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その男 マルス=ウルドール   ~夢物語~

私はただ変えたかった。この世界を。

紛争、差別、権力争い。

一見平和なこの世界。その裏で、権力者達による醜い争いが繰り広げられている。その争いのとばっちりを受けるのは罪もない民達だ。

こんな世界は間違っている。

平和を。永久に続く平和な世界を私は創りたかった。

例え、何かを犠牲にしてでも。

例え、その平和が力によるものでも。


 それでもいい。人々が恐れを知らず、絶える事ない笑顔に満たされた世界を

私は創りたかった

その男 マルス=ウルドール
~夢物語~

地下墓地の調査。他愛もない、毎年定期的にやるものだ。中に入って、異常が
ないか少し探るだけ。


すぐに終わるはずだった。すぐに終わらせ、家に帰り、妻と夕食を食べるはず
だった。


あの声が聞こえるまでは。


世界を変えたくはないか


突然、頭の中で声がした。回りの部下達には聞こえていない。


すると扉が開いた。レイス・ルビーによって封印されし扉が一人でに。


私は周りの部下達が止めるのを振り払い、導かれるように扉に入った。


ワープする不思議な魔法陣に乗り


溶岩に満たされた空間を通り


私はたどり着いた。あの部屋に。一つの棺がおさめられた部屋に。

私は見下ろした。その棺を。埃が被り、うっすら苔がまとわりついているその棺を。

声は絶えず頭に響いた。


世界を変えたくはないか


手が一人でに棺に吸い寄せられていく。自分の意志なのか、棺に引き寄せられ
ているのか。分からなかった。

指が棺に触れた。その時だ。あの感覚に襲われたのは。


何かが。何かが棺からでてきたような気がした。黒いマントを羽織った、死神
のような何か。それが私の中に入っていくのが分かった。


それとともに知識がなだれ込んでくる。この棺に封印されているもの。封印を
施した者達。封印を解く方法。


その事実を知った時、私は少しの恐怖と、そして・・・

興奮を覚えた。

もし本当なら。もしこの棺にそんな力が眠っているのなら。

私は世界を変えることができる・・・!

絶対的な力による支配。聞こえは悪いかもしれないが、もしそれができれば、
権力者達による醜い争いは無くなるはずだ。逆らうことが無駄だと思う程の力が
あれば。


世界を変えることができる。

家に帰った後も、頭の中はそのことでいっぱいだった。

「・・・なぁ。」
「はい?」

鎧を脱ぎ、妻に手渡しながら、私は問い掛けてみた。

「もしも・・・もしもだぞ・・・もしも絶対に争いのない世界を作る方法があ
るとしたら、どんな犠牲を払ってでもその方法をやってみるか?」
「そうねぇ・・・争いがないのにこしたことはないけど・・・」

妻は鎧を鎧掛けに掛けながら、冗談混じりでこう言った。

「でも、そんな世界になってしまったら、私達生活できなくなりますよ。だって争いから人々を護るのが騎士であるあなたの仕事でしょ?そんな世界になった
ら世界中の騎士が職を失ってしまうわ。」

