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デミテルは今日もダメだった【33】

第三十三復讐教訓「初めて友達の家に遊びに行くとなんかソワソワして落ち着かなかった少年時代・・・アレ?これもう教訓でも何でもない?イヤ 今さらかそんなことは。そもそも自分みたいな人間が教訓を考えようなんて考えが・・・アレ?長すぎだよねコレ?」

「果てしなく続く戦いの道。強大な敵。でもアタシ達はくじけない!だってみ
んなは絆という強い糸で、どこまでも繋がっているからぁぁ!!」
「・・・アーチェ。何勝手に変な前フリをつけているんだ?センスのかけらも
ないぞ。」
「う、うっさいなぁ!ちょっと言ってみただけだよーだ!!」
「センスのかけらもない・・・センスがない・・・・・・・・・扇子が無」
「クレスさん。少しというか、しばらくというか、できれば永久に黙ってくだ
さい。」
「・・・・・・。」

アルヴァニスタの東。少し曇った空を見上げながら、時の英雄達は歩いていた。目指すは、ルナの指輪があると思われるモーリア坑道である。

「でもアレだよね!前に行った時にもう洞窟のほとんどは攻略したもんね!」
「ああ。最後の、精霊達を設置する場所を残すのみだ。」
「何の問題もなく行けると良いですね・・・」

杖をフキンで手入れしながら、ミントは言った。その時、クレスが続けざまこ
う言った。

「フキンを持って付近を詮索・・・」
「いやー。早くルナを拝みたいものだぁー。」
「そだねー。」
「皆さんで力を合わせれば大丈夫・・・」
「みんなぁぁぁぁぁ!!頼むから僕の発言にリアクションを・・・」
「ミント~。今日の株価はどうなってる?」
「下り坂で~す。」
「ミント!?クラースさん!?無理矢理話題作って聞かなかったことにしない
でよぉぉぉ!!」

クレスが徹底的な嫌がらせを受けていた頃。そこから数十キロ離れたところに
、その洞窟はあった。

ゴツゴツと浮き出た山の壁面。だが、ところどころ人工的に彫られたような模
様が、壁にある。

そんな山壁にぽっかりと空いた巨大な横穴。それこそが、モーリア坑道であ
った。入り口の脇には、見張りの兵が寝泊まりするための小さいテントが一つあ
る。入り口の大きさは精霊の洞窟の比ではなく、とても巨大だ。

さて、その入り口のサイドの木の茂みから、コソコソと怪しく話し合う、見た
目も中身もめちゃくちゃ怪しい集団が隠れていた。

リーダー格と思われる、青と赤い髪をした男は、しつこく何やら確認をしてい
た。

「よし。ではもう一度確認だ・・・・・・・・・はい!今クレスどもが洞窟前
に現れた!!まずフトソン!」
「お、お前らちょっと待つんだなぁ!こっ、こっから先には行かせないんだな
ぁ・・・次リミィ!」
「う、うんとぉ・・・・・・あれぇ?なんだっけぇ?」
「このバカ。『お前達の旅はここで終わりだ!ウジムシがぁ!』だろーが。」
「うんわかったぁ!・・・・・・やい!お、お前達の旅はここで終わりだぁ!
う、う、う・・・・・・・・・宇治金時がぁ!・・・・・・あれぇ?」
「もうそれでいい・・・好きにしろ・・・・・・と、ここで私が颯爽と茂みか
ら登場して・・・・・・・・・・・・・・・なんだかんだと聞かれたらぁ!」
「答えてやるのが世の情け!なんだな!」
「世界の破壊を防ぐ為!」
「世界の平和を守る為!」
「愛と真実の悪を貫・・・・・・」
「っていい加減にしろやぁぁぁぁ!?」

 デミテル達の寸劇を何も言わず木の上から見下ろしていたジャミルは、我慢で
きなくなり叫びをあげた。

 デミテルはムッとした。

 「なんだジャミル。何か問題があるのか?今の会話文のどこにツッコミをいれ
るところが・・・」
 「有り余ってるわよツッコミどころはぁぁぁ!!ツッコミどころだらけだし、問題だらけよ!あえてつっこまないで傍観を試みて見たけど無理!!おかしい!」
「・・・僕はどこに問題があるのか全然わかんないんだな。」

