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デミテルは今日もダメだった【32】

第三十二復讐教訓「人間  自分が裏で何を言われているか分かったものではない」


誰かが言った。変化とは、突然起きるものではなく、どんなに突発な変化でも
、必ずやどこかで小さい積み重ねが起き、それが原因で起きている。と。

なるほど。言いたいことは大体、なんとなくわかる気がする。理由も無しに何
かが変わるというのはありえない。


じゃあ、アタシのこの『変化』は誰が説明してくれようか。どう思い直しても
、自分がこうなった理由が思い付かない。

とりあえず、もっかいだけ記憶を巻き戻してみるか。


時間を昨日の夕方まで遡らせる。

昨日の夕方。アタシ達はついにアルヴァニスタ大陸に上陸した。よくぞまぁ、
手漕ぎのボートでここまで来れたものよ。デカブツは疲労で真っ白に燃え尽きた
みたいになってたけど・・・ってもともと白いか。

上陸したのはアルヴァニスタ王国の港から少々南下したあたりのところ。まあ
、指名手配受けてる訳だから妥当な判断ね。

そのあと近くに小さい池を発見。池の底にはたくさんのG・フロッグがなんか
井戸端会議してたわね。

確か内容は・・・


『なんで俺達って投票権がないと思う?』
『さあ・・・蛙だからじゃね?』
『蛙にだってさぁ!人権っつうかなんつうか?「蛙権」的なものがあるとある
と思うわけよ!発言の自由が認められてると思うわけよ!政治は政治家達だけで
決めるんじゃない!国民が国の中心になって回らないといけないと思うんだよ!
マジで!』
『でも・・・やっぱ蛙だし?』
『いい加減にしやがれ武彦ぉ!?』
『ぐはぁ!?し、舌使って殴るのはやめてくれよ親父!!俺もう今年で二十六
だぜ!?』
『二十六にもなってこんな小さい池にいつまでも引きこもってんじゃねぇよア
ホ息子!お前は家の米農家を継ぐのか否かはっきりしやがれ!』
『俺はこんな小さい池で人生をまっとうする気は毛頭ねぇ!大都会でドリーム
を掴むんだよ俺ぁ!アメリカンドリームをよぉぉぉ!!』
 『お前は世間の厳しさを何一つわかっちゃいないんだ武彦・・・・・・父ちゃ
んもその昔都会の荒波にも飲まれてな・・・・・・!』


・・・って感じの会話を地上で聞きながら、晩飯を食べたんだっけ。

晩飯のメニューは・・・・・・あ。やべ。思い出せ無い。脳年齢が低下してん
のかなコレ・・・

・・・ってピーナッツしか食わせてもらってないんだった。

そのあといつも通り甘党馬鹿の右肩に乗って寝ようとしたけど・・・

眠れない。それどころか

 この前の会話思い出してなんか急に泣きたくなってきた。

※第三十話での会話
『だから・・・・・・・・・その・・・・・・もうちょっとその・・・・・・
アレ・・・・・・・・・アタシの立場上げてくれてもいいんじゃないかな~・・
・?な~んてね・・・』
『立場を上げるだと・・・?じゃあ、『非常食』から『常食』にするか?』
『常に食べられてどうすんのよ!?アタシもう未来も希望もなくなるじゃない
の!?』
『じゃあ『離乳食』。』
『デカブツぅ!?頼むから『食』という単語から離れて考えて!!』

アタシは結局食べ物としか見られていない・・・

・・・べ、別にあんな馬鹿どもと同等の付き合いなんてしたくないのよアタシは!立場から言えばアタシの方が上なんだから!アイツらがアタシを敬って見るべきなのよ!平伏し、足蹴にされるべきなのよ!!

・・・なんてこと考えてたら余計に泣きたくなった。自分の今の非力さ、小さ
さ、立場の低さに、だんだん虚しくなり始めた。

ふと目を開ける。デミテルは木にもたれ掛かるようにして寝てて、デカブツは
横で大の字になってて、小娘は・・・

てっきり、いつものようにデミテルの膝の上で寝てると思ったら、寝相が悪い
らしく、膝から地面に落ちて寝ていた。

ふと下を見下ろすと、デミテルの膝が見える。たいていの場合、あそこは小娘
が占拠している。けど、今日は誰も使っていない・・・

・・・・・・ホントに・・・

 いい匂いがするんだろうか・・・?

