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デミテルは今日もダメだった【14】

第十四復讐教訓「心頭滅却すれば火も涼し・・・イヤ、やっぱ熱いです」

フレイランド。辺り一面砂漠でできた地域。陽射しが強く、その暑さは尋常で
はない。

そしてここに、炎の精霊がいるとされる洞窟、『熱砂の洞窟』に向かう為、砂
漠を横断する一団があった。

「あ~つ~い~・・・」

デミテルの左肩に乗っかりながら、ジャミルは唸るように言った。船を降りて
からこのセリフをすでに百回以上は言っている。

「あ~つ~い~あ~つ~い~あ~つ~い~あ~つ~い~あ~つ~い~あ」
「ええい!うるさい!人の耳元で暑い暑いと連呼するな!余計に暑いだろうが
ぁ!?」

デミテルは汗だくになりながら怒鳴り付けた。目は軽く虚ろになり、目が少し
すわっている。

「んなこと言ってもねぇ・・・」

ジャミルは目をシパシパさせながら、力無く応対した。魔族にもこの暑さはキ
ツイらしい。

「まったく・・・リミィを少しは見習え・・・」
「あの小娘と一緒にしないで・・・」
「うわぁい♪デッカイ砂場だぁ♪」

デミテル達の前方を歩きながら、リミィは飛び跳ねながらはしゃいでいた。彼
女が通った場所には、即席で作った砂の城や砂の山、または砂の上に指でなぞっ
て描いたたくさんの絵が並んでいる。

「子供は無邪気でいいわね・・・」
「発言が近所のおばちゃんみたいになってるぞ・・・」
「だ、誰がおばちゃんよ!これでも私は二十五よ!ピチピチよ!人型になった
時の私のスリーサイズは・・・」
「ねぇねぇデミテル様ぁ!」

フワフワとデミテル達の元へ引き返して来たリミィによって、ジャミルの話は
強制終了となった。

「なんだリミィ。」
「ちょっ、アンタ、あたしの話最後まで・・・」
「リミィねぇ、ちょっと喉渇いたからそこの川でお水飲んでくるぅ♪」
「ねぇ、ちょっと・・・」
「そうか。とっとと飲んでこ・・・ん?なんだって?川?」
 「・・・・・・。」

デミテルは目をパチクリさせた。ジャミルはうなだれながら話すのを諦めた。

「うん♪すぐそこの川だよぉ・・・」

リミィはフワフワ・・・イヤ、フラフラしながらなにもない方向へ浮遊してい
った。

「・・・おいジャミル。そこに川が見えるか?それとも見えてないのは私だけ
なのか?」
「はぁ?何言ってんのよ?あるわけないでしょ。あるとすればせいぜい三途の
川とか・・・」

デミテルとジャミルの動きがピタリと止まった。それとは対象的に、リミィは
元気に、ユラユラと、順調に三途の川に向かっていた。

「ワ~イ・・・お水がいっぱぁ~い・・・」
「リミィィィィィィィッ!!渡るなぁぁぁぁぁ!!それ三途の川ァァァァァァ
ァッ!!」

デミテルは急いで駆け出し、リミィの両肩をバシッと掴んだ。

「どうしたのデミテル様ぁ?リミィはちょっとお水飲んでくるだけだよぉ・・・」
「待て待て!お前があの世に呑まれる!」

リミィは笑顔だったが、その目は完全にすわっていた。虚ろで視線がデミテル
に合っていない。

「こりゃ完全にダメね・・・・・・」
 「まったく世話のかかるガキだ・・・しょうがない。そこの川で休憩を・・・」
「ってちょっとっ!?アンタも見えてんのッ!?ダメだから!渡っちゃダメだ
から!」

ジャミルはデミテルの頬を羽根でベシベシ叩いたが、デミテルもリミィと同じ
く目が完全にすわっていた。

「ピーピーうるさいぞジャミル。貴様にはあの燦然(さんぜん)と輝く河原が見えんのか?」
「見えないっつうか無いから!そんな川ないから!アンタの瞳に写ってる河原
は冥界への入口よ!」
「何を馬鹿な。それはお前アレだ。心のキレイな人にしか見えない川なんだ。
私は悪人だが、心はピュアだからな。」
「知るかぁぁぁぁぁっ!ピュアな心の悪人てどんな悪人!?ちょっとデカブツ
!この馬鹿を殴って目を覚まさせなさい!」

