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デミテルは今日もダメだった【20】

全身が冷たい。ひんやりとした、べたついた感覚。

私は何をしていたんだっけ・・・

確か

波がきて

岩に飛び移ろうとしたら

岩じゃなくてイカで

そのあと・・・

そのあと・・・

第二十復讐教訓「浦島太郎ほどかわいそうな昔話の主人公はいないと思う」

「やーいやーい!バーカバーカ!」

けたたましい声がしてデミテルはパッ目を覚ました。

デミテルは全身をびちゃびちゃにして洞窟に横渡っていた。服が体にピチャっ
と引っ付き、気持ちが悪かった。

デミテルはゆっくりと立ち上がった。首の右側をどこかにぶつけたらしく、ジ
ンジンとした。


あれだけの波に流されて生きているとは、我ながらすごい悪運だな・・・


 デミテルが自分の運の良さに感心していると、また先程の声がした。

「やーいやーい!バーカ!」
「・・・さっきから何だ・・・?」

デミテルは眉間にシワを寄せながら、声のする方を見た。

イカが三匹、少女をいじめていた。

・・・・・・・・・・・


・・・ってええええええええええぇっ!!?なんじゃそらぁ!?

突如として出現した不条理な光景に、デミテルはただただ驚愕した。


『子供が三人で亀をいじめている』という描写なら聞いたことがあるが、『イ
カが三匹で少女をいじめている』なんて描写聞いたことないぞ!?


イカと言ってもただのイカでは無い。人間と同じぐらいのサイズの巨大なイカ
型モンスター、スクイッドだ。さすがにもう、岩に間違えることはなかった。い
じめられている少女は、赤い、長い髪をしていた。


どうするか・・・とりあえず助けるか・・・


 その時、デミテルの脳裏である言葉がよぎった。

 デミテルさんただでさえロリコンなのに・・・


・・・私はロリコンなどではない・・・!断じて違う!!


そう自分に言い聞かせながら、デミテルはゆっくりと三匹のイカに歩み寄った。

「おい。そこのイカ。」
「あん?んだテメェはぁ!?殺されてぇのか?あん!?」
「イカのくせにずいぶんと口調が荒いなオイ・・・」

デミテルは淡々と呟いた。三匹のイカはデミテルの方を睨み付けてきた。

「テメェこの辺の奴じゃねぇな?どこの組のもんじゃコラぁ!?」
「どこの組って・・・」
「どうやら俺らのこと知らんよーやな兄ちゃん?え?わしらの恐さを知らんと見える。」
「わしらの恐さって・・・アレか?イカを電子レンジで温めると中で爆発する
アレか?」
「なめとったらあかんど兄ちゃん!!いてまうでコラぁ!?」
「なんでイカの癖にこんなヤクザ的喋り方なんだこいつら・・・イカなのに・
・・」

イカ達の脅しに、デミテルはちっとも恐怖を感じなかった。どんな凄みを効か
されても、『イカ』という既成事実が恐怖を生み出すのを頑なに拒んでいた。

三匹のイカは、自分達に全く恐怖しないデミテルに怒りを覚えた。

「おんどれ、どうやらわしらのこと知らんよーじゃの。わしらが、ここらでも
っとも恐れられしイカであることを・・・」
「もっとも恐ろしいイカって何だよ・・・アレか?刺身で食べると必ず食あたり
になるとかそんなのか?」
「・・・わしらは・・・」
「合・体!」

