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デミテルは今日もダメだった【36】

REIOU劇場


 「さあ始めるぞ!」
「行くんだな!!」
「フンガァー♪」
「まともに始めなさいよぉ・・・って何のパロディーよコレ!?大丈夫!?読者様方にちゃんと伝わるコレ!?」


 
第三十六復讐教訓「中学二年の男子生徒に告ぐ いちいち保健体育の授業で騒がないように」

冬。冬になると、空の色が灰色に染まる日が多くなるような気がするのは、ボクの思い違いだろうか。

とにかく、今日も空は灰色だ。寒い。こういう日はキチンと手袋、マフラー等
の防寒具を装備しないといけない。風邪を引いてしまう。

ボクは今日も、赤い毛糸のニット帽、手袋、そしてマフラーを巻いて出かける。友達の家へ向かう為、吐く息を白く染めて。乾燥した空気を切り、歩いていく。

・・・え?ボクが誰かって?決まってるじゃないか。みんなも気付いているは
ずだよ。さあ。いっせーのーででボクの名前を呼ぶんだ。別に小声でもいいよ。
今キミの横に家族等がいたりする時は、心の中で大いに叫びあげてくれ。あまり
パソコンの前で挙動不振な動きをすると家族に変な目で見られるから気をつけて
ね。

それではいこうか。

はい!いっせーのーでぇ!!













アーガス=A=マッキンタイアぁぁぁぁぁぁぁ!!

そうさ。みんなのヒーロー、アーガス=A=A=マッキンタイアだよ・・・あ。Aが一個多くなっちゃった?あり?

え?お前みたいなオリキャラは知らないって?ふ。いいさ。わかってるさ。ボ
クが異分子だってことはね。この手の小説においてボクみたいな存在が好感を得
るのはかなり難しいからね。はっはっは。ひっひっひ。へっへっへ・・・

・・・いや違うよ。別に泣いてなんかないよ?そりゃね、ボクという存在はか
なり浮いてるけれどもね、それくらいで泣いたりしないよ。男が泣いていいのは親
に思春期特有の隠し物を見つけられた時だけだからね。イヤ違うよ。小説で顔を
見えないことをいい事に涙を隠蔽してるわけじゃな・・・あれ・・・前が霞んで
見えないや・・・・・・目から塩分を含んだ液体が出てるけどこれ涙じゃないか
らね。うん。鼻水が逆流してるだけだからねボク。うん。

そんなことを言っているうちに友達の屋敷に着いた。相変わらず大きいなぁ・・・

さあ。宿題を教えて貰うという名目を使い、リアちゃんに会うぜ!言っとくけ
どボクはストーカーじゃないからね?断じて違うからね?一回リアちゃんの部屋
からかたっぽ靴下を持ち出そうとしてデミ兄ちゃんから顔面に飛び蹴り喰らった
けど断じて変態じゃないからね。ボクものすごい清いからね。清々しいからね。

さあ扉をノックしよう。もしリアちゃんじゃなくてお父さんが出てきたら、そ
の時は諦めよう。確実に中に入れてくれない。『貴様ごときがうちの娘と二人き
りで勉強を教えてもらおうなど・・・・・・百年早いわぁぁぁぁぁぁ!!クズめ
がぁぁぁぁ!!』と言われ


ズガァァァァァァン!!


アーガスが扉の前で色々な思考を張り巡らせていたちょうどその時、屋敷の扉
がものすごいスピードで開き、アーガスを吹き飛ばした。

ピンク色のセーターと手袋を身につけながら、リア=スカーレットが飛び出し
た。

その後を追うかのように、屋敷の中から声がした。

「お嬢様!マフラーも巻いてください!でないと私が師匠にどやされます!」
「だいじょーぶ。そんなに寒くないですから。」
「いやしかし・・・」
「デミテルさん?私もう十一だよ?デミテルさんがこの屋敷に来た時より
上なんだよ?自分の体のことは自分がよくわかってまーす!」

