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デミテルは今日もダメだった【26】

第二十六復讐教訓「逃げるが勝ち」

「いやー。一時はどうなることかと思ったんだな♪」
 「よかったねぇ♪フトソォン♪」

灰色によどんだ曇り空。今にも雨が降りそうなベネツィアの街に、彼らはいた。

時は午後三時。なんとか財布を取り戻したデミテル達は、バイキングレストラ
ン『赤い彗星』のスキンヘッド店員に代金を払い、フトソンを無事回収した(店
員はなんだか惜しそうな顔をしていたが)。

ところが、この喜ぶべき瞬間に、テンションを上げていたのはフトソン、そして
リミィだけであった。残りの一人と一匹は、なんとも辛辣な表情をしている。

あまりにも空気が重いので、フトソンはなんだか自分が悪いことをしたような
気になり始めた。

「ちょっと・・・なんでアンタらこんなテンション低いんだな・・・もうちょ
っと僕の安全が確保されたことに対して多少の喜びの声的なものを・・・」
「・・・るぞ。」
「え?

デミテルが呟くように言った一言に、フトソンは目をパチクリさせた。

「この街を出るぞ。一刻も早く。」
「出るってデミテルさん・・・まだこれからのことについて何にも・・・」
「おい。」

デミテルが口を開こうとしたその時。背後から厳つい声がした。

フトソンやリミィは後ろを振り向いたが、デミテルは動かなかった。肩に乗っ
たジャミルも同様だ。

やがて、声の主が迫って来るのを彼は聞いた。カシャッカシャッという金属音
がそれを教えるのだ。

鎧が軋む音。間違いなく兵士だ。

「貴様・・・そこの青い髪をした奴・・・こちらを見ろ・・・」

兵士は槍を身構えたまま、ソッポを向き続けるデミテルに言った。あまりにも
無反応なので、フトソンはトントンとデミテルの肩を叩いた。

「どうしたんだなデミテ・・・」
「何言ってるのフトソォン!?こ、この人の名前はデミーだよぉ!!」
「は!?」
 「そ、その通りよデカブツ!コイツの名前は・・・ええと・・・ロバート=デ
ミーロ・・・」
 「ジャ、ジャミンコ違うよぉ!ええと・・・マイケル=ジョイフォックス・・
・」
 「ってアンタの方は一文字も合ってないじゃないの!?」

フトソンの言葉を遮るかのように話し始めたリミィとジャミルに彼は目を丸く
した。

「ジャミル・・・リミィ何言って・・・」
「そこの着ぐるみを着た男!今そいつのことデミテルと・・・」
「あぁ!あんなところにアンジェリーナ=ジョリーが!!」
 「なにぃっ!?」

突然デミテルがでたらめな方を指差し叫んだ。兵士は本気で指差された方向を
凝視した。

 「ジョリー!?あのジョリーがこんなとこに・・・」
 「走れぇっ!!」

 兵士の気が反れた瞬間、デミテルが叫んだ。同時に、本気でアンジェリーナ=
ジョリーがいるものだと思って指差した方を凝視していたフトソンの腕を引っつ
かみ、駆け出した。リミィは急いでフトソンの頭に乗っかった。

 「いたた!ちょっとデミテルさん!まだジョリー見てな・・・」
 「こんなところにアンジェリーナがいるわけないだろうが!本気になるな馬鹿者!!」
 「えぇっ!?デミテルさんひどいんだな!!世界のアンジェリーナ=ジョリーで嘘を・・・」
 「デミテル様ぁ!アロエリーナ=ジョリーて誰ぇ!?」
 「アンジェリーナだ馬鹿!!アンジェリーナはお前アレ、トゥームレ〇ダーの・・・」
 「ちょっとっ!!どこまでアンジェリーナ=ジョリーで引っ張る気よアンタら
ぁ!?」

