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デミテルは今日もダメだった【17】


「お前の母ちゃんがどんな人だったかって・・・?」

五歳だったか六歳だったか。私は父に、人間の父にこう聞いた。

あの家がどこにあったか。それすら私は覚えていない。

 とりあえず覚えているのは、街から少し離れた、森にある小さな小屋が私の家
で、父はガタイのいい、アゴ髭を蓄えた男。髪は私と同じ青。いつも酒ばかり飲
み、仕事先の炭鉱から帰ってくると、ほぼ毎日私を殴っていた、ということぐら
いだ。

 殴る理由は確か、『イライラしてたから』『むしゃくしゃしてたから』『視界
に入ったから』『ストレスが溜まったから』『なんか臭いから』『足の小指を扉
にピンポイントでぶつけたから』『息子だから』などもろもろだ。

そんな生活が私が七歳になるまで続く。炭坑は空気の循環が悪い。肺を悪くし
た父はあっさりと、ぽっくり逝ってしまった。

父が死んだ時、嬉しかったのか悲しかったのかよくわからなかった。確かに暴
力から解放されたのは嬉しかったが、同時に私は生きる術を失い、三年間の生き
るか死ぬかの生活を強いられることになったのだから。

でも、やはり悲しい方が勝っていたと私は思う。毎日殴られたし、暴言も吐か
れたが、それでもご飯はちゃんとしたものを食べさせてくれたし、本当に家から
追い出そうとしたりとかはしなかった。

 それに、たまに、本当に一年に数回だけだったが、父親らしい優しさを見せて
くれる時があったから。

 本当に時々だったが。


その数少ない優しさを見せた一例が、この質問をした時だった。大低の場合、
父に質問をすると殴られるのがオチだったが(単に答えるのがめんどくさかった
のだろう)、その時はアゴ髭を指でなぞり、ウーンと唸ったあと、質問に答えて
くれた。

父は家の床に座り込み、片手に酒瓶を持ち、酒臭い息を私に向けた。

「オメーの母ちゃんはよぉ、本当にキレーで美人で、優しさを絵に描いたよう
な人だったよ。まぁエルフだからな。長い、腰辺りまである赤いキレーな髪して
てよぉ・・・なんで俺みたいな奴のプロポーズ受けてくれたのか今でもわかんね
ぇ・・・」

一息つくと、また父は酒瓶を傾け、グビグビと喉を潤した。

「だけどよ、一つだけ言えることがあらぁ。俺のことを本気で愛してたかどう
かは別にして、少なくともお前のことは心から愛してた。確かにアイツはお前産
んですぐに死んじまったが、身篭ったって医者から聞いた時、跳びはねるように
喜んでたよ。」

父は私にスッと手を伸ばした。殴られるのかと思ったが、予想に反し、私の頭
を優しく撫でてきたので、五歳児ながらも驚愕した。

「オメーは長く生きろよデミテル。母ちゃんは数千年の人生をお前に預けて死
んだ。オメーは元々数千年生きれるハーフエルフだが、もっとだ。何万年も生き
てくれよ・・・あ。そーだ。」

突如父は唐突に何かを思い出した。私から手を離し、また酒を飲んだあと、こ
う言った。

「オメーの名前・・・デミテルって名前だけどよ・・・考えたのは俺じゃねぇ
。死ぬ前の母ちゃんだ。確かエルフの古代語で、意味は・・・」

かけがえのないものを護れる力を授からんことを


・・・護る・・・か


・・・全く名前にそぐわん男になってしまったな・・・

・・・かつての大切なモノを

・・・自ら

・・・握り潰したのだから

第十七復讐教訓 「護りたいものは人それぞれ」


『あなた!来たわ!』


『早く!早く隠すんだ!!その子だけでもなんとか!』


『私達は!?』


『この家は・・・イヤ、この街にはもう逃げ道はない。だがその子を・・・その子だけは・・・』


『・・・わかった。ほら。この中に・・・ベットの下にお入りなさい。いい?
絶対に外に出てはダメ。声を出してもダメよ・・・・・・・・・ごめんね・・・』


『来た!早くその子を・・・』


・・・お家の扉がバーンて開いて・・・


・・・鞘から剣を引き抜く音がして・・・


・・・そして

・・・血の匂いと・・・・・・悲鳴が・・・


・・・ミィ・・・


・・・リミィ!!