パタパタと翼を羽ばたかせてアタシはその膝に降りてみる。いや、アレよ!興
味本位よ興味本位!別に嗅ぎたかったわけじゃないから!それじゃアタシが変態
みたいに見えるでしょーが!?断じて違うから!そう断じて!

などと考えながら膝に着陸。膝はデミテルのマントが被さっててなんか物凄く
立ちづらい。

周りをキョロキョロと見渡しつつ・・・ってコレ完全にアタシ変態かコレ?つ
ーかアタシ鳥目だから近くの人間の輪郭しか見えないんだった・・・

そんなことを自分にツッコミながらアタシは怖ず怖ずと・・・

その場に俯せになってみる。

あー。何かいいなコレ。久しぶりにベットで寝てるみたいな感覚。考えてみた
らアルヴァニスタに潜伏して以来、ほとんど鳥の姿だったから横になって寝るの
はホント久しぶりだわー。おまけにデミテルの体温であったかいあったかい。

・・・いかん。うとうとしてきた。このまま寝ちゃったら朝コイツに何言われ
るかわかったもんじゃないわ。

・・・あーでもこのまま寝たいなー。なんならこのマントを毛布代わりにして
体包ませて寝たい。

匂いもいいかもしれな・・・いかんいかん!やっぱり変態かアタシは!?

そんなこと考えながら結局アタシは睡魔には勝てず、瞼を閉じた。

もし・・・

もしアタシが元の人型だったなら・・・

これって・・・男の膝に女が頭乗せてひざ枕してもらっちゃってる絵に・・・
・・・なっちゃう・・・・・・じゃない・・・・・・

・・・・・・・・・。


さて。ここまでのことに何もおかしいとこはない。何か、『変化』の要因にな
るようなもんは無い。

無いはずなのよ・・・無いはずなのに・・・・・・

朝・・・起きたら・・・

「・・・・・・・・・あり?」

朝日が、平原を美しく照らしていた。そして、そこにポツンと置かれた池が一
つある。

そこには人影があった。一人は、未だ木にもたれ掛かったまま眠り続けるハー
フエルフの男。二人目は、その横で大の字になって寝る白い着ぐるみ男。

そして三人目は、ハーフエルフの足を抱き枕のようにして眠る、長い、水色の髪
をした少女。

さて。

人影は、まだ一つ残っている。

その人影は池の前に立ち、水面に映る自分の姿を見下ろしていた。水面には、
その人影のキョトンとした顔が見えた。

その女性は、恐る恐る自分の頬を指でなぞった。いつもなら、頬には大量の羽
毛が生えているのだが、今日はプニプニと柔らかい。

否、それ以前に、自分に手があること自体おかしかった。昨日まで、この腕は
翼だったはずなのだ。

ジャミルは、もう一度、何の前触れもなく元の姿に戻った自分を池で見てみた。

肌はどちらかというと白肌。赤みがかかったオレンジ色のショートヘアの髪型。頭の両側には小さい、羊の角のようにクルリと回った角が生えている。

目はどことなくつり目で、瞳の色は燃えるような深い赤、口からは尖ったやい
歯が少々出ている。ジャミルは顔を一通り見終わると、続いて胴体を見た。

服は髪と同じ赤みがかかったオレンジ色をしている。背中からはコウモリのような翼がピクピクし、後ろの、腰より少々下のところからは悪魔のような尾、例えるならバ○キンマンの尻尾のようなものがニョロニョロしていた。


それにしても・・・・・・アタシって・・・・・・


ジャミルは自分の腰や尻、胸の辺りを少し撫でると、照れ臭そうに笑った。


それにしてもアタシって我ながらいいプロポーションしてるわよねぇ♪胸はま
ぁアイツ、ミント=アドネードとかいった女よりちょっと小さいぐらいで、腰も
いい具合にキュッとしてるというか・・・

・・・いけないわね。これ以上具体的に説明すると内容が少々過激になっちゃ
うわね・・・やめとこ・・・・・・・・・ってそんな事言ってる場合じゃないでしょうがアタシ!?