突如、三匹のイカが同時に叫んだ。デミテルが驚愕する中、三匹は飛び上がり、そのまま・・・

組み体操のピラミッドになった。

「わいらこそ最強最悪のイカのギャング・・・その名も・・・・・・・・イカ3(さん)!」
「・・・・・・・・。」

あまりにもツッコミ所が満載の為、デミテルはツッコミの順番に悩んだ。

「・・・おい?」
「なんや?恐ろしさのあまり、命ごいか?」

三匹のイカは口調を完璧にシンクロさせて話した。デミテルは別の意味ですご
いと思った。

「なんでイカ3(さん)なんだ?イカスリーとか、イカ・トリオとか、イカーズ
とかなんかそんなんあるだろ?何故日本語読み?」
「バッキャロォ!お前は日本語の素晴らしさを何もわかっちゃいない!日本語程表現力が突飛した言語はないんだぞぉ!?」
「なるほど・・・決してウケ狙いでイカ3にしたわけではないんだな?」
「ウケ狙いは三割程意識しているが、断じて違う!!」
「言ってること無茶苦茶だぞ貴様ら!?お前らが一番日本語使いこなせてない
だろうが!!大体なんで組み体操でピラミッドなんだよ!?しかも三匹だけで!
!どんだけちっさいピラミッドだ!!」
「テメェェェェェ!!まだイカをナメてんのかぁ!?イカはなぁ!タコより四
本も足多いんだぞ!!タコは八本、イカは十二本だ!!どうだぁ!?食べられる
ところがタコより四ヶ所も多いんだ!!どうじゃ!?ストレッチパワーがたまっ
てきただろ・・・」
「たまるかぁ!!なんで突然ストレッチパワーなんだ!!わかる人にし
かわかんらんだろうがぁ!!」

デミテルはだんだん嫌気が刺してきた。なんでイカとこんな意味不明な会話を繰
り返さなければならんのだ?

もうなんでもいいや・・・


 「おいイカども。焼きイカにされたくなければとっとと立ち去れ。最強最悪の
ギャングが幼女をいじめてどうする?」
 「ふ・・・どうして俺達がこのガキをいじめていたかわかるか?」
 「・・・なんでだ?」
 「それは!」

 三匹のイカは足を一本ずつビッと宙に突き上げ、断言した。

 「それは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・ある種の興奮を覚えるからさ!!」
 「貴様らただの変態だろうがぁぁぁ!?」
 「ぶっふぁ!?」

 デミテルは雄叫びをあげながら三匹のイカに回し蹴りをかました。イカ達は一
斉に壁に叩きつけられた。

 「いてて・・・テメェよくもやりやがったなぁ!?おい!マック!オルトガ!!奴に『イカ・トリオ・ジェットストリームアタック』を仕掛けるぞぉ!!」
「よっしゃ!!いくで!!」
「わいらの恐ろしさを見せ付けたるでぇ!」

イカ3は謎の対列を組みながら、デミテルに突進してきた。

デミテルはハァっと溜め息をつくと、人差し指を口元に当て、ぶつぶつと呟き
、その指をイカ3に突き付けた。

「何故・・・何故ユニット名が『イカ3』なのに技の名前が『イカ・トリオ・ジ
ェットストリームアタック』なんだぁ!?そこにトリオ使うんだったらユニット
名もイカトリオでいいだろうがぁ!?イラプション!!」

次の瞬間、イカ達の悲鳴があがった。彼らの足元が赤くなり、炎が噴き上がっ
たからだ。

「ギャアアア!?焼かれるぅ!?」
「退却じゃ!!退却じゃぁ!!」
「奴め!!間違いなくニュータイプ・・・じゃない、エルフだぁ!!」
「エルフじゃない・・・ハーフエルフだ・・・・・・・・・・・・さらに言え
ばマッハーフエルフだ・・・」

体からシュウシュウと煙をあげながら逃げていくイカ達の背中を見ながら、デ
ミテルは呟いていた。

「あの・・・」

足元から声がした。見ると、先程いじめられていた赤毛の少女がこちらを見上
げていた。体は少し浮いていた。

「ス、スイマセン。た、助けてくださってありがとうございました。」

少女はひどく謙虚で、丁寧な口調をしていた。リミィもこういう感じだったら
いいのにな、とデミテルは思った。

 「気にするな・・・ただ見捨てたら見捨てたで、あとでどっかのむせび泣きモ
ンスターにまた平手打ちでもくらったらたまらんからな・・・」
 「???」

 デミテルの独り言に近い呟きに、少女は首を傾げていた。

 「・・・あ。スマン。こんな話してもわからんか。ただの独り言だ・・・さて。早くあの馬鹿どもを見つけだして、水の精霊を探さなければ・・・」
 「・・・あのスイマセン・・・」