「うわぁ!?ビックリしたぁ!!」
「いつまで私の頭に乗っている?首が痛いったらありゃしない・・・」
「ご、ゴメンナサイデミテル様ぁ!!うたた寝しちゃったのぉ!!」
「人の頭の上でか・・・」

デミテルは呆れながら言った。リミィは申し訳なさそうにしながらデミテルの
頭から降りた。

「リミィなんだか汗だくなんだな・・・」
「えぇ!?あ、アレだよぉ・・・寝汗だよぉ・・・」
「寝汗だと!?貴様人の頭の上で汗かいたのか!?まったく・・・何か嫌な夢
でも見たのか?」
「な、何でもないもぉん!!」

リミィはいつもと変わらず、テンション高く否定した。相変わらず汗ばんでい
たが。


何でもないもん・・・

何でも・・・ないから・・・


リミィは誰にもばれないように、その小さな腕でうっすら涙ぐんだ目をゴシゴ
シこすりつけていた。少しだけ体を震わしながら。

「それにしても・・・誰にも会わんな・・・」

灰色染みた色をした洞窟を進みながら、デミテルは呟いた。その後ろからクレイアイドルのディックを頭に乗せたリミィ、木箱を持ったフトソンを連れている。ジャミルはいつ
ものようにデミテルの右肩に乗っていた。

洞窟は思っていたほど広くはなく、道もほぼ一本道のため、迷うことはなかっ
た。だが、どんなに歩いても、ディックの仲間、クレイアイドルを見かけること
はなかった。

「・・・おかしいなぁ。いつもだったら洞窟のどこにでもウロウロしてるのに
・・・」

底が見えない大地の切れ目にかかった橋を渡りながら、ディックはボソリと呟
いた。

「もしかしたらみんなで集まって遊んでるのかも知れないんだな。」

全員が橋を渡り切った後、フトソンが言った。

「遊びぃ?何の遊びぃ?」

リミィはディックを抱きしめながら、不思議そうに尋ねた。フトソンは少し考
えたあと、自分の考えを述べた。

「うーんと・・・・・・王様ゲームとか?」
「・・・そんな合コンにやるような遊び、コイツがやってたら世も末だな・・・他に何かないのか?」

無垢の固まりとも言えるディックの顔を見下ろしながら、デミテルは言った。

「それじゃ・・・まず自己紹介して、そのあと席替えとかして、気に入った相
手と互いの住所交換して、二次会はカラオケ、そのあと運がよければお持ち帰り・・・」
「私が言ったのは遊びの種類だ!合コンの流れを説明しろとは一言も言っとら
んわ!とゆーかなんでそんな詳しいんだお前は!?」
「死んだじいちゃんに教えてもらったんだな。『合コンは男と女の狩猟場だ。めぼしい獲物がいなけりゃ、とりあえず支払いは割り勘。ただし、めぼしい獲物がいたら全額払え。これは獲物をハントすることにおいて基礎中の基礎。男は皆獣であり、同時にハンター
でもあるんだ』って言ってたんだな。」

ビッグフット族の合コンてどんな光景なんだろう、とデミテルは一瞬想像した
が、いろいろと無理がある感じがしたので途中でやめた。

「しかし、実際コイツの仲間はどこに・・・」
「わかったぁ!きっとみんなアレで遊んでるんだよぉ!アレ・・・・・・・・・」

リミィは頭を捻ったあと、こう言った。

「・・・・・・・・・・・・・・・野球拳!!」

二人ほどが同時にずっこける音が、洞窟内に響き渡った。

デミテルは立ち上がり様に一喝した。

「馬鹿か貴様は!?小人が集団で互いの服脱がしあって遊ぶなんてことするわ
けないだろうが!!どんな小人だ!?そんな何の興奮も覚えない野球拳聞いたこ
とないわ!!見る気も起きんわぁ!!」
「じゃあ小人じゃなくて、人間型の女だったら見たいわけ?野球拳?」
「それはお前、男ならとりあえずは・・・あ。」

ジャミルの言葉に乗せられ、デミテルは思わず本音を言ってしまった。彼は顔
を真っ赤にさせた。

 ジャミルは愉快そうに嘲笑した。

「あーあ。デカブツのじいさんの言う通り、やっぱり男はみんな獣ね。ケダモ
ノなのね。こーゆームッツリスケベは暴走すると怖いのよねぇ~♪」
「だ、だぁれがムッツリだぁ!?これはお前アレ・・・その・・・いやらしい
意味で言ったのでは・・・」
「人型の女ぁ?・・・じゃあリミィと野球拳やったらデミテル様嬉しいのぉ?」
「嬉しいだろうけど、やっちゃいけないんだな。そんなことやったらデミテル
さん、変質者として捕まっちゃうんだな。ただでさえロリコンなのに。」
「おい待て・・・いつから私がロリータ・コンプレックスなどになった?」

フトソンがデミテルの問いに答えようとしたその時・・・

バカアアアアアアアアアアアアアン!!

