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デミテルは今日もダメだった【25】

第二十五復讐教訓「人は皆 何かを求めて探してる」


「・・・さて?そろそろ本題に入ろう。我々のこれからの行動について・・・」
「もうめんどくさいから『俺達の戦いはこれからだ!!』的な感じで打ち切ら
せちゃえばいいんだな。」
 「そんなどこぞの週刊誌の漫画みたいな打ち切り方できるわけないだろう・・
・というかフトソン。貴様私の旅についていくのが嫌なのか?」
「アンタの旅っていうか、この物語がめんどくさいんだな・・・」
「貴様ぁ!こんな物語でも読んでくれる読者様が・・・」
 「・・・んなことはどうでもいいからさぁ・・・」

二人の話を淡々と聞いていたジャミルは、呆れるように言った。

「馬鹿な話してる暇があるなら食べなさいよ。制限時間一時間なんだから・・
・このバイキング・・・」

出会いの街ベネツィア。かつてデミテルが住んでいたこの街に、彼らはいた。

 時間は十二時過ぎ。浸食洞から戻った彼らは、これからの行動の相談もかねて
昼食をとっていた。

入った店は赤いレンガ作りのバイキング・レストラン『赤い彗星』(店名の由
来は不明)。主にシーフード料理を扱うが、もっとも特徴的なのは店の内装のほ
とんどが真っ赤であることであった。

 店内はそれなりに活気があった。デミテル達は真っ赤な丸テーブルを囲み、こ
れまた真っ赤なイスに座って食事をとっていた。

「・・・どうでもいいけどデミテルさん・・・」

シーフードピザを口に頬張りながら、フトソンは言った。

「アンタ・・・皿の上にケーキしか乗っけてないんだな・・・」
「ん?何か問題あるか?それにお前、ケーキ以外だってちゃんと取ってるだろうが。」

フトソンの言う通り、彼の取り皿にはショートケーキ、チーズケーキ、チョコ
レートケーキ、モンブランなどが敷き詰められていた。その他エクレア、シュー
クリーム、カスタードパイ、プリン・・・

「糖尿病なっても知らないんだな・・・」
「なるわけないだろうが。私はハーフエルフだぞ?」
「何の根拠にもならないんだな・・・」
「ハーフエルフは水分と糖分さえあれば生きていけるんだ。それすなわち、ハ
ーフエルフは糖分を効率よく分解し摂取できるからであり・・・」
「んな便利な構造した生き物いるわけないでしょうが・・・」
「・・・と言いながら何お前は私のチョコクリームケーキをついばもうとしと
るんだ!やらんぞ!自分で取ってこい!私のケーキに手を・・・イヤ!クチバシ
を出すな!」

デミテルはテーブルの上を歩いてきたジャミルから、スイーツを敷き詰めた皿
をグイっと遠のけた。ジャミルはムッとした。

「取ってこいってアンタねぇ!インコの姿でどうやって取ってこりゃいいのよ
!皿どころかスプーンすら持てないわよ!」
「だからさっき貴様の分はリミィがよそってあげてただろうが。」
「よそったってアンタ・・・皿の上ピーナッツしか乗ってないじゃないの!あの
小娘アタシがピーナッツさえあれば生きていけると完全に思い込んでるわよ!!
今トイレ行ってるけどぉ!!」
「・・・しょうがない・・・」

デミテルはめんどくさそうに、テーブル中心にあるスプーン置きからスプーン
を一つ取り、プリンを端から少々すくいとった。

「とにかく、直接クチバシ使って食われたら何か病気でも移されそうだ。ほれ
。食わしてやる。アーンしろ。アーン。」
「な・・・!?」

プリンを一杯すくったスプーンを自分の前に突き出してきたデミテルに、ジャ
ミルは赤面した。

「食わしてやるってアンタ・・・そんなのアレじゃないの・・・もしアタシが
人型の姿だったら、まるで・・・」
「まぁ、人型だったらどこぞのバカップルみたいに見えるだろうな。」
「い、いやよそんなの・・・」
「ええい!食わせろと言ったりいらんと言ったり!めんどくさい鳥だな!とっとと食えぃ!」
「むぅっ!?」