 デミテルが歩きだそうとしたとき、赤毛の少女がモジモジと問いかけてきた。

 「なんだ?」
 「私知ってます。精霊様の居場所。」
 
 少女はフワフワとデミテルの顔の位置まで飛び上がった。

 「あの・・・よろしければご案内しましょうか?精霊様の元まで・・・」
 「・・・・・・。」

 デミテルは考えた。リミィ達を捜してから水の精霊を探すか、先に水の精霊に
会うか。


 ・・・あの馬鹿どもを探すのはそう難しくはないだろう・・・騒がしい方を探
しにいけばいい・・・となると・・・


 「よしわかった。お前を信用してやろう・・・まっすぐ精霊の元まで行けるん
だろうな・・・」
 「は、はい。スイマセン。ま、任せて下さい・・・」
 「もう少し自信を持って返事をしてくれ。」
 「あ・・・は、はい!!スイマセン!任せて下さい!!もう絶対連れていきま
す!!もしダメだったら私のこと好きにしてくださって結構ですから!!」
 「・・・・・・・・。」


 ・・・私はそんなにもロリコンに見えるんだろうか・・・


 デミテルは少しだけ自分に自信を失った。

 「わかった・・・では案内を頼む・・・あと、仮にたどり着かなくてもお前の
ことを好きなようにはしないから安心しろ・・・・・・ところで、お前の名前は
?」
「は、はいスイマセン・・・あ!わ、私、ナーレッド族のアンと申します!え
っと、趣味は貝殻集めで・・・」
「そこまで聞いてない。」
「あ!スイマセン!えっと・・・ではどうぞ!ついてきてください!」

アンは何度もスイマセンを連呼しながら、デミテルと共に洞窟の奥へと進んで
いった。

「デミテル様ぁ~?どこぉ~?」
「デミテルさーん?」
「おーい。ムッツリスケベー!」

ジャミルの掛け声に、フトソンはガクッと肩を落とした。

「ジャミル・・・そんな呼びかけじゃ仮にいたとしても恥ずかしくて出て来れ
ないんだな・・・」
「そうだよジャミンコぉ!せめてムッツリは取ろうよぉ!」
「何故スケベには異義ないのアンタ!?」

フトソンの頭にのっかりながら、ジャミルのツッコミが入った。

フトソン達は水浸しの洞窟を歩いていた。先程まで洞窟は大波によりプール状
態だったが、時が経つにつれて水は引き、地に足がつけられる程になっていた。

リミィとフトソン達が合流したのは、それから数十分後のことだった。お互い
に『デミテル様ぁー』『デミテルさーん』と呼び合ううちに、三人は合流するこ
とができた。

「にしてもなんで急にあんな大津波が起きたのかしら?ちょっと小娘?アンタ
どっかで変なスイッチとか押さなかったでしょうね?」

ジャミルの疑いの目に、リミィは憤慨した。そして

「失礼だなぁジャミンコぉ!リミィ変なスイッチなんて押してないよぉ!変な
レバーなら倒したけどぉ!!」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」


そんな・・・自信満々に自らの罪を告白しないでよ・・・イヤ、本人は罪だな
んて思ってはないだろうけどさ・・・


フトソンとジャミルは心の奥底で呟いたが、このことについて言及するのはな
んだかめんどくさい気がしたのでやめた。リミィは不思議そうに、ひきつった顔
をする二人を見上げていた。

「どうしたのぉフトソン?ジャミンコぉ?」
「何でもないんだな・・・それにしてもあの練乳ぶっかけ甘党バカはどこ行っ
たんだな・・・」
「もしかしたら死んでっかもね♪なーんて・・・・・・・・・はっ!?」

ジャミルは笑いながら冗談を飛ばしたが、すぐにその笑いは止まった。リミィ
が今にも泣き出しそうな、ひきつった表情でこちらを見上げてきていたからだ。
ジャミルは顔を青くした。

リミィは例の如く、エメラルド色の目を真っ赤にし、涙目になりながらしゃく
りあげた。

「ヒッグ・・・デミテル・・・様・・・し・・・死んじゃった・・・のぉ・・
・?」
「・・・ば、バカね!冗談よ冗談!こ、これぐらいのことで死ぬたまじゃないでしょ
!?きっと今頃練乳すすりながら洞窟ん中歩いてるわよ!ねぇデカブツ!?」
「そ、その通りなんだな!きっと今この瞬間にも糖尿病になる勢いですすって
るに違いないんだな!きっと元気なんだな!」

フトソンも慌ててフォローに回った。かつてリミィのむせび泣きで眠らされた
時のことははっきりと覚えていた(おまけに起こされる時は額に槍をぶっ刺され
るという悲劇も)。