突如、洞窟の奥で何かが叩き割れたような音がした。デミテル達は一斉に身構
え、音がした方を見つめた。

「今の音何なんだな!?」
「待てフトソン。その前にさっきの私の問いに答えろ。」
「岩が砕けたような音・・・何かいるのかしら?」
「変だなぁ?この洞窟の奥には僕らクレイアイドル以外の生き物はいないのに。僕たちに岩を砕くような力はないし・・・」
「おいフトソン。私の質問に・・・」
「行ってみようよぉ!!」

デミテルを除いた全員が洞窟の奥に急いだ。ジャミルはデミテルの肩から離れ、フトソンの頭に乗った。

デミテルは取り残されてしまった。

「おい待て貴様ら!特にフトソン!何なにもかもあやふやにして私の質問なか
ったことにしとるんだぁ!?今の日本の政治はそんなことばっかりだ!!・・・
・・・とゆうか、私を置いていくなぁぁぁぁぁっ!!」

デミテルは急いで後を追って行った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

五分後、デミテルは何とかフトソン達に追い付くことが出来た。見れば、フト
ソン達は巨大な岩に身を寄せ隠れ、何かの様子を伺っている。

デミテルはソロソロとフトソンに近寄った。

「おいフトソン。私の質問に・・・」
「シッ!静かにするんだなデミテルさん!」

フトソンはヒソヒソ声で注意した。デミテルは眉をひそめた。

「私の・・・質問・・・」
「デミテル様見てみてアレぇ・・・」

 岩から頭を突き出し、何かの様子を覗きながらリミィが催促した。デミテルは
もう、さっきまでの話題に戻すのは不可能だと悟った。

デミテルはゆっくりと、岩から身を乗り出し、その光景を目の当たりにした。
 それは、意外な光景だった。


ヒルジャイアント。ニメートルはあろう巨体。レンガのような、赤茶けた色をした肌。
まさに原始人が着ていそうな服。筋肉隆々の体つき。片手には巨大なこん棒を携
えている。

そんなモンスターが十匹程いて、足元にいる、体長五センチ程の小人達を見
下ろしているのだから、中々すごい光景であった。

見れば、一匹のヒルジャイアントの足元に、真っ二つに割れた岩が転がっていた。おそらく先程の炸裂音はアレをこん棒で叩き割った音であろう。

デミテル突き出した首を、ゆっくりと、静かに戻した。まるで、亀が首を甲羅
の中に戻すように。

「おかしい・・・ヒルジャイアントは確か、アルヴァニスタ地方にいるモンスターのはず。なぜこんなところに・・・?」

デミテルは顎を指でなぞりながら呟いた。一方で、リミィに抱かれたディック
はブルブルと震えていた。

「ど・・・どうしよう・・・」

その時、一匹のクレイアイドルが叫ぶ声が聞こえた。かなり声が震えていたが。

「ややややややい!ヒルジャイアント族ぅ!い、いいいいい岩壊せるからってててててぇ、こ、こ、怖くないぞぉ!ぼぼぼぼぼぼ僕たちには効かないもんねぇ!ト、トラ
クタービームしか効かないもんねぇ!」

すると、一匹のヒルジャイアントが、豪快かつ、荒々しい声で笑った。

「だはははは!確かにそーだ。お前らにゃどんな強い攻撃も効きゃしねぇ・・
・だが・・・」

そう言うや否や、ヒルジャイアントはその太い指で、一匹のクレイアイドルをつまみあげた。クレイアイドルは指の中でジタバタしている。

「てめぇらを胃袋に納めるのなんざ、わけねぇぜ。」

クレイアイドルを口の中に放り込む動きを見せながら、ヒルジャイアントは楽しげに脅しかけた。数十匹はいるクレイアイドル達はヒーと息を呑んだ。

「いやーしかし、わざわざアルヴァニスタ地方からこっちの大陸に横断したか
いがあったな。南ユークリッド大陸のモンスターはザコばっかだから、俺達に逆
らえるモンスターは一匹もいやしねぇ。」
「おうよ。この洞窟を拠点に、この大陸を制圧してやろうぜ。ヒルジャイアント王国の完成だ。」