妻が言うことももっともだ。だが・・・

騎士も・・・兵も・・・軍隊も・・・それら全てが必要ない世界こそ、人々の
理想の世界のはずだ。

その晩、私は家を出た。鎧を着て。置き手紙でも置いていこうかと考えたがやめた。


妻には全てが終わったら話をしよう。

全てが終わったとき。それは、世界に永遠の平和が訪れた時だ。

 妻を驚かせてやろう。お前の夫は世界に絶対的な平和をもたらす存在になった
のだと。

ユークリッド独立騎士団本部の砦に、私は部下達を集めた。部下達は私の話に
困惑していたが、一人の若い騎士の声でみんな一丸となってくれた。

「俺達が!俺達ユークリッド独立騎士団が世界を変えてみせようぜ!マルス隊
長と共に!!」

封印を解くのに必要なもの。それは二つのペンダント。その二つを棺に捧げれ
ば封印は解かれる。


平和をもたらす絶対的な力が解かれる。


記録という記録を調べ、文献という文献を調べ、
約三ヶ月かけてようやくその一つを見つけ出した。

「吐け。ペンダントはどこだ。」

砦の地下牢。両腕を壁の鎖に繋がれた美しい、金色の長い髪をした女性に、私
は剣を突き付ける。

「知りません。」

女性はその一点張りだった。私は頬をロングソードで斬りつけてやった。

女性は・・・メリル=アドネードはこちらを哀れむ目で見つめてきた。

「何故ですか?貴方はマルス=ウルドールでしょ?ミゲールさんに聞いたこと
があります。自分がユークリッド独立騎士団の隊長だったころ、とても正義感が
強く、強い心を持った部下がいたって。アイツがいるから自分は騎士団を抜けて
安心して剣術道場を開けたんだって・・・・・・・・・そんな貴方がなぜ・・
・?」
「貴様ぁ!隊長に向かってなんだその口の聞き方は!?」

部下はメリル殿を殴り付けようとした。私はその手を制止した。

「メリル殿。私は無駄話は嫌いだ。正直にペンダントの在りかを白状しろ。我
々は貴女に危害を加えはしないが・・・」

メリル殿は目を見開いた。

「貴女の娘はどうなるか・・・」
「やめて!娘には・・・ミントには手を出さないで!・・・お願い・・・。」

その時メリル殿は涙を流した。あれだけの拷問に耐え、口を割らなかった女性が
、初めて涙を流した。

「約束しよう。」

私は再び剣をメリルの喉に突き付けた。

「ペンダントの在りかと・・・もう一つのペンダントの持ち主が誰か吐いたら
、貴女の娘には絶対に手を出さない。全てが終わった暁には、牢から解放するこ
とを誓おう。騎士は誓いを破りはしない。」

メリルはギュッと目をつぶり、噛み締めるように悩み抜いた末、全てを話して
くれた。


そして私は、メリル=アドネードの胸にロングソードを突き刺した。


彼女自信が死を懇願した。全てを話し、裏切った私に生きる価値はない。そう
言って。

「他の兵に伝えておけ。」

メリル=アドネードの死体を見下ろしながら、私は部下に言った。

「メリル=アドネードの娘に手を出した者は、いかなる理由があろうとその首
をはねると。誓いは護らねばならん。騎士として。」

部下が牢を出たあと、私は硬い石の床に膝をつき、泣いた。ただ泣いた。

私は何をやっているのだ?抵抗できない女性を拷問し、脅し、刺し殺す。こん
な人にあるまじき行為を平気でやっている。私は・・・私は・・・

それでも・・・

それでも、私はやらなければならない。この美しい、気高き魂を持つ女性の死
を無下にしてはならない。どんな犠牲を払ってでも私は変えなければならない。
この世界を。


それが私の使命なのだから。


「何を・・・・・・・・・・・・しているんだ?マルス?」

火の手があがる家々。悲鳴。鳴り響く警鐘。そんな中、私はかつてのユークリ
ッド独立騎士団隊長と対峙した。

道場の床には何体もの死体が落ちている。私が斬った、この道場の門下生達の
死体が。

「お久しぶりです・・・ミゲール隊長・・・イヤ、ミゲール元隊長。」
「お前・・・本当にマルスか?あのマルス=ウルドールか?」

ミゲール殿は信じられないという目でこちらを見ている。無理もあるまい。

「一体何をしているんだマルス!?お前が・・・お前がこんな・・・こんなこ
と・・・するはずがない!」
「いいえ。私です。私が・・・村を襲っているんです・・・信じられませんか
?」

ミゲール殿は無言で腰の剣を抜いた。私もそれに応じてナイツサーベルを引き
抜いた。

「やめさせろ。マルス。今すぐこの襲撃を。でなくば、私がお前を斬る。」
「久しぶりにお手合わせ頂けますか。ミゲール殿・・・私が勝ったら素直にペ
ンダントの在りかを教えていただきたい。」