デミテルはジャミルの口の中にスプーンを無理矢理ねじ込んだ。ジャミルは赤
面しながら仕方なしにプリンを食べ始めた。


あぁもう・・・将来彼氏とかできたらやってもらうつもりだったのに・・・よ
りによってコイツに・・・


「・・・よっ。」
「おえ!?」

プリンを口の中で処理するジャミルを眺めていたデミテルは、ふいにスプーン
をグイッと捻ってみた。ジャミルは思わず吐きそうになりながらスプーンをクチ
バシから吐いた。

「げほごほ!ちよっとアンタぁ!動物虐待で訴えるわよ!?」
「黙れインコ。鳥類に訴訟を起こす力などないわ。」

そんなことを言いながら、デミテルはエクレアを美味しそうに頬張っていた。

「お手てをキレイに洗いましょぉ~♪」

同時刻。店内のトイレの手洗い場にて、リミィは歌いながら手を洗っていた。
身長的に水道まで手が届かないため、体をフワフワと浮かしている。

「♪バイ菌さんはぁ~、水に流しましょう~♪大腸菌をぉ~、水に流しましょ
う~♪別れた男との想い出もぉ~、水に流しましょう~♪あの日借りたお金のこ
ともぉ~、水に・・・」


コツコツコツ


二人ほどの話し声が歩いてくるのが聞こえて、リミィは急いで歌と空中浮遊を
やめた。

リミィが服の裾で手を拭いていると、会話の内容が段々と聞き取れてきた。若
い女性同士のようだ。

「ねぇ聞いた?ハーメルのこと。」
「あー知ってる。確か誰かがモンスター率いて壊滅させたんでしょ?怖いよね
・・・」
「うん。そうなんだけどね。ほら。事が事だけにアルヴァニスタから調査隊が
来てるって前に言ったじゃない。その調査隊がね、どうやらその首謀者突き止め
たんだって。」
「え!?ホントに?一体誰よ?」
「うん・・・それが聞いてビックリ・・・・・・あのデミテルだって!」

デミテル。その名前が耳に入った瞬間、話相手の女性とリミィは目を丸くした。

「デミテルって・・・」
「そう。デミテルよ。一年前までこの街住んでて、そんでもってアンタが愛の
告白して見事玉砕したあのハーフエルフのカッコイイお兄さん、デミテルよ。」
「うそぉ・・・・・・」

女性が落胆の声を漏らしたのを、リミィは聞き取った。

「でね、今その調査隊がその人の写真街中回って探し回ってるんだって。名前
だけじゃ手配書も作れないからって・・・あ。写真提供者には謝礼出すそうよ。
持ってないのアンタ?」
「あー。昔盗む撮りしたのあったけど、フラれたシヨックで燃やしちゃったの
よ・・・」
「盗む撮りって・・・ほとんどストーカーじゃないの・・・」

声は、少しずつ遠退いていった。リミィは、ドキドキしながら今聞いた話を頭
の中で整理した。


デミテル様の写真を探してるってことは・・・デミテル様のことも探してるっ
てことだよね・・・今は顔がわかってないから、その『ちょうさたい』って人達
とすれ違っても大丈夫だろうけど・・・

もしお顔が撮られた写真がその人達の手に入ったら・・・


リミィは考えた。一刻も早くこの街を出たほうがいい。

「デミテル様ぁ!あのね・・・」
「リミィィィィィィィっ!!」
「ふぇっ!?」

リミィはビックリした。トイレから帰ってきたリミィの両肩を、デミテルが突
然挟むように掴んだからだ。リミィは色んな意味でドキマギした。

「デ・・・デミテル様どうしたのぉ・・・?」
「リミィ・・・正直に答えてくれ・・・」

デミテルは息をハアハアと切らし、顔を真っ赤にしながら尋ねた。リミィはこ
んなにも必死になるデミテルの姿を見たことがない。

「わ、わかったよデミテル様・・・リミィ、デミテル様の為なら何でも答・・
・」
「・・・いふ・・・」
「え?」
「私の財布を知らないかぁぁぁぁぁっ!?」
「・・・・・・・・・」

 あまりにも突拍子な問いに、さすがのリミィも目をパチクリさせた。

「し、知らないよぉ・・・」
「なにぃ!?おいジャミル!貴様の推理間違っとるではないかぁ!?」

デミテルはリミィの両肩を掴んだまま、後ろにジャミルに言った。見れば、フ
トソンは先程まで食事していたテーブルの下に頭を突っ込みゴソゴソとし、ジャ
ミルは高く飛びながら店内を見渡している。