ジャミルはバッと後ろを振り向き、フトソンに助けを求めた。が・・・

 フトソンは、遥か後方で砂漠の上に正座で座り、ぶつぶつと独り言を言ってい
た。

「いや~そうですかぁ~。お孫さんの誕生日。最近の子供はPS3とかWiiと
かお金のかかるプレゼントを欲しがりますからなぁ~。お互いご苦労なこ
って・・・」
「ちょっとぉ!?誰と喋ってんの!?お互いご苦労って何!?」
「あぁ・・・川の向こうで誰かが手を振っている・・・今、会いに行きます・・・」
「リミィも行くぅ~・・・デミテル様と一緒に川渡るぅ~・・・」
「だから渡るなぁぁぁぁぁぁっ!!」

砂一面の砂漠の真ん中で、インコの絶叫が響き渡った。

「・・・ここか。」

様々な幻聴、幻覚を乗り越えて、デミテル達は熱砂の洞窟の入口に何とか到着し
た。全員どこかやつれていたが、一番やつれていたのは誰あろう、ジャミルだっ
た。

「どうしたジャミル?ひどく顔色が悪いな。」
「・・・アンタ目ェつついてえぐるわよ・・・」

ジャミルは軽くあおすじをたてながらボソリと脅した。彼女はデミテル達が三
途の川を渡らないよう、耳をつついたり鼻をつついたりと尽力したのだが、意識
がもうろうとしていたデミテル達は、その頑張りを覚えているはずがなかった。

「・・・?何を怒っている?・・・まぁいい。とにかく、ここにイフリートがいるん
だなフトソン?お前のじいさんが・・・」

岩山にできた巨大な洞穴の入口を見上げながら、デミテルは確認した。

が、返事が返ってこない。

「・・・?おいフトソンどうし・・・」

デミテルが視線を洞穴からフトソンにやると、フトソンはまたしても正座して
いた。

「いや~。最近はいざなぎ景気とか言って景気が良くなってるって言うけどね。俺達庶民にとっちゃ、言葉はいいから給料上げてくれってね・・・あはは~♪」
「・・・・・・。」

五秒程の沈黙のあと、デミテルの回り蹴りが炸裂した。

「うわぁい。溶岩だ溶岩だぁ♪」

熱砂の洞窟内。中は外以上の灼熱地獄だ。岩の隙間から湯気が立ち上り、あち
こちの大地の裂け目から湖のようになっている溶岩の池が熱を発していた。

溶岩の池と言っても、地面から溶岩までは結構な落差があり、ほとんど溶岩入
りの落とし穴状態であった。

「こんなとこに落っこちたら、丸焼きなんてものじゃすまないんだな・・・」

溶岩が溜まった大地の裂け目を見下ろしながら、フトソンは呟いた。デミテルの一撃のおかげでなんとか自我を取り戻していた。

「丸焼きというか、跡形もなくなるだろうな・・・」

同じく溶岩池を見下ろしながら、デミテルは呟いた。

「死んでもこんなところではしゃごうなどとは・・・」
「えーい♪」

次の瞬間、デミテルの背後からリミィが軽いキックをかました。途端に、デミ
テルは溶岩池に身を投じそうになった。

「うおっ!?ちょっ!?うお!?」

つま先でなんとか踏ん張り、両腕をばたつかせながらデミテルはなんとか踏み
止まった。元々暑さで全身汗だらけだったが、今は代わりに冷や汗が噴き出てい
る。

「デミテル様の動きおもしろぉい♪」
「何もおもしろくないわ!ホント・・・ホント死ぬところだった・・・」

デミテルは洞窟の壁にもたれかかりながらうなだれた。

「アンタ達遊んでる場合じゃないわよ。デカブツ?本当にここにイフリートが
いるんでしょうね?」
「大丈夫なんだな!昔じいちゃんに子守話として毎日精霊の話を聞いてたんだ
な。僕のじいちゃんは昔・・・」
「デミテル様ぁ!こっち来てぇ!変なのあったぁ!」

勝手に洞窟の奥に進んでいたリミィが呼び掛けた。デミテル達は暑さでヨロヨ
ロ(デミテルはリミィのせいで足元もおぼつかせながら)リミィの元へ向かった。

デミテル達は特殊な作りをした扉の前にいた。オレンジ色で渦を巻いたような
その扉は、デミテル達の侵入を頑なに拒む姿勢をとっていた。

「これって扉かなぁ?」
「扉だろうが・・・おそらくは仕掛け扉か何かだろう・・・」
「鍵穴もないみたいね・・・となると、どこかに秘密のスイッチでも・・・」
「うらああああああああああああああっ!!」


ズガシャァァァァァァァァァァン!!