満円の笑みを振り撒きながら、リアは言った。

リアはもう、七歳の少女ではない。背もそれなりに伸び、体つきも・・・・・
・それなりに女性らしくなっていた。それなりに。

それを言うなら、そこで白目を剥いて倒れているアーガスも、かなり身長は伸
びていた。

 つり目に黒髪なのは変わらず。だが、後ろ髪を少々伸ばしたセミロングな髪型
だ。

アーガスは気絶はしてはいなかった。

「リ、リアちゃん・・・おは」
「いいから巻いてくださいよお嬢様!」
「ふぎゅっ!?」

が、屋敷から出てきたデミテルに存在を気付かれず、顔面を踏まれて完全に生
き絶えた。

デミテルは今十四歳。背も伸び、顔つきもそれなりに引き締まった。髪は相変わ
らず青い髪に一房の赤い前髪だ。髪型も以前と同じだ(一度だけスカーレット夫
人に遊ばれ、オールバックにされたことがあったが、本人が嫌悪感を覚えた為定
着はしなかった)。

デミテルは首に青い、少し黄ばんだマフラーを首に巻き、片手にそれとは対象
的な、新品のピンクのマフラーを抱えていた。彼が屋敷を出る予定もないのに首
にマフラーを巻いている理由は、屋敷のガタガタの窓から入るすき間風で中が少
々肌寒いからだ。

「とにかく!風邪を引かれてからでは遅いんです!今巻いて!巻いてからアー
チェちゃんと買い物に出掛けて下さい!」
「・・・わかった。じゃあ・・・」

そう言うと、リアはグイッとデミテルに詰め寄った。

「じゃあ巻くから、デミテルさんのマフラーと私のマフラー交換しましょ♪」
「え?いやでも、私のは師匠が学生時代に使っていたお古で、もう何年もタン
スに封印されていた代物で・・・黄ばんでるし、何かタバコ臭いし、過齢臭が・
・・」
「いいんです。お願いします♪」
「いや・・・」
「もーらい♪」
「あ!」

言うが早いか、リアはデミテルの首に手をかけ、彼のマフラーを巻き取ってし
まった。

一瞬、顔が、なんだか、異様に近くにあった。


ちょ・・・お嬢様顔近い顔近い・・・!


デミテルが頬を赤らめている隙に、リアは自分の首に彼のマフラーを巻いてし
まった。

リアが首元のマフラーをじっと見た。そして、マフラーをポンポンと叩いた。

「デミテルさんの・・・匂い・・・・・・♪」
「へ?今何か言いました?やっぱり臭いですか?」
「え!?あ!ううん!何でもないの!じゃあ、アーチェとお買い物行ってきまぁす!」
「あ!ちょっ待・・・」

デミテルは手を伸ばして叫んだが、リアは無視してスキップしながら屋敷の庭
を横切り、町に駆けていってしまった。

デミテルはハァとため息をついた。


お嬢様もそれなりにお転婆になったよなぁ・・・まぁ、友達の影響もあるんだ
ろーけど。特にあのピンクの・・・


「・・・・・・仲良しだねー。デミ兄ちゃんはー。リアちゃんとー。いいなー。」
「ん・・・・・・うわっと!?びっくりしたぁ!?何してんだアーガス!?」

足元から何とも無機質な声が聞こえて、デミテルは驚いてのけ反った。アーガ
スは鼻血をダラダラ垂らしながらも立ち上がった。

「何してるんだって・・・ボクが何してたと思うのデミ兄ちゃん?」
「・・・おおかた、お嬢様のパンツをスカートの下から覗き見ようと尽力してたんだろこのストーカーが。」
「何で兄ちゃんボクにだけ常にタメ口なの?他の人にはみんな敬語なのに・・・てか誰がストーカー!?失敬だなぁ!」
「靴下盗もうとしたり夜中に庭から赤外線双眼鏡で部屋覗こうとしたり同じ内
容の名無しのラブレター三十通郵便受けに突っ込む人間のどのへんがストーカー
じゃないんだよ!?」
「ほら、ラブレターはだって・・・一通じゃ思いは伝わらないと思ったから・・
・念のために弾幕を張っとこうかと・・・・・・」
「あまりにも不気味だったから全部まとめて捨てたわ!お嬢様は読んでない!
逆に読ませてたらお前の恋はとっくの昔に粉砕、玉砕、大喝采だよ!」