と言いながら、フトソンは右手に握られた『デミテルVSクレス達~復讐のレ
クイエム~』と書かれた台本をクルクルと手で丸めた。

「この台本、デミテルさんが作ったにしちゃよく出来てる方・・・」
「完成度なんてどーでもいいわ!それ以前に前もって台本なんて作ってんじゃ
ねーよぉ!どんな復讐劇だぁ!?」
「イメージで言うとアレだぞ。この後の展開としては昼ドラ辺りの脚本を参考
に・・・」
「どんだけドロドロした復讐劇を演じるつもりだテメーは!?つーかこの後昼
ドラみたいになるの!?逆にどーなる・・・・・・・・・・・・つーか途中から
絶対どっかで聞いたことある台詞パクってんじゃねーか!?『なんだかんだと聞
かれたら』なんて台詞言う悪人、世界探したって一組しかいねーよタコ!」
「・・・・・・。」

デミテルはジャミルの男勝りなツッコミを聞き終えると、やがて、あっけらかんと言っ
た。

「貴様はもうちょっと台詞を短くできんのかアホインコ。ツッコミにどれだけ
の文字数を使っとるんだ。」
「アンタらはどんだけボケれば気が済むのよ!?アホらしい!別にそんな登場
しなくても奴らが来たら背後から不意打ちでもなんでも食らわしゃいいでしょ!?」
「そんな卑怯なマネをするつもりはない。私は正々堂々と復讐し、奴らを地獄
のどん底にたたき落とす。」
「正々堂々に地獄のどん底に叩き落とすって何よ・・・」

ジャミルは呆れた。何故『自称』悪人のくせに卑怯なマネをしないなどと言う
のかこの男は。

「ねぇデミテル様ぁ?」
「何だリミィ?」
「クレス達はいつ来るのぉ?」
「え・・・・・・。」

デミテル達がこの洞窟の前で待ち伏せを始めてから、既に二時間が経過してい
た。ずっと今か今かと立って待っているので、足が棒のようになってきていた。

「リミィもぉ足疲れたぁ・・・」
「ふむ・・・正直私も・・・・・・ってお前はずっと宙に浮いてるだろうが・・・」
「デミテルさんお腹空いたんだな・・・」
「さっき昼飯食ったばかりだろうが・・・」
「僕の実家は基本一日六食なんだな。朝食、準朝食、昼食、準昼食、晩飯、夜
食・・・」
 「準朝食ってなんだ・・・そんな日本語聞いたことないぞ・・・」
「ねえデミテル・・・アタシも・・・」
「黙れインコ。干すぞ。」
「・・・もうそれ脅し文句でもなんでもないじゃないのよ・・・」

一瞬、干される自分をちょこっと想像しながらも、ジャミルは憂鬱そうに言っ
た。

それと同時に、こうも考え、落胆した、


こんな奴の仲間になりたいとほんの少しでも思った自分がバカみたい・・・


「デミテル様ぁ?干した鳥肉って美味しいのかなぁ?」
「どうだかな・・・干した大根なら美味しいがな・・・」
「何の話して時間潰ししてんのよアタシらは・・・」
「・・・・・・あ!そうなんだな!」
「?」

これから干し大根についての議論が徹底討論されると誰もが思った矢先、フト
ソンが出し抜けに言った。

「待ってるのが暇なら・・・・・・僕の実家で暇潰せばいいんだな!」
「お前の実家?・・・・・・・・・あ。」

デミテルは思い出した。この男確か以前、自分の家はモーリア坑道地下二十
階にあると言っていた。

が、ここでデミテルはハァッとため息をついた。

「あのなフトソン?この洞窟に人間が入るには許可証が必要なんだ。その許可
証が発行されているのはアルヴァニスタの酒場、しかも予約だらけでみんなキャンセル待
ちだ。例え入り口の兵士に『僕の実家この中なんです』などと言ったところで
入れる訳がないだろーが。」
「それなら問題ないんだな♪」