 駆けるデミテルの肩にしがみつきながらジャミルが叫んだ。風で毛並みがボサ
ボサだ。

 そのジャミルの声と同時に、遥か後方で叫ぶ声がした。

 「おいっ!いたぞぉ!奴だ!写真の男・・・青い髪に赤い前髪・・・デミテル
だぁ!!」
 「わああああっ!!」

 兵士の声に呼応するように雄叫びがして、フトソンはビックリして後ろを見た
。見れば、槍やら剣を構えた兵隊がハイエナの群れの如くこちらに駆けて来るで
はないか。

 あまりのことにフトソンはパニックに陥った。

 「ちょっとぉ!一体全体どうなってんだな!?さてはデミテルさん、どこかで
またカレーを拾い食い・・・イヤ万引き・・・」
 「カレー万引きってどんな万引き犯だ!?別にそこまでカレーに対する執着心
高くないわぁ!」
 「じゃあチョコレートケーキ。」
 「だからやるわけが・・・イヤ・・・チョコレートケーキならやりかねないな
私も・・・」
 「リミィも焼鳥だったらやるかもぉ・・・」
 「なんでアンタら走りながらこんなどーでもいい議論をやれるのよ!?無駄に
肺活量高いわね・・・ってどうでもいいわぁ!!早くどっか細い路地逃げ込みな
さぁい!」


「それにしても・・・住民全員を家に閉じ込めて、店も全て閉めるというのは
・・・ちとやり過ぎではないですかね?」

ベネツィア港。その片隅、防波堤に一つ、簡素なテントが一つある。その扉に
は、このように書かれた紙が貼られていた。


大量無差別殺人犯デミテル捜索本部

テントの中には、数人の兵士と一人のエルフの男。中心には街の細かい、観光
用とは違うベネツィア市の構造を事細かく書かれた地図が小机に置かれていた。

「やるならとことんだよ。軍曹殿。」

そう言って机の地図を覗くのは、ルーングロムだ。

「奴が無差別に人を殺したという実績がある以上、何の躊躇もなく道行く人間
を襲いかねない・・・できれば住民を家にいれるより街から出したいが・・・そ
んなことをすれば住民に紛れて逃げられる可能性が・・・」
「ご報告申し上げます。」

テントの中に、若い兵が一人入ってきた。彼はルーングロムの前に出ると膝を
地面についた。

兵は丁寧な口調で報告した。

「先程、Dブロック3‐2区域において、デミテルを発見したと報告が入りまし
た。」
 「捕まえたのか?」
 「それが・・・アンジェリーナ=ジョリーにより阻まれたとかなんとか・・・」
「ア、アンジェリーナ=ジョリー?あの世界のジョリーがなぜ・・・・・・いや、そんなことはまぁいい・・・」

あまりにも奇抜な報告だったため、ルーングロムは一瞬混乱したが、すぐに自
分を取り戻した。

「して?奴はどこに逃げた?」
「路地を北に入っていったようで・・・」
「北か・・・」

ルーングロムは机から地図を取ると、中を覗き込んだ。


ベネツィアは高い建物が入り乱れている。よって狭い裏路地が多く存在する・
・・デミテルはかつてこの街に住んでいた・・・つまり・・・


「奴は我々よりも抜け道を知っている。正攻法で捜すのは難しいが・・・」

ここでルーングロムはニヤリと笑う。誰よりも正義を重んじ、悪しき者を憎む
この男は、『悪人を追い詰める』ということが楽しくてたまらなかった。そうい
うものもあって、この男はわざわざ船に乗りこの地に出向いたのだ。

「奴が知識で逃げようとするならば・・・我らは数でいこうではないか・・・」

「・・・それじゃデミテルさんばれちゃったんだな・・・アルヴァニスタ王国
に・・・」
「そうだフトソン・・・まったく、あの渡し舟の親父が教えてくれなかったら
どうなっていたか・・・」

 ベネツィア集合住宅街。辺りには白い壁の集合住宅や会社が多く、ギュウギュ
ウに敷き詰めるように建てられている。それゆえ、抜け道も多かった。

一年ここで過ごしていたおかげもあって、デミテルは道に迷うということはま
ずなかった。

「あの兵士は私を『写真の男』と呼んだ。おそらく誰かが私の写真を持ってい
て、それを奴らに提供したのだろう・・・迷惑な奴がいたものだ・・・」
「・・・ってちょっと待つんだな。」