自分の首にピンク色のマフラーを巻き付けながら、デミテルはイライラと話し
た。アーガスは何ともバツが悪そうだ。

「・・・大体。あのラブレターの本文第一行、何書いたかお前覚えてるか?
アーガス=A=マッキンタイア?」
「えと・・・」
「・・・・・・『前略 リア=スカーレット様・・・・・・

 一緒に子作りしませんか?』・・・どんだけ単刀直入なラブレターだ!!しか
もこんな文章が三十通もまとめて郵便受けに入ってんだからストーカー被害以外
の何ものでもねーよぉ!!」
「・・・やっぱり『様』は堅苦しかったかな?友達に対して使うのは確かにど
うかとは思っ・・・」
「そんなことじゃねーよ!お前何にもわかってねーよぉ!!」

デミテルは言えるだけの不敏点を叫びあげると、やがて、ハァっとため息をつ
いた。

「まったく・・・お前がお嬢様と友達になって既に四年。そこから一歩も進ん
でない・・・いや。逆にドンドン陰湿かつ陰々に・・・」
「・・・そういうデミ兄ちゃんは?」
「え?」
「十四歳にもなって好きな女の子とかいないの?一人も?」
「・・・・・・。」

デミテルは返答を拒んだ。意味もなく曇り空を見上げ、視線を逸らす。


このストーカーめ・・・妙なことを・・・それはお前、十四にもなったら・・
・人類はそこで思春期というものを迎えるわけで・・・


実際のところ、デミテルはこの町ではモテていた。十ニ歳頃になってから、ひ
どく同年代の女の子に話し掛けられている。バレンタインのチョコというものも
何個か貰ったことはある。

デミテルは別に異性に興味などまったくない、と自分で思っていた。別に女の
子に話し掛けられようが何だろうが、特別興奮するわけもなく(リアと長く付き
合っているからだろうか)、スルーしていた。

が、所詮、デミテルも一人の思春期の男の子である。そういう感情はある日突
然、何の前触れもなく思春期の男の子に襲い掛かる。

※三週間程前の買い物帰り
『くそ・・・買ったリンゴ袋から道に全部ぶちまけちゃったよ・・・拾うか。』
『お手伝いしましょうか?』
『あ。いえ。大・・・丈・・・・・・夫・・・』
『遠慮しなくていいわ。はいどーぞ。』
『は・・・はひ・・・』

誰だったんだろーなぁ・・・一緒にリンゴ拾ってくれたおねーさん・・・多分
二十歳前後・・・大学生的な・・・赤茶色のウェーブかかったロングヘアーに流
し目の大人のおねーさん・・・

あれが癒し系というものなんだろーか・・・またおしゃれな恰好しててさぁ・
・・しかも・・・・・・

ピッタリした服だったから・・・体のラインがかなり・・・強調され・・・・
・・あの見事な曲線・・・・・・


「・・・・・・デミ兄ちゃんよだれ出てるよ。分泌量が半端じゃないよ。」
「・・・・・・むぐ!?」

デミテルは急いで腕で口を拭った。


 まさか自分がこんな卑しいことを考えるとは・・・しょせん、自分も思春期と
いう名のまな板に乗せられた鯉。こうやって人は大きくなっていくのか・・・


「・・・で?結局お前何しに来たんだ?」
「え?いや。リアちゃんと交流を深めあおうかと。」
「お嬢様は今日は買い物だ。友達と。」
「そっか・・・じゃあ帰るよ。あの、代わりと言っては難だけリアちゃんの靴
下を恵んでは・・・」
「帰れ。」
「じゃあ帽子とか・・・」
「帰れ。」
「じゃあ下着とか・・・」
「帰れ。」
「鼻かんだティッシュとか・・・」
「デ〇ノートに名前を書かれろ。」
「うえーん!兄ちゃんのばかぁぁぁぁぁ!」
「いいから帰れつってんだよストーカーがァァァァ!!」