が、フトソンのフォローは裏目となった。

 「デミテル様が・・・デミテル様が・・・デミテル様が糖尿病で死んじゃうよ
ぉ!!」
「あーもぉ!いちいちめんどくさいわねアンタはぁ!!いまさらアイツが糖尿
病になるのは目に見えてるでしょ!?もう手遅れだから!んなことよりとっとと
あの糖尿魔術師を捜すわよ!!これ以上主人公無しで会話成り立たせるには限界
があるんだから!!」
「いきなり話が超生々しくなったんだな・・・」

フトソンの呟きを、ジャミルはスルーした。

「とにかく道はアタシが覚えてるから、アタシの言う通り歩いていくわよ!さ
あついてきなさいバカども!!このメンバーで一番脳みそがしっかりしてんのは
アタシだけよ!」
「事実上脳みそが一番ちっちゃいのはジャミルなんだな・・・」
「私は密度があるからいいのよ・・・ってどうでもいいわぁ!!」

一匹のインコは、白い生き物と半泣きの幼女をひきつれ、洞窟を進んでいった。


 「・・・ここにいるのか?」
 「はい。」

デミテル達は洞窟の一番奥に到着していた。本来ここに来るには数々の仕掛け
を解かなければならないのだが、彼らはモンスター達のみぞ知る裏道を通った為
(アンが壁に向かって『開けワカメ!』と叫ぶと、壁が割れて道ができた)、何
の苦労もなく来ることができた。

アンは、壁にかかった一本の上下作動式レバーに手をかけた。

「おい。」
「なんですか?」
「それ、倒した瞬間にビックウェーブがきたりしないだろうな?」
「そういう作りのトラップもありますが・・・このレバーは大丈夫ですよ。」
「そうか・・・ならいい・・・」

未だに水分がたまったままで湿っているマントを雑巾のように絞りながら、デ
ミテルは安堵した。アンはガコンとレバーを倒した。

すると、洞窟が一瞬ガコッと揺れた。そして気がつくと、デミテルのちょうど
足元に、マンホール状の穴が空いていた。

デミテルは少しドキドキしながら穴を見下ろした。中は真っ暗闇で、一寸先す
ら見えない。

「この下にいるのか・・・?何だか薄気味悪いな・・・」
「大丈夫です。見た目以上に深くないですから。あ、マグロの刺身食べますか
?食べると勇気が沸いてくるって、私のおばあちゃんが言っていたような気がし
たけれどももしかしたらお隣りの青柳さんちに定職にもつかずダラダラとニート
的生活を続ける遠い親戚の武夫さん(29)が言っていたような気がする。」
「そうか・・・二十九でニートで居候はキツイな・・・って知るかそんなこと
!!早く定職につけ武夫!!後悔先に立たずだぞ!!って何のアドバイスしとる
んだ私は!?」

自分自身にツッコミを入れながら、デミテルは叫んだ。

「大体なんでこの世界観に武夫さんなどという存在が存在するんだ・・・」
「えい。」
「え?」

次の瞬間、デミテルは穴の真上にいた。背後からアンが小突いたのだ。

「ちょっ、まだマグロ食ってな・・・」

デミテルがツッコミを言い切る前に、彼は穴に垂直に落ちていった。


ひゅう~~~~~~~~~~~~・・・


・・・グギ


「うがっはぁ!?」

地面に着地した瞬間、デミテルは糾弾した。穴は確かに深くはなかったのだが
、垂直に着地したせいで、膝にもろに体重がかかり、関節が鈍いイヤな音をたて
たからだ。

「大丈夫ですか?」

膝の関節をさすっているデミテルを見下ろしながら、アンがフワフワと降りて
きた。

「やっぱりマグロ食べるべきでしたね・・・」
「関係ないわぁ!マグロ食ったところで解決出来る問題じゃないんだよ!!」
「でもアレ・・・DHAが豊富ですよマグロ?」
「DHAに骨を丈夫にする作用などないわ!記憶力よくなったり目に良かったりするんだよ!!」