まわりの他の客達は何事かと彼らを眺めていた。

「てっきり小娘の奴がアンタの財布持ち出して匂いでも嗅いでんのかと・・・

「・・・いくらなんでもリミィはそんな変態じゃないんだな・・・」
「そうだよぉ!リミィはそんなヘンタイじゃないよぉ!フトソンと一緒にしな
いでよぉ!!」
「えぇえっ!?ってあたぁ!?」

リミィの言葉にフトソンは驚愕した。と、同時に頭をテーブルにゴツンとぶつ
けてしまった。

「イタタ・・・リミィ・・・酷いんだな・・・」
「んなことはどうでもいいわバカども!フトソンが変態なのは今に始まったこ
とではないだろうが!!財布だ財布!バイキングはあと五分足らずで終わるんだ
ぞ!?このままだと支払いが・・・」
「絶対・・・何かが・・・間違ってるんだな・・・」

一人絶望するフトソンをよそに、他のメンバーはイスの下、机の下、カウンタ
ーの下など、あらゆる場所を探していた。

「くそ・・・ここまで探してないとなると・・・外で落としたか・・・」

デミテルは店の外に出ようとした。が、店の扉に手をかけた瞬間、これまた真
っ赤な服を着た店員がデミテルの襟首を掴んだ。

スキンヘッドの店員は、おぞましげな笑顔を振り撒きながら言った。デミテル
は顔を青くして引き攣った笑顔を店員に返した。

「お客様どちらへ?」
「いえ・・・あの・・・財布を落としてしまって・・・今探しに・・・」
「そういってお逃げになるつもじゃございませんかぁ~?」
「し、失敬な!食い逃げなどするか!そりゃまぁ、ガキの頃はよくやってたが
・・・あ。」

店員の笑顔がさらに恐ろしげになったのを見て、デミテルは後悔した。今の一
言で余計に信憑性がなくなってしまった。

店員は未だデミテルの襟首を掴んだままだ。

「そうですかぁ。前科がおありなんですかぁ。だったらなおさら外に出せませ
んねぇ。」
「いや、ちょ・・・」
「あまり事を荒立てたくないんですがねぇ~。しかしこのままだと出るとこ出
てもらわないと・・・」
「・・・・・・・・・。」

デミテルは襟首を掴まれたまま、しばし考えた。この状況を打開する最善の方
法は何か考えた。

「・・・よしわかった。ならば証を残していこう。」
「証?」
「そこにいる・・・」

デミテルは、未だ店内を探し回るフトソンを指差した。それに気付いたフトソ
ンは、何事かと首を傾げた。

「デミテルさんどうし・・・」
「そこにいる着ぐるみを着た変なオッサンを人質として置いていく。」
「えぇえぇっ!?」

あまりの薄情発言にフトソンは愕然とした。デミテルはフトソンの『えぇえぇ
っ!?』という言葉を完全に無視した。

「ねぇちょっと・・・」
「私達が一時間以内に戻ってこなかったらアイツを好きにしていい。」
「あの・・・」
「もう煮るなり焼くなり好きにしていい。あ。なんなら奴隷として売り飛ばし
てもらっても構わん。」
 「スイマセン・・・僕の意見を・・・」
「嫌な事があった時はサンドバックとして殴る蹴るの暴行で楽しめば・・・」
「・・・・・・。」

フトソンは悟った。この役回りを変えるのは不可能だということに。

白目を剥いて呆然とするフトソンを横目に、スキンヘッド店員はしばらく唸っ
て思考したあと、こう言った。

「あいわかった。一時間だな。一時間立っても金を持ってこなかったら奴はこ
の店のサンドバックだ♪」
「ってよりによってサンドバックなんだな!?デミテルさん絶対戻ってくるん
だな!!絶対!絶対裏切っちゃダメなんだな!!」
「・・・多分。」
「多分んんんっ!?」

