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デミテルは今日もダメだった【24】

第二十四復讐教訓「娘を大事にするお父さんは 大抵その娘に煙たがれている」

「・・・・・・・・・・・・・・・・死のうかなぁ・・・。」

真夏のスカーレット邸。そこの庭の片隅に、一人の男が体操座りでしょげてい
た。

ランブレイ=スカーレット。デミテルの師であるこの男は、真夏の青空をただ
ひたすらに、力無く仰いでいた。

その横で少年デミテルが必死に励ましていた。


なぜこのようなことになったか。それは、時間をわずか十分程戻せばわかるこ
とだった。


十分前まで、スカーレット一家は朝食を食べていた。食パンとイチゴジャム、
スクランブルエッグ。ウインナーソーセージ。至って普通の食事内容。

ちなみにソーセージはデミテルが焼いたものだ。デミテルはこの屋敷に勤めて
からというもの、確実に掃除洗濯料理が上手くなってきていた。

もっとも、ソーセージは少々焼きすぎて焦げ目が大きかったが。
そして事の発端は、このソーセージが引きがねだった。

「お母さん・・・」

必要以上にこんがり焼けたソーセージをフォークで刺しながら、リアは憂鬱そ
うに言った。

「私・・・このソーセージ食べたくない・・・なんだかとっても・・・苦そう
・・・」
「好き嫌いはダメよリア。毒が入っていない限りは目の前に出された食べ物は
きちんと食べるの。それが社会の鉄則よ・・・」

こんがり焼けたソーセージを口に頬張りながら、ネリー=スカーレットは厳しく
言った。もっとも、口に入った瞬間になんとも苦みのありそうな顔をしてはいた
が。

デミテルはなんとも申し訳ない気分になった。でしゃばって『僕がやります!
』なんて言わなければよかったと、いまさら後悔した。

「お母さんダメ?」
「きちんと食べなさい。わがまま言わない・・・」
「何言ってるんだネリー!?」

さっきまで黙って朝食を食べていたランブレイが突如口を開いた。テーブルを
囲む全員がこの家の主を見た。

「焦げてる部分を食べると体に悪いんだぞ!?それを無理矢理自分の娘に食べ
させるなど・・・言語道断だ!」
「でもあなた・・・」
「まず第一に優先すべきは健康だろう!教育はその次だ!・・・さぁリア。残
していいぞぉ~♪」
「うん♪ありがとお父さん♪」

リアは甘えるように礼を言った。その一言でランブレイはデレデレである。

そんなこの家の主の姿を見て、スカーレット夫人とデミテルはハァッとため息
をついた。


完全に娘に人心把握されてるよ・・・


スカーレット夫人とまったく同じことを考えながら、朝食を食べ終わったデミ
テルは、自分の空の皿を持ったあと、リアにこう言った。

「ではお嬢様、ウインナーが乗った皿をください。捨ててきますから。」
「うん。お願いねデミテルさん。」
「スイマセン。僕が焼き過ぎたばっかりに・・・」
「・・・え?」

デミテルの言葉に、ウインナーが乗った皿を手渡そうとしたリアの動きがピタ
リと止まった。

「これ・・・デミテルさんが焼いたの・・・?」
「はい・・・でもちょっと火が強すぎたみたいで・・・」
「・・・れる。」
「へ?」
「やっぱり食べる・・・ウインナー・・・」

そうボソリと言うと、リアはバッと皿を元の位置に戻してしまった。

まったく不可解な行動に、デミテルは困惑した。

「あの・・・そんな無理なさらなくても・・・」
「む、無理なんかしてないよ!」
「ダメだリア!きちんと残しなさい!!お前の体に何かあったら私はもう・・・」

突然食べる気を起こした娘に、ランブレイも困惑したものの、とにかく娘に体
に悪いものを食べさせるわけには彼はいかなかった。

「ほら。残しなさい。」
「残さない。食べる。」
「残しなさい。体に悪いから。」
「大丈夫だから。食べられるから。」
「リア!頼むから!お父さんのために食べないで!!」
「・・・・・・。」

