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デミテルは今日もダメだった【37】

第三十七復讐教訓「一度手に覚えた仕事はなかなか忘れないもの」


「まことに残念ですが、うちの夫は今おりません。砂漠の方へ・・・」
「そうか。今なら追いつけるかもしれんな。」

 アルヴァニスタ南西の一軒の屋敷。時の英雄達はその家を尋ねていた。ルーン
グロムの紹介状片手に。

モーリア坑道でルナの指輪を見つけたクレス達だったが、指輪は壊れかけ、し
かも洗濯糊まみれという異常事態であった為、一度ルーングロムを尋ねた。その
ルーングロムの助言で彼らは

この、エドワードの家を訪ねたのだ。が、エドワードはダオスを倒す勇士を捜
すため不在であった。

彼らが次目指すのは砂漠・・・


 「ということだ。わかったか?」
「ちょっとデミテル・・・口で説明するのめんどくさいからって・・・」

デミテル達は、エドワード邸の庭の木に隠れながら、ヒソヒソと話していた。
ついさきほどまで、玄関先での時の英雄達の会話を聞いていたのだ。

モーリア坑道を出て以来、デミテル達はクレス達と一定の距離をつけながら尾
行していた。ジャミルは「夜中にでも奇襲すればいいじゃないの」と意見を述べ
たが、デミテルは首を横に振った。

『そんな復讐で私の腹の虫が収まるかぁ!もっとこう、身も心もズタズタにし
生きる希望を根底から滅すような地獄をだな・・・』
『そんなことを連載当初からずっと言ってるけど、僕たち結局復讐らしいこと
何にも・・・』
『・・・って八割がたお前のせいで何もできないんだろうが!?船破壊するは
指輪破壊するは洗濯糊だわ・・・』
『デミテル様ぁ!洗濯糊さんは悪くないよぉ!』
『洗濯糊責めてるわけじゃないわ!洗濯糊自体はホント便利なんだよ!役立
つんだよ!主婦の味方なんだぁ!!』


そんな会話をしながら、彼らは新しい復讐の手段を模索していた。

デミテルは屋敷から離れていくクレス達の背中を眺めていたが、やがてニヤリ
と笑った。

「フトソン。ジャミル。リミィ。私は思いついたぞ。素晴らしい復讐のフロー
チャートを。」
「わかったんだな!奴らの座席の上に画鋲を置き・・・」
「んな小学生レベルの悪戯やってどうするんだ。というか座席って何だ。」
「わかったぁ!お家にピンポンダッシュす・・・」
「それも小学生レベルだろうが。どれだけ低レベルなんだ貴様らの思考能力は!」
「馬鹿な会話してないでとっとと概要を話しなさいよ・・・この世界のどこに
インターホンが存在するのよ・・・」

ジャミルはいつものように呆れ返りながら言った。この手の会話はもう慣れた
ものだ。

デミテルは咳ばらいをすると、踏ん反り返るようにして演説した。

「いいか貴様ら。アイツらはあの洗濯糊まみれの指輪を直す方法を知るために
エドワードとか言う男を探している。ならば・・・」
「ならば?」
「そのエドワードとやらを我々が先に見つけ出し、人質に取り、そして奴らを
いたぶり、翻弄し、叩きのめすのだぁ!」

 デミテルは拳を高らかに振り上げ、自信満々に豪語した。

 が、周りの反応はあまりよくなかった。

 「八割がた失敗するような気がするんだな。」
 「だからなんでアンタはいちいちやり方が回りくどいのよ。なんでいちいちそ
ういうドラマチックな展開にしたがんのよ。めんどくさいわねもぉ。」
「そんなことしたら江戸っ子ヤードさんがかわいそうだよぉ。」
「やかましいぃ!フトソン!八割がた失敗しそうって今までの失敗の原因は八割がたお前が原因だろうが!あとリミィ!誰だ江戸っ子ヤードさんて!?どこの誰だ何者だぁ!?エドワードだエドワード!!」
「・・・ちょっと。なんでアタシの意見については何の反論もないのよ。」