悲痛な悲鳴を上げるフトソンを尻目に、デミテル達は店を出ていった。

「・・・というわけで。」

ベネツィアの裏路地。人が通らない、どこかカビ臭い通りに彼らはいた。

「これから我々は・・・」
「デミテル様のお財布を探・・・」
「逃亡を謀る。」
「ええっ!?ダメだよぉ!フトソン置いてっちゃダメぇ!!」
「じょ、冗談だバカ!」

自分の足をポカポカと殴るリミィに、デミテルは急いで言った。一方でジャミ
ルはハァッとため息をついた。

「アタシ的にはこのまま置いてって逃げてもい・・・じょ、状況よ小娘・・・
ほらデミテル!アンタ最後に財布使ったのはいつ!?それがわかれば・・・」
「ちょっと待て・・・今思い出してる・・・」
「・・・あ。そうだデミテル様ぁ。さっきトイレでねぇ・・・」
「待て。今話し掛けるな。今必死に記憶の糸を辿っとるんだ・・・」

デミテルは額に指をグイグイ押してツボを刺激しながら、最後に自分が財布を
使ったシーンを必死に思い出そうとしていた。リミィは唇を尖らせた。

「確か・・・アイテム屋でアイテムを・・・そのあと・・・」
「船・・・」

同じくデミテルの肩の上でウンウン唸っていたジャミルがボソリと呟いた。そ
の言葉にデミテルはハッとした。

「そうだ!渡し舟!買い物した後に、水路を通る渡し舟に乗った。その時に使
ったのが最後のはずだ!」
「やったぁ!さすがデミテル様ぁ!!でねでね!さっきのリミィのお話・・・」
「貴様のトイレの話は後で聞く。それよりもこっちが優先だろうが。」

そう言うや否や、デミテルはさっさと船着き場に向かって歩き出していた。リ
ミィは頬を膨らませながらも、デミテルの後を追った。

「・・・それで?見つかったのか?」
「それが・・・」
「いや、言い訳はいい。とにかく、至急探してくれ・・・・・・見つからんこ
とには手配書もろくに作れんからな・・・」
「はっ!しかし・・・何も貴方様直々にここに・・・」
「いいんだ・・・私自身で指揮をとりたい・・・それに・・・」

ベネツィア港。そこに泊まった船に、その男はいた。船の旗には、アルヴァニ
スタの国旗が風で揺れる。

 赤身を帯びた茶色い長い髪をし、それを金属の輪でポニーテール状にした髪型
。白い、魔術師のローブ。

「・・・私も見たいんだ・・・・・・数百人もの罪無き人々を殺した男の顔を・・・そして・・・」

宮廷魔術師ルーングロム。そのの男は、ゆっくりと船のタラップを降りていっ
た。

「必ず捕まえるんだ。その非道極まる罪人を・・・・・・死刑台に送らねば・
・・」

その目は、クレス=アルベイン達が知っている優しい目とは違っていた。その
目は、悪を憎み、恐怖すら走る、狩人の目だった。


「・・・で?なんよ?息子さん、駆け落ちしちまったんかぃ?」
「あぁ・・・どうもそうらしい・・・連絡をとろうにも、どこに行ったか皆目見当がつかん・・・」
「そうかぃ・・・あのエルウィン君が駆け落ちねぇ・・・」

ベネツィアの中を蜘蛛の巣のように張り巡らせた水路。そこで渡し舟歴三十年
の男は、とある船着き場で、とある白髪混じりの中年男と話をしていた。

白髪混じりの中年と言っても、ナメてもらっては困る。何故ならこの中年・・・

「貿易会社『レイオット』の社長が何弱々しくなってんだぃ。ドグよ。」

すっかり落ち込んでいるエルウィンの父、ドグに、かつての同じ学校の同級生
は言った。

「・・・子供も奥さんもいないお前にはわからんだろうな・・・この悩みは・
・・」
「なぁに言ってんだぃ。俺の嫁さんはこの小船よ。コイツが俺の大事な女房よ
。」
「やれやれ・・・」
「コイツはいいぜ。『出会い』をくれる。ある時は赤いバンダナした鎧姿の青
年を運び、ある時は白い変な着ぐるみ着た男を運び・・・」
「それで時々、武器屋で買い物しすぎで金が無くなって、帰れなくなった客の船代肩
代わりだろ?」
「ははっ!まあな!でも今日は逆だ・・・」

そう言うと、渡し舟の男はズボンの尻ポケットから、財布を取り出した。茶色
い革製だ。

「さっき乗ってった変な髪の色した客が置いてった。ネコババしようか悩んで
んだが・・・」
「おいおい!それはマズイぞ!」
「冗談だ!・・・ほれ。コイツを求めてさっきの客が帰ってきた・・・」