私は、道場を取り囲む部下達に合図した。この戦いに水を刺す者は許さぬと。

「・・・お前が私に勝てると思うか?マルス?」
「勝ちます。」

私は剣を構え、かつて憧れ、目標にしていた男を睨んだ。

「私には使命がある・・・あの棺に封されし者を解放し、世界を変える・・・」
「思い上がりも大概にしろぉ!マルス=ウルドールぅ!!」

貴方が隊長の座を私に譲ってから、ずっと疑問だった。

私に隊長の器が・・・実力があるのか・・・ずっと。


 ・・・・・・・・・・・・・・・


「お前の負けだ・・・マルス・・・」
「ぐっ・・・」

私はサーベルに寄り掛かり、かろうじて立っていた。動きという動きを手にと
るように読まれているのが自分でもわかった。

 「・・・相変わらずクセは直してないようだな。剛剣使いなどと謳われて鍛練
を怠ったか?」
 「そんなことはない・・・です・・・鍛練は毎日欠かさずやってますよ・・・
それでも貴方には及ばないようです・・・」
「・・・かつての同志を・・・」

ミゲール殿は剣を振り上げた。

「仲間を・・・旧友を・・・斬るのは本当に惜しい・・・だが、お前は・・・やり過ぎた・・・許せ!」

剣を突き立てながら、ミゲール殿が突っ込んでくる。

斬られる。私はそれを悟った。

私は体を支えていた剣を構え、闇雲に突っ込んだ。負けることがわかっていな
がら。

「アルベイン流最終奥義・・・冥・・・!」

その時だ。ミゲール殿の動きが一瞬鈍ったのは。視線が眼前にくる私ではなく
、私の後ろにある何かを私の肩越しから凝視している。

私はその瞬間を見逃さなかった。身を屈め、斬撃をかい潜り、そして・・・

胸にサーベルを突き刺した。

人間の死など呆気ないものだ。ミゲール殿は私に寄り掛かるように倒れ、私が
剣を引き抜くと崩れるように道場の床に沈んだ。


・・・なぜ?なぜあの瞬間に何かに気を取られた?あのミゲール殿が剣での勝
負でよそ見など・・・


私は後ろを振り向き、ミゲール殿が気を取られた何かを見た。

気を取られて当然だった。自分の妻が、私の部下に剣を突き付けられているの
を見れば、誰だって。


「何を・・・している・・・?」
「も、申し訳ございません・・・隊長・・・このままでは隊長がやられてしま
うと思い・・・その・・・」
「そうか・・・私は人質を取ってあの人に勝ったのか・・・そうか・・・」

次の瞬間、私はその部下を斬り捨てていた。

「ミゲール!ミゲールッ!!」

ミゲール殿の妻・・・マリア=アルベインは、夫の亡きがらに駆け寄り、揺す
った。

私はその悲しみに満ちた顔に、見下ろすようにサーベルを突き付けた。

「マリア殿・・・お願いです・・・ペンダントの在りかをお教え下さい・・・
私は・・・私はもう・・・」

手が震える。自分のしていることに寒気と、嫌悪と、怒りを感じる。

 「・・・私はもう、無駄に人を殺したくはない・・・。」

 マリア殿は夫から目を離し、私を見上げた。

 てっきり、睨みつけてくると思っていた。きっと、私を汚れた、人間の屑とし
て私を睨むのだと。

 だが違った。彼女の目は哀しみと、憐れみに満ちていた。

「私の知っている貴方はそんな人じゃなかった。お願い。思い出して。自分を
。自分自身の強い意志を。私は貴方を知ってる。本当の貴方は誰よりも平和を・
・・」

次の瞬間。私はサーベルを振り下ろしていた。

自分が自分でなくなっていく。それが手にとるようにわかる。

 だが、それでも、後戻りはできないのだ。

「・・・今何と言った?」
「言った通りだ。トーティス村を、そして貴方の妹を殺したのはこの私だ。オ
ルソン殿。」

私とオルソン殿は、彼の家のソファーに向かい合うように座っていたが、私の
言葉を聞いた瞬間、彼は弾けるように立ち上がった。

私は言葉を続けた。

「いずれ、この家にクレス=アルベインという、お前の親戚が尋ねて来るはず
だ。その時は私に連絡し、引き渡せ。」


 ミゲール殿の家をどんなに探してもペンダントはなかった。となれば、それを
息子であるクレス=アルベインに渡した可能性が高い。

どういうわけか、クレス=アルベインは家にいなかった。いなかった理由がな
んであれ、あの状況の故郷を目の当たりにすれば、血縁者を頼るしかないだろう
。母親の兄であり、自分の伯父であるこのオルソンに。