ジャミルは少しばかり淋しそうにしながら、ボソリと言った。デミテルは聞い
てもいない。

「私の復讐はただの復讐ではない!憎しみと怒りが混合し、ひしめき合い、や
がて一つの・・・」
 「ちょっとスイマセン。」

彼の力の入った力説を遮るかのように、デミテルの背後から声がした。

モリスン夫人が、斧片手に、こちらを見ていた。

長い沈黙があった。風の音のサラサラとした音が、異様に耳に響いていく気が
する。

「あの・・・」
「違います。」
「いやいや。まだ何も・・・」
「違います。本当に違います。全然そんな怪しいアレじゃないです。なぁフトソン。」
「そうなんだな。ホント怪しいアレじゃないんだな。ねぇリミィ。」
「うん!リミィ達全っ然怪しいアレじゃない・・・ふえ?ねぇジャミンコぉ。怪しいアレってどのアレぇ?」
「知るかぁ!!自分の言葉に責任持って発言しなさい!」
「あなた達・・・」

ポーカーフェイスを続けるデミテルだったが、ここであることに気付いた。


もしこの女が

私の指名手配をしっていたら・・・

・・・もしそうならば・・・


「貴方達、新しくうちが雇った使用人達ね。明日来るって聞いてたんだけど。」
「・・・え。」
「じゃあいきなりで悪いんだけど、家の西側にある薪を五十本ぐらい割って、
縄で束ねといて。はいこれ斧。」
 「あ、はい。」

デミテルはキョトンとしながら無意識に了承した。夫人は斧をデミテルに手渡
すと、屋敷へと戻って行った。

フトソンは目をパチクリさせた。

「何か・・・どうにかなっちゃったんだな。」
「そうだな・・・・・・・・・・・・とりあえずアレだ。割るか。」
「わぁい♪薪割り薪割りぃ♪」
「ってホントに割りにいくの!?」

 五分後、デミテル達は屋敷の西側にいた。小さい、今にも崩れそうな木の小屋
の中に太い木が詰まれている。

その小屋のすぐ外の切り幹の上にフトソンが木を乗せ、デミテルが斧を振り上
げ、叩き割る。二、三本になった細い薪を、リミィとがジャミルが縛り、積む。

何故か、無駄に統率が取れた動きだった。

フトソンは額に流れる汗をタオルで拭いながら、楽しげに言った。

「さすがにきついんだな・・・でも何か楽しいんだな♪」
「この程度でくたびれるな。まだ半分あるぞ。」
「わかってるんだな・・・それにしてもデミテルさん薪割るの上手いんだな。
人間一つぐらい取り柄があるもんなんだな。」
「失敬な・・・私は・・・これぐらい・・・・・・お茶の子済々!」

自分の言葉に合わせて斧を振り上げ、そして振り下ろしながら、デミテルは言
った。斧は薪を見事に三等分のひびを入れた。

リミィは割れた薪を体いっぱいに使って運びあげながら言った。

「デミテル様って薪割りも出来るし、お料理も上手だし、お洗濯も上手ですっごいねぇ♪
リミィ、デミテル様と結婚したらすっごい楽ちぃん♪」
「・・・前にも言ったが、私は専業主夫になるつもりはない。必ずや亭主関白的な・・・って貴様と結婚する気もないわ!」

デミテルは何よりも否定すべき事柄があることに気付いて、急いで否定した。
リミィは頬を膨らませた。

「いーもぉん!リミィ、デミテル様と結婚する方法知ってるもぉん!」
「・・・ほー?どんな方法で私をおとす気だ?言ってみろ?」

薪割りを続けながら、デミテルはあっけらかんと言った。どうせさっきのピン
ポンダッシュ同様、ガキの考えだろう。

リミィは薪を積み置くと、腕を組んでウンウンと唸った。やがて、間をおいた
後、言った。

「えっとねえっとねぇ・・・・・・・・・


・・・できちゃった婚!!」
「ぶっ!?」

ものすごく生々しいことを言ってきたので、デミテルは度肝を抜かれた。フト
ソンは首をあんぐり開け、ジャミルは眉をピクピクさせた。

デミテルは頬を赤らめながら、リミィに尋ねた。

「お前・・・それ・・・それお前・・・・・・・・・意味わかって言ってるか?」
「ううん。わかんなぁい♪でもリミィが前住んでたところだとねぇ、この方法
で好きな人と結婚できたっていう人いっぱいいたよぉ。」


それは「結婚できた」というより、「結婚させた」と言う・・・ってだから!
お前は一体前どんなところに住んでたんだ!?