デミテルが膝をさすりながら的確に、アンはシュンとしてしまった。

落ちた部屋は真っ暗で何も見えなかった。落ちてきた穴から一筋の光が差し込
むばかりである。

「・・・それで?水の精霊はどこにいるんだ?」
「あなたがあれほど叫んだのでそろそろ現れると思いますが・・・その前に一つ忠告していいですか?」
「忠告?なんだ?」

水の精霊はいつ現れるのかと暗い部屋をキョロキョロしながら、デミテルは尋
ね返した。

 アンは申し訳なさそうに言った。

「その・・・精霊様・・・すなわちウンディーネ様にあったら、とりあえず低
姿勢な感じでお願いできますか?」
「は?低姿勢?」
「ウンディーネ様はその・・・アレ・・・俗に言う・・・・・・・・・・・・
・・・サディストなんです。」
「・・・・・・・・。」

サディスト・・・?サディストってどういう意味だったっけ・・・・・・

サディスト

意味:サディズムの傾向をもつ人。広く、残忍なことを好む性格の人について
もいう。

「平たく言えば・・・ドSです。」
「・・・・・・・・。」

何か急にこの小説の対象年齢上がってないか・・・?大丈夫なのかコレ・・・

デミテルが本気で心配をしたその時、突然穴の中が明るくなった。

穴の中は円状の広間になっていた。デミテルはその中心にいたのだが、周りを
見回してもやはり精霊の姿はない。

「・・・?まだ現れんのか?」
「あの・・・」
「なんだ?」
「下・・・」
「は・・・?下・・・」

デミテルの顔の血色が一気に悪くなった。というのも、まさに、自分の足の下
に、一人の女性がうつぶせになって倒れているからだ。

デミテルはウンディーネの真上に落ちていた。

「・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・。」
 「・・・・・・・・。」
「・・・・・・とりあえず下りたほうがよろしいので?」
「え?あ、そうだな・・・」

あまりにも沈黙が長かったため、このまま話の終わりまで引っ張ろうかな?っ
とちょっとだけ目論んでいたデミテルの思惑は日の目を見なかった。

デミテルはゆっくりと女性から下りた。何も反応しない。もしかしたら死んで
しまったのではないかと本気で心配したデミテルは、女性の前にしゃがみ込み、
頬をペシペシと軽く叩いた。

「おい起き・・・」
「触るな愚民めがぁぁあぁぁぁぁぁぁ!!」
「ぶっはぁぁ!?」

ウンディーネは起き上がり様に右ストレートをデミテルの顔面にかました。デ
ミテルは悲鳴を挙げながら、壁まで殴り飛ばされた。

 「けほ!かは!せ、正拳て・・・普通ビンタじゃないのかコレ?」

 軽く流血する鼻を抑えながらデミテルは立ち上がった。そして、改めて自分の
顔面にに右ストレートをかました女を見た。

髪は水色でセミロング。後頭部からは龍の角のようなものが二本飛び出してい
る。目は赤い。両肩には曲線を描く白いショルダーがあり、服、もとい靴も水色
であった。服はかなり足の露出が強く、また、体のおうとつが目に見えてくっき
りとし薄く、かなりセクシーであった。その手には、自分と同じ身長くらいの大
きさの大剣が握られている。柄には巨大な赤い宝石が組み込まれていた。


その美しさにデミテルは一瞬見とれたのだが・・・

「アイスニードル。」
「ざほ!?」

デミテルの後頭部に氷の針が一本刺さった。

「死ぬ!?死ぬぅ!?露骨に死ぬぅ!?」
「貴様・・・突如としてわらわの部屋に押し入り、その上このわらわを押し倒
すなど・・・貴様アレか!?わらわが眠っている間にあんなことやこんなことや
《ピー♪》や《ピー♪》を《ピー♪》して・・・」
「おいぃ!!放送事項に引っ掛かるようなことを言うなぁ!!ピー音がかかっ
た小説ってどんな・・・」
「黙れ愚民がぁぁぁ!!」

ウンディーネの怒りに呼応するように、さらなる氷の針がデミテルを襲った。
デミテルは後頭部に刺さった針を抜き取ると、必死に地面を転がりながら避け切
った。

「お、落ち着いてくださいウンディーネ様!あの方はウンディーネ様を《ピー
♪》するために来たのではありません!!」
「なんじゃとアン!?《ピー♪》のためにきたのではないのか!?」
「そうです!ウンディーネ様を《ピーーーーーーーーー♪》に《ピーーーーー
ー♪》ではなく《ピ・・・」
「おい!いい加減にしろぁ!!もう何が言いたいのかわけわかんなくなってきてる
ぞ!!」