「もし、引き渡さなければ・・・」

私は剣を抜き、オルソンの首に突き付ける。

「貴方の命と・・・そしてこの街がトーティスの二の舞となるだろう。」
「・・・・・・!」

憎しみに満ちた目で私を睨んでいたオルソンだったが、私の言葉に恐怖したの
か、途端に視線が弱々しくなっていった。

帰り際、オルソンは私に行った。

「変わったな・・・マルス・・・」


 貴方はマルス=ウルドールでしょ?

 お前・・・本当にマルスか・・・?

 本当の貴方は心から平和を・・・

変わったな

同じような言葉を何度も聞いた。何度も聞かされた。そしてみんな同じような
目で私を見ていた。

 憎しみや、怒りに満ちた目ではない。哀しみと、憐れみに満ちた目。

惑わされるな。私は私だ。自分のことは自分が一番わかっている。


そう。わかってる。自分が自分じゃなくなっていくことぐらい。


「ミゲールの息子を捕らえてきました!」

その青年は二人の部下に挟まれ、私の部屋に入ってきた。

私はなるべく強気に振る舞った。

「ご苦労。ふっ、貴様のような若造が持っていたとはな・・・」
「お前らだな?」

部下に挟まれながら、青年は・・・クレス=アルベインは私を睨みつけてきた。

「村を襲ったのは!」
「ふん、知らぬな。」

とっさに嘘をつく自分が嫌だった。

私は青年の首にかかったペンダントをゆっくりと外し、取り上げた。

 「かっ、・・・返せ!」
「このペンダントは貰っておく。おい、この若造の武器を奪って牢に入れておけ。」

私は踵を返し、部屋の鏡の前まで歩いた。


ついに。ついに全て揃った。カギが。この世を絶対的な平和に導くカギが。

様々な犠牲を払った。たくさんの命を絶った。

 私はきっと地獄に堕ちるだろう。天国に逝くことは絶対にない。わかってる。
それでも私はやる。


世界を変えるのだ。


鏡に写る私は、私ではないようだった。まるで。そうまるで。


死神のようだった。


「お前の悪巧みはここまでだ!マルス=ウルドール!!」

私はあそこにいた。三ヶ月前、私の人生が変わったあの場所に。全てが始まっ
た、地下墓地のあの場所に。二人の部下を引き連れて。

二つのペンダントを重ね、一つにする。様々な犠牲を払い、罪と悲しみを背負
って手にした、その二つのペンダントを。

その時、その男は来た。

かつて、ミゲール殿、マリア殿、メリル殿とここで封印を行った男。

トリニクス=D=モリスン。

「ふん、わざわざ見物に来たのか?」

私はまた強気に振る舞った。私の背には、あの棺が音もなく解放される瞬間を
待っている。

 その時、足音がした。三人程の足跡が。

「ほら、仲間も来たようだぞ。」


私の言葉にモリスンは眉を潜めた。彼が振り向くと、そこにはミゲール殿の息
子、メリル殿の娘、そして見知らぬ弓使い。


「お前たちッ!あれほど来るなと・・・!」

モリスンが驚いている間に、私は棺の前へ向かう。

「しまった!」

モリスンが気付いた時には、私は棺にペンダントをかざしていた。

「はははっ!アホゥが!」

ざらにもない言葉を発しながら、私はペンダントをその棺に置いた。

棺を囲むように置かれた、石像の持つ宝石が次々と割れていく。床が不思議な
、紫の光りを放つ。

部屋が、イヤ、世界が揺れ始めた。

「なっ、何だ?」

青い、長い髪をした弓使いの青年はうろたえる。

こうなると、私も有頂天だった。


ついに・・・世界を変えられる・・・!