二匹のヒルジャイアントの会話を岩に隠れて聞きながら、デミテルはフーとため息をついた。

「大変だよデミテル様あ!このままじゃディックの友達が食べられちゃうよぉ
!」

なるべく声を小さくしながら、リミィは言った。

 デミテルは目をつむり、しばらく間を置いたあと、こう言い切った。

「・・・・・・・・・・・・洞窟を出るぞ。」
「エェ!?」

フトソンとリミィは驚愕した。その一方で、ジャミルは当然という顔をしてい
た。

「これはモンスター共の縄張り争いだ。我々は関係ない。巻き込まれるのはゴ
メンだ。」
「でもぉ・・・」
「自分達のテリトリーは自分達で護れなければならん。というか、我々は悪人
だぞ?人助けなど、やっている暇はない。ノームはあきらめるしかな・・・そう
だ。ここにはノームがいるのだろう?ならばノームが奴らを助ければ・・・」
「ううん・・・今の時間、ノーム様はお昼寝タイムだから、あと一時間は起き
ないんだ・・・もしその間にみんなが・・・みんなが食べられちゃったら・・・

ディックはリミィの胸の中でボロボロと涙を流した。その姿を見て、デミテル
は冷たく言い放った。

「食われるなら、それも自然の摂理だ。弱い者が強い者の糧になる。それが社
会のつくりだ。人間も、エルフも、そしてモンスターも、そうやって均衡を保っ
てきたのだ・・・」

デミテルは頭をボリボリとかき、一呼吸置いたあと、淡々と話を続けた。

「死は逃れられぬ宿命。ここでクレイアイドルの一族が絶えても、それは仕方
がないことで、宿命なのだ。弱肉強食。それに部外者が首を突っ込むなど、やってはならぬこ・・・」

バシィィィィィィィンッ!!

頬を思い切りひっぱたいた清々しい音が、洞窟内に波のように響き渡った。ヒルジャイアント達は一斉に音がした方を見た。


音のわりには、たいして痛くはなかった。だが、デミテルの右頬は目に見えて
赤くなっていた。

デミテルは呆然としていた。あまりにも突然だったし、なによりも信じられな
かったのだ。

フトソンも、ジャミルも、そしてディックも口を開け、呆然としていた。彼ら
もその行動は予知できなかったからだ。

リミィは、ひっぱたいて赤くなった自分の手の平をさすっていた。

はぁはぁと息を切らし、目に涙をため、本来のエメラルド色の目は、うっすら
と赤くなっている。彼女は、今までデミテルが見たこともないような、強い、キ
ッとした顔でデミテルを睨んでいた。

デミテルはやはり信じられなかった。あのリミィが、自分の頬をひっぱたき、
そして自分を睨みつけている。それが信じられなかった。

「き・・・貴様・・・」
「・・・・・・・・・・・・なんでぇ・・・」

明らかに様子がおかしかった。リミィは小さい握りこぶしを作りながら、フル
フルと全身を震わせていた。もう片方の手に抱かれたディックは、驚愕と恐怖が入り
交じった顔で、少女の顔を見上げていた。

リミィは声を震わせながら続けた。

「なんで・・・なんで・・・目の前にかわいそうな人がいるのに・・・それを・・
・・・・『しゅくめい』とか『せつり』とか、よくわかんないけど・・・どんな
理由があったって、目の前に困った人がいたら護ってあげなきゃダメだよ!かわ
いそうな人がいたら、手を差しのべなきゃダメなんだよ!殺されちゃうかもしれ
ない人達が目の前にいるんだよ!?」
「ば・・・馬鹿か貴様は!!もっと論理的に、理屈を元に考えろ!ここで助け
るということは、それは弱肉強食の社会の循環をだな・・・」
 「誰かを護るのに、理屈なんていらないもん!」
「・・・・・・・・!」