リアは正直、体にいい悪いはどうでもよかった。味の方もどうでもよかった。
ただ単純に・・・

デミテルが作ってくれたものを残したくなかった。理由は自分でもよくわから
なかったが。

ここでランブレイが諦めればよかったのかもしれない。このあとの一押しさえ
なければ、事無きを得れたのだが。

「リア!お父さんはお前が心配なんだよぉぉぉ!」
「・・・ざい。」
「え?」

あまりのしつこさと、苛立ちと、そして父親の発言がなんだかデミテルの料理
を馬鹿にしているように感じられて(料理と言っても焼いただけなのだが)、リ
アはがらにもない一言を父親に言い放った。

「お父さん・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ウザイ。」
「・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・。」

長い沈黙が起きた。デミテルは『うわぁ、言っちゃった』という顔をし、スカ
ーレット夫人は『言われても仕方ない』という済ました顔をし、ランブレイは・
・・

「・・・あの・・・師匠・・・?」
「・・・・・・のう。」
「え?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・死のう。」
「えぇっ!?」

ランブレイはほぼ生きた屍状態と化していた。軽く半笑いなのが余計に恐ろし
い。

「ちよっと・・・教会に行ってくる・・・」
「な・・・?」
「私が死んだ時の墓を用意してくれるよう頼んでくる・・・」
「ちょっとォォォっ!?」

デミテルの言葉を無視し、ランブレイはフラリと椅子から立ち上がると、玄関
へと向かった。

デミテルは焦った。この分だと教会にたどり着く前に力尽きそうだ。

「あぁ・・・お、お嬢様!謝って下さい!早急に!さもないとお父さんが『ウ
ザイ』の一言で死んでしまいますよ!」
「フーンだ。」

リアはそっぽを向いたまま、ウインナーをモグモグと食べていた。やはりコゲ
で苦みがあるらしく、しかめっつらだったが。


「お父さんの命よりウインナー優先!?お、奥様!早く止めないと師匠が!」
「いいのいいの。世の中には毎日のように娘に『ウザイ』『クサイ』『キモい
』と言われ続けているお父さん方がいるのよ。それでも必死に生きてるの。あん
な一言で腐る父親が、この先父親としてやっていけるはずがないわ。捨て置きま
しょ。」
「えぇえっ!?」

余裕釈釈でまったりとコーヒーを飲むスカーレット夫人に、デミテルは驚愕し
た。


なんだこの家・・・家族愛もへったくれもないじゃないか・・・


ともかく、このままランブレイを捨て置くわけにはいかない。デミテルは急い
でランブレイのあとを追い、屋敷を出ていった。

「どこいったんだろ・・・」

庭を走りながら、デミテルは考えていた。


僕はなんであんな、娘にウザイと一言言われただけで自決を決意する人の弟子
になったんだろう。威厳もへったくれもない、あんな親バカに。


ふと、デミテルの脳裏を、彼と初めて会った日の記憶が駆けていった。

『君は生きるか死ぬかの生活をした。そして今、この瞬間に、君は生きている
。生きるか死ぬか。どちらかしかない人生を、君は今生きている。それこそが君
のお母さんがくれた幸せではないのかね。』
『「ただ生きている」。でもそんな事でさえ、手に入らない人達がたくさんい
る。そして君はそれを手にいれた。それだけで君は、世界中の裕福な子供達と変
わらない幸せを持っているんだ。』


彼のあの時の言葉。彼の言葉で僕は生きる希望のようなものを見いだせたよう
な気がする。彼が、自分に光をくれたのだ。

そうだ。ホントに死のうなんてするはずがない。きっと今頃我に返って・・・


その時、デミテルの足がピタリと止まった。駆け出したままのポーズでピタリ
と。

視線の先にはランブレイの後ろ姿が会った。そのランブレイの目の前には、一
本の木がそびえていた。木からは、何本ものツタが垂れている。

ランブレイはしばらくそれを見上げていたが、やがて、太く頑丈そうなツタを
手に取った。

それは、輪を作り、木から吊せば、その輪に首を入れて人一人吊してもちぎれ
ないぐらい丈夫そうな・・・


あの人やっぱ死ぬ気だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?