次の瞬間、デミテルの目の前にあったのは、フトソンの右ストレートで粉々に
なった仕掛け扉の残骸だった。

「うわぁい♪フトソンすごぉい!」
「えっへん♪なんだな。」

リミィの言葉に気前をよくして、フトソンは偉そうに胸を張った。その姿をデ
ミテルとジャミルは呆然と眺めていた。

「今のは・・・許されるのか・・・?扉と共にRPGゲームの常識をぶち壊し
たぞ・・・」
「プログラマーの人に謝りたくなってきたわ・・・」

リアルな会話をする二人の目の前で、フトソンはかっこよさげにVサインを決
めていた。

が、そのテンションも長くは続かなかった。何故なら、その扉を越えてすぐに
また同じような作りの扉があったからだ。

フトソンは冷や汗をタラリと垂らした。

「ええと・・・僕もう手の甲がヒリヒリしちゃって、もう一発パンチするのは
ちょっと・・・」
「なぁんだぁ。フトソン役に立たなぁい・・・」
「・・・・・・!」

リミィの心の溝に突き刺さるような言葉に、フトソンはうなだれた。

扉は先程と同じだったが、一箇所違う点があった。それは、扉の中心に小さい
鍵穴があることだ。

本来、ここを開けるには『溶岩の鍵』が必要である。

「今度こそ謎解きをしなければならんようだな・・・」
「そのようね。一旦戻って鍵を探・・・」
「リミィが開けてあげるぅ~♪」

リミィが突然扉の前にフワフワと進み出た。デミテルは眉をひそめた。

「おいリミィ。遊びでやってるんじゃないだぞ・・・」
 「う~んとぉ・・・ここがこうなっててぇ・・・」

リミィは鍵穴を覗き込み、何やらブツブツと言い出した。

「Aが三、Bが二、Cが四、Dが八、Eが一でぇ・・・あ♪こういう作りかぁ・・・」
「・・・・・・?」

その場にいる全員が首を傾げ、謎の専門用語を連呼するリミィの作業を眺めて
いた。

「・・・わかったぁ♪」

そう嬉しそうに言うと、リミィは胸ポケットから一本の針金を取り出した。全
員が呆然とする中、リミィはグイグイと針金を曲げていった。

「できたぁ!」

リミィはカクカクと曲がった針金を誇らしげにデミテルたちに見せ付けた。そ
してそれを鍵穴にソロソロと差し込んでいった。

「(まさかな・・・)」
「(まさか開かないわよね・・・)」
「(そんな訳ないんだな・・・)」

ガチャ。

 デミテル達の予想を見事に裏切り、鍵穴は心地良い金属音をたてた。

デミテル達があんぐりと口を開く中(ジャミルはクチバシだったが)、扉が渦
を巻きながらシュルシュルと開いていった。

「わぁい!開いたぁ!」
「・・・え?ちょ・・・えぅ?」

デミテルはどうリアクションすればいいのかわからなかった。フトソンとジャ
ミルも同様に目をパチクリさせ、呆然としていた。

「どうしたのぉ?早く行こうよデミテル様ぁ。」
「リミィ・・・お前それ・・・・・・どこで覚えた?」
「えっとねぇ、リミィが前住んでたとこだとねぇ、大低の人はピッキングでき
たよぉ。」


だ・か・ら!お前一体どこで育ったんだぁ!?


例の如くデミテルとフトソンは心の奥底で疑問を叫んだが、それを尋ねる勇気
も例の如くなかった。

ジャミルも同様で、軽く犯罪のスキルを持つ少女に驚愕していた。

「ねぇ・・・あの小娘どこから来たの・・・?」

リミィに聞こえないよう、ジャミルはデミテルの耳元で囁くように尋ねた。デ
ミテルは眉間にシワを寄せ、同じように囁いて答えた。

「さぁな・・・ただわかっているのは、アイツの故郷では女が男に頼み事をす
るときは必ず色仕掛けをし、駆け落ちした夫婦がたくさん住み着き、そしてピッ
キングが出来て当たり前のところらしい・・・」
「・・・・・・・・。」