渡し舟の男の目線の先には、青い髪に前髪の一部が赤くなった男が走ってくる
のが見えた。足元に幼女、肩にはヒスイ色のインコを乗せて。

「ほら。いい加減会社帰りな。社長がこんなとこで人生相談なんてしてたら、
社員に見切られるぞ。」
「ああ・・・ありがとう・・・・・・どこに行ってしまったんだ・・・エルウ
ィン・・・」

ブツブツと息子の名前を呟きながら、ドグは建物の隙間を通りながら、裏道に
消えていった。

「・・・で?アンタら何しに来たんだぃ?」

息を切らしながら駆け寄ってきたデミテル達に、渡し舟の男はあっけらかんと
言った。どうやらかなり走ってきたらしい。

デミテルは膝に手の平と体重を乗せ、ハァハァ言いながら言った。息は絶え絶
えである。

「くそ・・・さっきまで街の南側におったくせに・・・一時間足らずでこんな
北側まで・・・おかげで街を走って縦断するはめに・・・」
「まぁ、渡し舟はそういう仕事だからな。常に動いてねぇと。」
「リミィも疲れたぁ!デミテル様ジュース買ってぇ!」
「お前はずっと私におんぶされてただろうが!ついさっきまで!」
「ねぇデミテル・・・アタシも喉渇い・・・」
「黙れインコ。お前は乾燥してミイラと化せ。」
「ちょっと!インコの生存権無視すんじゃないわよ!!」

デミテルの耳元で騒ぐジャミルに、彼は彼女の思い切りクチバシを上下両側か
ら挟み込み黙らせた。

「むごおっつ!」
 「黙っていろ非常食。で?その財布を返してくれないか?」
 「あーいいけど・・・あんちゃん今デミテルってよばれてたかい?」
「え?」
 「そうだよぉ。この人はデミテル様だよぉ。」

デミテルは財布を受け取りながら首を傾げた。渡し舟の男はクックッと笑いながら
財布を手渡した。

「俺ぁただの渡し舟のオッサンだ。金さえ貰えりゃそいつが善人だろうが悪人だろうが、
はたまたモンスターだろうが犯罪者だろうが、あげくダオスであろうが運ぶ。」

 そう言うと、男は足元に置かれた一枚の黄色みがかかった紙を拾い上げ、それをデミテルに渡した。

「俺にとってはお客様は神様だ。だからよ・・・・・・とっとと逃げた方がいいぞ。」

 デミテルは首をかしげたまま、紙に書かれた、流れるようにきれいな字を読んだ。

               写真を探しています

ベネツィア在住の方々。我々アルヴァニスタ王国は、数週間前に起きた「ハーメル壊滅事件」の犯人を探しています。つきましては、その容疑者と思われる男の情報、写真を探しております。提供者には謝礼をお約束いたします。情報提供何卒よろしくお願いいたします。

容疑者の名は


デミテル


「写真?ああ、あるよ。」

宿屋『ベイエリア』。訪ねて来た数人の兵士に向かって、目の細い宿主は言った。

「その人とはよく麻雀やっててねぇ・・・盛り上がったもんさぁ・・・」

軽口を叩きながらアルバムをめくる男に、兵士達は無言でお目当てのものを待
っていた。

やがて、男の手が止まった。写真を挟み込んだビニールの隙間に指を入れ、そ
れを取り出す。

「でもなんでこんなのがいるんだぃ?・・・まさかいまさら手配書なんて作ろ
うとしてんの?確かにあの人昔食い逃げやってたとか言ってたけども・・・もう
時効・・・」
「そんなんじゃない・・・というかアンタ、今日に朝刊に挟んである我々アルヴァニスタからの広告を見てないのか?」
 「俺あんまり新聞読まないのよ。端っこの四コマ漫画しか基本読まないの・・・」

そう言われながら写真を受け取った兵士の目が、それに写る一人の男にくぎづけ
になった。

「・・・おい・・・もしかしてコイツが・・・この変な髪した奴が・・・」
「ああそうだよ。」

宿主はなんでもなさそうに煙草に火をつけながら言った。

「そいつがデミテル。正式な苗字はないとか言ってたけど・・・・・・本人は
『デミテル=スカーレット』って名乗ってたね。ほら。病院とかだとフルネーム
じゃないといけないから。」