あまりの酷い会話に、デミテルは激怒した。どうでもいいことだが、作者はこ
の会話シーンを書き上げ、読み直したあと、ちょっぴり後悔した。

「ウンディーネ様・・・実はあのお方は私がイカ達にいじめられているのを助
けてくださった心優しいお人でして・・・」
「ほう?では何か?そのお礼を貰い受けようと図々しくもわらわのところを尋
ねてきたのか?竜宮城的もてなしでも期待してたか?浦島太郎気取りが・・・」
「別に礼など貰いに来たつもりはない。私はただ貴様と契約・・・」
「黙れ愚民がぁぁぁぁぁぁ!!」
 「ぶっはぁ!?」

ウンディーネは一瞬にしてデミテルの前に詰め寄ると、大剣の平たい面で殴り
飛ばした。


こ、これはサディストというより、ただの暴行魔では・・・


またしても壁に叩きつけられながら、デミテルは思った。今度は唇を切り出血
している。

「人が話している時は最後まで聞けと親から習わなかったのか?わらわがまだ
話しておるというのに、途中で中断して自分の話をするなど笑止千万。」
「・・・人が話しているのを剣で殴り飛ばして止めるのはどうなんだ・・・」
「何か言ったか?」

ウンディーネは大剣をブンブン振り回しながら尋ねてきた。デミテルはもうこ
れ以上気に障る発言をしないようにしようと、心から決意した。

「なんでもない・・・とっとと本筋の話に戻そう・・・・・・いいかウンディ
ーネ?私はお前と契約を・・・」
 「揉め。」
 「は?」
 「どうせ契約したいとか申すのであろう?ならばそれ相応のことをやってもら
わねば。ほれ。肩を揉め。」
 「それ相応のことって・・・戦いをして勝ったらでは・・・」
 「今のお前にはわらわと戦う権利すらない。わらわに気に入られた暁に、特別
に、ようやく戦う権利を与えてやろう♪」
 「・・・・・・・・。」

 デミテルの中にイライラを通り越して殺意が芽生えた。こんな女にこき使われ
るぐらいならば契約などどうでもよくなりそうだ。

 だがそういうわけにもいかない。せっかくこんなところまではるばる来たのだ
。ましてやこれが四大精霊との契約ができる最後のチャンス。逃すわけにはいか
ない。

 デミテルは深くハァーと深呼吸したあと、ウンディーネの肩に触れた。だが・
・・

 「触るな汚らわしい!!」
 「あばっふ!?」

長い華奢な足によるハイキックがデミテルの首に直撃し、そのまま宙を舞って
地面に首から落下した。

ウンディーネはケラケラ笑いながら、体をフワリと浮かせた。

「悪いがわらわは契約する気など毛頭ありはせん。これから先二度と・・・」

ふと、ウンディーネの笑みが消えた。少しばかり体を震わせた後、こう言って、デミテルが入ってきた穴から外に出ていった。

「もう二度と・・・人間などと共に戦ったりなどせん・・・もう二度と・・・」

「ジャミル・・・」
「何よ・・・」
「ジャミンコぉ・・・」
「・・・だから何よぉ!?」

デミテルがウンディーネと対峙していたちょうどその頃、ジャミル、リミィ、
フトソンの三人は、洞窟の入口に突っ立っていた。

そう。洞窟の入口にいるのだ。

「・・・確かジャミルは洞窟の道覚えてるって言ったんだな・・・」
「えぇ・・・そうね・・・」
「だから、今まで通ってない道を取ればいいって言ったんだな・・・」
「えぇ・・・そうね・・・」
「・・・なのに何で洞窟の入口に来ちゃってるんだな?」
「・・・さっきの交差点を左だったみたい・・・」
「交差点なんてどこにあったんだな!?百パーセントなかったんだな!!」
「・・・ジャミンコってぇ・・・」

湿っぽい潮風に髪をなびかせながら、リミィは言った。

「・・・もしかして方向音痴ぃ?」
「・・・・・・・・。」

ジャミルはフトソンの頭の上で沈黙していたが、やがてこう言った。

「まぁ・・・・・・アレよね・・・その・・・・・・・・・アタシインコだし
。インコの脳みそじゃこれが限度でよね。アハハ♪」
「さっき自分で『このメンバーで一番脳みそしっかりてるのはアタシ』って言ってたんだな!?なんつー開き直りなんだな!?」
「ジャミンコは音痴ぃ~♪方向音痴ぃ~♪」
「うっさいわよ小娘!人はみな迷ったり回り道をしたりして大きくなるのよ!
!それが人生なのよ!!」
「迷ったのは人生じゃないんだな・・・洞窟なんだな・・・」