リミィに問い詰めたい気持ちがデミテルの中で壮絶に駆け巡ったが、やっぱり
やめた。どうも、尋ねたら負けな気がしてたまらなかったからだ。

「あら。薪割り終わったの?早いわね。」

何とも言えない空気になっていた時、背後からエドワード夫人の声がして、デ
ミテルは恐ろしいぐらいにホッとした。

エドワード夫人は積まれた薪を眺めると、満足な顔をした。

「上手ね。貴方ベテラン?」
「え?あ。はい。かれこれ十年近く使用人やってまして・・・・・・あのとこ
ろでですね・・・」
「じゃあ次は洗濯物取り込んで。二階のベランダに干してあるから。」
「あ。はい。」


「って何でまた了承してんのよあんた!?それで何でアタシは口ばしで洗濯バサミを一
本一本取っていくという地道かつ繊細な労働を強いられてんのよ!?」
「お前の体でできるのはそれぐらいが限界だろうが。喋ってないで働け鳥類。」

屋敷二階ベランダ。物干し竿に掛かったタオルやらシャツやらをテキパキ折り
畳みながら、デミテルは坦々と言った。折られた洗濯物は、リミィによって部屋
の中へ運ばれていった。

フトソンも、馴れない手つきで洗濯物を畳んでいたが、ふと手が止まった。

「デミテルさん・・・」
「何だフトソン?」
「こ、これは・・・」
「ん?ああ。下着か。馬鹿かお前は。そんなことでいちいち躊躇していたら使
用人などやってられんぞ。」
「いや・・・でもこれ・・・下着は下着でも・・・何かこう・・・・・・過激・・・」
「奥さんの趣味か旦那の要望だろう。そんなことでいちいち驚くな。ナース服やセーラー服やメイド服が干されてないだけまだましだ。」
「・・・デミテルさんが前勤めてたとこにはそれあったんだな・・・?」
「・・・いや。少なくともセーラー服は無かった。うん。」

そんな会話をしながら、洗濯物は無事取り込まれたのだった。

とても綺麗に折り積まれた洗濯物を見て、エドワード夫人はニコリとした。

「すごいわね!こんなに綺麗にはなかなか畳めないわ!」
「いやぁ。それほどでも・・・・・・ではなくてですね。あの・・・」
「じゃあ次はお昼ご飯をお願い出来るかしら?」
「あ、はい。」
「はい。じゃないわぁ!何でさっきから全部何の躊躇もなく何もかも了解して
んのよ!?NOと言える大人になれボケぇ!」

ジャミルの叫び虚しく、デミテル達は流されるがままキッチンに向かっていった。

その後のデミテル達の働きは悪人にしてはかなり秀英であった。


昼食づくりの後は皿洗い

 『見て見てデミテル様ぁ♪お皿落としたら分裂したぁ♪』
 『それは分裂したんじゃなくて分断されたんだぁ阿保ぉ!!誰か接着剤ぃ!ア
ロンアルファ持ってこいぃぃ!!』
 『洗濯糊ならあるんだな・・・』
 『いらんわ!!』

 トイレ掃除

 『ねぇデミテルさん?トイレ掃除を済ましてピカピカにしたあと凄い清々しい
気分に浸った矢先、直後に便意を感じた時信じられない程の罪悪感に見舞われる
のって僕だけなんだな?』
 『・・・なんでもいいから早く済ませろ。』

屋根掃除

 『デミテル様ぁ。フトソンが滑り台ごっこして下に降りちゃったぁ。』
 『遊んでいる奴は放っておけ。』
 『滑り台ごっこじゃなくて普通に足滑らせて落ちちゃっただけでしょ!?ここ
三階の屋根よ!?デカブツぅぅぅ!?生きてるぅぅぅ!?あ!?何か白い物体が
庭に潰れてる!?』