なんて教育上よろしくないところなんだろう・・・

そんな事を思うデミテル達をよそに、リミィは洞窟の奥へと勇ましく進んで行
った。デミテル達もソロソロと後を追った。

しばらく進むとまた行き止まりだった。しかし、壁があるわけでも、扉がある
わけでもない。道がないのだ。目の前に広がるのは巨大な溶岩ホールであっ
た。

「・・・おかしい。二重も扉があったというのに何も無いなど・・・」

デミテルは溶岩ホールの淵に歩み寄った。足元の小石が転がり、溶岩に落ちる
と、ジュッという音ともに小石は溶けてしまった。

デミテルは足元から顔を上げた。ホールの向こう岸は溶岩が放つ湯気で見えな
かった。溶岩には、どうやって作ったのか、何本もの柱が建っている。

本来、この先に進むにはソーサーラーリングが必要不可欠である。

「どうしたものか・・・この先に何かありそうな気がせんでもないが・・・」
「ジャミンコに向こう側まで飛んでってもらうとかぁ!」
「ジャミンコって呼ぶな!私いやよ。こんなトコ飛んでったら暑いったらあり
ゃしないわ・・・」
「・・・鳥肉って煙であぶって燻製にするとスモークサーモンならぬスモーク
チキンに・・・」
「デカブツぅぅぅっ!!まだ私を喰う気満々なわけ!?」
「・・・しょうがない。引き返して別のところを・・・」

デミテルは踵を返し、溶岩ホールに背を向けた。

ふと、空気が変わった。

デミテルの前にいるリミィとフトソンが目をパチクリさせてこちらを見つめてい
る。逆にデミテルと、彼の肩に乗っかったジャミルは、目の前の二人の反応にキ
ョトンとしていた。

デミテルは急に背中が熱くなったのを感じた。元々溶岩の出す蒸気でかなり熱
かったのだが、今はその数倍暑い。

ふと彼は気付いた。リミィ達は自分を見つめてるんじゃない。自分の後ろを見
つめているのだと。

デミテルはゆっくりと、後ろを振り向いた。


男がいた。体はオレンジに赤味がかかった色。とてもたくましい体格で、裸だ。

男は溶岩の上に浮いていた。


しばらく無言の見つめ合いが続いた。デミテルは額からダラダラ汗をかきなが
ら男と見つめ合っている。全身オレンジ男もまた、少し細目の瞳でこちらを見つ
めていた。

三分後、沈黙の扉をついに破ったのはオレンジ男だった。

 男はどこかエコーがかかった、屈強そうな声で語りかけた。

『お前ら、もしかして俺と契約に・・・』
「うわああああああぁっ!?」

間髪入れず、デミテルの渾身の回し蹴りが男の顔面に炸裂した。男は溶岩ホー
ルに落下し、そのまま沈んでいった。

気まずい沈黙が流れた。デミテルは全身から汗をダラダラ流し、リミィはキョ
トンとし、フトソンは青ざめていた。ジャミルも同様だった。

「デミテルさん・・・今のって精霊・・・」
「・・・バ、バカを言うな・・・今のはお前アレだよ・・・ほら・・・溶岩の
中に住んでるただのマッチョなオッサンさ。」
「溶岩の中住んでる時点でただのオッサンじゃないんだな・・・それに、なん
かオレンジ色だったんだな体・・・」
「それはアレだよお前・・・・・・・・・・・・・・・・・・熱中症。」
「熱中症で全身オレンジってなんなんだな!?それに契約がどうとか・・・」
「だからそりゃ・・・アレだよ・・・・・・・・・・・・・・・悪質な訪問販売・・・」
「こんなトコまではるばると!?」
『おい!いってぇなこの野郎!!』

突如、溶岩から火柱が上がった。そしてその火柱の中から先程のオレンジ男が
姿を現した。片方の頬が腫れていた。

三分後、デミテル達はイフリートの前に正座させられていた。イフリートはキ
ックで腫れた右頬を撫でながら問い掛けた。

『おい。』
「なんでございますか。」
『なんで蹴った?なんで俺が話しかけた途端ローリングキックを俺にかました?』
「いや・・・その・・・反射的というか・・・発作的というか・・・野性的というか・・・」
『お前の中のなんの野性が目覚めたんだ!?つまりアレか?怖かったわけか?俺に話し掛けられて?』
「め、滅相もございません・・・怖いなどと・・・・・・ただ・・・生理的に
受け付けなかっただけです・・・」
『余計に人が傷つくこと言うんじゃねえよ!人には言っていいことと悪いこと
があるんだぞっ!!』
「・・・あのぉ・・・」

フトソンが、イフリートとデミテルのどこか論点が微妙にズレた会話に割り込
んだ。

『何だ白太郎くん。』
「・・・見た目だけで名前つけないでほしいんだな・・・とっとこハ〇太郎み
たいなんだな・・・」
『それはすまなかった。で?』
「あのぉ・・・あなたと契約するにはどうすればいいんだな?」

フトソンは恐る恐る尋ねた。するとイフリートはニンマリとした。

『簡単だ。俺と契約するほどの度量があるかどうか、力を示して貰う。さあ来
い!俺の岩をも溶かす灼熱の炎に耐えられ・・・』
「タイムタイム。ちょっと待ってください。作戦タイムを設けさせてくれませ
んか?五分程。」