頬をポリポリとかきながら、フトソンは呟いた。潮風が妙に清々しかった。

「デミテルさん・・・アンタ今どこいるんだな・・・」

つづく

「デミテルさん。」
「なんだフトソン?自殺願望にでも目覚めたのか?」
「何をどうしたらいきなりそんな話になるんだな!?」
 「じゃあなんだ?」
 「とうとうこの小説も二十話を越えたんだな。ある意味驚異なんだな。」
「終わる兆しが全く見えんな。」
「一番ダメな終わり方は執筆者がやる気を無くして放置されて終わる終わり方
なんだな。それだけはやっちゃいけないんだな。」
「・・・執筆者の携帯電話が没収されて突然終わったりするかもしれんぞ・・
・」
「それもまた避けたいんだな・・・」

「アンタ達ねぇ・・・さっきからどんどんテンションが下がってるわよ。」
「黙れインコ。焼くぞ。」
「信じられない程短い文章による脅迫ねアンタ!?」
「やかましい。貴様はキャラが薄いんだよ。ツッコミ以外に何にもないだろう
が?」
 「何言ってんだか。アンタ達みたいな脳みそがほとんどボケ切った奴らにツッコ
ミいなかったら一貫の終わりよ。」
「途中参加のくせに生意気な奴よ。お前が現れる前までも我々はそれなりにや
れていたんだ。お前なぞおらんでも話に支障は・・・」
「・・・・・・。」
「デミテルさん・・・ジャミルが普通に落ち込んだんだな・・・」
「なっ!?ば・・・馬鹿!そんなマジになって受け止めるな!アレだぞ!アレ
・・・・・・やはりツッコミはいないとダメだとはちょっとは思うぞ!やはり必
要だなお前は!うん!」
「・・・!・・・あ、アンタなんかに必要だなんて言われたって嬉しかないわ
よ!フン!バーカ!」
「デミテルさん・・・」
「なんだフトソン?」
「ジャミルに新しいキャラができたかもしれないんだな・・・」
「・・・どんなだ?」

「・・・ツンデレ。」
「・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・。」

「・・・インコがツンデレでは・・・その・・・何の興奮も覚えないというか
なんというか・・・」
「誰がツンデレよ!?このデカブツがぁ!?」
「め、目をつつくのはやめてなんだなホント!失明!ホントに失明するんだな
ぁ!!」

「・・・こんな感じでぇ、リミィ達はこれからもがんばりまぁす♪」
「おいリミィ。何勝手に最後のまとめ的発言をしとるんだ?」
「早く最終回にならないかなぁ?早くデミテル様と結婚したいなぁ♪」
「なにぃ!?ちょっと待て!?最終回は私がお前と結婚して終わりぃ!?死ん
でも断る!!」
「だってデミテル様とリミィはぁ・・・・・・ずっと一緒だもぉん♪」
「だってじゃない!何の理由にもならんわぁ!!」

こんな感じでこれからも書いていこうと思います。よろしくです。

次回 第二十一復讐教訓「愛に壁なし」

コメント

まず初めに、第二十復習教訓突破おめでとうございます。 
 確かこの小説が始まってからこのサイトに出入り?するようになったんですよ。 私が。
ここでひとつ質問なんですが、時の英雄一行はどの辺りにいるのでしょうか。イフリートあたりから音沙汰がなくなって、、まぁ、ウンディーネが侵食同にいるということは、まだウンディーネと契約していないということになりますね。 そこんとこの表記もお願いします。
私の妄想図では、これからストーリー道理にいくと、時の英雄一行とダオスを追って、未来に言っちゃったりするんじゃないかと思います。 別にここに表記されたこともネタの参考程度に思っといてください。
まぁ、これからもこんな感じで応援していきたいとおもっています。 これからもがんばってください。
追伸、最近学校で考えることが、デミテルやジャミル以上に微妙な位置の伽羅がいないか考えています。二週間以上考えているんですけど、まったく見当もつきません。見つかりしだいその事についてまたカキコしたいとおもっています。rauyukiseでした。

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