 「・・・これなら吊っても大丈夫だな・・・ふふ・・・ふふふ・・・」
 「フフフじゃなぁぁぁぁいっ!!」


デミテルは全速力でダダダダダっとランブレイの元まで走り込むと、後頭部に
思いきりとびげりをかました。

ランブレイは顔面を木の幹に直撃させた。

「ぐおぶ!?な、何をするんだデミテル・・・危うく死ぬところだ・・・」
「死ぬところっていうか死のうとしてたでしょう!?」
「フッ・・・ばれていたか・・・」
「イヤイヤ!別にかっこよくないですからね!『フッ』とか言っても!!」

デミテルの言葉に力無く笑いながら、ランブレイはスルスルと地べたに座り込
み、ツルを垂らした木の幹を背もたれ代わりにした。

デミテルはゆっくりと、その横に並ぶように座った。

「なぁデミテル・・・」
「・・・なんですか。」

ランブレイは憔悴しきった目で青空を見上げながら言った。


世の中のお父さん方はみんな娘に『ウザイ』と言われるとこうなるのだろうか
・・・


そんなことを思いながら、デミテルは師の言葉を聞いていた。

「なんでかなぁ・・・娘のことをこれほど案じ、心配しているのに・・・娘に
伝わらない・・・」
「イヤ・・・一言ウザイと言われただけじゃないですか・・・お嬢様もただ感情的になっただけで・・・」
「娘はもう私のことを『うっとうしいオッサン』としか見ていないのだろうか
・・・もう子離れの時期なんだろうか・・・」
「人の話聞いてますか?子離れって・・・まだ七歳ですよ・・・」
「これが原因で非行に走ったらどうすればいいんだ・・・しまいにゃ彼氏の家
に居候してできちゃった婚とか・・・」
「人の話聞いてますか?焦げたウインナーが原因の揉め事をどう飛躍させたら
できちゃった婚に繋がるんですか?そもそも・・・」
「お父さん死ぬしかないかな・・・お父さんもう死ぬしかないのかなぁ・・・」
「・・・・・・・・・。」


もう死んでしまえばいいのに・・・っていかんいかん!!


ドロドロと心を沈めていくランブレイに若干の殺意を抱きながらも、デミテル
はそれをなんとか振り切った。


ともかく、どうにか元気付けてあげなければ。でないと、目を離したうちに自
分の胸にアイスニードルを打ち込みかねない・・・


「あのぉ・・・師匠?」
「なんだいデミテル?」

今度はデミテルからランブレイに話を切り出す番だった。デミテルはどうにか
して師を励まそうと頭を張り巡らした。

「あの・・・アレ・・・お嬢様前に言ってましたよ?『お父さんは昔からちょ
っとしつこい感じがするけど、しつこい分だけ私のことを大事にしているんだよ
』って・・・」
「・・・ホントに?」
「は、はい!もちろんですよ!・・・あ。でもそのあと『正直しつこ過ぎると
若干ウザイ』とも・・・」
「・・・とっとと死のう・・・」
「あー!ちょっと待ってぇ!あの、アレ!前のお嬢様の誕生日の時、師匠がプ
レゼントにあげた本、すごく喜んでたじゃないですか!」
「・・・そーいや・・・そーだな・・・」
「そうですよ!・・・あ・・・でも・・・読み終わったあと『内容ちょっと微
妙』だったとも・・・」
「朽ち果てて死のう・・・」
「だぁーっ!!」

デミテルは己の言葉で墓穴を掘っていく自分に嫌気がさした。しかも、その掘
ってしまった墓穴に沈むのはデミテルではなく、ランブレイなのだ。

ランブレイの目は、死んだ魚のような目になっていった。とてつもなく悲しい
哀愁が彼を包んでいる。

 彼は薄ら笑いを浮かべながら言った。

「デミテル・・・ちょっとお使い頼まれてくれるか・・・ちょっと『RAM』ま
で行って・・・ロープを買ってきてくれ・・・人一人吊し上げてもちぎれないく
らい丈夫なヤツ・・・」
「・・・師匠・・・」

デミテルはハァっとため息をつくと、諭すように言った。

十歳の子供が大の大人に諭すなど、なかなかない描写である。

「いいですか師匠?たかだか一回『ウザイ』と言われたからって沈みすぎです
。奥様も言っておられましたが、世の中にはもっと悲惨な言葉を毎日浴びるよう
に受けている大人もいるんです・・・それともなんですか?師匠のお嬢様への気
持ちは、あんな一言で折れてしまうようなもろいものだったのですか・・・?」
「・・・!なんだとぅ・・・?」