リミィは空中で踵を返すと、フトソンが止める間もなく、隠れていた岩から飛
び出していき、毅然とした表情でヒルジャイアント達の方に向かっていってしまった。

ヒルジャイアント達は最初、何事かとビンタの音がした岩を凝視していたが、リミィが出て来ると途端に拍子抜けしたようだった。

「なんだこのガキ・・・?モンスターか?」
「なんだか知らねーが、帰れ。ぶっ飛ばされてーのか?」

ヒルジャイアント達は嘲笑うように言った。すると、リミィはリーダー格のヒルジャイアントに向かってピッと指を向けた。

「やい!弱い者イジメは良くないんだぞぉ!おとなげないんだぞぉ!」

 「・・・んで?どうすんのよ?」

沈黙するデミテルの肩の上で、ジャミルは言った。フトソンはしばらくうつ
むいて考えていたが、何かを決したか、バッと顔を上げた。

「デミテルさ・・・」
「洞窟を出るぞ。」

デミテルはサッと踵を返し、フトソンに背を向けると、元来た道に向かって一
歩歩みを進めた。

「いけないんだなデミテルさん!このままじゃリミィが・・・」
「私の知ったことではない。あんな役立たず、好きにさせればいい。それに前
々からわかっていることだが、奴は何の戦力にもならんただのお荷物だ。いない
方が清々するし、好都合だ。」
「でも・・・」
「・・・アンタの言う通りね。」

ジャミルは静かに賛同した。

「アタシはとっととこいつの復讐を済ませて、ダオス城に帰りたいのよ。はっ
きり言って、あの小娘は・・・」
「迷惑だ。」

デミテルはゆっくりと、来た道にまた足を進めた。ゆっくりと、少しずつ進ん
でいく。


そうだ。これでいい。清々した。やっとあの疫病神から解放されるんだ。今度
こそ・・・

『誰かを護るのに理屈なんていらない』

・・・初めてだったな・・・私にアイツが反抗するなど・・・

最初で最後の反抗だ。

デミテルはまた一歩足を進める。


奴が私に何をしてくれた?ただ面倒事を運んできただけだろうが。迷惑この上ないんだよ。お前の存在が。

私はお前が大嫌いなんだ。

また一歩進む。

いつもいつもベタベタとくっついてきて、邪魔くさいったらありゃしない。


 いつも騒がしく、馴れ馴れしく、貴様のせいで気が落ち着いた試しがない・・・

貴様のせいで・・・

ずっと、孤独を感じた試しがない。

 「キャア!」

ドカッという、何かが壁に叩きつけられる音がした。リミィがヒルジャイアント
に蹴られたのだ。

デミテルは足が止まってしまった。

止まるな・・・止まるな・・・賢い判断をするんだ・・・私は正しいんだ・・・

デミテルは自らの頭に念じるように訴えかけた。


その時。次に聞こえてきた会話が、デミテルの足に釘を刺してしまった。

「オラちび。早く逃げねえとさらに痛い目あわすぞコラ!」
「・・・いいもん・・・だって・・・だって・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・デミテル様が助けに来てくれるもぉん!」

デミテルは自分の耳を疑った。思わず後ろを振り向き、岩の向こう側から聞こ
える声に耳を傾けてしまった。


馬鹿かアイツは!?さっき喧嘩別れしたばかりだろうが!?どれだけお人よし
なんだ!?早く逃げろ!とっとと逃げろ!頼むから逃げてくれ!


ヒルジャイアント達は突然出てきたデミテルという名前に、キョトンとしていた。

「でみてる・・・?誰だそりゃ・・・?」
「デミテル様は・・・デミテル様は・・・」

リミィはくちびるを切り、血を流していた。片腕に抱かれたディックは怯えき
っていた。

 目はエメラルド色と赤色を混ぜたような、中途半端な色をしている。本当は怖
く、泣きたくてたまらないのだが、必死に耐えていた。

 だが、目の色こそ中途半端だったものの、その視線は強く、勇ましくヒルジャイアントを睨んでいた。

 リミィは言葉を続けた。一言一言を噛み締めるように、ゆっくりと。

「・・・デミテル様は・・・いつも無愛想で・・・ふてぶてしくて・・・
素っ気なくて・・・短気だし・・・すぐ頭叩くし・・・短気だし・・・正直じゃない
し・・・それにちょっとだけ怖くて・・・それに短気だし・・・・・・」