デミテル達は細い道を周りを伺いながら歩いていた。曲がり角を曲がる時は常
に確認し、鎧が軋む音が聞こえないか神経を研ぎ澄ませている。

「どうしたのぉ?フトソォン?」

足を止めたフトソンの頭に乗っかりながら、リミィが言った。

フトソンは少々下を向きながら、恐る恐る言った。

「デミテルさんは・・・・・・・・・街を・・・あの・・・僕たちが前に野宿
したあの廃墟の街を滅ぼしたんだな・・・?」
「ん?あぁ。そうだ。そういえばお前には言ってなかったか?」
「デミテルさんは・・・」

この時デミテルは感じとった。あのフトソンが、自分に対して、今までにない
感情を持ったことに。

「デミテルさんは・・・・・・・・・・・・・人殺しなんだな?」
「・・・・・・・・・!」

 空気が凍り付いた。ジャミルはひやりと冷や汗を垂らし、リミィはいつもと何
か違うフトソンの態度に違和感を覚えた。

人殺し。言われてみれば確かにその通り。だが、こうやって改めて言われると
、デミテルは何とも言えない気分になった。

少しばかりの沈黙。やがて・・・

デミテルはフッと笑った。

「そうだ。お前の言う通りだ。私は人殺しだ。しかも、大量無差別殺人鬼だ。
どこぞのガーゴイル集団やヒルジャイアント共とは比べものにならんほどの大悪
党よ・・・・・・・・・軽蔑したか?」

デミテルは最後に一言付け加えた。その言葉にフトソンは慌てて首を横に振っ
た。

「け、軽蔑なんて僕・・・」
「・・・殺人鬼が雇い主では一線引きたくもなるだろう・・・」
「そ、そんなことないんだな!ぼ、僕だって今までモンスター倒したことある
し・・・ガーゴイルとか・・・」
「世の中には許される殺生と許されぬ殺生がある。」

デミテルは懐をゴソゴソと漁りながら、静かに言った。

「許される殺生は、生きる上に必要な殺生。狩猟などだ。そして、大切な何か
を護る為の殺生。ある者は家族を護る為に襲い掛かるモンスターを殺し、ある人
は恋人を賊から護るために剣を持ち、賊を・・・人を殺す。勇者は世界を護るた
めに魔王を殺す・・・だが・・・」

やがて、懐からウエハースチョコを取り出した彼は、ボリボリと食べながら続
けた。

「許されぬ殺生は・・・生きる為でも何かを護る為でもなく・・・・・・・・
・ただ快楽で人を殺すことだ。自らの私利私欲の為に人を殺す。自らの渇きを癒
すが為だけに人を殺す。私は・・・・・・・・・」


私は。私は何故殺したか。今でもわからない。何故街を襲ったのかも。だが少
なくとも・・・

生きる為でも・・・何かを護りたかったわけではなかった・・・

「いたぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

後ろから雄叫びが聞こえて全員飛び上がった。見れば、数十人の兵がこちらに
駆けてくる。

「ちょっと!アンタ達シリアスな話してる場合じゃないわよ!?」
「・・・よし。行けフトソン。」
「っえぇ!?僕ぅ!?」
「しばらく奴らを抑えろ。私が詠唱を終えるまでな。」
「いや・・・でも・・・あの数はちょっと・・・」
「とっとと行け白饅頭。何の為の生け贄だ?」
「んなこと言われても・・・って生け贄!?僕生け贄ぇ!?」
 「フトソンがんばれぇ!イケニエがんばれぇ!」