「さあ、古の王の復活だ。」
「何だとッ!?」
「そうだな、冥土の土産に教えてやろう。」

もちろん、本当に殺す気などない。この棺に眠りし者の力を見せ付ければ、反
抗する気も失せるはずだ。

もう、人を殺すのはうんざりだ。


私は話し始めた。この棺に触れた時に手に入れた情報を。

「ヴァルハラ戦役・・・今より百年前に起こった戦い・・・貴様らも知ってお
ろう。当時、最大を誇った二国の連合を相手に・・・圧倒的力を見せつけた一国
の王がいた事を・・・」

変えるんだ。世界を。紛争も、権力争いもない世界に。全ての国家を一つに統
一し、戦争がない世界を創る。

「その王の名はダオス。しかし・・・その男もあるパーティーの前に敗北する
ことになる・・・」
 「そうだ、そのパーティーの一人が私の先祖だ。」
「モリスンさん・・・?」

モリスンの言葉にクレス=アルベインは戸惑いを見せる。

「奴の名はマルス=ウルドール。ダオス復活をたくらんだ一団のボスだ。」

そうだモリスン。私が首謀者だ。私が全ての元凶。

「そして私とクレス君、それにお嬢さんは・・・その昔、ダオスと戦った者たち
の家系なのだ。」

その言葉に、ミゲール殿の息子とメリル殿の娘は顔を見合わせる。

「ぼくが?」
「私が!?」
「そうだ・・・そして、ここには少なからず、血縁を奴の手によって失った者
がいる。」

その通りだ。私が君達から全てを奪ったんだ。

わかっているさ。私が人間の屑だってことは。

わかっているさ。私が血塗られた、穢れし罪人だってことは。

「これが、君たちと私・・・そして奴・・・マルス=ウルドールとの関係だ!」
「ふん、そんな関係がどうした。」

また私は心ない言葉を言い放つ。

 そうしないと自分を保てない。

そうしないと・・・

罪と、悲しみの重さに押し潰されそうになる。

「・・・モリスンさんには悪いけど・・・」

その時、クレス=アルベインは剣を引き抜く。

私にはわかった。あの剣には憎しみが満ちている。悲しみと憎しみに満ちた剣
を、青年は私に向けている。

「そんなことより、ぼくやチェスターにとって・・・そしてミントの・・・」

三人の若者はそれぞれの牙を剥き、私の前に進み出た。

いっそのこと、その牙に私はやられたかった。その憎しみと悲しみに満ちた牙
にやられてしまいたかった。


私は自分が自分でいることが嫌になっていた。


弓使いの青年は弓を構え、そして叫ぶ。

「お前は・・・オレの妹や、みんなのカタキだ!!」


 顔を隠せる鎧で本当によかった。おかげで、涙を流している顔を見せずに済んだ。

その時だ。またしても世界が揺れた。私を除いた全員が後ずさる中、私は一人
、不思議な閃光を放ち棺から出て来る、古の王に見とれていた。


ダメだ。私はここで死ぬわけにはいかない。この力で、この古の王で世界を変
えるのだ。


この瞬間の為にたくさんの罪を背負った。たくさんの人々の笑顔を奪った。

犠牲になった者たちの魂を無駄にしてはならない。

決して。そう決して。


「おお・・・これが・・・古の王ダオス・・・」

長い、美しい金色の髪をしたその男を、私は見上げる。

さあ。あの言葉を言おう。私の中に入ってきた最後の知識。

これを言えば・・・

私は世界を変えられる・・・!

「ダオスよ、古の王よ。我の命ずる所を聞け。
我が名はマルス・・・マルス=ウルドール・・・」

これで・・・これで・・・

その時だ。古の王がほくそ笑んだのは。

「ふふ。運命の糸に操られていたことに気づかぬ愚か者よ。」


・・・・・・・・・?


おかしい。何かがおかしい。

「何を言っている・・・?」


わけがわからない。確かに私の中に入ってきた知識はこう告げた。

封印を解き放ち、呪文を唱えたものはダオスを思うがままにできる。

「封印を解いた、このオレが貴様の主だ!」

思わず声を荒げた。

 こんなはずはない。こんなことはあってはならない。

古の王はさらに微笑んだ。

「私を、封印した者共を殺し、封印を解くカギを奪わせたのは・・・他ならぬ
、この私自身・・・」

違う。私だ。それをやったのは私だ。私の意志だ。


私自身が望んでやったことだ!