水面をちょっとにやけながら見ていたジャミルは、ハッと我に戻り、首を左右
にブンブン振った。

アタシが今まで人型に戻れなかったのは、クレス共との死闘、及び体を仮死状
態にしたりとかして力を使い過ぎたのが原因だったはず。なのにこんな前触れも
なく元の姿に戻るなんて・・・おまけにアタシの意志に関係なく・・・

戻れたのは嬉しいけど、このままだとまた勝手に鳥に戻ったりするかもしれな
い。どうにかして勝手に戻った原因を突き止めないと。でないと自分の力が制御
できなくなるかもしれな・・・


「ふあ~あぁ。よく寝たぁ。さぁて。朝の糖分を補給するか・・・」

後ろから眠そうな声がした。ジャミルは急いでバッと後ろを振り向いた。

デミテルが木にもたれて座ったまま、眠そうな目でこちらをジッと見ていた。
片手には糖分補給用の飴玉が握られている。

しばらく、間があった。デミテルは頭をボリボリと掻きながら半目でこちらを
見ている。

やがてジャミルは、こほんと咳ばらいすると、もったいぶりながらこう言った。

「ふふ・・・久しぶりねデミテ」
「誰だ?」
「・・・・・・・・・・・・はぃ?」
「こんなところで一人何をしている?アレか?迷子か?」
 「・・・・・・・・・。」


ちょっと待てやコラ・・・あんたアタシのこの姿知ってるはずだろーがぁ!?


ジャミルは過去にデミテルと会ったことがある。デミテルがダオスに仕えてす
ぐ、デミテルは何度かダオス城に連れて来られたことがあり、その時軽い挨拶を
ジャミルはしていた。

が、そんなことはデミテルはこれっぽちも覚えていなかった。姿云々、ジャミ
ルという名前自体この男は覚えてはいないのだ。

一度死にかけたことで記憶が一部欠落したらしい。ジャミルのことだけを、すっぽりと。

デミテルは口に飴玉(パイナップル味)を投げ込みながら、ゆっくりと立ち上
がった。

「こんな人気のないところで女一人とは・・・世の中には危ない犯罪が溢れて
るんだ。とっとと家に帰って子供でも作ってろ。」
「・・・・・・・・・」


コイツあたしのこと覚えてないのよね?アタシがジャミルだってこと覚えてな
いのになんでいつもと変わらず見下した態度なのよ。つーか『子供作ってろ』って何?訴えていい?セクシャルハラスメントで訴えていい?

・・・いや。待てよ。落ち着きなさいジャミル。これってもしかしたら・・・

復讐のチャンス?


ジャミルは思い出していた。この男に毎日のように浴びせられた、屈辱と恥辱
の言葉を。


※今まで言われたこと
『黙れ鳥。焼くぞ。』
 『黙れ鳥。煮るぞ。』
 『黙れインコ。お前は乾燥してミイラと化せ。』
 その他もろもろ・・・


そうよ!今こそこの男に積年の屈辱を晴らす絶好の機会!今までこのアタシを
散々見下してきたこの男を地獄のどん底に叩き落としてやるのよ!ジャミルぅ!!

つもり今回の小説のお話は『デミテルの復讐劇』ではなく・・・


『ジャミルの復讐劇』なのよ!


「・・・・・・?」

飴を口の中で転がしながら、デミテルは首を傾げた。視線の先にいる見知らぬ
女性が、こちらを物欲しそうにジトリと見てきたからだ。

あまりにも見つめてくるのでデミテルはなんだか恥ずかしくなって、目線を落
とした。ちょっとドキドキした自分の男の性に少しイラッとした。

と思った矢先、女性が突然目の前にヌッと現れたのでデミテルはビックリした。

「うお!?な、なんだ貴様は!?初対面にいきなり馴れ馴れしい・・・」
「・・・・・・どい。」
「へ?」
「酷い・・・アタシと貴方・・・・・・・・・あんなに愛し合ってたのにぃ!!」
「はぁ!?」

いきなり泣きそうな顔で叫んだジャミルにデミテルはたじろいた。一方で、デ
ミテルのあたふたした反応に心の中で大爆笑しながらジャミルは泣きそうな顔の
フリを続けた。

ここから、ジャミルの嘘八百が始まる。

「覚えてないんですか?貴方昨晩見知らぬアタシに声をかけてきたんですよ。
アタシにナンパしたんですよ?」
「・・・は?え?」


マテマテマテ。何を言っとるんだこの女は?そんなわけがないだろうよお前。
だってお前昨日アレだぞ?晩飯食って、糖分取って、フトソンいじめて、糖分取
って、糖分取って、フトソンいじめて・・・

そのあと酒を・・・ってアレ?