半泣き顔で走り去るアーガスの背中に塩を投げ付けながら、デミテルは叫んだ。アーガスは途中転びながらも、頼りない足取りで屋敷の門から外に出ていった。


・・・アイツの恋が成就する日は果たして来るのか・・・否。絶対間違った方
向で成就しようとしてくる気がする・・・気をつけよう・・・

にしても・・・恋・・・か・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


スカーレット邸。かつてはひび割れが多い、欠陥が目立っていた屋敷内も、幾
度の修復によってかなり綺麗になっていた。それでも、窓の隙間風がまだ小うる
さいところも多いが。

デミテルは家族が食事をする為の、縦に長いテーブルのある部屋で、窓をフキ
ンで吹いていた。これほど大きい屋敷だ。こまめに掃除せねばすぐに汚れが堆積
してしまう。


ここやったら次は皿洗って・・・そろそろリアお嬢様も帰ってくるな・・・


・・・・・・・・・・・・。

フッ♪

「ってうわあぁぁぁっと!?」

突然デミテルの耳元で誰かが息を吹き掛けた。デミテルはビックリして思わず
尻餅をついてしまった。

「てて・・・・・・奥様ぁ!頼むから人の耳元に息吹き掛けるのやめてくださ
いよ!ホントに驚きます!」
「あらあら。ごめんなさい。ずいぶん一生懸命だったから・・・つい悪戯した
くなっちゃった♪」

 スカーレット夫人はエプロン姿に、両手に洗濯物を抱えながら、楽しげに言っ
た。デミテルは顔を赤くしながら、ヨロヨロと立ち上がった。

夫人はニコニコとしながら続けた。

「まあま。顔赤くしちゃって。カワイイわね。」
「・・・からかわないでください。」
「だってかわいいんだもの♪四年もたったら大人びるかと思ってたのに、あん
まり顔つき変わらないし・・・」
「・・・近所のおばさんには『大人びたわね』とか言われるんですが・・・」

デミテルは少し顔をしかめた。子供扱いはあまりされなくなかった。

スカーレット夫人は少し膨れたデミテルの頬を指でつついた。

「ホントに男の子は子供扱いされるとみんな否定するんだから。でもそういう
ところもカワイイ♪」
「いや、ですから・・・」
「そんなにカワイイと・・・」

するとスカーレット夫人はそっと顔をデミテルの耳元に寄せた。そして、小さ
く囁いた。

「・・・・・・もっとスゴイ『悪戯』しちゃうかも♪」
「・・・・・・・・・!!?」

その声があまりにも妖艶だったため、デミテルはビックリして顔を真っ赤にし
ながらその場から一歩のけ反った。スカーレット夫人はクスクス笑いながら部屋
から出ていた。

デミテルはハァハァ息を荒げながら、その場でガックリと肩を落とした。


・・・自分が十三歳ぐらいになってから、耳元に息吹きかけたり、ああいうこ
と言ってくるようになったんだよなぁ・・・冗談で言ってるんだろうけど・・・
なんかマジで心配になってきたよ・・・これから寝る時はきちんと鍵をかけて寝
よう・・・


 タタタタタ・・・


・・・ていうかああいう行為に結構ドキドキしてる自分に腹が立つな・・・こ
れも思春期だからなのか・・・?