周りのクレイアイドル達は呆然とリミィを見上げている。フトソンは岩から顔
を出し、戦々恐々と様子を覗いている。

「でもね・・・無愛想だけど・・・なんだかんだで世話焼いてくれて・・・正
直じゃないけど・・・本当は優しくて・・・リミィのこと邪魔者扱いするけど、
それでもリミィと一緒にいること認めてくれて・・・」


『・・・好きにしろ』
『ふぇ?』
『ついてくるなりなんなり、好きにしろと言ったんだ!』


「それに時々おもしろくて・・・」

『マッハーフエルフか・・・いいなそれ・・・なんかこう、ハーフエルフを越
えたハーフエルフみたいな・・・サイヤ人を越えたスーパーサイヤ人みたいな感
じで・・・マッハーフエルフか・・・かっこいいなそれ・・・』

「滅多に笑わないけど・・・でも・・・一度だけ・・・デミテル様が一度だけ
リミィの為に笑ってくれたことがある・・・」

デミテルはただ地面に目を伏せ、話を聴いている。

「リミィがデミテル様の島に初めて来た時・・・リミィ、一週間ずっと気を失
って・・・目が覚めた時、デミテル様が前にいて・・・最初、怖かった。この
人はいい人間なのかな?悪い人間なのかなって。でもね・・・」

デミテルは懐に手を突っ込んでいた。そして、時の英雄達との戦い以来、ずっ
と使っていなかったものを取り出していた。

「リミィと目があって・・・・・・しばらくしたあと・・・・・・デミテル様
笑って、こう言ってくれた・・・『目が覚めて良かった』って・・・ああ、この
人はいい人なんだ。怖いけど、本当は優しいんだって・・・だから・・・」

次の瞬間、一匹のヒルジャイアントがリミィの首を締め上げ、上に突き上げた。少しずつ、喉を圧迫していく。

「話は済んだかガキ?デミテルだかなんだか知らねーが、お前がこんな目にあ
ってんのに全然助けにこねーなオイ?人間なんてな、みんなそんなもんさ。一時
優しくても、結局自分がかわいいんだよ。自分さえ助かればいい。それが人間つ
ー種族だ。俺達モンスターなんかより、ずっと腐った心してんだ。きっと逃げ出
したんだろーぜ。その男。」
「あ・・・か・・・」

酸素が行き届かなくなっていく。頭がボーっとしていく。リミィは意識が遠の
いて行くのを感じた。


大丈夫だもん・・・絶対に来てくれるもん・・・さっき喧嘩しちゃったけど・
・・それでも来るもん・・・・・・・・・・・・


さっき・・・・・・お顔叩いて・・・・・・・・・ごめんなさい・・・


デミテル様ぁ・・・

「・・・サイクロン!!」

突如、ヒルジャイアント達の足元から風が舞った。そして、瞬く間に全員を飲み込む竜巻と化した。

「ぐぁぁぁぁぁ!?」

リミィを掴んでいたヒルジャイアントは、驚いた拍子にリミィをぶん投げた。リミィは空中に孤を描き、洞窟の天井スレスレを飛び、落ちていく。

フトソンは岩から飛び出し、急いでキャッチしようとしたが、フトソンの背後
から伸びてきた一本のムチが、地面スレスレのところでリミィの足を掴み、一気
に引き戻していった。

リミィはムチの持ち主の腕の中へポスっと収まった。目をつぶっていたリミィ
は、ゆっくりと目を開け、ムチの持ち主の目を見た。どこか水色っぽい、薄い青
色の目だった。

「・・・・・・私は別に助けたかったわけではない・・・ただその・・・アレ
・・・・・・その・・・・・・・・・やはり多少はバトルシーン作らないと読者
が飽きるだろ?」
「もうちょっと頭使った言い訳思い付かないのアンタ・・・まったく・・・」
「う・・・。」

ジャミルの呟きにデミテルは赤面した。ジャミルはこんなことになることは若
干予想していた。

「とっとと済ませてよ・・・・・・まったく。一体アンタのどこが立派な悪人
なんだか・・・」
「な、何を言う!私はれっきとした悪人だ!もうアレだぞ!歴代のテイルズキャ
ラの中でも五本の指に入るくらいの悪人だぞ!!」
「歴代のテイルズキャラの中の五本の指に入るくらいのただのバカよ。アンタは。」
「む・・・!」
「デミテル様ぁ・・・」