事もなさ気にそう言うと、フトソンは木の茂みからのそのそと出た。そして、
洞窟の入り口の

横の岩壁の前に立った。

デミテルは心配になってリミィ達と共に茂みから出た。

「おい。なにをやっとるんだ?」
「ええと確か・・・」

フトソンは岩壁を太い指でそろそろと横になぞり始めた。やがて、自分の右胸
の前辺りで指を止めた。そして・・・

指でグイっと押した。と、同時に、指が岩壁の中に入った。

・・・・・・ピンポーン♪

ウイーン♪

楽しげなチャイム音と共に、フトソンの立つ壁の右手の岩壁が、

 横両開きでウイーンと開いた。
「・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「うっわぁ!すごぉいフトソン!壁がドアになったぁ!!」
「ああ。これドアじゃなくてアレ、エレベーターなんだな。」
「エ・・・エベレ?」

至極当たり前のことのように謎の単語を言ってのけるフトソンに、デミテルと
ジャミルは目をパチクリさせた。また、そのエレベーターが電子音で『行き先ボ
タンを押して下さい。』と言ってることにもビックリしてはいたが。

「マテマテ。なんだエベレーターて?」
「エベレじゃなくてエレベーターなんだな。要はアレ、昇降機なんだな。しょ
ーこーき。」
「・・・昇降機の意味がわからない私は一体全体どうすればいいんだ?」
「とにかくとっとと乗るんだな。コレ本当はモンスター以外に見せちゃいけな
いものなんだから。」

そう言うとフトソンは、エレベーターの中にテクテクと入っていき、全員を手招
きした。リミィは真っ先に中に入った。

「うわぁすごぉい♪中涼しい♪」
「今は天井についてるクーラーが効いてるんだな。」
「くーらー・・・?あ!?フトソンあの部屋の角にある四角い物体何ぃ!?真
ん中がガラスで出来てるぅ!」
「あぁ。アレ防犯カメラなんだな。ちょっと前に痴漢被害があったもんだから
婦人会が付けてくれって管理人さんに頼んだんだな。」


くーらー・・・?
管理人・・・?
防犯カメラ・・・?

この着ぐるみを着たバカは一体全体何を言っとるんだこの馬鹿?何が言いたい
んだこのばかは?わけわからんぞBAKA?


そんなことを一緒に考えながら、デミテルとジャミルはフトソンに言われるが
まま、エレベーターに入った。

外からでは岩肌にしか見えない扉が閉まり、昇降機はゴウンゴウンとゆっくり
下に落ち始めた。中はかなり狭く、フトソンの巨大な体のせいで少々ギュウギュウした。

と思った矢先、ジャミルが瞬間的にデミテルの首筋にピタリと張り付いた。

「なんだジャミル?何かものすごく気持ち悪いんだが。」
「うっさいわね・・・アタシが閉所恐怖症だってこと知ってんでしょーが・・
・微妙に閉鎖感沸くわよココ・・・」
「ベネツィアで、私の被った兵士の兜の中に静かに隠れられてただろーが。」
「ああ。あんときゃアレよ、中で恐怖の余り気絶してたから。兜と一緒に海に
落ちそうになった時ギリギリ起きれたから・・・」
「まったく・・・インコなどに『狭いの怖い』などと言われて抱き着かれても
な・・・」
「・・・・・・・・・。」


じゃあ・・・

もしもアタシが・・・

人型になった状態でコイツの首にしがみついたら・・・

一体・・・どんな対応・・・してくれるのかな・・・

・・・・・・ってなぁに気色悪いこと考えてるのよアタシはぁ!?落ち着け!
落ち着きなさいアタシ!?


「おいフトソン・・・」
「なんだな?デミテルさん?」
「なんか・・・気持ち悪くなってきた・・・ぞ・・・」
「・・・もしかしてデミテルさん、エレベーター酔いしてるんじゃ・・・」
「わ、私は基本乗り物には酔わない体質・・・だ・・・・・・エベレスターだ
か江頭だか知らんがこの私が酔うなど・・・」
「イヤだからエベレーターなんだな・・・つーか二つ目の江頭ってなんなんだ
な・・・一文字目しかあってないんだな・・・」