デミテルは恐る恐る挙手して意見した。イフリートはその姿をしばらく見下ろ
した後、やがてこう言った。

『んじゃ、三分だ。』


デミテル達は端っこに集まり、小声で話を始めた。
「さて?どうやって奴を倒すか・・・」
「その前に一つ質問。」
「何だジャミル。」
「なんで急に敬語になってたわけ?」
「そ、それはお前・・・相手は精霊だぞ?多少の敬意みたいなのをだな・・・」
「じゃあ何でキックしたのぉ?デミテル様ぁ?」
「・・・お前なぁ、よーく考えてみろ。振り向いたら全身オレンジのマッチョ
マンが突っ立ってて、それが話しかけて来たんだぞ?自己防衛というやつだ。」
「・・・つまりイフリートさんにビビったんだな・・・」
「・・・・・・!」

フトソンの最期の一言が、デミテルのハートにグチュビと刺さった。

「・・・で、では改めて・・・どうするわけ?」

あまりにもデミテルがへこんでいるので、ジャミルは話を本題に戻した。後ろ
では、イフリートが「森の熊さ○」を鼻唄で唄って待っていた。

デミテルは気分を切り替えた。

「ふむ・・・火の精霊だからな・・・アイストーネードで・・・」
「待ってよデミテル様ぁ!暴力は良くないよぉ!」
「は・・・?何を言っとるんだ?力を示さねば契約が・・・」
「それでも暴力は良くないよぉ!それに『力を示せ』って何も喧嘩とは言って
ないよぉ!」
「はぁ・・・?」

デミテルは目をパチクリさせた。リミィはニコリと笑うと、イフリートの元へ
フワフワと向かって行った。

「ねぇねぇイフリートさぁん?」
『なんだ?』
「『力を示せ』って言ってたけどぉ、『喧嘩』とは言ってないよねぇ?」
『え?・・・い、いや、言っちゃいないが、考えればわかることじゃ・・・』
「今までもずっとそうして契約してきたのぉ?」
『あ?そうだ。前の契約者も、前の前の契約者も、前の前の前の契約者も・・
・』
「じゃあ新しいことにチャレンジしようよぉ!」
『・・・新しいこと?』


新しいこと


 イフリートはその言葉に興味を持った。

 彼はこの世界の創成時より生きている。実質何億年も生きている。が、滅多に
この洞窟をでることはなかった。出るのは召喚の契約をし、その契約者が生きて
いる間だけだ。その時間でさえ、彼の長い人生にとっては短いものだった。

刺激などない退屈な毎日。そんな彼に、目の前の少女は言う。


新しいことにチャレンジしてみようよぉ!!


イフリートの心の奥底で、何かが煌めいた。イフリートはそれが何か知らない
かったが、人間がそれを言葉で表す場合、こう言う。

イフリートはワクワクした。

『・・・そうだな。「喧嘩」とは一言も言ってないな・・・よし!何か別の勝
負で力を示してもらおう!』

イフリートは拳を上に突き上げると、興奮するように言った。リミィは歓喜し
た。

「うん!じゃあちょっと待っててぇ!何で勝負するか相談してくるぅ!」

リミィはフワフワとデミテル達の元に戻っていった。その後ろ姿を、イフリー
トはワクワクした顔で見ていた。

「すごいわねアンタ・・・精霊を説き伏せるなんて・・・」

ジャミルは半場呆れながら言った。リミィはエヘヘと頭をかいた。

「・・・それで?一体何で勝負するんだ?」

デミテルはリミィの行動に半場呆れながら尋ねた。するとリミィは満悦の笑み
でこう言った。

「ダジャレ大会!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」

全員が沈黙した。無理もない。あまりにも意見が唐突だからだ。

「・・・なんでダジャレなんだな?」
「だって暑いんだもぉん。」
「・・・笑わすのが目的じゃないの?サブいダジャレ言うのが目的なわけ?」
「え?ダジャレって寒いものじゃないのぉ?違うのぉ?」
「イヤ、まぁ、大低のダジャレは寒いもんだけど・・・」
「・・・おいリミィ。そのダジャレを言う役は誰なんだ?」