生え贄の意味もしらず応援するリミィをよそに、あまりにもひどい扱いに憤慨
するフトソンだったが、そんなことを言ってる場合ではない。

頭からリミィを降ろすと、フトソンは仕方なさそうに指をボキボキと鳴らした。

「デミテルさん・・・」
「今話しかけるな。詠唱しようとしとるんだから・・・」
「・・・殺人犯だろうがなんだろが・・・・・・アンタは護るんだな・・・」
「・・・・・・・・・!」
「うらぁぁぁぁぁ!!」

次の瞬間、フトソンの右ストレートが兵士達をまとめて薙ぎ倒し、壁という壁
に叩きつけた。

 ギリギリしゃがみ込んで避けた兵長は、部下達に叫んだ。

「こんの・・・囲め囲めぇ!!この白い着ぐるみを着た過齢臭を漂わすオッサ
ンをかこ・・・」
「だから僕まだ十八なんだなぁぁっ!世の中の着ぐるみ着たオッサンにぃ・・・」
「!?」

兵長はうかつだった。彼はフトソンを見た目から、てっきり馬鹿力だけで動き
が遅いと踏んでいたのだが・・・

早い。いつの間にか後ろに回り込まれている。

「世の中の働くオッサン達に謝れぇぇぇなんだなぁっ!!」
「ぶあっふぁ!?」

世の中の働くオッサンに値する兵長は、フトソンの炸裂した左アッパーカット
によって吹き飛び、地面に叩きつけられてしまった。

「うわぁい♪フトソンすごぉい♪さすがイケニエだねデミテル様ぁ♪」
「小娘・・・あとでアタシが『生け贄』の意味教えてあげるから・・・言うの
やめなさい・・・」

襲い掛かる兵士の槍をへし折るフトソンを眺めながら、ジャミルはため息混じ
りで言った。

「護ってやる・・・か・・・」

デミテルは人差し指を唇にあて、詠唱の言葉を紡ぎながらフッと笑った。


いつだったか・・・同じ言葉を私は誰かに言った気がする・・・・・・ある女
性に・・・

まったく・・・口約束なぞあてにならんな・・・

『護る』と言った相手を・・・

デミテルは指先をビッと兵士達に向けた。指先を冷気が覆う。


『護る』と約束した相手を・・・

自らの手で殺めたのだから・・・


「アイストーネードォ!!」

デミテルの叫びと共に兵士達の足元から冷気が舞い、冷たい風の柱を発生させ
た。

吹き飛ぶ兵士。手足が凍り付く兵士。凍りながら吹き飛ばされる兵長。そして
沸き上がる・・・


フトソンの悲鳴。

「ギャアアアアアアアアス!?」
「・・・あ。」
「あ。」
「うわぁ♪フトソンがお空飛んでるぅ!!」

リミィの楽しげな声とは裏腹、フトソンは半身凍り付きながら宙を舞い、デミ
テルの前にドサッと落ちた。

ぐったりと魂が抜けたように倒れるフトソンを見下ろしながら、デミテルは無
表情で頭をボリボリとかいた。

「・・・あーしまった。コイツの安全について全く考えてなかった・・・」
「こりゃ死んだわね。」
「大丈夫だジャミル。フトソンは我々の心の中に生き続ける・・・お前ら忘れ
るな。かつてフトソンという名の戦士が我々の為に命を賭けてくれたことを・・
・」
「・・・わかったわ。」
「フトソォン。リミィ、フトソンのこと忘れないよぉ・・・」


・・・・・・・・・・・・


その後、フトソンの姿を見た者は誰もいなかっ


「待てコルァァァァァァっ!?」

獣の如く雄叫びを上げながら、噴火するかのようにフトソンは復活した。

「勝手に人殺すんじゃないんだな!!リミィなに普通に言葉鵜呑みしてんだな
!?つーかジャミルも何気に悪ノリしてんじゃない・・・・・・ってゆーか誰な
んだな!?『その後、フトソンの姿を見た者は・・・』って言おうとしたのはぁ
ぁぁっ!?リアルにビックリなんだな!読者もビックリなんだな!!」