デミテルはここで記憶があやふやになった。最後の最後、一日のシメとしてリ
キュールボトルをちょびちょびと飲んでいたことまでは覚えていたが、そのあと
がイマイチ思い出せない。

デミテルはヒヤリと冷汗をかいた。酔った自分はその後寝たのか?それとも・
・・

「あのスイマセン?」
「・・・なんですか?」

いきなり敬語になったデミテルに、ジャミルは必死に笑いをこらえながら応対
した。

デミテルは頭をボリボリと掻きながら、昨晩の事を思い出そうとした。

「あの・・・私がキミに声をかけた時、私は酔ってたか?」
「・・・ええ。軽くちどり足で顔赤かったです。」
「それで私は・・・キミに昨晩何かしたか?」
「それは・・・」

すると、ジャミルは頬を(意図的に)赤らませ、下をうつむき、こっ恥ずかし
そう(なフリ)にしながら、こう言った。

デミテルはゴクリと生唾を飲んだ。何だか急に、世界中を敵に回したようなよ
くわからない気分になった。

「それは・・・」
「それは?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・貴方にハートを盗まれ
ました♪」


どういう意味合いだぁぁぁぁぁぁ!?

え!?どういう意味!?え?そういう意味!?ハートを盗まれたって何!?私
は彼女の何盗んだんだ!?あれ!?そういうことなのか!?

マテマテマテマテマテマテマテマテマテ?落ち着けデミテル!!落ち着くんだ
!そんなことあるはずが・・・・・・って昨晩の記憶が全く・・・!?


「ふあぁ・・・あーあ。よく寝たんだなぁ♪」

デミテルが顔面蒼白になっている横で、フトソンが目を覚ました。上半身だけ
起こし、思い切り背伸びをすると、次に死んだような顔になっているデミテルを
見上げた。

「デミテルさんどうし・・・」
「ふにゃあ・・・ふぁ。おはようデミテルしゃまぁ・・・」

片目を握り拳でゴシゴシ擦りながら、リミィが起床した。髪に、木の葉が何枚
か乗っかっている。

「・・・?デミテル様どうしたのぉ?お顔青いよぉ?変な夢でも見たのぉ?そ
れとも・・・あ!わかったぁ♪さてはおトイレ・・・」
「・・・リミィお前少し黙れ。」
「デミテルさん何か今にも死にそうというか、もう既に死んでしまったような
顔してるんだな。あ!わかったんだな!さては便秘・・・」
「フトソンお前永久《とわ》に黙れ。」
「永久に!?なんで僕だけ永続的!?」

明らかに扱いがリミィより酷いのでフトソンは不満を持ったが、ふと視
界に入った見知らぬ女性が目に入り、目をパチクリさせた。

「デミテルさんあのキレイな人誰なんだな?」
「・・・・・・・・シラン。マッタクシラン。」
「・・・何で急に台詞がカタカナ表記になってるんだな?明らかに挙動不振な
ん・・・は!?」

焦るデミテル。見知らぬ女性。この二つのキーワードから、フトソンは勘をく
ぐらせた。

フトソンはハァーとため息をついた。

「そうかデミテルさん・・・・・・いや。いいんだな。もう何も言わないんだ
な。」
「ちょっと待て白饅頭。『そうか』って何だ?どういう意味だ?何が言いたい
んだ?」
「イヤイヤ。僕はいいんだな別に。うん。」
「だから何がだ? 違うぞ!お前コレは違うぞ!貴様が思ってるようなことじゃ
ないぞコレは!」
「ねぇ何の話ぃ?リミィ全然わかんなぁい!」
「リミィはまだ知らなくていいんだな。いずれ知ることになる大人の社会の汚
れた現実を・・・」
「だから違うと言っとるだろうがこのバカ!おいお前!」
「・・・・・・へ?あ、あ、はひ・・・」

デミテル達が論争を繰り広げている間、顔をうつむかせて必死に笑いを堪えて
いたジャミルは、突然話を振られて声を詰まらせた。幸い、デミテルは状況に焦
っていて気がつかない。


ホント男って単純よねぇ♪さぁて?そろそろこのアタシがジャミル様であるこ
とを暴露してや・・・


「ねぇデミテル様ぁ?」
「なんだリミィ!?私はこれからこの女と事実関係を調査し、裏付けをし、己
が何かしらの間違いを起こしてないか調べ・・・」
「非常食がいないよぉ?」
「非常しょ・・・え?」
「・・・・・・!」


この時、ジャミルはあることに気付き、気が滅入った。


こいつらアタシがいなくなっていることに今の今まで気付いてなかったのか・
・・・・・ホントに・・・


「どっかそのへんのモンスターに食べられてるんじゃ・・・」
「その確率より貴様が寝ぼけて食べた可能性の方が高いな・・・」
「えぇっ!?フトソン食べちゃったのぉ!?リミィが食べようと思ってたのに
ぃ・・・」