 タタタタタ・・・


 それとも、純粋に年上の女性が好みなのか僕は?イヤイヤ。あの人は僕の母親
のようなものだろうが。そんなの・・・・・・いやでも・・・・・・なんやかん
や言って歳の割りに結構美人・・・


タタタタタタタタタタタタタタタ


「こっんにっちわぁー♪」
「ぶあっふう!?」

黄ばんだ天井を見上げ己の女性の好みについて考察していてデミテルの腹に、
ピンク色の物体が突撃した。デミテルはそのまま押し倒されてしまった。

「て・・・・・・は、腹が・・・げふごほ!」
「デミテルお兄ちゃんこんにちは♪元気?」

アーチェ=クラインはデミテルを見下ろすようにしながら挨拶した。デミテル
は自分の眼前にあるアーチェの顔を睨み付けた。

「あのねぇ・・・頭を壁にでもぶつけたらどうするつもりですか!危うく死ぬ・・・」
「だってお兄ちゃんに会いたかったんだもん♪」

そう言うと十一歳の少女はデミテルの顔に頬ずりした。十四歳の少年は顔を真
っ赤にしながら少女の体をどかそうと必死だった。

「ちょっ・・・ど・・・」
「ねーねぇ?いつになったらアタシと結婚してくれるの?」
「そ・・・それは四年前に一応お断りしたでしょ・・・」
「アタシ、諦めの悪い女なんだ♪」
「十二歳の子供が何言ってんですか!?」


何なんだ今日は・・・色々なことにドキドキしている気がする・・・どこぞの
ハーレムアニメの主人公じゃないんだから・・・

おとなしい屋敷のお嬢様に

その母親に

そのお嬢様の活発な友達に

そのお嬢様のストーカー・・・

なんだこれ?もう軽くこれで一本の恋愛シミュレーションゲーム作れるんじゃ
ないのか?別路線を開拓でき・・・

・・・って違う違う!何でアーガスのアホまで混入してんだこれ!?違うよ!
僕そっち方面の気はないよ!え?そっちの気って?いやいやいやいや何言ってん
だ僕。つーか誰に対して話してんだぼ


「ちょっとアーチェ!何してるのぉ!?」
「ぶっ!?」

デミテルの思考は、急いで部屋に入って来たリアがアーチェを無理矢理どかそ
うとした時停止した。どかした時に、リアが気付かぬうちにまたしても彼の腹の
溝に思い切り足を踏み込んだからだ。

全体重を乗せた一撃は、彼を悶絶に追い込んだ。リアは気付きもしていない。

「どーしたのリア?顔真っ赤にして。アタシはただ求愛行為してただけだよ。」
「そ、そういうのはデミテルさんに迷惑だよアーチェ!猫じゃないんだから!お、お、押し倒すなんてなおさら・・・」
「ほぇ?押し倒したらダメなの?どして?」
「だ、だ、だって・・・女の人が男の人押し倒すって・・・そんな・・・そん
なことしたら次は・・・その・・・」

ここまで言うと、リアは顔を真っ赤にして俯いてしまった。アーチェは首を傾
げた。

「ふぇ?押し倒したら次は何なの?何するの?」
「そ・・・それは・・・その・・・・・・はうぅぅぅ・・・」
「リアにとってデミテルお兄ちゃんは使用人さんでしょ?でもってアタシにと
っては白馬なの♪だからいいじゃん!利害関係成り立つじゃん☆」
「スイマセン。僕は白馬なんですか?馬なんですか?それに乗った王子様じゃ
なくてあくまで馬なんですか?」

デミテルは適切な意見を立ち上がりながら言ったが、アーチェはそれを無視し
てデミテルの懐に抱き着いた。

 リアの髪がビリリと逆立った。

「アタシはデミテルお兄ちゃんと結婚するの!ね!」
「いや・・・ね!じゃなくてですね・・・」
「・・・あ。もしかして。」

この時、アーチェは一つ閃き、ポンッと太鼓判を押した。

「もしかして・・・リアもデミテルお兄ちゃんが好きなん」
「あんだってぇぇぇぇぇぇぇ!!?」


バッシャァァァァァァァァァァァンッ!!