デミテルは大体見当がついていた。そして案の定、リミィはデミテルの方を向
きニンマリとした。

「もちろん・・・デミテル様ぁ♪」
「・・・溶岩に放り込むぞ・・・貴様・・・」

が、結局デミテルはダジャレ対決をするはめになった。他に何も思い付かなか
ったし、実際、汗だくで暑かった。本当に涼しくなるとは思えなかったが。

『ダジャレ対決!?なんだそれは!?おもしろいのか!?』

イフリートは興奮した。今までそんな単語を聞いたことがなかったからだ。

「ううん。つまんなぁい。つまんないから涼しいんだよぉ。」
『・・・・・・?』

イフリートの頭部に?マークが浮くのが、目に見えてわかった。

「じゃあルール説明なんだな。とにかくダジャレを代わりばんこに言い合って
先に言い尽きた方が負けなんだな。」
『んで、そのダジャレっつうのはなんなんだ?』


まずそこから説明せんといかんのか・・・


デミテルはハァーと溜め息をついた。そしてふと、疑問に思った。

こんなことしてるの読んでて、読者は楽しいのだろうか?

「ダジャレっていうのはいわゆるシャレで、同音や類音の言葉を使って冗談に
いう機知にとんだ文句のことなんだな。『フトンが吹っ飛んだ!』みたいな感じ
なんだな。」
『なるほど・・・よし!かかってこいや!』


イヤ、かかってこいやって言われても・・・とりあえずメジャーなやつを言っ
ていくか・・・


デミテルは大きく背伸びをすると、戦闘を開始した。

「え~と、では・・・『アルミ缶の上にあるミカン』。」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
『・・・・・・』


なんでみんな無言なんだ!?なんでもいいからリアクションしろ!

「アハハァ♪デミテル様おもしろぉい!」

リミィが一人パチパチと拍手しながら笑った。これはこれでイヤだとデミテル
は思った。

「・・・次はイフリ」
『がはぁ!?』

何の前触れもなく、イフリートは突如吐血した。

「ってなにぃ!?なんで!?」
『グフ・・・なかなかやるな・・・』

イフリートは口の血を筋肉隆々の腕で拭った。


イヤイヤイヤイヤ!?なかなかやるなってなに!?私が一体何をしたってんだ
!?


「デミテルさんのダジャレにより、イフリートさんに七十八ダジャ~レのダメ
ージ!なんだな!」
「なんだそれは!?なんでダジャレでダメージ!?つーか七十八ダジャ~レってなんだ!?」
「即席で考えたんだな。数字は勘で。」
『次は俺の番だぁ!』

イフリートは自分の周りに火柱を上げ叫んだ。デミテルはもう、どうにでもな
れという気分になっていた。

『では行くぞ・・・・・・・・・・・・・・・「チーターが落っこチーター」。』


火の精霊なのにまったくこれっぽっちも火に関係ねぇ!?


デミテルと、その左肩に乗ったジャミルはそう叫びたかったが、出来なかった
。多分、ツッコんだら負けなんだと、二人は勝手に悟った。

そして洞窟は、先程と同じく沈黙に包まれた。

「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」


待てよ・・・この場合、私が吐血しないといけないんじゃ・・・しかしそんな
無茶苦茶な・・・


「・・・・・・・・・・・・・・・ぶぁっ!?」

突如、デミテルはリアルに吐血した。


馬鹿な!?んな馬鹿な!?

デミテルは自分の手の平にかかった血に驚愕した。今自分は、イフリートの『
落っこチーター』によって血を吐いたのだ。それが信じられなかった。

「イフリートさんのダジャレにより、デミテルさんに百五ダジャ~レのダメー
ジ!なんだな!」
「おい!なんで私の放った『アルミ缶』よりも『落っこチーター』の方がダメ
ージがでかいんだ!?」
「イヤ、勘で。」
「・・・・・・」

デミテルは青筋をピクピクと立てた。


この勝負はダジャレを言い尽きたら負けじゃないのか?なのに何故ダメージポ
イントがあるんだ?そして何故私は吐血したんだ?


・・・・・・。


この時、デミテルの中で何かが吹っ切れた。


こうなったらとことんやってやろうではないか・・・


「じゃあ、次はデミテルさんの番・・・」
「・・・『イカが怒(いか)ったぁぁぁぁぁぁぁぁっ』!!」

デミテルは絶叫した。あまりにもいきなりだったため、全員ビクリとした。

イフリートはその剣幕に恐れおののいた。

『なんて気合いだ・・・負けるかぁ!「ノームが水を飲む」!』
「『シルフが知る服』!」
『「マクスウェルは鱒(マス)食える?」!』
「『バンシーがバンジージャンプ』!」
「わぁい♪リミィのことだぁ!」