デミテルの腕の中で、リミィは弱々しく語りかけた。そのリミィの腕の中で、
ディックはブルブル震えながら泣いていた。先程の、空中に孤を描いて吹っ飛ん
だのがかなり怖かったらしい。

「さっき・・・お顔・・・叩いて・・・ごめんなさい・・・」
「ふん・・・何度も言うが私はお前を助けたかったわけではない・・・私は・・・」

デミテルはポリポリと頬をかいた。

「貴様は言ったな・・・『何かを護るのに理屈などいらない』と。私が護りた
いのは貴様でもなければそこのクレイアイドル共でもない。プライドだ。貴様如きにビンタをくらい、あんなことを言われて私は腹がたった。だから戦う。以上。」

デミテルの言葉は無理があるような気がした。戦う理由としてはかなりあやふ
やだ。だが、リミィはそんなことはどうでも良かった。


あぁ・・・やっぱり優しいんだ・・・この人は・・・


「おいテメェ!いきなり何すんだコラァ!?」

全身にサイクロンの風でできた切り傷をつけながら、ヒルジャイアント達は怒鳴った。デミテルはビッと指をオーガ達に向けた。

「黙れ筋肉ダルマ共。お前らは一生プロテイン摂取し続けてろ。」
「別に好きでこんなマッチョになったわけじゃねえ!!生まれた時からこんな
体なんだよ!この姿で生きてく以外選択肢なかったんだよ!!」

ヒルジャイアント達はこん棒を振り上げると、デミテルに向けて突進を開始した。ヒルジャイアント達の足元にいたクレイアイドル達は怯えながら隅の方に逃げていった。

「・・・デミテルさんてホントに正直じゃないんだな・・・」

デミテルの横に立ち、突っ込んでくるオーガ達を眺めながら、フトソンは呆れ
ながら言った。デミテルは青すじをピクピクとたてた。

「なんだとフトソン・・・?私のどこが正直じゃないんだ?お前アレだろ。第
十四復讐教訓のコメント欄に読者様から『フトソンのキャラが大好きで仕方ないです』とか書かれて調子にのってるだろう?」
「そういうデミテルさんこそ、第一復讐教訓の読者様のコメントで『一緒にケ
ーキとか食べたいです』とか書かれて嬉しかったくせに。僕知ってるんだな。」
「む・・・・・・。」
「・・・デミテルさんがプライド護るんだったら・・・」

そう言うと、彼はさっきまで身を隠していた、七、八メートルはあろう岩に手
をかけた。

「デミテルさんがプライド護るんなら僕は・・・デミテルさん護るんだな。」

突進してきていたヒルジャイアント達はピタリと足を止めた。何故なら、白い、変な着ぐるみを着た生き物が、その体の数倍はある巨岩を持ち上げたからだ。

デミテルは目を閉じ、ハアーとため息をついた。

「当たり前だ。貴様には五十万五千ガルドも払ってるんだ。それ相応の働きを
してもらわんと困る。」
「まぁ確かにそうなんだな。給料もセンターから貰ってるし。でもそれ以前に
・・・」

フトソンはターゲットを定めた。ヒルジャイアント達は首を横に振り続け、
『無理無理無理!!』とジェスチャーで伝えてきていた。

「昔・・・死んだじいちゃんが言ったんだな・・・『モンスターは誰かに忠誠
を誓ったら、その身滅ぼしてでもその人を護れ』って・・・だから護るんだな。」
「・・・・・・好きにしろ。」

次の瞬間、ヒルジャイアント達の悲鳴が響き渡った。巨大な岩石が、孤を描いて飛んできたからだ。

 「・・・あーくそ。傷がヒリヒリする・・・」

デミテルは、岩に潰されてのびてしまったヒルジャイアントの背中に座り一休
みしていてた。フトソンはクレイアイドル達と戯れ、ジャミルはいつも通りデミ
テルの肩に乗り、リミィは油性マジックでのびたヒルジャイアントの顔に落書き
していた。

デミテルは頬やら腕やらが擦りむけていた。フトソンが岩でヒルジャイアント
を一網打尽にしたあとも、生き残りと戦っていたからだ。

「おいリミィ・・・さすがに額に『肉』と書くのはかわいそうだろう・・・」
「顔に落書きする時は額に『肉』って書くのは基本なんだよぉ♪」
「何の基本だ・・・しかも油性マジックをどこから・・・ハァ。」