ここまで一気に叫び終わると、フトソンはゼェゼェと息を切らした。はるか後
には、手足が凍り付いた兵士達がぐったりとしている。

デミテルはまたしても頭をボリボリかいたあと、やがてこう言った。

「なんだ。生きてたのか。」
「『生きてたのか』じゃないんだな!!テメエを冥土に送り込んでやろうかコ
ルァッ!?」
「ちょ、ちょっとデカブツ!?キャラ忘れてるわよキャラ!!完全に口調がヤク
ザよ!?」
「うわぁい!フトソンが生き返ったあ♪」
「生き返ったっていうか死んでもないからね僕!?生き続けてるんだなずっと
!!」
「潔く逝った方が感動的だったんだが・・・」

真顔で言ってくるデミテルにフトソンは笑顔でギリギリと歯ぎしりした。

「だぁぁもう!!もうデミテルさんなんて知らないんだな!!どこで野垂れ死
にしようが知ったこっちゃないんだな!!」
「ハッ!貴様のような白饅頭に護られる程私は落ちぶれては・・・」
「ファイアボール!!」

突如、背後から複数のハモった声がした。振り向けば、数十個の火の玉がこち
らに飛んでくる。

「ぬわっ!?」
「ギャア!?」

デミテルはリミィの頭を引っつかんで身を屈め避けたが、フトソンは顔面に数
発直撃し、悶えた。

「あち!?あちち!?」
「チ・・・」

デミテルは後ろを振り向きながら舌打ちした。お揃いの茶色いローブを着
た杖を構える集団狙いをこちらに構えている。

アルヴァニスタの魔術師だ。ローブの右胸にアルヴァニスタ王国のロゴが小さ
く見えた。

「くそ・・・次から次へと・・・」
「目が!?目がぁぁっ!?目が焼けたぁっ!?」
「うるさいわよデカブツ!一体何のバロディよそれ・・・」
「ええとぉ・・・・・・み、見ろぉ!人がゴミのようだ・・・」
「やかましいぞリミィ!何もフトソンのジョークに合わせて変なモノマネせんでいい!早くしろフトソン!走るぞ!」
「あ・・・アンタら悪魔なんだな・・・」

背後からアイスニードルが飛び交う中、デミテルはヒーヒー呻くフトソンとフ
ワフワと浮くリミィを引っ張り、入り組んだ路地を曲がっていった。


「デミテルをC地区6‐8に確認しました。現在北西に逃げている模様!」
「そうか。ならば・・・」

港のテントの中で報告を受けたルーングロムは、テーブル上の地図に赤い線を
書き込みながら、兵士の報告を聞いた。

「・・・C地区の4‐8から7‐8までの道に兵を構えるよう伝書鳩を出せ。早急に。」
「はっ!」

返事をした兵士は、先程の報告が書かれた封書をくわえてきた鳩に渡すため、
ルーングロムが言った言葉を手紙に連ねた。

「・・・怪我人は?」
「はい!現在二十七人が軽傷、気絶していると・・・」

テントから手を突き出し、アルヴァニスタ王国公認戦場用伝書鳩『ホワイトベ
ース君七号』を飛び立たせながら、兵士は答えた。

その報告に、ルーングロムは眉を潜めた。地図を走らす羽根ペンの動きが止ま
る。

「二十七人が軽傷・・・気絶・・・重傷者や死人は一人も出ていないのか?」
「え?あ、はい。気絶以外では、手足を凍らされたり軽度の火傷を負う程度・・・」
「・・・・・・。」


あの男が・・・街を壊滅させたような奴が未だ誰も殺していない?おまけに、手足が凍ったということはアイストーネードを使ったということだが・・・いくら中級呪文と言っても、直撃すれば全身凍り付いてしまう兵士が出てもおかしくないはず・・・

奴は・・・デミテルという男は・・・

威力を・・・手を抜いて術を放っている?なぜ・・・あんな殺戮の限りを尽く
した奴がなぜ・・・

ルーングロムが疑問に囚われていた頃、灰色によどんでいた空から、冷たく、
細かい水滴を垂らし始めていた。

「デミテル様ぁ・・・疲れたぁ・・・」
「うるさい!今喋るな!ばれるだろうが!?」
「僕お腹空いたんだな・・・」
「飯なら一時間前に食っただろうが!?食費が掛かる奴だなお前は!」
「ちょっとデミテ」
「黙れインコ。羽根をむしるぞ。」
「ちょっとぉ!アタシにもなんか言わせなさいよぉ!」
「黙れと言っとるだろうが・・・」