自分の種族の名前が出たため、リミィはうれしそうにはしゃいだ。

ダジャレ合戦はさらに続く。

『まだまだぁ!「ルナは十二星座の塔に帰るな」!』
「『あっ!プルートがアップル食べてる』!」
「今のはかなりわかりづらいわね・・・」

ジャミルは二人の戦いを一番近くで聞きながら呟いた。あまりにもしょうもな
いネタにリアルに寒くなってきていた。

戦いはさらに続いた。デミテルとイフリートはハァハァと互いに息を切らしな
がら戦っていた。

『チィ・・・まだだ!まだ!終わらんよ!「シャドウ!車道に飛び出すな」!』
「『アスカの誕生日は明日か』!?」
「あれぇ?今のもダジャレなのぉ?」
「『明日』は『あした』以外にも『あす』とも読むんだな。だからいいんだな。」

フトソンはわかりやすく解説した。リミィはパンと手を叩いて納得した。

戦いは未だ終わりを見せなかった。

『やられはせん・・・やられはせんよぉ!「忍者は何人じゃ」!?』
「み・・・『ミントとクラースは平民と暮らす』!」
『なにぃ!?ダブルだと!?ミントとクラース両方を掛け合わせるだと!?化
け物か貴様!?』
「はーはっはっはぁ!!このデミテルのダジャレはだてじゃない!」
『くそ・・・ええと・・・ええと・・・』
 「・・・・・・・・・・なんなのよこのわけのわからない戦いは・・・」

 ジャミルは静かに、あきれるように呟いた。

イフリートは苦悩した動きを見せた。これ以上は思い付かないらしい。

デミテルは勝利を確信し、ほくそ笑んだ。だが、同時に安堵もした。彼もこれ以
上思い付かなかったのだ。


ところが、勝利の女神はまだ微笑んではいなかった。

『ああ・・・ああ・・・・・・はっ!?まだだ!まだある!「アザーにあざが
ある」!!』

なにィィィィィィィィ!?

デミテルは雷に撃たれた。まさかまだでてくるとはとは思わなかったのだ。

「ねぇフトソン。アザーってなにぃ?」
「なんか頭に緑色の火が灯ったモンスターのことなんだな。多分この洞窟にい
る・・・」

二人の会話がものすごく遠くで起きているようにデミテルには聞こえた。それ
ほど心が追い詰められ、余裕がなかったのだ。


な、なぜだ!?なぜまだ思い付くのだ!?精霊の思考能力は化け物か!?

・・・イヤ、待て。あまりにもタイミングが良すぎる。私が勝利を確信し、安
心仕切ったちょうどその時に奴はダジャレを放ってきた。何故そんなピンポイン
ト爆撃が!?

偶然か?勝利の女神が私が安堵し、心にスキが出来たところを見計らい、奴が
勝利できるタイミングで天からダジャレを授けたというのか?偶然なのか?偶然
という名の奇跡なのか?

・・・いや違う!!奴は・・・イフリートは・・・!


デミテルは確かに見た。火の精霊が、イフリートがニヤリと勝ち誇った顔でこ
ちらを見たのを。


これだから青二才の坊やはいかんのだよ!

デミテルとやら・・・お前は私が、ダジャレを思い付けず苦悩する姿を目の当
たりにし勝利を確信しただろう。そして思ったはず。もうダジャレを考える必要
はないと。

その時点で貴様の敗北は決定していたのだよ!私が最後に放ったダジャレ、『
アザーにあざがある』は、実は戦いが始まった瞬間から思い付いていたのだ。だ
が私はあえてすぐには使わなかった。この最後の勝負、後半戦の最後の切り札と
してとっておいたのだよ!

貴様が安心仕切った瞬間を見計らい、とどめの一撃を貴様のハートに叩き込ん
だのだ!安堵感に浸っていたお前には大ダメージ!もう貴様に次なるダジャレを
思い付く気力はあるまい!お前の心は今、テンパりまくっているのだからなぁ!
!かーっはっはっはっはぁ!!


まさかこんな手がぁぁぁぁぁぁぁぁ!?どうする!?どうするんだデミテル!
?どうすんだ私!?

考えなければ。早く次の一撃を考えなければ!もしここで私が反撃できれば、
今度こそ私の勝利のはずだ!もしできれば・・・

何か・・・何かネタは・・・


デミテルは全身から汗を垂らし、ひたすら思考した。暑さのせいではない。心
の問題なのだ。

ふと、ネタが浮かんだ。このテンパり状態で思い付けるとはまさに奇跡であっ
たが・・・


これは・・・言っていいのか?


いかん!これは言ってはイカン!これを言うのは絶対に!立場の上でも・・・
・・・どうする?立場をとるか?勝利をとるか?


『おいどーした。もう万事休すか?』

イフリートは両腕を組み、勝ち誇るように笑った。デミテルはしばらく下を向
き、うつむいていたが、やがて、汗だくでニヤリと笑った。


もう・・・どうとでもなれ!


