デミテルとフトソンは互いに本を掴み、引っ張り合いを始めた。

「まだ捨てちゃダメなんだな!」
「捨てるんじゃなくて今すぐ燃やすんだ!灰にして大地に還すんだ!」
「リミィが最初に読むぅ~!」

引っ張り合いは二人から三人に増え、言い合いは続いた。

「大体、デミテルさんは考え方が古いんだな!いまどきの子供はこれぐらいの
刺激が必要なんだな!」
「やかましい!お前のような考えの奴がいるから、世の中の子供達が犯罪に巻
き込まれるんだ!こういうことをきっかけに危ない遊びを覚えて・・・」
「リミィが読むぅ!」
「多少の知識は必要なんだな!僕なんてアレなんだな!父ちゃんのベッドの下
にこの類の本が大量にあって、そこから色んなモノを学んだというか、大人の
階段昇ったというか・・・」
「貴~様のその発言がまた問題になるんだよ!貴様の今の発言で日本中の子供
達が父親のベッドの下荒らし始めたら貴様の責任だ!」
「リミィが読むぅ!」
「ベッドの下にあるとは限らないんだな!僕の友達の親は本棚の奥に大量に・
・・」
「なんのアドバイスだ!?今の発言で日本中のお父さんが焦りまくってるだろ
うがぁ!?」
「リミィが読むぅ~!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

ジャミルはただ黙り、その争いを眺めていた。


その時、数人の、女剣士の旅の一団が彼らの横を通りすがった。

ふと、一人のポニーテールをした女剣士とデミテルが目が合った。ちなみにデ
ミテルは、今まさにフトソンにヘッドロックをかけているところで、フトソンは
本を胸で思い切り抱きしめており、てこでも取らせまいとしていた。その本を奪
おうと、リミィが本をグイグイ引っ張っている。

しばし沈黙があった。そして・・・

「・・・・・・プッ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・!」


・・・笑った?今あの人笑った?

 考えてみれば・・・今、この情景を第三者から見れば、どう考えても私とフトソンがスケベ本欲しさに本を奪い合っているようにしか見えんではないか!?

いかん!これでは私が変質者に見えるではないか!?処分したくて取り合って
いるのに、周りから見れば読みたがってように見えてしまう!違うぅ!誤解だぁ


が、デミテルの思いも虚しく、彼は確かに聞いた。女剣士達の会話を・・・

「・・・いい大人がエロ本取り合ってるわよ・・・」

違ぁぁぁぁぁう!! 違うんだぁ!なんてこった!これで彼女達の記憶にこの情
景が刻まれてしまったぁ!彼女達の記憶に永久に残ってしまうぅ!!一人のハー
フエルフがスケベ本欲しさに着ぐるみを着た変なオッサンにヘッドロックをかけ
ていたなどという記憶が!!

イヤ、果たしてそれだけで済むのか!?もしかしたら今の出来事が彼女達の子
孫に伝わり、一族に代々伝わる笑い話とかになったらどうする!?そんなことに
なったら・・・そんなことになったら私はぁぁぁぁぁ!!


デミテルは全身汗だくでいろいろと思考した揚げ句、フトソンをヘッドロック
から解放した。フトソンはずっと首を締められていた為、むせこんだ。

「ゲホ!ガハ!よ、ようやくデミテルさん諦め・・・」
「・・・リミィ、そいつから離れろ・・・」
「え?なんでぇ?」
「いいから離れろ・・・」

デミテルは凄みを効かせた。リミィは渋々従った。

デミテルの目は危険に満ちていた。何かをやらかす勢いで、フトソンを睨んで
いる。

フトソンも気付いた。何か嫌な予感がする。

「デミテルさんなにをし・・・」
「・・・スキアリぃ!イラプション!!」
「えええぇっ!?」

スケベ本は・・・イヤ、フトソンは炎上した。

「ぎゃああああああ!!?」
「あぁ~!リミィの本~!」

リミィの叫びも虚しく、本は灰と化し、大地に還った。フトソンはシュウシュ
ウと音をたてながら焼け焦げ、真っ黒になって突っ立っていた。目は白目を剥き、彼の魂も大地に還ったのでないかと思わせる程の無気力状態になっている。