こいつらにとっての・・・アタシの・・・存在って・・・・・・

「・・・まったく。あの迷惑インコが・・・おい女。」

ジャミルがまたなんだか泣きそうな気持ちになった時、デミテルが頭をボリボ
リ掻きながら事もなさ気にこう言った。

「昨晩の話はあとで聞くから、しばらく待ってろ。我々は・・・・・・


 我々は、勝手にどっかに行った頭の悪い、口うるさいバカな『仲間』のインコ
を探してやらんといかん。」


・・・・・・・・・・・・。

・・・へ?


「あれぇ?デミテル様ぁ?ジャミンコって仲間なのぉ?非常食じゃないのぉ?」
「え?あ・・・」

思わずジャミルのことを『仲間』と指して呼んだことに、デミテルは気付いた
。が、そのあとめんどくさそうにこう続けた。

「まぁアレだ・・・・・・あんな奴でも多少は・・・その・・・・・・・・・
・・・少なくとも、もう他人同士というわけではないだろ。言っておくが私にと
っての『仲間』とはあくまで『部下』だからな。友達的なものは全くな・・・」
「うわあああああああん!!」
「ってギャアアアア!?なんだぁぁぁぁ!?」

突如、さっきまで黙り込んでうつむいていた女が、泣きながらこちらに走り込
み、デミテルを思い切り押し倒した。

 一番ビックリしたのはデミテルである。女はえんえんと、デミテルを抱きしめ
たまま泣いていた。

が、顔は笑顔だった。


デミテルは顔を真っ赤にしながら手でジャミルの頭をグイグイ押し、どかそう
と必死である。

「な、なにを・・・離・・・せぇ・・・!」
「何よもぉ!あんだけ『非常食非常食』って言ってたクセにぃ!『仲間』なの
よね!?アンタ達が言う馬鹿なインコはアンタらの『仲間』なのよね!?」
「そ・・・・・・そうだ・・・そうだから・・・だから離れろ・・・・・・首
・・・腕で私のクビ絞め・・・絞めて・・・」
「もぉ♪バカぁ♪そう思ってんならそう言えっての♪このこの♪」
「・・・・・・・・・。」
「・・・あ。デミテルさんが完全に沈黙したんだな。」
「うわぁん!離れてよお姉ちゃぁん!デミテル様に抱き着いていいのはリミィ
だけだよぉ!!」

軽く泡を吹き、白目になっているデミテルと、必死にデミテルから引き離そう
と服を引っ張ってくるリミィを完全に無視しながら、ジャミルは笑顔で、泣きな
がらデミテルを抱き寄せていた。その、様子を、淡々とした目で観察していたフ
トソンは、淡々と言った。

「・・・・・・死にそうな顔してるクセにちょっとにやけてるあたりは、所詮
デミテルさんも健全な男ってことなんだな・・・」
 「ち・・・ちが・・・」

「さーてどうしようかなぁ♪」

朝デミテルがもたれて眠っていた木に同じようにもたれながら、ジャミルは楽
しげに独り言を言っていた。つい先程、デミテル達は『インコ』のジャミルを探しに
林の方へ入っていったところだ。

ジャミルはそれはそれはニコニコしながら、青い空を見上げていた。


アイツらがアタシを探し終わって帰って来たら、目の前でインコの姿になって
ビックリさせてあげよっと♪

『仲間』・・・『仲間』かぁ・・・


ジャミルはまた途端に嬉しくなって、草っ原に横になってクスクス笑った。


アタシったらなんでこんなことで嬉しくなってんだろ・・・ホントならアイツ
らは『仲間』じゃなくアタシの『部下』になるべき存在だってのに・・・

でも・・・やっぱ何か無性に嬉しくなっちゃうじゃないの・・・
・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・『ありがとう』なんて・・・

絶対・・・

言わないん・・・だか・・・ら・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「・・・・・・起きろこのトリッピーがぁぁぁっ!?」
「ぶあっふ!?」

草っ原に横になり、すっかり寝入っていたジャミルは、突然誰かに蹴り飛ばさ
れ、慌てて目を覚ました。

「げふ・・・ごふ・・・」
「貴様はいなくなったと思ったら何事もなかったかのように元の場所に戻って
寝入りよって・・・一体どこにいってたんだこの非常食!!」
「ど、どこって・・・てゆーかアンタ、よくアタシがジャミルだってわかった
わね。インコの姿してないのに・・・」
「・・・は?何を言っている?」