デミテルのどこか誘いかけるような挑発に、ランブレイは反応した。

「バカを言うな!私が娘を愛する気持ちは十二星座の塔より高く、ドワーフの
洞窟より深いんだ!!あんな一言で折れてたまるか!」
「その意気ですよ師匠!ホントに大事なら、たとえ嫌われてでもお嬢様を溺愛
しましょう!」
「・・・おおっ!そうだな!たとえ娘に殺されても私はリアを溺愛し続けるぞ
!たとえ法に触れてでも!!」
「いや・・・法律は守りましょうよ・・・あと、さすがに殺されることはない
かと・・・」

なんて単純な男なんだ、と呆れながらも、この男なら娘の為に殺人を犯しかね
ないと危惧するデミテルであった。

とにかく最大の危機が去ってくれた、とデミテルは心から安堵した。

しかし、まだ問題が残っている。

「次はお嬢様に謝らせないと・・・」
「・・・ちょっとまてデミテル。誰に謝らせるって?」
「え?イヤ、ですから、お嬢様に師匠へ謝らせないと・・・」

デミテルは至極当たり前のことを言ったつもりだったのだが、予想に反し、ラ
ンブレイは顔をムッとさせた。

「馬鹿者!娘に謝らすだと!?娘は何も悪くない!悪いのは全て私、お父さん
さ!!」
「イヤイヤ。ダメですよ。しつけはきっちりしないと。なんだかんだ
言っても親に向かって『ウザイ』はアレですよ。ダメですよ。」
「しかたないだろ!?お父さんがうざかったんだから!!リアは悪くない!断
じて!全ての非があるのはお父さんさ!このうざったいお父さんなのさ!・・・
そうだ!今からリアに『うざくてごめんね』って謝りに行こ・・・」
「・・・お願いですから謝らないで下さい。」


この男はダメだ・・・教育方針の中に『厳しさ』というものがない・・・これで
はお嬢様の成長に悪い影響がでる・・・お嬢様絶対非行に走っちゃうよ・・・駆
け出しちゃうよ・・・


デミテルはなんだか自分が親になったように感じられた。一方で、ランブレイ
は本気で実の娘にどう謝ろうかと考えていた。

「・・・というわけで、お父様も反省しているわけですので、お嬢様もお父様
に謝って下さると・・・」
「ヤダ。」

リア=スカーレットはベッドにうつぶせになりながら、白く、深い枕に顔を埋
めてムスっと言った。

デミテルはリアの部屋にいた。彼女の部屋は日々を重ねるに連れて、だんだん
と華やかになっている。

隙間風がヒューヒューと響く窓の枠には、リア自身が縫い合わせて作った人形
が二人ほど座っている。最近作り方を母親に教わったばかりだというのに、その
人形は誰が見ても彼女の両親をかたどったものだということがわかる代物、つま
り、とても精巧だった。

勉強机には白黒の写真が何枚か立てかけてあるが、ここはかつて家族の写真以
外は置かれていなかった。だが、今では友達と一緒に写ったものも多くある。

そして、友達と一緒に写った写真は、みんな満円の笑みだった。家族写真より
も。

リアは未だ枕に顔を埋めている。デミテルはリアの机の前にある、木製イスに
跨がりながらハァッとため息をついた。

なんだか今日は、ため息ばかりついている。

「いいですかお嬢様?お父様はお嬢様の体が心配であのようにしつこく言った
んです。あなたを大事に思うからこそで・・・」
「前から・・・」

リアは枕に顔を埋めたまま、ぶつぶつと言った。

「前からお父さんはああだもん・・・いつも私のこと気にかけてくれて・・・
しつこいくらいに・・・・・・」

リアは前々から思っていたことを心から吐き出し始めた。以前の彼女なら考え
られないことだ。

「私が五歳の時にお母さんに『お使いに行ってきて』って言われたら、『もし
誘拐でもされたらどうするんだぁぁぁぁっ!?』って断固反対して・・・その時
住んでた家、そのお使い先の隣にあったんだよ?誘拐なんてされるわけないし・
・・それに六歳になったばっかりだった時、好きな男の子がいたの・・・そのこ
とをお母さんに言ったら、それを聞いたお父さんが『そいつぁどこのどいつだぁ
ぁぁっ!?』とか言ってその男の子の近辺調査始めて・・・他にも色々・・・ ホントに嫌・・・」
「・・・・・・・・・・・。」