ベネツィア北区ゴミ捨て場。そこには、数個のポリバケツ状のゴミ箱が置かれ
ている。

その中に、一つだけガタガタと揺れている巨大なゴミ箱がある。そう。デミテ
ル達はまさにその中にギュウギュウになっていた。

五分程前、道という道を塞がれ、揚句挟み撃ちになりそうになったデミテル達
は、偶然道脇に置かれたゴミ箱を見つけ、中に入ったのであった。

そこまではよかった。だが・・・

「いないな奴ら・・・」
「確かにさっきまでこの辺りにいたはずだ。捜せ。」

不幸なことに、兵士達はゴミ箱周辺をたむろい続けていた。とても出れたもの
ではない。

「それにしても狭いんだな・・・それにちょっと生ゴミ臭い・・・」
「狭い・・・というかお前の図体がデカすぎるんだ・・・ダイエットしろこの
バカ・・・ビ○ーズ・ブートキャンプでも始めろ・・・」
「失礼な!これでも僕はビッグフット族の中じゃ痩せの大食い・・・」
「デミテル様ぁ・・・♪」

あまりこの状況に合わない、妖艶な声がした。声は、デミテルのお腹辺りから
聞こえた。

「なんだリミィ?暑くてほてったのか?」
「リミィねぇ・・・」

暗くて何も見えないが、その何とも言えない幸せそうな声に、デミテルは悪寒
に襲われた。

「リミィねぇ・・・デミテル様とぉ・・・こんなにぃ・・・長い時間・・・密
接してるの初めてぇ・・・・・・♪」
「・・・・・・」
 「・・・・・・」
 「・・・・・・」
 「・・・・・・」
 「・・・・・・ロリコン・・・」
「おいコラフトソン!?誰がロリータ・コンプレックスだぁ!?好きでこんな
に密接しとるんじゃない・・・」
「デ、デミテルさん!声でかいんだな!」

外で世話しなく歩いていた兵士達の鎧が軋む音がふと止まった。デミテルは顔
面蒼白、全身から冷や汗をダラダラ垂らしながら、ひっそりと耳を澄ませた。

「・・・なんか今聞こえたべ?」
「俺もなんか・・・ロリコンがどうとか聞こえた気ぃすっぺ。」
「気のせいだべか?」
「多分気のせいですたい。」
「それもそーやの。この状況でロリコンの話をする奴なぞおらんやろぉ~・・
・」

足音がまた世話しなく動き始めた。デミテルとフトソンはハァーとため息を落
とした。

「まったく・・・・・・そういえばジャミル?さっきからずいぶん大人しいな
?ツッコミが一発もない・・・」
「・・・・・・。」
「・・・・・・おいどうした?」
「・・・・・・・・・。」
「・・・おーい?」