突如、デミテルが拭いていた窓が粉々に叩き割れた。ガラス片と共に飛び込ん
で来たのは

ランブレイ=スカーレットである。頭部に大量のガラスの破片をぶっ刺し、血
をドクドク垂らしながら鬼の形相でこちらに向かってくる。さながらター○ネー
ターだ。

ランブレイは軽く白目になりながら話しかけてきた。

「デ~ミテルぅ~・・・きーさーまー・・・うちの娘に何をしたぁぁぁぁ!?」
「違う違う!何もしてませんよ!お嬢様も私のことが好きだなんて一言も言っ
ておりませんよ!ね!お嬢様?」

デミテルは全身滝汗、軽く半笑いになりながら首を横にブンブン振って言った。が、リアは

「え・・・えっと・・・」
「なんで否定してくださらないんですかぁぁぁぁ!?」
「口ごもっとるだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

ランブレイは発狂しながら

チェーンソーを構えた。

「ってえええええ!?何でそんなもん持ってんですか!?」
「世界中のお父さんはなぁ!!みんな心にチェーンソーを携帯しとるんだぁぁ
ぁ!!そして愛娘の為に刃を抜くんだよぉぉぉぉ!!」
「抜いてないです!それ刃回転してる・・・」
「リア。部屋で遊ぼ♪」
「・・・うん。」
「って何エスケープしてんですかぁ!?師匠違う!ホント違う!ちょっ・・・
何かキュイイインて・・・あああああああああああ!!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「いやースマンスマン。お前がリアをたぶらかしたのかと勘違いしてしまった
よ。危うく間違いを犯すところだった。」
「もう半分犯したようなものでしょう・・・」

デミテルは自室のベットでぐったりと横になりながら、ランブレイの顔を見上
げた。笑顔を振り撒き謝る彼の足元には、先程まで元気に起動していたチェーン
ソー君が静かに眠りについている。

「はっは。まぁアレだ。思春期はそういうこともある。」
「思春期まったく関係ないですよね。」

デミテルは真っ当な意見を述べた。が、ランブレイはただ『はっは』と笑うだ
けである。

デミテルは小さくため息をつくと、自分の対して特徴のない部屋を見回した。

部屋の内装はほとんどずっと変わっていない。あえて変わったと言うならば、
ベットの片隅に写真が一枚、飾ってあるくらいだ。

「・・・あの」
「ん?」
「師匠の思春期って・・・どんなでしたか?」
「思春期?学生時代のことか?そうだな・・・」

ランブレイは口元の無精髭を指でなぞり、少し考えると、少し照れ臭そうにこ
う言った。

「実を言うとな・・・・・・・・・・・・かなりのプレイボーイで女遊びばか
りしていた。頭の中はもう常に女性のことばっか考えたり、悩んだりしてたな・
・・」
「師匠が?プレイボーイ?」

デミテルは一瞬、若い姿のランブレイがナンパしているシーンを想像してみた
が、何かかなり気持ち悪かったので中止した。

「お前ぐらいの歳になると、大半の男の子はみんな頭の中は女性のあんなこと
やこんなことばっかになるんだ。恥じることじゃない。」
「いやいや!僕は別に・・・」
「ただし。」

次の瞬間、横になっているデミテルの顔にランブレイの顔がズイッと迫った。

無表情で。

「うちの娘に手を出したら・・・」
「・・・出したら?」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・