デミテルは大きく息を吸った。肺に酸素が補給されていく。

やがて息が止まった。デミテルはカッと目を見開くと二酸化酸素を放出しなが
ら叫んだ。

「『ダオスを・・・・・だおす(倒す)』!」

デミテルの最後の一撃により、イフリートは自らの敗北の想いと共に宙を舞っ
た。血液の弧を描きながら・・・


 そのさまをデミテルの肩から見上げながら、ジャミルは一言呟いた。


「・・・・・・・・・・・・・・・なんのこっちゃ・・・」

日が傾いていた。デミテル達は夕暮れをバックに、熱砂の洞窟の入り口でイフ
リートと向かい合っていた。

『いやぁ。こんなに楽しい戦い、生まれて初めてだった。ありがとよ。貴重な
体験させてくれて。』
「何を言います。私もです。こんなに何かに燃えたのは久しぶりでしたよ。い
い勝負だった・・・」
『・・・ほれ。これやるよ。とっとけ。』

イフリートは手の平に炎の固まりを作り出すと、その中に逆の手を突っ込んだ。そして、中から一冊の薄い、赤みがかかった革表紙の本を取り出すと、デミテルの手に手渡した。

「これは・・・呪文書?」
『炎の魔術の中で最強の攻撃魔法、エクスプロードの書だ。あんたにやる。ホ
ントは契約者に渡すもんなんだが・・・いいよ。次誰かと契約したらイラプショ
ンの書でも代わりに渡しとくから。』
「しかし・・・」
『俺さ・・・ホントに楽しかったんだ。こうやって誰かと戦いじゃなく触れ合
ったのって初めてだったから・・・また会ったらやろう!ダジャレ勝負!』
「・・・はい!」

デミテルとイフリートは厚い抱擁を交わした。その姿をリミィはうれしそうに
眺め、フトソンとその頭に乗ったジャミルはなんともいえない表情でその様子を
眺めていた。

イフリートは洞窟へと帰っていった。フトソンが破壊した扉の修復をしなけれ
ばならないらしい。

「・・・ねぇデミテルさん?」
「なんだフトソン?」

四人は沈みかけた太陽に向かって歩きながら、話していた。デミテルはとても
吹っ切った、満足気な表情をしていた。

「僕たち・・・ここに何しに来たんだったんだな?」
「何しにってお前・・・そんなの・・・ダジャレ大会しに来たに決まってるだ
ろうが!?」
「・・・イヤイヤ、絶対なんか違うんだな・・・」
「デミテル様ぁ?次はどこの精霊のトコに遊びに行くのぉ?」
 「次は・・・土の精霊ノームだ。」
「遊びに行くのが目的と化してるんだな!?ジャミル!僕は一体全体どうすれ
ばいいんだな!?」
「・・・ほっときましょ・・・私ゃもうツッコムのに疲れた・・・」

つづく


あとがき
自分はこの小説をケータイで書いています。パソコンのタイピングは苦手なのです。ケータイに文章を書き、それをパソコンのメールのところにメールし、そのメール内容を投稿しております。

最初はパソコンで書こうとしたのですが、なんというかこう、ズババババっと書けないんです。それになぜだか落ち着かない。なぜだかソワソワします。どこからか視線を感じます。いまいち話のアイディアが浮かばないです。

そんな、ケータイでしか小説を書けない自分に、母はこう言いました。

「夏休み明けのテストで90位以内じゃなかったら、ケータイ没収ね。」

死んでしまえと思いました♪(冗談です)


あぁ・・・今の自分の順位は約150位・・・一気に60人抜きしなければならない・・・
・・・なんだよ90って・・・中途半端すぎだよ・・・100でいいじゃないですか・・・

・・・がんばろう・・・・・

次回 第十五復讐教訓「日記は三日坊主にならないようにしよう」

コメント

こんばんわ♪

初カキコさせていただきますが、全部読みました!!!!!!!
だれも居ないリビングでこっそりと・・・・
誰かが見てたら変態扱い必至です・・・・

フトソンのキャラが大スキで仕方ないです!!!!

それにしてもよくこんなに沢山の駄洒落を・・・・ものすごいですね・・・
特にミントとクラース・・・笑いました吹きました
しかも何最終的に主旨が違ってんだよぉ!!!!
と思わず突っ込みを入れたくなりました

次回も期待してますので頑張ってください!!!!!

そうですか…。
物凄くエゴですが、テスト応援しています。
でも、例え今回没収されてしまっても、続きを何年でも待ってます。
頑張ってください。

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