モーリア坑道。ここは、かつてドワーフの一族が栄華をほこった場所。だが、
今は人の気配は感じられない。

今日、この日は記念すべき日となる。なぜなら、もうじきクレス達一行がここ
に参り、人類の歴史上初、地下十階近くまで降りてくるのだから。

が、クレス達はこの時には当然知るよしもなかった。この洞窟が地下二十階以
上を誇っていることなど。彼ら人類がそれを知るのは、今から約百五十年も後の
話だ。


デミテルを除いて。

「らっしゃいらっしゃいぃぃ!野菜が安いよぉ!」
「モーリア坑道名物、モーリア饅頭はいらんかねぇ~?」
「・・・・・・・・・なんだコレは。」

デミテル達がエレベーターから降りた時、目の前に広がっていたのは、殺風景
な洞窟ではなく、様々なモンスターが無数に行き交う巨大なホールだった。天井
は信じられない程高く、至る所に建物、モンスターが引き締めあっている。まるで、アルヴァニスタにモンスターが住み着いたような光景だ。

デミテルとジャミルは呆気にとられながら周りを見渡していた。右手には『モ
ーリア商店街』と書かれた巨大なアーチ(ハチマキを巻いたユイナルが野菜を売
っている)。左手にはさらに地下に向かう階段があり、その横に『地下鉄の駅は
こちら』と書かれた岩の看板。真っ正面には・・・

「フトソン・・・」
「なんだなデミテルさん?」
「私達の真っ正面にあるあの巨大な塔はなんだ?」
「ああ。あれは『モーリアタワー』。街の中心に立ってて、シンボルなんだな。ちなみに333メートル。」
「・・・・・・・・・。」

タワーは赤い発光を起こしながら、堂々と街を見下ろしていた。この塔が三百
三十三メートルということから、この超巨大なホールの天井がどれほどなのか、
わかったものではない。

デミテルは天井を見上げた。天井には、無数の何かが光り輝き、太陽の光が注
がない街に光を送っている。その閉ざされた空を、G・バットの群れが飛んでい
る。

「おいフトソン・・・」
「なんだなデミテルさ・・・なんか今日は珍しくデミテルさんが尋ねる側にい
るんだな。いつもは僕が何か尋ねるのに・・・」
「あの・・・天井にある光はなんだ?松明の火にしては光がなんというかこう
・・・固定されているというか・・・」
「あぁ。あれはアレなんだな。えぇっと・・・は・・・は・・・・・・発光ダ
イオード。」
「はっこうだいおーど?」
「元々はドワーフ族が大昔に作ったので、さっき乗ったエレベーターも、あの
天井の光も、そんでもってモーリアタワーもかつてはドワーフ族が使ってたんだ
な。あ。ちなみに電力は、この坑道が作られた山のてっぺんで太陽光発電して取
ってるんだな。太陽光発電ていうのは・・・」


・・・コイツはさっきから何を言ってるんだ・・・?でんりょく?だいおーど
?たいようこうはつでん?


デミテルもジャミルも、この説明しがたい状況に、フトソンの太陽光発電の話
など、耳に入らなかった。

ちなみにリミィは、意味もわからないままはしゃいでいた。

「うわぁい♪すっごいすっごい♪発光ダイナマイトってすごぉい♪」

誰も、『ダイナマイトじゃなくてダイオードだ馬鹿』と、つっこむ者はいなか
った。あのジャミルでさえ、意味もなく聞き流していた。

 「おいフトソン・・・」
「はいはい。」

背の高い建物(というか、ほとんど高層ビル)が軒を連ねる道を歩きながら、
デミテルはフトソンに三度尋ねた。その横を、ヘルマスターの子供が二、三人話
しながら駆けていく(『みんなぁ!ゲーセン行こうぜゲーセン!』)。

デミテルはヘルマスターの子供に勝手についていこうとするリミィの頭を抑え
つけながら尋ねた。

「ここは・・・地上の、人間が普通に使う出入り口から入る坑道から入れるの
か?」
「ん~・・・モンスター以外には多分無理なんだな。ここに来るには、坑道の
掘られた山の周りにある十数個の隠されたエレベーターに乗るか、人間が入って
いく坑道の地下十階以下のフロアの隠し扉か・・・でも隠し扉は地元のモンスタ
ー以外にはどこにあるかわからないんだな・・・」
「・・・この事実を世界に発表したら、私はノーベル賞的な何かを授章できる
気がする・・・」
「それはちょっと勘弁なんだな・・・あ。でも、人間が入る坑道の方でも地下十階を越えると遠くから家が見えたりするらしいんだな。端っこの家々が少しだけ・・・」