デミテルは何も言わない。いつもなら『とんでもない父親だな・・・』と心の
中で突っ込むのだが、それすらしない。ただ、リアを見下ろしていた。

そして、その目はなぜか氷のように無表情だった。

リアはフゥっとため息をつくと、こう言った。

「お父さんが私のこと大事に思ってくれてるのはわかってる・・・けど、正直
・・・・」

リアは顔を枕から離し、ベッドの上に座り込むようにすると、最後にこう言っ
た。

「・・・・・・・・・ウザったい。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」

「何がいけないんだよ。」
「え?」

デミテルに背を向けて座っていたリアは、突如として聞こえた氷のような、冷
たい言葉に思わず振り返った。

デミテルは椅子から立ち上がり、未だ氷のように冷えた目で、ただ、無表情にこちらを見下ろしている。リアはこんなデミテルの顔を見たことがなかった。

「親に大事にされて・・・しつこいくらいに溺愛されて・・・それのなにが不
満なんだよ・・・」
「デミ・・・テル・・・さん・・・?」
「しつこくたっていいじゃないか・・・ウザったくたっていいじゃないか・・
・自分を大切に思ってくれる人がいることが・・・どれだけありがたくて・・・
嬉しいことなのか・・・それがどれだけ幸せなことか君はわかっちゃいない!!」

デミテルの顔真っ赤になっていくのが、リアにはわかった。わずか十歳の少年
は、ハァハァと息を切らしながら続けた。

「君が言ってるのはただのわがままだ・・・そんなわがままが言えるのは、満
たされた生き方しかしたことのない奴だけだ・・・うらやましいよ僕は・・・あんな、娘のことしか考えてなくて、ウザいくらいに大事に思ってくれる親バカな父親がいてくれる・・・君がうらやましいよ・・・僕は・・・」

デミテルはバッとリアに背を向け、ズンズンと扉に向かって前進した。

本当に瞬間的に背を向けたので、その潤んだ目を彼女に見られずに済んだ。

「僕も・・・・・・・・・あんな親が欲しかった・・・・・・」
「・・・・・・・・・!」

リアが何か言おうとしたその時には、デミテルは部屋の扉を荒々しく閉め、出
ていった後だった。


僕は・・・何をやっているんだ・・・

屋敷二階の一番東側の突き当たり。そこにある自分の部屋に、デミテルはベッ
ドで仰向けになって天井をあおっていた。灰色の天井は、見れば見るほど自分を
吸い込んでいくような感覚がする。


お嬢様に謝らせる為に・・・説得するために行ったのに・・・僕は・・・

一体全体、なんであんなに感情的になってしまったんだろう・・・ましてや、
親のことなんかで・・・僕の親が暴力奮ってたことなんて、お嬢様にはてんで関
係ないじゃないか・・・