麻雀台を囲んで写る数人の男。そして、写真の右隅に少し憂鬱そうに立ち、こ
ちらを見る男。

兵士は、いや、兵士達はその男に見覚えがあった。というのも、ついさっき、
道を歩いていたとき、彼らのすぐ横を走っていったからだ。インコと少女を引き
連れ、『財布ぅ!財布ぅ!』と呟きながら。

写真を持った兵士は、ゆっくりと懐から一枚の髪と羽ペンを取り出すと、そこ
にスススと、文章を連ねていった。それは兵士が、上司へいざ報告するとき言葉
に困らないよういつもしていることだった。

報告

罪人の写真を発見。

罪人は市中に潜伏せり。一刻も早く

ベネツィアを封鎖するべし。

「・・・なんだか。」

ベネツィア港。そこの一隻の船に今まさに乗り込もうとしたクレス=アルベイ
ンはふと街の方を見た。

「クレスどうした?」

先に船に乗っているクラースは、急に足を止めたクレスに尋ねた。

「なんだか・・・アルヴァニスタの兵士が妙に多いような・・・」

港にはたくさんの人間が行き来している。国レベルの物流もあるため、兵士の
姿はそう珍しくはない。

だが、今日は妙に数が多い。

「気のせいだろ。早く乗れクレス。我々はこれから・・・」
「わかってます。浸食洞に向かうんですよね。ウンディーネと契約するために。」

そう言うと、クレスはゆっくりと足を踏み出し、船に乗り込んだ。だが、また
足が止まり、自然とまた街と、そして少々よどんだ空を見上げた。


なんだか・・・・・・

荒れそうだな・・・空も・・・街も・・・

時の英雄達を乗せた船が港を出た頃。街を警鐘と、剣、槍、そして弓を携えた
兵士達の大声が覆った。


「全員家に!建物に入ってください!!店は全て閉めて!!鍵も全部閉めてく
ださい!!この街にテロリストが潜んでいます!!これは警告です!!我々はこ
れより街を巻き込んでの捜索を開始します!巻き添えを受けないよう家に入って
ください!もう一度繰り返します!これは警告です!!」

つづく


あとがき
tauyukiseさん>遊○王ですか。自分は小学生の時にブームで、友達とやってました。
でも、途中からブームがデュエルマ○ターズカードに変わりました。

「このブームもいずれ終わるんだろうな」と思いながらもカードを買いにいく自分は何なんだろうとか考えながらやってました。なんて冷めた子供でしょう。


考えてみたら今まで読者様のコメントにひとつひとつ回答するということをしていなかった。

「コメントしたのに何の反応もねーじゃねーか。」と思った読者様。
ごめんなさい。

次回 第二十六復讐教訓「逃げるが勝ち」

コメント

コメントした内容がフトソンに伝わって狂喜乱舞した男鼠でーすッ

遂にデミテルも追い詰められてしまったッ!?
フトソンの運命もどうなるか気になりますねー(爆
そしてジャミンコはミイラと化すのか!?(ぇぇ

次の話はまっだかなー?
と思いながら毎日覗かせてもらってますw
これを読んでいるのは一週間に一回くらいの至福の時ですよwww
これからも頑張って書き続けてくださいッ

乱文失礼します

おはこんにちこんばんは。
まだインフルエンザに負けていないtauyukiseです。

とうとう面白い展開に入りましたね。いままでで一番続きが楽しみだと、そして、続きを見たいために落ち着けないと、なんとも子供のような感じになっていますが、すごくたのしみです。しかし、いきなり現代に戻ったらこんなことになるなんて、自分の予想を大きく覆したストーリーになっていて、とてもびっくりして、とても楽しく読ませていただきました。

デミテルたちはこの地獄のような状況から、どうやってのりきるのでしょうか。更新日まで、勝手に妄想させていただきます。

しかし、この小説ではサブキャラが大活躍しますね。もっといろいろなサブイベントや(ファンタジアゲーム内とか)特に、エルウィンたちの結婚式に招待されそうな、そんなストーリーをリクエストします。勝手気ままなことばかり言ってすみませんが、楽しみにしています。

それでは、次回更新日までまっています。

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