「思い出させてやろうか?三ヶ月前に訪れた時に、何があったかを・・・」

全てが溶けていくようだった。今まで自分が信じてきたもの、信念、意志、夢。


全てが・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・崩れていく

「ぬっ、ぬかせッ!!」

そんなはずはない。こんなはずはないんだ。


古の王は右手をかざし、私に向けた。光が手の平に収束されていく。

「危ない!よけろッ!!」

モリスンが叫ぶ。私は死に物狂いで飛び退いた。

一本の光の柱が私をかすめた。部下達は逃げ遅れ、光に焼かれ、跡形もなく消
し去られた。


「なにッ!?」

私は後退り、壁に背をつける。

違う
 違う
 違う


 これは間違いだ。私は自分の意志で動いていた。操られてなどいない。

 これでは・・・

私は・・・

ただの無能な殺戮者ではないか・・・

「お前にはもう用はない・・・」

ダオスが再び手を掲げる。

私は何をやっていたんだ?たくさんの人を痛めつけ、傷つけ、殺して。そうし
てまで手に入れたかったものに、私は今消されようとしている。この心さえ、奴
が操っているというのか。


 何をしたかったんだ。私は。教えてくれ。誰か。誰か。


「うっ、うわァァァァァッ!!」

私は駆け出す。出口に向かって。

光の熱が迫ってくるのを感じる。一歩一歩が永遠の時間を感じさせる。

夢物語。夢物語だったんだ。私が求めた世界は。永遠の平和など、ありえなか
ったんだ。


光が体を包んでいく。体を焼かれ、自分自身の肉体が滅んでいくのがわかる。


 私はただ変えたかった。この世界を。国を。社会を。星を。

 私が欲しかったもの。それは力。人々を救う力。世界を変える力。

 永遠の平和が・・・永遠の人々の笑顔が・・・

 私は・・・見たかった・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・

死ぬ前に・・・・・・

もう一度・・・・・・


妻の料理・・・・・・

食べたかった・・・な・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

あなた

お元気ですか

あなたが勝手に家を出て行って早三ヶ月。あなたが今どこで、何をしているか
、見当もつきません。

あなたが出て行った夜。私はあなたが家を出る後ろ姿を見ました。まるで何か
に取り憑かれたようでした。

あの時は私も一瞬恐怖を感じましたが、今はさほど気にしていません。だって、
あなたに限って何か悪いことが起きるとは思えませんもの。


ところで私はこのごろ、悪い噂を耳にしました。


先日のトーティス村襲撃の首謀者は、独立騎士団のマルス=ウルドールらしい。


もちろん信じていません。だって信じようがないですから。


私は誰よりもよく知ってます。あなたが誰よりも民を愛し、誰よりも騎士としての誇り
を持ち、誰よりも平和を愛する人だってこと。


結婚式のこと、覚えてますか?あなたったらガチガチに緊張しちゃって。アルベ
イン夫妻の旦那さんが気を紛らわせてやろうとあなたにお酒グビグビ飲ませて。

結局、あなたもミゲールさんもデロデロに酔っちゃって。しまいには互いに雄
叫びをあげながらフォークとスプーンで決闘始めちゃいましたよね。


その姿を私は笑いながら見ていて。ミゲールさんの奥さんのマリアさんは恥ず
かしそうにうつむいていて。マリアさんのお兄さんのオルソンさんは、どうにか
止めようと仲裁に入ったら、ミゲールさんにフォークで頭を刺されてパニックに
なってましたね。覚えていますか。

あなたとミゲールさんは本当に仲良しで。先輩と後輩の仲を越えた、強い何か
で結ばれていた。


ミゲールさんが騎士団をやめて、隊長の座をあなたに譲ってくださった時、あ
なたはとても不安になってましたね。自分に隊長の器が、あの人の代わりを勤め
あげられる程の力量が自分にあるのかといつも頭を抱えてた。