 しかもあんな父親が欲しかったって・・・?そんな馬鹿な。あんな親ばか・・・

謝らないと・・・お嬢様に・・・

でも・・・でも・・・


「・・・デミテル?」

部屋の扉の向こうからスカーレット夫人の声がして、デミテルはハッとした。
そろそろ洗濯物を取り込む時間だ。

デミテルはギシギシとベッドを軋ませながら立ち上がると、扉向こうのスカー
レット夫人に言った。

「スイマセン奥様!今から取り込むんで!」
「・・・無理しなくていいから。」
「え?」
「聞こえてたわ・・・一階まで・・・貴方の声。」
「・・・・・・!」

扉を開こうとドアノブに手をつけたデミテルは、その言葉で動きを止めた。

「何か・・・悩みか不安があったら言いなさい。相談に乗るから。」
「いや・・・あの・・・」
「デミテル・・・あなたはここの使用人だけど・・・それと同時に・・・」

扉の向こうの気配が遠退いていく。そして、気配は遠退き様にこう言った。

「同時に・・・あなたの家族でもあるから・・・」
「・・・・・・!」


・・・・・・家族・・・


僕の家族・・・


・・・・・・・・・

・・・いつまで続くのだろうか・・・この夢の物語は・・・


船の食堂の床。デミテルはそこに大の字で倒れていた。先程まで机に突っ伏し
て眠っていたが、どうやら船の揺れでイスから落ちてしまったらしい。

デミテルはジッと天井を見つめていた。天井にはランタンが弱々しい明かりを
ともしながら揺れていた。


記憶を辿り続ける物語。私の意思とは関係なく進む時間。とても夢とは思えな
い程リアルだ。

・・・正直もう見たくない。

楽しい思い出も嫌な思い出も関係ない。私はこの物語を進んでいきたくない。
なぜなら・・・

この物語の結末を知っているからだ。

記憶は辿ればいずれ『今』という記憶に行き着く。終わりなき物語は存在しな
い。

どれだけ楽しかった思い出を、どれほどの数の幸せな記憶を思い出したって、
この物語の終焉は決まっている。知っている。


私はあの家族を


殺す。


 どうあがいても、この結末は変えられない。いずれ見ることになるであろうこ
の結末を

私は見たくない。

デミテルはゆっくりと立ち上がった。同時に浮遊感と吐き気が彼を襲った。


そういえば、酒飲んでたんだったな・・・一体誰と飲んでたんだっけ・・・


ふと、デミテルの視界に、机に突っ伏し酔い潰れて眠るジャニズが目に入った。


そうだ・・・確かコイツと年金問題について議論し・・・

・・・というか・・・コイツ・・・


酒のおかげなのか何なのか。デミテルはついに、ジャニズが誰か本能的に思い
出した。彼の頭脳を記憶が走るように過ぎっていく・・・


※寝起きの為記憶の内容が少々ボケています

俺は灰の翼のリーダー、ジャニズだぁ~・・・

さっきまでの余裕はどうしたのかなぁ~デミテルく~ん・・・

ひーひっひっひ♪デミテルバーカバーカ!ふへふへふへ・・・

ド〇えもーん・・・

「・・・んえ?」

体が揺れていることを感じ取ったジャニズは、ふと目を覚ました。

「・・・・・・・・・あり?」

ジャニズは船の外にいた。デミテルに抱え上げられながら。

ジャニズは自分を、まるでスーパーマ〇オがノコノコの甲羅を持ち上げている
かのように担ぐデミテルに向かって問いかけようとした。

「お前こんな夜中になに・・・」
「えい。」
「ギャアアアアアア!?」

三分後、デミテルは自分の寝室に淡々と戻っていった。夜の海にドンブラコッ
コと流されていくジャニズを尻目に。

「オィィィィィッ!?死んじゃうよぉ!?こんなことされたら僕死んじゃうっ
て!!ねぇ聞いてる!?ねぇ!?デミテルくーん!年金・・・年金問だブ・・・
鼻の中に海水入ったぁ!!痛いぃ!小学校の体育のプールを思い出・・・あぁっ
!?あんにゃろ扉閉めやがった!まてぇ!まだ間に合う!これ以上罪を重ねるな
!故郷のオッサン・・・じゃなくてお袋さん泣く・・・ごふ・・・というか僕が
泣きそう何ですけどぉ!!うおーい!?完全に俺出オチ・・・・・・・・・お袋
助けてぇぇぇぇ!!」

つづく・・・が、ジャニズの人生がつづくかは定かではない・・・

あとがき

「二回連続で過去話ってどうなのよ」と思った方。ごめんなさい。
次は現代の話を書くので、許して下さい。

次回 第二十五復讐教訓「人は皆 何かを求めて探してる」

コメント

おはこんにちこんばんわ。
最近、遊○王のカードげーむにはまってるtauyukiseです。

えーと、更新したのは何時かなと思ってみてみると、かなり遅い時間帯ですね。こんな眠りそうな時間帯にこんな小説かけるのは、正直すごいと思っています。

ギャグ物もいいですが、シリアス物もいいですね。過去ものの話も結構好きですよ自分は。
しかし、どうして、リアのお父さんはこんなに親バカキャラになってしまったのでしょうか。
まぁ、面白いし、話も成り立って良いんですけど。

さぁ、来週(もはやなんかのアニメ)からは、現代に戻るということで、ファンタジア本来のストーリーにそっていくのか、オリジナルな話なのかとても楽しみです。

ではでは、また来週。

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