デミテルは自分の右肩に乗っかっているジャミルに向かって喋りかけたが、反
応がない。

「おい!いい加減に・・・」
「・・・・・・めぇ・・・」
「は?」
「だ・・・めぇ・・・ホントに・・・ダ・・・あ・・・・・・らめぇぇぇ・・
・」
「な・・・?」

突然聞こえてきた今にも泣きそうな声に、デミテルは目をパチクリさせた。あ
とにも先にもこんな弱々しいジャミルの声を聞いたのは初めてだ。

「おいどうし・・・」
「イヤァァァァァァァっ!!狭いのダメェェェェェェェ!!」
「うわぁぁぁ!?」

咳を切ったかのように発せられた悲鳴と共に、ジャミルはゴミ箱の蓋を泣きな
がら吹き飛ばしてしまった。


五分後。とうとう裏路地から追放され、大通りを大量の兵士から逃げまくるデ
ミテル達の姿があった。

「おぃぃぃっ!!閉所恐怖症なら最初から言えバカインコぉぉ!?」
「うるさいわよぉぉ!アルヴァニスタで仮死状態なって死体のフリして庭に埋
められてぇ、いざそこから這い出ようとしたらめっちゃ怖かったのよぉ!?アン
タわかるぅ!?目が覚めたら土の中で身動き取れないのよ!?真っ暗なのよ!?
そんな目に合ったら誰だって・・・・・・・・・うえーん!!」
「インコが『うえーん』とか言ったって何にも可愛くないわ!!興奮もせんわ
ぁ!!」
「そうなんだなジャミル!デミテルさんの場合は幼女が『うえーん』とか言っ
てたら萌・・・」
「萌えるかぁぁぁっ!?いい加減にせんとベネツィア湾に沈めるぞ貴様ぁ!?」
「デミテル様ぁ・・・♪」
「だぁからお前はいつまで私の腹に引っ付いとるんだぁ!?いい加減離れろ!
誤解を与えるだろうがぁぁぁぁ!?」

 デミテルの叫びに呼応するかのように、小雨が街を覆い始めた。


つづく


あとがき

男鼠<「これを読んでいるのは一週間に一回くらいの至福の時ですよ」なんて書いていただきありがとうございます。ちなみに自分の至福の時はこの小説に読者様のコメントが載っているときです。

tauyukise<「いきなり現代に戻ったらこんなことになるなんて、自分の予想を大きく覆したストーリーになっていて、とてもびっくりして、とても楽しく読ませていただきました。」ありがとうございます。実はこの話の展開は小説を始める前から考えていました。

考えてみたらこの小説を始めて半年ぐらい経ってました。半年経ってるのに未だクレス達はモーリヤ坑道をクリアしていません。物語の進みが遅いと思ったらごめんなさい。

次回  第二十七復讐教訓「能ある鷹は爪を隠す」

コメント

おは今日こんばんわ。
ファンタジアの制約プレイを始めたtauyukise
です。

制約プレイの条件は、回復系統は料理以外つかわない。(宿はあり)むっちゃ厳しい制約プレイをやっているのです。2回ほど全滅しました。一回目がローンヴァレーで、二回目がイフリートのせんとうでです。
ローンヴァレーはマジで攻略できないかと思いました。しょうきのへやが・・・。

さて、制約プレイをやっているなかで、デミテルについて(PS版)で覚えてる限り、どんな感じだったか書き込んで見ます。
この小説に関しての矛盾はきっと無いのでご安心を。

まず、スカーレット夫妻は、ミッドガルズへ引っ越して、魔科学の研究をやっていたとか。
その魔科学の実験中に事故死したとか。
そのことを聞いたデミテルはとても悲しんだとか。何故、デミテルがダオスに操られたかは、
REIOUさん、あなたが勝手に書いちゃってください。たぶん、GBAと、PSと、PSPと、SFCでは少しずつ設定がずれていると思うので、そこはごまかしながら、読者をなっとくさせるしょうせつにしてください。(矛盾点があったらつっこむように)

最後に、ビックフットから手に入るアイテムって、麻雀のために使うアイヴォーリ(こんな名前だっけ)がてにはいるので、これ関係のネタの話もそのうち作ってください。勝手気ままなことを言って本当に申し訳ありません。
ではでは、次回の更新日まで楽しみに待っています。ハヴァナイスデー

デミテル・・・俺もロリコンだから安心しな
といいたいでs(黙
すごくいいところで泊まってしまった・・・
まるで週一のアニメを見ていてとちゅうで終わった感じです
ところで兵士があんなに方言訛りだったのか誰も突っ込まないことに吃驚しました。
てっきりデミテルがなんで方言やねんッ!とかって突っ込んでそのあとにお前もじゃないか、とかいわれるんだと(勝手に決めるな

あ、最後にですがアイヴォーリではなくてアイヴォリーですよw象牙の事だったはずです

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