ミゲールさんはあなたの友であり、先輩であり、仲間であり、目標でもあった
人。そんな人が住む村をあなたが襲うはずがない。


私は、ちゃんとわかってますから。

 そうだ。あなたが帰ってきたら、ビックリさせてあげる。


 できたみたい。赤ちゃん。やっと。この歳になるまで授けてくれないなんて、
神様もイジワルよね。もう軽くおばさんなのに。

 でもよかった。このまま子供もなく、二人で静かに生きるのもいいけど、やっ
ぱり私は賑やかなほうがいいもの。


 あなたが喜ぶ姿が目に浮かびます。


きっと、ううん、絶対あなたは跳びはねて喜ぶわ。絶対。賭けてもいい。


 子供にあなたは何になって欲しい?やっぱり騎士?私は嫌です。だって、いつ命
を落とすかわからないもの。

 ・・・私、待ってますから

 ずっと待ってますから

 あなたの帰りを信じて

 いつまでも待ってますから

あなたが好きなシチューの具を、あなたがいつ帰って来てもいいように買って
おきますから。いつでも作れるように。


ずっと待ってますから


あとがき
長編小説で「デミテルは今日もダメだった」を投稿しております。REIOUです。
今回、ユークリッド独立騎士団隊長、マルス=ウルドールの話を書きました。

果たして、今までこの世の中でこの男が主人公の小説を書いた人間が他にいるのでしょうか?ネット検索をしていて、デミテルの小説は何本か見受けましたが、この男を書いた小説は発見できませんでした。

まぁ、マルスを主人公にしようなんて思う人、そうはいないですよね。ゲームじゃ完璧な悪人ですし。

でも、なんとかしてこの男に光を当てたかった。この男もダオスの被害者だということを忘れないで頂きたい。そう思って書きました。

書いている途中、ミゲールとマルスが若い頃の、それこそ結婚する前の下っ端兵士だった頃の物語をちょっと妄想しましたが、それを書く根気はないのでごめんなさい。

もしコメント書いてくれたらとても嬉しいです。どれくらい嬉しいかと言いますと、
アレ、初代の「ポ○モン」でポ○モン図鑑が151匹コンプリートしたぐらい嬉しいですね。友達でやってのけた奴がいまして。うらやましかった。

コメントが無いと正直悲しいです。どれくらい悲しいかと言いますと、初代の「ポ○モン」で伝説の鳥ポ○モン「ファ○ヤー」を捕まえようとしたらファ○ヤーが自爆するという惨事(バグ)が発生するのと同じくらい悲しいです。(実話)あれは悲しいというよりビックリしましたよ。ホント。


無駄話に付き合ってくれてありがとうございました。

それではさようなら。長編小説の「デミテルは今日もダメだった」のほうもよろしくお願いします。

コメント

マルスをこういう視点から書くのもありかもしれませんね。
テイルズの小説をいろいろ見てるけど、
マルスのことを書いた小説は、あなたが初めてだと思います。
あなたには、小説を書く才能があるかも知れません。過大評価しすぎだと思いますが、私はそう思っています。
そうでなければデミテルはあんなに長く続かないと思います。
これからも、いろいろな小説の投稿を待つ
哀れな一読者として、更新日を楽しみにしたいと思います。

マルスをこういう視点から書くのもありかもしれませんね。
テイルズの小説をいろいろ見てるけど、
マルスのことを書いた小説は、あなたが初めてだと思います。
あなたには、小説を書く才能があるかも知れません。過大評価しすぎだと思いますが、私はそう思っています。
そうでなければデミテルはあんなに長く続かないと思います。
これからも、いろいろな小説の投稿を待つ
哀れな一読者として、更新日を楽しみにしたいと思います。

私はこの小説を読むまでマルスのことを考えたことがありませんでした。
マルスもダオスに操られた被害者であることを。
またダオスも自国の為に殺しをする他になかった被害者であることを。
ファンタジア悲しすぎます・・・

私はこの小説を読むまでマルスのことを考えたことがありませんでした。
マルスもダオスに操られた被害者であることを。
またダオスも自国の為に殺しをする他になかった被害者であることを。
ファンタジア悲しすぎます・・・

理由がなんであれ村を壊滅に追いやった人だったからかファンダム旅の終わりでもやはりクレスたちに殺されてた。
しかもアーチェが来るまでダオスを倒そうとしてたし。ダオス倒して彼の最後の言葉聞いた後はあんなに後悔してたのに

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