フトソンの話は事実だった。今から約百五十年後に、地下十七階の兵士姿の冒
険者がクレス=アルベインに説明することになるのだから。


『切り立った崖の上に、家が見えるだろ?あれがドワーフ族の住居跡なんだっ
てさ・・・』


が、残念ながらそれは跡ではなく、たくさんのボアボアを飼育する養豚場だっ
たりするが、人類がその事実を知ることはおそらくこの先ずっとない。


デミテル一行が常にどこか薄暗い摩天楼を歩く中、デミテルは『世界のスイー
ツ展』という垂れ幕が掛かっている建物を凝視し、体が吸い寄られそうになったが、グッと堪えた。


今は我慢だデミテル・・・それよりもまず復讐の方が先決だ・・・

・・・・・・でもちょっとだけ・・・♪


「デミテル様口からヨダレ出てるよぉ?」
「・・・・・・!」

リミィに指をさされ、デミテルは慌てて腕で口を拭った。危うく糖分の誘惑に
操られてしまうところであった。

「くそぉ・・・世界のスイーツが私を待っているというのに・・・」
「アンタねぇ・・・どうせ復讐者やるならもっとちゃんと悪役っぽいキャラを
・・・・・・」

半場呆れながら、ジャミルがデミテルの顔を肩から見上げながら言った。デミ
テルはフンと鼻を鳴らした。

「まぁいい・・・それよりもういいだろう。時間は十分潰せたことだし、地上
に戻って・・・」
 「いやいや。どうせなら僕の実家寄ってくんだな♪お茶ぐらい出すんだな♪」
 「いやしかし・・・」
 「・・・じゃあお茶菓子も出すんだな。」
 「しょうがない。行ってやるか。」

 『菓子』という単語を聞いた瞬間、デミテルは何事もなかったかのように即答
した。すぐ横を、ピコクラウドの集団がテクテク横切っていく(『みんなぁ!今
日はみんなで飲みに行くぞぉ!テキーラだぁぁぁぁ!!』)。

「じゃあフトソンのお家に行けばいいんだねぇ♪レッツゴぉー♪」

リミィが力強く拳を振り上げながら、楽しげに言った。デミテルは未だ、『世
界のスイーツ展』の垂れ幕を指を加えて羨ましそうに見ていた。

その子供のような顔を、ジャミルは呆れながら肩から見上げていた。


まったく・・・指なんてくわえちゃって・・・ガキじゃないんだから・・・一
体どんな悪人よ・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・でも・・・

・・・・・・なんか・・・

ちょっと・・・・・・

か・・・・・・カワイイかも・・・・・・♪

・・・・・・・・・・・・


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
「ギャアアア!?なんだぁジャミル!?人の耳元でいきなり発狂するなぁ!?」
 「違う違う違う!?何考えたアタシ今!?違うから!コレ絶対何かの間違い・
・・・・・わぁぁぁん!!さっきのアタシの心のセリフ誰か削除してぇぇぇ!!」

突如ジャミルが断末魔の如く悲鳴を上げたので、デミテルは顔をしかめながら
耳を思い切り塞いだ。遠くから、老けた顔のビーストマスターがこちらを迷惑そ
うに見ていた。

「帰りたぁ~い♪帰りたぁ~い♪あったかい我が家が待っているぅ~♪」
「フトソン・・・一体何の歌を歌っとるんだ・・・」

道は、先程までのビル群からかなり離れ、地上で言う田舎道のように淋しい風
景になっていた。どうやら高い建物があるのはこの巨大なホールの中心部のみで
、端の方へ行く程どこか過疎化が進んだ村的な町並みになっていくようだ。

デミテルは道を挟む少しばかしボロイ家々を見ながら歩いていた。どうやら格差社会というものは、人間達だけのものではないらしい。

その時、リミィがデミテルの耳元までフワフワ上がり、小さい声で囁いた。

「ねぇデミテル様ぁ?」
「なんだリミィ?何故声を小さくする?」
「うん・・・・・・リミィ達今、フトソンの実家に向かってるんだよねぇ?」
「そーだな。」
「ってことはぁ、フトソンのおかーさんやおとーさんもいるんだよねぇ?」
「そーだな。」
「じゃあ・・・」