 デミテルはゆっくりと立ち上がった。

「お前ら。そろそろ洞窟を出るぞ。」

デミテルはフトソンとリミィに呼び掛けた。

「あのぉ・・・」

足元から声がした。デミテルが見下ろすと、そこには、警報器の木箱を抱えた
ディックがこちらを見上げていた。

「助けてくれて・・・ありがとう・・・」
「別に助けたつもりはない。そこの筋肉ダルマ共は煮るなり焼くなり好きにす
ればいい・・・・・・・・・・・・もう迷子になるなよ。」
「うん!わかった!この筋肉ダルマ達は焼いて食べるね♪」
 「そ、そうか・・・」

 怖いことをさらりと言うなぁ・・・

 デミテルはちょっぴり恐怖した。

すると、ディックはグイっと木箱を持ち上げた。そして、申し訳なさそうにこ
う頼んだ。

「お願いなんだけどこの警報器を壁に引っ掛けてくれないかな?身長的に無理なんです・・・」


 十分後、デミテル達は洞窟を出た。

「何度も言うが、私はお前を助けたかったわけではないからな。ホント違うから
な。断じて違うからな!」
「わかってるよぉぅ♪」
「おい!何でそんなニヤニヤしてるんだ!?違うと
言ってるだろうがぁ!?」
「・・・ホント正直じゃないんだな・・・デミテルさん・・・」
「まったくだわ・・・はぁ・・・早くインコから元に戻りたい・・・」

 「・・・それにしても、人助けすると気分がいいんだな~♪」
 「私は人助けなどやった覚えはない・・・」
 「そうだよフトソン♪困ってる人がいたら絶対助けてあげないといけないんだ
・・・よぉ・・・」

 その時、リミィの表情が一瞬曇った。

 「そうだよ・・・助けないといけないの・・・目の前に困ってる人がいたら・
・・絶対に・・・」

 フトソンやジャミルは気付かなかったが、デミテルは一瞬見た。少女が右肩を
抑え、何かに恐怖し、震えたのを。

 「・・・リミィどうし・・・」
 「と・こ・ろ・で!!」

 突如ジャミルが声を張り上げた。そして全員が、イヤ、もしかしたら読者様でさえ忘れていたかもしれないことを思い出させた。

 「アタシたちはぁ・・・ここに何しに来たのかしら!?」
 「何しにってお前・・・土の精霊との契や・・・ってあああああ!?また忘れたあ
!?」

 夕暮れ空の中、デミテルの絶叫が南ユークリッド大陸に響き渡った。同時に、
先程のリミィの行動のことなど、完全に頭からふっ飛んでしまった。

つづく


あとがき

                 42


42・・・・・・・少年はその数字を見たとき自分の目を疑った。

前回、定期テストで約150位という成績をたたき出した男が

「夏休み明けのテストで90位以内じゃなかったら、ケータイ没収ね♪」

と、母親に言われて、その結果、42位という、自己最高成績を出したからである。


そしてその結果が書かれた紙を母親に見せると、母はある程度褒めたあと、こう言った。


「この成績をキープしなさいね♪」


・・・・・・・・・・。


死んでしまえと思いました♪(冗談です)


・・・というわけでこのアホンダラな小説はまだ続きます。読んでくれてくださってる方々、これからもご愛読よろしくお願い申し上げます。


最近気づきましたが、デミテルってゲームだと鞭を使って戦ってたということを思い出しました。今更になって本人に使わせました。


次回 第十八復讐教訓 「夜中に甘いもの食べると体に良くないよ」

コメント

42位おめでとうございます!
携帯権キープですね。

今回、初めてジャミルがいてくれてよかったと思いました。
「洞窟を出るぞ」と言った時、もしデミテルが独りだったら
デミテル好きの私としては、読んでいて苦しくて仕方ありませんから。
ちなみに私はテイルズキャラの中で一番なのはなおのこと、
二次元キャラまで広げてもデミテルが一番好きです。
もう七年前からです。
彼の母親はさぞや可憐だったと想像しています。

42位おめでとうございます!
携帯がキープされたとわかって、一安心しました。 
今回の話はいつになくシリアスでしたね。
まあ、たまにはこういうのもありなんじゃないかと思います。それでもいつものボケや、チャットにしたら楽しそうな会話があって本当に面白かったです。
特に、この筋肉だるまは焼いて食べてるね。
の所はほんとに大爆笑しました。
それではまた、次回も楽しみにしています。

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