デミテルは勝利の雄叫びを上げた。

「ハァーハッハッハッ!この白饅頭・・・イヤ、黒饅頭がぁ!私の前で不埒な
展開は許さん!」
「あ~あぁ。燃えちゃったぁ・・・じゃあ別のにしよぉっとぉ・・・」

そう言うと、リミィは胸ポケットから束になった『?BOOK』を取り出した。


長い沈黙が起きた。フトソンは焼け焦げて動けず、ジャミルは淡々とした表情
で動かず、デミテルはあんぐりと大口を開けていた。

「・・・お前・・・それ・・・その束はどこから・・・?」
「あのねぇ、茂みにねぇ、茶色い変な帽子が落ちてたのぉ。その帽子の縫い目
のトコに小さく折り畳んでいっぱい入ってたのぉ。」
「・・・・・・・・・うおおおおおおおっ!!」

突如、フトソンが不死鳥の如く甦った。

「アイル・ビー・バァァァァァック!リミィそれを僕に渡すんだなぁぁぁぁぁ
!!」
「させるかぁぁぁ!全部燃やぁぁぁぁす!」
「やだぁぁぁぁ!!リミィのだもぉぉぉぉぉぉん!!」

様々な思いと決意を胸に、三人は再び争奪戦を開始した。その様を一人淡々と
眺めながら、ジャミルは心から確信した。

・・・あぁ・・・ここにちゃんとした悪人は一人もいないのね・・・

同時刻。デミテル達から数百メートル離れた茂みの中で、一人の中年男が身を
屈めて何かを探していた。

クラース=F=レスター。ちなみに、帽子は被っていない。

「どこだ・・・どこだ・・・・・・おぉ!あったぁ!」

探し物は見つかった。先程風で飛ばされてしまった、彼のトレードマークの帽
子だ。

クラースは帽子を両手に取ると、帽子の中を覗きこんだ。

「私としたことが・・・この帽子を落とすとはな。これがないと私はただの中
年のオッサンに・・・って違う違う!なくてもオッサンじゃないけどな!・・・
それに・・・」

独り言をぶつぶつ言いながら、クラースは帽子の内側にある、生地の縫い目の
隙間に指を突っ込んだ。が・・・

「クレス達は未成年だからな・・・こういう存在を知られないようにせんと・
・・ん?あれ?どこいった?ここにたくさん突っ込んどいて・・・ちょっ・・・
まっ・・・・・・・・・・・・・・・無いぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!?」

クラースは絶叫した。それと同時に、クレスが茂みの奥から叫ぶ声がした。

「どうしましたぁー?帽子ありましたかぁー?」
「・・・・・・あぁ!あったぞ帽子!ちゃんとあったー!ちゃんと・・・そう
・・・ちゃんと・・・」

クラースは暗い影を落としながら、トボトボと仲間達の元へ歩いていった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ひどい・・・ありさまだな・・・」

荒廃した家々。燃え尽き、真っ白な灰と化した木々。瓦礫に埋まった死体は、
砂埃がかかり、白骨化したものもある。

家々の瓦礫が沈む川の中に、一本の看板が沈んでいた。それには、この街のか
つての名が示されている。


ようこそハーメルの町へ


「・・・生存者は・・・おそらくゼロ・・・」

馬に乗り、崩壊した町を回っていた兵士は、静かに呟いた。見渡せば、町中を
馬に乗った兵士が蹂躙している。『アルヴァニスタ王国』と書かれた国旗を掲げ
ながら。

「誰がこんな酷いことを・・・一体誰が・・・」

兵士は怒りを覚えた。こんなことを平気でする、残虐非道な人間がこの世にい
ることが、兵士は許せなかった。

「おい!」

馬を降りていた一人の兵士が、怒りに震える兵士を呼び止めた。兵士は馬で歩み寄
ると、ゆっくりと馬から降りた。

「どうした?何か手掛かりがあったか?」
「見ろ・・・」

呼び止めた兵士は、眼前の、瓦礫に埋まった一人の老婆の死体を見下ろした。

老婆は下半身が崩れた屋根に埋まり、上半身だけ外に出ていた。

その老婆の手元の地面に、おそらく爪で引っ掻いて書いた、途切れ途切れの文
章が残されていた。

神よ・・・我ら・・・救いを・・・奴・・・悪魔・・・笑・・・ながら・・・
わしの孫・・・殺し・・・神よ・・・奴に・・・神罰を・・・奴に・・・悪魔に・・
・・・・

・・・デミテルに神罰を・・・

つづく

次回 第十四復讐教訓「心頭滅却すれば火も涼し・・・イヤ、やっぱ熱いです」

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