リミィは前方をきって歩く白饅頭をチラリと見ると、こう言った。

「リミィ達絶対フトソンのホントの名前知ることになっちゃうねぇ・・・」
「・・・・・・!」

確かにそうだ。働きに出た息子が久しぶりに帰ってくるのだから、その息子に
本名で語りかけない親は、まずいないだろう。

つまり、いやでも、この小説の最大の謎の一つが解明されることになるのだ。

そう思うと、なんだかデミテルは憂鬱になった。

「今まで散々『フトソン』と呼んできたからなぁ・・・・・・本名を知ったら、これから先『フトソン』と呼びにくくなるな・・・」
「読者のみんなも感情移入がしづらくなるかもぉ・・・」
「小娘・・・一体何の心配してんのよ・・・てか、アイツの名前って『フトソ
ン』じゃなかったの!?こんなピッタリな名前他にないと思ってたんだけど・・
・」
「今考えると、『フトソン』という名前以外にはありえない気がしてきたな・
・・・・・実は本名もフトソンなんじゃないのか?アイツにそれ以外の名前が似
合うとは思えん。」
「ホントの名前もフトソンであって欲しいなぁ・・・」
「賭けてもいいけど、絶対フトソンではないと思うわよ・・・そんなピッタリ
過ぎる名前親は逆につけないわよ・・・」

デミテル達は改めて、鼻唄混じりで先を歩く着ぐるみ男の背中を見た。

「ホントにどんな名前なのかしら・・・」
「貞治とかそんなんじゃないのか?」
「どこの世界のホームラン王よ・・・」
「違うよぉ!きっと仙一とかだよぉ!」
「私は個人的に克也とか茂雄が・・・」
「アンタら何でさっきから往年のベースボールプレイヤーの名前ばっか出てく
んのよ!?つーかまず漢字表記自体ありえないから!」
「じゃあジャミンコはなんだと思うぅ?」

リミィの問いに、ジャミルはしばし考え、頭を捻ったあと、やがてこう言った

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・落合。」
「って結局貴様も野球選手だろ・・・とゆーかそれは苗字だろーがぁ!?」
「アンタらさっきから何の話してるんだな・・・」

首を傾げながら、フトソン(仮名)は不思議そうにデミテル達を見ていた。

「・・・とゆーわけでコレが僕の家なんだな。」
「・・・・・・・・・普通だな。」
「普通だわ・・・」
「何か全然面白くないねぇ♪」
「別に住居に面白さは必要ないんだな!?アンタら一体どんな家を想像してたんだな!?」

どこか錆び付いた住宅街。巨大な地下ホールの端の方にある為か、この辺りは
発光ダイオードの光が届きにくく、全体的に暗かった。弱々しく光る街灯が、な
んとか街に明るさを出していた。

フトソンの家はホントにどこにでもありそうな、説明するのがバカバカしいぐ
らい、もうホントにどこにでもありそうな普通のつまらない木造建ち・・・

「ちょっと!?もう少しフォローの聞いた解説をして欲しいんだな!?バカバ
カしいぐらいつまらない家ってどんな家なんだな!?」
「やれやれ・・・これならいっそ、公園に住むホームレス的な設定にするべき
だったな・・・」
「ねぇそんなに僕の家ってつまらない!?むしろなんで面白くないといけない
んだな!?」
「フトソンはアレだよねぇ♪公園で雨風を忍んでぇ、ダンボールを濡らして食べ
てぇ・・・」
「リミィ頼むから人の経歴を勝手に捏造しないで欲しいんだな!?大体、それ
じゃ僕の親の存在が・・・ってあれ?」

親のことが頭を過ぎった時、フトソンはふとあることに気付いた。

「・・・そういえばこんなに大声で話してるのに、どうして家から出てこない
んだな・・・・・・・・・お父さん・・・」
「・・・ちょっと待てフトソン。平日の昼間なんだから、家から出てくるのは
普通母親だろ・・・」
「イヤイヤ。僕のお父さん専業主夫だから。ちなみに趣味は麻雀、タバコ、パ
チンコ、ケーキ作り。」
「最後だけ異様に家庭的な趣味だな・・・」