本棚の整理

 『デミテルさんこの本はどこなんだな?』
 『お前よく生きてたな・・・「超古代文明の謎」?それは上と右から二番目・
・・』
 『デミテル様ぁ。ベッドの下からペラペラの本がいっぱい出てきたよぉ。よく
わかんないけど裸のおばさ・・・』
 『リミィそこは触るなぁぁぁぁ!!そこ恐らくエドワードさんのパンドラの箱
ぉ!!しかもエドワードさん熟女フェ・・・』
 『こらデミテル声でかいわよ!奥さんにばれるでしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!しかも熟女は熟女でもこれかなりマニアックな・・・』
『ジャミルの方がよっぽど声でかいんだなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!そ
のうえこれ内容がとてつもなくSMチッ・・・』
『みんなずるいよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!リミィも読みた
いよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』

・・・ 秀英・・・であった。


「アーチェ。何持ってるんだい?」

デミテルが、リミィに読まさないようペラペラの本を彼女と引張り合っていたころ。フレイランドに向かう為の港に歩みを進めていた時の英雄達は、昼ごはんを食べようと休憩を取っていた。

今日の食事当番は(嬉しいことに)ミントである。

ミントがミートスパゲッティを作っている傍らで、アーチェ=クラインは一本
の糸状のものをつまみあげて見ていた。

アーチェは、問いかけてきたクレスににっこりと答えた。

「モーリア坑道で見つけたんだ。綺麗でしょ。」

糸は、赤と青が入り交じった変わった配色をしている。

アーチェは風で揺れるそれを、見据えた。

「何だか髪の毛のような気がするんだけどなぁ・・・」
「それは無いよアーチェ。あの宝物庫にたどり着いた人間は、おそらく僕達が
最初だろうし。」
「そう・・・だよね・・・」


アタシは何を期待してたんだろう・・・この一本の糸が、誰かに繋がっている
とでも思ったの?

・・・ううん。そんなのありえない。ありえないんだ。それにそんなこと望ん
じゃいけないんだ・・・

あの人は・・・

アイツは・・・

リアの仇で・・・そして・・・


死んだんだから。そう。死んだの。アイツは死んだの。アイツは

「・・・生きてるな。」
「へ?」
「フトソン。人間というのは働いている時が一番生きていると感じるんだ。私
は今、生の実感、生きる素晴らしさを身に染みて感じているんだよ・・・・・・働くって素晴らしいな・・・」

鎌片手に、屋敷の庭の草刈りに勤しみながら、デミテルは恍惚感を漂わせて言った。ジャミルはクチバシで草を抜く作業を中断し、デミテルを睨み付けた。

「何労働に対する喜びに目覚めてんのよアンタはぁ!?いい加減切り上げない
とまたクレスどもの足取りわかんなくなるでしょーが!?アンタ復讐と労働どっ
ちが大事なわけ!?」
「やはりアレだな・・・人間は汗の分だけ強くなれるんだな・・・ふふ・・・」
「ジャミル無駄なんだな。今デミテルさんは働くことの素晴らしさに目覚めちゃってるからどうしよもないんだな。目覚めたというか思い出したというか。」
「労働の素晴らしさに気付いた悪役なんて聞いたことないわよ!!」

ジャミルの叫びもまったくデミテルの耳には届かず、結局今日一日をモリスン
邸で過ごすデミテル達であった。

「デミテル様ぁ!リミィこれいっぱい草抜いたよぉ!すごいでしょ♪」
「よくやったリミィ。私が年置いたあとは頼めるな・・・」
「何未来永劫ここに勤め上げる決意固めてんのよ!?永住する気かぁ!?」
「ハーフエルフが一体いつ年老えるんだな・・・遥かな未来なんだな・・・」

つづく

あとがき
明らかに文章量が少ないですね。ごめんなさい。色々表立って言えない事情が多々ありまして・・・いや。言い訳はやめよう。これは自分の怠慢の結果なのだ。悪いのは自分だ。精進しろ自分。身をすり減らし己の脆弱な精神を鍛え上げねばならんのだ。
さあかかってこい高二の授業。高一より内容が難しくなるだと?それがどうした。おれは必ず今の成績を確保し・・・その前に春休みの数学の宿題未だに終わってないよ。どーするよ。プリント6枚だよ。どーしますよ。高一の内容一かけらも頭に残ってない気がするよ。どーいたしましょうよ。いや。言い訳はやめよう。これは自分の怠慢の・・・

次回 第三十八復讐教訓「恩は売っとくと便利だったり厄介だったり」

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