デミテルは不思議そうにジャミルを見た。

ジャミルは気付いた。デミテルと自分との身長差が、物凄いことになっている。そして

体は羽毛だらけだ。

「どっからどう見ても貴様の今の姿は鳥類以外の何者でもないと思うが・・・」
「へ!?」

ジャミルは慌てて自分の体を覗き込んだ。

体は完全に元に戻っていた。ヒスイ色の毛並み、かわいらしいクチバシ、動物
独特の体臭が自分の体を覆っている。

ジャミルは白目を剥いて絶句した。同時に、周りをキョロキョロしていたフト
ソンがおもむろに言った。

「デミテルさん?」
「なんだフトソン。」
「さっきデミテルさんの首を絞め上げて絞殺を謀ったキレイな女の人いなくな
っちゃったんだな。」
「やはりな・・・奴はおそらくアレだ。つつもたせに違いない。私と関係を持
ったなどと嘘ぶき、私から金を巻き上げる気だったに違いない・・・」
「でもさっきデミテルさん『あの女結構いい女だと思わんか』とか言ってたよ
うな・・・」
「や、やかましい!私が言ったのは容姿であってだな、中身の方は・・・」
「デミテル様ぁ。『女は見た目で判断しちゃダメだ』って、リミィが前住んで
たところの人はみんな言ってたよぉ。」
「・・・だからお前は以前どんなところに住んで・・・」
「ちょ、ちょい待ち!」

ジャミルはハッとして、何とかまた体を元に戻そうと力んだ。が、変化しない。

ジャミルはクチバシをカチカチと震わせた。


なんで・・・なんでよ・・・なんで突然元に戻れたと思ったらまた勝手に・・
・一体なんで・・・


「何をビクビクしとるんだ。とっとと行くぞバカインコ。」
「イタタ!羽引っ張んな・・・ねえデミテル?」
「なんだジャミル?」
「アタシって・・・アタシってアンタ達の・・・その・・・立場・・・アレ・
・・なか・・・仲間・・・」
「あ。デミテルさん大変なんだな。食材がちょっと少ないんだな。これじゃお
昼ご飯に主食がないんだな。」
「そうか。よしリミィ。今日の昼は焼鳥で行くぞ。」
「うわぁい♪リミィは絶対スナキモ食べ・・・」
「ってアタシを食うつもりかぃぃ!?待てやコラァァァァァ!?ぬぁにが仲間よチキシ
ョォォォー!!」

 彼らの次の目的地は、モーリア坑道。


つづく


あとがき
この前、ずっと机の中にしまってあったGBA版のファンタジアをやりました。最後にセーブした場所はイフリートの洞窟の中で、とりあえずイフリートを倒しました。ダジャレ対決はしてはくれませんでした(笑)

そのあと、モーリア坑道に入ってみる。ガーゴイルが二体ほど出てきたときに、なんだか申し訳ない気分になりました(ごめんよジャニズ・・・きっとお前はまた蘇らせれたら蘇してみようとは思ったが、どうしよう・・・やっぱ海に沈んで死んだことにするか・・・)


ここであることに気づきました。この洞窟の名前は「モーリア坑道」じゃないか。
なのに小説内だと「ドワーフの洞窟」ってデミテル言ってるじゃないか。
地名間違ってるよ自分。馬鹿だな自分。そして読者の皆様間違えてごめんなさい。


次回 第三十三復讐教訓「初めて友達の家に遊びに行くとなんかソワソワして落ち着かなかった少年時代・・・アレ?これもう教訓でも何でもない?イヤ 今さらかそんなことは。そもそも自分みたいな人間が教訓を考えようなんて考えが・・・アレ?長すぎだよねコレ?」

コメント

こんばんわー、今回も楽しく読ませていただきましたーw
ジャミル、やっぱり実はいい女だったのk(待
でも可愛いじゃなかったのか、どちらかというときれいだったのか(何

新コーナーができたようなので早速デミテル様に聞いてみようー!
デミテル様はアーチェに結婚しようといわれたときなんと思ったのでしょうか?聞いちゃだめなようなきもしますが一瞬いろいろな人を秤にかけちゃったんでしょうか!?
しかも今回でジャミルにいろいろされたときもまさか・・・!?
やっぱり聞いちゃだめかな?(ぁ

次回も期待しております

すみません、上のコメントは俺のです;;
名前入れるの忘れてました;;

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