あまりのバランスの悪さに、デミテルは眉を潜めた。

その時、背後から年老いた声がした。

「その家にゃ今誰も住んどらんよ。」

デミテルがビックリして振り向くと、体をフワフワ浮かした、黒い服に身を包
んだ一人の老人がひっそりと立っていた。

右手には何かのステッキ。それはそれは立派な、それこそ仙人のような髭。そ
して細い目。

老人はフワフワとこちらに歩み寄ってきた。

「そこの家はの、一週間前に夫婦喧嘩があっての。最初に奥さんが荷物まとめ
て出てって、その三日後に旦那も荷物抱えて出てってしまたんじゃ。」
「へぇ・・・・・・って僕のいない間に何してんだなあの二人は。一体何が原
因で喧嘩したんだな?」
「えっと確かのぉ・・・」

老人はステッキを孫の手代わりにして背中を掻きながら、平然と言った。

「なんでも、旦那がキャバ嬢に貢いでたのがバレた揚げ句、そのキャバ嬢にマ
ンション買ってあげちゃってたのがバレて・・・」
「・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・家はつまらないが親父は最高に面白いなフトソン。」
「イヤイヤイヤ!何にも面白くないんだな!?アンタ他人事だと思って・・・」
「まあでも・・・」

老人は空・・・ではなく、輝く天井を仰ぎながら、こう言った。

「奥さんも奥さんで、パート先のスーパーの店長とちょっとアレな関係築いと
ったらしいから、お互い様じゃろ。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・これはもう息子の将来は見えるな・・・」
「まったくなんだな・・・・・・ってその息子は僕のことなんだな!?どうい
う意味合いなんだな!?」
「そんなことより・・・」

拳を握り絞めながら反抗するフトソンの言葉を、デミテルは完全に無視した。

「そんなことよりとっとと地上に戻るぞ。あまり長居するとクレスどもが中に
入ってしまう・・・ルナの指輪とやらを取られてしまうからな・・・その前に・
・・」
「なんじゃお主ら。ルナの指輪探しとるのか。」
「え?」

黒い服を着込んだ老人が話に食いついてきた。デミテルは自分より少々背の低
い老人を見下ろした。

「正確にはそれを探しているわけじゃないが・・・・・・貴様それがどこにあ
るか知っているのか?」
 「・・・・・・・・・。」

 老人は答えない。ただ、デミテルの目をジッと見ている。

 デミテルはなんだか、全てを見透かされているような感覚に陥った。老人の細い眼が、自分の中を全て覗き込んでくるような・・・

 「・・・・・・ろい。」
 「ん?」
 「お主・・・おもしろい目をしておる・・・」
 「何を言・・・・・ってな!?」

突然、デミテル達を半透明な球体が覆い始め、視界を奪い始めた。

と思った矢先、体がフワリと浮いた。まるでシャボン玉の中にいるよう・・・

老人は杖を振り回しながら、楽しげにこう言った。老人は老人で、人一人入る
ぐらいのシャボン玉の中に入り、フワフワと浮いている。

 老人は楽しげに、にんまりと笑った。

 「な・・・なにを・・・?」
 「どれ・・・特別に連れてってやろう。指輪の部屋まで。」
「はあ!?貴様何者・・・!?」
「デミテル様ぁ!?フトソンの本名はぁ!?」
「そんなものあとにしろ!あとでフトソン本人に聞いておけ!!」
「へへ・・・へへへ・・・もう何かやってられないんだな・・・」
「ダメだわデミテル・・・デカブツの奴、親の知らざれる真実を知ってちょっ
と自暴自棄になってるわよ・・・」
「わしの名は・・・」

シャボン玉がキラリと輝いた。と同時に、その閃光と共にデミテル達の姿は消
えた。

老人の最後の言葉だけが、その場に残り、響いていた。

「わしの名は・・・・・マクスウェル。」

つづく


あとがき
二月です。この時期は色々なことがあります。テストがあったり、めちゃくちゃ寒かったり

ケータイ電話を親に没収されたりします。

一応テスト期間中、一週間ちょっと取り上げるだけだと、うちの親は言いましたが、どうなんだろこれ。きっとテスト結果悪かったら取り上げたままにしてきそうです。

なんで取り上げられたかって言うと、以前のテストが奮わなかったわけです。前の、夏休み明けテストで42位取って調子こいてましたね。

とにかく、テスト頑張ろうと思います。「いや、お前の決意表明なんてこんなところに書くなよ」って思う方もいらっしゃるでしょうが、自分にこう・・・喝を入れるために書きました。ごめんなさい。


次回 三十四復讐教訓「人生をかけた決断は 何の前触れもなくやって来る」

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