・・・埋める。」
「埋める!?殺すんじゃなくて埋める!?生き埋めですか!?」

デミテルはあまりに生々しい言い方に背筋を凍らせた。すると、ランブレイは
フッと笑い、デミテルの部屋の扉に立った。そして、言った。

「デミテル・・・」
「はい。」
「幸せか?」
「え?」
「お前は、私に連れられてこの屋敷に来た。来てかれこれ四年だ。お前は
・・・」

ランブレイは部屋の扉の金属製の取っ手に手をかけた。そして続けた。

「お前は・・・ここにいて幸せか?」

デミテルは天井をしばらく見つめた。次に目をつぶり、少し考えた。

そして、答えた。

「幸せですよ。ここにいれて。僕の居場所があることが、僕にとって一番の幸
せですから。なにより・・・

・・・楽しいですから。まずなによりも。」
「・・・そうか。」

ランブレイはニコリと笑うと、部屋を出ていった。チェーンソーを部屋におい
たまま。


・・・・・・・・・。

・・・・・・幸せ・・・か・・・

・・・ふっ・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


「おっ兄っちゃーん♪」
「あだぁ!?」

感慨無量の境地にいたデミテルを襲ったのは、突然部屋に入って来て腹の上に
ダイビングしてきたアーチェだった。

次に

「アーチェだめぇ!!」
「あぶっく!?」

追ってきたリアが半泣きで彼の腹にダイブする。

「なぁにリア?アタシはデミテルお兄ちゃんと一緒にお昼寝するんだから!」
「そ、そ、そんなの迷惑・・・・・・」
「め・・・迷惑てか・・・とりあえずどいて・・・」
「んじゃさ。リアも一緒に寝よーよ。」
「ふぇ!?」
「いや・・・ちょっ・・・・・・」

三分後、デミテルの意見を完全に無視して彼を挟むようにして寝るリア達の姿
があった。

上に乗っかっているわけではないので苦しくはない。が、しかし

十二歳の女の子達はがっしりと、彼の腕にしがみついて寝ていた。片方はワク
ワクしながら、もう片方は全身真っ赤で物凄く緊張で震えながら。

こうなるとデミテルも変な気分になってくる。


なんだコレ・・・何か変な感じが・・・

イライラ?
クラクラ?
ドロドロ?


いや・・・


ムラ・・・ムラ・・・?

ってどういう意味だコレェェェ!?何考えてるんだ僕はぁぁぁぁ!!


その三分後。


「デミ兄ちゃーん。リアちゃんこの部屋にい・・・・・・・・・・・・・・・
・・・兄ちゃんのバカァァァァァ!!」
「違うアーガスぅぅぅ!!そういう意味で一緒に寝てるんじゃ・・・ってそう
いう意味ってどういう意味なんだぁぁぁぁ!?うわぁぁぁぁぁ!?」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「って何だこの夢ぇぇぇ!?」
「うわぁビックリしたぁ!?どうしたんだなデミテルさん!?」

満天の星空の下、草原の上で横になっていたデミテルは、絶叫しながら起き上
がった。そのおかげでもう少しで寝入りそうだったフトソンの眠気は完全に消し
飛んだ。

デミテルは生唾をごくりと飲み込みながら、呼吸を整えた。

「何なんだコレは・・・今まで何度も同じような夢を見てきたが・・・・・・
こんな別路線のゲームの主人公になったような夢あってたまるかぁぁぁ!!これ
じゃ私が変態だと思われるだろうがぁぁ!?確かに事実あったことだけれでもぉ!!」
「デ、デミテルさんどしたんだな!?」
「黙れ白饅頭ぅ!!埋めるぞぉ!?」
「埋める!?殺すんじゃなくて埋める!?生き埋め!?」


「アーチェ。何笑ってるの?」
「ううん。何でもないよ。おやすみ。」

同じころ、同じ月の下で、デミテルと同じ夢を見たアーチェはくすりと笑った。


・・・もう


戻れないんだよね・・・あの日々にさ・・・

つづく


あとがき
うん。少しグダグダだったような気がします。ごめんなさい。しかも何か全然別路線の小説書いてるみたいになってしまった・・・気分を害してしまったらごめんなさい。


匿名希望さん。応援ありがとうございます。がんばります。


次回  第三十七復讐教訓「一度手に覚えた仕事はなかなか忘れないもの」

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